租税条約と国内租税法令の抵触 (2・完) : Treaty Override を巡る英国の議論を素材として
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(2) 84. 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 2 号(2011 年 8 月). (262). 2)第二 が,意図的 で な い Treaty Override で. 関係する二重課税からの救済を与える目的で英. ある,これは, 「一方締約国が…立法を制定す. 国以外のあらゆる領域の政府との間で締結とな. るに際して…条約をオーバーライドする意図は. り,かつ,そのような協定が効力を有すること. なく,かつ,条約に反する国内法を制定するこ. が適当であると宣言する場合には,そのような. 128). とすら意識しない場合」 である.このため,. 協定は,第 3 項に従って効力を有する.. Baker の定義は,先の OECD 報告書のそれに. ⒜ 所得税. 比べて広くなっている.. ⒝ 所得又 は 課税 ゲ イ ン(chargeable gains). 2.Baker は,意図的な Override につき,英国. に関する法人税. におけるその実効性,すなわち,そのようなこ. ⒞ その領域の法律によって課せられている税. 129). とが英国で可能か否かを,以下のように論ずる. .. 1)まず,英国法の下では,一般的に,いわゆる. に相当するあらゆる税 (中略). 「後法優位原則」が 働 く.こ れ は,租税条約 が. 第 3 項:この部門の諸規定のもとで,これら. 関連する局面においても,一応,妥当する.と. の協定は,協定が下記のために規定している限. いうのも,租税条約は,英国の国内法との関連. りにおいて,いかなる制定法のいかなる規定. で,特別法としての立場を有さないからである.. にも拘らず(notwithstanding anything in any. 2)次 に,国際法 に 関 す る 二元論 に 触 れ,英. enactment),所得税及 び 法人税 に 関 し て 効力. 国において条約は,国内法による編入を受け. を有する.. る ま で,英国法 の 一部 と は な ら な い,と 説. ⒜ 所得又は課税ゲインに課せられた所得税,. く.こ こ で Baker は,租税条約 の 編入過程 を. 又は法人税からの救済. 定 め る 1988 年 所 得・法 人 税 法( Income and. ⒝ 英国に居住していない人々に対して英国での. Corporation Taxes Act 1988)第 788 条との関. 資産の処分により生じた課税ゲイン,又は英国. 連で議論を行う.後の議論とも絡むため,ここ. での源泉から生じた所得に課税をすること. 130). に同条項の関係部分を訳出しておきたい. .. ⒞ 下記の人々に帰属する所得又は課税ゲイン. 「第 1 項:女 王 陛 下( Her Majesty)が 枢 密. を決めること. 院令(Order in Council)により,そこで規定. ⅰ 英国に居住していない人々,英国に存す. 131) さ れ た 協定(arrangements) が 下記 の 税 に. るこれらの人々の代理人,支店若しくは. . 裕司訳)「英国及 び カ ナ ダ に お け る タック ス・ト リーティー・オーバーラ イ ド」村井正編『国際 シ ンポジウム 国際租税秩序の構築』93 頁(関西大 学法学研究所,1995).Baker は,こ の 意図的 な Override と,先 の 1989 年 の OECD 報告書 が 定義 している Treaty Override とを同視している.同 103 頁.なお,第 2 章第 1 節参照. 128)ベーカー・前掲注 127)100 頁. 129)ベーカー・前掲注 127)94 頁以下. 130)こ の 条 項 の 仮 訳 は,ベーカー・前 掲 注 127)104 頁 の ほ か,占部・前掲注 98)408 頁以下 及 び 本浪章市「ト リーティー・オーバーラ イ ド へ の 序章─ フィリップ・ベーカーの 所説 と 英国判例 を 中心 と し て ─」関法 51 巻 2・3 号 375 頁(2001) を参照した.なお,本稿においては,特に断りの 無い限り,制定法の制定年後の改正には触れない. 131)arrangements とは,専ら英国が旧植民. 恒久的施設 ⅱ 英国の居住者でない人々と特別な関係に ある英国に居住する人々 ⒟ 第 231 条にもとづいて,英国に居住してい る companies に よ り 英国非居住者 に 行 わ れ た 適格配分に関する税額控除の権利を当該非居住 者に付与すること (中略) . 地国 と の 間 で 締結 し た 国際約束 を 指 す と 言 う. Roxan, supra note 19, at 316 n. 22, 322 n. 43. こ こ では「協定」という仮訳を付したものの,それ以 外の箇所においては,特に区別の必要がない場合 は, 「条約」と称することとしたい..
(3) 租税条約と国内租税法令の抵触(2・完) (鈴木). (263). 85. 第 10 項:本条で制定することを提案されたい. ⑴ まず,租税条約が優位するのは,租税条約. かなる枢密院令も, 女王陛下に付託される前に,. よりも先の制定法のみ,という理解である.こ. そ の 草案 が 庶民院(the House of Commons). れ は,「後法優位原則」と 調和 す る.た だ,租. に提出されるものとする132).その枢密院令の. 税条約が,先行立法のみに優位する理由が不明. 制定を請願する庶民院が女王陛下に勅語奉答文. である.. (an Address)を呈示しない限り,その枢密院. ⑵ 次に,租税条約は,自身より先に制定となっ. 令は付託されないものとする. 」. たか,後に制定となったかを問わず,全ての国. 3.Baker が 問題 と し て い る の は,意図的 な. 内法に優位する,という理解がある.もっとも,. Treaty Override との関連で,先の「後法優位. この場合であっても,個別かつ直接に 1988 年. 原則」が妥当する範囲である.ここで Baker は,. 所得・法人税法第 788 条を適用しないような立. 以下の二点を問題としている.. 法はできる135).ただ,そうではない場合,ど. 1)第一に,前法・後法とは言うものの,租税. うなるのか,議論の余地がある.. 条約 が 絡 む 局面 に お い て は, 「後法優位原則」. 4.Baker は,これとの関連で,英国の憲法原. 133). が妥当し辛い,と指摘する. .. 理である議会主権に触れる.Baker は Treaty. 2)第二 に,先 の 1988 年所得・法人税法第 788. Override との関連で,これにつき,以下のよ. 条の規定である.同条第 3 項には, 「いかなる. うな理解を示す.「議会主権の原理とは,次年. 制定法のいかなる規定にも拘らず」 ,租税条約. 度の議会が,専ら特定の形式に限り立法化すべ. が効力を有する,との文言がある.この規定を. きであるということを,本年度の議会が,要求. どのように解釈するかが, ここでの眼目である.. することを妨げるものではない.…1988 年に. この点,Baker は,次のように説いている134).. 立法化された第 788 条第 3 項の文言があるため. . 132)この枢密院令を巡る一連の手続きは,枢 密院令が,対外問題に関する国王大権と,課税に 関する庶民院の特権との狭間で機能していること を示している.Id. at 318. な お,2006 年 財 政 法(Finance Act 2006) 第 176 条 に よ り,枢密院令 は 庶民院 の 承認 を 受 け な け れ ば な ら な い こ と と なった. Jones, TAX TREATIES: THE PERSPECTIVE OF COMMON LAW COUNTRIES, in 3 EC and International Tax Law Series: Courts and Tax Treaty Law 31, 56 n. 88 (G. Maisto ed. 2007).英国 に お い て,庶民院 は, 課税問題について特別な権限を有する.Id. at 56; Roxan, supra note 19, at 317. 133)ベーカー・前 掲 注 127)95 頁 以 下.こ の 理由を,Baker は次のように述べている.曰く,「租 税条約については,いくつかの日付が存しうる. …租税条約が署名される日付がありうるし…条約 が批准される日付がありうるし…枢密院令が発布 される日付が考えられ…租税条約が,英国国内法 として発効した日付の可能性もある.」同 95 頁. なお,これとの関連で Baker は,対モロッコ租 税条約が 1981 年に署名となったものの,これに関 する枢密院令が 1991 年まで発布とはならなかった ことを指摘している.同 96 頁. 134)ベーカー・前掲注 127)97 頁以下.. に,それ以降の議会が,租税条約をオーバーラ イドすることを妨げるものではない.…次年度 の議会が,租税条約をオーバーライドしたいと 望んでいるのであれば,本年度の議会は,次年 度の議会に対して,特別の形式で採択するよう 136) に拘束してもよい.」. 5. 最 後 に Baker は, 意 図 的 で な い Treaty Override について論ずる 137).Baker によると, これはすべて租税回避防止措置と関連し,英国 が,非居住者の稼得した収益を,居住者におき かえて課税しようとする場合の立法について生 じる.Baker は例を三つ掲げ138),ここで問題 . 135)Baker は別のところでこれをすこし言い 換えて, 「 『 788 条により締結されたいかなる条約 の規定にかかわらず』新法が適用される. 」として いる.ベーカー・前掲注 127)105 頁. 136)ベーカー・前 掲 注 127)98 頁.もっと も Baker は, 「今のところ,この議論は,大部分が推 測の域にある. 」と述べている.同. 137)ベーカー・前掲注 127)100 頁以下. 138)こ の 内,Baker は,英国 の 従属外国法人.
(4) 86. (264). 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 2 号(2011 年 8 月). となっている法文はいずれも,租税条約に優位. 第 2 款 Baker 報告の検討. するとは定めていない,と説く139).. 第 1 項 その後の刊行物による補足. 6.なお Baker は,時間の経過と共に租税条約. 1.以上が 1994 年シンポジウムにおける Baker. が改訂となれば,Override が解消していくこと. の 報告内容 で あ る.Baker は,自国 の 憲法体. も指摘している.これに付言して Baker は,可. 制の特徴である国際法と国内法の二元論に触. 能な限り英国の国際法上の義務違反を引き起こ. れつつも,Treaty Override の問題をそれだけ. さないよう法律を解釈すべき,という英国の制. に矮小化していない.寧ろ Baker は,Treaty. 定法解釈原理に言及する.意図的でない Treaty. Override と の 関連 に お い て,「後法優位原則」. Override に お い て は,租税条約 を Override す. の妥当範囲そのものに疑問を呈す.すなわち,. るという立法上の意図が不明瞭である.よって,. 先法・後法とは言うものの,それをいつの時点. ここにおいて, 「条約と対立させることなく…. で判断するのか.1988 年所得・法人税法第 788. 法律を解釈することが可能であるかどうかにつ. 条の規定に基づき租税条約が優位するのは,ど. 140) いて,公然と残る問題がある. 」 と結んでいる.. のような国内租税法令なのか,といった問題意 識を有する.このように,Baker の指摘は,英 国法の下で Treaty Override を考察するための. . 立法を掲げている.この税制は,1984 年に成立し た.その上で Baker は,1984 年 8 月,内国歳入庁 が,租税優遇法人から条約上の便益を排除すべく, 軽課税国(地域)と の 租税条約改正案 を 議会 に 提 出した旨,指摘している.ベーカー・前掲注 127) 105 頁. なお,通常であれば,各国は,軽課税国(地域) との租税条約締結を避けるものの,英国は,植民地・ 旧植民地を含む若干の軽課税国(地域)との間に 租税条約を有する.同 101 頁.この点については, See Bartlett, infra note 141, at 76. ち な み に 我 が 国 は,最近,バ ミューダ と 租税協定 を 締結 し た.社 団法人日本租税研究協会『日本・ク ウェート 租税 条約(2010 年 2 月 17 日署名/平成 22 年条約第 9 号) 日本・バミューダ租税協定(2010 年 2 月 1 日署名/ 平成 22 年条約第 4 号)』(社団法人日本租税研究協 会,2010). 139)Baker は,意図的でない Treaty Override を,租税回避防止準則との関連で捉えており,こ の点は注目に値する.別のところで Baker は,「私 が考えますに,条約がたとえば一つの国に対して 非常に負担が重すぎる場合に,オーバーライドと いう手段をもって,たとえば税金を増やそうとす るようなことがあるのではないかと思います.こ の歳入を増やすということと,租税回避条項とい うのは,非常に密接な関係があると思います.」と 述べている.谷口ほか・前掲注 126)122 頁[ベー カー発言].もっとも,租税回避防止の一環として 租税条約を Override することに対しては,1989 年 の OECD 報告書をはじめ,批判があることは,既 に見た通りである.第 2 章小括. 140)ベーカー・前掲注 127)103 頁.. 基本的視座を提供している. 2.Baker は Treaty Override を,意図的 な そ れと意図的でないそれとに分けて議論してい る141).Baker は,後の著作142)においてこの点 を深化させ,まず,より一般的な結論として, 大要,以下のように述べている. 1)まず,意図的な Override においては,後法 優位原則や租税条約を特別法とみなすといった 方法で,租税条約と国内法のいずれが優位する かを判断する. 2)次に,意図的でない Override においては, 問題となっている国内法と租税条約との調和を 図る. . 141)Treaty Override の 定義 を 述 べ る 英国 の 論者として,他にも Bartlett がいる.Bartlett, The Making of Double Taxation Agreements, 1991 B. T. R. 76, 83─84. Bartlett は,Treaty Override として,以 下の五つの段階を掲げる. ⑴ 国内法令による一方的な条約の修正(相手国 は受け入れ可能) ⑵ 租税条約の具体的規定の Override ⑶ 法の適用に関する従前の見解の修正 ⑷ 一般的な Override(国際法違反ではない) ⑸ 一般的な Override(国際法違反) 142)P. Baker, Double Taxation Conventions (THOMSON SWEET & MAXWELL)F─3 to F─4 (June, 2001)..
(5) 租税条約と国内租税法令の抵触(2・完) (鈴木). (265). 87. 3.そ の 上 で,英国 に お け る 両者 の 帰結 を,. 2)と こ ろ が,こ の 第 788 条 の 規定 を 明示的. 1988 年所得・法人税法第 788 条 と の 関連 で 以. に 排 す る 形 で 国内立法 を 行 え ば(意図的 な. 下のように述べる.. Override),その国内立法が租税条約に優位す. 「議会主権に関する正確な立場というのは,. る.もっとも,そのような国内立法は,国際法. 議会 は(1988 年所得・法人税法── 注)第 788. 違反となる146).. 条に基づき成立する協定の一切に関わらず機能. 3)反面,そうではない国内立法は,租税条約を. することとなる国内法令を制定することで,明. Override できない(すなわち,意図的でない. 示的かつ意図的に条約を override できる,と. Override によって,租税条約に優位すること. いうことである.もっとも,法令が明示的又は. はできない).. 明白な含意でもって第 788 条を overrides する. 第 2 項 他の論者の見解による補足. のでなければ,第 788 条第 3 項の文言に従い,. 1.以上,シンポジウムにおける Baker の報告. 条約がそれより後に成立した国内法に優位する. を,その後の刊行物により補足してきた.こ. こととなる.このことは,制定法は国際法の下. のような Baker の理解は,他の英国の論者も,. で生じる義務違反を引き起こさないよう解釈す. 概ね支持している147).以下,他の論者の見解. べし,という制定法解釈の一般原理と整合的で. を参考に,Baker の議論につき,次の二点を補. 143). ある. 」. 足することにしたい.. 4.先 に 見 た と お り,1988 年所得・法人税法第. 1)第一に,国内租税法に対する租税条約の優. 788 条第 3 項 は,英国 が 締結 し た 租税条約 が. 位を,結果的に判示した先例(Ostime 事件148)). 「いかなる制定法のいかなる規定にも拘らず」. が あ る.こ の 事件 は,1945 年第二次財政法第. 効力を有する,と規定している.この規定は,. 51 条の下,1918 年所得税法と 1946 年署名の対. 1945 年第二次財政法第 51 条第 1 項として初め. オーストラリア条約の適用関係が争いになり,. て制定となり,後に,1952 年所得税法第 347 条. 後者を適用する,との結論が出た149).論者の中. 第 1 項となった144).Baker が問題としているの. には,この事件を額面通り捉え,英国法の下で,. は,この規定の解釈である.すなわち,英国に おいて租税条約が優位するとして,それは租税 条約締結時点で存在する国内法のみに優位する のか.それとも,それ以降に成立する国内法に も優位するのか.さらに,このような問題提起 は,国会主権との関連でどのように考えるべき なのか.このような問いかけに関し,Baker が 示した回答は,以下のように整理できる145). 1)まず,英国において租税条約は,原則とし て, あらゆる国内租税法 (成立時期を問わない. ) に優位する. . 143)Id. at F─8. 強調省略. 144)Id. at F─7 n. 2.「いかなる…」の文言も,1945 年法 か ら 存在 し て い る.な お,ベーカー・前掲注 127)105 頁も参照. 145)Baker, supra note 142, at F─8 n. 2.. . 146)Id. at F─11. この理由付けとして Baker は, 租税条約は,国内法への編入後も,国際法として の地位を失わないからである,としている.Id. なお,この点,Baker は,1994 年のシンポジウ ムの時点においては,明言を避けていた.ベーカー・ 前掲注 127)102 頁以下. 147)J. Schwarz, Tax Treaties: United Kingdom Law and Practice 17(2002) ; Roxan, supra note 19, at 322. Roxan の論文の 339 頁は,意図的でない Override は発生しづらい,と述べている. なお,Jones, supra note 132, at 55 n. 85 は,この 理は,英国が 1945 年に米国との間で一番初めの包 括的租税条約を締結した時から妥当してきた,と している. 148)Ostime(H. M. Inspector of Taxes)v. Australian Mutual Provident Society, 38 T. C. 513 (H. L. 1959) , aff ’d, 38 T. C. 505(C. A. 1958) , aff ’d, 38 T. C. 501(Ch. D. 1957). 149)事件 の 概要 は,お よ そ 次 の 通 り で あ る. Xは 1849 年にオーストラリアの New South Wales 州で設立となり,同州の Sydney に本店を有する..
(6) 88. (266). 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 2 号(2011 年 8 月). 租税条約がそれと抵触する国内租税法に優位す. 約の関係であった.この点を捉え,本件は,租. ることを示した判決として,観察する者がいる 150).. 税条約の優位一般を認めたのではなく,租税条. ただ,本件で問題となったのは,1918 年の国内. 約がいわゆる後法として,先法たる国内法に優. 租税法令と,1946 年署名の対オーストラリア条. 位したに過ぎない,と言う論者がいる151).寧ろ,. . 設立以来,Xは生命保険業を営んでおり,本件当 初 の X の 準 拠 法 は Australian Mutual Provident Society’s Act で あった.英国 は X の 事業展開先 の 一つであり,Xの支店がロンドンの King William Street に 所在 し て い る.な お,所得課税上,X は 英国居住者ではない. X は 1918 年所得税法 の 規定 に 基 づ き,X の 生 命保険基金への投資から生ずる所得に対するXの 持分 に つ き,英国 で 所得税 の 査定 を 受 け て い た (1952 年度 か ら は,1952 年所得税法第 430 条 の 規 定に基づく査定を受けていた).なお,1946 年度よ り前の年度において,Xは 1920 年財政法第 27 条 の定めるところに従い所定の税額控除(Dominion Income Tax Relief)を受けていたものの,当該年 度以降は 1946 年署名の対オーストラリア条約及び 1945 年第二次財政法第 51 条に基づき,かかる税額 控除を受けていない. 争いの対象となったのは,1947 年度以降の七年 度におけるXの英国における所得税の査定である. Xは,当該七年度における英国での所得税の査定 は,対オーストラリア租税条約に基づき違法であ る,と主張して出訴した.Xの主張を敷衍すると, 次の通りである.①対オーストラリア租税条約は, 1945 年第二次財政法第 51 条の規定により,「いか なる制定法のいかなる規定にも拘わらず」,英国に おける所得税課税において効力を有する.②同条 約の第 3 条によれば,本件のように英国所在の恒 久的施設を通じて英国で営業又は事業を行うオー ストラリアの企業は,その産業上又は商業上の利 得(the industrial or commercial profits)に つ い て,当該恒久的施設に帰属する範囲でのみ英国で の課税に服する(当該帰属する利得とは,当該恒 久的施設が同一の又は類似の活動に従事する独立 の企業であれば英国で稼得すると考えることので きる産業上又は商業上の利得をいう).③一方,上 記 1918 年所得税法及 び 1952 年所得税法 の 規定 が 課税対象としているのは,あくまでも名目的・様 式的金額(notional or conventional figures)であり, 対オーストラリア条約の上記規定が定める産業上 又は商業上の利得とは何ら関係がない. 貴族院に至る迄,英国の上記国内所得税法と対 オーストラリア条約との間における抵触の存在を 認め,本件において対オーストラリア条約が優位 する,として,Xを勝訴させた. 150)1970 年所得・法人税法第 497 条 と の 関連 で,Oliver, infra note 158, at 391. な お,Schwarz,. 租税条約優位との判示を,国会主権の原理との 関連で,誤謬に基づくものである,と,この論 者は説くのである152). 2) 第 二 に,1988 年 所 得・ 法 人 税 法 第 788 条 3 項が,先に見た通り153), 「この部門の諸規定 のもとで」と定めていることとの関連で,議 論 が あ る.す な わ ち,同規定 が 存在 す る 同法 第 18 部 に お け る 規定 の 改廃 は,租税条約 を Override する,というのである154).このような Override を認めた先例として,Sun Life Assurance . supra note 147, at 208 は,この論点を支持する先例 として,General Reinsurance Co. Ltd. v. Tomlinson (H. M. Inspector of Taxes) ,48 Tax Cas. 81(Ch. D. 1970)を あ げ て い る.こ の 事例(裁判官 Foster J./Talbot Q. C./Oliver)は,対 オ ラ ン ダ 租税条約 が 1952 年所得税法に優位すると判示し,その根拠とし て,租税条約の優位を定める同法第 347 条と Ostime 事件とを挙げている.その上で,オランダ法人たる 原告が英国に有する支店に配分すべき利得は,対オ ランダ租税条約第 3 条第 2 項及び第 3 項の下で適切 に算定済みであると判示し,原告を敗訴させた. 151)Montrose, THE OSTIME CASE, 1960 B. T. R. 184, 192. See also Baker, supra note 142, at F─ 7 n. 1. な お,Schwarz, supra note 147, at 15 も, Ostime 事件においては,制定法が租税条約の前に できたものであることを重視している. 152)Montrose, supra note 151, at 193. 153)本章本節第 1 款. 154)Jones, Tax Treaty Interpretation in the United Kingdom, in 3 EUCOTAX S eries on E uropean Taxation Tax Treaty Interpretation 357, 360 (M. Lang ed. 2001); Roxan, supra note 19, at 339. この Jones の論稿は,同じ箇所において,租税条 約が英国において国内的効力を有するための前提 として,以下の二つをあげている. 1)1988 年所得・法人税法第 18 部の規定は,租 税条約に優先する. 2)租税条約 は,もっぱ ら 各種租税 に 対 す る 救 済措置を定めるのみであり,その適用によって税 額が増加することはない. こ の 二 番 目 の 点 に つ い て は,Morton and Sykes, United Kingdom, in International Fiscal.
(7) 租税条約と国内租税法令の抵触(2・完) (鈴木). (267). 89. 事件155)が あ る.こ の 事件 は 1970 年所得・法. 手国の同意がなく,一方的立法で租税条約を修. 人税法第 497 条156)の下,同項が存在する部門. 正することの可否という命題につき,まず,租. における諸規定が,対カナダ条約と異なる取扱. 税条約上の救済規定の拡大は可能であるとする 160).. を定めることで,同条約に優位する,との判断. 次に,租税条約の有する課税減免規定の排除は. を下した. 157). .. 可能か,という問いかけを行う.Oliver による. 第 3 項 Oliver の批判. と,この場合において 1970 年所得・法人税法. 1.以上,Baker の見解を補足してきた.ここ. に基づき租税条約が優位するのは,国会主権と. で は,Baker の 見解 と 対立 す る Oliver の 見解. の関係から,条約発効時に存在していた国内法. をみておきたい158).主な対立点は,1988 年所. のみである.一方,明確な制定法の文言で条約. 得・法人税法第 788 条の下,英国において租税. の内容を Override することは,可能であると. 条約が優位する範囲である.. いう161).. 2.もっと も,Oliver の 見解 は,1970 年所得・ 法人税法下 で の も の で あ る159).Oliver は,相 . A s s o c i a t i o n , 95a C a h i e r s D e D r o i t F i s c a l International Tax Treaties and Tax Avoidance: Application of Anti-Avoidance Provisions 805, 807 (2010).なお,租税条約一般との関連では,鈴木・ 前掲注 4)251 頁及びそこで引用の文献も参照. 155)Sun Life Assurance Co. of Canada v. Pearson (H. M. Inspector of Taxes) , 59 Tax Cas. 286(Ch. D. 1984) , aff’d, 59 Tax Cas. 320(C.A. 1986). 156)1945 年第二次財政法第 51 条と同様,1988 年所得・法人税法 788 条 に 相当 す る.こ の 事件 の 先例性は,1988 年所得・法人税法の下でも機能し ているようである.Jones, supra note 154, at 360 n. 7; Roxan, supra note 19, at 339 n. 113. 157)事件 の 概要 は,お よ そ 次 の 通 り で あ る. 1970 年所得・法人税法第 498 条第 2 項,第 500 条 及 び 第 502 条 は,英国 に とって の 非居住者・外国 法人に対し,英国での税額控除を認めていなかっ た.本件の原告は,英国支店を通じて事業活動を 行っているカナダ法人である.原告は,これら国 内法の規定が,無差別取扱いを定める租税条約の 規定(1978 年署名の対カナダ条約第 22 条)に反す るとして,出訴した. 高 等 法 院 の 裁 判 官 Vinelott は,1970 年 所 得・ 法人税法第 497 条 に よ れ ば,租税条約 は「こ の 部 門の諸規定のもとで」効力を有するのであり,本 件で問題となっている国内法の諸規定は,まさに 「この部門の諸規定」に該当する点を指摘する.そ の上で,これら国内法の諸規定は,対カナダ条約 に優位する,と判示した(なお,1966 年署名の対 カナダ条約及び租税条約に国内的効力を付与する 1952 年所得税法第 347 条第 1 項 と の 関連 で も,同 じ事が言える,との判示がある). 158)Oliver, DOUBLE TAX TREATIES IN UNITED KINGDOM TAX LAW, 1970 B. T. R. 388, 400─01. . 第 2 節 実 証 1.以上,1994 年の Baker 報告を中心に,その 後の展開と他の論者の見解を見てきた.事例を 検討する前に,これまでの議論の流れを振り 返っておきたい. 1)通説的見解 で は,1988 年所得・法人税法第 788 条によると,英国において租税条約は,あ らゆる国内租税法に優位する.もっとも,これ に対しては,租税条約は,その発効時点で存す る国内租税法にのみ優位する,という見解もあ る. 2)一方,第 788 条の規定を明示的に排する形 で国内立法を行えば,租税条約に優位できる. . 159)よって,すぐ上で見た同法 497 条が,Oliver の議論の対象である. 160)同旨 を 述 べ る も の と し て,BracewellMilnes, SUMMARY OF PROCEEDINGS OF THE S E M I N A R ʻ TA X T R E AT I E S A N D D O M E S T I C LEGISLATION’, in T ax T reaties and D omestic L egislation P roceedings of A S eminar H eld in RIO DE JANEIRO in 1989 D uring the 43 rd Congress of the International Fiscal Association 45, 50(1991). 161)Oliver, supra note 158, at 404. な お, こ の 点 に 関 し,1970 年所得・法人税法 と の 関連 で Oliver と同意見を述べるものとして,Jones, Berg, Depret, Ellis, Fontaneau, Lenz, Miyatake, Roberts, Sandels, Strtobl, Ward, THE INTERPRETATION OF TAX TREATIES WITH PARTICULAR REFERENCE TO ARTICLE ( 3 2)OF THE OECD MODEL-I, 1984 B. T. R. 14, 26 n. 48[herinafter cited as Jones et al.]..
(8) 90. 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 2 号(2011 年 8 月). (268). これは,英国において後法優位原則が妥当して. その翌日,当該普通株にかかる中間配当(税引. いることの帰結である.. 後)を受領した.当該中間配当は全額,Xが当. 3)反面,そうではない国内立法は,租税条約. 該普通株を取得する以前にAとBが稼得した利. に優位できない.これは英国において,制定法. 得を原資とするものであった.. は可能な限り国際法に反しないよう解釈すべ. 2)Xは,対エール条約(1926 年締結)に英国. し,という原理が確立しているためである.. 法上の効力を与える 1952 年所得税法第 349 条. 2.以上を念頭に置いた上で,Treaty Override. に基づき,当該中間配当にかかる租税の還付を. に関する英国の代表的な事例を,英国の論者の. 求め,特別委員会に不服申立を行った(なお,. 所見と共に見ていきたい.. 対エール条約は,英国とエール双方の議会の確. 1)ま ず,租税条約 を Override す る と い う 国. 認(confirmation)を 必要 と し,当該確認立法. 内租税法の明白な意図を認め,当該国内租税法. が存続する限りにおいてのみ,効力を有し続け. が租税条約に優位すると判示した Collco 事件. る).英国女王 は,X の 主張 を 認 め な かった.. と Woodend 事件を見る.. それは,以下の理由からである.① 1955 年第. 2)次 に,意図的 な Override た る 国内法制定. 二次財政法第 4 条第 2 項 は,「制定法 の 下 で 所. の契機となった事件として,Padmore 事件を. 得税の免除を受けるべき者」が,今回のような. 見る.. 配当受領に関しては課税除外の対象とはならな. 第 1 款 Collco 事件と Woodend 事件. い旨,定める.②Xはこれに該当する者である. 1.ここでは,Collco 事件と Woodend 事件を見. から,当該中間配当に対する租税の還付はない.. ていく.後に見るように,両事件は英国におい. ③この規定は,Xのようにエールに居住してい. て,後法たる国内法が前の租税条約を Override. る法人に対しても,適用し得る.. するという命題の裏付けとなっているようであ. 3)以下,審理過程を見ていこう.. る162).. ⑴ 特別委員会(Special Commissioner). 2.まず,両事件の概要をまとめて整理する.. 以下のように述べて,Xの訴えを認容した.. 次に,両事件の共通事項(とりわけ,両事件の. ①先 の 1955 年法 の 解釈 に よって,英国議会. 位置付け)を確認する.その次に,各事件の個. の意思を,当該議会の管轄権外の者に押しつけ. 別論点につき,論者の見解を見る.. ることがあってはならない. 第 1 項 Collco 事件. ②明示的規定が存在しない限り,条約違反が. 1.大要,以下のような事件である.. 起こってはならないので,1955 年法は限定的. 1)X は 法人 で あ り,エール(アイルランド). に解釈しなければならない.. に居住している.Xは 1957 年,エールにて登. ③Xはエールに居住しているから,1955 年. 録となった.同年,Xは,英国法人たる訴外A. 法の対象ではない.. 及び訴外Bが発行した普通株の全てを購入し,. ⑵ 高等法院大法官部(裁判官 Vaisey). 163). . 162)ただ,後にみるように,両事件のこのよ うな位置付けには,異論もある. 163)INLAND REVENUE Commr’ v. COLLCO DEALINGS, LTD., 39 Tax Cas. 526(H. L. 1961), aff ’d, 39 Tax Cas. 518(C. A. 1960), aff’d, 3 All E. R. 351(Ch. D. 1959).こ の 事件 に 関 し て は,本浪 章市『英米国際私法判例 の 研究 国際租税法序説』 117 頁以下(関西大学出版部,1983)にも紹介があ る.. 以下のように述べて,特別委員会の判断を破 棄した. ①「制定法の文言は,当該制定法の文言が言 わんとすることを意味しなければならず,当該 意味は当該解釈の暗黙の結果に関係なく確証さ れなければならない」.「議会がアイルランドに 居住 し て い る 者 を(1955 年法─注)に よって 課されている制限から排除することを意図した.
(9) 租税条約と国内租税法令の抵触(2・完) (鈴木). (269). 91. のであれば,当該意図の効力を生ぜしめるため. は,裁判官 Simonds と Reid の意見のみ紹介).. の明確かつ単純な文言をわずかに挿入するのが. ①裁判官 Simonds の意見. 最も簡潔な方法であったであろう. 」. ・「制定法が明白であれば,たとえ国際法に反. ②「制定法が明確であれば,たとえ当該制定. するとしても,その規定に従わねばならない. 」. 法が国際法,又は付言するならば,国際条約や. ・「Xは条約に基づく権利を有さない.Xの. 国際協定に反するとしても,当該制定法の規定. 権利は,条約を確認し,当該条約に法令の効力. は拘束力を有さねばならないと信ずる. 」 「条. を与える議会の法から生じる.」. 約の確認には,当該条約における文言が不確か. ・ 「国際礼譲や国際法の規則のいずれも,主. であり,将来の立法によって変更されうるとの. 権国家 が 自己 の 歳入法(revenue laws)の 広範. 提案が含まれるということが重要である.それ. な濫用を防止するため,又は当該国家の市民が. 故,条約における文言は(1955 年法─訳者注). 外国人よりも有利な待遇を受けることのないよ. によって変更されたのである. 」 「本件の場合,. うにするために適当であると考える手続を踏む. 当該条約は制定法に変型され,制定法の一部と. ことを禁止する目的で主張され得ないと答える.. なっている.故に当該条約が有した優位的地位. 制定法の純粋な文言が,まさに(国際礼譲や国. が失われ…る場合,当該条約は明らかに(1955. 際法の規則を遵守する目的で─注)無視される. 年法─訳者注)によって適格性を与えられると. よう要求することは,議会が耳を貸そうとしな. 考えられよう. 」. い無節操である. 」. ⑶ 控訴院民事部(裁判官 Evershed). ②裁判官 Reid の意見. 以下のように述べて,Xの訴えを棄却した.. 「条約の違反が個人に対する損失を引き起こ. ①「議会が,一定の率の租税がある種類の財. すにも関わらず,適切に当該違反に対して不平. 産に関して課されると決定する場合,又は逆に. を唱える権限を有する唯一の者は,条約の他方. …当該租税を被る者が免除を受ける権限を有す. の 当事国 で あ る.当該他方 の 当事国 が 違反 に. ると決定する場合,議会は,当該議会が英国議. よって 害 さ れ た 場合 は,疑 い な く,国際礼譲. 会の適切な管轄権の外で立法を試みているとい. の違反であり,議会は国際礼譲に反する立法を. う意味で,外国人に対して管轄権を行使してい. 意図しなかった旨の推定が存在する.しかしな. るとは言えまい. 」. がら,必ずしもあらゆる条約の違反が国際礼譲. ②「 (対エール条約─注)の文面においては,. の違反であるとの推定が存在するとは思われな. 当該条約の効果及び継続的効果は,二国間の法. い.条約が締結された後に状況が変化するやも. 令による確認に拠る….Xの権利(租税の免除. 知れず,条約の他方の締約国が反対しない旨の. を受けるという─注)は…英国の制定法におけ. 期待において一方的行為を行うことは合理的で. る当該権利に効力を与える規定に依拠せねばな. あろう.実際,他方の締約国は協議に応じてき. ら な い. 」 「 (1952 年法第 349 条─訳者注)第 2. たのであり,一切反論を述べてこなかったので. 項は,疑いなく実に明らかに(対エール条約─. ある.」. 訳者注)が効力を有すると規定している. (1952. 第 2 項 Woodend 事件164). 年法─訳者注)第 349 条第 2 項が与えた制定法上. 1.大要,以下のような事件である.. の権利の一切の修正が,必ず(対エール条約─. 1)Xはセイロンにおいて農業事業を行う法人. 訳者注)の…継続的確認と矛盾することになる とは全く思われない. 」 ⑷ 貴族院 五人の裁判官一致でXの訴えを棄却(以下で. . 164)WOODEND(K. V. CEYLON)RUBBER AND TEA CO. LTD. v. COMMISSIONER OF INLAND REVENUE, 1970 W. L. R. 10(P. C. 1970)..
(10) 92. (270). 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 2 号(2011 年 8 月). である.Xの事業は英国で支配を受け,本社も. いて(枢密院令第 18 条における─注)『その他. 英国に存在していたため, Xは所得税の目的上,. の』租税を語れば…少なくとも,居住法人が課. セイロンには居住していない,との扱いを受け. せられる所得税以外の所得税が含まれるものと. ていた.. 思われる.居住法人に対しては,当該法人が海. 2)1959 年第 13 号改正所得税法第 53 条C は,. 外に送金を行うというのみでは追加的所得税が. 所得税査定 の 前年 に お け る 送金時 に,30% 余. 課せられない.非居住法人に対しては,課税が. りの追加的租税を課す旨,定める.Xはかかる. なされるのである(強調削除─注).…非居住. 追加的租税の賦課が,1950 年セイロン所得税. 法人にとって特別なこの追加的租税を,(枢密. 二重課税救済枢密院令 (対セイロン条約を編入). 院令─注)第 18 条の意義における『その他の』. に違反する,として出訴した.問題となった枢. 租税と解釈することが,(枢密院令─注)の目. 密院令は,国外払いの配当の原資に対する源泉. 的にとってより適切であると思われる.」. 課税を免除する規定(第 6 条)と,無差別取扱. ③その上で,1959 年法が枢密院令に優位す. いを定める規定(第 18 条)である.. る,と判示した.曰く,「(枢密院令─訳者注)は,. 3)Xの訴えは前審手続を経てセイロン最高裁. 『その他の租税等』を禁じている.(1959 年法. 判所(the Supreme Court of Ceylon)の判断を. ─注)は,当該『そ の 他 の 租税』を,第 53 条. 待つこととなった.同裁判所はXの訴えを認容. Cに基づき課する.…しかしながら,(枢密院. したため,これを不服とした内国歳入庁が枢密. 令─注)がそれでも優位するとの見解に好まし. 院に上訴したところ,枢密院は以下のように述. いよう考慮することが可能であろうか.…1959. べて,結果的にXの訴えを退けた.. 年にセイロンにおいて行われているような租税. ①まず,枢密院令第 6 条との関連では,問題. 制度における斬新な変化において,居住法人. となっている 1959 年法との間に抵触は存在し. は,当該法人の利得に対する 45 パーセントの. ない,と判示した.曰く, 「 (30 パーセント余. 租税に加えて,支払われた総配当の(30 パー. り─注)の特別税は…解釈上の問題としては,. セント余り─注)と等しい額の租税を,その利. 当該法人の利得に対する 45 パーセントの租税. 得についてさらに課されることとなったのであ. に加えて課される追加的租税である.配当はあ. る.非居住企業が海外に送金を行う場合,当該. る意味で,特別税の対象ではなく,当該特別税. 企業の利得にも追加的租税が課されるのは当然. が課される要件である.…セイロンに居住して. である.セイロンにおける莫大な商業上の利益. いない法人が海外送金の際に支払ってきた追加. を有する一方の国の非居住者をこの追加的租税. 的租税は, (枢密院令第 6 条が禁ずる─注) 『課. から免除するという意図は,驚くべきものであ. 税』であるとは言い得ない」 .. ろう.」「(1959 年法─注)は非常に包括的な性. ②次 に,枢密院令第 18 条 と の 関連 で は,. 質を有する制定法であり,セイロンの租税法に. 1959 年法との間に抵触が存在する,と判示し. おける数多くの斬新な変化を導入する制定法で. た.曰 く, 「 (枢密院令─注)の最初の条項は,. ある….当該措置を準備する過程において,(枢. 当該枢密院令の主たる対象である租税は,英国. 密院令─注)のごとき条約が完全に見落とされ. において課される所得税(付加税及び利得税を. てきたということは起こり得まい.…立法者は. 含む. )並びにセイロンにおいて課される所得. …その文理すべてが意味するところを所与とす. 税及び利得税であると規定している.利得税は. る場合,(1959 年法─注)の規定が(枢密院令. …1958 年 4 月 1 日 か ら 廃止 さ れ た.爾来,救. ─注)と矛盾しないと考えていたであろう.…. 済 の 目的上, (枢密院令─注)が 唯一関連 す る. (1959 年法─注)第 53 条Cが…(枢密院令─注). セイロン租税は所得税であった.この文脈にお. の範囲にある非居住法人の非常に重要な排除を.
(11) 租税条約と国内租税法令の抵触(2・完) (鈴木). (271). 93. 具現化しているものとして解釈されなければな. 両事件の意義をより広く捉える見解もある169). らないとの結論を正当化するのに十分な証拠を. とはいえ,Baker は両事件によって問題が根本. 一切見つけることができない. 」. 的に解決した訳ではない,と説く170).. 第 3 項 検 討. 2.次に,Collco 事件について,識者の見解を. 1.以上 が Collco 事件 と Woodend 事件 の 概要. 見ていこう.. である.各事件を個別に検討する前に,両事件. 1)本件の特徴は何と言っても,国際法との関. の位置付けに関する議論の分岐を見ておこう.. 係で国内法をいかに解釈するのか,という争. 1)両事件の通説的理解は,次の二つに分けて. 点 が,租税条約 と 国内租税法 と の 関係 を 軸 と. 説明できる165).. して問題となったことである171).これはすぐ. ⑴ 両事件は英国において,後法たる国内租税法. れ て,国際法的 な 争点 で あ る172).一方 に は,. が前の租税条約を Override することを認めた.. 国内法 は,可能 な 限 り 国際法違反 を 構成 し な. ⑵ そ の 場合,当該国内租税法 が 租税条約 を. いよう解釈すべし,という原理がある.これは,. Override する意図は,明白でなければならない.. 先 に 見 た 173)「合致 の 推定」の 下,国内裁判所. 2)補足しておこう.両事件で問題となった国. に対する国際法上の要請としても,さらには,. 内法 は,英国 が 締結している租税条約を明文 で 以 て Override し た 訳 で は な い.両事件 は, 後法たる国内法が租税条約を Override する意 図を有する点を捉え,かかる意図が明白であ るとして,当該国内法を優位させたのである. Oliver はこの点を意識し,両事件における争点 を,かかる後法の解釈に関わるものである,と 総括している166). 3)この点,Baker は,両事件の位置付けに関 する通説に反対している.そもそも Baker は, 両事件を意図的でない Override の事例として 位置付けている167).その上で Baker は,両事 件において租税条約に効力を与えた国内法,す なわち,1952 年所得税法と 1950 年二重課税救 済枢密院令の定めに注目する.これらの規定 は,1988 年所得・法人税法第 788 条 と は 異 な り,租税条約が「いかなる制定法のいかなる 規定にも拘らず」効力を有する,と定めてい ない168).この点に関しては,Oliver のように, . 165)Baker, supra note 142, at F─6. ベーカー・ 前掲注 127)97 頁. 166)Oliver, supra note 158, at 404. 167)Baker, supra note 142, at F─6. この点に関 し て は,Oliver, supra note 158, at 404 も 同様 の 見 解のようである. 168)ベーカー・前掲注 127)97 頁.先にも述べ. . た通り,この「いかなる…」の文言は,1945 年財政 法から存在した.本章第 1 節第 2 款第 1 項.Baker, supra note 142, at F─7 n. 2 に よ る と,こ れ の 前身 で あ る 1930 年財政法第 17 条 は,条約 は,財政法 に立法されるのと同じように効力を有するものと する,とのみ定めていたという. 先にも見た通り,Collco 事件において対エール 条約を編入したのは,1952 年所得税法第 349 条で あり,同法第 347 条ではない.なお,Woodend 事 件で対セイロン条約を編入した国内法令は, 「いか なる…」と類似の文言を備えていたものの,同事 件の枢密院の判示には,その文言に言及がない, と Baker は指摘している.Id. 169)Oliver, supra note 158, at 404 は,1970 年 所得・法人税法第 497 条 の 下 に お い て,両事件 の 判示が当てはまる,と述べている.これは先述の 通 り,Oliver が,同条 と の 関連 で,租税条約 が そ の発効時点の国内租税法にのみ優位する,との見 解を有することと関連している.本章第 1 節第 2 款第 3 項. 170)Baker, supra note 142, at F─6 to F─7. なお, See also Schwarz, supra note 147, at 17. 171)ベーカー・前掲注 127)102 頁以下.Baker, supra note 142, at F─6; Schwarz, supra note 147, at 17. 172)本浪・前掲注 163)153 頁 は, 「本件 の 唯 一の判旨は…租税法に関するというより,専ら国 際法と国内法の関係に影響されるものとなった」 と述べている. 173)第 1 章第 2 節.な お,エ イ ク ハース ト = マ ラ ン チュク・前掲注 67)115 頁 は,英国 に お け る「合致 の 推定」の 例 と し て,Collco 事件判決 の 傍論に言及している..
(12) 94. 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 2 号(2011 年 8 月). (272). 英国固有の憲法原理としても,確立している174).. との関連で,対エール条約の発効には,両締約. もう一方では,高等法院の Vaisey や貴族院の. 国の議会による確認が必要なことを指摘する論. Simonds が述べた通り,明白な制定法は国際. 者がいる179).. 法に反するとしても,その明白な規定に従わ. 3)次に,本件貴族院判決におけるその他の判. ねばならないという原理である.本件で英国. 示について見ておきたい.第一が,歳入法の濫. 裁判所は,この二つ. 175). の板挟みの中で後者に. 用防止との関連でみた Treaty Override の法的. 軸足 を お き,1955 年第二次財政法は対エール. 位置付けである(裁判官 Simonds の意見).第. 条約を覆す意図が明確である,とした. 176). .. 二が,租税条約締結後の事情変更との関連でみ. 2)この点に関しては,そもそも前者の原則の. た Treaty Override の法的位置付けである(裁. 適用が租税分野ではあまり観察できないことを. 判官 Reid の意見).この二点を見る上で,英国. 指摘する論者177)と,本件において後法優位の. が,本件で問題となった国内法の制定に至る過. 原則が適用になった旨,説く論者がいる.これ. 程と,その後の状況をまとめておくのが有益で. は国際法上の問題解決というよりも,単純に対. あろう.以下の通りである180).. エール条約の後でそれと反する英国法が立法. ⑴ 1955 年, いわゆる配当奪取(dividend-stripping). となったことに着目する見解である178).これ. による租税回避へ対抗すべく,英国は 1955 年第. . 174)Bowett, DECISIONS OF BRITISH COURTS DURING 1959─60 INVOLVING QUESTIONS OF PUBLIC OR PRIVATE INTERNATIONAL LAW, Brit. Y. B. Int’l L. 1960 at 398, 400(1961).同稿は,本件 の控訴院判決に対する評釈である.同稿によると, ここでの「国際法」とは,条約か慣習法かを問わ ない.なお,同稿の所在に関しては,本浪・前掲 注 163)117 頁以下より情報を得た. 175)Bowett, supra note 174, at 400 は,本件 が 示したこれらの原則は特に新しいものではない, としている.なお,本浪・前掲注 163)153 頁も併 せて参照. 176)Bowett, supra note 174, at 400 は,「(1955 年第二次財政法の規定が明確である─注)との判 示により,解釈上の手段として(英国議会に国際 法を侵犯する意図はなかったという─注)推定に 依拠することはできなくなっている.」と述べてい る. こ の 点,Roxan, supra note 19, at 320─21 も ほ ぼ 同旨 を 述 べ つ つ,Collco 事件 を,意図的 な Override の事例として位置付けている. 177)Schwarz, supra note 147, at 7─8. もっとも, 同書がここで問題としているのは,前掲注 19)で 指摘した treaty underride である. 178)故 に そ こ で は,国際法 が 英国法 の 一部 であるか否かという論点は,問題とはならない. Bowett, supra note 174, at 400. な お,本 浪・前 掲 注 163)131 頁.同書 132 頁 は,「国際条約 を 受容 した立法がこれと明確に矛盾する制定法によって 廃棄された点で条約国際法に対する国内制定法の 優位を示唆したと理解されぬでもない.」と述べて. 二次財政法第 4 条第 2 項を創設した.これによ り, 「制定法の下で所得税の免除を受けるべき 者」に対する租税還付が禁止となった. ⑵ 1958 年,ア イ ル ラ ン ド も,財政法第 51 条 第 2 項として,上と同様の規定を創設した. ⑶ 1959 年,英国 と ア イ ル ラ ン ド と の 間 で, 1926 年条約の改訂合意があった.そこでは,上 記英国及びアイルランドの国内法令により,英 . いる.その上で同書 131 頁は,本件は「制定法の 文言に疑義がある場合に該当しない」として,本 件を後法優位原則の適用例として捉える. 179)Jones et al. supra note 161, at 26─27 n.49. 同 稿は,1970 年法第 497 条が適用となれば,事態は 異なる,としている.もっとも,立法行為により, 一方的に自国の条約上の義務を終了させたり,当該 義務の履行を不可能なものにしてはならないこと に,か わ り は な い.Bowett, supra note 174, at 400. 本件で問題となっているのは,租税条約締約国の一 方的措置により,当該租税条約の効果を制限又は排 除することの可否であることに,留意しなければな らない.Oliver, supra note 158, at 400─01. な お,本浪・前掲注 163)127 頁 は 英国 の 裁判 所の判断を眺めつつ, 「一方で,出来るだけ,国際 法を尊重しようとする思考が,英国でかなり以前 から踏襲されてきたことが看取される」と説いて いる. 180)Oliver, Case Note; Treaty over-ride, and the construction of consolidating legislation-Padmore v. , 2001 B. T. R. 227, 228 を参考とした. IRC(No. 2).
(13) 租税条約と国内租税法令の抵触(2・完) (鈴木). (273). 95. 国─アイルランド条約の租税免除規定が制限を. 5)では,歳入法の濫用との関連で見ていこう.. 受けることの確認があった.. ここでの焦点は,納税者が自らの租税負担を軽. ⑷ 1960 年,英国 は ア イ ル ラ ン ド と の 間 で,. 減するために,租税条約をいわば隠れ蓑として. 1926 年条約のさらなる改訂合意を進めた.こ. 用いることである.これを防止するには,租税. の合意により,将来的に改訂合意を行うことが. 条約を Override するような国内立法を制定し. 不必要になった.英国の内国歳入庁は,租税条. ても良いのではないか,というのである.論者. 約の一部 Override が租税条約全体の無効化に. はかかる見解に反対である.というのも,「条. つながるのではないか,との疑念を払拭したの. 約上の文言に合意する上で,歳入法令が多大な. である181).. 濫用から保護されることを予見するのは,英国. ⑸ この改訂合意の直後,英国は 1960 年財政法. の全権大使である.故にかかる濫用を,拘束力. 第 28 条(配当奪取 に 対 す る 更 な る 対抗立法). を有するものとして受け入れられている条約上. を創設した.. の義務から乖離するための拠り所とすることは. 4)以上である.まず,以下の三点を確認して. できない.」186)というのである187).. おこう. ⑴ 第一に,本件において問題となった国内法の 制定は,1955 年である.これは,米国における Treaty Override の火種となった 1980 年の不動 産外国投資税法から,およそ二十年を遡る182). ⑵ 第二に,本件において租税還付の問題が生 じる原因となった配当の支払は,先にも見たと おり,1957 年 で あった.これは,1955 年第二 次財政法の立法と,1959 年の改訂合意との狭 間に位置する183). ⑶ 第三に,英国は 1955 年第二次財政法の立法 に伴い,エールとの間で条約交渉を行った.こ れは本件で特別委員会が述べたように,国内法 令は,他の解釈を許さない場合を除き,国際法 に反しない態様で解釈しなければならないとい う原理が確立しているためである184).ちなみ に 英国 は,1945 年第二次財政法 に よ り,配当 にかかる租税還付を制限することとしたもの の,これに伴い 1947 年にアイルランドとの間 で租税条約の改定交渉を行った185). . 181)Id. at 228 n. 12. 182)本浪・前掲注 130)375 頁(2001)は本件を, トリーティー・オーバーライドに関する最初の典 型的判例,としている. 183)Oliver, supra note 180, at 229. 184)Id. 185)Id. こ の 点,村 井・前 掲 注 101)13 頁 は,. . 英国の国内法の改正に伴い,英国がアイルランド と適時に条約交渉をしたかどうかに疑問を投げか けている. 186)Bowett, DECISIONS OF BRITISH COURTS DURING 1960─1 INVOLVING QUESTIONS OF PUBLIC OR PRIVATE INTERNATIONAL LAW, Brit. Y. B. Int’l L. 1961 at 548, 548(1962) .同稿 は,本 件の貴族院判決に対する評釈である.同稿の所在 に関しては,本浪・前掲注 163)117 頁以下より情 報を得た. 187)な お,本浪・前掲注 163)140 頁 は,本件 との関連で,かかる濫用に関する判示は「第一に 不要であり,第二にかえって濫用につながるおそ れなしとしない.…英国の立場よりすれば…条約 と牴触する制定法であっても,その制定法によっ て条約を実質的に修正すれば,少なくとも国内的 効力に関する限り…租税回避を防止できる」と述 べている. こ れ に 続 け て 同 141 頁以下 は,本件 で 問題 と なった英国法制定後の経過との関連で, 「アイルラ ンド共和国が,相互主義のもとに,非居住者に対 する免税特権を依然として容認しているとすれば, かえって均衡を失するおそれなしとしない.…本 件はアイルランド当局が恣意的に権利を行使した 場合に該当しないのみでなく,非居住者に対する 免税措置を両国が相互に認め合うことで,かりに 内国における英国会社が非居住者たる外国会社よ り不利益な立場におかれるとしても,これをもっ てアイルランド共和国が英国住民に対して不当な 差別を行ったとはいえない. 」と述べている.既に 見た通り,英国は 1955 年に第二次財政法を制定し, エールにおける同様の立法は 1958 年であった.こ の引用箇所の指摘は,かかる三年間においては妥 当するであろう..
(14) 96. (274). 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 2 号(2011 年 8 月). 6)次に,事情変更との関連で見ていこう.国. 既 に 見 た 通 り192),租税条約締結権者 の 責任. 際法上,条約締結時の事情が根本的に変化し,. を重く見る見解は,濫用に基づく租税条約の. そ れ が 当事国 に とって 予想不可能 な 場合,当. Override を正当化しない見解の中にも,息づ. 事国はそれを条約終了の原因として援用でき. いていたこととなる.. 188). る(他方当事国の同意も必要である) .では,. 7)最後に,貴族院における裁判官 Simonds は,. 本件においてはどう考えれば良いのか.ある. 納税者の権利は租税条約自体ではなく,それを. 論者も指摘する通り189),英国がエールとの間. 国内法化する国内法令の下で生じると述べた点. で租税条約 を 締結した目的として,租税条約. に注目しておきたい.Baker はこの点にも,本. の意義に関する通常の見解190)がそのまま当て. 件の意義を見出している193).. はまるであろう.すなわち,非居住者に対し. 3.Woodend 事件については,以下の二点のみ. 相互に免税措置を講じ,内国における活動を. 言及しておく.. 保障し促進することで,両国の経済関係の緊. 1)第一に,本件はセイロンにおける租税条約. 密化を計る,という訳である.ところが,そ. と国内法の関係に関するものである.ただ本件. れぞれの国にとっての外国法人間で配当奪取. は,英国においても参考となるという.という. という租税回避手法が広がり,反作用として,. のも,セイロンにおいて対英租税条約に国内的. それを利用できない自国の内国法人が相対的. 効力を付与することを目的とした国内法は,英. に不利 な 立場 と なった.これは,対エール条. 国 の 1988 年所得・法人税法第 788 条 と 類似 し. 約締結時点 に お いて予測不可能な事態であっ. ているからである194).. たか.これに関し,論者は否定的な見解を述. 2)第二に,本件では,議会は国際法を侵犯す. べ,事情変更 に 基づく条約終了が安易に可能. る意図を持たない,との推定は働かず,問題と. となれば,条約の効力を一方の当事国が恣意. なった 国内法令 が 対英租税条約 を Override す. 的に左右することとなる危険性を指摘する191).. る こ と を 認 め た.こ こ で は,対英租税条約 を. . この点との絡みで同 122 頁以下は,本判決の意 義を, 「国際条約を連合王国租税を回避する手段と して使用することは許されないとした貴族院判決」 としている. 188)条約法に関するウィーン条約第 62 条及び 第 65 条.なお,山本・前掲注 2)623 頁以下も参照. この点を捉え,本浪・前掲注 163)144 頁は,事情 変更を謳う本件貴族院の判示を,「先行する条約の 効力を否定するために,国際法自体の次元での論 理を模索」した結果である,と評価している. 189)本浪・前掲注 163)146 頁以下. 190)川端・前掲注 121)7 頁以下等を参照. 191)本浪・前掲注 163)147 頁は,次のように 述べている.「およそ条約の締結を当事国間で協議 する場合には,両国代表はあらゆる状況を慎重に 考慮し,あらゆる事態を可能な限り予測して交渉 を行うべきで,本件で生起したような種類の事情 は,むしろ予見すべきことであり,予見しえなかっ たことは,当事国代表の責に帰すべきものである から,そのような場合には事情の変更を援用すべ きではないとする批判さえ可能であろう.」 なお,事情変更を原因とする条約終了に伴う問. Override するという 1959 年法の意図を枢密院 が読み取ったのが判断の決め手となった,とあ る論者は説く195). 第 2 款 Padmore 事件 以下では,意図的な Override 立法の起因と なった196)Padmore 事件を見ていきたい. . 題点については,山本・前掲注 2)623 頁も参照. 192)第 2 章小括. 193)Baker, supra note 142, at F─2. 194)Oliver, supra note 180, at 228. こ の 点 に 関 しては,前掲注 168)も参照. 195)Roxan, supra note 19, at 321. こ の 点, Jones, supra note 154, at 360 n. 5 は,議会が明示的 に租税条約を Override することを妨げるものはな い旨,判示した事件として,Woodnend 事件を観 察する. 196)ベーカー・前掲注 127)93 頁以下.なお同 稿は,意図的な Override 立法の起因となったもう 一つの事件として,Union Texas Petroleum Corp. v. Critchley(H. M. Inspector of Taxes) , 63 T. C..
(15) 租税条約と国内租税法令の抵触(2・完) (鈴木). (275). 97. 第 1 項 事案の概要. て,X は 1970 年 所 得・法 人 税 法 第 109 条 に. 以下のような事件である197).. 基づき,Aの利得に関する自己の持分につき. 1)Xは特許及び商標の代理人で英国に居住し. 英国で租税査定を受けた(この際,Aの利得. ており,英国の特許代理店に勤めていた.1976. に 対 す る ジャージー租税 の X持分 は,税額控. 年以来,Xは,特許,商標その他無体財産権の. 除の対象となっていた).Xはかかる租税査定. 全世界的更新を業とするパートナーシップ訴外. を不服として出訴した.Xが根拠としたのは,. Aのパートナーでもあった.Aのパートナー及. 1970 年所得・法人税法第 497 条第 1 項⒜及 び. び雇用者の大多数は英国に居住していた.一方. 1952 年 6 月 24 日締結 の 対 ジャージー条約第 3. で,Aはジャージーで事業を行い,通常の会議. 条第 2 項である.同条約によると,ジャージー. もジャージー開催で,日常業務はジャージーに. 企業の利得は,英国で租税を課すことができ. 居住しているパートナーが行っていた.パート. ない.. ナーシップ の 利得 に は,ジャージーの 1961 年. 3)以下,審理過程を見ていこう.. 所得税法第 74 条第 1 項 に 基 づ き,ジャージー. ⑴ 特別委員会. が租税を課した.. 以下のように述べて,Xの訴えを棄却した.. 2)1975 年度及び 1981 年度の課税年度におい . 244(C. A. 1990)に触れている(本件に関しては, 本浪章市「公法抵触と国際租税法の端著と進展(そ の 1)─国際関係法と英国判例の視点から─」関法 49 巻 2・3 号 88 頁以下(1999)にも紹介がある). これは,次のような事件である.1972 年財政法 第 84 条により,英国法人による配当の支払いから は,予納法人税の納税義務が生ずることとなった. ただ,同法第 86 条第 1 項により,納税義務者たる 英国居住者 は,配当受領 の 際,tax credit(「税額 控除」とすると誤解が生じるため,敢えて邦訳し ない.)を受ける権利を有し,配当に対する英国所 得税は,予納法人税と相殺になった. Xは米国 Delaware 州法を準拠法とする法人で あり,英国に完全子会社Aを有する.1975 年締結 の 対米租税条約 の 下 で,X は 米国居住者 で あ り, A は 英国居住者 で あった(X も A も,二重居住者 ではない). 1981 年から 1984 年にかけて,AはXに配当を 支払った.その際,Aは,二重課税の排除に関す る 1973 の Regulations の定めるところに従い,内 国歳入庁との間で所定事項に合意(arrangements) を し た.同 Regulations に よ る と,A は X に 配当 を支払う際,当該配当に加え,上記合意の内容に 基づき算定したところの追加的支払額(additional amount)をXに支払うこととなる.Aは内国歳入 庁との間で,この追加的支払額を,英国居住者た る個人であれば受ける権利を有することとなる tax credit の額の 2 分の 1 から,配当と当該 tax credit の合計の 5 パーセントに相当する額を差し引いた 額とする旨,合意を行った. 一方,XはAから受領した配当につき,英国政. . 府に対し,対米租税条約に基づく一定額の支払を 要求 し た.同条約 の 第 10 条第 2 項 a)1)に よ れ ば, 「米国法人は,英国居住者たる個人が配当を受 領していれば当該個人が受ける権利を有していた tax credit の 2 分の 1 に等しい tax credit の支払い を英国から受ける権利を有する」こととなる.こ れ に 加 え,同条項 は 別途,か か る tax credit の 支 払いから,米国法人に支払われた(paid)配当と 当該 tax credit の合計の 5 パーセントを超えない 金額が英国法令に従って差し引かれる(deduction) 旨,規定している. 英国政府はXの要求に従い,Aと内国歳入庁と の間で合意に達した上記金額をXに支払った.X はこの支払額が,上記対米租税条約の規定に基づ き自身が受領権を有する額に満たないとして出訴 した. 控 訴 院(裁 判 官 Dillon L. J./ Balcombe L. J./ Beldam L. J.)は,Xが受領する支払いは,対米租 税条約に基づく所定の金額の差し引きに服する支 払 い(す な わ ち,net amount)で あ る と 判示 し, Xが勝訴した. Baker に よ る と,本判決 は,対米国租税条約第 10 条の意味するところについて,内国歳入庁の見 解と異なる結論に達した判決であり,1989 年財政 法第 115 条の立法は,本判決を受けた,すなわち, 本判決を覆すものであったという(もちろん,本 判決が正しいものであるとの仮定に立てば,であ る) .以上,ベーカー・前掲注 127)94 頁. 197)Padmore v. Commissioner of Inland Revenue, 62 Tax Cas. 362(Ch. D. 1986) , aff’d, 62 Tax Cas. 371 (C. A. 1989) . 同事件 に 関 し て は,本浪・前掲注 130) 410 頁以下にも紹介がある..
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105 の2―2 法第 105 条の2《輸入者に対する調査の事前通知等》において準 用する国税通則法第 74 条の9から第 74 条の
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