コツコツやる数学研究
都
丸
正
は じ め に 私は数学の教員ですが, 医系の本誌から研究紹介の機 会を頂きましたので, 専門外の方を念頭に, 自 の研究 とその 野について簡単な紹介文を書かせて頂きます. 私の研究 野とテーマ 研究 野は複素解析幾何学, 特に複素 2次元特異点論 です. 例えば, 実数上で えると, x −y =0のグラフは 原点で尖っているので原点での接線は一通りに決まりま せん. また, (y−x ) (x−y )=0のグラフは原点と点 (1, 1) で接線が二本ずつ引けます. このようにある接点でグ ラフの接線が一意に決まらないとき, その接点にあたる 点を特異点と言います. これは実変数の場合ですが, 変 数を複素数とし, 変数の個数を増やし, 方程式の個数, 方 程式自身の次数も上げて, 複雑にしてゆくと, グラフも 曲線 (1次元) でなく次元の高い図形となり, 同時に, 特 異点集合も点と限らず次元の高い図形となります. この ような多項式=0のグラフとして現れる図形を一般化し たものは, 代数多様体とか複素解析空間とか呼ばれます. 前者 (resp. 後者) を研究するのが代数幾何学 (resp.複素 解析幾何学) といいます. この研究は 100年ほど前から 活発になり, 日本人でも, 岡潔, 小平邦彦, 広中平祐と いった方々は世界的にも有名で, 小平, 広中の両先生は 日本人として, 最初と 2番目のフィールズ賞を受賞して います. 私はこの 25年間ほど, 主に複素 2次元 (通常の私達の 感覚での 4次元) の複素解析幾何学の視点から特異点の 研究をしています. 主テーマは「リーマン面の退化族と 複素 2次元特異点」です.微積 を,実数から複素数の上 に広げたものは複素解析学と呼ばれ, 18∼19 世紀にオイ ラー, ガウス, リーマンといった巨人達により発展し, そ の後, トポロジーや微 幾何学と融合し今日の複素解析 幾何学につながっています. リーマンはユークリッド以 来, 2300年の幾何の歴 上最大の人で, 彼が 150年ほど 前に築いた現代幾何の上に一般相対性理論は 設されま した. リーマン面は彼により, 多価関数を一価関数とし てとらえるために導入された曲面で, 複素解析幾何学で 基本的なものです. 物理における大統一理論への有力候 補である超弦理論 (この最初のアイデアは南部陽一郎) では, 物質の最小単位を極小なヒモ (弦) と え, ヒモが 時間変動で移動して形成される曲面をリーマン面としま す. 私 の 研 究 テーマ は, リーマ ン 面 を 複 素 1パ ラ メー ターで動かして出来る図形 (1964年に小平先生により正 確に定義) と特異点の関係を調べることです. 93年 4月 から北ドイツにある Hamburg 大学に一年間研究員とし て滞在したときに, ヨーロッパの数学者達が小平先生の 研究にちなみ Kodaira特異点と名付けたものを精力的 に研究していて, 強い影響を受けたのが契機です. その 後やった研究をまとめたのが論文 1です. 7年前からそ の 長にある問題を研究し, その結果を論文 2にまとめ, 今年の 3月 4日に投稿しました. 今日のアマゾン原住民などの調査から, 一万年前の人 類に数の概念はほとんどなかったと えられています. 現在の大河といえる数学の流れも全て, 長年の人類の営 みの蓄積です. 非力ではあり, 大河の一滴かもしれませ んが, 定年まで残り 5年, サボらずマイペースで, コツコ 413 Kitakanto Med J 2011;61:413∼414 1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院保 学研究科 平成23年4月8日 受付 論文別刷請求先 〒371-8514 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院保 学研究科 都丸 正ツと研究を続けたいと えています. やっている研究は何に役立つか? やっている研究は何に役立つか?と時々聞かれますが よく りません. ただ, 複素解析幾何学自体は, 最近の理 論物理の数学的言語となっています. 一般的に物理学の 成果は科学の基礎として, 何十年か後には実社会を大き く変えてきたという歴 を えると, 将来こうした数学 も社会に役立つかと期待しています. 18∼19 世紀に大き く発展した数学を土台として, 50∼100年後に, 量子力学 が 設されました. 量子力学がなければ, 携帯, パソコン もありません. MRI, 電子顕微鏡などの電子機器もない ので, 今日の医学や生命科学も様変わりすることでしょ う. 平行線の 理」は果たして 理か?という問題は, 応用への期待もなく純粋に数学的興味から二千年間 え られてきました. そうして産まれた非ユークリッド幾何 学はリーマン幾何学として統合され, 相対性理論の基礎 となりました. 相対性理論がなければ GPSも人工衛星 も役立たず, 今日の天文学も成立しません. 現代の情報 数学は 19 世紀に発展した数学に依拠しています. 紀元 前 3世紀にユークリッドに始まった 理主義は全ての科 学的思 の基礎となり, 19 世紀に「集合+構造」として 数学から始まった思 様式は, 構造主義として, 理系を 超えて広く人文社会系を含む科学全般に大きなインパク トを与えています. 手前勝手な都合いい理屈ですが, 数 学は非常に長いスパンでその効用を眺める学問かと思い ます. どう研究するか? 昔から, 大部 の数学研究は実験科学です. ニュート ン, オイラー, ガウスの 100年も 200年も先を読んだ, 豊 かなアイデアや成果も, 豊富な具体例の計算が支えてい ます. ささやかですが, 私もいろいろな特異点の具体例 について, 紙と 筆でコツコツと地道に計算実験を行い, 立てた予想の証明を目指し何ヶ月も何年も粘ります. 細 かな計算や, 他の人の論文を読むときは机に向かい, 証 明のアイデアを練るときは, 寝転がったり, 散歩しなが らしつこく えます. 数学研究で困るのは, 一見, ブラブ ラ遊んでいるのと見 けにくいことです. 家で数学に集 中しているとき, 部屋に入ってきた妻から「ボーとして るならガラスふきでもしてよ」と, 言われたこともあり ます. いいのは, 他の理系 野に比べてお金があまりか からないことです. 経済的に しくても文化的に豊かな 国からは, 天才的な数学者が多く現れることが知られて います. 戦後から 30年間くらいの日本もそうでした. お わ り に 昭和キャンパスで 26年間, 周囲と関係のない研究を やっていても, 何をやっているかよく からんが, まあ 一生懸命やっているなら……」として暖かく接して下 さった, 先日逝去された土屋純先生を始めとする, 多く の皆様に深く感謝していることを申し添えたいと存じま す. 参 文 献
1. T. TOMARU, Pencil genus for normal surface singular-ities, J. Math. Soc. Japan 2007; 59(1): 35-80.
2. T. TOMARU, C -equivariant degenerations of curves and normal surface singularities with C -action, (Pre-print 2011).
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