金鉱石のチオ尿素浸出における鉄酸化細菌の効果
甲 斐 敬 美 ・ 山 崎 研 市 ・ 高 橋 武 重
(受理平成3年5月31日)
EFFECTSOFIRONOXIDIZINGBACTERIAIN
THIOUREALEACHINGOFGOLDORES
TakamiKAI,Ken−ichiYAMASAKI,
andTakeshigeTAKAHASHI
ABSTRACT
Bacterialleachingwascombinedwiththioureamethodforthegoldleachingfromores・Forgold
bearingpyrites,biologicalpre-oxidationhasbeengenerallyperfomed、Inthepresentstudy,wecarried
outthebiologicaltreatmenttothehighsilicatebearingoresbyusingtheironoxidizingbacteria,
Thjobacj〃us企rrooxjdans・Therecoveryofgoldandsilverwasenhancedbythebiologicalpre-
treatment,whiletheeffectsofthetreatmentwasinfluencedbythetypesofgoldores・Sincethebiolo-
gicaltreatmentwascarriedoutmsulfuricacidsolution,theresultswerecomparedwiththatofche-micaltreatment、TheextractionofgoldfromtheHishikariorewiththebacteriawaslOto20%high−
erthanthatfromtheoreonlychemicallytreated・Ontheotherhand,theextractionofsilveronly
slightlyincreasedwiththebiologicaltreatment・Inaddition,Thjobacj〃usferrooxjdanswasdirectlyin-oculatedinthethiourealeachsolutionforgolddissolution.About20%increaseintheextractionof
goldwasobservedfortheHishikariore.
1 . 緒 口
鉄酸化細菌とよばれるある種のバクテリアは第一鉄
イオンを酸化することによって生活エネルギーを得て
おり,黄鉄鉱のような金属硫化物の浸出において促進
作用を与える。そのため,銅鉱石やウラン鉱石の浸出
においては広く工業的に利用されている。黄鉄鉱中に
は金や銀の含まれるものもある。そのような鉱石の金,
銀は微粒子の状態や,マトリックス中に固溶した状態
で産出する。このような鉱石に対しては,鉄酸化細菌
を利用した前処理により,他の金属硫化物をまず取除
くことにより,その後の金,銀の浸出において高い抽
出率をあげることができる''4,7,10)○
本 研 究 に お い て は 鹿 児 島 県 内 で 産 出 す る 金 鉱 石 の 浸
出において,鉄酸化細菌の効果について調べた。鹿児
島県で産出する鉱石は主にケイ酸質脈状鉱石であり,
金属硫化物は非常に少ない。このような鉱石に対して
も鉄酸化細菌の前処理が効果あるかどうかを検討する
ことが本研究の目的である。
また金,銀の溶出においてはチオ尿素法を用いた。
この方法は青化法に代る方法として近年研究が進めら
れている2.3,5,9)。チオ尿素は酸化剤として第二鉄イオ
ンを用いた場合には(1),(2)式で表されるように酸性
溶液中で金,銀とチオ尿素錯体を生成する。
Au+Fe3++2CS(NH2)2=Au[CS(NH2)2]2++Fe2+・…….(1)
Ag+Fe3++3CS(NH2)2=Ag[CS(NH2)2]3++Fe2+……..(2)
さ ら に 鉄 酸 化 細 菌 を 前 処 理 で な く チ オ 尿 素 法 と 同 時
に組合せる'0)ことも検討した。その場合には,(1),
(2)式で生成した第一鉄イオンはバクテリアによって
第 二 鉄 イ オ ン に 酸 化 さ れ る 。 酸 化 さ れ た 鉄 イ オ ン は ふ
たたび(1),(2)式に従って金,銀の抽出を行なうため
に使われる。このように鉄イオンはバクテリアのエネ
ルギー源となると同時にその逆反応過程ではチオ尿素
1 . 実 験
1 . 1 試 料
鉱石試料は菱刈,岩戸,赤石(いずれも鹿児島県)の
各鉱山産のものを使用した。これらの鉱石は粉砕,ふ
るい分けを行ない,粒径が177∼500〆mのものを使用
した。使用した各鉱石の品位を調べた結果をTablel
に示す。従来研究の対象となっているパイライトを主
成分とした鉱石の場合には鉱石中の不溶分は50%程度
で鉄分は10%以上である。しかし本研究で使用した鉱
石はケイ酸質脈状鉱石であり,不溶分の割合は90%以
上と大きいのが特徴である。
TablelChemicalchracteristicsofores
TestOre HishikariAkeshilwato
Au
Ag
Fe
Insolble
19/tonl
Ig/tonl
lwt%l
Iwt%I
16.8
11.8
0.18
95.6
15.2
4.65
2.96
95.5
4.96
3.49
0.95
97.0
1 . 2 バ ク テ リ ア
本実験で使用したバクテリアは岡山県柵原鉱山で採
取され分離培養した鉄酸化細菌であり,Thiobacillus
ferrooxidansがその主成分である。使用した培地は無
機塩の水溶液である9K培地8)である。9K培地は
(NH4)2S04,K2HPO4,KCl,MgSO4,Ca(NO3)2などの無
機塩の硫酸酸性水溶液である。培地のPHは硫酸によっ
て2.0にコントロールした。また菌体数はTormaの血
球計算盤を用いて光学顕微鏡により直接測定を行なっ
た。
1 . 3 実 験 方 法
1)チオ尿素法による金,銀の浸出300mlの三角
フラスコに蒸留水70mlとチオ尿素,硫酸及び硫酸第
二鉄を所定量添加した後,鉱石試料20.09を加え,30℃
の恒温槽内で所定時間振鐙した。本実験におけるチオ
尿素及び第二鉄イオンの最小濃度は鉱石20.09中の金,
銀を完全に浸出するのに必要な理論量を越えるように
した。抽出液中の金,銀の濃度は原子吸光分析により
求めた。
2 ) バ ク テ リ ア に よ る 前 処 理 チ オ 尿 素 法 に よ る 金
の抽出率に与える影響を調べた。前処理が終了した後,
固体と液体を分離し,鉱石は水洗,乾燥の後,チオ尿
素法によって金,銀の抽出を行なった。
3)チオ尿素法とバクテリアリーチングの組合せ
チオ尿素浸出液に鉄酸化細菌を接種して,同時にバク
テリアリーチングを行なった。300mlの褐色三角フラ
スコにチオ尿素0.lwt%,硫酸1.0Wt%,第一鉄イオン
0.05Wt%の浸出液を作り,バクテリアを接種した。無
菌対照試料にはチモールメタノール溶液を添加して,
混入したバクテリアの増殖を防いだ。所定時間の抽出
を行なった後,固体と液体を分離して液中の金,銀の
濃度を測定した。
2.結果と考察
2 . 1 チ オ 尿 素 法 に よ る 浸 出
チオ尿素法による金鉱石の浸出についてはGotoら5)
が串木野鉱山のものを使用して詳しく行なっている。
しかし,鉱石の産地が異なればその特性も異なってく
ると考えられるため,本研究でもGotOらと同様の実
験を行なった。
100
80
ー
承60
一
>く 40
20
0
0 1 0 0 2 0 0 3 0 0 4 0 0
T(minl
Fig.1Changeofthegoldandsilverextractionwith
timeinthethioureamethod
、耐出
121
○八○
○a
60
金
r﹄
J C
B
i
o
I
o
g
i
c
Q
l
ChemicQI
Crude
O
O△◇
○
0
4
−承一
」 「
ま
っH=Z,U
>く
×20
◇
甲斐・山崎・高橋:金鉱石のチオ尿素浸出における鉄酸化細菌の効果
□BiologicQl
△Chemicol
◇Crude
30
ロ
Ore:HishikQri
0
0 1 0 0 2 0 0 3 0 0 4 0 0
TIminl
0 2 ム 6 8 1 0 1 2
C
f
(
k
g
m
−
3
1
Fig、21nfluenceofferricionconcentrationonthe
goldandsilverextraction
Fig.3Effectofbiologicalpre-oxidationofHishi−
karioreonthegoldextraction
Fig.1には赤石鉱石の金および銀の抽出率に対する
チオ尿素による浸出時間の影響を示す。この場合,第
二鉄イオンは0.05Wt%,硫酸濃度は1.5wt%である。
鉱 石 試 料 の 大 き さ が 弱 冠 大 き い た め , 同 条 件 で の
Gotoら5)の結果に比べると見かけの浸出速度が金につ
いては約30%低くなったが,銀の抽出率はほぼ同程度
である。本実験における抽出率の値も銀のほうが金の
よりも大きくなっているが,これはGotoらの結果と
逆である。これは鉱石の違いによるものと考えられる
が,詳しい理由は不明である。
Fig.2には第二鉄イオン濃度の抽出率に対する影響
を示す。鉱石は菱刈鉱石で,チオ尿素濃度が1.0Wt%,
浸出時間は24hである。第二鉄濃度が0の場合におい
ても抽出が進行しているが,これは鉱石中の鉄分が関
係していると思われる。特に鉄分の多い赤石鉱石にお
いては,添加した第二鉄の濃度が低くとも抽出は進行
している。また,第二鉄イオン濃度が4kg、−3あたり
をピークにして抽出率が低下しているが,これは第二
鉄イオンとチオ尿素が反応して安定な錯体を生成する
ため5)と考えられる。最も抽出率の高い濃度4kgm−3
は鉄酸化細菌を培養するさいの鉄イオン濃度に大体一
致しており,バクテリアの存在下でチオ尿素法を行な
う場合にも都合がよいことがわかった。
2 . 2 バ ク テ リ ア に よ る 前 処 理
菱刈鉱石の場合の金抽出率の結果をFig.3に,銀抽
出率の結果をFig.4に示す。金抽出率について赤石鉱
40
今
>く
石および岩戸鉱石の結果をそれぞれFigs5and6に示
す。前処理の時間は7.である。金,銀の抽出におい
ては,いずれの実験もチオ尿素濃度0.1wt%,第二鉄
イオン濃度0.05wt%,硫酸濃度1.5wt%と,条件として
は比較的厳しい条件で行なった。
バ ク テ リ ア の 前 処 理 の 効 果 が も っ と も 現 れ た の は 菱
刈 鉱 石 で あ っ た 。 前 処 理 を 行 な わ な い 場 合 と 酸 に よ る
Fig.4Effectofbiologicalpre-oxidationofHishi−
karioreonthesilverextraction
8s
ー20
□
△◇
0
0 1 0 0 2 0 0 3 0 0 4 0 0
TImin]
10 口◇
Ore:HishikQri
1
0
1
<なるほど金の抽出率は高くなっている。なぜ金と銀
で効果の程度が異なるかは不明であるが,チオ尿素で
浸出する場合には,時間などの条件が金,銀で同様に
は影響せず,鉱石中の形態が異なっていることなどが
関係あるのではないかと思われる。
2 . 3 チ オ 尿 素 法 に お け る バ ク テ リ ア の 利 用
チオ尿素は鉄酸化細菌の増殖を阻害する。Fig.8に
100 5
田 。
0
訳60
3
2
6
0
一 O金
O△◇
◎
40 40
>く ︵x◇ >く
○口
ロ ロ
ロ
20 20
Ore:Akeshi
0 0
0 1 0 0 2 0 0 3 0 0 4 0 0
T[minl
Fig、5Effectofbiologicalpre-oxidationofAkeshi
oreonthegoldextractio、
0 4 8 1 2 1 6
T【dl
Fig、71ncreaseinthegoldandsilverextraction
withtimeofthebiologicalpre-oxidation
化学的浸出を行なった場合の差は少ないが,バクテリ
アによる前処理を行なうと抽出率が10∼20%高くなる
ことがわかる。しかし岩戸鉱石および赤石鉱石におい
ては,その効果は微少である。
Fig.7には菱刈鉱石について前処理の日数と抽出率
との関係を示す。チオ尿素浸出時間は360minである。
銀の抽出率には大きな影響はないが,前処理時間が長
Fig.6Effectofbiologicalpre-oxidationoflwato
oreonthegoldextraction thegrowthof
>
く
4
0
’ ○ ’ ○
○
△ △
○ △
這
合
名
q
・
召
Ore:lwoto
80
−
1
0
1
F1
E
4
○◇△
○
8
2
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0
g
念
マ▽
○
,
L
・
&
9 句 ▽ ▽
。
p
(
-
)
1
0
1
OBioIo9icol
△ChemicQl
◇Crude
20
▽
200
1
0
1
2 阿勺
0 1 0 0 2 0 0 3 0 0 4 0 0
TIminl
O 1 0 0
T I h l
Fig81nhibitioneffectofthioureaon
Thjobacj〃us企rrooxjda"s
C
t
I
w
t
%
I
0
0
△ 0.1
◇ 0.5
ロ
1,0
▽
2.0
=
6
0
123
○
において,チオ尿素法を用い,鉄酸化細菌の効果を調
べた。その結果,ケイ酸質脈状鉱石であっても,鉱石
の種類によって程度は異なるが,バクテリアリーチン
グによる前処理の効果があることがわかった。また菱
刈鉱石についてチオ尿素法を行なうさいに,同時にバ
クテリアを接種した場合にも,金抽出率が向上するこ
とがわかった。
[謝辞]
本研究を行なうにあたって,鉱石試料を提供してい
ただいた住友金属鉱山(株),三井串木野鉱山(株)およ
び鉄酸化細菌を提供して下さった同和工業(株)柵原鉱
業所に感謝致します。また,本研究の一部は平成2年
度文部省科学研究費の援助のもとで行なわれた。ここ
に付記して謝意を表します。
100
○
lnoculoted
Control
●’○|■一口
Au
80
lnoculQted
Control
A
9
●
●
●
甲斐・山崎・高橋:金鉱石のチオ尿素浸出における鉄酸化細菌の効果
目
○
0
×40
20 ■ロ
■ロ
Literaturecited
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2)Deschenes,G,,CIMBullitain,No.895,76(1986).
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0 5 0 1 0 0 1 5 0
T { h l
Fig、9ThegoldandsilverextractionofHishikari
orebythecombinationofthethiourea
methodwithbacterialleaching Nomenclature
Cb=cellconcentration
Cf=concentrationofferricion
Ct=weightpercentofthioure
X=extentofextraction
T=time
[m〒3]
[kgm-3]
[−]
[−]
[s]
Iま菌体濃度に対するチオ尿素濃度の影響を示す。この
実験に使用した菌体はチオ尿素に対する耐性のない場
合の菌体でチオ尿素濃度が2.0wt%を越えると増殖に
著しく影響を及ぼすことが分る。
バクテリアの存在下でチオ尿素法による鉱石の浸出
を行なった結果をFig.9に示す。無菌の場合と比較す
ると,金については約20%の抽出率の上昇が見られる。
しかし,銀については多少効果が見られるもののあま
り抽出率は高くなっていない。また浸出時間が長くな
ると金の抽出率は高くなるが,銀については減少して
いる。これと同様の減少は金についてはGotOら5)の
報告にもあるが,原因は不明である。
これらの鉱石はアルカリ成分を含むため,浸出時に
pHが上昇し,バクテリアを利用する場合には前もっ
て 鉱 石 の 酸 処 理 を し な け れ ば な ら な か っ た 。 し た が っ
て,これらの鉱石のバクテリアリーチングを行なうた
めにはプロセス全体の効率について検討する必要があ
る。
結 巨
鹿児島県産の金鉱石,菱刈,赤石,岩戸鉱石の浸出