鹿児島における島嶼医療を活用した国際貢献
著者
嶽? 俊郎
雑誌名
南太平洋海域調査研究報告=Occasional papers
巻
49
ページ
19-22
別言語のタイトル
International Contribution by Practical Use of
Community-based Island Medicine of Kagoshima
要旨 鹿児島大学は,行政と協力して鹿児島県離島における地域医療への貢献や研究を行っ てきました。医歯学総合研究科国際島嶼医療学講座では,これらの経験を生かし,開発 途上国における離島へき地医療に関わる人材育成を行う目的で,鹿児島県の提案のもと 平成14年度からJICA「離島医療」コースを開始しました。これまでにフィリピンとイン ドネシアから7名の研修生の受け入れを行っています。このコースでは沿岸離島や外洋 小離島,外洋中大離島など多彩な離島医療システムを持つ鹿児島県で行なわれている巡 回診療や遠隔医療などのシステムに関する研修に加え,離島において特に必要とされる 全人的医療に根ざした地域包括医療を体験習得します。また,与論や奄美大島において 行われているタラソテラピーを活用した住民の健康増進活動の事例も体験し,離島地域 の特性を生かした健康増進法や地域活性化の方策について研修しています。このコース は鹿児島が持つ特性とそれに対する取組みを国際貢献に活用しているものです。 1.はじめに 鹿児島大学は,行政と協力して鹿児島県離島における地域医療への貢献や研究を行っ てきました。医歯学総合研究科国際島嶼医療学講座では,これらの経験を生かし,開発 途上国における離島へき地医療に関わる人材育成を行う目的で平成14∼18年度にJICA 「離島医療」コースを行いました。このコースは鹿児島が持つ特性とそれに対する取組 みを国際貢献に活用しているものです。 2.コースの概要
JICA「離島医療」研修コース“Community-based Island Medicine”は草の根地域提案型研 修の1つです。この研修は,地方自治体が主体となり,その地域社会がもつ知識や経験 を活かした事業を実施することにより,開発途上地域の経済及び社会の発展に貢献する
鹿児島における島嶼医療を活用した国際貢献
嶽崎 俊郎 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 国際島嶼医療学講座Kagoshima University has contributed to community medicine in the islands of Kagoshima, and conducted field study there. The Department of International Island and Community Medicine is conducting a JICA training course, “Community-based Island Medicine” that provides opportunities to improve the quality of medical service by the development of human resources who will engage community medicine in island and remote areas through utilizing various experiences in such community health service and research that Kagoshima has conducted so far under the cooperation of the administration and the university. This 2-month course has been annually conducted since 2002, and seven doctors of the Philippines and Indonesia have participated in it.
20 ことを目的としています。実際の事業実施に関しては,地方自治体が指定する法人や NGO,民間企業等と連携することがほとんどです。 「離島医療」研修コースは,鹿児島県が提案し,鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 が実施機関となり,平成14年度から開始されました。このコースの目的は,行政と大学 の協力により離島における地域医療の実践や研究が行われてきた鹿児島県の経験を活か し,多彩な医療システムや遠隔医療,プライマリ・ケアなど離島へき地医療に関わる人 材育成を行うことで,開発途上国の島嶼地域における医療の質的向上を図ることです。 さらに,離島における地域包括医療に根ざした全人的医療や地域特性を活用したタラソ テラピー等に接する機会を通して,離島医療が持つ長所を地域医療に生かす視点を得る ことも目指しています。 「離島医療」コースの意義として,1)人材育成を通じて,相手国の離島へき地医療 の質的向上に寄与する,2)ネガティブに見られることの多い日本の離島医療の現場の 長所を国際的に示すことにより,地域に自信と活力を与える,3)国際的な文化交流の 場をつくることにより,地域の国際性発展の一助となることが挙げられます。 3.コースの内容 項目として,1)地域包括医療,2)病診連携を含む患者紹介システム,3)救急医 療,4)遠隔医療,5)巡回診療システム,6)離島特有の環境を活用した療法−タラ ソテラピーやアイランドセラピー,7)高齢者に対する介護システム,8)生活習慣病 予防のための取組みと疫学研究などについて,講義,実習,見学など組み合わせて学び ます。 コースは,JICA北九州研修センターでの日本文化と日本語の 1週間の研修に引き続 き,平成18年度は7週間の鹿児島での研修を実施しました。鹿児島では,第1週が大学 と県庁での講義,第2週が下甑手打診療所での実習,第3週が大学と日赤病院,出水保 健所での講義と見学,第4週が屋久町栗生診療所での実習,第5週が県立大島病院と瀬 戸内町へき地診療所での実習,第6週が与論パナウル診療所と与論町(上下水道)での 実習と見学,第7週が大学での行動目標とレポートの作成の日程です。 薩摩川内市国保直診下甑手打診療所は,医療と保健,福祉が密接な連携を取りながら 住民に効率的に提供されている地域包括医療が学べます。さらに,出張診療所や地域完 結型医療,遠隔医療なども体験できます。屋久町栗生診療所も地域包括医療を実践して おり,さらにNPO法人を設立し,廃校を利用して介護用のデイケアセンターを手作りで 建てています。瀬戸内町へき地診療所では,専用の診療バス(図1)を用いた巡回診療 嶽崎 俊郎 図2 図1
システムが体験できます。与論パナウル診療所では,島の特色を生かした統合医療への 取組みやタラソテラピー(図2)も学びます。 4.研修生 平成14∼17年度に,フィリピン,インドネシアから7名の医師が参加し,平成18年度 には,東ティモールとフィジーから2名が参加する予定です(図3)。 5.行動計画 最終週には,研修で学んだことをもとに,自国での改善に向けて行動計画を作成,発 表した後に閉講式を迎えます(図4)。行動計画は,実現可能性が比較的高い短期的計 画と,インフラや予算を必要とする長期計画に分けて立案されます。 6.「離島医療」コースのフォローアップ 鹿児島大学国際戦略本部の協力支援を得て,「ASEAN医療機関を拠点とした包括的国 際島嶼医療教育システムの構築」の一環として,2006年11月にフィリピン レイテ島を 訪問し,JICA元研修生3名とフィールド調査を行いました。 その結果,1)インフラの整備は不十分ながら,巡回診療システムは機能しているこ と,2)JICA研修で経験したバスを活用した巡回診療システムを検討していること, 図3 研修生 Participants 図4
22 3)病院情報管理システムを,JICA研修を参考に改善したこと,4)タラソテラピーの 活用について検討していること,5)遠隔医療システム導入が国レベルのモデル事業と して開始されていることが解りました。フォローアップ調査での成果として,1)「離 島医療」コースは人材育成に有用であること,2)病診連携など患者と患者情報紹介シ ステムや母子保健医療,地域の特性を生かしたタラソセラピーへのニーズと期待が大き いことが判明し,今後のコースや現地セミナーでの重点課題が明らかになったことが挙 げられます。 7.おわりに 「離島医療」研修コースは3年間の予定を5年間まで延長して頂き,平成18年度をもっ て終了しますが,鹿児島大学国際戦略本部の協力支援による「ASEAN医療機関を拠点と した包括的国際島嶼医療教育システムの構築」として,ファローアップを含めた国際的 な離島医療支援は継続していく予定です。さらに今後,このコースをもとに,母子保健 や生活習慣病予防を含めた包括的保健医療コースとして,鹿児島における島嶼医療を活 用した国際貢献を展開していきたいと願っています。 嶽崎 俊郎