Kobe Shoin Women’s University Repository
Title
日本文化における「自己」の概念と「個」の確立―トランス パーソナル学からの考察―
A Study on the Concept of the Self and Individual in Japanese Culture — from the Perspective of Transpersonal Studies
Author(s) 川中 紀子(Noriko Kawanaka)
Citation Shoin Literary Review,No.36:41-77
Issue Date 2003
Resource Type Bulletin Paper / 紀要論文
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日本 文化 における 「自己」の概念 と 「
個 」の確立
一 トラ ンスパ ー ソナ ル学 か らの考 察
川
中
紀
子
1は じめ に 日本 文 化 に お け る 「自己 」 の概 念 と 「個 」 の確 立 を め ぐる 問 題 、 とい う テ ー マ は筆 者 の 体 験 に基 づ い た 問 い で あ る。 筆 者 は、 日本 と英 語 圏 を何 度 も往 復 す る こ とに な っ た。 特 に、 英 国 に は数 年 間 生 活 す る こ と に な っ た 。 そ こ で 受 け た カ ル チ ャ ー ・シ ョ ック は 、 食 べ 物 ・気 候 ・習 慣 の 違 い、 とい っ た 表 面 的 な もの だ け で は な く、 日本 に 居 た 頃 に は 余 り意 識 す る こ と の無 か っ た 「私 」 とい う ものが 、 深 層 か ら揺 さぶ られ る よ う な体 験 で あ っ た。 日本 と英 語 圏 とい う異 文 化 を 長 期 間 に わ た っ て 旅 行 した 結 果 、 「自己 」 や 「個 人 」 とい う概 念 が 文 化 に よ っ て 大 き く異 な る こ と を実 感 した 。 そ れ ぞ れ の 文 化 に は、 文 化 特 有 の 「自己 」・「個 人 」 とい う概 念 が あ り、 私 が 私 で あ る こ と、 と い うア イデ ンテ ィテ ィの 問 い は 、 そ れ ぞ れ の 文 化 に よっ て著 し く違 う 、 と感 じた の で あ る 。 文 化 の 持 つ 「自己 」 につ い て の 概 念 が 違 え ば 、 異 質 な 文 化 と深 く交 流 す る 過 程 の 中 で 、異 文 化 か ら来 た 旅 行 者 で あ る 「私 」 の 感 覚 も揺 らい で い く よ うで あ っ た。 そ して 、 母 国 ・日本 で形 成 され た 「私 」 とい う感 覚 を、 異 文化 を旅 す る こ とで 、 も う一 度 客 観 視 す る機 会 を持 つ こ とが で きた 。 異 文 化 を旅 す る とい う こ と は、 異 な っ た 意 識 の 形 態 に さ ら され る こ とで あ り、 そ の体 験 の深 さ に よ っ て は 、 自分 自身 の 意 識 の状 態 も変 容 す る可 能 性 が あ る の だ とい うこ と を、 筆 者 は体 験 的 に感 じた 。 異 文 化 を 旅 す る こ と は、異 質 な意 識 の 形 態 を探 求 し続 け る こ とで は な い だ ろ う か。そ の 問 い が 、本 稿 に お け る 問題 を考 察 す る た め の き っ か け で あ っ た 。 「旅 」 の 途 上 で は 様 々 な 人 々一 帰 国 子 女 や 国 際 結 婚 に よ っ て 文 化 の 境 界 を 越 え て 旅 をす る 人 々一 と出 会 っ た 。 例 え ば 、 海 外 駐 在 員 の父 の 仕 事 の た め に、 英 国 で 生 ま れ、 後 に ア メ リ カ合 衆 国 で 大 学 ま で の 教 育 を 受 け 、 二 十 歳 す ぎ て 日本 に戻 り、 就 職 ・結 婚 し た友 人 は 、 以 下 の よ う な こ と をい つ も 筆 者 に 話 して い た。 「イ ギ リ ス 人 の 私 、 ア メ リ カ人 の 私 、 そ して 日本 人 の 私 … 。三 つ の 私 が 自分 の 中 に入 っ て し ま っ た … 。も う限界 を超 え て い る1」 彼 女 は 自分 の 原 点 に戻 る た め に 、彼 女 に とっ て の故 郷 ・英 国 に帰 っ て くる 必 要 が あ っ た の だ と語 っ た 。 また 、 日本 で 生 ま れ た もの の 、 高 校 か ら大 学 院 ま で の教 育 を ア メ リ カ合 衆 国 で 受 け 、 英 国 で大 学教 員 に な り、 イ タ リ ア人 女 性 と結 婚 して い る 日本 人 男 性 は 、 次 の よ うに 言 っ た 。 「日本 人 で あ る こ と は、 僕 に と っ て 全 く重 要 な こ とで は な い。 とい う よ り も、 僕 は 自分 の こ とを 、 日本 人 だ と思 っ た こ と は な い。 妻 や 子 供 と も英 語 で 話 して い る か らね 。」 そ れ で は 、 彼 に と っ て 大 切 な 「ア イ デ ン テ ィ テ ィ」と は何 か 、 を筆 者 が 問 い か け る と、 彼 は 、 「仏 教 徒 で あ る こ と」 だ と答 え た 。 彼 に とっ て は、 特 定 の 国 や 土 地 を故 郷 と して 、 ア イ デ ンテ ィテ ィの 拠 り所 にす る とい う感 覚 は な い の だ と言 う。 そ の代 わ り、 信 仰 が 彼 に と っ て何 よ り大 切 な 自分 自 身 の拠 り所 な の だ と言 う。 一 方、 日本 人 女 性 と結 婚 した英 国 人 男 性 の 中 に は、 日本 文化 や 日本 語 を 自分 に と っ て の 拠 り所 と考 え、 子 供 た ち に も財 産 と して伝 え た い 、 と語 る 人 も い た 。 彼 の 母 国 ・英 国 を離 れ て 日本 に住 み 、 数 十 年 後 に英 国 に帰 国 し た 彼 は 、 自分 が 「浦 島 太 郎 」の よ う な心 境 に な っ た 、 と い う。彼 に と っ て 、 文 化 とア イ デ ンテ ィ テ ィの 問 題 は 、いつ も重 要 な 関心 で あ り続 け る とい う。 こ の よ う に 、 文 化 の境 界 を越 え て 遙 か な旅 を 続 け て い る 人 々 との 出 会 い を 通 し て 、 そ して 筆 者 自 身 の16力 国 に及 ぶ 旅 の 過 程 で 、 「自 己」 と い う概 念 が 文 化 に よ って 揺 れ 動 く、 と い う体 験 を 目の 当 た りに した こ とが 、 本 論 の テ ー マ を 問 い か け る 原 点 と な っ て い る。 本 稿 で は 、 文 化 に よ っ て 異 な る 「自己 」 とい う概 念 を深 層 心 理 学 、 特 に
トラ ンス パ ー ソ ナ ル学 の 視 座 か ら考 察 し、 文 化 が 描 く様 々 な 「自己 」 に つ い て の像 を比 較 して み た い 。 文 化 は そ れ ぞ れ異 な っ た意 識 の 形 態 を持 ち、 そ の 意 識 の形 態 は 、 神 話 や 昔 話 な ど を含 む イ メ ー ジの 世 界 とい う文 化 の 産 物 に 、 象 徴 的 な 形 で 表 さ れ て い る こ と は、分 析 心 理 学 か ら も指 摘 さ れ て い る。例 え ば 、河 合(1976a: 25-27)に よ れ ば 、 人 間 の 心 の構 造 を考 え る時 、 意 識 の 領 域 は 自我 に よ っ て 統 制 され て お り、 言 語 に よ っ て そ の 内 容 を把 握 す る こ とが で き るが 、 無 意 識 に 属 す る もの は 、 自我 に よっ て把 握 す る こ とは で き な い。 しか し、 意 識 と無 意 識 の 中 間 領 域 に あ る心 の 動 きは イ メ ー ジ と して 把 握 す る こ とが で き る、 とい う。 そ の イ メー ジ に あ た る もの は、個 人 レベ ルで は、夢 で あ り、 文化 レベ ル で の豊 富 な イ メ ー ジの 世 界 の 記 録 と して は、 神 話 ・伝 説 ・昔 話 な どが 挙 げ られ る、 と い う の で あ る。 次 項 で 述 べ る とお り、 ユ ング の 創 始 した 分 析 心 理 学 は トラ ンス パ ー ソ ナ ル 心 理 学 の 潮 流 の 原 点 の 一 つ で もあ る 。本 稿 で は、 「個 」 を超 え る た め の 学 問、 と い う意 味 を持 つ トラ ン スパ ー ソ ナ ル学 を通 して 、 「個 人 」 とい う 問 題 に つ い て 考 察 し、 文 化 に よ っ て 「自己 」・「個 人 」 と い う概 念 が ど の よ う に異 な るか を描 き 出 して み た い。 2ト ラ ン ス パ ー ソナ ル 学 とは 本 稿 は トラ ンス パ ー ソ ナ ル 学 の 視 座 か ら、 「自 己」 とい う概 念 につ い て 考 察 す る とい う試 み な の で 、 まず 、 トラ ン ス パ ー ソナ ル 学 とは何 か 、 と い う 問 い か ら始 め たい 。 筆 者 が 最 初 に 大 学 院 で専 攻 した の は、 コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン論 と い う ア メ リカ 合 衆 国 生 まれ の 学 問 で あ った 。 これ は、 英語 圏 の 人 々が 異 文 化 圏 を理 解 す る た め の 学 問 体 系 だ と言 え るだ ろ う。 日本 文 化 に この 体 系 をそ の ま ま 当 て は め る の は 、 無 理 が あ る の で は な い か、 日本 人 に と っ て 借 り物 の 言 葉 で は な く、 日本 文 化 の 内 側 か ら西 洋 文 化 に対 して 発 信 す る よ う な方 法 は な い か 、 筆 者 は 考 え続 け て きた 。 そ の よ う な 問 い を続 け る 中 で 出 会 っ た のが トラ ンス パ ー ソナ ル学 、 とい う領 域 で あ っ た 。 トラ ン ス パ ー ソ ナ ル 学 と は 、心 理 学 ・精 神 医 学 ・人類 学 ・社 会 学 ・生 態 学 ・更 に
教 育 学 な ど、 多 くの学 問 領域 に ま た が る もの で 、1985年 に京 都 で 「第9回 国 際 トラ ンス パ ー ソ ナ ル 学 会 議 」 が 開 か れ て か ら、 日本 で も徐 々 に 浸 透 し 始 め た 新 しい 学 問 領 域 で あ る。 トラ ン スパ ー ソ ナ ル とは何 か 。「トラ ンスtrans」 とい う接 頭 辞 に は 「超 え る ・横 断 す る 」とい う意 味 が あ る。「トラ ンス パ ー ソナ ルtranspersonal」 とは 、 「個 」 を横 断 す る、 「個 」 を超 え る、 とい う意 味 な の で あ る。 時 折 、 「トラ ンスtrance」(催 眠 ・夢 見 状 態)と 混 同 し、 トラ ンス パ ー ソ ナ ル 学 を何 か 怪 しい 物 の よ う に 誤解 す る 人 も、 い る か も しれ な い 。 しか し、 トラ ンス パ ー ソ ナ ル の 原 義 は 、 自己 ・他 者 の 境 界 を横 断 し、 国 籍 や 文 化 の境 界 を も乗 り越 え て 、 「個 」 を超 え る 、 とい う意 味 で あ る 。 トラ ン スパ ー ソナ ル心 理 学 は ま た 、 第4の 心 理 学 、 と も呼 ばれ て い る 。 第1の 心 理 学 は 自然 科 学 と し て の 客 観 性 を重 視 す る行 動 主 義 、 第2の 心 理 学 は フ ロ イ トが創 始 した精 神 分 析 学 、第3の 心 理 学 は、マ ズ ロー 、ロ ジ ヤー ズ 、ジ ェ ン ドリ ン らが 提 唱 した 人 間性 心 理 学 で あ る。そ して 、トラ ンスパ ー ソ ナ ル 心 理 学 は 前 記 の マ ズ ロー の他 、 ユ ン グ 、 ア サ ジ オ リ、 ウ ィ ルバ ー 、 グ ロ フ らの 貢 献 に よ っ て生 まれ た最 も新 しい心 理 学 で あ る。 トラ ンス パ ー ソナ ル心 理 学 を含 む 、 トラ ンスパ ー ソナ ル学 とい う潮 流 を 考 え る上 で 、 忘 れ て は な ら ない こ とは 、 こ の学 問 領 域 が 米 国 カ リ フ ォ ル ニ ア 州 で生 ま れ、 カ リ フ オ ル ニ ア州 を 中 心 に して発 展 して きた とい う こ とで あ る。 カ リ フ ォル ニ ア州 の地 理 的 な 条 件 一 ヨ ー ロ ッパ に もア ジ ア に も ほ ぼ 等 距 離 で あ る とい う こ と一 は 、 トラ ンス パ ー ソ ナ ル 学 を考 え る上 で 大 切 な 点 で あ る こ と を 、 西 平(1997:74)は 指 摘 す る。 なぜ な ら、 こ の等 距 離 感 覚 は、 西 洋 心 理 学 と東 洋 思 想 の 両 方 に 影 響 を受 け て い る トラ ンスパ ー ソ ナ ル 学 の 特 色 を説 明 して い る か らで あ る 。 トラ ンス パ ー ソナ ル学 の研 究 課 題 は、 「トラ ンス パ ー ソ ナ ル な」 経 験 で あ る。 「個 」 を超 え る、 「個 」 を横 断 す る 、 と い う こ と に は 、 「私 」 と い う 感 覚 の拡 大 、 無 境 界 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ、 「個 」 を超 え た 繋 が り を体 験 す る 、 とい う こ とが 含 まれ る。 こ の よ うな トラ ンス パ ー ソ ナ ル な経 験 を得 る た め に 「異 文 化 の 知 」が 大 変 重 視 さ れ て い る。 こ こ で 、 注 意 す べ きこ とは 、
異 文 化 とは 、 西 洋 文 化 に と っ て の 異 文 化 を 指 す 、 とい う こ とで あ る。 例 え ば 、 先 住 民 族 の儀 礼(ネ イ テ ィ ブ ・ア メ リカ ンの ス ウ ェ ッ ト ・ロ ッ ジ と い う儀 式 な ど)や 『チ ベ ッ ト死 者 の 書 』(人 が 死 ん で か ら再 生 す る ま で の体 験 を 描 い た 書 物)、 そ の 他 に は 、 禅 仏 教 、 瞑 想 、 易 経 、 ヨ ガ な どの 異 文 化 の 知 も研 究 領 域 に含 ま れ て い る。 更 に 、トラ ンス パ ー ソ ナ ル な体 験 を心 理 療 法 に応 用 し考 案 さ れ た もの が 、 トラ ンス パ ー ソナ ル ・セ ラ ピ ー で 、 チ ェ コス ロバ キ ァ 生 ま れ の精 神 科 医 、 ス タ ニ ス ラ フ ・グ ロ フが 考 案 した ホ ロ トロ ピ ック ・ブ レス ワ ー クは そ の代 表 的 な セ ラ ピー で あ る 。 ホ ロ トロ ピ ッ ク と は 、 「全 体 性 に 向 か う」 と い う 意 味 で 、 呼 吸 法 と喚 起 的 な音 楽 を組 み 合 わ せ 、 無 意 識 か らの癒 し を促 す よ う に意 図 され て い る 。 こ れ は 、 先 住 民 族 た ち の儀 礼 の 多 くは 呼 吸 法 と音 楽 の 組 み 合 わ せ に基 づ い て い る こ とか ら ヒ ン トを得 て 、 考 案 さ れ た セ ラ ピー で あ る 。 3「 個 」 の 確 立 に つ い て:現 代 日本 の 文 化 の 志 向 性 トラ ンス パ ー ソ ナ ル学 か ら、日本 文 化 、西 洋 文化 の そ れ ぞ れ に 関 して 「個 」 の確 立 とい う問 題 を考 察 す る に 当 た っ て 、 現 代 日本 にお け る 文化 の 志 向性 と い う こ と を考 え て み た い 。 ア ジ ア の 中 で い ち早 く西 洋 文 化 を取 り入 れ、 先 進 国 に な った 、 と言 わ れ る 日本 だ が 、 現 代 の 日本 で は、 日本 の伝 統 文 化 と し て の 「和 」の文 化 と、 西 洋 文 化 、 あ る い は 個 人 主 義 の 影 響 を 受 け た 「個 」 の 文 化 が せ め ぎ合 っ て い る と言 え る の で は な い か 。 「和 」 の文 化 、 と い う言 葉 に は 、 日本 文 化 と い う意 味 と、 「個 」 よ り も全 体 の 調 和 ・協 調 を 重 視 す る とい う意 味 で の 「和 」 が 含 まれ る と考 え て み た い 。 「個 」 の 確 立 と 「和 」 の 文 化 の 問 の せ め ぎ合 い一 この 二 つ の志 向性 の 間 の 緊 張 状 態 は 、 今 の 日本 で は 私 た ちが 意 識 して い る よ り も、 遥 か に強 烈 で は な い か 、 と筆 者 は 考 え る。 例 え ば、 茶 髪 ・ル ー ズ ソ ック ス な ど とい っ た 「個 性 的 」 な フ ァ ッシ ョ ンが 一 斉 に流 行 す る とい う現 象 も不 思 議 で あ る 。 小 学 生 か ら携 帯 電 話 を 持 つ 、 とい う こ と も、 両 親 か ら独 立 し た 「個 」 で あ りた い とい う気 持 ち と、 い つ も友 人 と連 絡 を取 り合 って 一 体 感 を感 じ
て い な い と不 安 に な る と い う心 理 の 表 れ で は な い だ ろ うか 。 そ の他 、 近 年 登 場 した 言 葉 の 中 に 、 フ リー ター や パ ラサ イ ト ・シ ング ル が あ る が 、 これ らの 新 語 も、従 来 の社 会 通 念 ・シ ス テ ム か らフ リー で あ る、 と い う光 の 部 分 と、 何 事 に も コ ミ ッ トで きな い脆 さ 、 と い う影 の 部 分 の 両 側 面 を 表 して い る か の よ う で あ る 。 ま た 、 筆 者 の英 国 滞 在 中、 多 くの英 国 人 か ら聞 い た コ メ ン トに は 以 下 の よ う な も の が あ る。 「日本 の 会 社 は ま さ に フ ァ ミ リ ー。 家 族 の よ う に 、 ず っ と社 員 の 面 倒 を見 て くれ る 。 だ か ら、 ぜ ひ と も 日系 企 業 に 就 職 した い 。」 実 際 、 日系 企 業 は ロ ン ド ンで は 就 職 先 と し て大 変 人 気 が あ っ た 。 しか し、 日本 で は 、 終 身 雇 用 制 とい う神 話 が 崩 壊 して、 会 社 と い う 日本 的 な 「フ ァ ミ リ ー」 か ら 自 立 せ ざ る を 得 な くな り、 「個 」 と して の 生 き 方 が 問 わ れ る 時 代 が 訪 れ て い る の で は な い だ ろ うか 。 「家 族 」 と して の 企 業 に所 属 して い る こ とで 安 心 して い られ た 「和 」 の 文 化一 調 和 や 一 体 感 を志 向 す る文 化 か ら 「個 」 の 確 立 を志 向 す る文 化 へ と、 現 代 日本 の 文 化 は変 化 し始 め 、 揺 らい で い るの か も しれ な い 。 最 初 の トラ ンス パ ー ソナ ル志 向 の 心 理 学 者 と言 え るユ ング の心 理 学(分 析 心 理 学 〉 を 、 日本 文 化 の 文 脈 か ら研 究 して い る河 合 隼 雄 は、 文 化 の 志 向 性 とい う考 え につ い て 述 べ て い る。 そ れ は 、 文 化 に は 、 大 き く分 け て 、 父 性 原 理 と母 性 原 理 とい う二 つ の 原 理 が 働 い て い る、 とい う考 え で あ る。 こ こ で 言 う父 性 ・母 性 とは 、 必 ず し も実 際 の 男 女 と して の 父 母 の こ と を指 し て い る わ け で は な く、 男 女 問 わ ず 一 人 の 個 人 の 中 に 、 父 性 的 な原 理 ・母性 的 な 原 理 の 両 方 が 働 い て い る、 と考 え る の で あ る。 一 つ は優 し く子 供 を包 み 込 み 、 は ぐ くみ 育 て る 、 とい う 「包 み 込 む 」 も の と して の 母 性 原 理 で あ り、 も う 一 つ は 子 供 を母 性 的 な 一 体 感 か ら 「分 け て」 「独 立 させ る」 とい う父 性 原 理 で あ る とい うの で あ る。 河 合(1976b)は 、 個 人 の 中 に働 い て い る 母 性 原 理 ・父性 原 理 と い う対 立 とバ ラ ンス に よ っ て 、 そ の 社 会 や 文 化 の特 性 が 作 り出 され て い く、 とい う考 え を述 べ て い る。 母 性 原 理 は 、 調 和 ・一 体 感 志 向 の 「和」 の 文 化 に 、 父 性 原 理 は 「個 」 の確 立 志 向 の 文 化 に優 位 に働 い て い る と考 え られ る。 こ
の よ うな 文 化 の志 向 性 は どの 文 化 に も あ り、 父 性 原 理 志 向が 強 い 文 化 と し て 、 キ リス ト教 に 見 られ る一 神 教 の 文 化 ・「個 人 主 義 」志 向 の 文 化 が あ り、 母 性 原 理 志 向 の強 い 文 化 と して は 、ア ジ ア の多 くの 文 化 に 見 られ る よ う な、 調 和 ・一 体 感 志 向 の 文 化 が 挙 げ られ る。 但 し、 この 二 つ の原 理 は どの 文 化 の 中 に もあ り、 そ れ ぞ れ の文 化 の 中で 父 性 原 理 と母 性 原 理 が ダ イ ナ ミ ック ス と して せ め ぎ合 っ て い る、 と考 え られ る。 こ の よ う な 文化 の 志 向 性 とい う観 点 か ら、 現 代 の 日本 文 化 を 考 察 して み た い。 元 来 、 「和 」 の 文 化 を 持 つ 日本 で は母 性 原 理 が 強 い が 、 以 前 の 家 父 長 制 度 の 下 で は、 「父 権 」が 大 変 強 く、 母 性 原 理 が 強 く と も、「強 い 父 親 像 」 の お 陰 で バ ラ ンス が 取 れ て い た の で は な い か 、 と河 合(1982b)は 指 摘 す る。 例 え ば、 「怖 い も の」 と して 「地 震 、 雷 、 火 事 、 親 父 」 とい う 言 葉 が あ った 。 と こ ろ が 、 筆 者 が 現 在 の 学 生 た ち に尋 ね て も、 怖 い存 在 と して の父 親 像 を挙 げ る ケ ー ス は大 変 少 な い 。 以 前 、 『巨 人 の 星 』 と い うテ レ ビ番 組 が あ っ た が 、 そ こ に は、 星 一 徹 と い う父 親 が 登 場 す る。 「巨 人 の 星 を 掴 む まで は 、 血 の 汗 流 せ 、 涙 も拭 くな!」 とい う星 一徹 の よ う な 父親 像 は、 現 代 で は 、 なか な か 見 つ か らな い の で は ない だ ろ うか 。 こ の よ う な 、 星 一 徹 に象 徴 され る よ う な 「強 い 父 性 」 が 影 を潜 め て し ま って い る現 代 の 日本 の 中 で、 ま だ パ ワ ー を持 っ て い る の は 、 「包 み 込 む 」 母 性 原 理 な の で は な い か 、 と考 えて み た い 。 男 性 学 と い う分 野 を提 唱 し、 男 性 に と っ て の フ ェ ミニ ズ ム の重 要性 を説 い て い る 文 化 社 会 学 者 、 伊 藤(1996:111-2)は 、 「日本 に は3人 の マ マ が い る 」 と言 っ た 。 一 人 目は 文 字 通 りの 母 親 、 二 人 目 は妻 の こ と(日 本 人 男 性 に と って 、 結 婚 後 、 子 供 が 生 まれ た ら、 自分 の 妻 の こ とを マ マ 、 と呼 ぶ ケ ー ス は 珍 しい こ と で は な い)を 指 し、 三 人 目の マ マ と は、 「バ ー の マ マ」 だ とい う の で あ る。 伊 藤(1996:112)は 次 の よ う に、 コ メ ン トす る。 「そ もそ も、"バ ー の マ マ"と い っ た 職 業 は 日本 以 外 にあ るの だ ろ うか 。 も ち ろ ん 、 女 性 が サ ー ビ ス す る飲 み屋 は ど こ の 国 に もあ る だ ろ う。 しか し、 バ ー の カ ウ ン ター の 中 か ら、 と き に は擬 似 恋 愛 を演 じつ つ 、 と きに は 母 親
代 りに 軽 く叱 っ た り して 、 悩 め る男 た ち の 心 を 開 き、 あ る種 の カ ウ ンセ リ ン グ を して くれ る 女性 が い る飲 み 屋 が あ る 文 化 とい う の も珍 し い の で は な い か。 家 や 社 会 で 癒 せ ぬ 心 を 、 や さ し く包 み 込 む こ とが 商売 に な る ほ ど、 日本 の 男 た ち は、 女性 に甘 え た い の だ ろ うか 。 興 味 深 い と こ ろ だ。」 酔 っ た 客 を優 し く包 み 込 み 、 介 抱 す る バ ー の マ マ に は、 日本 的 な 「包 み 込 む」 とい う 母性 原 理 の 象 徴 的 な姿 が見 出 さ れ る の か も知 れ な い。 しか し、 今 日の 日本 は、 西 洋 文 化 の影 響 も強 く受 け、「個 」の確 立 や 、「個 性 」を生 か した教 育 、 とい う こ とに 関 心 が 払 わ れ る よ う に な っ て きて い る。 一 方 で、 深 層 で は 長 い 歴 史 を持 つ 母 性 原 理 志 向 の 「和 」 の文 化 が 支 配 的 で あ り、 「個 」 の確 立 へ の志 向 と、 「和 」 の 文 化 との 問 に強 烈 な 緊 張 が 生 じて い る の で は な い だ ろ うか 。 この よ うな 緊 張 状 態 は 、 時 に は対 人 恐1布や 引 き こ も り、 と い っ た病 理 に な っ て 顕 れ る 、 と考 え る こ と もで き よ う。 例 え ば 、 独 立 した 「個 」 と して 自 己 主 張 を した い 、 で も 「個 」 と し て生 き る の に は ま だ ま だ 未 熟 で 怖 い 、 とい う 人 々 に と っ て は、 「個 人 主 義 」 を 掲 げ て も、 「個 人 」 に な る の で は な く、 「孤 人 」 に な っ て しま う危 険性 も孕 ん で い る と言 え よ う。 こ の点 が 、 現 代 の 日本 文 化 に お い て 「個 」 の確 立 を 志 向 す る 際 に 、留 意 しな け れ ば な らな い 点 で は な い だ ろ うか 。 4「 個 」 の 確 立 とケ ン ・ウ ィル バ ー の ラ イ フ サ イ クル 理 論 再 び、 焦 点 を トラ ンス パ ー ソナ ル学 に 戻 そ う。 トラ ンス パ ー ソナ ル 学 の 最 大 の 理 論 化 と も言 わ れ る ケ ン ・ウ ィル バ ー は、 心 ・あ るい は意 識 の 水 準 に 関 して 、 ラ イ フ サ イ ク ル理 論 を打 ち 出 した 。3段 階 の 心 ・意 識 の水 準 が あ る 、 と した の で あ る。(図1参 照) まず 、 最 初 の心 ・意 識 の段 階 は、 前 「個 」 段 階(プ レパ ー ソ ナ ル)と 呼 ば れ 、 こ の 段 階 で は 、 ま だ、 自我 と無 意 識 は未 分 化 で 一体 化 して い る 。 次 に 、 心 ・意 識 の発 達段 階 は 「個 」 の確 立(パ ー ソ ナ ル)へ と向 う。 この段 階 で は 、 自我 が 無 意 識 か ら区 別 さ れ る。 こ こで は 、 第3項 で 述 べ た 「分 け る」と い う父 性 原 理 が 心 ・意 識 に働 い て い る と考 え られ る。 そ れ に対 して、 前 「個 」 段 階(プ レパ ー ソ ナ ル)を 支 配 して い た の は 、全 て の もの を 「包
心 あ る い は 意 識 の 三 水 準 K.ウ イル バ ー の ラ イ フサ イ ク ル 理 論 ・超 「個 」:「 私 」 とい う 枠 を超 え て 、世 界 との 繋 が り を体 験 ・「個 」 の 確 立:自 我 と 無 意 識 を 区別 ・前 「個 」:自 我 と無 意 識 は 未分 化 図1:心 ・意 識 の3水 準 み 込 む」 母 性 原 理 で あ る の だ と説 明 で きる 。 英 語 圏 を 含 む 西 洋 文 化 圏 は、 日本 文 化 と比 べ て、 前 「個 」段 階(プ レパ ー ソ ナ ル)か ら 「個 」 の確 立(パ ー ソ ナ ル)へ の 発 達 を非 常 に重 視 す る文 化 圏 で あ る と言 え る 。従 来 の 発 達 心 理 学 で は 、 前 「個 」 段 階(プ レパ ー ソ ナ ル)か ら 「個 」の確 立(パ ー ソ ナ ル)へ の 発 達 を 人 間 の 誕 生 か ら始 ま る心 ・ 意 識 の発 達 の プ ロ セ ス と して研 究 す る の だ が 、 ウ ィル バ ー の ライ フサ イ ク ル 理 論 で は、 こ の 二 つ の段 階 に、 更 に 高 次 の段 階 、 超 「個 」(ト ラ ンスパ ー ソナ ル)を 付 け加 えて い る 。 超 「個 」 段 階 で は 、 心 ・意 識 は 「私 」 とい う 枠 を 超 えて 、 世 界 と の繋 が りを体 験 す る、 とい うの で あ る 。 つ ま り、 第2 項 で 述 べ た 無 境 界 の ア イ デ ン テ ィテ ィ ・ 「個 」 を超 え た繋 が りが 、 こ の超 「個 」 段 階(ト ラ ン ス パ ー ソナ ル)の 心 ・意 識 の水 準 で は 実 現 され る の で あ る 。 5「 個 」 の 確 立 の プ ロ セ ス とエ ー リ ッ ヒ ・ノ イ マ ンの 『意 識 の起 源 史 』 第4項 で 紹 介 した ウ ィ ルバ ー の 心 ・意 識 の 水 準 に つ い て の ラ イ フサ イ ク ル 理 論 は抽 象 的 で 、心 ・意 識 の 各 段 階 の 状 態 につ い て 具 体 的 な イ メ ー ジ を 描 く こ とが 難 しい か も し れ な い 。 そ こで 、 こ の 第5項 で は、 心 ・意 識 の 段 階 を イ メ ー ジ と し て 理 解 す る た め に 、 ユ ン グ 第 一 の 高 弟 と い わ れ る エ ー
リ ッ ヒ ・ノ イ マ ン の神 話 研 究 、 『意 識 の 起 源 史 』 を基 に し て 、 心 ・意 識 の 発 達 の プ ロ セ ス を辿 っ て み た い 。 ノ イ マ ン(1949)は 、 『意 識 の 起 源 史 』で は 、 世 界 の神 話 や イ メ ー ジ を、 「文 化 の 無 意 識 」 の 顕 れ と考 え、 そ れ ぞ れ の 文 化 で 心 ・意 識 が ど の よ う な 発 達 段 階 を と るの か を研 究 し、:神話 や イ メ ー ジ を意 識 の 発 達 の起 源 史 と し て 、 時 系 列 で 示 した。 以 下 に ノ イ マ ンの 時 系 列 の理 論 を参 照 しな が ら、 前 「個 」 段 階(プ レパ ー ソ ナ ル)か ら 「個 」 の 確 立(パ ー ソ ナ ル)ま で の プ ロ セ ス を イ メ ー ジ の世 界 を基 に して 辿 っ て み た い。 5-1前 「個 」 段 階 原 初 の 心 の シ ンボ ル:ウ ロ ボ ロ ス ま ず 、 最 も原 初 的 な 心 の 段 階 で あ る、 前 「個 」 段 階 の 心 は 、 ノ イマ ンに よ れ ば 、 「ウ ロ ボ ロス 」 とい う 円 の シ ンボ ル で表 され る。(図2参 照) ウ ロ ボ ロ ス は、 人 類 史 の原 初 、 先 史 時 代 の 心 の状 態 で あ り、個 人 レベ ル で は 、 幼 児 期 の 心 の 状 態 で もあ る。 あ る い は、 成 人 は 夢 の 中 で この 状 態 を 体 験 す る こ とが で き る。 夢 に お い て は、 自我 や 意 識 が 解 体 し、 無 意 識 の 中 に溶 け 合 っ て い る か らで あ る 。 これ は、 主 客 の 分 裂 以 前 、 二 元 論 以 前 の 心 の 状 態 で あ り、 全 て が 無 意 識 の 中 に抱 か れ て い る状 態 で あ る、 とノ イマ ン は 言 う。 時 間 と空 間 は 意 識 の発 生 と と も に初 め て 現 わ れ る もの で あ るの で、こ の段 階 で は、 時 間 も空 間 も まだ 存 在 して い な い 。 時 間 の 代 りに永 遠 が あ り、 空 間 の 代 りに無 限 が 存 在 し て い た時 代 で あ る。 こ の よ うな 心 の 状 態
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を象 徴 す る の が 、 「ウ ロ ボ ロス 」 と い う 円環 の シ ン ボ ル で あ る。 ウ ロ ボ ロ ス と は 、 自分 の 尾 を 咬 み ・呑 み 込 む 蛇 の 象 徴 で あ る 。 「男 で あ り、 女 で あ り、 呑 み 込 み 、 か つ 産 み 出 し、 能動 的 で あ りな が ら、 受 動 的 で あ り、 上 で あ りな が ら、 下 で あ る」 と い う心 の 状 態 で あ る。 この シ ン ボ ル は バ ビ ロニ ア、 古 代 エ ジ プ トを初 め 、 世 界 中 に偏 在 し、 ナ ヴ ァ ホ ・イ ンデ ィ ア ンの 砂 絵 に も見 られ る 。 5-2前 「個 」 か ら 「個 」 ま で の 段 階:グ レー ト ・マ ザ ー(太 母) 原 初 の 心 は 、 ウ ロ ボ ロス とい う イ メ ー ジ に象 徴 され た よ うに 、 無 意 識 と い う混 沌 と した 大 海 に解 け て い た の だ が 、 心 の発 達 段 階 は、 次 第 に 自我 の 萌 芽 へ と向 っ て い く。 前 「個 」 か ら 「個 」 ま で の 発 達 段 階 の プ ロ セ ス に お い て 、 無 意 識 とい う大 海 か ら、 自我 が 芽 生 え 始 め るの で あ る。 こ の段 階 で は 、 無 意 識 か ら芽 生 え た小 さ な 自我 が 、 葛 藤 を 経 験 し始 め る。 二 元 論 以 前 の ウ ロ ボ ロ ス 的 な 心 の 状 態 に あ る 自我 に と っ て 、 無 意 識 は 「母 」 の よ う な も の と して体 験 され る と い う。 萌 芽 し始 め た ばか りの 自我 に とっ て 、 二 つ の 願 望 が あ る、 と ノ イマ ンは 指 摘 す る。 一 つ は、 自我 が 、 そ の ま ま 無 意 識 との 一 体 感 を感 じて 、 「母 」 に 包 まれ て 眠 っ た ま まで い た い 、 と い う願 望 で あ り、 も う一 つ は、 「母 」 な る 無 意 識 か ら独 立 し た い 、 と い う願 望 で あ る 。 そ の 二 つ の相 反 す る欲 求 は 、 強 い葛 藤 と して経 験 され る。 文 化 が 、 こ の よ うな 心 ・意 識 の段 階 に あ る時 、 自我 と無 意 識 の 関係 性 を 様 々 な イ メ ー ジ で象 徴 す る。例 え ば 、前 者 の、母 に包 ま れ て 一 体 感 を感 じ、 無 意 識 の 中 で ま どろ んで い た い 、 とい う 自我 の願 望 は 、 自我 を養 い 、 包 み 育 て る とい う肯 定 的 な母 の イ メー ジ で 現 れ て く る。 例 え ば、 前5世 紀 の エ トル リ ア の 、 幼 児神 を抱 く母 神 の イ メ ー ジが 良 い例 で あ る。(図3参 照) こ こ で は 、 ま だ 小 さ く無 力 な 生 ま れ た ばか りの 自我 を、 大 きな存 在 と し て の 「母 」 が 優 し く包 み 、 抱 い て い る イ メ ー ジが 現 れ て い る 。 「包 む 」 と い う母 性 原 理 の 慈 愛 あふ れ る側 面 の 表 れ で あ り、 象 徴 と して の グ レー ト ・ マ ザ ー の 肯 定 的 な姿 だ と言 え よ う。
姐 図 図3:幼 児神 を 抱 く母 神 (ノイ マ ン、1949:87) しか し、 無 意 識 か ら 自立 を果 た し、 独 立 した存 在 に な ろ う とす る 自我 に と って 、 無 意 識 は 、 自我 を呑 み 込 ん で 、 も う一 度 ウ ロ ボ ロ ス 的 な 主 客 分 裂 以 前 の混 沌 状 態 へ と引 き戻 そ う とす る 、 恐 ろ しい 母 像 と して体 験 され る。 こ の よ う な否 定 的 ・破 壊 的 な無 意識 の 側 面 は 、 図4の よ うな イ メ ー ジ に 見 出す こ とが で き る。 こ こで は、 小 さ く無 力 な 自我 の 象 徴 と して の 子 供 を 捕 っ て 、呑 み 込 み 、 食 べ て しま い 、再 び無 意 識 の 混 沌 状 態 の 中 に戻 して し まお う とす る 、 グ レー ト ・マ ザ ー の 否 定 的 な側 面 が 現 れ て い る 。 こ の よ う に 、 萌 芽 した ば か りの 自我 は 、無 意 識 に対 す る二 つ の 相 反 す る 願 望 とい う葛 藤 を経 験 した 後 、 次 の 「英 雄 神 話 」 に見 る よ うな 画 期 的 な心 の 段 階 へ と進 ん で い く。
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5-3「 個 」 の 確 立 の段 階:英 雄 神 話 ノ イ マ ン は、 この 「個 」 の確 立 の 段 階 を、 近 代 西 洋 文 化 に お け る 自我 が 成 し遂 げ た 特 異 な心 の 状 態 だ と し、 西 洋 文 化 圏 に特 有 の 心 ・意 識 の発 達段 階 だ とい う。 こ れ は 、「英 雄 神 話 」とい う神 話 の 中 に見 られ る段 階 で あ る。 ノ イ マ ン は、こ の心 の段 階 を 自我 に とっ て 画 期 的 な段 階 で あ る 、とす る 。 そ れ は 、 自我 を呑 み 込 も う とす る グ レー ト ・マ ザ ー との 戦 い に勝 利 した 自 我 が 、 無 意 識 か ら独 立 した 存 在 と な り、 意 識 の 中心 と な る、 とい う段 階 だ か ら で あ る。 自我 が 無 意 識 か ら分 離 す る と と も に 、 意 識 と無 意 識 との 間 に は 明 確 な境 界 線 が 生 まれ る。筆 者 は 、ウ ロ ボ ロス か ら グ レー ト ・マ ザ ー を経 て 、無 意 識 か ら意 識 が 分 離 す る ま で の 過 程 を 図式 的 に表 現 して み た。(図5 -1∼ 図5-3参 照) 文 化 が この よ うな 心 の 段 階 に あ る時 、英 雄 神 話 と呼 ば れ る物 語 の パ タ ー ンが 生 じて くる、 と ノ イマ ンは 指 摘 して い る が 、 英 雄 神 話 に は 、 大 き な三 つ の テ ー マ が あ る とい う。 そ れ は 、 ① 戦 い(怪 物 退 治)② 宝 物 ・女 性 の獲 得 ③ 英 雄 と女 性 との 結 婚 、 とい う テ ー マ で あ る。 壮 年 期 の 男 性 の 姿 で 象 徴 され る成 長 した 自我 は 、 再 び 自我 を呑 み 込 み 、 無 意 識 の 混 沌 の 中 に 連 れ 戻 そ う とす る破 壊 的 ・否 定 的 な 母 親 像 に戦 い を挑 む 。 この 時 、 否 定 的 な母
図5-3 親 像 は 怪 物 の イ メ ー ジ で表 され 、 英 雄 は 無 意 識 か ら 自立 を勝 ち 取 るた め に 怪 物 退 治 を 余 儀 な くさ れ る わ けで あ る 。 前6世 紀 、 ア ッテ ィ カ で 生 じた とさ れ る図6の イ メ ー ジ は、 否 定 的 な グ レー ト ・マ ザ ー(太 母)と し て の ゴ ル ゴ(頭 部 に ウ ロ ボ ロ ス の 象徴 と して の 蛇 の 姿 が あ る こ と に注 目 さ れ た い)を 殺 そ う とす る英 雄 、 ペ ル セ ウス の 姿 で あ る。 こ う して 、 無 意 識 か ら 自立 を勝 ち取 るた め の危 険 な戦 い を経 て 、 意 識 の
図6:ゴ ル ゴを 殺 す ペ ル セ ウ ス(ノ イ マ ン、1949:226) 中心 と して 無 意 識 か ら独 立 した 存 在 とな っ た 自我 一 英 雄 の姿 で 象 徴 化 さ れ て い る 自我 一 は 、無 意 識 界 を探 検 す る際 に宝 物 ・あ る い は 女 性 を獲 得 す る。 戦 い の 結 果 と して の 女 性 の救 済 が 、 英 雄 神 話 で は重 要 に な る。 英雄 の 女 性 と の 結 婚 、 と い うテ ー マ が 生 じる の で あ る 。 多 くの 場合 、 姫 と して 英 雄 と 結 婚 す る こ と に な る女 性 は、 無 意 識 界 で怪 物 に 囚 わ れ て い る。 怪 物 を退 治 し、 囚 わ れ の 姫 を 無 意 識 の パ ワー か ら解 放 し、 「個 」 と して 確 立 した 自我 一 す な わ ち 英 雄 一 は 、「個」 と して異性 とい う他者 と結婚 す るので あ る。 例 え ば 、 ア ン ドロ メ ダ姫 を救 う英 雄 ペ ル セ ウ ス の姿(図7)に そ の英 雄 神 話 の典 型 を見 る こ とが で き る。 こ こで 生 じ る の は 二 元 論 の世 界 で あ り、 「個 」 の 確 立 とは 、 意 識 と無 意 識 の 分 離 、 そ して、 対 立 す る二 元 の 統 合 と して の 結 婚 、 を意 味 し て い る 。 つ ま り、ノ イ マ ンの 理 論 に よ れ ば 、主客 分 裂 以 前 の 二 元 論 以 前 の 世 界(ウ ロ ボ ロ ス)か ら、 グ レー ト ・マ ザ ー と い う段 階 を経 て、 無 意 識 か ら自我 が 独 立 し、 意 識 ・無 意 識 との 間 に 明確 な 境 界 線 が 確 立 す る とい う プ ロ セ ス こ そ 、 神 話 に見 出 さ れ る 「個 」 の確 立 の プ ロ セ ス で あ る。 以 上 、5-1か ら5-3ま で概 観 して きた 、神 話 に見 る西 洋 文 化 圏 に お け る 自我 の 獲 得 の プ ロ セ ス は、 ウ ィル バ ー の ラ イ フサ イ ク ル理 論 に お け る 前 「個 」(プ レパ ー ソ ナ ル)か ら 「個 」 の 確 立(パ ー ソ ナ ル)に 至 る まで
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究 の 成 果 と、 ノ イマ ンの 神 話 研 究 を比 較 して 、 の神 話 ・昔 話 へ の表 れ につ い て 考 え て み た い 。 の プ ロ セ ス に対 応 して い る。 英 雄 神 話 とは 、 文 化 の 心 が プ レパ ー ソナ ル か らパ ー ソナ ル に移 行 す る プ ロ セ ス を描 写 した 物 語 だ と言 え る。 で は 、 ウ ィル バ ー の ラ イ フ サ イ ク ル理 論 の も う 一 つ の 心 ・意 識 の 水 準 で あ る 超 「個 」(ト ラ ン ス パ ー ソナ ル)段 階 につ い て は、 ど の よ うな 物 語 が あ る の だ ろ うか 。 こ の 問 い に つ い て 考 察 す る 前 に 、 日本 の神 話 ・昔 話 研 日本 文化 に お け る 心 ・意 識 6日 本 の 神 話 と英 雄 神 話 の 比 較:「 境 界 」 とい う概 念 を巡 る文 化 的 差 異 ノ イマ ンの神 話 研 究 に よれ ば、 英 雄 神 話 にみ る 「個 」 の 確 立 と は、 前 項 に概 観 した よ う に、 ① 無 意 識 か ら自我 が 萌 芽 す る。 ② 意 識 の 中 心 と し て の 自我 が 形 成 さ れ る 。 ③ 意 識 と無 意 識 に明 確 な 境 界 線 が 引 か れ る。 ④ 「個 」 と して の 自我 が 確 立 す る。 一 と い う プ ロ セ ス を含 む もの で あ っ た 。 そ して 、 この 英 雄 神 話 の 重 要 な テ ー マ に は、 次 の2点 が 含 ま れ る と い う こ と を指 摘 した 。そ れ は、① 戦 い ・怪 物 退 治 ② 結 婚 とい う テー マ で あ り、 前 者 は、 無 意 識 の象 徴 と して の グ レー ト ・マ ザ ー との葛 藤 を経 て 、 自我 が グ レー ト ・マ ザ ー の 破 壊 的 な側 面(怪 物)を 退 治 し、 無 意 識 か ら独 立 を勝 ち 取 るた め の 戦 い で あ る。 後 者 の結 婚 と は、 壮 年 期 の 男 性 像 で 表 され る 自 我 が 、 対 立 物 と の 統 合 と して 、 女 性 を獲 得 す る とい う意 味 で あ る 。 意 識 と
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無 意 識 の 分 離 とい う二 元 論 の発 生 と と もに 、 心 は 対 立 物 との 統 合 を必 要 と す る よ う に な り、 そ れ が 結 婚 とい う テ ー マ に象 徴 され る の で あ る。 こ の 英 雄 神 話 は 、 自我 、 そ して 対 立 物 と して の 女 性 を獲 得 す る た め の 物 語 で あ る 。 そ こに 流 れ て い る 時 間 は直 線 的 で あ り、 前 進 す る こ と に よっ て 自我 を 獲 得 す る とい う、 目的 志 向 の旅 で あ る と言 え る。 これ は、 西 洋 文 化 に お い て 、 欧 米 人 が 「個 」 を確 立 す る プ ロ セ ス で あ っ て 、 日本 の神 話 研 究 か らは 、 英 雄 神 話 に み る プ ロセ ス とは 、 際 立 っ た 違 い が 報 告 さ れ て い る。 中 で も、 ノ イ マ ンの神 話 研 究 を参 考 に しな が ら、 日本 の 神 話 ・昔 話研 究 を進 め て い る河 合(1982a)は 、 直 線 的 な 時 間 の 概 念 を持 つ 英 雄 神 話 に照 ら し合 わせ て 日本 人 の 心 の 構 造 を探 る と、 まる で 、 日本 人 の 意 識 構 造 は 「ウ ロ ボ ロ ス」 段 階 で留 ま って い る とい う こ と に な っ て し ま うが 、 ど う も 日本 人 の 意 識 構 造 は 、 ノイ マ ンが 英 雄 神 話 で描 写 した よ う な、 直 線 的 な発 達 の プ ロ セ ス と は全 く違 っ て い る よ う だ、 とい う研 究 成 果 を報 告 して い る。 日本 の神 話 ・昔 話 の 際 立 っ た 特 徴 と して 、 結 婚 とい う テ ー マ が 生 じて く る こ とが 稀 で あ り、 も しあ っ た と して も、 そ れ は 、 西 洋 の物 語 に見 られ る よ う な ハ ッピ ー エ ン デ ィ ン グ で は な い 。 例 え ば 、 か ぐや 姫 は 、 男 性 の求 婚 を断 り、 月世 界 へ と去 っ て い く とい う結 末 を迎 え る。 ま た 、 『鶴 の 恩 返 し』 で は鶴 と の結 婚 が 語 られ るが 、 こ こで も女 性 で あ る鶴 は男 性 か ら去 っ て い く とい う結 末 に な っ て い る。 西 洋 で は動 物 との 結 婚 は皆 無 に近 く、 蛙 に な っ た 王 子 様 、 と い う物 語 も元 々 人 間 の 男 性 が 蛙 に変 身 して い る の で あ り、 日本 の 物 語 に み る よ う に、 鶴 な どの 動 物 が 人 間 に姿 を 変 えて 、 人 間 と結 婚 す る と い う物 語 とは全 く逆 で あ る。 ま た 、 浦 島太 郎 の 物 語 と して知 られ る 『浦 島伝 説 』に お い て も、 戦 い ・結 婚 と い うテ ー マ は語 られ る こ とは な い 。 この よ う に、 河 合(1982a)は 、 目的 志 向 の 西 洋 の 物 語 とは違 っ て 、 結 婚 が 目 的 と し て語 られ る こ と は、 日本 の 物 語 で は極 め て 稀 で あ る 、 とい う 点 を指 摘 す る 。 英 雄 神 話 の よ う に、 戦 い ・結 婚 な どに よ っ て 、何 か を 「獲 得 ・達 成 」 す る と い う 目的 志 向 の物 語 と は違 っ て 、 日本 の物 語 で は 、 む し ろ 運 命 を淡 々 と 「受 容 」 す る とい う態 度 が 多 く、 目的 志 向 とい う よ り も、 プ ロ セ ス 志 向 で あ る こ と も、 大 きな 違 い と して指 摘 して い る 。
ま た 、 臨 床 心 理 学 ・哲 学 ・神 話 研 究 と い う 分 野 か ら 日本 の代 表 的 な神 話 と して 『ス サ ノ ヲ』 につ い て 議 論 した 、 「日本 神 話 の 思 想 ス サ ノ ヲ論 』 で 吉 田(1983)は 、 『ス サ ノ ヲ』 は 、 ヤ マ タ ノ オ ロ チ を退 治 す る とい う 怪 物 退 治 、 そ して 草 薙 の剣 を得 て、 ク シナ ダ姫 と結 婚 す る とい う英 雄 神 話 にみ る テ ー マ を含 み なが ら、 断 固 と して 「母 な る もの 」 か ら独 立 す る こ とを拒 む とい う、 西 洋 の 物 語 で は両 立 し得 ない テ ー マ が 共 存 して い る こ と を、 特 筆 す べ きこ と と して挙 げ て い る 。 吉 田 は 、 「バ イ ドコ コ」 とい う、 「母 に 固 着 し、 母 親 に よ っ て代 表 さ れ る 女 性 の 世 界へ 閉 じ こ も る者 」 とい う意 味 の 文 化 人 類 学 の 用 語 を用 いて 、 ス サ ノ ヲ の振 る 舞 い は 典 型 的 なバ イ ドコ コ性 が あ る、 と して い る 。 この こ とは 、 英 雄 神 話 で は前 進 す る こ とに よ っ て、 自我 や 女 性 を獲 得 す る 、 と い う直 線 的 な 時 間 の流 れ が 重 視 され て い た の に 対 し、 時系 列 の共 存 が 見 られ る 『ス サ ノ ヲ』 で は 、 発 達 ・成 長 とい う概 念 が 英 雄 神 話 と は全 く 異 な っ た もの で あ るの で は な い か 、 とい う仮 説 へ とつ なが る。 河 合(1982b)は 、 「個 」 を確 立 した 西 洋 人 の 自我 が 「分 け る」 とい う 二 元 論 に基 づ く もの で あ る の に対 し、 日本 人 の意 識 は む しろ 、 反 ・二 元 論 に基 づ く意 識 と考 え る の が 適 切 で は な い か 、 と示 唆 して い る 。 これ は、 意 識 と無 意 識 と の 間 に明 確 な境 界 線 が な い 心 の 構 造 で あ り、 二 元 論 的 な 明確 な 区 分 ・分 離 を 許 さ な い心 で あ る。こ れ は 、全 体 的 ・重 層 的 な意 識 で あ り、 西 洋 的 な 自我 と は違 っ て 、 む しろ多 重 の 自我 の存 在 を も可 能 に す る意 識 で あ る、 とい う。 異 文 化 間 コ ミ ュニ ケ ー シ ョ ンに お い て 、 ホ ー ル(1976)の 「コ ン テ ク ス ト」 と い う理 論 で は、 日本 文 化 を 「高 コ ンテ ク ス ト文 化 」 と して 捉 え て い る が 、 これ は 、 私 とい う個 人 よ り も、 私 と他 者 の 関 係 性 が コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン に お い て重 視 され る こ とを 意 味 す る 。 ま た、 濱 口(1982)の 「間 人 」 理 論 に お い て も、 日本 文 化 で は 、 私 とい う存 在 は他 者 と の 関係 性 にお い て ダ イ ナ ミ ッ ク に 揺 れ動 く存 在 で あ り、 人 と人 との 間 に存 在 す る 関 係 性 こそ が 重 要 で あ る と い う、 問 人 と い う概 念 を示 唆 して い る。 こ の よ うな 「私 」 の 重 層 性 、 つ ま り 「個 」 よ り も全 体 性 を志 向す る 意 識 を、 日本 的 な意 識 の
特 徴 と考 え る こ とが で き る。 こ の よ う な 意 識 は無 意 識 との 関 わ りが 強 い の で 、日本 の物 語 にお い て は 、 現 実 と非 現 実 は む しろ交 錯 し、 両 者 の 区別 は 曖 昧 とな る。 こ れ は 、 西 洋 の 物 語 で は、 意 識 の 世 界 と して の現 実 と、 無 意 識 の 世 界 の 表 れ と して の 「お と ぎの 国 」 に は明 確 な境 界 が あ る とい うこ と と、 際立 った 対 照 を示 して い る。 ま た 、 西 洋 的 な 自我 が 英 雄 神 話 に見 る よ う に 、 「戦 い 」 の 末 、 「獲 得 」 さ れ た も の で あ る の に対 して 、 日本 的 な 意 識 は 「戦 わ ず に待 つ 」 とい う特 色 が あ り、 こ れ は 、 受 胎 か ら出 産 に至 る過 程 と類 似 して い る こ とか ら、 河 合(1982b)は 日本 人 の 意 識 を 「女 性 の 意 識 」 と呼 んで い る 。 英 雄 神 話 に 見 る 自我 が 、 男 性 像 で 示 さ れ た の と対 照 的 に、 日本 人 の 意 識 は、(日 本 人 の男 性 ・女 性 を 問 わず)女 性 像 で 象 徴 で き る 、 とい う の で あ る 。 河 合(1982b)は 、以 上 の 考 察 を も と に して 、 日本 人 と西 洋 人 の 意 識構 造 の 違 い を図8の よ う に モ デ ル化 した 。 西 洋 人 は、 意 識 が 無 意 識 と明 確 に 区 別 さ れ た 存 在 と して 、 そ の 中心 に確 立 さ れ た 自我 を持 っ て い る。 人 間 の 心 は意 識 も無 意 識 も含 め た 全 体 と して の 中心 、自己 を無 意 識 に持 っ て お り、 西 洋 人 に と っ て 、自 己 と 自我 が い か に関 わ りを持 つ か が 大 切 に な る 。一 方 、 日本 人 は 、 意 識 と無 意 識 の 境 界 が 鮮 明 で は な く、 意 識 も中 心 と して の 自我 に よ っ て 統 合 さ れ て い な い。 しか し、 心 の 中 心 と して の 自己 の存 在 に む し
西 洋 文 化 に お けるコ ミュニ ケ ーシ ョン
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円 は個 人を、点は意 識の 中心 を表す。円 上の実線 は意識 と無 意識 の問の明確な境 界 を表す。 ・明 確 な メ ッセ ー ジ ・雄 弁 な話 し手 ・自 己主 張 ・ 「個 」 の 倫 理(中 心 は 個 人 に あ り) 図9:西 洋 文 化 圏 に お け る コ ミュ ニ ケ ー シ ョン の モデ ル ろ よ く気 づ い て お り、 意 識 は無 意 識 内 へ の 自己 へ と収 敏 され て い る 。 意 識 と無 意 識 の境 界 が 不 鮮 明 な ま ま、 全 体 性 を志 向 して い る の で あ る。 この よ うな 意 識 構 造 の モ デ ル を、 そ れ ぞ れ の 文 化 に お け る コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン様 式 の モ デ ル に 応 用 して み た の が 図9・ 図10に 図 示 し た筆 者 の 仮 説 で あ る 。 西 洋 文 化 圏 で は 、 河 合 の 言 う、 「個 」 の 倫 理 が 支 配 的 で あ り、 複 数 の個 人 の コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン に お い て は 、 中心 は個 人 の 自我 に あ る。 互 い の コ ミ ュニ ケ ー シ ョ ンは 言 語 に よ る 明確 な メ ッセ ー ジが 主 体 とな り、 個 人 は 雄 弁 な 話 し手 と して 、 話 す こ と に重 点 が 置 か れ る 。 「個 」 と して の 自 己 主 張 が 評 価 さ れ る 文 化 圏 で あ る。(図9参 照) そ れ に対 し て、 日本 文 化 で は、 「場 」 の倫 理 が 支 配 的 で あ り、 中 心 は個 人 に で は な く、場 に あ る 。 一 人 一一人 に と っ て、 意 識 と無 意 識 の 境 界 線 が 曖 昧 な の で 、 複 数 の 人 々 の コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ンに お い て は、 個 が 強 調 さ れ る と い う よ り も、 複 数 の 人 々 の 意 識 が む しろ全 体 と して 溶 け合 っ て 、 場 とい う全 体 が 意 識 の 中 心 とな る。 そ の 結 果 、 以 心 伝 心 の コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ンが 自 然 に 生 じ、 曖 昧 な メ ッセ ー ジ を聞 き手 が 「察 す る」 こ とが 重 視 さ れ る よ う に な る。(図10参 照) この よ う な コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン様 式 の差 異 は、 「境 界 」 とい う概 念 を 巡日本 文 化 に お けるコミュニ ケ ー ション
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円は個 人を、点は意 識の 中心 を表す。円 上の点線 は意識 と無 意識 の間の相互浸透 の境界 を表す。 ・曖 昧 な メ ッセ ー ジ ・聞 き手 が 「察 す る」 ・以 心 伝 心 ・「場 」 の 倫 理 (中心 は 場 に あ り) 図10:日 本 文 化 に お け る コ ミ ュニ ケ ー シ ョン の モ デ ル る文 化 的 差 異 か ら説 明す る こ とが で き る。 つ ま り、 二 元 論 的 な 明 確 な境 界 を持 つ 文 化 圏 で は、 「母 な る もの一 無 意 識 」 か らの 自立 に よ っ て、 自我 を 獲 得 す る こ と、 そ して意 識 と無 意 識 、 自己 と他 者 な ど、 異 質 な もの を 「分 け る ・区 別 す る」 こ とが 重 視 さ れ る。 これ は 、 英 雄 神 話 に 見 る よ うな 直線 的 な発 達 とい う時 間 の概 念 で あ り、この よ う な二 元 論 的 な境 界 の概 念 こ そ 、 「個 」 の 確 立 を可 能 に して い る、 と言 え るの で あ る 。 そ れ に対 し、 日本 文 化 に お い て は、 超 ・二 元 論 的 な、 相 互 浸 透 の境 界 と い う概 念 が あ る の で は ない だ ろ うか 。 「母 な る も の一 無 意 識 」 か ら 自立 を 強 い られ る と い う よ り も、 む し ろ、 「母 な る もの一 無 意 識 」 との 融 合 が 重 視 され 、 異 質 な もの を 区別 す る よ り も内包 す る、 全 体 性 を志 向す る 意 識 状 態 が 、 相 互 浸 透 の境 界 線 か ら生 ま れ る 。 そ れ は、 獲 得 ・達 成 な どの 目的 志 向 の 意 識 で は な く、受 容 す る こ と、プ ロ セ ス を重 視 す る意 識 状 態 で もあ る 。 こ の よ うな 文 化 圏 で は、 母 な る もの か らの 分 離 は む しろ タ ブ ー で あ る と さ え 言 え る。 こ の よ う な境 界 とい う概 念 を巡 る 文 化 的 差 異 は 、 人 間 観 ・自然 観 の 差 異 に もつ なが る 。 例 え ば 、 明 確 で 固 定 され た 境 界 を持 つ 文 化 圏 は神 ・人 間 ・ 自然 とい う三 者 と の 間 に厳 密 な 支 配 関 係 の あ る 一神 教 的 な世 界 観 を作 り出図12:日 本 的 神(仏)・ 人 間 ・自 然 観(古 田 、1990:5) す 。 神 は 人 間 を作 り出 し、 人 間 は 自然 を支 配 す る 、 とい う関係 が 成 立 す る の で あ る 。(図11参 照) こ の よ う な 文 化 圏 の 物 語 で は 、 自然 界 に属 す る動 物 と、 人 間 とが 結 婚 に よ っ て 結 び つ くこ とは あ りえ な い 。 蛙 に な っ た 王 子 様 が 入 間 の お 姫 様 と結 婚 す る 、 とい う物 語 で も、 あ くまで も蛙 は 人 間が 姿 を変 え ら れ た仮 の 姿 で あ り、 元 々 は 人 間 な の で あ る。 日本 の よ う に、 相 互 浸 透 の 境 界 とい う概 念 を持 つ 文 化 圏 で は、 神(仏)・
人 間 ・自然 の上 下 関 係 は厳 正 で は な く、 お 互 い の 間 の境 界 線 は弾 力 性 が あ り、 三 者 間 に は 相 互 浸 透 ・交 流 が 見 られ る。(図12参 照) こ の よ う な交 流 性 か ら、『鶴 の恩 返 し』の よ うな 人 間 と動 物 が 結 婚 す る と い う物 語 の 存 在 も説 明す る こ と が で き る。 互 い に交 流 を 許 す 、 相 互 浸 透 の 境 界 は 、日本 の 建 築 、和 室 に も見 出 す こ とが 出 来 る。内 と外 を遮 断 す る こ と な く、 柔 らか に 区 切 る 障 子 や 襖 とい っ た境 界 線 、 そ れ ら は外 界 に 向 って 開 放 さ れ て お り、光 や 空 気 な どの 自然 の影 響 を受 け入 れ る よ うに な っ て い る 。 こ の よ う に、 境 界 とい う概 念 の 文 化 的 差 異 に注 目す る と、 前 「個 」(プ レパ ー ソ ナ ル)か ら 「個 」 の 確 立(パ ー ソ ナ ル)に 至 る とい う西 洋 的 な プ ロ セ ス と は全 く異 な っ た 心 ・意 識 の 状 態 を 、 日本 の文 化 は持 っ て い る と言 え る。 7西 洋 文 化 圏 に お け る超 「個 」(ト ラ ンス パ ー ソ ナ ル)と い う動 き 前 項 ま で に 見 た よ う に、 神 話 や 昔 話 を も と に して 考 察 し た文 化 の 心 ・意 識 の モ デ ルが 西 洋 文 化 圏 と 日本 文 化 で は 大 変 違 っ て い る こ と に注 目す る と、 ケ ン ・ウ ィル バ ー の ラ イ フ サ イ ク ル理 論 に は 、新 し い見 方 が で き る。 つ ま り、 西 洋 文 化 圏 が 達 成 して きた プ ロ セ ス は 、 前 「個 」(プ レパ ー ソ ナ ル)か ら 「個 」の 確 立(パ ー ソ ナ ル)へ と い う軌 跡 で あ っ た 。 と こ ろが 、 超 「個 」(ト ラ ン スパ ー ソ ナ ル)と は、 既 に確 立 して い る 「個 」 を超 え て、 世 界 と の繋 が り を体 験 して い こ う、 とい う動 きで あ る 。 す で に 「個 」 を確 立 した西 洋 文 化 圏 か ら トラ ンス パ ー ソ ナ ル学 が 生 ま れ た とい う こ と に着 目す る と、 父 性 原 理 に よ る 「個 」 の 確 立 か ら、 再 び 母 性 原 理 に よ る繋 が り志 向へ と、 シ フ トし よ う とす る 動 きが 読 み 取 れ る 。 個 人 individualと い う単 語 の語 源 は 「これ 以 上 分 け られ な い もの 」 と い う意 味 で あ る。「分 け る」 とい う父 性 原 理 に よ って 、 無 意 識 か らの分 離 を達 成 し、 「個 」 を確 立 す る に 至 った 、 西 洋 文 化 圏 が再 び 、 「個 」 を超 え て世 界 と の繋 が りを志 向 す る よ うに な る 、 とい う動 きが トラ ンス パ ー ソ ナ ル とい う潮 流 だ と考 え られ る の で あ る。 前 項 で 述 べ た よ うな 、 神 ・人 間 ・自然 の 間 に支 配 関係 と厳 正 な 境 界 線 の あ る、 一 神教 的 な世 界 観 か ら、 む しろ 、 相 互 浸 透
の 境 界 線 で象 徴 され る よ う な、 繋 が り志 向 の 世 界 観 へ と、 転 換 を し よ う と す る動 き と も考 え ら れ る の で あ る 。 さ らに 、 も う 一 つ の単 語 の 語 源 に 言 及 した い 。 癒 すHealと い う単 語 の 語 源 は全 体Wholeに な る とい う意 味 で あ る。 「個 」 の 確 立 に よっ て分 断 さ れ た 西 洋 的 な 意 識 が 、 再 び 、 全 体 性 を 回復 して 、 自 らを癒 そ う とい う動 き 一 そ れ が トラ ンス パ ー ソ ナ ル と い う動 き だ と言 え な い だ ろ うか 。ま た、「個 」 の確 立 が 英 雄 神 話 に見 る よ う な男 性 的 な 自我 の 在 り方 で あ る こ とか ら考 え る と、 全 体 性 を志 向 す る とい う こ とは 、 前 項 で 取 り上 げ た よ う な、 女性 的 な 自我 の在 り方 一 重 層 的 で 、 全 体 的 な 意 識 の在 り方 、 ま た 直 線 的 な 目的 達 成 志 向 の 意 識 で は な く、 む し ろ プ ロ セ ス 志 向 の女 性 的 な意 識 の 在 り方へ と 回 帰 し よ う とす る 動 き だ と考 え られ る の で は な い だ ろ うか 。 8「 英 雄 神 話 」 と逆 行 す る一 つ の 旅 路:ジ ョ ン ・レノ ンの 場 合 「日本 に い る3人 の マ マ 」 に 関 して 、 妻 の こ と をマ マ と呼 ぶ こ とは 日本 文 化 で は 珍 しい こ とで は な い こ と を 、 第3項 で は指 摘 した 。 しか し、 現 代 の 英 語 圏 で は、 自分 の 妻 の こ と を マ マ と呼 ぶ こ とは 、 通 常 ほ とん ど な い よ う で あ る 。 しか し、 英 国 人 と し て 、 自分 の 妻 の こ と をマ マ と呼 び 続 け た珍 し い人 物 が い る。 そ れ は、 元 ビ ー トル ズ の メ ンバ ー の 一 人 、 ジ ョ ン ・レノ ンで あ る 。 彼 は孤 独 な生 い 立 ち で 知 られ て い る 。 生 まれ た 時、 母 か ら捨 て られ 、 叔 母 ミ ミの元 で 育 て られ た 。 父 親 は彼 の誕 生 以 前 に行 方 を くら ま して い た 。 思 春 期 に な って 、 産 み の 母 親 で あ る ジ ュ リ ァ と 良 い友 人 に な り始 め た 頃 、 ジ ョンが18歳 の 時 に彼 の 目の前 で 、 母 、 ジ ュ リ アが 車 に は ね られ て死 ん で し ま う とい う大 変 痛 ま しい経 験 を して い る 。 また 、 筆 者 も実 感 し た が 、 英 国 の 文 化 は、 「個 」 の 確 立 を非 常 に 強 く求 め られ る文 化 で あ る 。 親 か ら早 い 時 期 に独 立 す る の は 当然 の こ とで あ り、 日本 流 の 「川 の 字 」 文 化一 母 親 ・子 供 ・父 親 が 「川 」 の字 に な っ て 眠 る一 な どか らは 遠 い 文 化 で あ る。 早 くか ら、 自立 ・独 立 ・「個 」 の 確 立 を 求 め ら れ る 英 国 、 とい う 文化 圏 に 生 まれ た だ け で は な く、 実 際 の 「母 」 あ る い
は 「母 な る もの」 か ら非 常 に痛 ま し い形 で 突 然 切 り離 され て し ま っ た ジ ョ ン ・レ ノ ン に と っ て 、 「母 性 」 へ の 憧 れ は非 常 に 強 い も の が あ っ た の で は な い だ ろ うか 。 ビ ー トル ズ の メ ンバ ー と して の 彼 の前 半 生 で は 、 ジ ョ ン ・レ ノ ン は ロ ッ ク ン ーロー ル を歌 うの に最 も相 応 しい 、 男 性 的 で荒 削 りな ヴ ォー カ ル で 知 られ て い た。 攻 撃 的 と も言 え る、 男 性 的 なス タイ ル を ビ ー トル ズ の歌 の 中 で は 貫 い て い た 。 そ れ が、 彼 の 後 半 生 、 小 野 洋 子 と 出会 い 、 結 婚 して か ら は 、 自 ら 「ハ ウス ・ハ ズバ ン ド」 と名 乗 り、 家 事 ・育 児 を 引 き受 け 、 自分 の 中 に あ る 「母性 」 に触 れ よ う と した 。 子 育 て の 中 で ジ ョン ・レノ ンが 息 子 シ ョ・一 ンの 「母 親 」 に な り、 しか も妻 ・洋 子 を 「マ マ 」 と呼 ぶ 、 とい う 行 為 の 中 に 前 半 生 に は見 ら れ な か っ た 、 「母 性 」 へ の 回 帰 が あ り、 そ う し た 彼 の 生 活 は前 半 生 と は ガ ラ リ と違 っ た 音 楽 の ス タ イ ルー 調 和 的 で 優 し く、 女 性 的 な 曲想 一 に も反 映 さ れ て い る 。 佐 藤 良 明(1989:188)は 、 ジ ョ ン ・レ ノ ン につ い て 以 下 の よ う に述 べ て い る。 「前 はXXで 、 今 はXX」 。 こ の 自 己 変 転 の 文 型 に 入 れ ら れ る ア イ デ ン テ ィ テ ィ 群 が い ち ば ん 豊 か な ロ ッ ク ・ス タ ー と い っ た ら、 こ れ も ジ ョ ン だ 。 ハ ン ブ ル グ の け ん か っ 早 い ロ ッ ク ン ロ ー ラ ー の 顔 、 キ ュ ー トな コ ス チ ュ ー ム に 包 ま れ て ピ カ ピ カ し て い る ア イ ドル の 顔 。 サ ー ジ ェ ン ト ・ペ パ ー ズ の 顔 。 「ト ウ ー ・バ ー ジ ン ズ 」の 人 を 食 っ た ヌ ー ドの 顔 。 ベ ッ ドの 中 で 「ギ ブ ・ピ ー ス ・ア ・チ ャ ン ス 」 を 歌 う髭 も じ ゃ も じ ゃ の 「行 者 」 の 顔 。1970年 の 短 髪 の 闘 士 の 顔 。 白 い 部 屋 の 白 い ピ ア ノ で 「イ マ ジ ン 」 を 歌 う 透 明 で 霊 的 な 顔 。 「ス タ ン ド ・バ イ ・ミ ー 」 を 歌 う 「人 間 」 の 顔 。 そ し て 奇 跡 的 な の は 、 こ れ ら が 「仮 面 」 で は な い こ と だ 。 一 つ 一 つ の ピ ク チ ャ ー が 、 〈 時 〉 と く 自 己 〉 の 移 り 変 わ り を あ ら わ し て い る 。ミ ッ ク ・ジ ャ ガ ー の 時 を 貫 く一 貫 性 と 、ま さ に 好 対 照 だ 。 確 か に 、40年 の 生 涯 に お い て 、 ジ ョ ン ・レ ノ ン は 、 時 に は 写 真 を 見 て も
同一 人 物 か判 然 と しな い程 、 多 彩 な 顔 を持 っ て い る 。 そ し て そ れ が 全 て 仮 面 で は な く、 素 顔 で あ る こ と は驚 くべ き こ とで あ り、 しか も 、 一 つ 一 つ の 顔 が 、 音 楽 ス タ イル の変 化 と と もに 、 自 己 の 変 転 を 表 して い る こ とは 特 筆 に価 す る。 作 家 の宮 内 勝 典 は、 ジ ョ ン ・レノ ン の生 年 が1940年 で あ り、 没 年 が1980 年 で あ る こ と を知 っ た 時 、1940-1980と い う数 字 の象 徴 性 に息 を呑 ん だ と い う。 「偶 然 と は い え、 こ れ は ち ょっ と 出 来 す ぎだ 。 初 め の 私 的 な 人 生 と して の 二 十年 間 の あ と、 あ の騒 々 しい 六 十 年 代 、 そ して 沈 黙 の 七 十 年 代 と 一 つ の コ ンセ プ トを凝 縮 し た数 字 が そ こ に 印 刷 さ れ て い る よ うに 見 え た。」 (宮 内 、1983:ユ61) ジ ョ ン ・レ ノ ンの 年 譜 を辿 っ て み る と、確 か に 「出 来 す ぎ」 と言 い た く な る ほ ど、 彼 個 人 の 人 生 が ま さ に コ ンセ プチ ュ ア ル ・アー トと して 完 成 し て い る よ う に感 じ られ る。1940年 に生 まれ 、1960年 に ビー トル ズ を結 成 す る まで の故 郷 ・リバ プ ー ル で の 私 的 な 人 生 。 ビ ー トル ズ と して全 世 界 を席 捲 した 六 十 年 代 。1970年 、 ビー トル ズ の 事 実 上 の解 散 。1975年 、 ビー トル ズ の 最 終 的 解 散 完 了 。 ジ ョ ンの35歳 の 誕 生 日(10月9日)に 、 小 野 洋 子 と の 間 に 息 子 、 シ ョー ン ・オ ノ ・レノ ン誕 生 。 以 来 、 ハ ウス ・ハ ズ バ ン ドと して 育 児 と料 理 の 毎 日を送 る5年 間 の 生 活 を始 め る。そ して、1980年12月 、 ニ ュ ー ヨー クで 凶 弾 に倒 れ 、40年 の生 涯 を 閉 じる 。 そ の死 の 直 前 に撮 影 さ れ た 写 真 が こ こ に あ る 。 これ は彼 の死 後 、 音 楽 雑 誌 『ロ ー リ ン グ ・ス トー ン」 の表 紙 を飾 る こ とに な っ た写 真 で あ る。 ジ ョ ン は こ の写 真 を 見 て 、狂 喜 し た と伝 え られ る 。 「こ れ こ そ 、 ヨー コ と僕 の 関 係 を 最 も よ く、 象 徴 し て い る 写 真 だ。」 と言 っ た とい う 。 な ぜ な ら、 こ こで は 、母 と して の ヨー コ と胎 児 と して の ジ ョ ンが 象 徴 され て い る か らだ、 と い う の で あ る 。 ジ ョ ン は生 ま れ る以 前 の胎 児 にな っ て、 母 ヨー コ に寄 り 添 っ て い る 。 この 関係 性 こそ 、 二 人 の本 質 だ と ジ ョン は語 っ た 。 こ の 写真 を見 た と き、 筆 者 は 大 変 な シ ョ ッ ク を受 け た。 胎児 と して 自分 を表 現 した ジ ョ ンが 、 この 写 真 の 直 後 に死 後 の 世 界 へ と旅 立 って し まっ た こ とは 、 次 項 で 述 べ る 、 仏 教 の 「四有 」 の 説 に よ る 円環 的 な 時 間 概 念 一 誕
生 以 前 の 時 間 と死 後 の 時 間が 一 つ に つ な が る よ うな 円環 的 時 間 体 系 一 を象 徴 して い る か の よ うに感 じ た か らで あ る。 英 雄 神 話 に象 徴 さ れ る 旅 は、 前 進 す る こ と に よ っ て 、 「個 」 を確 立 す る とい う、 直 線 的 な旅 路 で あ っ た 。 英 雄 神 話 に お い て流 れ る時 間 は 目 的 志 向 の 直 線 的 な 時 間 で あ っ た 。 そ れ は、 発 達 す る こ と ・前 進 す る こ と に価 値 を置 く文 化 に お け る 時 間体 系 で も あ る。 しか し、 次 項 で 述 べ る 「四 有 」 の 説 の よ う な循 環 す る 、円 環 的 な 時 間概 念 を持 つ 文化 もあ る。筆 者 は この 写 真 に 、 英 雄 神 話 と逆 行 す る よ うな 「母 性 回 帰」の旅 路 を見 ず に は い られ なか っ た 。 胎 児 に還 っ て 、 母 性 的 な も のへ と愛 着 す る ジ ョン ・レノ ンの イ メー ジ に、 母 性 へ の根 源 的 な思 慕 が い か に 強 烈 で あ っ た か を感 じた の で あ る。 小 野 洋 子 は ジ ョ ン よ り6歳 年 長 で あ る だ け で は な く、 「3人 の マ マ が い る 」 日本 と い う文 化 で 生 ま れ た 女 性 で あ っ た こ と も偶 然 な の だ ろ うか 。 「個 」 の確 立 を重 視 す る文 化 圏 ・英 国 で 生 まれ 、 後 に 、 日本 女 性 と結 婚 し、 妻 を マ マ と呼 び、 息 子 に と っ て の 母 親 役 をハ ウ ス ・ハ ズ バ ン ドと して積 極 的 に演 じ た ジ ョ ン ・レ ノ ンの 生 涯 は 、 「母 な る も の」 か ら悲 劇 的 な形 で 切 り離 さ れ て し ま っ た前 半 生 を 「母 性 」 に触 れ る こ と に よ っ て 癒 そ う とす る 、 「母 性 に 回 帰 す る た め の 旅 」 だ っ た の で は な い だ ろ うか 。
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9ウ ィル バ ー の"い の ち"の ラ イ フ サ イ ク ル と仏 教 の 「四 有 」 の 説: 円 環 的 な 時 間 の モ デ ル 再 び 、 ウ ィ ル バ ー の ライ フ サ イ ク ル 理 論 に戻 ろ う。 前 「個 」 か ら 「個 」 の確 立 ま で の プ ロセ ス は従 来 の発 達 心 理 学 の 対 象 で あ っ た 。 トラ ンス パ ー ソ ナ ル心 理 学 にお い て は 、 「個 」 の 確 立 を超 え て 、 超 「個 」(ト ラ ンス パ ー ソ ナ ル)と い う レベ ル に 関 心 を払 う。 ウ ィル バ ー は この プ ロ セ ス を"い の ち"の ラ イ フサ イ ク ル と称 して 、 誕 生 ・人 生 ・死 ・再 生 と い うUタ ー ンを 示 唆 した 。(図13参 照) つ ま り、誕 生 か ら始 ま って 、 自己 成 長 を 目指 す プ ロセ ス と して の 人 生 を終 え た 後 、 チ ベ ッ ト死 者 の 書 に記 述 され る よ う な 死 後49日 間 の 「バ ル ド」 と呼 ば れ る経 験 を 経 て 、 再 生 す る と い う 円環 的 な時 間 の モ デ ル を示 唆 した の で あ る。 こ の よ う な、 死 後 の 世 界 を も視 野 に 入 れ た ラ イ フ サ イ ク ル の 見 方 に お い て は 、 「個 」 の 確 立 は 人 生 の 中 の 一 つ の 過 程 に 過 ぎ な い。 ウ ィ ルバ ー の"い の ち"の ラ イ フサ イ ク ル は 、 仏 教 の 四 有 の 説 と ぴ っ た りと重 な りあ う こ と を指 摘 し た の は、西 平 直(1997)で あ る。西 平 は 、人 間の 発 達 の研 究 と して の 発 達 心 理 学 と、輪 廻 転 生 の 両 方 に 関心 を持 ち、二 つ の 領 域 は ま