Title
ソーシャルワークの支援を必要とする人の意向確認に関
する困難 : 地域包括支援センターの実践に焦点をあてて
Author(s)
玉木, 千賀子; 金, 蘭姫
Citation
地域研究 = Regional Studies(18): 101-110
Issue Date
2016-09
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/20787
地域研究 №18 2016年9月 101-110頁
The Institute of Regional Studies, Okinawa University Regional Studies №18 September 2016 pp.101-110
* 沖縄大学人文学部福祉文化学科 ** 沖縄大学人文学部福祉文化学科
ソーシャルワークの支援を必要とする人の意向確認に関する困難
─地域包括支援センターの実践に焦点をあてて─
玉木千賀子
*・金 蘭姫
**Difficulties in confirming the intentions of people requiring
social work support
-Focusing on practices at comprehensive community support centers-
TAMAKI Chikako, Kim NanHee要 旨 本研究の目的は,地域包括支援センターのソーシャルワーク実践に着目して,ソーシャルワーク 実践者が支援を必要とする人の意向確認をおこなう際に生じる困難を明らかにすることである.地 域包括支援センターの実践者にインタビュー調査を実施し,質的研究法の定性的コーディングを用 いた分析をおこなった.分析の結果,地域包括支援センターのソーシャルワーク実践で生じる意向 確認の難しさには,「地域コミュニティとの隔絶」,「相手の求めに応じる」,「相手が発するサイン」, 「閉ざされた居住環境」というアクセシビリティの保障に関する難しさ,「被支援者の認識するニー ズの理解」,「ニーズ認識の不一致」,「家族の認識」,「地域社会の援助観」というニーズ共有の難し さが生じていることが明らかになった. キーワード:ソーシャルワーク,地域包括支援センター,意向確認,アクセシビリティ,ニーズ Ⅰ.研究背景と目的 1.研究の背景 日本の社会は,少子化・高齢化,規制緩和に伴う就労形態の多様化や所得の格差,これら が関係し合って生じる社会的紐帯の脆弱化によって,孤立や生活困窮などの問題が深刻に なってきている.しかし,このような状況には,これまでのような社会福祉制度を中心とし た契約に基づく支援では対応が難しく,それに代わる取り組みが模索されている. このことに関係した報告(社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する
検討会 2000)や提言(日本学術会議第18期社会福祉・社会保障研究連絡委員会 2003,これ からの地域福祉のあり方に関する研究会 2008)によれば,契約に基づく社会福祉サービス の提供方式が導入されたことにより,サービスの利用意志が明確な人にとっては必要な支援 が得やすくなったが,一方で情報弱者や社会的弱者といわれる人など,支援に結びつきにく い人々や既存の制度・サービスでは対応困難な社会生活課題をもつ人々が顕在化していると 述べて,社会生活課題の発見や早期対応,個別性が高く公的なサービスでは対応困難な社会 生活課題に対しては,住民による支援の形成が必要であると指摘している. 支援に結びつきにくい人々には,従来ソーシャルワークが主流として位置づけてきたカウ ンセリング的ソーシャルワークによる対応では不十分である(玉木 2016).今日のソーシャ ルワーク実践には,社会生活課題をもちながらも支援を求めることができない人の発見や, 課題認識が乏しい人に対して,支援者の側が積極的に働きかける,アウトリーチを志向した 支援が必要になる.併せて,支援を必要としているにもかかわらず,意向が確認しにくい人 に対する意向確認への対応が求められている. 意向の確認が困難な場合であっても,個人の特性を踏まえてその意向を適切に捉えること は,個人の尊厳というソーシャルワークの価値を具体化するという重要な意味合いをもつ. しかし,個人の理解とその尊厳のあり方についての教育や研究に十分に取り組んでこなかっ たにもかかわらず,ソーシャルワークの価値やアドボカシーを論じてきたという点の曖昧さ が問われている(大橋 2007:169).これらのことから,個人の意向のとらえ方や対応のあ り方を考えることは,ソーシャルワークの学問および実践の意義に結びつく重要なテーマで あると考える. 2.先行研究 ソーシャルワークにおける意向確認の研究は,障害者福祉領域を中心におこなわれており, その研究の多くは,意向確認の課題提起に関するものである.そこで示されている課題には, 支援者の価値観・認識に関すること,利用者中心の支援や生活モデル,社会的包摂の視点か らの検討などのソーシャルワークの基本原理に関する内容が提起されている1) . 意思決定やその確認のあり方など意向確認の方法に関する研究蓄積は乏しいが,近年では, 重度知的障害者の段階的意思決定支援の方法(柴田 2012)2)や言語コミュニケーションの可 否と意思決定支援の方法(北野 2015)3) についての研究がおこなわれている. 3.地域包括支援センターのソーシャルワーク実践と意向確認 2006年に高齢者を対象とした総合相談,介護予防の中核機関として創設された地域包括支 援センターは,2012年の制度改正により,地域包括ケア推進の機能が位置づけられ,多機関・ 多職種連携,住民を巻き込んだ支え合いのしくみづくりなど, 地域福祉の視点からの役割が 期待されるようになった. 高齢者の個別的支援に関しては,契約に基づくサービス提供の支援は主に居宅介護支援事 業所の介護支援専門員がおこない,先述のような契約に馴染まない人に対しては,地域包括
支援センターが支援を担っている.このことから,地域包括支援センターのソーシャルワー ク実践には,自ら支援を求めない人,支援を利用するための情報が乏しい人など,支援を必 要とする人の意向確認の難しさという実践上の課題が生じていることが推測される. 4.研究の目的と意義 以上をふまえ,本研究は,ソーシャルワークの支援を必要とする人4) の意向確認に関す る実践上の困難を明らかにするために,地域包括支援センターのソーシャルワーク実践に焦 点化して,支援を必要とする人の意向確認にどのような困難が生じているのかという点を探 索することを目的とする. 本研究は,地域包括支援センターのソーシャルワークに限定し,意向確認の困難を捉える ことを目的とした探索的研究である.先述したように,今日の社会においては,意向の確認 がしにくい人へのソーシャルワークが広く求められていることから,属性を越えたソーシャ ルワークにおける意向確認のあり方を明らかにすることが必要である.しかしながら,生活 に支援を必要とする高齢者の増加,とりわけ認知症の状態にある高齢者の支援の必要性を鑑 みると,高齢者のソーシャルワークにおける意向確認の困難を明らかにすることは重要な検 討課題であると考える. Ⅱ.研究方法 1.研究対象 対象は,沖縄県那覇市の地域包括支援センターおよび社会福祉協議会で地域住民の自立生 活支援の実践に携わるソーシャルワーク実践者16人(女性10人,男性6人)である6) .調査 対象者の決定に際しては,①地域住民の自立生活支援の実践に携わっていること,②実践の 現状や課題について語ることができること,③調査協力者の基礎資格は問わない, という要 件を提示して調査対象者を募り,協力の承諾を得た. 2.データ収集および分析 データの収集にはグループ・インタビュー法(安梅 2001)に基づいて,16人の調査対象 者を4つのグループに分けて半構造化インタビューを実施した.質問項目は「地域住民との 関わりの状況」「地域住民との関わりのなかでの課題」「行政との関わりの状況」「行政との 関わりのなかでの課題」を設定し,これらの項目に狭く限定せず,関連する内容に関しても 自由に語ってもらってよいことを伝えた.インタビューは2014年9月から2015年2月までの 期間に実施し,インタビューに要した時間は,各グループ1回,1時間30分程度であった. 3.分析方法 分析方法については,佐藤(2008)の質的データ分析法を用いた.最初に,逐語記録に変 換したインタビューデータから,地域包括支援センターのソーシャルワーク実践者の語りの 部分を抽出し,意味内容別に分けてコードをつけ,それをカテゴリー別に分類した.分類し たデータは,調査対象者に確認をおこない,分析の妥当性の確保につとめた.
4.倫理的配慮 日本社会福祉学会研究倫理指針に基づいて倫理的配慮をおこなった.調査対象者には文書 および口頭で調査目的,個人情報の保護,データの取り扱い,公表の許可などを説明し,同 意を得た. Ⅲ.研究結果 データ分析の結果,地域包括支援センターのソーシャルワーク実践で生じる意向確認に関 する困難は,「アクセシビリティの保障」「ニーズの共有」のカテゴリーに整理することがで きた.これらの項目の整理に至った根拠となるデータおよびそれをコード化した内容を表1 に示した. 1.アクセシビリティの保障 支援を必要としている人は自らのニーズを自覚し,積極的に支援を求めてくるとは限らな い.支援が必要であっても,何らかの理由で支援を求めることが困難な場合もある.そのよ うな状況は,支援者の側からみれば,意向の確認の難しさとなってあらわれてくる.この難 しさを「地域コミュニティとの隔絶」,「相手の求めに応じる」,「相手が発するサインに気づ く」,「閉ざされた居住環境」の4つのコードに分類した.これらのコードは,支援へのアク セスのしやすさの問題と捉えることができると考えたため,〈アクセシビリティの保障〉と いうカテゴリーを設けた. 「地域コミュニティとの隔絶」とは,支援を必要としている人が,地域のコミュニティか ら隔たれている状況である.自分から積極的に支援を求めることができなくても,「自治会 とかに入っている方は色々と所属しているところで守られていることが多いですが,そうで ない方をどのように見つけていくか(Fさん)」という語りにあるように,コミュニティと の関わりが問題発見機能として働くため,地域のコミュニティとの接点がない「他人を受け 入れないというか,孤立ではないが,社会とのつながりを嫌がる(Eさん)」人や「分譲マ ンションだと,管理会社も『もう売っているので関わりがない』というので会えない」とい うように居住圏内にコミュニティが形成されていない場合には,間接的な意向確認の手立て がないという状況を招く. 「相手の求めに応じる」とは,支援を必要としている人のニーズ認識に沿って支援者が対 応することである.支援者の側が,支援を必要としている人に意向確認をおこなおうとして も,「『どういう役割で関わっていくんです』という説明をして,納得していただかないと受 け入れてくれない(Gさん)」という語りにあるように,その人の必要や関心に結びつくよ うなものを提示できなければ応じてもらうことが難しい.したがって,「何もなしでは訪問 ができないのできっかけをどう作ろうかな(Gさん)」や「熱中症のパンフレットがあった ら,気になるおうちがあるとまわって配ってきて,そういう形で入っていく(Eさん)」など, 相手が受け入れるような働きかけのしかたを考える必要が出てくる.また,高齢者を狙った
カテゴリー コード デ ー タ アクセシビリティの 保障 地域コミュニティ との隔絶 ○自治会とか入っている方は色々と所属しているところで守られ ていることが多いですが,そうでない方をどのように見つけて いくか[Fさん] ○他人を受け入れられないというか,孤立ではないけれど,社会 とのつながりを嫌がる[Eさん] ○そういうもの(管理組合や自治会)が希薄なマンションの住民 は地域から孤立する[Fさん] ○分譲マンションだと(管理会社も)「もう売っているので関わり がない」っていうので会えないんです[Kさん] 相手の求めに応じる ○何もなしでは訪問できないのできっかけをどう作ろうかな[G さん] ○熱中症のパンフレットがあったら,気になるおうちがあるとま わって配ってきて,そういう形で入って[Eさん] ○どういう役割で関わっていくんです,という説明をして納得し ていただかないと受け入れてくれない[Gさん] ○「怪しいものではありません」と言って[Eさん] ○「なんで来たか」,「どうしてここに来たか」,とか[Mさん] ○言葉遣いも気をつけないといけないし,相手のプライドを傷つ けないように[Nさん] 相手が発するサイン ○本人はどこかで「助けて」って言いたいはずだけど,周囲も諦 めているから自分も言い出せなくなっている[Aさん] ○SOSを出せない人がいるのかな(中略),分からないまま埋もれ ているというのはあるのではないか[Mさん] 閉ざされた居住環境 ○まず開けないので把握できない[Jさん] ○中身が見えないので本当に把握がしづらい[Jさん] ニーズの共有 被支援者の認識す るニーズの理解 ○満足しているところと諦めているところの見極めがむずかしい よね[A氏さん] ○孫の写真をもって「自分はそのまま逝ってもいい」と思ってい るから[Eさん] ○セルフネグレクトまではいかないかもしれないけど[Kさん] ○中で動けなくなっているのは知っているわけです(中略)本人 同意しないわけです[Iさん] ニーズ認識の不一致 ○多いですよね,相手は困っていないのにこっちから何かしない といけないというのは[Dさん] ○「それで満足だ」,「幸せだ」と生活を送っているのに(中略) ひっぱりあげようとする私たちがいるかもしれない[Eさん] ○支援する側だけじゃなくて支援される側の問題も出てくるもの だからどのように支援の同意をとり方向性をもってくるのか [Iさん] 家族の認識 ○若い世帯主の方に「ピンポンしても出るな」,「電話が鳴っても 出るな」と言われている[Gさん] ○引きこもりの息子,娘がいて親の年金で生活している[Nさん] 地域社会の援助観 ○民生委員さんが「困っているんだよ,助けてよ」って来たら, でも相手は困ってない[Dさん] ○(周囲の人の)「やってあげたい」という思いとあっちからは(中 略)「やれているのに」というギャップは大きいよね[Eさん] 表1 地域包括支援センターのソーシャルワーク実践で生じる意向確認に関する困難
詐欺や悪徳商法から自分の身を守ろうとする意識や,支援を受けることにネガティブな見方 をもつ人に対しては,「『怪しいものではありません』と言って(Eさん)」,「『何で来たか』『ど うしてここに来たか』とか(Mさん)」,「言葉遣いにも気をつけないといけないし,相手の プライドを傷つけないように(Nさん)」など,高齢者がおかれている社会的環境や,相手 の目に支援者や支援機関がどのように映っているのかという点を見極めたうえでの働きかけ が必要になる. 「相手が発するサインに気づく」とは,支援を必要としているものの,その表出ができず にいる人の存在にも意識を向けることである.「本人はどこかで『助けて』って言いたいは ずだけど,周囲も諦めているから自分も言い出せなくなっている(Aさん)」のように,周 囲の人々の意識が意向の表出を諦めさせているということがある.また,「SOSを出せない 人がいるのかな(中略)分からないまま埋もれているというのもあるのではないか(Mさん)」 など,意向の表出の手立てがない,表出しているが周囲が気づかないという状況もある.意 向の表出がしやすい環境の醸成や,声にならない声に耳を傾けようと意識を研ぎ澄まして, 支援を必要としている人に向き合うことが必要になる. 「閉ざされた居住環境」とは,生活環境が見えないために,そこに住む高齢者の生活状況 やニーズの予測ができないことである.本人や周囲の人からの直接的な情報だけではなく, 住宅状況や居住空間にその人の暮らしぶりが現れ,そこから支援の必要性を判断するための 手がかりとなる情報を得ることができる.しかし,「まず開けないので把握できない(Jさ ん)」,「中身が見えないので本当に把握がしづらい(Jさん)」というように,支援者は情報 収集の手立てがないもどかしさを感じている. 2.ニーズ認識の共有 支援を必要とする人と支援者が,取り組むべきニーズを共有することが,その人を主体と した支援においては不可欠である.しかしそこに不一致が生じることがある.ニーズのとら え方の不一致は,支援を必要とする人と支援者との間だけではなく,家族や地域住民など, その人を取り巻く人々との間にも生じる.支援を必要とする人が主体的に課題解決に取り組 み,自らの対処力を発揮してニーズの充足に取り組むことや,周囲の人々にニーズ充足を支 援する社会資源としての役割を期待するならば,それらの人々とのニーズの共有も不可欠で あり,支援者はこの点にも困難を感じている.これらを「被支援者が認識するニーズの理解」 「被支援者とのニーズ認識の不一致」「家族の認識」「地域社会の援助観」という4つのコー ドに分類した.これらのコードは,取り組むべき課題に対する支援に関係するシステムのも つ認識という性質をもつ.このことから,〈ニーズ認識の共有〉というカテゴリーを設けた. 「被支援者が認識するニーズの理解」とは,支援を必要とする人自身が捉えているニーズ を支援者が理解することである.支援者は支援を必要とする人から表出される思いや願い, 生活状況などからその人のニーズを理解しようとする.しかし,「孫の写真をもって『自分 はそのまま逝ってもいい』と思っている(Eさん)」,「セルフネグレクトまではいかなきか
もしれないけど(Kさん)」など,言葉や行動の背景にあるその人の真のニーズを捉えるこ とは難しく,「満足しているところと諦めているところの見極めがむずかしい(Aさん)」と 感じる.生命の維持や安全に関わるような事態が生じた場合には,支援者は保護的機能を発 揮することが必要になる.しかし,「中で動けなくなっているのは知っている(中略),本人 同意しないんです(Iさん)」の語りに表れているように,専門職が可能な限り,本人の意 思を尊重して対応しようとすれば,支援の難しさは更に高まることになる. 「ニーズ認識の不一致」とは,支援を必要とする人のニーズと支援者が捉えるニーズが一 致せず,支援者に戸惑いが生じることである.「多いですよね.相手が困っていないのにこっ ちから何とかしないといけないというのは(Dさん)」,「それで『満足だ』,『幸せだ』と生 活を送っているのに(中略)ひっぱりあげようとする私たちがいるかもしれない(Eさん)」 と,支援者は自らの判断とその人が望んでいる生活の尊重との間で揺れ動いている.「支援 する側だけでなくて支援される側の問題も出てくるだろうから,どのように支援の同意をと り,方向性をもっていくのか(Iさん)」,と語るように,ニーズの一致を図るための支援の あり方が課題になる. 「家族の認識」とは,家族がもつ,高齢者に対する支援の考え方や家族観である.高齢者 と生活を共にする家族は,家族関係や生活形態等を見据えた,家族なりの支援の考え方をもっ ている.「若い世帯主の方に『ピンポンしても出るな,電話が鳴っても出るな』と言われて いる(Gさん)」は,同居する家族が,家族不在の間,家で過ごす高齢者の安全を考えた方 策であるが,一方では,外部からの支援のはたらきかけを遮断することになる.また,「引 きこもりの息子,娘がいて,親の年金で生活している(Nさん)」というように,家族メンバー が高齢者に依存することによって,高齢者自身の生活や家族という集団が維持されている場 合もある.このような状況に対しては,システム論的な理解に基づく家族を含めた支援が必 要になる. 「地域社会の援助観」とは,地域の住民やボランティアの人々がもつ支援に対する考え方 である.これら善意に支えられた人々の力は,支援においては,インフォーマル・サポート として重要な役割をもつ.しかし,「民生委員さんが『困っているんだよ,助けてよ』って 来たら,でも相手は困っていない(Dさん)」,「(周囲の人が)『やってあげたい』という思 いとあっちからは(中略)『やれているのに』というギャップは大きいよね(Eさん)」と語 るように,支援を必要としている高齢者の意向との不一致が生じる場合があり,時には住民 やボランティアが考える「あるべき支援」を高齢者に押しつけることによって,高齢者の地 域社会への信頼を損ねたり,意向を閉ざしたりするという状況を招くことがある. Ⅳ.考 察 以上の結果から,地域包括支援センターの実践者による支援を必要とする人への意向確認 には,「地域コミュニティとの隔絶」,「閉ざされた居住環境」,「相手の求めに応じる」,「相
手が発するサインに気づく」というアクセシビリティの保障,「被支援者のニーズの理解」, 「ニーズ認識の不一致」,「家族の認識」,「地域社会の援助観」というニーズ共有に関する困 難が生じていることが明らかになった.ここでは,本研究の分析から得られたカテゴリーと コードから若干の考察をおこないたい. 意向確認におけるアクセシビリティの保障とは,意向の表出がしやすい環境を形成するこ とである. 個人的要因により意向の表出の難しさをもつ人に対しては,意向の表出が可能となるよう 環境を醸成することが必要になる.それは,「地域コミュニティとの隔絶」や「閉ざされた 居住環境」に対していかに働きかけるのかという課題として捉えられる.このことは,支援 を必要としている人にとっての環境のひとつである支援者に関しても言えることであり,「相 手の求めに応じる」ことや「相手が発するサイン」に敏感であることなど,支援者にも支援 を必要としている人の意向表出の力の補足や向上に結びつくような関わりが求められると考 える. ソーシャルワークの実践者がニーズの共有に難しさを感じるのは,支援を必要とする人が, 明確な意向をもっていない,つまり「被支援者の認識するニーズ」が曖昧であることに起因し, それが「支援者とのニーズの不一致」や「地域社会の援助観」への対応の難しさ,「家族の認識」 が支援を必要とする人の意向の確認に影響を与えているためであると考えられる.そのよう に考えるとすれば,「被支援者の認識するニーズ」の曖昧さを軽減し,ニーズに対する認識 を高めることが支援を必要とする人と支援者,支援を必要とする人をとりまく環境とのニー ズの共有に結びつくと考えることができる. 本研究では,地域包括支援センターのソーシャルワーク実践で生じる意向確認の困難をイ ンタビュー調査に基づいて捉え,その内容を整理した.意向確認の困難の明確化とその対応 の検討には,更なるデータの蓄積に基づいた仮説の精緻化が必要である.本研究の結果をひ とつの足がかりとして,個々の人々の置かれている状況やその態勢を踏まえた意向の確認に 基づくソーシャルワークのあり方の検討を継続したい. 注 1)志村(2014),中野(2010),徳川(1998)等による研究がある. 2)柴田(2012)は,意思決定支援を実現するための取り組みを,意思形成支援(共感・信頼関係 の形成による意思の抑圧からの解放),意思表現・意思実現支援(表現された意思を読み取り・ 応える),意思実現支援(願いを実現するための支援体制の形成)の要素に整理し,これら意 思決定支援のプロセスにおける留意点として,①意思決定支援の成立における本人と支援者間 の信頼関係が不可欠であること,②支援者は意思決定の支援者としての役割に徹する,③決定 の放置による本人の不利益の発生は虐待に相当する,④失敗の許容や,失敗回避のための情報 提供の必要性と,失敗体験を避けることが必要な人への意識,⑤複数の支援者による意思決定
支援のチェック機能,⑥研修による「本人中心支援」の修得,⑦本人―支援者間の閉ざされた 関係ではなく,社会関係のなかに開かれた意思決定であること,の7項目を挙げている. 3)北野(2015)は,音声言語によるコミュニケーションが何とかとれる場合には,何度も聞き返 して確認すること,言語でもコミュニケーションが困難な人の場合には,①支援者が本人との 関わりの経験を積み重ねてアクション―リアクションのサイクルを確かめる作業をおこなう, ②エコマッピング等をとおして,本人の生きてきた歴史の蓄積を確かめる作業をおこなう,③ 第三者の介在のもと,本人の反応の変化によって意思を理解することなどを挙げている. 4)本研究では,社会福祉サービスの利用者と区別するために,「ソーシャルワークの支援を必要 とする人」または「支援を必要とする人」という呼称を用いる. 5)本調査は,「共生社会(地域社会)実現をめざす地域社会と福祉専門家と福祉行政の協働に関 する研究─那覇市を事例として─」の一環として実施した地域の福祉実践家を対象としたイン タビュー調査であるため,社会福祉協議会の実践者もインタビューに加わっている. 引用文献 安梅勅江(2001)『ヒューマン・サービスにおけるグループ・インタビュー法 科学的根拠に基づく 質的研究法の展開』医歯薬出版株式会社. 北野誠一(2015)『ケアからエンパワメントへ 人を支援することは意思決定を支援すること』ミネ ルヴァ書房. 厚生労働省(2000)『社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会報告書』 (http://www.mhlw.go.jp/file/05-shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikansitsu_ shakaihoshotantou/0000096733.pdf 2016.2.24取得) 厚生労働省(2008)『これからの地域福祉のあり方に関する研究会報告書』 (http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/03/s0331-7.html 2016.3.15取得) 中野敏子(2010)「利用者本位の社会福祉サービスを検証する─利用者の意向確認を手がかりに─」 『社会福祉研究』108,pp.58-65. 日本学術会議第18期社会福祉・社会保障研究連絡委員会(2003)『社会福祉・社会保障研究連絡委 員会報告 ソーシャルワークが展開できる社会システムづくりへの提案』 (http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/18pdf/1821.pdf 2016.3.15取得) 大橋謙策(2007)『座談会 混迷する人々の暮らしと社会福祉実践・研究の将来-高橋重宏,大橋謙策, 米本秀仁,(司会)山崎美貴子」『社会福祉研究』100 pp.162-178. 佐藤郁哉(2008)『質的データ分析法 原理・方法・実践』新曜社. 柴田洋弥(2012)「障害者等の意思決定支援について」『発達障害研究』34(4),267-272. 志村健一(2014)「知的障がい者の意思決定支援とソーシャルワーク」『ソーシャルワーク研究』40(1), pp.46-55. 玉木千賀子(2016)「問題解決アプローチの支援枠組みに関する考察─個人の尊厳というソーシャ
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