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京都市動物園 生き物・学び・研究センター編『いのちをつなぐ動物園 生まれてから死ぬまで動物の暮らしをサポートする』 合同会社小さ子社 2020年3月刊 1,800円(税別) 171ページ

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Academic year: 2021

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(1)76. 書 評. 京都市動物園 生き物・学び・研究センター 編『い のちをつなぐ動物園 生まれてから死ぬまで動物 の暮らしをサポートする』 合同会社小さ子社 2020 年 3 月刊 1,800 円(税別) 171 ページ 本書は一般向けに京都市動物園の活動を紹介した書 だが,同時に現代日本の動物園の役割やありかたにつ いて方向性を象徴するような 1 冊とも言えるだろう。 動物園に関心を持っている方なら「なるほど,そうそう」 と読み進めるだろうが,動物園は子どもの時に行った きり,という方は,その変化に驚かされるのではない だろうか。 本書の主なテーマは「動物福祉」である。副題に「生 まれてから死ぬまで,動物の暮らしをサポートする」 とあるとおり,動物園で生まれ,育ち,老い,死んで いく飼育動物の福祉を考える姿勢が貫かれている。さ らに深読みすると,“裏の”メインテーマは「研究」な のではないかと,読んでいて感じた。「研究する動物園」 として 1 章が割かれているが,それだけではない。動 物福祉を語る際にも,さまざまな「研究」が登場する。 動物福祉のために研究は不可欠だし,考えてみれば研 究のためにも動物福祉は不可欠なのだ。 では中身を見ていこう。「はじめに」でも紹介されて いるとおり,京都市動物園は 2008 年に「共汗でつくる 新『京都市動物園構想』」を策定し,現在リニューアル のまっただ中である。第 1 章では「京都市動物園によ うこそ」と題して,園内を一周する形で園内の動物や 施設を紹介している。写真も多用されていて読みやす い。冒頭で京都市動物園の歴史に簡単に触れられてい るが,1903 年にオープンした日本で 2 番目に古い動物 園で,京都市内に位置するコンパクトな都市型動物園 であることは,本書を理解する上で重要なポイントだ ろう。第 2 章では「生まれてから死ぬまで動物の暮ら しをサポートする-動物福祉の取り組み-」として, 本書の主題である動物福祉を紹介している。本章前半 で紹介されている「第 14 回国際環境エンリッチメント 会議」には筆者もスタッフ側として参加したのだが, 主催団体の 1 つである京都市動物園の職員のみなさん も,時にスタッフとして,時に発表者として,各所で 活躍されていた。本書中では本会議から感じられた最 近の動物福祉の潮流として「苦痛からの開放というス タンスから,動物にとって最適な福祉状態を目指すと いうスタンスへの転換」「根拠をもとに行うというエビ デンス(根拠)ベースの取り組みが日本でも海外でも 増加」 「動物福祉がすべての活動の基盤となること」の. 3 点 を 挙 げ て い る。 章 の 後 半 で は, ト ラ(Panthera tigris)の採食エンリッチメントやチンパンジー(Pan troglodytes)のベッドづくり,評価シートを用いて力を 入れる動物種を選定する試みなどの例から,京都市動 物園の環境エンリッチメントの取り組みを紹介してい る。前半で紹介された動物福祉の最近の潮流を知った 後だと理解がすすむ。第 3 章は「研究する動物園」と して,近年急速に発達しているゲノム解析技術を駆使 した希少種の保全について,もう一つは障害を持った 動物(特にチンパンジー)の福祉について,事例を紹 介している。どちらの事例でも京都市動物園内の個体 だけを対象としたものではない点が興味深い。第 4 章 では「ラオスのゾウと動物園」として 2014 年にラオス から来園した 4 頭のゾウ(Elephas maximus)の背景に あるラオスとの深いつながりが紹介されている。生息 地とつながり続ける動物園のあり方も,今後の動物園 の方向性を示していると言えるだろう。 ところで,動物園や動物園スタッフが出版した本と いうと,飼育動物のエピソードや飼育員の取り組みを 紹介したものが一般的だ。本書も多くのエピソードや 取り組みが紹介されている点は同じだが,その背景に 一貫して「動物福祉」や「研究」の視点が貫かれてい ることが新しい。さらに本書を特徴づけているのが, 「生 き物・学び・研究センター」の研究者がおこなってい る研究例だろう。グレビーシマウマ(Equus grevyi)や ツシマヤマネコ(Prionailurus bengalensis euptilurus)の 遺伝的多様性も,障害をもつチンパンジーの福祉も, 京都市動物園の園内だけでなく,園をまたいだ研究が おこなわれている。今まで動物園での研究というと, 熱意ある飼育員による飼育技術の研究や,大学など外 部の研究者との共同研究は多くの園でおこなわれてき た。しかし動物園の中に研究者が所属し,主だった業 務として研究をおこなっているというのは,日本の動 物園では稀なことだ。現在,「生き物・学び・研究セン ター」には 5 名の研究者が所属しているという。動物 園の研究機関としての位置づけを日本全体で見ると, (公社)日本動物園水族館協会に加盟している動物園 91 園中で,京都市動物園と,筆者の所属する日本モンキー センターの 2 か所だけが,文部科学大臣が指定する研 究機関となっている(つまり科学研究費補助金を申請 することができる)。日本モンキーセンターはそもそも 研究所として誕生したので例外として,本書のあとが きによると京都市動物園は 2018 年に指定を受けた。こ れは公立の動物園としては初めてのことだ。研究機関 となり,専従の研究者を擁する京都市動物園。今後, 他の公立動物園にもこのような動きが出てくるのだろ うか。将来研究者の道を歩もうとする学生の就職先の 候補に,大学と並んで動物園が入る時代が来るのだろ.

(2) 77. うか。 あとがきの末尾で,執筆者を代表して「生き物・学び・ 研究センター」のセンター長である田中正之氏はこう 締めくくっている。「本書が何かの縁を結ぶものであれ ば無上の幸いである」。ラオスとのつながりをはじめ, 本書では随所に市民や多様な機関とのつながりが垣間 見える。田んぼや畑づくり,イチモンジタナゴの保全, 植物園や科学館との連携,そして京都らしく文化やアー トまで。市民の寄附で開園した歴史ある動物園の新し い方向性も,きっと動物園をとりまく市民や機関との つながりの中でつくられてきたのだろう。「動物福祉」 や「研究」という方向性が,多くの市民や機関を巻き 込んだ渦の中で生まれてきたとしたら,なんてすばら しいことだろう。霊長類研究の読者のみなさまも,本 書をご一読いただき,動物園との関係に一歩踏み出し ていただければうれしく思う。 (公益財団法人日本モンキーセンター 赤見理恵: [email protected]).

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