筋疲労に対する他者認識の可能性について -膝伸展筋の等尺性収縮による検討-
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(2) 日本感性工学会論文誌 Vol.20 No.2. そこで実験Ⅰでは,パテラセッティングの最大随意収縮. ない程の耐え難い疲労を感じたら, “はい”と教えて下さい」. (Maximum Voluntary Contraction:以下,MVC)を参考にし. と説明した上,それぞれの場面で Borg CR-10 の用紙を見せ,. た 25%MVC,50%MVC,75%MVC の強度を設定し,筋疲. その時点における疲労状態を数値で答えるよう説明を加えた.. 労感についての自己認識の再現性を検討した.. 3.2.4 統計学的解析. 3.2 方法 3.2.1 対象. 級内相関係数(Intraclass correlation coefficients:以下,ICC). 得られた時間および Borg CR-10 の再現性を確認するために, (1.1)と(1.3)を,各条件で算出した.. 健常成人男性 20 名(平均年齢 25 歳,身長 170.0±5.9 cm, 体重 65.4 ± 5.5 kg,BMI 22.6±1.4)を対象とした.除外基準 を,運動器または循環器に既往歴のある者,疼痛を認める者 としたが,該当者は存在しなかった.. 3.2.2 MVC の測定 まず,各対象者の MVC を背臥位で測定した.測定は,右膝 窩部にアネロイド式血圧計(No.500,ケンツメディコ社製)の マンシェットを置き[8] ,マンシェット圧を 20mmHg に上昇 させた状況から始めた.この開始肢位を 30 秒間保持した後,. 3.3 結果 まず,各条件における「疲労を感じ始めたタイミング」と 「疲労困憊」までの所要時間と Borg CR-10 を表 1,表 2 に示す. 次 に, 各 条 件 に お け る 筋 収 縮 持 続 時 間(s)お よ び Borg (1.3)を表 3,表 4 に示す.自己認識として CR-10 の ICC(1.1) 測定した「疲労を感じ始めたタイミング(s) 」と「疲労困憊(s) 」 表 1 自己認識までの所要時間(s) (平均値±標準偏差). パテラセッティングによる等尺性収縮(殿部,踵部が床面か ら離れず,マンシェットを床面に押し付ける方法)を, 「可能 な限り最大限の力を出してください」と口頭で指示して 5 秒間 実施させ,最大値(単位は mmHg)を記録した(図 1) .. 3.2.3 筋収縮を持続した際における自己認識の測定 対象者ごとに 25%MVC,50%MVC,75%MVC の強度を 設定して上述の運動を持続させ,最初に筋疲労を自覚するま での時間(以下,疲労を感じ始めたタイミング) ,強度を維持で きないと本人が自覚するまでの時間(以下,疲労困憊)および. 表 2 自己認識(Borg CR-10) (中央値,四分位範囲). (図 2)を測定した.また,計測間隔を 2 日間 Borg CR-10[9] 以上設け,3 回の計測を行った.自己認識と Borg CR-10 は, 実験開始前に検者から以下の口頭指示によって説明された. 疲労を感じ始めたタイミングは「はじめに疲労を感じ始めた ら, “はい”と教えて下さい」 ,疲労困憊は「同じ力を持続でき. 表 3 自己認識(s)の ICC(1.1), (1.3). 図 1 基準値の測定,本実験で用いた筋収縮の肢位と方法. 表 4 自己認識(Borg CR-10)の ICC(1.1), (1.3). 図 2 Borg CR-10. 188.
(3) 日本感性工学会論文誌 Vol.20 No.2 筋疲労に対する他者認識の可能性について. は,全ての条件で高い再現性を認めた.また, 「疲労を感じ始. 押すことで示した.疲労を感じ始めたタイミングは,検者から. めたタイミング」での Borg CR-10 についても,全ての条件で. 「疲労を感じ始めたら,スイッチを押して下さい」 ,疲労困憊. 中等度から高い再現性を認めた.なお, 「疲労困憊」の Borg. は,検者から「同じ力を保持できない程の耐え難い疲労を. CR-10 は,全ての測定時点において同じ結果(10)であった.. 感じたら,スイッチを押して下さい」と,事前に指示して 実施させた.このスイッチ出力は,BNC 端子台(ATP-32F,. 3.4 考察 実験Ⅰの結果から,25%MVC,50%MVC,75%MVC の強 度に対応して, 「疲労を感じ始めたタイミング」と「疲労困憊」 の自己認識が再現性を有することが明らかになった.また,. コンテック社製)を介して筋電位や加速度と同期し,生体信号 収録プログラム(VitalRecorder2,キッセイコムテック社製)を 用いて収録した. 表面筋電図の収録は,銀塩化銀電極(ビトロード M-150,. Borg CR-10 との関連では,長澤らの報告[6]と筋疲労出現時. 日本光電工業社製)を Basmajian, J. V. らの報告[11]を参考に. 間が一致していた.このことから,筋収縮の持続に伴う筋疲. し,右内側広筋に電極中心間距離 30mm で貼付した.電極貼. 労の発生時点や疲労困憊時点についての自己認識が信頼性の. 付部の皮膚インピーダンスは,3.1±1.0 kΩ であった.筋電位. あるものだと示された.. の増幅は,生体アンプ(高感度増幅器 AB-611J,日本光電工業. これらの結果より,実験Ⅱ,Ⅲで使用する疲労課題として 採用することにした.. 社製)を用い, 上述の BNC 端子台(ATP-32F, コンテック社製) に接続した.なお,低域遮断フィルタを 5 Hz,高域遮断フィ ルタを 3 kHz,サンプリング周波数を 1 kHz に設定した.. 4. 実験Ⅱ:自覚的筋疲労感と生理的指標の関係. 三軸加速度計は,右膝蓋骨底より 2 cm 近位部に設置し, 前額面を X 軸(近位方向を正,遠位方向を負) ,矢状面を Y 軸. 4.1 目的. (上方向を正,下方向を負) ,水平面を Z 軸(内側方向を正,. 筋収縮の持続に伴う疲労感の発生,更には耐えられない. 外側方向を負)となるように貼付し,上述の BNC 端子台. 疲労感(疲労困憊)の自己認識を捉えていく上で,生理学的な. (ATP-32F,コンテック社製)に接続した.これによって,自己. 指標とどの程度一致しているかが重要となる. そこで実験Ⅱでは,25%MVC,50%MVC,75%MVC の強 度に設定したパテラセッティングを用いて,筋疲労に伴う生. 認識のタイミングを入力するスイッチ,パテラセッティング の主動作筋になる内側広筋の筋電図とその周辺の加速度が 同期収録できるようになった.. 理的変化として筋電図周波数成分[10]と疲労誘発性の生理的. データの解析は,多用途生体情報解析プログラム(BIMUTAS. 振戦(筋の震え) [7]を加速度で計測し,自己認識との関連性. Ⅱ, キッセイコムテック社製)を用いて解析を実施した.まず,. を検討した.. 自己認識(疲労を感じ始めたタイミング,疲労困憊)は,スイッチ で出力した電位の立ち上がり部を抽出し,筋収縮開始から. 4.2 方法 4.2.1 対象. 疲労を感じ始めたタイミングまでの所要時間(s) ,筋収縮開 始から疲労困憊までの所要時間(s)を算出した.次に,筋疲. 対象は,健常成人男性 24 名とした.除外基準として,運動. 労を自己認識した各タイミングでのデータを抽出するため. 器もしくは循環器に測定上の影響を及ぼす既往歴がある者,. 4 相を設定した.この 4 相は,第 1 相(筋収縮開始から 5 秒経 過した時点の前 3 秒間) ,第 2 相(第 1 相と第 3 相の中央点より 前 3 秒間) ,第 3 相(疲労を感じ始めたタイミングの前 3 秒間) , 第 4 相(疲労困憊の前 3 秒間)と設定した(図 3) .. 疼痛を認める者としたが,該当する対象者は存在しなかった. 対象者背景は,後述する 25%MVC 群(8 名,平均年齢 23.9 ±1.4 歳,身長 170.4±5.2 cm,60.8±4.5kg,BMI 20.9±0.8),. 50%MVC 群(8 名,平均年齢 24.1±1.3 歳,身長 170.3±4.5 cm, 64.3±5.9 kg BMI 22.1±1.6),75%MVC 群 の 3 群 間(8 名, 平 均 年 齢 24.2±2.1 歳, 身 長 171.9 cm, 体 重 67.4±6.0 kg, BMI 22.9±2.2)で,年齢,身長,体重,BMI の項目について, 有意差は認めないことを確認した.. 4.2.2 評価項目 対象者に実験Ⅰと同一の方法を用いて MVC を測定した後, 無作為に 25%MVC 群,50%MVC 群,75%MVC 群に群分け した. 運動課題は各 %MVC による筋収縮の持続とし,対象者自身 が回答する自己認識(疲労を感じ始めたタイミング・疲労 困憊) , 右内側広筋の表面筋電図(筋電図周波数成分) ,筋収縮 部周囲の生理的振戦(加速度)を計測した. 自己認識は,設定した筋収縮強度を持続する際に,対象者 自身が疲労を感じ始めたタイミングと疲労困憊でスイッチを. 図 3 筋電位と加速度の抽出した 4 相 第 1 相;筋収縮開始から 5 秒経過した時点の前 3 秒間 第 2 相;第 1 相と第 3 相の中央 3 秒間 第 3 相;疲労を感じ始めた前 3 秒間 第 4 相;疲労困憊の前 3 秒間. 189.
(4) 日本感性工学会論文誌 Vol.20 No.2. 表 5 筋疲労の自己認識に要した所要時間(s). 計測した筋電図と加速度のデータは各相で解析を行った. 筋電図データは,高速フーリエ変換(FFT)より周波数解析を 行い中間周波数を算出した.加速度データは,生データを リサンプリング(100 ms)した後,X 軸,Y 軸,Z 軸の二乗平均 平方根(RMS)により三軸加速度の合成した変化量(単位は. arbitrary unit:a.u.)に変換し,各相の平均値を算出した. 4.2.3 統計学的解析 統 計 学 的 解 析 は, フ リ ー ソ フ ト(EZR on R-commander. Version1.32)を使用した. 各所要時間は,一元配置分散分析を用いて 25%MVC 群,. 表 6 周波数解析後の中間周波数(Hz). 50%MVC 群,75%MVC 群の 3 群間で比較した.4 相に分け 抽出した表面筋電図と加速度データは,一元配置分散分析と 多重比較は Bonferroni 検定を用いた. また,筋疲労を自己認識した 4 相における筋電図中間周波数 と生理的振戦(加速度)の関連性を確認するために,両データ について,第 1 相の値を基準とした第 2 相/第 1 相,第 3 相/ 第 1 相,第 4 相/第 1 相の対比値を算出し,3 つの値による 相関(Pearson の積率相関係数)を求めた.いずれも有意水準. 表 7 三軸加速度の合成した変化量(a.u.). 5% とした. 4.3 結果 筋収縮開始から疲労を感じ始めたタイミングまたは疲労困 憊までの所要時間を表 5 に示す.. 4 相から抽出された表面筋電図の中間周波数(表 6)と, 三軸加速度の合成した変化量(表 7)を示す.両者ともに, 全ての群において有意差が認められた.また,疲労を感じ始. 表 8 表面筋電図中間周波数と三軸加速度の相関関係. めたタイミングでの表面筋電図中間周波数の徐波化と三軸加 速度の合成平変化量の関係性について,第 1 相との割合が,. 25%MVC で弱い負の相関,50%MVC 群と 75%MVC 群で中 程度の負の相関が認められた(表 8) . 4.4 考察 実験Ⅱの結果を要約すると,50%MVC と 75%MVC の筋収 縮強度でパテラセッティングを持続させた場合には,疲労開始. に発現頻度及び時間を増加させる[13]ことが影響している. と疲労困憊の自己認識のタイミングで,筋電図周波数成分に. 可能性が考えられる.. よる筋疲労と加速度で捉えた生理的振戦(筋の震え)に関係性 を認めることが示された.. 5. 実験Ⅲ:他者が筋疲労を認識することの可能性. 表面筋電図によるパワースペクトル分析では,筋疲労状態 が進むにつれて,中間周波数の徐波が生じる[10] .また,. 5.1 目的. 一定負荷での等尺性収縮を持続した場合,筋疲労に伴った. 患者自身が筋力増強運動を持続する過程において,自覚的. 動揺(疲労誘発性の生理的振戦)が観察される[12] .これら. 疲労感(疲労を感じ始めたタイミング)と疲労困憊をどの時点. の評価を同期させた先行研究[7]では,手指への疲労課題に. で認識し,その様子を他者(理学療法士)が視覚的入力より認. 対して,主観的な疲労と同時に筋電図スペクトルと生理的. 識できるかを検討した.また,視覚的入力により筋疲労状態を. 振戦が変化することが報告されている.本実験Ⅱの結果も,. 他者認識する場合,表情の変化以外に生理的振戦(筋の震え). 対象となる筋や疲労課題は異なるものの,先行研究[12]と. も手掛かりとなるため,視覚的入力の違いによる筋疲労の. 同様の結果であった.しかし,本実験Ⅱでは 25%MVC の筋収. 他者認識についても検討した.. 縮強度は,筋電図周波数成分による筋疲労と加速度で捉えた. そこで実験Ⅲでは,25%MVC,50%MVC,75%MVC の. 生理的振戦の関係性が弱い結果であった.これは,比較的運. 強度におけるパテラセッティングを用いて,筋疲労に対する. 動強度の低い条件下(30%MVC)では,発現した生理的振戦. 自己認識と他者認識の時間的な相違を視覚的入力別で検討. はやがて収束して運動継続を可能とし,運動の経過時間と共. した.. 190.
(5) 日本感性工学会論文誌 Vol.20 No.2 筋疲労に対する他者認識の可能性について. 5.2 方法 5.2.1 動画の作成. 動画の提示から他者認識の測定までの流れを示す.まず, 対象者に控え室で提示する動画の説明を行い,その中で疲労. 動画の被写体は,健常成人男性 2 名(動画 A:年齢 26 歳,. を感じ始めたタイミング時点で個室内の机の上に置かれたベ. 動 画 B: 年 齢 24 歳 )が 実 験 Ⅰ と 同 一 の 方 法 で 25%MVC,. ルを 1 回鳴らし,その後,疲労困憊時点で再度ベルを 1 回鳴ら. 50%MVC,75%MVC を疲労困憊まで持続させている最中の 顔面と右膝関節周囲とした.動画の撮影機材は,2 台のスマー トフォン(iPhone version7,アップル社製)と固定スタンド. すように指示した.また,この説明と同じ内容を文書にし,. を用いた.撮影した動画は,映像をトリミング処理した後,. 画の提示を開始する旨を伝え,動画上で 5 秒前からカウント. 画 面 サ イ ズ を 統 一( 顔 面 は 縦 17 cm × 横 18 cm, 膝 関 節 は. ダウン映像を流した.検者は控え室より 2 回のベル音を確認. 縦 23 cm ×横 15 cm)させプレゼンテーションソフトウェア. し,測定を終了した.. (PowerPoint 2016)に表示した. 最 終 的 に 動 画 は,2 名( 動 画 A,B)が 3 条 件(25%MVC,. 個室内の机の上に配備した.その後,対象者を個室内へ移動 させ,3 分間の安静状態を保持した後に,検者が控え室より動. 評価項目は,動画 A,B の自己認識(疲労を感じ始めたタイ ミング・疲労困憊)と動画を視聴した作業療法士・理学療法. 50%MVC,75%MVC)で収録したものを作成した.. 士免許を有する 30 名が測定した他者認識(疲労を感じ始めた. 5.2.2 筋疲労に対する他者認識の測定. タイミング,疲労困憊)の時間(s)とした.. 理学療法士もしくは作業療法士免許を有し,医療機関で勤務 する者 30 名を対象とし,動画から筋疲労に対する他者認識を 測定した.動画は,視覚的入力の違いによる他者認識を明ら かにするため 3 群に分類した.この 3 群は,表情から筋疲労を 他者認識する「顔面群 (男性 6 名 女性 4 名, 平均年齢 25.2±2.9, 臨床経験年数 2.2± 0.9 年) 」と,疲労誘発性の生理的振戦(筋の. 5.2.4 統計学的解析 動画 A,B の自己認識に要した時間を基準として,動画を視 聴した理学療法士・作業療法士免許を有する 30 名が測定した 他者認識に要した時間を,有意水準は 5% とした 1 標本 t 検定 を用いて比較した.統計学的解析には,フリーソフト(EZR on R-commander Version1.32)を使用した.. 震え)から筋疲労を他者認識する「膝関節群(男性 6 名 女性 4 名,. 平均年齢 24.5±2.0,臨床経験年数 2.3±1.2 年) 」に設定した. 5.3 結果 5.3.1 自己認識と他者認識の時間的差異に対する結果 動画の被写体となった被験者 2 名(動画 A,B)の筋疲労に. (図 4) .なお 3 群間には,性別,年齢,臨床経験年数の項目に. 対する自己認識に要した時間と,その動画を視聴した他者が. ついて,有意水準を 5% とした一元配置分散分析を用いて. 筋疲労状態を認識するまでの時間を,視覚的入力別(顔面群,. 平均年齢 24.8±1.3,臨床経験年数 2.5±0.9 年) 」と,その両者か ら筋疲労を他者認識する「顔面と膝関節群(男性 6 名 女性 4 名,. 統計学的有意差を認めないことを確認した.. 5.2.3 評価項目. 膝関節群,顔面と膝関節群)で表 9 に示す.統計解析の結果, 「膝関節群」では全ての条件で有意差を認め,「疲労を感じ. 個室で対象者に,23 型液晶ディスプレイ (LCD-AS232WM-C,. 始めたタイミングまでの所要時間」と「疲労困憊までの所要. 日本電気社製)に複製画面を表示して動画を提示し,他者認識. 時間」における自己認識と他者認識が一致しないことが示. を測定した(図 5) .. された.一方,「顔面群」の 50%MVC・75%MVC と「顔面 と膝関節群」の全ての条件では有意差を認めず,「疲労を 感じ始めたタイミングまでの所要時間」と「疲労困憊までの 所要時間」における自己認識と他者認識が一致することが 示された.. 5.3.2 動画の特徴 各時点における表情を Facial Action Coding System(FACS) 図 4 動画の種類. [14]を使用して解析した.ここでは,動画 A の結果を一例と して記す.疲労を感じ始めたタイミングでは,全ての %MVC で AU44(細目にする)が確認された.疲労困憊では,条件 別に特徴が抽出された.25%MVC では AU4(眉を下げる) ,. 図 5 他者認識の測定概要. AU9(鼻に皴寄せ),AU10(上唇を上げる),AU11(鼻唇溝), AU26(顎を下げて唇を開く),AU43(閉眼)が確認された. 50%MVC で は AU4( 眉 を 下 げ る ),AU9( 鼻 に 皴 寄 せ ), AU10(上唇を上げる),AU11(鼻唇溝),AU20(唇を横に引く), AU26(顎を下げて唇を開く),AU43(閉眼)が確認された. 75%MVC で は AU4( 眉 を 下 げ る ),AU9( 鼻 に 皴 寄 せ ), AU10(上唇を上げる),AU11(鼻唇溝),AU20(唇を横に引 く) ,AU26(顎を下げて唇を開く) ,AU43(閉眼)が確認され た(図 6) .. 191.
(6) 日本感性工学会論文誌 Vol.20 No.2. 表 9 筋疲労に対する自己認識,他者認識に要した時間(s). 疲労感を認識する場合には,疲労を感じ始めたタイミングでは 「目の周囲(細目) 」 ,疲労困憊では「目や眉,唇の周囲(閉眼, 眉を下げる,唇を横に引く) 」に注目している可能性が示唆さ れた. 自転車エルゴメータを用いた肉体疲労時の表情変化を検討 した先行研究[15]では,①左右の表情が対照的に変化するこ と,②顔の前頭筋や皺眉筋が大きく変化すること,③口角下制 筋の表情筋に変位が大きいことが報告されている.また, 感情 や表情の変化に対する表情筋の筋電図を指標とした検討[16] では,筋電図積分波形の変化量で捉えることが報告されている. 実験Ⅲの結果においても,これらの先行研究と同様,他者が 筋疲労を認識する際,疲労している表情(特に目や眉,唇の 周囲)の視覚的入力が必要となることが示された.. 6. ま と め 本研究の主目的は,対象者の疲労感に関して他者認識が 可能であるか明らかにすることである. その結果,50%MVC と 75%MVC の運動強度で筋収縮を 持続する場合,表情を含む視覚的入力により他者が疲労感 図 6 FACS による表情解析の概要(動画 A) 上段;25% MVC 中段;50% MVC 下段;75% MVC. (疲労を感じ始めたタイミング,疲労困憊)を認識可能であり, 特に目や眉,唇周囲の変化に注目する必要があることが示唆 された.また実験Ⅱの結果から,25%MVC の運動強度で筋収 縮を持続する場合,生理的振戦(筋の震え)と筋電図周波数成. 5.4 考察 実験Ⅲの結果, 「膝関節群」の全ての筋収縮強度の条件で. 分との相関が弱まるため,表情だけでなく言語的な表出を基 とした認識が必要となることが示された.. 自己認識と他者認識が一致せず,他者よる疲労感の認識が. パテラセッティングのような等尺性収縮によって筋力増強. 難しかった.その一方, 「顔面群」の 50%MVC・75%MVC と. 運動の効果を得るためには,筋力維持を目的とした場合は. 「顔面と膝関節群」の全ての筋収縮強度の条件では自己認識と. 20%MVC ∼ 30%MVC の負荷量,筋力増強を目的とした場合 は 40%MVC ∼ 50%MVC の負荷量が要求される[2] .本研究 で 用 い た 筋 収 縮 強 度 25%MVC,50%MVC,75%MVC は,. 他者認識が一致し,他者が表情より疲労感を認識できること が示された.また,表情解析の結果から,他者が表情から. 192.
(7) 日本感性工学会論文誌 Vol.20 No.2 筋疲労に対する他者認識の可能性について. この範囲内に含まれるため,臨床場面でも広く使用される 筋収縮強度であると考える.しかし,精神疾患や発達障害等 を呈する患者の中には,表情の表出もしくは理解に能力低下. [10]木竜徹:局所筋疲労を表面筋電図でみる(<特集>疲労と ストレス),バイオメカニズム学会誌,21(2),pp.75-80,. 1997.. を生じていることも報告されている[17] .そのため,表情の. [11]Basmajian, J. V., and Blumenstein, R.: Electrode placement. 他者認識だけに限局した対人関係ではなく,その他の表現・. in EMG biofeedback. Williams & Wilkins, Baltimore,. 認識方法(言語やボディランゲージ等)を統合した対人関係を. pp.79-86, 1980.. 築いていくことも必要となる.. [12]Lippold, O. C. J., Redfearn, J. W. T., and Vuco, J.: The. 顔表情は,人間の感情表現を含み,体調や心理状態の情報. rhythmical activity of groups of motor units in the voluntary. を認識する手段であると考えられている[18] .昨今の本邦に. contraction of muscle. The Journal of Physiology, 137(3),. おける急速な高齢社会の進展を背景にした先行研究では,. pp.473-487, 1957.. 顔表情を動画像より抽出し高齢者見守りシステムに適応させ. [13]田巻弘之,荻田太,竹倉宏明,斉藤和人,倉田博,芝山秀太郎,. る報告[18]が散見される.このような研究は本研究と同様,. 中澤公孝:静的筋収縮持続時の生理的振戦による筋放電活. 人間のあらゆる表情を他者認識することに対する検討で. 動並びに循環系応答の変化,日本生理学雜誌,65(12),. あり,医療や福祉分野における新たな評価システムの発展に. pp.397-405,2003.. 関与する可能性があると考える. しかし,本研究で用いた疲労課題は静的な等尺性筋収縮で. [14]Ekman, P.,Friesen, V.,工藤力(訳):表情分析入門 表情に 隠された意味をさぐる,誠信書房,pp.33-42,1975.. あり,実際の日常生活動作やスポーツ活動等の動的な筋収縮. [15]劉成珍,泉佳伸,武田真一,西嶋茂宏:表情分析による疲. 様式とは異なる.そのため今後は,疲労課題を動的な日常生. 労感の評価,第 2 回生活支援工学系学会連合大会,pp.313-. 活動作や,更にダイナミックなスポーツ動作に設定し,追試 を進めていきたいと思う.. 314,2004. [16]古西浩之,八木昭宏:表情筋筋電図を指標とした感情研究, 人文論究,43(4),pp.39-54,1994. [17]小林真:感情の表出と理解に関する展望,早稲田大学人間. 参 考 文 献. 科学研究,8(1),pp.143-151,1995. [18]早瀬光浩,加納政芳:高齢者見守りシステムのための特徴. [1] 木藤伸宏,金口瑛典,小澤純也:筋力増強運動の基本と実際, リハビリテーション医学,54(10),pp.746-751,2017.. 的な顔画像抽出の一考察,日本感性工学会論文誌,16(1),. pp.103-108,2017.. [2] Hettinger, T., and Muller, E. A.: Muscle capacity and muscle. training. Arbeitsphysiologie, Internationale Zeitschrift für Angewandte Physiologie, 15(2), pp.111-126, 1953. [3] DeLorme, T. L.: Restoration of muscle power by heavy. resistance exercises, J Bone & Joint Surg. 27(4), pp.645667, 1945. [4] Tanii, K., Sadoyama, T., Sanjo, Y., and Kogi, K.: Appear-. ance of effort-depending changes in static local fatigue.. 仲山 勉(正会員). Journal of Human Ergology, 2(1), pp.31-45, 1973.. 2013 年 理学療法士免許取得.2013 年∼現在 北水会記念病院. [5] 斎藤満,間野忠明:疲労感覚を手掛かりとした交感神経活. リハビリテーション科.2019 年 医療創生大学大学院理工学研究. 動の随意調節,疲労と休養の科学,4,pp.97-104,1989.. 科物理工学専攻修了.修士(物理工学) .2020 年 認定理学療法士. [6] 長澤吉則,出村慎一,吉村喜信,山次俊介,中田征克,. (運動器) .日本理学療法士協会,日本股関節学会,日本人工関. 松澤甚三郎:握力持続発揮時の力量と主観的筋疲労感覚の. 節学会,日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会 各会員.. 関係,体力科学,49,pp.495-502,2000. [7] 在原雅人,宮本靖青,坂本和義:生理的振戦と筋電図を用. 古川 勉寛(正会員). いた筋疲労評価の研究,人間工学,35(2),pp.398-399,. 2009 年 理学療法士免許取得.2015 年 信州大学大学院総合工学. 1999.. 系研究科修了.博士(工学) .2017 年 いわき明星大学(現・医療. [8] 宇佐英幸,竹井仁,宇佐桃子:大腿四頭筋マッスルセッティ ング時の等尺性筋収縮力の測定,理学療法科学,26(3),. pp.423-427,2011. [9] Borg, G.: A note on category scale with‘ratio properties’. 創生大学)薬学部講師.2018 年 同大,大学院理工学研究科講師 (兼任) .2019年 同大,健康医療科学部准教授・学部長補佐.同大, 大 学 院 生 命 理 工 学 研 究 科 准 教 授( 兼 任 ) ,2020 年 Universitas ‘Aisyiyah Yogyakarta 客員教授(兼任)現在に至る.理学療法 ×. for estimating perceived exertion. Reports from the Institute. 感性工学をテーマとした研究に従事.International Society for. of Applied Psychology, the University of Stockholm, 36,. Electrophysical Agents in Physical Therapy(Secretary),日本生理. 1973.. 人類学会,日本医学教育学会 各会員.. 193.
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