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公権力による教育改革に関する一考察--官邸主導型の教育改革路線の問題

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Academic year: 2021

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(1)公 権 力 によ る教 育 改 革 に 関 す る一 考 察 一 官 邸 主 導 型 の教 育 改 革 路 線 の問 題 一. 公 権 力 に よ る教 育 改 革 に 関 す る一・ 考察 一官邸主導型 の教育改革路線 の問題一. 堀. 切. 勝. 之*. は じめ に. 現 在 、 家 庭 ・学 校 ・地 域 にお いて そ れ ぞ れ の 歴 史 環 境 の なか で 教 育 問 題 の解 決 が 急 が れ て い る現 実 は深 く認 識 で き る。 しか し、 か っ て 我 が 国 は国 家 権 力 ・政 治 権 力 中 枢 の人 間 に よ る 「国 家 繁 栄 」 「民 族 繁 栄 」 と い う旗 印 の 下 で 、 国 民 教 育 が 手 段 化 さ れ 、 悲 惨 な歴 史 を繰 り広 げ、 ア ジ ア諸 国 に心 の 癒 え な い傷 跡 を 残 して きた 。 本 稿 の ね らい は、 戦 前 ・戦 後 の政 治 と教 育 の関 り にお い て幾 っ か の 歴 史 事 実 を照 射 し、 現 在 、 地 方 分 権 ・規 制 緩 和 政 策 に逆 行 す る中 央 集 権 的 な 管理 体 制 に傾 斜 しっ っ あ る官 邸 主 導 の 「教 育 再 生 会 議 」 の 問 題 ・課 題 を指 摘 し、 教 育 に お け る 普 遍 的 価 値 よ り国 家 的 価 値 を形 成 しよ う して き て い る現 状 に お い て、 「国 家 と学 校 との 本 来 あ るべ き関係 」 と は ど う い う もの で あ るか にっ いて 粗 述 す る こ と に あ る。 人 問 教 育 の普 遍 的 価 値 と して の 「教 育 の 自律 性 」 「 学 問 ・真 理 追 求 の 自 由」 「個 人 の尊 厳 性 」 「人 間 の 精 神 性 の 自 由」 な ど は国 家権 力 や 公 権 力 に よ る に よ る支 配 ・抑 圧 ・束 縛 の 対 象 で あ って は な らな い。 現 在 の公 権 力 的教 育 改革 路 線 に よ る教 育 改革 や教 育 法 の 改 正 の あ り方 は 日本 国 憲 法 の 精 神 を 踏 み に じる もの で あ る と指摘 し、観 念 論 的 「戦 後 レジ ー ムか らの 脱 却 」 の 政 治 に基 づ く教 育 改 革 の問 題 を 明 らか に した い。 国家 行 政 府 や教 育 行 政府 は本 来 な らば 「学 校 教 育 の 自立 性 を 支 援 し、 充 実 した国 民 教 育 を国 民 的視 座 に立 ち、 教 育 改革 ・改 善 を行 う」 こ とを 責 務 とす べ き と こ ろで あ る。 しか し、 戦 前 の 軍 国主 義 国家 の教 育 政 策 や施 策 によ る学 校 教 育 の 歴 史 的 課 題 の 反 省 も な く、 現 在 の 為 政 者 は教 育 崩 壊 ・学 校 崩壊 ・学 級崩 壊 ・授 業崩 壊 の 問題 を 地 方 の 教 育 行 政 官 ・学 校 運 営 責 任 者 ・現 職 教 員 の 資質 能 力 の 問題 にあ る決 め っ け、 安 倍首 相 は議 員 生 活14年. 目 の 「戦 う政 治 家 」 と自負 し、. 内 閣府 に設 置 した 「教 育再 生 会議 」 で教 育 改革 を 断 行 して きて い る。 これ は官 邸 主 導 型 方 針 で 文 部 科 学 省 の官 僚型 政 策 を抑 制 す る政 治 的方 略 で あ り、 官 僚型 政 策 が 未 来志 向 へ の 国 民 的 視 座. *近 畿大学教職教育部. 准教授. 一19一.

(2) 近畿大学教育論叢. 第19巻. 第2号(2008・3). の 見 え に くい教 育 改 革 路 線 で あ る と指 摘 した。 ま た、 連 綿 と続 く教 育 改 革 は教 育 政 策 の荷 崩 れ 的現 象 を 引 き起 こ し、 教 育 実 践 の 場 は さ ら に混 迷 化 し、 か っ 市 場 原 理 主 義 的 成 果 主 義 に基 づ く 改革 路 線 は学 校 現 場 に も成 果主 義 ・査 察 主 義 を 導 入 し、 教 員 の勤 務 評 価 制 度 の導 入 は管 理 職 と 教 員 と対 立 や抗 争 に発 展 しよ う と して い る。 評 価 制 度 の根 本 的 な問 題 は評 価 観 点 と評 価 基 準 が 曖 昧 で あ り、 評 価 す る管理 職 の 資 質 や能 力 が 大 きな 課 題 で あ る こ との 認 識 が な い と い う こ とで あ る。 現 在 の わ が 国 の学 校 現 場 に お け る管 理 職 者 の 管 理 能 力 ・資 質 が 基 本 的 に問 わ れ て い な い 状 況 で 、 地 方 教 育 行 政 が 文 部 科 学 省 の 官 僚 的 支 配 構 造 に お か れ 、 中 央 集 権 的 な学 校 教 育 の 管 理 ・統 制 の強 化 が現 れ て きて い る。 学 校 評 価 の標 準 化 、 全 国一 斉学 力 テ ス ト実 施 、 教 職 員 の 資 質 ・能 力 の査 定 処 遇 、 教 員 免 許 更 新 制 、 習 熟 度 学 級 編 成 の 強制 化 、 大 学 区制 の導 入 、学 校 選 択 制 の導 入 、 教 育 特 区 制 の導 入 な ど は そ の代 表 例 で あ り、 歪 ん だ教 育 改 革 は教 育 の差 別 ・格 差 を 構 造 化 し、 教 育 に よ る新 しい人 聞 疎 外 の問 題 が 作 り出 され、 義 務 教 育 の生 命 線 は寸 断 ・分 断 ・ 切 断 され 、 予 測 ・予 見 で き な い よ うな モ ラル ・ハ ザ ー ドが 学 校 現 場 で起 きて きて い る。 さて 、 日本 国 民 の 歴 史 意 識 ・政 治 意 識 は なぜ 低 い のか 。 戦 後 、 占領 下 時 代 に ダ グ ラス ・マ ッ カ ー サ ー元 帥 が 日本 人 の政 治 意 識 は12歳. レベ ル と言 い放 った 文 言 が あ る。 この こ と は戦 前 の. 天 皇 制 国 家 体 制 で の 天 皇 制 家 族 主 義 思 想 に よ る教 育 結 果 を 椰 楡 した言 質 で あ る。 戦 前 は天 皇 家 以 外 の 日本 人 は国 民 で な く、 教 育 勅 語 に もあ る よ う に 「臣 民 」 と して の 位 置 づ けで あ る。 西 欧 諸 国 の よ うな 市 民 革 命 を 経験 した こ との な い 歴 史 環 境 に生 存 して き た所 以 で あ ろ う。 徳 川 幕 藩 体 制 の 「士 農工 商」 の 身 分 差 別思 想 に基 づ く 「上 意 下 達 」 の 社 会 思 想 は 「お 上 思 想 」 を 容 易 に 形 成 し、 明治 期 に 入 り天皇 制 に対 して絶 対 服 従 を 強 い られ た 臣 民 は 「忠 君 愛 国 」 の 精 神 が 推 奨 さ れ、 国家 の法 令 に は遵 法 精 神 を以 って対 処 す る こ とが 臣民 の 美 徳 と され 、 天 皇 制 国 家 体 制 と 軍 国 主 義 国家 統 制 の歴 史 が ア ジア に お け る悲 惨 な歴 史事 実 を刻 む こ とに な る。 国 民 と して 自国 の過 去 の文 化 ・歴 史 ・伝 統 な ど を誇 りに で きる こ とは歓 迎 す べ き事 柄 で あ るが、 史 実 を 史 実 と して歴 史 認 識 を深 め て い く ことが 現 在 の国 民 の喫 緊 の課 題 で あ る とす れ ば、 教 育 改 革 が為 政 者 の政 争 の具 に な らな い よ うに理 非 曲 直 の精 神 を持 って国 民 教 育 の何 た る か を問 い質 す こ と こそ わ れ わ れ 教 育 者 の歴 史 的 使 命 の一 っ で あ る と も考 え られ る。 そ の一 っ の事 由 は、 戦 後 の教 育 改 革 の なか で 、 非 常 に曖 昧 な改 革 理 念 が あ る。 それ は 「日本 の伝 統 、 文 化 、 歴 史 を大 切 にす る国 民 の 育 成 こ そが 肝 要 で あ る」 と言 い続 け られ て き たが 、 いっ の時 代 の伝 統 か 、 文 化 か 、 歴 史 か 、 明 確 で な い。 多 分 明 確 にで き な い こ とで あ る と考 察 す る。 政 治 意 識 と は何 か 、 歴 史 意 識 と は何 か 、 社 会 意 識 とは 何 か 、 文 化 意 識 とは何 か な ど にっ い て 戦 後62年. 一20一. 目の 現 在 も決 して 明 確 な論.

(3) 公権 力によ る教 育改革 に関す る一考察一官邸主導型の教育改革路線の問題一. 証 と して の 「意 識 獲 得」 とい う意 味 で の市 民権 が 確 立 され て いな い 。 歴 史 的 にわ が 国 の 文 化 ・ 伝 統 の原 点 を辿 れ ば、 わ が 国 の 文化 ・伝統 は支配 者 の 権 欲 によ る もの か 、 支 配 者 に迎 合 す るた め の被 支 配 者 の生 活 本能 的対 応 行 動 に よ る もの か で あ ろ う と推 論 す る。 戦 前 まで 、 我 が 国 の 歴 史 環 境 は為 政 者 が 支配 ・搾 取 ・管 理 ・監 督 の た め に 、立 法 ・司 法 ・行 政 に お け る権 力 的 ・抑 圧 的手 法 を 展 開 した 歴 史 で あ り、 「戦 争 」 と い う二 文 字 に お い て、 庶 民 ・臣 民 ・国 民 ・市 民 は 時 に して、 為 政 者 の権 力 の道 具 的存 在 に過 ぎな か った歴 史 が あ る。 しか し、 戦 前 と戦 後 の 歴 史 環 境 は異 な るが 、 改 革 路 線 の あ り方 は ほ とん ど変 化 が 無 い と考 察 す る。 戦 後62年. 目、 政 治 家 や. 官 僚 に お い て責 任 の所 在 が明 確 で な い教 育 改 革 の あ り方 は、 民 意 も反 映 さ れ ず、 教 育 現 場 の 喫 緊 の現 実 問 題 の検 証 も無 く、 戦 後 の民 主 主 義 思 想 は姿 も形 も無 い状 況 に あ る の で は。 為政 者 は 現 在 の、 未 来 の国 民 教 育 を云 々 す る以 前 に、 何 が 根 本 的 な教 育 問 題 で あ る の か徹 底 した調 査 方 法 を教 育 行 政 を通 じて確 立 す べ きで あ ろ う。 政 治 権 力 や公 権 力 に よ り短 期 間 で教 育 法 案 決 議 し て い くこ と な ど、 教 育 と い う二 文 字 を愚 弄 し、 国 民 を愚 弄 す る こと で あ る。 国 民 を 国家 権 力 な ど で操 作 で き る な どの 国 政 神 話 は稚 戯 に等 しい。21世 紀 の 国 際 社 会 で 、 グ ロ ーバ ル 的 発 想 に 立 っ べ き時 代 に、 官 邸 権 力 を背 景 に憲 法 改 正 や 国 民 教 育 改 造 を政 治 生 命 な ど と唱 導 し、 力 の政 治 で 法 案 を 可 決 す る政 治 路 線 は戦 前 の国 家 主 義 的 手 法 と なん ら遜 色 な い次 元 で あ る こと を指 摘 す る。. <1>為. 1)戦. 政者の独善的政策 の抱える問題. 前 の教 育 の 美 化 思 想 の 問 題. 戦 前 の歴 史 を 美 化 す る常 套語 句 を少 年 時 代 によ く耳 に した こ とが あ る。 そ れ は以 下 の よ う な 常 套 語 句 で あ る。r天 皇 制 国 家 体 制 にお いて 国 家 へ の忠 誠 心 が 育 まれ た」 「戦 前 の愛 国 心 教 育 は 学 校 教 育 の成 果 で あ った」 「戦 前 の国 民 生 活 態 度 に は長 幼 の序 の精 神 が 顕 著 で あ った」 「教 育 勅 語 は道 徳 教 育 の 支 柱 で あ り、 世 界 に誇 れ る人 道 主 義 的 な倫 理 で あ っ た」 「明 治 時 代 の 日本 人 は 世 界 一 礼 儀 正 しい 国民 で あ った」 「戦 前 の 規 範 精 神 は 日本 人 の 歴 史 的 遺 産 で あ っ た」 「皇 国 の 臣 民 と して 、 皇 国 の未 来 永 劫 の 繁 栄 を期 し、 特 攻 志 願 兵 は誉 れ高 い 死 を 覚 悟 して戦 地 に 赴 い た」 「"靖国 で会 お う"の 合 言 葉 で死 を超 越 した青 年 学 徒 は 日本 人 の誇 りで あ った」「戦 前 の 日本 人 は 豊 か な愛 国 心 を保 持 し、 国 家 の た め、 天 皇 の た め に は 自己犠 牲 を厭 わ な い優 れ た精 神 文 化 の土 壌 に育 て られ た」 な ど の文 言 は、 戦 争 肯 定 の為 政 者 や支 配 者 層 の偽 善 的 煽 り以 外 の何 もの で も. 一21一.

(4) 近畿大学教育論叢. 第19巻. 第2号(2008・3). な い。 それ らが 国 民 不 在 の国 家 観 以 外 の何 もので もな い こ とが 戦 前 の歴 史 事 件 に歴 然 と残 さ れ て い る。 例 え ば 、 戦 前 の 侵 略 行 為 の 歴 史 、 政 官 財 の 構 造 的 腐 敗 に よ る事 件 史 、 天 皇 制 国 家 体 制 の脆 弱 性 ・誰 弁 性 に由 来 す る軍 人 の 事 件 史 を ひ も解 けば 判 然 と して い る。 ま た、 戦 前 の国 体 論 ・道 義 国 家論 ・皇 国 史 観 は天 皇 統 治 の 正 当 性 ・永 遠 性 と天 皇 制 家 族 国 家 観 に よ る国 民 の 天 皇 へ の矛 盾 な き帰 属 と統 合 の 論 理 で あ り、 個 人 の思 想 ・道 徳 ・信 仰 な どの 人 間 の 内 的 世 界 を 閉 塞 させ る論 理 で あ り、 結 果 と して 、帝 国主 義 的 侵 略思 想 、 他 民 族 支 配 思 想 、 大 東 亜 国 家 統 治 思 想 な どが 生 み 出 さ れ、 戦 争 肯 定 の論 理 が 国民 教 育 を通 して 行 わ れ て い った 歴 史 事 実 が あ る。 『国 体 の本 義 』 の 冒 頭 に、 「大 日本 帝 国 は、 万 世 一 系 の 天 皇 皇 祖 の神 勅 を 奉 じて 永 遠 に これ を統 治 し給 ふ 。 こ れ、 我 が 万 古 不 易 の 国体 で あ る」 と述 べ 、 「こ の大 義 に基 づ き、 一 大 家 族 国家 と して 億 兆 一 心 聖 旨 を奉 体 して、 克 く忠 孝 の美 徳 を発 揮 す る。 これ、 我 が 国体 の精 華 とす る と ころ で あ る」 と 規 定 して あ る1)。 確 か に、 明 治 初 期 に お い て国 家 組 織 や 政 治 組 織 は幼 児 期 的 段 階 で あ り、 国 内 に お け る事 件 の 多 発 化 現 象 は政 治 体 制 の危 機 の連 続 で あ り、 国 外 的 に は植 民 地 政 策 路 線 を歩 い て い た西 欧列 強 国 の あ り方 に対 して 為 政 者 は恐 怖 感 と危 機 感 を強 め、 明 治 政 府 は強 力 な 中央 集 権 的 近 代 国家 体 制 を 構 築 しよ う と急 いだ ので あ る。 しか し、 一 方 で は、 板 垣 退 助 らを中 心 とす る 自 由民 権 運 動 が 起 こ り、 民 選 議 院 設 立 建 白書 が 提 出 さ れ、 明 治 政 府 は1980(明 て、1889(明. 治22)年2月11日. 治23)年. の 国 会 開設 に向 け. に 大 日本帝 国 憲 法 を制 定 した。 翌 年 の10月30日. の根 本 精 神 を説 いた 「教 育 二 関 スル 勅語(教. に は国 民 道 徳. 育 勅語)」 を頒 布 す る。. 明治 以 降、 我 が 国 の社 会変 動 の過 程 で、 国 家 的 ・国 民 的 危機 的 状 況 に対 して 、 い くっ か の 詔 書 や 勅 語 を 頒 布 して い く。 そ れ は1890(明 年 の 「戊 辰 詔 書 」、1923(大. 正11)年. 治23)年. の 「教 育 二 関 ス ル勅 語 」、1908(明. 治41). の 「国 民 精 神 作 興 二 関 ス ル 詔 書 」、 ユ939(昭 和14)年. の. 「青 少 年 学 徒 二賜 ハ リタル 勅 語 」2)な どで あ る。. 2)公. 権 力 に対 す る国 民 の抗 争 ・抵 抗 運 動 の 展 開. 明 治 ・大 正 ・昭 和(戦 前)の 歴 史 環 境 は外 憂 内 患 の状 況 で あ り、 国 家 権 力 や政 治 権 力 で国 民 (臣民)が. 完 全 に支 配 され、 天 皇 制 国 家 体 制 が磐 石 で あ った わ けで は な い。 い くっ か の 歴 史 事. 実 を 挙 げれ ば 、 以 下 の よ う に な る。 国 民 が 国 民 的 思 想 ・対 抗 姿 勢 を 明 らか に し、 言 論 を 以 って 国 家 の為 政 者(政 治 家 ・官 僚)に 一22一.

(5) ・. 公権力 による教育改革 に関 する一考察一官邸主導型 の教育改革路線 の問題一. 対 して 政 治 的 主 張 を持 ち、 政 治 思 想 を打 ち 出 した の は、 新 聞 界 で あ った。 新 聞 界 で は横 浜 毎 日 新 聞(1870年)、 売 新 聞(1874年)、 新 聞(1888年)、. 東 京 日 日新 聞(1872年)、. 郵 便 報 知 新 聞(1872年)、. 朝 日新 聞(1879年)、. 時事 新 聞(1882年)、. 大 阪 毎 日新 聞(1888年)、. 万 朝 報(1892年)、. 朝 野 新 聞(1874年)、. 自 由新 聞(1882年)、 平 民 新 聞(1903年)3)、. 読. 東京朝 日 が創 刊. され て い るが 、 政 府 は反 政 府 的 世 論 を 抑 制 す る た め、1875年 の議 諺 律 ・新 聞 紙 条 例 を定 め、 過 激 な 言 論 を 厳 し く取 り締 ま る歴 史 事 情 と な る。 一 方 で は、 新 政 府 へ の抵 抗 と不 満 は、 江 藤 新 平 によ る佐 賀 の 乱 、 熊 本 の 敬 神 党(神 風 連)の 反 乱 、 秋 月 党 や 前 原 一 誠 の反 乱 、 西 南 の役 な ど の 政 治 的 事 件 が 起 き、 民 権 運 動 は1874年. の 民 撰 議 院 設 立 建 自書 が 世 論 の注 目 を あ び、 翌 年 、 愛. 国社 の結 成 大 会 を 開 き、 民権 運 動 を 全 国 的 に呼 びか け、 全 国 的 に広 が り、 民 権 運 動 と官 憲 と の 闘争 事 件 が 繰 り広 げ られ て い く。 政 府 は民 権 運 動 の 激 化 に対 して1887(明. 治20)年. に保安条. 例 を制 定 す る。 明治 中期 か ら後 期 に か けて 日本 資 本主 義 の 急 速 な 経 済 発 展 に伴 い、 大 企 業 と中 小 企 業 の格 差 、 劣悪 な労 働 条 件 、 種 々 の 公害 や環 境 破 壊 な どで 、 社 会 全 体 に 「ひず み 」 を 生 み 出 して い く歴 史 過 程 が あ る。 労 働 の型 は 「出稼 ぎ」 型 労 働 で あ り、 同 時 代 の 欧 米諸 国 に比 較 す る と、 低 賃 金 、 長 時間 労 働 、 劣 悪 な衛 生 状 態 ・生 活 環 境 に お か れ、 多 くの社 会 問題 が 発 生 して い く。 九 州 の 高 島 炭 鉱 事 件 は3000人. の工 夫 の 虐 待 事 件 、 劣 悪 な 労 働 条 件 に 対 す る生 糸 紡 績 場. で の ス トラ イ キ も多 発 し、 政 府 は1900(明. 治33)年. に 「治 安 維 持 法 」 を公 布 し、 労 働 運 動 の. 取 り締 ま りを強 化 して い くが 、 日露 戦 争 を通 じて社 会 矛 盾 が深 ま る と、 労 働 争 議 は次 第 に激 し くな って い く。 一 方 で は、 財 閥 の産 業 支 配 は1907(明 し、 独 占 資 本 を形 成 して い く。1908(明. 治41)年. 治40)年. の 恐 慌 を 経 て 、 益 々強 化 ・発展. に は 「戊 辰 詔 書 」 が 換 発 さ れ るが 、 いか に. 国 民 生 活 が 不 安 定 で 、 苦 し く、 政 ・官 ・財 界 に対 す る政 治 不 信 ・社 会 不 信 が 表 面 化 し、 国政 の 危 機 的 状 況 で あ ったか を示 す もので あ る。 日露 戦 争 、 第 一 次 世 界 大 戦 を 経 る なか で 、 国 民 は抑 圧 的 な官 憲 的 法 制 度 と の闘 争 ・葛 藤 の下 、 労 働 組 合 の 結 成 、 社 会 運 動 の 展 開(社 会 主 義 思 想 運 動 、 学 生 運 動 、 婦 人 運 動 、 部 落 開 放 運 動 、 自由 教 育 運 動 な ど)で 自由 思 想 獲 得 の 歴 史 状 況 を 作 り出 して い くが 、 政 府 と国 民 と の抗 争 は大 正 期 に入 る と国 政 を 揺 るが す よ うな 時 代 状 況 にな る。 大 正 デ モ ク ラ シー の思 想 の 指 導 理 論 は、 吉 野 作造 の 唱 導 した 民 本 主 義 思 によ る もの で 、 天 皇 制 を 後 ろ盾 に民 意 に反 した政 治 運 営 者 を批 判 し、 政 治 運 営 の あ り方 を唱 え た の で あ る。 為 政 者 側 の危 機 感 は、1923(大 民 精 神 作 興 二関 ス ル 詔 書 」 発 布 の 形 で 現 れ る。 ユ925(大 正14)年. 正12)年. の 「国. に は 「陸 軍 現 役 将 校 学 校 配. 置 令」 を 公 布 し、 同 年 に は軍 事 教 育 反 対 運 動 者 に対 して、 「治 安 維 持 法 」 の 最 初 の適 用 事 件 が. 一23一. 辱. 一.心. 一.

(6) 近畿大学教育論叢. 第19巻. 第2号(2008・3). 発 生 して い る。. 3)天. 皇 制 教 学 体 制 を揺 るが す 昭 和 期(戦 前)の 憂 慮 す べ き歴 史 事 件. 昭 和 期 に入 り、 内外 の危 機 に触 発 され 、 国 内 に 「革 新 」 に気 運 が起 こ り国家 改 造 運 動 が展 開 され る。 軍 国 主 義1931(昭. 和6)年. の 満 州 事 変 か ら15年 戦 争 とい わ れ る長 き に渡 る軍 部 中心. の国 家 体 制 が 敷 か れ 、 悲 惨 な歴 史 を作 り出 して い く。 そ れ は昭 和 史(戦 (昭和6)年. 前)に. お け る 軍 部 系 勢 力 に よ る フ ァ ッ シ ョ化 の歴 史 に あ る よ う に1931. の3月 事 件(橋 本 欣 五 郎 中 佐 らの桜 会 将 校 、 大 川 周 明 な ど に よ る軍 部 ク ー デ タ ー. 計 画 、 未 遂 事 件)、9月 の 満 州 事 変 勃 発 、10月 事 件(橋 然 発覚 事 件)、1932(昭 件)、1934(昭 年2・26事. 和7)年. 和9)年10月. 本 欣 五 郎 中佐 らの ク ー デ タ ー計 画 、 未. の5・ ユ5事件(海 軍 青 年 将 校 らに よ る首 相 官 邸 な どの 襲 撃 事. の 『国 防 の本 義 と そ の強 化 の提 唱 』(陸軍 省 制 作)、1936(昭. 件(陸 軍 皇 道 派青 年 将 校 の クー デ タ ー事 件)4)な. 和11). ど多 くの 軍 事 的 ・政 治 的 事 件 が 起. きて い る。 事 件 の背 景 に は海 軍 と陸 軍 の長 い 間 の不 協 和 と対 立 抗 争 、 陸軍 部 内 の皇 道 派 と統 制 派 と の派 閥 対 立 な ど あ り、 ま た政 党 政 治 の軟 弱 性 、 軍 部 出身 の首 相 、 政 官 財 界 の汚 職 事 件 ・癒 着 事 件 の問 題 な ど は国 民 の政 治 不 信 、 軍 国 主 義 国 家 の独 走 を生 み、 天 皇 制 教 学 体 制 の形 骸 化 を 例 証 す る歴 史 事 件 で あ る と指 摘 で き る。 加 え て軍 部 の政 治 権 力 の拡 大 化 と横 暴 化 は、 大 日本 帝 国 憲 法 の第11条. 「天 皇 ハ 陸 海 軍 ヲ統 帥 ス」 を干 犯 す る問 題 ま で 引 き起 こ して い る こ とで も明. らか で あ る よ うに、 教 育 勅 語 の教 育 を 受 け た国 民(臣 民)の 精 神 文 化 が 醸 成 さ れ る こ とは な く、 皮 相 化 し、 定 着 しなか った 歴 史 事 情 と も窺 え る。. 4)戦. 後 の 日本 人 の 歴 史 認 識 の 基 本 的 問 題. 世 界 の歴 史 に な い 唯 一 の 被 爆 国 とな り、 日本 の 歴 史 にな い敗 戦 受 託(無 条 件 降 伏)の 歴 史 を 残 した の で あ る。 国 家 の悲 劇 とい うよ り、 国 民 の 悲 劇 で あ る。 特 に戦 後 の 歴 史 教 科 書 の 構 成 内 容 で は 日本 国民 の歴 史認 識 を啓 発 で きな い。 国民 の 政 治 意 識 の 低 さ は市 民 革 命 的 経 験 の な い歴 史 環 境 に一 つ の原 因 が あ る が、 明言 で きる こ とは浅 い歴 史認 識 教 育 に 深 い 関 係 が あ る。 戦 後 の 為 政 者 は国 民 の深 い歴 史 認 識 の形 成 を避 け て きて い る。 戦 後 半 世 紀 以 上 を経 よ う と して い る国 家 で近 ・現 代 史 の編 纂 に力 点 を置 か な い国 家 は後 進 国 的次 元 に あ る とい え る の で は。 例 え ば、 戦 後 の敗 戦 処 理 の問 題 、 極 東 軍 事 裁 判(東 京 裁 判)の 判 決 の歴 史 事 情 、 昭和27年4月28日. ま. で 対 日理 事 国 の 占領 政 策 の問 題 、 靖 国 神 社 の歴 史 的 問 題 、 慰 安 婦 の問 題 、 原 爆 投 下 の 問題 、 軍. 一24一.

(7) 公 権 力 に よ る教 育 改 革 に関 す る一 考 察 一 官 邸 主 導 型 の教 育 改革 路線 の 問題 一. 国 主 義 国 家 の問 題 、 天 皇 制 教 学 体 制 下 で の 国民 教 育 の 問題 な ど、 歴 史 問題 、 政 治 問題 、 外 交 問 題 、 経 済 問 題 、 教 育 問 題 な ど の視 点 か ら歴 史 事 実 に基 づ く国民 に 開 か れ た近 ・現 代 史 の 歴 史教 科 書 の編 纂 が喫 緊 の課 題 で あ る とい え る。 戦 後 の為 政 者 た ち は愛 国心 ・郷 土 愛 の 問題 や社 会 倫 理 観 ・道 徳 観 の問 題 を学 校 教 育 の 問題 で あ る と指 摘 ・批 判 し、 教 員 の 資質 能 力 の 問題 が す べ て の教 育 問 題 の根 本 で あ るか の よ うな認 識 レベ ル で は教 育 問題 は半 永 久 的 に解 決 し得 な い。 基 本 的 な歴 史 教 育 問 題 は、 現 在 、 戦 後 の重 要 な歴 史 問題 を認 識 で きて い な い 国民 が 多数 を 占め て き て い る年 齢 構 成 の状 況 が あ る。 そ の集 約 的象 徴 的歴 史 問題 は 「占領 政 策 下 の歴 史事 情 」・「靖 国 神 社 問 題 と靖 国 参 拝 問 題 」・「極 東 軍 事 裁 判(東 京 裁 判)問 題 」 で あ る。 この歴 史 問題 を 戦 後 の 政 界 ・官 界 ・財 界 ・教 育 界 は回 避 して来 た。 そ の根 本 問題 は、 占領 政 策 の解 放 後 に、 侵 略 戦争 の問 題 、 占領 政 策 下 で の 日米 関 係 の あ り方 、 靖 国 問題 、 東 京 裁 判 の 問題 を 国民 の歴 史 問 題 と し て位 置 づ け て こな か った こ とに あ る と察 す る。. <2>為. 1)上. 政 者 の政教 一致 思想 の幻 想. 意 下 達 の思 想 に よ る庶 民 ・臣 民 ・国 民 統 制. 歴 史 を さ か の ぼ る こ と江 戸 時 代 の徳 川 一 族 の幕 藩 体 制 は政 治 に い っ さい 関 わ らな か った 「非 政 治 性 」 の天 皇 制 の も とに天 下 統 一 の形 と して歴 史 が刻 ま れ て きた。 国 内 に お い て は身 分制 度 を揺 るが な い もの と して 確 立 し、 対 外 的 に は鎖 国 令 を も って 国 家 的 営 為 を成 し遂 げ、 「上 意 下 達 」 の思 想 を 醸 成 しな が ら、 「お上 思 想 」 とい う絶 対 君 主 制 的 管 理 統 制 を敷 い た歴 史 が あ る。 幕 末 に は黒 船 騒 動 に端 を発 し、 隣 国 で あ る清 国 の歴 史 事 情 を危 機 的政 治 事 情 と捉 え、 尊 皇 擁 夷 派 ・開 国 派 の革 命 的運 動 の結 果 、 明治 維 新 を成 就 し、 天 皇 制 国家 体 制 を構 築 しな が ら、 大 日本 帝 国 明 治 憲 法 を 明治23年. に発 布 し、 天 皇 を 政 治 の頂 にお い た。 敗 戦 ま で、 天 皇 制 教 学 体 制 は. 天 皇 制 家 族 主 義 思 想 に支 え られ、 万 世 一 系 の皇 祖 思 想 は貫 か れ た。 天 皇 を神 格 化 した 天皇 制 国 家 体 制 は、 立 憲 君 主 制 と して ドイ ッ皇 帝 的 色 彩 と国 学 的思 想 色 彩 を帯 び て い た の で あ る。 明治 期 ・大 正 期 ・昭 和 期(戦 前)の 国 民 教 育 は国 家 的 ・政 治 的 ・軍 事 的手 段 と され、 国権 的 発動 に は天 皇 の詔 勅 を も って な さ れ、 特 に国 民 教 育 の根 本 精 神 は 「教 育 勅 語 二 関 ス ル 勅 語(教 育 勅 語)」 に 求 め られ 、 絶 対 的 「上 意 下 達 」 思 想 で 統 制 され た の で あ る。 しか し、 教 育 に関 して は、 敗 戦 後 占領 政 策 下 で戦 前 の教 育 に関 す る制 度 や施 策 な どは否 定 ・禁 止 ・削 除 の管 理 政 策 を受 け、 民 主 主 義 思 想 で の種 々 の改 革 ・改 正 が 実 施 さ れ たが 、 政 治 家 も官 僚 も教 育 研 究 者 も 「国家 的管. 一25-. ,.

(8) 近畿大学教育論叢. 第19巻. 第2号(2008・3). 理 」 の思 想 か ら抜 け 出 す こと は な か った。 っ ま り、 国民 教 育 が常 に政 治 との 関 係 ・関 連 で 問 わ れ 続 け た と い う こと で あ る。 戦 後 の民 主 主 義 国 家 建 設 に お い て も、 米 国 の 占領 政 策(占 領 期 間)と 自民 党 の一 党 独裁 的政 治 形 態 で の政 策 で 教 育 改 革 は終 始 して き た し、 っ い に は市 民 改 革 的 ボ トム ア ップ の 改革 を経 験 す る こ と の な い歴 史 を刻 ん で き た。. 2)戦. 後の教育事情. わ が 国 の 教 育 は 占領 政 策 下 にお いて 、 政 策 方 向 転 換 を余 儀 な くされ た歴 史 事 情 が あ る。 占領 政 策 の 実 施 開 始 か ら1952(総 和27)年4月11日. の 「ポ ッ ダ ム政 令 廃 止 」 まで の間 、 戦 後 の民 主. 主 義 思 想 の よ る解 放 政 策 か ら 日本 国 憲 法 にあ る思 想 の 自由 や 戦 争 放 棄 の 精 神 を 踏 み に じる政 策 転 換 で あ る。 つ ま り、 米 ソ冷 戦 構 造 ・朝 鮮 戦 争 勃 発 によ る米 国 の 極 東 戦 略 政 策 方 針 で の 再 軍 備 と共 産 主 義 思 想 の追 放 と排 除 へ の転 換 で あ る。 そ れ は、 以 下 の よ うな 歴 史 事 実 で 明 らか で あ る。 ①1949(昭. 和24)年7月. ②1950(昭. 和25)年6月. 、CIE顧. 問 イ ー ル ズ、 新 潟 大 学 で共 産 主 義 教 授 の追 放 講 演. 、 総 司令 部 に よ る公 職 追 放 の 指 令(共 産 党 中 央 委 員 会24名 の追 放). ③ 同 年7月 、 マ ッカ ー サ ー元 帥 の警 察 予 備 隊 創 設 、 海 上 保 安 隊増 員 の指 令 ④ 同 年8月 、 警 察 予 備 隊 例 公 布 ⑤ 同 年9月 、 公 務 員 の レ ッ ド ・パ ー ジの基 本 方 針 の閣 議 決 定 ⑥1951(昭. 和26)年1月. 、 マ ッカ ー サ ー元 帥、 講 和 と武 装 の必 要 性 を 強調. ⑦ 同 年4月 、 ダ レス、 対 日講 和 の基 本 原 則(集 団 安 全 保 障 ・米 軍 駐 留)を 表 明 ⑧ 同 年9月 、 講 和 条 約 調 印 、 日米 安 全 保 障 条 約 調 印 ⑨1952(昭. 和27)年2月. 、 日米 行 政 協 定 調 印(国 会 承 認 の手 続 きをふ ま ず). ⑩ 同年3月. 、 総 司 令部 、兵 器製 造許 可 を 政 府 に指 令5). この よ うな 政 策 転 換 は 日本 政 府 に戦 前 の 教 育 復 活 を 目指 す 方 向 を与 え て い くこ と に な る。 1950(昭 和25)年. か ら ユ953(昭 和28)年. まで の 歴 史 事 実 を 見 て み る と、 以 下 の よ うな事 実 が. あ る。 ① 学 生 の政 治 集 会 ・デ モ の禁 止 の通 達 、 ② 学 内集 団行 動 お よ び示 威 運 動 の抑 制 っ いて の 通 達 、 ③ 国 旗 掲 揚 、 「君 が 代 」 斉 唱 に っ い て の 通 達 、 ④ 文 相 の 「終 身 復 活 と国 民 実 践 要 領 」 の 発 言 、 ⑤ 文 相 の衆 議 院 で の静 か な愛 国 心 の説 諭 、 ⑥ 道 徳 教 育 振 興 方 策 の発 表 、 ⑦ 道 徳 教 育 の た め の手 引 書 要 領 の発 表 、 ⑧ 文 相 の参 議 院 で 道 徳 の 中心 は天 皇 で あ る と言 明 、 ⑨ 首 相 が修 身 ・国 史 ・地 理 の復 活 を表 明 、 ⑩ 首 相 が 歴 史 ・地 理 と国 体 ・民 族 の優 秀 性 を教 え る教 育 を強 調 、 ⑪ 文. 一26一.

(9) 公 権 力 に よ る教 育 改 革 に関 す る一 考 察 一 官 邸 主 導 型 の教 育 改 革 路 線 の問 題 一. 相 が 教 育 課 程 審 議 会 に 「社 会 科 の 改 善 、 特 に地 理 ・歴 史 ・道 徳 教 育 にっ い て」 の諮 問 、 ⑫ 文 相 が 教 育 勅 語 は 「千 古 の 真 理 」 を もっ と言 明 し漢 文 ・地 理 ・歴 史 の復 活 や 柔 剣 道 の奨 励 、 ⑬ 教 育 の 中 立 性 の 維 持 にっ いて の 通 達 、 ⑭ 池 田 ・ロバ ー トソ ン階 段 の議 事 録 草 案 に再 軍 備 の た め の愛 国 心 教 育 が 出 る な どで あ るが 、 戦 前 の 天 皇 制 教 学 体 制 で の国 民 教 育 の結 果 に よ る あ の悲 惨 な歴 史 事 実 を ま った く認 識 して い な い こ とが 指 摘 で き る。 戦 後 の国 政 に従 事 す る政 治 家 ・官 僚 が こ の よ うな 歴 史 感 覚 や 歴 史 意 識 の レベ ル で 国 民 教 育 を改 革 ・改 善 して い く こ と自体 が 不 可 能 で あ る こ と は 自明 の 理 で あ る。 戦 後 の 国 民 教 育 の基 本 精 神 は 日本 国 憲 法 や教 育 基 本 法 の条 理 ・条 文 に こめ られ て い る。 昭 和20年 代 の後 半 か ら昭 和30年 代 、40年 代 にか けて の 教 育 問 題 は ま さ に、 政 ・官 ・財 界 の リー ダ ーの 教 育 に関 す る政 策 能 力 の問 題 に尽 き る。 時 に して は経 済 界 の イ ニ シ ア テ ィ ブ に よ る教 育 政 策 は企 業 利 潤 優 先 に基 づ く もので あ り、 文 部 省 や政 界 に圧 力 を か け経 済 第 一 主 義 を 主 張 して い く歴 史 事 実 が あ る。 そ の際 た る ものが 工 業 高 等 学 校 の増 設 施 策 で あ る。 高 度 経 済 成 長 政 策 を 支 え る教 育 改 善 策 は実 業 高 校 の増 設 に力 点 を置 き、 就 業 労 働 人 口 の確 保 と 獲 得 を 眼 目 に した こ と に あ る。 この 問 題 は、 高 度 学 歴 社 会 に突 入 して い く受 験 中心 の学 校 系 列 の 歴 史 環 境 で は負 い 目 に な り、 廃 校 や 統 廃 合 の事 態 を生 み 出す こ とに な って い く。 教 育 政 策 が 経 済 界 の 繁 栄 手 段 化 され た実 例 で あ る。 特 に第 三 の教 育 改 革 と名 を打 った 中央 教 育 審 議 会 の答 申 で あ る 「46答 申」 は、 各 界 の 批 判 で 中 途 な改 革 に終 始 す る こ と に な り、 昭和40年. 代 の後 半. か ら50年 代 にか けて 、 教 育 問 題 は未 曾 有 の教 育 破 綻 的 歴 史 状 況 を と な って い く。 文 部 省 レベ ル で の 教 育 改 革 や 教 育 改 善 で は教 育 問 題 解 決 が 遅 々 と して 進 ま な い と判 断 さ れ、 中 曽根 総 理 の 時 代 に 「臨 時 教 育 審 議 会 」 が 内 閣 府 に設 置 され 、 第 一 答 申か ら第 四答 申(最 終 答 申)が 出 され た 。 現 在 の 教 育 改 革 の 流 れ は臨 時 教 育 審 議 会 の 答 申 を源 流 と し、 教 育 改 革 の あ り方 は橋 本 内閣 の 「変 革 と創 造 」 の政 治 的 プ ロパ ガ ンダ に よ る 「6っ の 改 革 の一 体 的 推 進 」(行 政 改 革 ・財 政 構 造 改 革 ・社 会 保 障 構 造 改 革 ・金 融 シス テ ム改 革 ・経 済 構 造 改 革 ・教 育 改 革)の. な か で進 め ら. れ て きた 経 緯 が あ る。 この よ うな 政 治 主 導 の教 育 改 革 の理 念 は国 家 権 力 の思 想 に基 づ く もの で あ り、 国 民 的 視 座 が 抜 け落 ちて い る。 過 去 に、 内 閣 府 に教 育 改 革 の組 織 ・機 構 を設 置 し、 教 育 改 革 や 教 育 改 造 を 断 行 した 歴 史 事 実 が あ る。. 3)内. 閣 府 にお か れ た 官 邸 主 導 の 教 育 会 議. 公 権 力 の 思 想 に基 づ いて 、 文 部 省 レベ ル の 教 育 改 革 で は当 時 の教 育 問 題 ・課 題 解 決 が 遅 れ、 教 育 改 革 を 断 行 して い くこ と に課 題 が 多 す ぎ る と い う視 点 か ら、 内 閣 府 に教 育 会 議 が 設 置 さ れ 一27一.

(10) '.」 婚母盟臨. 近畿大学教育論叢. 第19巻. 第2号(2008・3). た歴 史 が あ る。 内閣 総 理 大 臣 の諮 問 に対 して検 討 結 果 を建 議 す る シス テ ム で あ る。 大正 期 か ら 現 在 ま で の会 議 名 ・実 施 期 間 ・会 議 目的 は以 下 の よ うに な って い る。 ①. 臨 時 教 育 会 議:(大 正6年9月21日. ∼ 大 正8年5月23日). :教 育 に関 す る重 要 事 項 にっ き内 閣 総 理 大 臣 の諮 諭 に応 じ意 見 を開 申 し、 お よ び 内 閣総 理 大 臣 に建 議 す る こ と。 ②. 文 政 審 議 会:(大 正13年4月15日. ∼ 昭和10年12月29日). :内 閣 総 理 大 臣 の諮 諭 に応 じて 国 民 精 神 の作 興 、 教 育 の方 針 そ の他 文 政 に関 す る重 要 事 項 を 調 査 審 議 し、 お よ び これ らの 事 項 にっ き内 閣 総 理 大 臣 に建 議 す る こ と。 ③. 文 教 審 議 会:(昭 和12年5月26日. ∼ 昭 和17年5月9日). :内 閣 総 理 大 臣 の 諮 問 に応 じて 教 育 の 刷 新 振 興 に関 す る重 要 事 項 を 調 査 審 議 し、 お よ び これ らの 事 項 にっ き内 閣 総 理 大 臣 に建 議 す る こ と。 ④. 教 育 刷新 委 員 会:(昭 和21年8月10日. ∼ 昭 和24年6月1日). :教 育 に 関 す る重 要 事 項 を調 査 審 議 し、 お よ び 内 閣 総 理 大 臣 の 諮 問 した 教 育 に関 す る重 要 事 項 に つ い て答 申 す る こ と。 ⑤. 教 育 刷 新 審 議 会:(昭. 和24年6月1日. ∼ 昭和27年6月6日). :教 育 に関 す る重 要 事 項 を調 査 審 議 し、 お よ び 内 閣総 理 大 臣 の諮 問 した教 育 に 関 す る重 要 事 項 につ い て答 申す る こと。了) ⑥. 臨 時 教 育 審 議 会:(昭 和59年9月5日. ∼ 昭 和62年8月20日). :内 閣 総 理 大 臣 の諮 問 に応 じ、 教 育 及 び これ に関 連 す る分 野 に係 る諸 施 策 に関 し、 広 く、 か っ 、 総 合 的 に検 討 を加 え 、 必 要 な改 革 を図 る た め の方 策 に関 す る基 本 事 項 につ い て 調 査 審 議 す る。8) ⑦. 教 育 改 革 国 民 会 議:(平 成12年3月24日. ∼ 平 成12年12月22日). :21世 紀 の 日本 を担 う創 造 性 の高 い 人 材 の育 成 を 目指 し、 教 育 の基 本 に遡 って 幅 広 く 今 後 の教 育 の 在 り方 にっ い て検 討 す るた め 、 内 閣総 理 大 臣 が 有 識 者 の 参 集 を 求 め、 教 育 改革 国民 会 議 を 開催 す る。9) ⑧. 教 育 再 生 会 議:(平. 成18年10月10日. ∼). :21世 紀 の 日本 にふ さ わ しい 教 育 体 制 を 構 築 し、教 育 の再 生 を 図 って い くた め、 教 育 の基 本 に さか の ぼ っ た改 革 を 推 進 す る必 要 が あ る。 この た め。 内 閣 に 「教 育 再 生 会 議 」 を設 置 す る。1°). 一28一.

(11) 公権力 による教育改革 に関する一考察一官邸主導型 の教 育改革路 線の問題一. 特 に、 大 正 期 の 「臨 時 教 育 会 議 」 の設 置 目 的 は、 明治 以 降 の教 育 政 策 の総 反 省 の 視点 と第一一 次 世 界 大 戦 を契 機 と した各 国 の国 民 教 育 改 革 の潮 流 に遅 れ な い た め の教 育 制 度 の 改革 ・改 善 で あ り、 戦 前 の教 育 全 般 に わ た る骨 格 の基 盤 を構 築 した と評 さ れ て い る。 歴 史事 情 ・歴 史 環 境 は 根 本 的 に 異 な るが 、 昭 和59年. の 「臨 時 教 育 審 議 会 」 の設 置 目的 は、 高 度 経 済 成 長 の負 の遺 産. の問 題 と して の教 育 問 題 の解 決 と国 際 化 社 会 と い う文 明史 的転 換 期 に お け る 国家 モ デ ル と国民 教 育 の モ デ ル の創 造 を 目指 す こ とで あ り、 なか で も、 中 曽根 首 相 は教 育 基 本 法 の改 正 を 唱道 し たが 、 改 正 は成 立 しな か っ た。 しか し、2006年9月. に 誕 生 した安 倍 政 権 は 憲 法 改 正 を 政 治 生. 命 と し、 「戦 後 レ ジー ム か らの脱 却 」 を 唱 え、 官 邸 主 導 の 「強 者 の論 理」 「力 の 論 理 」 で2006 年 に は教 育 基 本 法 を改 正 し、 国 民 投 票 法 案 を2007年5月. に 可 決 させ て い る。 安 倍 内 閣 の 「教. 育 再 生 会 議 」 の 基 本 的 な問 題 は、 文 部 科 学 省 の教 育 政 策 の中 枢 軸 で あ る 中央 教 育 審 議 会 との関 りで あ る。 教 育 政 策 が 官 邸 主 導 か 官 僚 主 導 か で 右 往 左 往 す る こ と 自体 、 教 育 政 策 が 政 争 の具 と 化 して い る こ とを 明 示 して い る。 国 家 基 本 構 想 、 国 家 戦 略 、 教 育 構 想 の トー タ ル ・デ ザ イ ンが な い状 況 で は、 教 育 法 の 部 分 改 正 や 短 期 的 な政 策 論 議 や 偏 っ た教 育 審 議 会 委 員 に よ る教 育 政 策 で は、教 育 改 革 の 全 体 像 が ま った く見 え な い。 教 育 改 革 の 本 道 が 全 く見 え な い次 元 で 国 民 教 育 の理 念 や理 想 は幻 想 に近 い と指 摘 で き る。. <3>国. 1)安. 家教育権論の急進的な台頭. 国民教育の危機の兆 し. 倍 首 相 の所 信 表 明演 説11). 「私 が 目指 す この 国 のか た ち は、 活 力 の チ ャ ンス と優 しさ に満 ち あ ふ れ 、 自律 の精 神 を 大 事 に す る、 世 界 に 開 か れ た、 「美 しい国 、 日本 」 で あ り ます 。 こ の 「美 しい 国 」 の 姿 を、 私 は次 の よ うに考 え ま す。 一 っ 目 は、 文 化 、 伝 統 、 自然 、 歴 史 を大 切 に す る国 で あ り ます。 二 っ 目 は、 自 由 な社 会 を基 本 と し、 規 律 を知 る、 凛 と した 国 で あ りま す。 三 っ 目 は、 未 来 に 向 か って 成長 す る エ ネ ル ギ ー を持 ち続 け る国 で あ ります 。 四っ 目 は、 世 界 に信 頼 され、 尊 敬 され、 愛 され る、 リー ダ ー シ ップ の あ る国 で あ ります 。 この 「美 しい国 」 の実 現 の た め、 私 は、 自由民 主 党 及 び 公 明 党 に よ る連 立 政 権 の安 定 した基 盤 に立 って、 「美 しい国 づ くり内 閣 」 を組 織 しま した。」 「私 が 目指 す 「美 しい 国 、 日本 」 を 実 現 す る た め に は、 次 代 を背 負 って 立 っ子 ど もや 若 者 の 育 成 が 不 可 欠 で す 。 と ころが 近 年 、 子 ど もの モ ラル や学 ぶ 意 欲 が 低 下 して お り、 子 ど もを取 り 巻 く家 庭 や 地 域 の教 育 力 の低 下 も指 摘 され て い ます 。 教 育 の 目的 は、 志 あ る国 民 を育 て、 品格. 一29一.

(12) 近畿大学教育論叢. 第19巻. 第2号(2008・3). あ る国 家 、 社 会 をっ くる こ とで す 。 吉 田松 陰 は、 わず か3年 ほ ど の間 に、 若 い長 州 藩 士 の志 を 持 た せ る教 育 を 行 い、 優 位 な 人 材 を 多 数 輩 出 しま した。 小 さ な松 下 村 塾 が 「明 治 維 新 胎 動 の 地」 とな っ たの で す 。 家 族 、 地 域 、 国 、 そ して 命 を大 切 にす る、 豊 か な人 間 性 と創 造 性 を備 え た規 律 あ る人 間 の 育 成 に向 け、 教 育 再生 に直 ち に取 り組 み ます 。 す べ て の子 ど もに高 い学 力 と 規 範 意 識 を 身 にっ け る機 会 を 保 障 す るた あ 、 公 教 育 を 再 生 します 。 学 力 の向 上 にっ いて は、 必 要 な授 業 時 間数 を十 分 に確 保 す る と と も に、 基 礎 学 力 強 化 プ ロ グ ラ ムを 推 進 します 。 教 員 の質 の 向上 に 向 けて、 教 員 免 許 の更 新 制 度 の導 入 を 図 る と と も に、 学 校 同 士 が 切 磋 琢 磨 して 、 質 の 高 い教 育 を提 供 で き るよ う、 外 部 評 価 を導 入 しま す。 こ う した施 策 を推 進 す るた め 、 我 が 国 の 叡 智 を結 集 して、 内閣 に 「教 育 再 生 会 議 」 を早 急 に発 足 させ ま す。」(教 育 再 生) 「戦 前 、 戦 中 に鍛 え られ た 世 代 、 国 民 や 国 家 の た め に貢 献 した い と の熱 意 あ ふ れ る若 い人 た ち と と もに、 日本 を、 世 界 の人 々が 憧 れ と尊 敬 を抱 き、 子 ど もた ち の世 代 が 自身 と誇 りを持 て る 「美 しい国 、 日本 」 とす る た あ、 私 は先 頭 に立 って 、 全 身 全 霊 を傾 け挑 戦 して い く覚 悟 で あ り ます 。」 この 所 信 表 明 の な か で,構 造 改 革 にお け る改 革 の 成 果 、 美 しい国 づ く り内 閣 、 地 方 分 権 の推 進 、 公 教 育 の 再 生 、 教 員 免 許 の 更 新 制 度 、 戦 前 ・戦 中 に鍛 え られ た世 代 な どの キ ー ワ ー ドが 盛 り込 ま れ て い るが 、 歴 史 認 識 の 浅 さに あ い ま った 安 倍 政 権 の 強 引 な 力 の 政 治 決 定 の あ り方 が 根 本 か ら否定 され る歴 史事 情 が起 きた。 そ れ は 今 回 の 参 議 院 選 挙 で 保 守 陣 営 は惨 敗 と い う結 果 を 招 い た とい う こ とで あ る。 民 意 に反 映 さ れ た こ と は、安 倍 政 権 の 美 しい 国 づ くり内 閣 の 閣 僚 の 不 正 事 件 の発 覚 、 安 倍 政 権 が提 示 す る主 要 な政 策 が観 念 の もの が 多 い こ とへ の 否 定 で あ った 。 こ の根 本 問 題 は安 倍 政 権 の政 策 決 定 の あ り方 に あ る。 そ れ は入 力 した指 令 が そ の ま ま 出 力 され る よ うな シ ンプ ル な上 意 下 達 の モ デ ルが 社 会 制 度 と して 「良 い もの」 で あ る と考 え る思 い込 み で あ る。 さ らに問 題 で あ る こ と は、 法 改 正 で 歴 史 事 情 ・歴 史 環 境 が 簡 単 に変 え られ る とい う神 話 信 仰 で あ る。 現 在 の政 治 ・経 済 ・教 育 な ど に お け る問 題 は政 治 神 話 ・経 済 神 話 ・教 育 神 話 で あ る。 政 治 主 義 が 万 能 で あ り、 政 治 レベ ルの 改 正 ・改 革 が で き、 国 民 は政 治 家 や官 僚 の政 策 ・ 施 策 を 遵 守 し、 豊 か な 公 共 精 神 ・崇 高 な 社 会 倫 理 観 な ど の啓 発 や 確 立 が 可 能 で あ り、 安 心 立 命 の 国 民生 活 を 営 め る とい う支 配 者 神 話 、 右 上 が りの 経 済 成 長 こそ が 国 民 の 生 活 の 安 定 と保 障 に っ な が り、 貧 困 ・貧 窮 ・飢 餓 の 歴 史 環境 は存 在 しな くな る と い う大 企 業 優 位 の 経 済 神 話 、 教 育 問題 は 国家 権 力 の 法 改正 に よ り管理 ・監 督 権 の 強 化 で 簡単 に 解 決 で き る と思 い込 ん で い る教 育 行 政 本 位 の教 育 改 革 神 話 で あ る。 特 に人 事 考 課 制 を学 校 現 場 に 導 入 して 「勤 務 評 価 」 を 厳 格 ・. 一30一.

(13) 公権力 による教育改革 に関す る一考察一官邸主導型 の教育改革路線 の問題一. 厳 正 に実 施 す れ ば 、 教 員 の 資 質 能 力 が 向 上 し、 責 任 能 力 が 育 成 で き、 教 育 効 果 が 上 が る とい う 「学 校 評 価 制 度 」 の神 話 は全 くわ が 国 の教 育 実 践 の実 情 の無 視 以 外 の何 もの で もな い。 そ れ は、 どの レベ ル の 者 が 、 誰 を 、 何 を 、 どの よ う に して 完 壁 無 比 に点 数 化 し、 評 価 で き る のか と い う 問題 で あ る。 教 員 の 評 価 制 度 にお け る人 事 考 課 ・人 事 評 価 にお いて も同 様 で あ り、 教 員 の資 質 能 力 の絶 対 的 評 価 な ど存 在 し得 な い。 人 聞 教 育 は 「物 作 り」 で もな く 「鋳 型 作 り」 で もな い。 人 間 教 育 の本 質 は個 々 の人 間 の価 値 形 成 で あ る。 昭 和30年. 代 の教 員 の勤 務 評 定 の実 施 は教 育. 現 場 に混 乱 を もた ら し、 「日教 組 非 常 事 態 宣 言 」(昭 和32年12月22日)、 反 対 声 明」(昭和33年5月10日)な. 「学 者 ・文 化 人 の 勤 評. ど が公 表 され 、 全 国規 模 の勤 務 評 定 反 対 闘 争 が 繰 り広 げ ら. れ、 無 益 な、 無 謀 な政 府 や 自民 党 の飽 くな き教 育 支配 で あ る と指 摘 され た 歴 史 事 実 が あ る。 現 在 の教 育 改 革 の あ り方 は昭 和30年. か ら40年 に か け て行 わ れ た 国家 権 力 に よ る抑 圧 的 改 革 と似. た方 向 に傾 斜 して きて い る こ とは、 国 民 教 育 の重 大 な危 機 で あ る と認 識 す る。. 2)「 教 育 基 本 法改 正 」 方 向 で の 「や らせ質 問」 の教 育 問 題 教 育 こ そが 国 の成 り立 ち を決 定 して い く最 重 要 課 題 で あ る と認 識 し、 現 場 の教 師教 育 の 資質 能 力 の向 上 対 策 と して の教 員 免 許 法 改 正 、 教 育 基 本 法 の改 正 な ど被 教 育 者 に対 して は愛 国 心 や 規 範 倫 理 の 重 要 性 を 説 く。 現 在 のわ が 国 にお いて 、 子 ど もに対 して 、 愛 国 心 や規 範 倫 理 を問 題 にす る政 府 や 文 部 科 学 省 の 真 の 意 図 は何 か 。 上 意 下 達 の権 力 支 配 か 。 政 治 的 意 図 で の国 民 教 育 の再 生 か。 教 育 問 題 を 内 閣 府 レベ ル で解 決 す る方 向 で あ る と認 識 して い るの で あれ ば、 タ ウ ー ン ミー テ ィ ン グ にお け る 「や らせ 質 問」 は ど う評 価 で き るの か 。 2006(平. 成 ユ8)年11月10日. の 朝 日新 聞 で の掲 載 記 事 は以 下 の よ う に な って い る。『「03年 末. か ら8回 開 か れ た教 育 改 革 タウ ン ミー テ ィ ン グ(YM)の. うち、5回. で政 府 の振 り付 け に よ る. 「や らせ 質 問」 が あ っ た。 文 部 科 学 省 な ど の関 係 者 は ど の よ うに、 そ して 、 なぜ 「世 論 の 誘 導 に関 与 した の か。」』 とを指 摘 し、 ま た 「や らせ」 文 案 と実 際 の発 言 例 を コ ンパ ク トに ま とめ て あ る。 そ れ は以 下 の よ うな もの で あ る。 文 部 科 学 省 の質 問 案 に は 「重 要 な考 え は 引 き続 き継 承 しつつ も、 将 来 を見 据 え、 今 後 の わ が 国 の教 育 は ど うあ るべ きか とい う視 点 か ら新 しい時 代 にふ さ わ しい教 育 基 本 法 とな るよ うに改 正 す る こ とが 必 要 だ」 と あ り、 実 際 の発 言 は 「普 遍 的 な理 念 は 引 き続 き継 承 しなが ら、 将 来 を 見 据 え 、 今 後 のわ が 国 の教 育 は ど うあ るべ きか と い う視 点 か ら新 しい時 代 にふ さ わ しい教 育 基 本 法 とな る よ う改 正 す る こ とが 必 要 で は」 と あ る。 質 問 案 と実 際 の発 言 が あ らか じあ決 定 して. 一31一.

(14) 近畿大学教育論叢. 第19巻. 第2号(2008・3). お り、 文 部 科 学 省 や 内 閣府 の担 当者 で地 方 の教 育 庁 や 教 育 委 員 会 に通 達 して 、 教 育 改 革 タ ウ ン ミー テ ィ ン グが実 施 し され て い る。 文 部 科 学 省 や 内 閣 府 が 、 教 育 改革 とい う名 の 下 に、 実 に卑 劣 な施 策 方 法 で 臨 ん だ社 会 的事 件 で あ る。「国民 の声 」 を 聞 く とい う タ ウ ン ミー チ ン グの 基 本 精 神 を根 底 か ら否 定 す る官 僚 の姿 勢 や体 質 は ま さ に後 進 国 の域 を 出 て い な い。 国 民 を 愚 弄 す るよ うな文 部 科 学 省 の体 質 や意 識 は、 ま さ に教 育 基 本 法 の改 正 の基 本 精 神 を 自 ら否定 す る もの で あ る。 結 局 は こ の 「や らせ 問 題 」 は責 任 を問 わ な い方 向 で処 理 さ れ た。 それ は タ ウ ン ミー テ ィ ン グ(TM)問. 題 に 関 す る調 査 委 員 会 の最 終 報 告 の 要 旨 に述 べ て あ る. こ とで 認 識 で き るの で あ る。r事 務 担 当者 はTMを と して の体 裁 を重 視 した。TMの 令 塔 で あ る 内閣 府TM担 TMの. イ ベ ン ト性 重 視 の事 業 と理 解 し、 イ ベ ン ト. 運 営 業務 が こ この 担 当 者 に事 実 上 単 独 で委 ね られ て い た。 司. 当室 に、 事 業 に関 す る統 一 方 針 が 明 確 な 形 で 存 在 しな か った。…. 理 念 が 内 閣府 内部 で具 体 化 され ず、 開催 が 自己 目的 化 し、 政 府 の 側 か ら見 た イ ベ ン トの. 成 功 が追 求 され た。 公 聴 と して の 役割 を軽 視 す る傾 向 が 見 られ た。 適 正 な会 計 事 務 の執 行 にっ い て意 識 が 不十 分 だ った。 事 業 マ ネ ジ メ ン トの 強 化 、 開 催 の 形 態 や テ ー マ選 定 に関 す る工 夫 が 必 要 。 運 営 面 や会 計 手 続 きで公 正 性 ・透 明性 の確 保 が必 要 。」 と。 この問 題 は、 国 の発 言 依 頼 、 発 言 内容 の 依 頼 、 参 加 の依 頼 、 謝 礼 金 の支 払 い 、 請 負 契 約(開 催 一 回 あ た り平 均 金 額2,200万 円)に お け る組 織 的運 営 の問 題 で、 政 府 行 政 の脆 弱 な体 質 を浮 き彫 りに した社 会 的事 件 で あ る に もか か わ らず 責 任 が 問 わ れ て い な い。TMは2001年5月. 、小泉 前首 相が 所信 表 明演説 で. 「国 民 が 政 策 形 成 に参 加 す る機 運 を盛 り上 げて い きた い」 と打 ち上 げ、 既 得 権 に と らわ れ ず に 幅 広 い 「国 民 の声 」 を聞 く狙 いが あ った。 実 態 と して 「官 製 対 話 」 の代 物 とな った の で あ る。 こ の よ うな事 態 に対 して 責 任 能 力 を問 え な い国 政 の無 責 任 こそ、 根 本 的 な問 題 で あ る。 戦 後 、 積 み 重 ね られ た60年 間 の教 育 問 題 を法 改 正 な どで 簡 単 に解 決 が で き る な ど と単 純 な もので は な い。 教 育 問 題 は一 朝 一 夕 にお きて い るわ けで な く、 戦 後 の教 育 事 象 の総 合 的 な複 合 化 した問 題 で あ り、 連 鎖 的 な 問 題 で あ る。 戦 後 の 経 済 復 興 計 画 か ら経 済 成 長 路 線 の なか で 大 き な社 会 変 動 ・社 会 変 革 は教 育 問 題 を 常 に根 底 か ら揺 り動 か して き た。 現 在 まで 幾 多 の 教 育 改 革 ・教 育 改 正 で の 政 策 ・施 策 が 実 施 され て きて い るが 現 実 の 輻 較 化 した 教 育 問 題 を 克 服 で きず 、 教 育 問 題 を複 雑 化 させ て い る。 しか し、 この よ うな教 育 の 歴 史 文 脈 にお い て 、 最 近 、 教 育 問 題 を 大 きな 国政 的 問題 と と らえ、 教 育 問題 解 決 の あ り方 に お い て 国 家主 義 的 対 応措 置 を 講 じて い く傾 向 が あ る。 教 育 基 本 法 の制 定 精 神 は極 端 な戦 前 の 国家 主 義 と民 族 主 義 を 否定 し、 教 育 を 時 の 政 府 の 国 家 目 的 の手 段 か ら解 放 す る精 神 で あ った。 基 本 法 に は教 育 が 国家 的手 段 で な く、 人 類共 通 の. 一32一.

(15) ivmL]GG1. 公 権 力 に よ る教 育 改 革 に関 す る一 考 察 一 官 邸 主 導 型 の 教 育 改 革 路 線 の 問 題 一. 普 遍 的 価 値 を して の 「人 格 主 義 」 を うた い こん だ の で あ る。 教 育 基 本 法 の 中 心 概 念 は 「人 格 形 成」 に あ る。 人 格 は個 人 の 尊 厳 で あ り、 基 本 的 人 権 で あ り、 自由 精 神 で あ る。 それ は、 教 育 と い う二 文 字 は深 遠 で 崇 高 な 社 会 的 営 為 で あ る。 教 育 問 題 は、 一 人 ひ と りの 生 き方 問 題 で あ り、 価 値 の 問 題 で あ る。. 3)改 ①. 正 教 育 基 本 法 の 条 文 に お ける 問 題 点 改正 教 育 基 本 法 と教 育 基 本 法 の 前 文 にお ける 相 違 点 と問 題 点. 改 正 教 育 基 本 法 の 前 文:「 我 々 日本 国 民 は、 た ゆ ま ぬ 努 力 に よ って築 いて き た民 主 的 で 文 化 的 な 国 家 を 更 に発 展 させ る と と も に、 世 界 の 平 和 と人 類 の 福 祉 の 向 上 に貢 献 す る こ と を願 う も の で あ る。 我 々 は、 この 理 想 を 実 現 す るた め 、 個 人 の 尊 厳 を 重 ん じ、 真 理 と正 義 を 希 求 し、 公 共 の精 神 を 尊 び 、 豊 か な 人 間 性 と創 造 性 を 備 え た 人 間 の 育 成 を 期 す る と と もに、 伝 統 を継 承 し、 新 しい 文 化 の 創 造 を 目指 す 教 育 を 推 進 す る。 こ こ に、 我 々 は、 日本 国 憲 法 の 精 神 に の っ と り、 わ が 国 の 未 来 を 切 り拓 く教 育 の 基 本 を 確 立 し、 そ の 振 興 を 図 る た め、 こ の 法 律 を 制 定 す る。」12) 前 教 育 基 本 法 の 前 文:「 わ れ ら は、 さ き に、 日本 国 憲 法 を 確 定 し、 民 主 的 で 文 化 的 な 国 家 を 建 設 し、 世 界 の 平 和 と人 類 の 福 祉 に貢 献 しよ う とす る決 意 を 示 した 。 この 理 想 の 実 現 は、 根 本 的 に お い て 教 育 の 力 に まっ べ き もの で あ る。 わ れ らは、 個 人 の 尊 厳 を 重 ん じ、 真 理 と平 和 を希 求 す る人 間 の 育 成 を 期 す る と と も に、 普 遍 的 に して しか も個 性 ゆ た か な 文 化 の 創 造 を め ざす 教 育 を普 及 徹 底 しな けれ ば な らな い 。 こ こ に、 日本 国 憲 法 の 精 神 に則 り、 教 育 の 目的 を 明 示 して 、 新 しい 日本 の 教 育 を 確 立 す るた あ 、 この 法 律 を 制 定 す る。」13) 前 文 に お け る根 本 的 な 相 違 につ い て 述 べ る。 第 一 点:前 教 育 基 本 法 で は 「貢 献 しよ う とす る 決意 を 示 した 」 に対 して 、 改 正 教 育基 本 法 で は 「貢 献 す る こ とを 願 う もの で あ る」 と して い る が 、 改正 の 意 気 込 み が 弱 い 表 現 にな って い て 改 正 の 決 意 ・覚 悟 が な く、 他 人 事 の よ う な表 現 内 容 で あ る こ と。 第 二 点:前 者 は 「真理 と正 義 を 希 求 し」 で 後 者 は 「真 理 と平 和 を 希 求 し」 で 日 本 国 憲 法 の平 和 主 義 を排 除 した 上 に、 「正 義 」 の基 本 理 念 が 明 確 で な い こ と。 第 三 点:前 一腎㌃. 者は. 「公 共 の精 神 を 尊 び、 豊 か な人 間性 と創 造 性 を備 え た 人 間 の育 成 を 期 す る と と もに、 伝 統 を 継 承 し、 新 しい文 化 の 創 造 を 目指 す教 育 を 推 進 す る」 で、 後 者 は、 「真 理 と平 和 を希 求 す る人 間 の育 成 を期 す る と と もに 、普 遍 的 に して しか も個性 ゆ た か な 文 化 の 創 造 を 目指 す 教 育 を 普 及 徹 底 しな けれ ば な らな い」 と あ り、 「豊 か な人 間 性 と創 造 性 を備 え た 人 間 」 の文 言 で は、教 育 作. 一33一.

(16) 近畿大学教育論叢. 第19巻. 第2号(2008・3). 用 は人 間 の未 来 性 に関 る こ と で あ り、 進 行 形 的 で永 続 的 な課 題 性 を包 含 す る観 点 か ら考 察 す れ ば、 教 育 作 用 の完 結 的 表 現 と な り、 人 間 の成 長 の未 来 的 時 間 性 を認 識 で き な い こ とで あ る。 ま た、 「豊 か な 人 間 性 と創 造 性 」 は平 和 主 義 思 想 と学 問 ・科 学 の真 理 探 究 を 表 明 して い る後 者 の 「真 理 と平 和 」 に簡 明 に表 現 され て お り、 「豊 か な人 間 性 と創 造 性 」 は無 味 乾 燥 で漠 然 と した文 言 で あ り、 か っ 「真 理 」 と 「創 造 性 」 は二 重 な 表 現 と な って い る と指 摘 で き る。 ま た 、 「公 共 の精 神 を尊 び 、…. 伝 統 を継 承 し、 新 しい文 化 の創 造 」 の文 言 で あ るが、 「公 共 の精 神 」 は非. 常 に 曖 昧 な 文言 で あ る し、 個 人 の尊 厳 と相 容 れ な い文 言 で あ る。 こ の こ と は、 戦 後 の 日本 社 会 に お い て、 戦 前 の 国家 主 義 ・民 族 主 義 を 否定 す る精 神 で あ る、 私 〉公 、 個 〉国 家 ・社 会 ・集 団 の不 等 式 的構 図 を払 拭 し、 「公 」(国 家 ・社 会 の共 同体)の 持 って い る不 文 律 な 精 神 性 を 条 文 化 す る こ とは否 定 され るべ き もの で あ る。 加 え て、 教 育 へ の 国家 的色 彩 を 唱道 す る もの で あ る。 「伝統 を 継 承 し、」 の は文 言 で も っ と も問 題 視 で き る こ と は、 い っ の 時代 の伝 統 で あ るの か 、 ど の よ うな 内 容 の伝 統 か が 問 題 で あ る とい う こ と で あ る。 ま た 、 「新 しい 文 化 の創 造 」 は 「普 遍 的 に して しか も個 性 ゆ たか な文 化 」 の表 現 に比 較 して、 軽 い文 言 に な って い る こ と も指 摘 で き る。「推 進 す る」 と い う表 現 は 「普 及 徹 底 しな けれ ば な らな い」 とい う表 現 に比 較 して改 正 精 神 が 微 弱 に しか 表 現 され て い な い こ とで 、 教 育 憲 法 と して の教 育 基 本 法 の条 文 的 表 現 と して は適 当 で はな い と指 摘 す る。 日本 国 憲 法 の 基 本 理 念 は、 民 主 主 義 と平 和 主 義 で あ り、 ア メ リカ の独 立 宣 言 や フ ラ ンス革 命 の 人 権 宣 言 の 基 礎 とな って い る啓 蒙 的 個 人 主 義 的 自然 法 が 日本 国 憲 法 に と りい れ られ た と もい わ れ て い る こ とか ら して 、 日本 国 憲 法 の 基 本 原 理 は個 人 の基 本 的 な人 権 と 自由 で あ り、 人 権 と 自由 の 保 障 は憲 法 の 中心 を な して い る。 そ れ ゆ え に、 改 正 教 育 基 本 法 の 前 文 にお い て、 「正 義 」 「公 共 の 精 神 」 「伝 統 を 継 承 し」 い う よ う な文 言 は 条 文 と して は 不 適 切 で あ る こ とを知 見 す る。 ②. 第 一 条(教 育 の 目 的)に お け る問 題 点 に つ い て. 第 一 条(教 育 の 目 的):改 正 教 育 基 本 法 「教 育 は、 人 格 の完 成 を 目指 し、 平 和 的 で民 主 的 な国 家 及 び 社 会 の形 成 者 と して 必 要 な 資 質 を備 え た心 身 と もに健 康 な国 民 の育 成 を期 して行 わ れ な け れ ば な らな い。」14) 第 一 条(教 育 の 目的):前 教 育 基 本 法 「教 育 は、 人 格 の完 成 を め ざ し、 平 和 的 な 国家 及 び社 会 の形 成 者 と して 、 真 理 と正 義 を 愛 し、 個 人 の 価 値 を た っ と び、 勤 労 と責 任 を 重 ん じ、 自主 的 精 神 に満 ち た心 身 と もに健 康 な国 民 の育 成 を 期 して 行 わ れ な けれ ば な らな い。」15). 一34一.

(17) 公権力 による教育改革 に関す る一考察一官邸主導型 の教育改革路線 の問題一. 第 一 条 を 比 較 す る時 、 二 点 にっ いて 問 題 が あ る と指 摘 す る。 「個 人 の 価 値 」 と 「自主 的 精 神 」 の 削 除 の 部 分 で あ る。 教 育 の 究 極 の 目的 は個 人 の人 格 形 成 で あ り、 個 人 の尊 厳 性 を最 高 価 値 と す る もの で あ る。 個 人 の価 値 形 成 過 程 にお いて は国 家 権 力 や 公 権 力 の挟 む余 地 は な い。 と ころ が 、 改 正 教 育 基 本 法 で は 「個 人 の価 値」 を 削 除 し、 「国 家 及 び社 会 の 形 成 者 と して の 必 要 な資 質 」 を 強 調 して い る。 これ は、 教 育 の 目的 の本 質 か ら離 れ 、 戦 前 の国 家 主 義 的 ・民 族 主 義 的教 育 の全 体 思 想 に繋 が る条 文 内 容 で あ り、 「民 主 的 」 と い う文 言 を 否 定 す る 内容 とな る。 ま た国 家 ・社 会 を 第 一 義 的 とす る 「教 育 目的 」 の条 文 は、 自 ら 日本 国 憲 法 の精 神 を な いが しろ に す る もの で あ る。 ま た、 「自主 的 精 神 」 は 国 家 権 力 ・公 権 力 発 動 の 支 配 的 ・抑 圧 的 ・他 律 的 精 神 と は真 っ向 か ら対 立 す る精 神 で あ り、 民 主 主 義 社 会 の 人 間 実 存 に と って 優 れ た価 値 精 神 で もあ り、 被 教 育 者 の 自 己教 育 力 、 自 己育 成 力 、 自 己啓 発 力 な ど は 自主 的 精 神 の発 揚 に よ る もの で あ る こ とか ら し て 、 「教 育 の 目的」 に は不 可 欠 な文 言 で あ る。 ③. 第 二 条(教 育 の 目標)の 問 題 点 につ いて. 第 二 条(教 育 の 目標) 「教 育 は、 そ の 目 的 を実 現 す る た め、 学 問 の 自由 を 尊 重 しっ っ、 次 に掲 げ る 目 標 を 達 成 す る よ う行 わ れ る もの とす る。」 1「 幅 広 い知 識 と教 養 を 身 に付 け、 真 理 を求 あ る態 度 を養 い、 豊 か な情 操 と道 徳 心 を培 う と と もに、 健 や か な身 体 を 養 うこ と。」 2「 個 人 の 価 値 を尊 重 して 、 その 能 力 を 伸 ば し、 創 造 性 を培 い、 自主 及 び 自律 の精 神 を養 う と と もに、 職 業 及 び生 活 と の関 連 を 重 視 し、 勤 労 を重 ん ず る態 度 を養 う こと。」 3「 正 義 と責 任 、 男 女 の平 等 、 自他 の 敬 愛 と協 力 を重 ん ず る と と もに、 公 共 の精 神 に基 づ き、 主 体 的 に社 会 の形 成 に参 画 し、 その 発 展 に寄 与 す る態 度 を養 う こと。」 4「 生 命 を 尊 び、 自然 を 大 切 に し、 環 境 の保 全 に寄 与 す る態 度 を養 う こと。」 5「 伝 統 と文 化 を尊 重 し、 それ らを は ぐ くん で き たわ が 国 と郷 土 を愛 す る と と もに、 他 国 を 尊 重 し、 国 際 社 会 の平 和 と発 展 に寄 与 す る態 度 を 養 う こと。」16) 第 一 項 か ら第 五 項 の 条 文 は小 学 校 ・中 学 校 の道 徳 教 育 の項 目や 小 中学 校 の学 習 指 導 要 領 の内 容 事 項 の 範 疇 で あ り、 教 育 基 本 法 は教 育 憲 法 と いわ れ る所 以 に お いて ふ さわ しい文 言 内容 で は な い。 以 下 、 問 題 点 を 指 摘 す る。 ま ず、 「幅 広 い知 識 と教 養 を身 に付 け る」 こ と と 「真 理 を求 め る態 度 を 養 う」 こ と は別 の 次 元 で は な く同 次 元 的 作 用 で あ り、 表 現 上 適 切 で な い。 二 っ 目 は、. 一35一.

(18) 近畿大学教育論叢. 第19巻. 第2号(2008・3). 「道 徳 心 」 に は 「勤 労 を 重 ん じる態 度 」 「正 義 と責 任 」 「自他 の敬 愛 と協 力 を重 ん ず る」 「公共 の 精 神 」 「生 命 も尊 び、 自然 を 大 切 に し」 な ど 含 まれ る文 言 で あ り、 道 徳 教 育 の 指 導 目標 事 項 の 語 彙 を条 項 に な ぞ ら え て い る感 じで あ り、 文 言 の 羅 列 で あ る。 三 つ 目 は、 「豊 か な 情 操 」 は 「生 命 を尊 び、 自然 を 大 切 に し、」 の こ と に も関 連 して い る こ とを考 察 す れ ば、 これ も言 葉 の羅 列 の表 現 に陥 って い る と いえ る。 四 っ 目 は第2項. の 「個 人 の価 値 を尊 重 して、 そ の能 力 を伸 ば. し、 創 造 性 を培 い」 の箇 所 で 、 「そ の能 力」 が何 の能 力 な の か 不鮮 明 で あ る こ と と、 「能 力 を伸 ば し、 創 造 性 を 培 い」 の 箇 所 で 「能 力 と創 造 性 」 は別 次 元 で な く、 学 習 の本 質 は個 々人 の創 造 的 能 力(求 心 的 ・遠 心 的 学 習 能 力 に よ る知 識 の 吸 収 、 知 識 の 組 み 立 て 、 知 識 の利 用 ・活 用 ・応 用)の 育 成 で あ り、 創 造 性 と い う抽 象 的 な 語 彙 を 独 立 的 表 現 と して 条 文 に用 い る こ と 自体 が 基 本 的 に教 育 用 語 が 理 解 され て い な い と い う証 で あ る。 五 っ 目 は、 「我 が 国 と郷 土 を愛 す る」 と い う箇 所 で あ るが 、 「我 が 国」 と 「郷 土 」 は別 物 か。 何 故 、 愛 国 心 と い う語 彙 を 用 い な か っ た か とい う こ とで あ る。 この 箇所 は ま さに,政 争 の 具 を 避 けて の 表 現 で あ る し、 戦 前 の 教 育 復 活 路 線 と して の民 意 の反 応 を避 け た表 現 で あ る。 この箇 所 で最 も根 本 的 な 問 題 は、 日本 国 憲 法 に は愛 国心 に 関 す る条 文 表 現 は な い し、 そ れ ゆ え に 日本 国憲 法 の精 神 に基 づ く教 育基 本 法 の 基 本 精 神 を な い が しろ に して い る とい う こ とで あ る。 ま た、 あ え て愛 国心 的文 言 を条 文 に成 文 化 し、 愛 国 心 と い う語 彙 を避 け た こと事 態 が 愛 国 心 を 冒涜 して い る こ とに な らな い か。 国民 と教 育 を 冒涜 した 条 文 は不 適 切 で あ る こ と を指 摘 す る。 第 十 条(家 庭 教 育)、 第 十 三 条(学 校 、 家 庭 及 び地 域 住 民 等 の 相 互 の連 携 協 力)、 第 十 六 条(教 育 行 政)に. お い て も明 らか に、 改 定 前 の教 育. 基 本 法 に無 い 中 央 集 権 的 な 国 家権 力 的 色 彩 を帯 び た 条 文 とな って い る。 「教 育 再 生 会 議 」 の教 育 改 革 と中 央 教 育 審 議 会 答 申の 関 り、 教 育 行 政 上 の問 題 ・課 題 と して 、 国 の教 育 財 政 ・地 方 の 教 育 財 政 問 題 、 地 方 分 権 化 路 線 で の 国 の 権 限 委 譲 の課 題 、 教 育 委 員 会 制 度 の課 題 、 株 式 会 社 お よびNPOに. よ る学 校 経 営 の問 題 、 構 造 改 革 特 区 に お け る教 育 問題 ・課 題 、 小 中 、 中 高 一 貫 教 育. の推 進 の 問題 、通 学 区域 の 弾 力化 と学 校 選 択 制 の課 題 な どが あ り、 特 に、 教 員 免 許 更 新 制 度 は 未 曾 有 の教 育 問題 を生 み 出 して い く こ と は必 定 で あ る。 制 度 や政 策 を 変 更 す る以 前 に、 現 在 の 学 校 教 育 の抱 え て い る根 本 的 な 問題 ・課 題 を検 証 し、 具 体 的 な解 決 方 法 を構 築 して い く国 民 的 覚 悟 が無 い限 り教 員 免 許 法 、 地 方 行 政 法 、 学 校 教 育 法 の 改正 で教 育 の再 生 な どあ りえ な い。 戦 前 の国 家 主 義 的 教 育 を否 定 し、 民 主 主 義 教 育 を確 立 す る方 向 で、 政 治 に左 右 され な が ら戦 後 の 教 育 再 生 ・再 興 が あ り、 教 育 の問 題 ・課 題 解 決 の為 に教 育 改 革 が 断 行 さ れ て続 け て今 日に至 っ て い るが 教 育 問 題 は 山積 み で あ る。 政 治 ・外 交 ・経 済 ・教 育 ・文 化 な ど に お い て国 家 の基 本 戦. 一36一.

(19) 公 権 力 に よ る教 育 改革 に 関 す る 一 考 察一 官 邸 主導 型 の 教 育 改 革 路 線 の 問 題 一. 略 ・機 軸 が 無 い と ころ に 国民 教 育 の基 本 構 想 は無 い。 政 ・官 ・業 の 力 関 係 で 教 育 政 策 が 実 施 さ れ たか は戦 後 の教 育 政 策 史 に 明 らか で あ り、 英 米 の教 育 改革 の模 倣 を す る こ と は国 民 教 育 を 愚 弄 す る こ と で あ る。 国家 権 力 に基 づ く教 育 改 革 は否 定 され な け れ ば な らな い。. 【註 】 1)永. 原 慶 二 『皇 国 史 観 』 岩 波 書 店1983年p.20. 2)文. 部 省 『学 制 百 年 史 』 帝 国 地 方 行 政. 3)井. 上 光 貞 ・笠 原 一 男(そ. 4)中. 村 政 則 編 『年 表 昭 和 史 』 岩 波 書 店1993年pp.8-11. 5)同. 上pp.28-31. 6)同. 上pp.29-32. 7)文. 部 省 『学 制 百 年 史 』 帝 国 地 方 行 政. 8)文. 部 省 『学 制 百 二 十 年 史 』 ぎ ょ う せ い. 昭 和47年pp.42-120. の 他)『 日本 史 』 山 川 出 版 社1987年p.282. 9)「 国 民 教 育 改 革 国 民 会 議 」 の 会 議 資 料. 昭 和47年p.240 平 成5年p.689 平 成12年. 10)「 教 育 再 生 会 議 の 設 置 に つ い て 」 の 会 議 資 料 11)朝. 日新 聞 社. 12)文. 部科学省編集. 13)同. 上:1. 14)同. 上p.179. 15)同. 上p.179. 16)同. 上p.179. 平 成18年. 「朝 日 新 聞 夕 刊 」2006年9月29日 『文 部 科 学 時 報 一 教 育 基 本 法 関 係 資 料 』 ぎ ょ う せ い2007年p。189. 一37一.

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