ヴュルツブルク音楽大学におけるピアノ指導法 : Inge Rosar教授のグループレッスン及び実践演習より
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第67巻 第1号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 67, No.1. 平 成 28 年 8 月 August, 2016. ヴュルツブルク音楽大学におけるピアノ指導法 ― Inge Rosar教授のグループレッスン及び実践演習より ―. 野呂 佳生・松永加也子・水田 香・寺田 貴雄* 北海道教育大学岩見沢校鍵盤楽器研究室 *. 北海道教育大学札幌校音楽教育学研究室. Piano teaching methods in Hochschule für Musik Würzburg ― From a group lesson and a Practice Exercises of Professor Inge Rosar ―. NORO Yoshio, MATSUNAGA Kayako, MIZUTA Kaori and TERADA Takao* Department of Keyboard Instruments, Iwamizawa Campus, Hokkaido University of Education *. Department of Music Education Sapporo Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 本稿は,ドイツのヴュルツブルク音楽大学(Hochschule für Musik Würzburg)でピアノを 担当しているInge Rosar教授(以下Rosar教授)1のグループレッスン授業と,9歳児から10歳 児を対象としたピアノ指導法の実践演習の内容を報告するものである。日本の大学の通常の授 業では,グループレッスンでピアノを指導することは,小学校教員養成科目のピアノ指導以外 ではあまり行われていない。それに対して,ヴュルツブルク音楽大学のカリキュラムには,毎 週個人レッスンとグループレッスンが取り入れられている。他の受講生のレッスンを見ること は, 1人の問題点を皆で共有することができ,多くの事を学ぶことが可能となっている。グルー プレッスンと個人レッスンを併用することで,高い教育効果が期待できる。また,実践演習で は,積み木や手遊び,踊りなどを取り入れ,視覚的な理解や運動など,楽しみながら音楽の基 本的な能力を獲得するように工夫されていた。 . はじめに 筆者らは,学習者ニーズに適応した柔軟な内容をもつピアノ指導法の開発研究2の一環として,海外4大 学(ベルゲン大学グリーグ・アカデミー[ノルウェー],シベリウス・アカデミー[フィンランド],ブラン. 321.
(3) 野呂 佳生・松永加也子・水田 香・寺田 貴雄. デンブルク工科大学[ドイツ],ヴュルツブルク音楽大学[ドイツ])におけるピアノ指導の方法と内容につ いて調査してきた。本稿は,2015年5月にヴュルツブルク音楽大学での調査の内容である。ヴュルツブルク 音楽大学のRosar教授の研究室でグループレッスンを視察し,さらに我々のために準備された実践演習を体 験した。 グループレッスンの授業及び実践演習はプライバシーへの配慮からVTRやボイスレコーダーの使用は許 可されなかったため,写真と筆記による記録を,後日文章化し,授業の内容を把握した3。実践演習では9 歳から10歳の子供への音楽の指導プログラムとその解説が行われた。 . Ⅰ ヴュルツブルク音楽大学の概要 ヴュルツブルクはドイツ中南部のバイエルン州の北西部に位置し,人口12万人程で,バイエルン州ではミュ ンヘン,ニュルンベルク,アウクスブルクについで人口4番目の都市である。市内にあるヴュルツブルク音 楽大学は1797年に「コレギウム・ムジクム・アカデミクム」として設立され,1921年から「バイエルン州立 音楽院」となり,1973年より現在の名称に改められた歴史のある音楽大学である。現在600名程の学生が在 籍している。学士プログラムと修士プログラムがあり,学士プログラムは芸術学士と芸術・教育学士に分か れており,学士の演奏のコースでは,アコーディオン,古楽,指揮,声楽,ギター,ジャズ,教会音楽,ピ アノ,作曲,音楽理論,オーケストラ器楽,オルガンの専攻がある。芸術,教育学には,アコーディオン, 古楽,音楽教育学(小学校) ,声楽,ギター,ジャズ,ピアノ,オーケストラ器楽,オルガンがあり,芸術 か教育のどちらかの学位を選択できるようになっている。古楽からジャズまで幅広い年代の音楽が扱われて いる。修士プログラムでは演奏,教育,音楽理論,作曲の分野が置かれている。また,北海道教育大学と国 際交流協定を締結している。 ピアノを専攻する学生のカリキュラムでは,ピアノの個人指導の他にグループレッスンも履修することに なっている。 ヴュルツブルク音楽大学の演奏コースのカリキュラムの中から,専門の楽器の箇所を見ると,8セメスター すべてにクラス授業(グループレッスン)が置かれている。(表①)4 学位を得るためには,LPを240取得することが必要である。 表① ヴュルツブルク音楽大学の演奏コースの専門のカリキュラムより セメスター 楽器. 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. LP. LP. LP. LP. LP. LP. LP. LP. 13. 13. 13. 13. 13. 13. 13. 13. 技術研究. 1. 1. 1. 1. 1. 1. 1. 1. クラス授業. 1. 1. 1. 1. 1. 1. 1. 1. LP =クレジット. Ⅱ グループレッスンの概要 2015年5月20日 ヴュルツブルク音楽大学,Rosar教授のグループレッスンを視察した。8時30分~11時 30分 1人30~40分程度の個人レッスンが,他の学生が聴講するスタイルで行われた。毎週1回水曜日の午 前中に行われており,授業には学士の演奏コースのピアノを専攻している学生と教育でピアノを専攻する学 生が混在していた。聴講する学生の入退室は自由で,自分の予定に合わせて,途中から入ってくる学生がい. 322.
(4) ヴュルツブルク音楽大学におけるピアノ指導法. る。5,6人の学生が聴講していた。 以下Rosar教授の言葉は「 」で示す。 Rosar教授より授業について「学生にとっても他の学生の前で演奏することで発表のチャンスになってい る。オーケストラのスコアを見るなど一般のレッスンとは異なる授業を展開している」と説明があり授業が 開始される。 1.8時35分。台湾からの男子留学生はシューベルト作曲《ピアノソナタ イ短調》第2楽章を演奏。 演奏した曲についての解説を加え演奏の方法を指導するという,日本でも一般的に行われている個人レッ スンを,学生が聴講するスタイルで進行していく。レッスン途中に学生が入ってくる。 ヘンレ版の楽譜を使用していた。ユーモアに富みながらわかりやすく,なおかつ音楽的内容を把握しやす い言葉かけにあふれるレッスンであった。「この音楽は8の字を横にしたような形に揺れる感じである」「こ こはお葬式の感じで」 「3連符が楽しくならないように」「聴衆を引っ張ってゆくことが大切」「最後のFの 和音はホッとして落ち着くように」そのような表現を行うために具体的な指示は次のように出された。 「拍感, 拍の頭の重さを感じること,拍がゆれないこと」「ペダルに細心の注意を払うこと。音楽の流れを損なわな いこと。 」 「PPではタッチを変えて,響きの種類を豊富にすること。」 2.9時10分。男子学生はバッハ作曲《平均律クラヴィーア曲集 第2巻第14番》を演奏。 男子学生の演奏に対して,「内声を出すときにはソプラノは控えめに」「アーティキュレーションをよく整 理すること」 「トリルは上から入れる」 「ディナーミクを考える」「音と音の間の処理」という基本的な注意 を与えた。Rosar教授は3つの声部に分かれた楽譜(写真①)を用意して「ひとつひとつの声部に色を与え ることで聴衆をひきつけることができる」と説明していた。 . 写真① バッハ作曲《平均律クラヴィーア曲集 第2巻第14番》パートごとに分かれた楽譜(楽譜の版は不明). この楽譜を使用して聴講学生2名とRosar教授が,二台のピアノで1声部ずつ,バッハを最初に演奏した 学生の指揮で演奏した(写真②)。例えば写真①で示されている16分音符の部分では,「息を使う楽器を連想. 323.
(5) 野呂 佳生・松永加也子・水田 香・寺田 貴雄. し,フルートなのか,クラリネットなのか,オーボエなのか,確かな音色への意思を持って演奏することが 大切で,指揮を振ることはそのために非常に有益な勉強法である」と説明された。言葉かけによって音楽的 内容を伝えるというよりは,指揮の実践によって自ら気づくように仕向けるレッスンであったように思う。 西洋音楽の伝統の地に生まれた学生にはこの方法で理解させ,アジア系の学生には言葉かけを多くすること によって理解させているように感じた。 実際に指揮での演奏を数回繰り返し,自分の表現を演奏している2名の学生と教授に口頭と指揮で伝える ことで,演奏したい内容が明確になっていった。その後ピアノ演奏に戻り,テーマの性格を理解することで 声部ごとの扱いが明確になり,演奏内容に大きな改善が見られた。短時間で非常に大きな教育効果を見るこ とができた。Rosar教授は,「私の解釈とは異なるが,彼の音楽も認め,尊重する」と伝えていた。 また,リズムに焦点を絞って確認するために,ピアノの蓋の上で指を動かす方法を取り入れた指導も行っ ていた。 「指揮をすることで受講学生の行いたい表現が整理され明確になる。聴講学生の初見の練習にもなる。生 きている音楽を行うためにはどのように演奏するという自覚と,演奏したいという意志が重要」と我々に解 説してくれた。 . 写真② 学生の指揮による演奏. 3.10時10分。韓国系の女子学生はコダーイ作曲《マロシュセーク舞曲》を演奏(写真③)。 翌週のコンサートで演奏する楽曲ということで,この時間はリハーサルの役目も果たしている。 演奏後,重音の連打がうまくいかない場面では,聴講学生全員にも連打の動きをさせて,さらに練習方法 を示し共有させ,一人の手首の使い方を皆の問題として習得させるように工夫していた。個人レッスンでは 自分の問題しか見えないが,グループレッスンでは他の学生の問題を聴講学生全員が共有することで,多く の人の経験を自分のものにできる良い機会となっている。この学生のレッスンでも言葉かけが重要であった。 「場面の変わり目はどんどん行かず,ペダルをゆっくりとあげるなど工夫して,聴き手をひきつけるように」 「お客さん(の心)を動かしてください」など演奏方法と聴衆を意識させる内容で,本番に向けてのどのよ うなことに留意するかを,的確に示しているレッスンであった。 続けて演奏したブラームス作曲《スケルツォ 作品4》では,学生は,体が固まって脱力ができていなかっ. 324.
(6) ヴュルツブルク音楽大学におけるピアノ指導法. た。そこで,椅子に深く腰かけ,足を前に出すように指示すると,脱力することができた。Rosar教授は「こ のような姿勢を取ることで肩が上がらなくなる。体が硬くなっている時には,頭が緊張していることが多い。 そのような時は,脱力している状態を感じとるように,座ることから考えることが重要である。このことは アレクサンダーテクニーク5の研究をしている同僚からの助言である」と説明がなされた。さらに「フォル テがピークのままでは表情が出ない」「フォルテの中でも音量の変化が有ると良い」「休符の扱いは大事で, 当たり前のように先に行ってはいけない」など,聴衆によく伝わる音楽的な演奏を目指す姿勢がうかがわれ る。レッスンでどのようなことに留意するかということについて,「その場で判断してその生徒と曲がどの ようにすれば合うか(フィットするか)を考えて聴いている」と話された。生徒に応じた(ニーズに合わせ た)レッスンを常に考えているということだろう。 レッスンの成果は,大学内のホールにおいてほぼ毎日のように開催される各クラスコンサート,Musik publikという名称のさまざまな楽器が合同で行うコンサートにおいて,披露されている。滞在期間中の5月 22日にはRosar教授のレッスンを受けていた韓国系女子学生の,コダーイ作曲《マロシュセーク舞曲》の演 奏を聴くことができた。 このコンサートでは,他の教授の指導学生も数名演奏していたが,それらと比較すると,Rosar教授の言 う「お客さんを動かす」ことを意識していることが明らかに伝わる好演であった。 . 写真③ コダーイ作曲《マロシュセーク舞曲》. Ⅲ 実践演習 2015年5月20日17時~18時。実際の授業の対象年齢は,9歳から10歳である。 1.子供たちとの音楽作り 「子供たちは多くのことを学ぶ必要がある。説明によって頭で理解すること,さらに心で感じるために運 動を取り入れることが必要である。大人は音楽の組み立てを,説明を受けて理解することができるが,子供 は何か1つについて理解することは可能であるが,理解できたことの周辺については漠然と理解している。 しかし年齢を重ねることで,習ったことや体験したことが結び付き全体像理解できるようになる。知識や経. 325.
(7) 野呂 佳生・松永加也子・水田 香・寺田 貴雄. 験が結び付き落ち着くのは9歳から10歳からである」というRosar教授の説明から開始された。 2.音符の種類(音価の違い)の理解 ピアノは発音直後に減衰する楽器であるため,幼いこどもにとって音の持続を感じることが難しい。音楽 教育の初期段階において,音価を理解させることは大きな課題となっている。この授業では,音符の種類(音 価の違い)を教えるための次のような工夫が見られた。 積み木を使い隅の角材(写真④,写真⑤)と組み合わせる作業を行う。例えば3拍子の1小節3拍の長さ を理解するために,12㎝の隅の角材に2分音符1つ(8㎝)と4分音符1つ(4㎝)の積み木を乗せると, 隙間やはみ出しがなく完全に収まる。4分音符2つと8分音符(2㎝)と8分休符(2㎝)の組み合わせな ど,他にも様々な組み合わせで3拍の組み合わせが理解できる。他にも4拍子(24㎝)や2拍子(12㎝)隅 の角材を用意し,小節の中にどのような長さの音符を組み合わせて入れられるかを学ぶことができる。隅の 角材という小節に,長さのある積み木という音符を入れることによって,演奏時に音符の始まりの点として とらえがちの音符に,長さがあることを,視覚的に理解させることが可能となる。 . 写真④ 音符の積み木(リズムの積み木箱). 写真⑤ 音符の積み木(リズムの積み木箱). 326.
(8) ヴュルツブルク音楽大学におけるピアノ指導法. 表② 音符の積み木の寸法 音 符. リズム読み(コダーイによる)注5. 積み木の数. 長さ:㎝. 全音符. TAOAO. 4. 24. 2分音符. TAO. 8. 12. 4分音符. TA. 16. 6. 8分音符. TI. 32. 3. 付点2分音符. TAOA. 4. 18. 付点4分音符. TAI. 4. 9. 角材の長さ 2,70m 隅の角材:2,70m. 隅の角材は,より多くの音符の積み木を入れるために,なるべく大きなものがふさわしい。 3.遊びながら音楽の感覚を身に着ける ① 荷造り1 複数の子供たちと指導者によって展開される。視察時には,筆者(野呂,水田,松永)が生徒役で参加し た。 今回は我々のために日本語の歌詞で対応してくれた。 指導者が先に歌う。 4/4拍子 2小節分の長さ 歌詞 荷造りしましょう!(!は指を鳴らす),何入れる? に づ く り し ま しょう ! な に い れ る ? 音名 g e e e e g g ! g g e g g ? ta ra ra ra ta ra taa ! ta ra ta ra ra ? (コダーイによるリズム歌を参考に)6 4/4拍子 4 1 2 3 4 1 2 3 4 4/4拍子 2小節分の長さになっている。 遊び方 例 子供たち3人の場合 子供1は指導者の「荷造りしましょう」歌に続き,「何入れる?」と質問を歌い,荷物の中に入れるピア. 「a」7。指導者は2小節分を指揮しながら待ったうえで,アウフタクトで次の「荷 ノの1拍分の音を1音鳴らす 造りしましょう」を歌い,子供2も続けて質問を歌い,子供1が鳴らした同じ音を鳴らしたうえで,自分が 入れたい新しい音を鳴らす(a -e )。同様に指導者に続き子供3も続けて質問を歌い,子供1,子供2が鳴 らした同じ音を鳴らしたうえで,自分が入れたい新しい音を鳴らす(a -e -h …)。 これを繰り返し,4分の4拍子においての2小節分の音型を作る。 Rosar教授の解説 遊びの目的 ・いつ音が鳴らされたのか気付くこと,そしてアウフタクトにより次の歌が始まるまで,どの位の休符の長 さ続くのか,認識すること。 ・質問文のリフレイン間2小節と,新しく選んだ音に自由な時間を与えることにより,ロンド形式ができ,. 327.
(9) 野呂 佳生・松永加也子・水田 香・寺田 貴雄. 形式感の訓練につながる。 ・選ばれた音を,弾いて耳で確認してから音を加えることにより,記憶力の訓練にもつながる。 ・友達と協力し合って進めることにより,遊びはいくらでも長く続くことができる。ただし競争ではない! 宿題1 荷物の中に入れた音たちを,音符や文字にして書き取る。 宿題2 弾いて歌ってみる。 実際に我々が生徒役で実践した時には,長くなっていく音型にRosar教授が和音伴奏を加え,和声感を養 うこともできると解説された。 ② 荷造り2 荷造り1とほぼ同だが,今度は入れる“物”を決め,選んだ“物”に音を付ける。 例 子供1は同じ質問歌の後に,カメラを選んだ場合,3つの文字により3音(g,c,g等)弾かれること になる。 子供2は,この3つの音を弾いた上で,新しい物とその音を弾く。この繰り返し。 Rosar教授の解説 遊びの目的 ・選んだ物にはいくつの音があるのか理解できる。 例:えんぴつ=4文字 ・選んだ物・言葉のリズムに気付く。 例:アウフタクトのない物「机」等 アウフタクトのある物「スティック」等 ・メロディーのリズム付け 「つくえ」 (c -d -d ) 「スティック」(c -f -d ) ・形式感の訓練。 ・選んだ音の聞き取りによる記憶力の訓練。 宿題1.入れる物について,アウフタクトがあるものとないものを考える。 宿題2.リズムを書いてみる,あるいはリズムの積み木箱にて並べてみる。 宿題3.8拍分のメロディーを弾き,書いてみる。 宿題4.メロディーに低音(オスティナート)を付けてみる。 宿題5.弾いてみる。 ③ お餅をつきましょ(写真⑥) 日本の手遊びの習慣を取り入れたリズム感の育成。 Rosar教授は,北海道大学に留学経験のあるClausen Bernd学長からの情報をもとに,日本の手遊びを用 いた指導実践をしてくれた。 二人の生徒が対面で行う活動。 生徒1 手拍子を上下の縦の運動で行う。歌に合わせて,4分音符で一定のリズムを最後までたたき続ける。. 328.
(10) ヴュルツブルク音楽大学におけるピアノ指導法. 生徒2 1段目は,生徒1と一緒に歌いながら,縦の手拍子で,同じリズムを刻む。 2段目,歌詞と同じリズムをたたき,「たん」の部分で,生徒1の下になっている手のひらをたたく。 3段目 休符は休み,「こね」で生徒1の手の間を,お餅をこねる動作でくぐらせる。「て」の部分は,自 分の手をたたく。 4段目 生徒1の手の下,中,上を歌詞のとんと同じリズムでたたく。 お餅をつきましょ. 1段目 唄4/4. 生徒1,生徒2 おも ちを. つきましょ. おもちを つきましょ. 手拍子. 生徒1,生徒2. 2段目 唄4/4. 生徒2 たんの位置で,生徒 1 ぺったんこぺったんこ. の下にある手のひらをたたく。. ぺったんぺったんぺったんこ. 手拍子. 生徒1. 3段目 ↺. ↺. ↺. ↺. ↺. ↺でお餅をこねる動作. 4/4. 生徒2 こねて. こねて. こねて こねて こねて. 手拍子. 生徒1. 4段目 4/4. 生徒2 とんとんとん. 下中. 上. とんとんとん. とんとん とんとん とんとんとん. 上中. 下中. 下. 上中. 下中 上. 手拍子. 生徒2が手を打つ場所 生徒1. 写真⑥ 手遊びの実践. 329.
(11) こねて. こねて. こねて こねて こねて. 手拍子. 生徒1 野呂 佳生・松永加也子・水田 香・寺田 貴雄. 4段目 4/4. 生徒2 とんとんとん. 下中. 上. とんとんとん. とんとん とんとん とんとんとん. 上中. 下中. 下. 上中. 下中 上. 手拍子. 生徒2が手を打つ場所 生徒1. Rosar教授の解説 遊びの目的 ・リズムを言葉によって数えることで,理解することができる。 ・お互いの動作を,視覚的に捉えて覚えることができる。 ・2人がリズムに合わせて動作を行うことで,楽しみながら体でリズム感を養うことができる。 ・2人の呼吸を合わせて行うことでアンサンブルの基礎が養われる。 ・お持ちをこねる動きと,リズムを合わせることで,メトロノーム的なリズムではなく,生きたリズムを感 じることができる。 4.ダンスを取り入れた拍子感の理解。 音楽の形式理解。 虫に食われた楽譜食べられた音符はどのようになっているのか。 使用教材 モーツァルト作曲《メヌエット》 (写真⑦) . 写真⑦ モーツァルト作曲《メヌエット》 当日配布された楽譜. 330.
(12) ヴュルツブルク音楽大学におけるピアノ指導法. 前半の最後の小節が虫に食われて見えなくなっている。 1.指導者が歌いながら,指導者の動きに合わせて生徒はメヌエットを踊る。 メヌエットがどのような踊りの曲かを理解できる。踊りを意識した3拍子を感じることができる。 2.虫に食われて見えなくなっている部分は歌わずに止まる。 見えない楽譜の部分が,どのようになっているか興味関心を持たせる。 3.後半を歌いながら踊る。 前半と似た音型に続く,後半の最後を自然に感じさせる。 4.指導者から子供たちへの発問。「虫に食われた箇所は,曲の最後と同じかな?」 3で感じた音型を前半最後の虫食いの部分と関連させて正解を導くことで,音楽形式の理解へと結び つかせることができる。 . Ⅳ まとめ ピアノ指導におけるグループレッスンは,学生に不足している点や勉強方法を,演奏している学生をモデ ルとして客観的に知ることができる。教師の指導によって演奏内容が変化していく様子を見ることで,指導 のポイントを知る機会にもなる。他者との比較で自分の演奏を見つめ直すことや,勉強したことのない作品 の内容や演奏方法等も学習でき,普段自分が受けているレッスンと合わせることで,多くのことの理解を深 め,整理できる機会となっている。日本の大学でのピアノ指導では,毎週グループレッスン行うことはカリ キュラム上困難である場合が多いが,今後取り入れる工夫を検討したい。 対象年齢9歳から10歳児のための実践演習では,どのプログラムも生活の身近にある物を利用,工夫し, 楽しく遊びながら音楽の能力を向上させる方法となっていた。「楽しく学ぶ」という事がキーワードとなっ ており, そのために遊びの中から音楽的な要素を抽出し,その要素を組み立てて楽しく指導していくことが, 子供のピアノ指導の重要なポイントとなっていた。実際に一緒に実践した我々も楽しむことができ,遊びの 要素の必要性を強く感じた。今回Inge Rosar教授が日本の手遊びで実践したように,多様な音楽素材をピア ノ指導・音楽の基礎指導の教材として活用することは可能であり,それに向けて指導プランや教材の開発を 進める必要があろう。 . おわりに 最後にヴュルツブルクで扱われているピアノ教則本について若干紹介したい。 ヴュルツブルクの楽譜店において, 「ドイツで一番売れている子ども用の教則本はどれですか?」という 質問を投げかけたところ,『Little Amadeus KLAVIERSCHULE(写真⑧)』と『Klavierschure fur kleine Kinder(写真⑨) 』を紹介された8。ヴュルツブルク音楽大学のClausen Bernd学長は音楽教育を専門として いるため,筆者との会談の折にテキストについて質問した。それに拠れば,ヴュルツブルクではテレビ番組 で『Little Amadeus KLAVIERSCHULE』は「Little Amadeus」というアニメーション番組が放映されて いる関係で人気が高く,多くの子供たちが使用しているそうである。色彩感の溢れる本で,アニメーション のキャラクターであるLittle Amadeusが説明する形でテキストが進行されており,テレビのアニメーション の続きのように楽しみながらピアノを学ぶことができるようになっている。 『Klavierschure fur kleine Kinder』は,ドイツで活躍している日本人の作曲家Eiko Horikoshi-Atalay著 の教本で,一つ一つの音の高さを覚えさせたり,教師との連弾も多く取り入れたりしている。ただ覚えるだ. 331.
(13) 野呂 佳生・松永加也子・水田 香・寺田 貴雄. けではなく,覚えた音を実際に使用する頻度を増やしながら学習できるようになっている。歌やドリルなど も取り入れ,バランスよく勉強できるように工夫されている。 また,ベルリンの楽譜店でも同様の質問をしたところ,ヴュルツブルクとは全く違う教本を紹介され,興 味深く印象に残った9。国内の地域によって売れている(使用されている)教則本が異なるということは, 日本では考えにくい。ドイツでは,地域ごとに独立した文化が存在する事情によると考えられる。 . 写真⑧ 『Little Amadeus KLAVIERSCHULE』. 写真⑨ 『Klavierschure fur kleine Kinder』. 332.
(14) ヴュルツブルク音楽大学におけるピアノ指導法. 謝辞:本調査に際し快く授業公開して頂いた,ヴュルツブルク音楽大学Clausen Bernd学長,Inge Rosar 教授のご協力に心より感謝申し上げたい。 附記:本調査を進めるにあたり,日本学術振興会科学研究費補助金「ピアノ学習者の状況に応じた指導法 および教材選択の比較研究」(基盤研究C,課題番号:26370156,研究代表:松永加也子)の補助を受けた。 . 注および引用文献 1 LANDES MUSIK AKADEMIE BERURLIN ホームページより http://www.landesmusikakademie-berlin.de/ Rosar教授の講習内容 鍵盤楽器や楽器教育に興味のある人,音楽教室の先生のための講習会。 Rosar教授はEMPの同僚Barara Metzger教授とともにピアノのレッスンのため,細かい運動技能への新たなアプローチ との連携,刺激的で遊びとしてのフィンガーテクニックの方法に取り組んだ。ピアノと同様に他の楽器にとっても指の柔軟 性や独立性,眼球運動のコントロールは必要である。このコースでは,ピアノを使って,他の楽器のためにも指の訓練の基 本理念を転用することを奨励し,展開する。 2 ピアノ指導法の開発研究のこれまでの成果として,以下のものがある。 水田香,松永加也子,野呂佳生,寺田貴雄(2010) 「幼児期におけるピアノ指導の研究―〈弾くこと〉を楽しく学ぶ実践 の工夫―」『北海道教育大学紀要(教育科学編)』第61巻第1号,pp. 233-247. 水田香,松永加也子,野呂佳生,寺田貴雄(2011)「幼児期におけるピアノ指導の研究Ⅱ―3歳児グループレッスンの事例 の検討―」『北海道教育大学紀要(教育科学編)』第62巻第1号,pp. 11-21. 水田香(2016)「地域に根ざした音楽教育のあり方―シベリウス音楽院がフィンランドで担うピアノ教育の役割―」北海 道教育大学岩見沢校芸術・スポーツ文化学研究編集部会編『芸術・スポーツ文化学研究2』大学教育出版,所収. 3 通訳として現地留学生の大平健介氏(平成25年度文化庁新進芸術家海外研修員,ミュンヘン音楽大学修士課程現代音楽科 在籍中)の協力を得た。 4 ヴュルツブルク音楽大学ホームページより http://www.hfm-wuerzburg.de/studium(2016年3月30日現在) 5 心身の不必要な緊張に気づき, これをやめていくことを学習する方法で,一般には,背中や腰の痛みの原因を改善,事故 後のリハビリテーション,呼吸法の改善,楽器演奏法,発声法や演技を妨げる癖の改善などに用いられる。より具体的な方 法については,以下の文献を参照されたい。 バーバラ・コナブル(2001)『音楽家ならだれでも知っておきたい「からだ」のこと―アレクサンダー・テクニークとボ ディー・マッピング―』(片桐ユズル,小野ひとみ訳) ,誠信書房. 6 ゾルターン・コダーイ(ハンガリーの作曲家)の子どものための教育用作品のことを指している。 7 括弧内のアルファベットは,出した音の音名を記した。 8 Hans-Günter Heumann, Little Amadeus Klavierschule,Bosworth Music,2009. Eiko Horikoshi-Atalay, Klavierschule für kleine Kinder,Piccolo-Musikverlag,1990. 9 ベルリンで使用されている教則本等の楽譜については,以下の文献を参照されたい。 松永加也子(2016)「ブランデンブルク工科大学ピアノペダゴジーコースと北海道教育大学岩見沢キャンパス『ピアノ指 導法』の比較研究―授業視察とインタビューから―」北海道教育大学岩見沢校芸術・スポーツ文化学研究編集部会編『芸術・ スポーツ文化学研究2』大学教育出版,所収.. (野呂 佳生 岩見沢校教授) (松永加也子 岩見沢校教授) (水田 香 岩見沢校教授) (寺田 貴雄 札幌校教授) . 333.
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