イメージマップを知識獲得を促進するための学習支援ツールとして利用する試み -中学校理科「水溶液」単元を事例として-
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第60巻 第2号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol.60,No.2. 平成22年2 月 February,2010. イメージマップを知識獲得を促進するための学習支援ツールとして利用する試み. 一中学校理科「水溶液」単元を事例として−. 相野 彰秀・森 健一郎*. 北海道教育大学大学院教育学研究科高度教職実践講座 *釧路市立幣舞中学校. ATrialApproach:ImageMappingTestastheWayof StudySupportingToolforKnowledgeAcquisition. −In CaseofMiddleSchooIScience−. KAYANOAkihideandMORIKen_ichiro* AdvancedTeacherProfessionalDevelopmentPrograms,GraduateSchoolofEducation,HokkaidoUniversityofEducation. *NusamaiLowerSecondarySchool,Kushiro. 概 要 今次学習指導要領の要請に応えるために,イメージマップ法を授業において学習者の知識獲得を促進する ための学習支援ツールとして開発し,試行授業で実践し,その有効性を質的に検討した。. その結果,イメージマップを学習支援ツールとして使用すると,学習者の科学的知識や学習内容や振り返 りに加え,学習者の学習意欲に関してもモニターできることが分かった。すなわち,学習者の認知面と情意 面の両方を推し量ることができるツールとして,イメージマップは理科学習の支援ツールとして位置づけら れる可能性が明らかになった〈. く用いられている。特に理科教育の分野において 問題の所在. イメージマップ・テスト(ImageMapTest: 以下,イメージマップと略)は本来,映像視聴能. は,授業評価ツールとしての有効性が小学校,中. 学校,高等学校における授業実践を通して明らか にされている2 ̄4)。. 力測定・評価ツールとして開発された1)。イメー. イメージマップは,ペーパーテストでは捉えき. ジマップは,鍵概念から連想した言葉を同心円上. れない学習者個人が持っている知識の要素として. に書いてそれらを線で結ぶだけで作成でき,初. のさまざまな体験や経験,知識,感情などの情報. 等・中等教育における授業評価ツールとしても広. を客体化し,手がかりとして知識の獲得状態を捉. 109.
(3) 相野 彰秀・森 健一郎. える方法として有効であることも報告されてい. することはできないのか,この点が筆者らが本研. る5・6)。これらの報告では,イメージマップが授. 究を構想した第一の問題意識である。. 業評価のためのツールだけではなく,学習者の知. ここで,イメージマップおよびコンセプトマッ. 識獲得のための学習支援ツールとして位置づけら. プを学習者の知識獲得のための支援ツールとして. れる可能性が述べられている。. 位置づけた,あるいは位置づけようとした諸論考. ところで,近年理科学習への認知論的研究の成 果によって,授業に伴って子どもたちの理解がど. を詳細に検討する。. 三宅は,イメージマップを学習者の知識獲得の. のように変容していっているのかを把握すること. ための支援ツールとしての使用可能性に言及した. の重要性が指摘されている7)。授業に伴う子ども. 報告を行っている15・16)。しかし,これらの報告. の理解を可視化させるツールの一つとして,“マッ. に共通するのは,単元学習における児童のイメー. ピング’’と呼ばれる作業化の手法が用いられてい. ジの変容過程に焦点を当てた分析を行っている点. る。“マッピング’’は,中心概念となる一つまた. である。単元の学習の結果,獲得すべき科学的概. は複数の言葉を中心にした語による蜘昧の巣のよ. 念や知識を抽出し,それに焦点を当てて,学習者. うなネットワーク上の知識表現の方法である。イ. の知識獲得のための支援ツールとしての考察はな. メージマップもコンセプトマップも“マッピング’’. されていない。. による作業化の手法として位置づけられてい. る8)。. コンセプトマップを学習者の知識獲得のための. 支援ツールとしての使用可能性に言及した報告. コンセプトマップはノヴァックらによって開発. は,福岡,笠井17)や斎藤,遠西18)の報告にみら. された手法である9)。コンセプトマップは,わが. れる。これらの報告に共通するのは,「副概念地図」. 国では,主に理科学習における学習者の科学的概. や「個人マップ」を単元の学習途中に書かせて,. 念構造の評価のために多く使われていると報告さ. 単元の学習途中で学習すべき命題が明確にされて. れている10・11)。加えて最近では,コンセプトマッ. いる点である。加えて,学習前後または学習後に. プを学習者の共同学習を支援するツールとして位. 一時間の授業時間全てをとって,コンセプトマッ. 置づけようとする試みが数多く報告されてい. プを書かせている点も共通している。しかしこれ. る12)。しかし,学習者の知識獲得のための支援. では,限られた授業時間内で教科書の内容全てを. ツールとして位置づけようとする報告は多くなは. 教え終えなければならない学校現場での授業への. い13・14). 適用は難しい。. 。. これらのことから,理科教育におけるイメージ. 加えて,コンセプトマップを書くためには,連. マップとコンセプトマップの利用状況について次. 想したり,想起したりすることに加え,それらの. のようにまとめられる。イメージマップは理科授. 関連を考えて階層的に書き表す2つの作業が必要. 業評価ツールとして多く利用されているが,学習. になる。その点イメージマップは,連想したり想. 者の知識獲得のための学習支援ツールとしての利. 起したりしたことを言葉として表す作業だけで作. 用はこれからの研究課題である。コンセプトマッ. 成できる。. プは,学習者の科学的概念構造評価または共同学. イメージマップを従来の授業評価ツールから,. 習を支援するツールとして多く利用され,かつ学. 学習者の知識獲得のための支援ツールとして利用. 習者の知識獲得のための学習支援ツールとしても. するために,コンセプトマップを用いた研究で用. 多くはないが利用されている。. いられた手法を参考にし,簡便な方法でマップ作. 現在主に,理科授業評価ツールとして利用され. 成ができるイメージマップを使い学習者の知識獲. ているイメージマップを,理科学習における学習. 得が図れないか,この点が筆者らが本研究に取り. 者の知識獲得のための学習支援ツールとして利用. 組んだ今ひとつの問題意識である。. 110.
(4) イメージマップを知識獲得を促進するための学習支援ツールとして利用する試み. そこで本研究では,従来理科授業の評価ツール. 2.試行授業を行った単元とその概要. として使用されていたイメージマップを,子ども. 試行授業を行った単元は中学校第1分野「水溶. の知識獲得を促進する学習支援ツールとして使用. 液」単元である。授業は全8時間で構成されてい. する定式化された方法を開発し,試行授業で実践. る。授業実践の対象者は公立中学校1年生1クラ. し,その試みの有効性を検討することを目的とし. ス34人(男子15人,女子19人)である。授業は2009. た。. 年2月中旬に行われた。表1に授業展開の概要を 示す。. Ⅰ.学習支援ツールとしてのイメージマップ. 表1 授業展開の概要. 1.開発の背景 平成20年に改訂された小学校および中学校学習. 鍵 時. 授業展開の概要. 概念. ・イメージマップ1を作ろう. 指導要領では,基礎的・基本的な知識・技能の育. ・身の回りで水に溶けているものにはど んなものがあるか,それらはどのよう な性質を持っているかについて話し合 おう. 成(いわゆる習得型の学習)と,これらの活用を 図る学習活動と探究活動(いわゆる探究型の学習). をバランスよく行うことが重要視された。 2. 市川は,子どもに基礎的・基本的な知識・技能. ろうか ・実験:水に溶ける物質の様子を調べよ. を育成すること,すなわち習得型の学習に対する け. 現実的な授業設計モデルを碇案している19)。市. ・固体の物質が水に溶けていくようすを まとめよう. 3. 川の碇案した習得型の学習の授業モデルは,予習 る. などによってこれからの学習課題の枠組みを予め. と比較しよう. 教え,これに基づいて子どもに学習課題を考えさ. ・水溶液から溶質を取り出す方法を話し 合おう ・イメージマップ3を作って,1,2の マップと比較しよう. 4. せる学習モデルである。言い換えると,予習など によって先行オーガナイザーを学習者に与えよう とするオーズベルによる有意味学習による枠組み. と捉えることができる20)。市川の碇案する枠組. 5. ・イメージマップ4を作ろう. 6. ・酸性,アルカリ性とは何か ・実験:酸性とアルカリ性の水溶液を調. みでの授業実践は,既に小学校の理科や算数など で先駆的な実践研究が行われている21・22)。 水. 学習前に,単元の学習内容に関する既有知識を イメージマップによって表現させ,学習途中及び. こ恵. 学習後に単元学習の学習内容の理解を表現させる. プと比較,検討させる。すなわち,学習者の既有 知識を学習内容に関係づけることで有意味学習を. 7. ベよう ・イメージマップ5を作って,4のマッ プと比較しよう ・酸性とアルカリ性の水溶液を混ぜ合わ せるとどうなるだろうか ・実験:酸性とアルカリ性の水溶液を混. 液 ぜ合わせてみよう. イメージマップを作成させる。その後イメージ マップを作成するごとに,それまで作成したマッ. つ. 8. ・中和,塩,中和と中性の違いを例をあ げて説明しよう ・イメージマップ6を作って,4,5の マップと比較しよう. 図ろうと構想しているのである。 イメージマップを子どもの知識獲得を促進する. 表1から分かるように,教科書に基づく「水溶. 学習支援ツールとして使用することで,基礎的・. 液」単元の授業にイメージマップを書かせる活動. 基本的な知識・技能の育成を重要視する今次学習. を導入し,書かせたイメージマップを比較させる. 指導要領の要請に応えようとするものである。. だけである。しかし,単元名こそ「水溶液」であ. るが,そこで取り扱われる科学的概念や知識には. 111.
(5) 相野 彰秀・森 健一郎. 前半の学習内容と後半の学習内容には差異点があ. いる。図1の場合は「水溶液」である。学習者は,. る。. 中心に配置された鍵概念から連想した言葉を同心. 単元学習の前半の部分は,溶質が水(溶媒)に 溶けた水溶液に関する知識および理解である。そ こで,生徒に書かせ,比較させるイメージマップ. 円の円周上に記入し,線で結ぶ。連想した言葉を “連想語”とい. う。連想語は直線的に書いてもい. いし,途中で枝分かれしてもよい。. の鍵概念は「とける」と設定した。水に溶ける物 質の様子を調べる実験後,水溶液に関する知識・ 理解の学習を終えた時期に加え,単元学習の前半. (2)イメージマップの書き方. 単元の授業に先立って行った,イメージマップ. 部分の学習全てを終えた時期の2回をイメージ. の書き方についての生徒への説明は次の通りであ. マップを比較させる時期とした。. る。なお,所用時間は約20分であった。. 一方,後半の単元学習の学習内容は,酸性ヤア. ルカリ性など,水溶液の液性に関する知識や理解 である。そこで,生徒に書かせ,比較させるイメー. ① 中心に善かれている言葉(鍵概念)を見て,. 最初に思い浮かんだ言葉(連想語1)を第一円 (一番内側の同心円)上に書く。. ジマップの鍵概念は「水溶液」と設定した。酸性. ② ①で書いた連想語1と鍵概念を線で結ぶ。. やアルカリ性の水溶液の性質を調べる実験後,水. (卦 鍵概念と第一円上に書いた連想語1を手がか. 溶液の液性に関する知識・理解の学習を終えた時. りにして,さらに思い浮かんだことを第二円(一. 期に加え,単元学習の後半部分の学習全てを終え. 番内側から2番目の同心円)上に書く(連想語. た時期の2回をイメージマップを比較させる時期. 2)。. ④ 第一円上に書いた言葉(連想語1)と第二円. とした。 なお,授業対象者は以前,授業評価のためのイ メージマップを一度描いている。. 上に書いた言葉(連想語2)を線で結ぶ。. ⑤ さらに外側の円に向かって同じ手順を繰り返 す。このとき,連想語は直線的に書いてもいい. 3.イメージマップの作成および比較手続き. し,途中で枝分かれさせてもよい。しかし,他. (1)イメージマップの概略. の場所に書いた連想語には線を結ばない。. 図1には,生徒の描いたイメージマップが示さ れている。. ⑥ 思い浮かばなくなったら終わり。または,鍵 概念から違うことを連想したり,書いたと思っ たら,その言葉に×をつけて終わり。. ⑦ また鍵概念に戻って,①からの手順を繰り返 す。. ⑧ 人の考えに大きく影響されるので,作成中に 他の人のマップを見ない。正解はないので自由 にのびのびと連想する。. (3)イメージマップの作成と比較 イメージマップ作成および比較の手続きは次の 通りである。 図1 イメージマップの例. ① イメージマップ1の作成 第1時の授業に入る前に,鍵概念「とける」が. イメージマップは,図1に示すような何重かの 同心円の中心に,鍵概念に当たる語句が記されて. 112. 記されたイメージマップを生徒に配布し,鉛筆を 用いて5分間でマップを作成させる。.
(6) イメージマップを知識獲得を促進するための学習支援ツールとして利用する試み. ② イメージマップ2の作成とイメージマップ 1,2の比較. る。 本稿では,このうち,生徒が自らが作成したマッ. 第3時の授業終了前に,鍵概念「とける」が記. プを比較し,自己の変容や気づいたこと,分かっ. されたイメージマップを生徒に配布し,青色の色. たことを自己評価した記録を丁寧に読み解くこと. 鉛筆を用いて5分間でマップを作成させる。次い. で,イメージマップの学習支援ツールとしての安. で,「2枚のイメージマップを比べてみよう」と. 当性を質的に検討した。. 題された用紙を生徒一人ひとりに配布する。これ までの授業を思い出しながら,2枚のマップを比 べて,授業内容に関連したことで,気がついたこ とや分かったことを5分間で書き出させる。特に,. 授業者が授業で何を教えようとしていたのかを考 えながら書かせる。以下,イメージマップ1,2 の比較は比較1と略。 ③ イメージマップ3の作成とイメージマップ. Ⅱ.試行授業の結果および考察 1.鍵概念が「とける」のイメージマップの比較 (1)記述内容全体を通して 鍵概念が「とける」のイメージマップの比較は,. 比較1および比較2の時期に2回行われた。比較 1では,33人の生徒がイメージマップを比較し,. 1,2,3の比較. 自己の変容や気づいたこと,分かったことを文章. 第4時の授業終了前に,鍵概念「とける」が記. で88記録した。同様に,比較2でも33人の生徒が. されたイメージマップを生徒に配布し,緑色の色. 72の文章を書いた。これらの文章をKJ法により. 鉛筆を用いて5分間でマップを作成させる。次い. 分類すると表2のように分類された23)。. で,「3枚のマップを比べてみよう」と題された. 表2より,生徒の記述は8類型に分類できるこ. 用紙を生徒一人ひとりに配布する。これまでの授. とが分かる。そのうち,類型Ⅰ∼Ⅳが単元の学習. 業を思い出しながら,3枚のマップを比べて,授. 内容に関連し,生徒の知識獲得の状態に分析・検. 業内容に関連したことで,気がついたことや分. 討を加えうる記述である。類型Ⅴ∼Ⅷは,学習内. かったことを5分間で書き出させる。特に,授業. 容とは直接関係しない記述である。. 者が授業で何を教えようとしていたのかを考えな. 単元の学習内容に関連し,生徒の知識獲得状態. がら書かせる。以下,イメージマップ1,2,3. に分析・検討を加えうる4つの類型とは「学習意. の比較は比較2と略。. 欲」,「学習内容の振り返り」,「科学的知識」,「科. イメージマップ4∼6に関しても,鍵概念が「水. 学的用語・学習内容」に関する記述がなされた文. 溶液」に変更されただけで,作成および比較の手. 章である。一方,学習内容とは直接関係しない4. 順は同様である。以下,イメージマップ4,5の. 類型とは「「とける」のイメージ」,「具体的な連. 比較を比較3,イメージマップ4,5,6の比較. 想語や連想語数,イメ. を比較4と略。. 意味内容が記述された文章に加え「無答」であ. ージの増減」,「その他」の. る。. Ⅱ.学習支援ツールとしてのイメージマップ の評価方法 イメージマップを学習前,学習途中,学習後の. 単元の学習内容に関連し,生徒の知識獲得状態 に分析・検討を加えうる類型Ⅰ∼Ⅳには,比較1 の時期にはのベ32人の生徒がのベ46の文章を,比 較2の時期にはのベ25人の生徒がのベ30の文章を. 時期に作成させ,それらを比較させると,授業に. 書いている。一方,学習内容とは直接関係しない. 伴って変容していくイメージマップに加え,それ. 類型Ⅴ∼Ⅷには,比較1の時期にはのベ37人の生. らを比較し,自己の変容や気づいたこと,分かっ. 徒がのベ42の文章を,比較2の時期にはのベ36人. たことを自己評価した記録が文章として残され. の生徒がのベ40の文章を書いている。. 113.
(7) 相野 彰秀・森 健一郎 表2 記述内容の分類とマップ比較時期,文章数および文章を書き出した人数. 文章数 書き出した人数 類型Ⅰ 類型Ⅱ 類型Ⅲ 類型Ⅳ 類型Ⅴ 類型Ⅵ 類型Ⅶ. 科学的知識 学習内容の振り返り. 23. 13. 8. 6. 18. 14. 9. 8. 0. 0. 2. 2. 11. 9. 学習意欲 科学的用語・授業内容 「とける」のイメージ 具体的な連想語や連想語数, イメージの増減 その他. イメージマップの比較時期を問わず,学習内容. 文章数 き出した人数. 5. 5. 11. 8. 24. 23. 5. 4. 4. 5. 30. 26. 5. 4. が各類型の文章の中に多く記述されていることに. とは直接関係しない類型Ⅴ∼Ⅷの文章を書いた人. は注目すべきである。このことは,イメージマッ. 数および文章数の方が多い。しかし,本研究は,. プのこの使い方の利点の一端が表されていると考. 教科書を用いた通常の授業に慣れている公立学校. えられる。. の生徒に初めてイメージマップを書かせる試行授. これらのことから,イメージマップを比較させ,. 業が実施されたものである。イメージマップを知. 生徒に自己の変容を可視化させることで,自分の. 識獲得のための促進ツールとして使う授業を重ね. 置かれている知識の状態が確認でき,自らの学習. て,生徒のイメージマップの使い方に関する理解. の成果が少なからず実感できたといえよう。. が深まるにつれ,類型Ⅴ∼Ⅷに属する記述は少な くなると考えられる。加えて,イメージマップの. 書き方や比較させるときの問いかけの方法や言葉. (2)科学的知識を記述した生徒の文章記述から. 生徒が自らが作成したイメージマップを比較. にも改良を加えることでも上述した類型の属する. し,自己の変容や気づいたこと,分かったことを. 記述は少なくなると考えられる。. 自己評価した文章記録のうち,類型Ⅰに属する文. これらのことから,のベ32人の生徒がのベ46の. 章が本試行授業において最も期待される文章であ. 類型Ⅰ∼Ⅳに分類される文章を,のベ25人の生徒. る。表2から,比較1においては,のベ13人の生. がのベ30の同じ類型の文章を2度のイメージマッ. 徒がのベ23の文章を書き,比較2の時期において. プを比較させた時期に書いたことで,概ね溶質が. はのベ6人の学習者が8の文章を書き出したこと. 水(溶媒)に溶けた水溶液に関する知識および理. が分かる。これらの文章を詳細に検討するために,. 解が深まった生徒が多いといえよう。. 表3に,類型Ⅰに分類された生徒の文章記述の例. だが,生徒の記述した文章を読むと,不適切ま. たは未熟な考えを表した文章も少なからず見られ. を示した。 表3中の生徒(34)「「とける」と書くものには. る。加えて,具体的な連想語や連想語数,イメー. 三つ種類があることがわかりました。その三つの. ジの数の増減だけに着目した文章が多いのも事実. 中の一つの「溶ける」がたいていわかりました。」. である。しかし,「分からない」などの否定的な. の記述は,イメージマップに善かれた鍵概念「と. 文章は皆無であり,数の増減だけに着目した文章. ける」の意図するところは「溶ける」であり,溶. の中でさえも「三枚やって,どんどん書いている. 質が水(溶媒)に溶けた水溶液に関する知識およ. ことが増えている。」などの前向きな評価や感想. び理解が生徒に獲得されたことが分かる24)。表. 114.
(8) イメージマップを知識獲得を促進するための学習支援ツールとして利用する試み 表3 類型Ⅰ:科学的知識を記述した生徒の文章記述の例. 3中の生徒(5),(11),(31)の記述も同様であ る。 生徒(30)「飽和という言葉や溶質,溶媒とか,. (3)学習内容の振り返りを記述した生徒の文章記 述から. 表2から,比較1においては,のベ14人の生徒. 理科で習ったことをきちんと理解できた3枚目で. がのベ18の文章を書き,比較2の時期においては. 特に。」の記述からは,水溶液や溶媒,溶質,あ. のベ8人の学習者が9の文章を書き出したことが. るいは飽和水溶液や溶解度,再結晶などの教科書. 分かる。これらの文章を詳細に検討するために,. に太字で表記されている科学的用語に関連する知. 表4に,類型Ⅲに分類された生徒の文章記述の例. 識および理解が獲得されたことが分かる。表3中. を示した。. の生徒(20)の記述も同様である。. しかし,記述の中には適切でない文章表現もみ られる。たとえば,生徒(16)は,「一度とけた. 表4中の生徒(8)「1枚目は意味不明な単語 が入っていたが,2枚目にはなかった。」や生徒 (19)「前に書いていたことも少し入れつつ,新. ものは冷やすと結晶が出てくる。」と記述してい. しい言葉もかけた。」の記述は,授業の進行とイ. る。この記述は,本単元の学習の文脈においては. メージマップの変容を重ね合わせて学習内容の振. 正しいが,一般的な物質全てに適用する場合その. り返りを記述した例である。生徒(22)「前はこ. 限りではない。これを克服するためには,イメー. れでいいのかな?と思いながら書いていたけど,. ジマップを比較させた次時の授業において,生徒. 今回は実験でやったからこうだろう。と思って. が書いた文章記述のうち,推薦される例を幾つか. さっさと書けるようになった。」の記述からは,. 生徒に紹介しながら,比較の視点と文章の書き方. 実験を機に自らの知識が獲得されたことが分か. に指導を加えるとともに,イメージマップの書き. る。生徒(13)「/ト学校で疑問に思ってた部分が. 方に関しても再確認をさせる指導を加える必要が. わかってうれしかった。」の記述からは,本時の. あると考えられる。この指導を繰り返すことで,. 学習内容と小学校時の学習内容がリンクされて理. 生徒の科学的知識の獲得がさらに確実に行われ,. 解されたことが分かる記述であり,理科学習内容. より質の高い類型Ⅰの文章を生徒が書き上げるこ. のスパイラル構造の一端が分かる記述である。. とができるであろう。. しかし,これらの記述からは何がどのように分 かったのか,あるいは分からなかったのかは不明. 115.
(9) 相野 彰秀・森 健一郎 表4 類型Ⅱ:学習内容の振り返りを記述した生徒の文章記述の例. である。この点に関しても,イメージマップを比. 学習課題として自らが認識したと考えられる。こ. 較させた次時の授業において,生徒が書いた文章. れは,イメージマップを比較したからこそ書くこ. 記述のうち,推薦される例を幾つか生徒に紹介し. とができる記述であろう。. て,振り返りの視点を具体的に生徒に与える指導. しかし,表2より,学習意欲に関連する記述を. を加える必要があると考えられる。この指導を繰. 書き出した生徒は比較2の時期にわずか2名で. り返すことで,学習内容の振り返りをより具体的. あったことも分かる。加えて,表5に示された学. に記述できる類型Ⅰの文章として生徒が書き上げ. 習意欲に関連する生徒の文章記述にも未熟な点が. ることが可能となるであろう。. 存在することも分かる。「とけるものには共通点 があるのか知りたい。」と書いた生徒(10)の意. (4)学習意欲を記述した生徒の文章記述から. 図は,水や溶媒に「溶ける」ものの共通点なのか,. 表2から,類型Ⅲの学習意欲に関連する記述を. 固体が「融ける」時の共通点なのか文章だけでは. 書いた生徒は比較2の時期に2人で,2項目を書. 不明である。. き出した。比較1においては学習意欲に関連する. この点は,イメージマップを知識獲得のための. 記述を書き出した生徒はいなかった。表5には,. 学習支援ツールとして授業で何度も使い,生徒に. 生徒の具体的な文章記述が示されている。. 慣れさせることで解消できると考えられる。なぜ. 生徒(13)「単語を覚えるようにしたい。」と善. ならば,自分自身が書いたイメージマップを比較. かれた文章からは,水溶液や溶媒,溶質,あるい. することは,自分自身の知識獲得の状態を可視化. は飽和水溶液や溶解度,再結晶などの教科書に太. することである。つまり,今自分が何が分かって. 字で表されている科学的用語の理解がこれからの. いて,何が分かっていないかをモニターすること. 表5 類型Ⅲ:学習意欲を記述した生徒の文章記述 性別 文章記述 時期. 文. 比較2 とけるものには共通点があるのか知りたい。. 116. 章. 記. 述.
(10) イメージマップを知識獲得を促進するための学習支援ツールとして利用する試み. である。自分自身の次なる学習課題を自分自身で. 「この単元で勉強したことを思い出してみよう。」. 見つけることができれば,本授業で用いられた鍵. とか「この単元で勉強したことをもう少し具体的. 概念「とける」の意図するところは「溶ける」で. に書いてみよう。」など,振り返りの視点を具体. あることに気づくのは容易であろうし,学習意欲. 的に生徒に与える指導を加える必要があると考え. も向上すると考えられる。. られる。この指導を繰り返し,比較の際に書く文. 章の見通しを生徒に与えることで,類型ⅢやⅢに (5)科学用語・授業内容を記述した生徒の文章記. 属する文章を書くことが期待できる。. 述から. 表2から,類型Ⅳの科学用語・授業内容に関連. (6)学習内容とは直接関係しない4類型を記述し. する記述を書いた生徒は比較1においては,のベ. た生徒の文章記述から. 5人の生徒がのベ5の文章を書き,比較2の時期. 類型Ⅴ∼Ⅷに分類された生徒の文章記述につい. においてはのベ9人の学習者がのベ11の文章を書. ては,類型Ⅵ「具体的な連想語や連想語数,イメー. き出したことが分かる。これらの文章を詳細に検. ジの増減」に分類された記述および,類型Ⅷ「無. 討するために,表6に,類型Ⅳに分類された生徒. 答」に分類された生徒について検討を加えたい。. 表2から,類型Ⅵに分類された記述を書いた生. の文章記述の例を示した。. 表6に示された4例と表には表されなかった残. 徒は比較1においては,のベ23人の生徒がのベ24. る文章との共通点は次の2点にまとめられる。第. の文章を書き,比較2の時期においてはのベ26人. 一に,科学用語を記している場合,それらが「金. の学習者がのベ30の文章を書き出したことが分か. 属」や「気体」など,本単元以外の理科学習に関. る。. 連する科学的用語である。第二に,授業内容が記. このことはイメージマップの比較の時期にかか. されている場合,それらは具体的な授業内容が表. わらず,生徒の関心の第一はイメージマップに書. された文章ではない。. き出された連想語数の増減にあることがいえる。. これらの文章も,イメージマップを比較して授. この点についても,イメージマップを知識獲得の. 業を振り返り,気づいたことを書こうとした思考. ための促進ツールとして使う授業を重ねて,生徒. の過程があるからこそ,他の単元の学習内容を想. のイメージマップの使い方に関する理解が深まる. 起したり,授業で行われたことを具体的な記述と. につれ,類型Ⅵに属する記述は少なくなると考え. してではないが記したと考えられる。教科書を使. られる。. 用した通常通りの授業であると,これらのことさ. 表7には,類型Ⅷ「無答」に属する生徒の3枚 のイメージマップの記述の有無と比較1および比. え行われないであろう。. この点に関しても,イメージマップを比較させ. 較2の文章記述の有無が示されている。. た次時の授業において,生徒が書いた文章記述の. 表7より,生徒(6)はイメージマップ1,2 は作成したが,イメージマップ3および比較1,. うち,推薦される例を幾つか生徒に紹介しながら,. 表6 類型Ⅳ:科学的用語・授業内容を記述した生徒の文章記述の例 文章記述 時期. 文. 章. 記. 述. 比較1 2枚とも,金属に関係することが入っていた。 授業で実験したことがかけた。 気体のことが多い。. 117.
(11) 相野 彰秀・森 健一郎 表7 無答の時期とイメージマップの記述 番号. イメージマップ1 イメージマップ2 の記述 の記述. 6. あり. 14. あり. イメージマップ3. 比較1. の記述. の記述. 比較2. の記述 なし. あり. なし. あり. あり. 2における2度の文章記述は行わなかったことが. 文章を,比較4の時期にはのベ37人の生徒がのベ. 分かる。生徒(14)は,比較1における文章記述. 48の文章を書いていることが分かる。一方,学習. を,生徒(25)は比較2における文章記述を行わ. 内容とは直接関係しない類型Ⅴ∼Ⅷには,比較3. なかったことが分かる。. の時期にはのベ22人の生徒がのベ23の文章を,比. 生徒(6)は,イメージマップを作成した場合 でも連想語数が少なかった。イメージマップを比 較して文章記述のしかたが分からなかったのか,. 較4の時期にはのベ34人の生徒がのベ43の文章を 書いていることが分かる。. 比較3および比較4の時期とも,学習内容とは. あるいは文章でうまく表現できなかったのかは不. 直接関係しない類型Ⅴ∼Ⅷの文章を書いた人数お. 明なので,面接調査などを行って詳細に現状を把. よび文章数の方が多いのは,鍵概念が「とける」. 握する必要がある。しかし,他の2人の生徒は,. のイメージマップの比較と同様の傾向である。こ. ある程度詳細なイメージマップを書いているし,. の点については,鍵概念が「とける」と同様に,. 筆者らがみてイメージマップにも変容が認められ. 授業を重ねることによって類型Ⅴ∼Ⅷに属する記. る。イメージマップを知識獲得のための促進ツー. 述は少なくなると考えられる。. ルとして使う授業を重ねて,生徒のイメージマッ. しかし,鍵概念が「水溶液」のイメージマップ. プの使い方に関する理解を深めさせ,自己の変容. の比較の場面では,類型Ⅴの「水溶液」に対する. に気づかせ,確認させることで文章記述ができる. イメージを書いた記述は見られなかった。鍵概念. ようになると考えられる。. が「とける」に比べて「水溶液」は,生徒にとっ て具体的にイメージできるからこの類型が少なく. 2.鍵概念が「水溶液」のイメージマップの比較. なったのかもしれない。この点については別途さ. (1)記述内容全体を通して. らに詳しい調査と分析が必要であると考えられ. 鍵概念が「水溶液」のイメージマップの比較も,. る。だが,鍵概念の与え方によって,生徒の記述. 比較3および比較4の時期に2回行われた。比較. に差異が認められたことは少なくともいえ,今後. 3では,34人の生徒がイメージマップを比較し,. の授業実践における鍵概念の設定の仕方の参考と. 自己の変容や気づいたこと,分かったことを文章. なった。. で63記録した。同様に,比較4でも34人の生徒が. これらのことから,のベ28人の生徒がのベ40の. 91の文章を書いた。これらの文章が鍵概念「とけ. 類型Ⅰ∼Ⅳに分類される文章を,のベ37人の生徒. る」で分類された類型Ⅰ∼Ⅷのどれに相当するか. がのベ48の同じ類型の文章を2度のイメージマッ. との観点で分類すると表8のようにまとめられ. プを比較させた時期に書いたことで,概ね酸性や. た。なお,今回の鍵概念は「水溶液」なので,分. アルカリ性など,水溶液の液性に関する知識や理. 類Ⅴは「「水溶液」のイメージ」となる。. 解が深まった生徒が多いといえよう。. 表8より,単元の学習内容に関連し,生徒の知. だが,生徒の記述した文章を読むと,不適切ま. 識獲得状態に分析・検討を加えうる類型Ⅰ∼Ⅳに. たは未熟な考えを表した文章が少なからず見られ. は,比較3の時期にはのベ28人の生徒がのベ40の. るのも鍵概念が「とける」の時と同様の傾向であ. 118.
(12) イメージマップを知識獲得を促進するための学習支援ツールとして利用する試み 表8 記述内容の分類とマップ比較時期,文章数および文章を書き出した人数. 文章数 書き出した人数 類型Ⅰ 類型Ⅱ 類型Ⅲ 類型Ⅳ 類型Ⅴ 類型Ⅵ 類型Ⅶ. 科学的知識 学習内容の振り返り 学習意欲 科学的用語・授業内容 「水溶液」のイメージ 具体的な連想語や連想語数, イメージの増減 その他. 文章数 き出した人数. 4. 3. 7. 15. 10. 15. 9. 0. 0. 7. 6. 21. 15. 15. 15. 0. 0. 0. 0. 23. 19. 40. 28. 0. 0. 3. 3. る。加えて,具体的な連想語や連想語数,イメー. 溶液」の意図するところである酸性やアルカリ性. ジの数の増減だけに着目した文章が多いのも同様. など,水溶液の液性に関する知識や理解が生徒に. である。しかし,「分からない」などの否定的な. 獲得されたことが分かる。表9中の生徒(16)の. 文章は皆無であり,数の増減だけに着目した文章. 記述も同様である。. の中でさえも生徒(27)の「最初がとても少なかっ. 生徒(20)「リトマス紙を使って∼性か調べたり,. た,どんどん数が多くなっていることが分かっ. ∼液を使って∼は,∼色になるとかが分かった。」. た。」などの前向きな評価や感想が類型Ⅵに分類. の記述からは,水溶液の液性を調べる指示薬と液. された全文章のうち24の文章に記述されているこ. 性の変化に伴って変わる指示薬の色に関する学習. とには注目すべきである。このことは,イメージ. 内容に関連する知識および理解が獲得されたこと. マップのこの使い方の利点の一端が表されている. が分かる。. と考えられる。 これらのことから,鍵概念が「とける」のイメー. しかし,記述の中には適切でない文章表現もみ られる。たとえば,生徒(16)は,「水溶液には. ジマップの比較における記述全体を通しての結果. 結晶がとけていて,それを取り出すことができ. および考察と同様の成果が得られたと考えられ. る。」と記述している。この記述内容は,鍵概念. る。. が「とける」のイメージマップを比較したときの 学習内容が表されている。これを克服するために. (2)科学的知識を記述した生徒の文章記述から. 表8から,比較3においては,のベ3人の生徒. は,イメージマップを比較させた次時の授業にお いて,生徒が書いた文章記述のうち,推薦される. がのベ4の科学的知識が記述された文章を書き,. 例を幾つか生徒に紹介しながら,比較の視点と文. 比較4の時期においてはのベ7人の生徒が11の同. 章の書き方に指導を加えるとともに,イメージ. 様な文章を書き出したことが分かる。これらの文. マップの書き方に関しても再確認をさせる指導を. 章を詳細に検討するために,表9に,類型Ⅰに分. 加える必要があると考えられる。この指導を繰り. 類された生徒の文章記述の例を示した。. 返すことで,今の学習の対象となっている生徒の. 表9中の生徒(13)「水は水でもいろんな水が. 科学的知識の獲得がさらに確実に行われ,より質. あることが分かった。特に水溶液になると中性,. の高い類型Ⅰの文章を生徒が書き上げることがで. 酸性,アルカリ性と3種類に分かれている」の記. きるであろう。. 述からは,イメージマップに善かれた鍵概念「水. これらのことから,鍵概念が「とける」のイメー. 119.
(13) 相野 彰秀・森 健一郎 表9 類型Ⅰ:科学的知識を記述した生徒の文章記述の例. ジマップの比較における科学的知識が記述された. の実験で,水酸化ナトリウムや,塩酸の性質や,. 文章記述の結果および考察と同様の成果が得られ. 実験で出てきた,結果についてもきちんと,二枚. たと考えられる。. 目は書けていたと思う。」および比較4「塩化0 0の学習をしたからちゃんと書いた。」の記述は,. 授業の進行とイメージマップの変容を重ね合わせ. (3)学習内容の振り返りを記述した生徒の文章記 述から. て学習内容の振り返りが記述された例である。. 表8から,比較3においてはのベ10人の生徒が. 生徒(20)「前やった溶液とか溶媒とかも合わ. のベ15の学習内容を振り返る内容の文章を書き,. さってたくさんかけたと思いました。」,生徒(19). 比較4の時期においてはのベ9人の学習者が15の. 「特に最初の方にならった飽和などの言葉を忘れ. 同様な文章を書き出したことが分かる。これらの. ていた。」の記述からは,本時の学習内容と直前. 文章を詳細に検討するために,表10に類型Ⅲに分. に学習した単元の学習内容がリンクされて理解さ. 類された生徒の文章記述の例を示した。. れたことが分かる記述である。. 表10中の生徒(30)の比較3「リトマス紙など. 生徒(21),(30),(20)はそれぞれ次のように. 表10 類型Ⅱ:を学習内容の振り返り記述した生徒の文章記述の例 文章記述. 時期. 文. 章. 記. 述. 比較3 二枚目には実際に実験をしてわかったことが書けた。. 1枚目には,まだ実験はまだしていなかったので教科書で習った言葉が書いてあった。 前やった溶液とか溶媒とかも合わさってたくさんかけたと思いました。 比較3 でも,自分はまだ,水溶液について,まだ理解できていないと思う。. 比較3. リトマス紙などの実験で,水酸化ナトリウムや,塩酸の性質や,実験で出てきた,結果につい. てもきちんと,二枚目は書けていたと思う。. 今回より2回目の方が今の単元の語句が多く入っている。. 特に最初の方にならった飽和などの言葉を忘れていた。 初めは水溶液の意味が全然分からなかったけどを少しわかった。 塩化00の学習をしたからちゃんと書いた。けど,それについてのつながりが全然わかんなかっ た。. 120.
(14) イメージマップを知識獲得を促進するための学習支援ツールとして利用する試み. 書いている。「でも,自分はまだ,水溶液について,. 生徒の具体的な文章記述の例が示されている。. まだ理解できていないと思う。」,「塩化00の学. 生徒(19)「何が酸性で何がアルカリ性などの. 習をしたからちゃんと書いた。けど,それについ. 区別をはっきりできるようにしたい。」と善かれ. てのつながりが全然わかんなかった。」,「初めは. た文章からは,水溶液の種類とその液性の関連の. 水溶液の意味が全然分からなかったけどを少しわ. 理解がこれからの学習課題として認識されたと考. かった。」これらの記述は,類型Ⅲに属する文章. えられる。生徒(30)の文章からは,指示薬に関. のうち本試行授業において最も期待される文章で. する理解がこれからの学習課題として認識された. ある。すなわち,分かったにしても分からないに. と考えられる。これらは,イメージマップを比較. してもそのレベルを学習者自らがモニターできて. したからこそ書くことができる記述であろう。. いるのである。メタ認知やメタ学習が機能し始め. しかし,表8より,学習意欲に関連する記述を. ていると考えられないだろうか。加えて,数は多. 書き出した生徒は比較4の時期に6名であったこ. くはないがこれらの記述を生徒が書き始めたこと. とも分かる。加えて,表8に示された学習意欲に. は,鍵概念が「とける」に続いて,「水溶液」を. 関連する生徒の文章記述にも未熟な点が存在する. 鍵概念として作成させ,比較させることで,イメー. ことも分かる。「全部は出てきていないので,頭. ジマップを知識獲得のための促進ツールとして使. に出てくるようにしておきたい。」と書いた生徒. う授業の趣旨が生徒に浸透してきたと考えられ. (27)の意図は,学習課題の何が出てきていない. のか,この文章だけでは不明である。. る。. これらのことから,イメージマップのこの使い. この点から,鍵概念が「とける」のイメージマッ. プの比較における学習意欲が記述された文章記述. 方の利点の一端が再確認できたと考えられる。 しかし,何がどのように分かったのか,あるい. の考察と同様の取り組みの必要性が分かる。. は分からなかったのかが不明な文章もある。鍵概. これらのことから,鍵概念が「とける」のイメー. 念が「とける」のイメージマップの比較における. ジマップの比較における学習意欲が記述された文. 科学的知識が記述された文章記述の考察と同様の. 章記述の結果および考察と同様の成果が得られた. 取り組みの必要がある。. と考えられる。. (4)学習意欲を記述した生徒の文章記述から. (5)科学用語・授業内容を記述した生徒の文章記. 表8から,類型Ⅲの学習意欲に関連する記述を. 述から. 書いた生徒は比較4の時期に6人で,7項目を書. 表8から,類型Ⅳの科学用語・授業内容に関連. き出した。比較3においては学習意欲に関連する. する記述を書いた生徒は比較3においては,のベ. 記述を書き出した生徒はいなかった。表11には,. 15人の生徒がのベ21の文章を書き,比較4の時期. 表‖ 類型Ⅲ:学習意欲を記述した生徒の文章記述の例 文章記述 時期. 文. 章. 記. 述. 比較4 テストで点数がとれるようになりたい。 春休みに復習をしないとやばい。 何が酸性で何がアルカリ性などの区別をはっきりできるようにしたい。 もっと復習しなきゃって思った。. 全部は出てきていないので,頭に出てくるようにしておきたい。. 121.
(15) 相野 彰秀・森 健一郎. においてはのベ15人の学習者がのベ15の文章を書. を書き出したことが分かる。. き出したことが分かる。これらの文章を詳細に検. イメージマップの比較の時期にかかわらず,生. 討するために,表12には,類型Ⅳに分類された生. 徒の興味関心の第一はイメージマップに書き出さ. 徒の文章記述の例を示した。. れた連想語数の増減にあることがいえ,鍵概念が. 表12に示された4例と表には表されなかった残. 「とける」と同様の傾向を示した。. る文章との共通点は次の2点にまとめられる。第. 表13には,類型Ⅷ「無答」に属する生徒の3枚. 一に,科学用語が記されている場合,それらが「酸. のイメージマップの記述の有無と比較3および比. 性」や「アルカリ性」など,本単元の学習内容そ. 較4の文章記述の有無が示されている。. 表13より,生徒(2)はイメージマップは全て. のものの科学的用語が善かれている。第二に,授. 業内容が記されている場合,それらは具体的な授. 作成したが,イメージマップ4,5,6を比較す. 業内容が表された文章ではない。. る比較4のみ記述し,比較3では文章記述は行わ なかったことが分かる。生徒(6)は,イメージ. これらのことから,鍵概念が「とける」のイメー. ジマップの比較における学習意欲が記述された文. マップ5,6を作成し,イメージマップ4の作成. 章記述の結果および考察と同様の成果が得られた. は行わず,比較3,4における2度の文章記述は. と考えられる。. 行わなかったことが分かる。生徒(25)は,イメー. ジマップは全て作成したが,比較3,4における 2度の文章記述はともに行わなかったことが分か. (6)学習内容とは直接関係しない4類型を記述し た生徒の文章記述から. る。. 類型Ⅴ∼Ⅷに分類された生徒の文章記述につい. 鍵概念が「とける」の時にも比較の記述の一部. ては,類型Ⅵ「具体的な連想語や連想語数,イメー. または全部がなかった生徒(6)と生徒(25)が,. ジの増減」に分類された記述および,類型Ⅷ「無. 今度も同様な傾向を示した。. 生徒(6)のように,イメージマップを作成し. 答」に分類された生徒について検討を加えたい。. た場合でも連想語数が少なく,かつ文章記述もう. 表8から,類型Ⅵに分類された記述は比較3に おいては,のベ19人の生徒がのベ23の文章を書き,. まく表現できていないタイプの子どもは,イメー. 比較4の時期においてはのベ28人がのベ40の文章. ジマップの比較を一度させると見つけ出すことが. 表12 類型Ⅳ:科学的用語・授業内容を記述した生徒の文章記述の例 文章記述. 文. 時期. 章. 記. 述. 比較3 前回と同じで塩酸が書けていた。 実験で使ったものがかけた。 三枚ともに「水」,「液体」,「透明」が書いてあった。. 表13 無答の時期とイメージマップの記述 番号. 122. イメージマップ4 イメージマップ5 の記述 の記述. 2. あり. 6. なし. 比較3. の記述. イメージマップ6. の記述. 比較4 の記述 あり. あり. なし. あり. なし.
(16) イメージマップを知識獲得を促進するための学習支援ツールとして利用する試み. できる。イメージマップを行う活動の時,このタ. の連想語数の増減や連想語数の属する類型の変. イプの子どもを見つけたら,類型Ⅳに属する文章. 容,あるいは連想系列の変容などに対しての量的. が書かせるような指示を行い,授業後には,面接. な検討は,紙幅の都合で加えられていない。今後,. 調査などを行って詳細に現状を把握して指導する. ノ稿を新たにしてこれらの点を分析検討し,報告し. 必要がある。. たい。. しかし,生徒(25)のようなタイプの子どもは,. その他,イメージマップを知識獲得を促進する. 容易に見つけ出すことが難しいと考えられる。何. ための支援ツールとして定式化するためのマップ. 度も,イメージマップを比較させる授業を行い,. の書かせ方や比較の際の問いかけなどに課題が見. イメージマップは書いたがなぜ文章表現を行わな. られるように思われた。この点については,イメー. かったのかを別途面接調査などを行って子どもの. ジマップに量的に分析検討を加えた報告において. 実態を把握し,これらのタイプに属する子どもに. 総合的に考察を加えたい。. 対する指導方針を見つける必要がある。. 表13の検討は,イメージマップを比較させる授 業展開を一度だけ行ったのでは見逃した無答のタ. 今後,実践研究の対象を中学校理科から小学校 理科にまで広げ,筆者らが碇案した枠組みでのイ メージマップの利用の有効性を検討したい。. イプの子どもを見つけ出すことになった。この面 からも,イメージマップを知識獲得のための促進 註. ツールとして使う授業を重ねて,生徒のイメージ マップの使い方に関する理解が深め,自己の変容 に気づかせ,確認させることで文章記述ができる 学習活動の重要性が再確認された。. ⊥)水越敏行,吉崎静夫,三宅正太郎:「映像視聴能力 の形成と評価に関する実証的研究」,『放送教育研究』, Vol.10,pp.1−20,1980. 2)相野彰秀,相野浩未:「“先行学習”の有効性 一第 6学年「電磁石」単元を例として−」,『初等理科教育』,. 結 語. Vol.40,No.11,pp.36−39,2006,(社)農山漁村文化 協会.. イメージマップを,知識獲得を促進するための 学習支援ツールとして利用する試みの授業実践を 終え,生徒が作成したマップを比較し,自己の変. 容や気づいたこと,分かったことを自己評価した 記録に質的検討を加えた。その結果,学習者の科. 学的知識や学習内容や振り返りに加え,学習者の 学習意欲に関してもモニターできることが分かっ た。すなわち,学習者の認知面と情意面の両方を. 推し量ることができるツールとして,イメージ マップは理科学習の支援ツールとして位置づけら れる可能性が明らかになったといえる。. この視点からは,筆者らが提案した枠組みでの イメージマップの学習支援ツールとしての開発の ねらいは十全に達せられたように思われる。 しかし,本稿では,学習者がイメージマップを. 3)相野彰秀,森健一郎:「いろいろなエネルギーを実 感をもって理解させる中学校理科実験教材の開発−「屋 台方式」による実験授業を通して−」,『エネルギー・. 環境教育研究』,Vol.3,No.2,pp.11−18,2009. 4)相野彰秀,山王憲雄,柴一美,田中春彦:「エネル. ギー・環境教育的アプローチを導入した高等学校化学 に関する実践的研究」,『科学教育研究』,Vol.24,No.1, pp.40−48,2000. 5)三宅正太郎:「学習者の知識獲得状況を記述する一 方法としてのイメージマップテストについて」,『日本. 科学教育学会研究報告』,Vol.1,No.3,1987. 6)三宅正太郎:「教育評価道具としてのイメージマッ ピングテストについて」,『日本科学教育学会研究報告』,. Vol.15,No.3,pp.39−43,2000. 7)堀哲夫,森本信也訳:『子ども達はいかに学習し教 師はいかに教えるか』,1990,東洋館出版社. 8)塚田泰彦:『語彙力と読書』,p.152,2001,東洋館 出版社.. 9)J.Dノヴァック,D.B.ゴーウイン著,福岡俊行,. 比較し,自己評価した記録に質的な検討を加えた. 弓野憲一訳:『子どもが学ぶ新しい学習法一概念地図. に過ぎない。学習者の書き出したイメージマップ. 報によるメタ学習−』,1992,東洋館出版社.. 123.
(17) 相野 彰秀・森 健一郎 10)山口悦司,稲垣成哲,福井真由美,舟生日出男:「コ ンセプトマップ:理科教育における研究動向とその現. 代的意義」,『理科教育学研究』,Vol.43,No.1,pp. 29−51,2002.. 11)学習者の科学的概念構造の評価に関する報告はたと えば,森田裕介,中山実,清水康敬:「コンセプトマッ プを用いた学習者変容の分析方法に関する ▲検討」,『科. 学教育研究』,Vol.23,No.2.pp.98−105,1999.など である。 12)学習者の共同学習を支援するツールとして活用する 立場からの報告はたとえば,稲垣成哲,舟生日出男, 山口悦司:「再構成型コンセプトマップ作成ソフトウ エアの開発と評価」,『科学教育研究』,Vol.253,No.5, pp.304−315,2002.などである。 13)福岡敏行,笠井恵:「理科学習における概念地図作. り(CONCEPTMAPPING)の有効性に関する一考察 −6学年児童の「水溶液の性質」概念の形成において. −」,『日本理科教育学会研究紀要』,Vol.32,No.1, pp.67−75,1991. 14)斎藤裕一郎,遠西昭寿:「コンセプトマップにおけ るノード圧縮とその効果−メタ認知・メタ学習のツー ルとして活用するために−」,『理科教育学研究』, Vol.49,No.2,pp.19−27,2008. 15)前掲書6),2000. 16)二宅正太郎:「教授・学習過程における評価システ ムの開発に関する研究(1)」,『研究報告集録』, pp.128−146,1983,大阪府科学教育センター. 17)前掲書13),1991. 18)前掲書14),2008. 19)市川伸一:『学ぶ意欲とスキルを育てる』,2006,小 学館.. 20)D.P.Ausubel,F.G.Robinson,SchooILearning,Holt RinehartWinston,1969. 21)鏑木良夫:『理科を大好きにするラクラク予備知識 の与え方』,2004,学事出版. 22)市川伸一,鏑木良夫:『教えて考えさせる授業(小 学校)』,2007,図書文化社. 23)川喜田二郎:『発想法』,1967,中央公論社. 24)文章中および表中の(24)などの()つき数字は, 被験者34名中の通し番号である。. (相野 彰秀 大学院教育学研究科准教授) (森 健一郎 釧路市立幣舞中学校教諭). 124.
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