「特別の教科 道徳」の授業構想の在り方についての一考察
-教員が感じる指導の難しさに視点をあてて-
A Study on How Teaching Plans of Moral Education as a Special Subject Should be: Focus on Difficulties Teachers Feel in its Teaching Ways
田 中 一 弘* TANAKA kazuhiro 要約:平成 27 年の学校教育法施行規則及び学習指導要領の改正により,道徳の時間が 新たに「特別の教科 道徳」として位置付けられ,小学校では平成 30 年度から,中学 校では平成 31 年度から全面実施されている.道徳の時間がこれまで教科としての位置 付けではなかったことや道徳教育そのものが忌避される傾向が強かったこと,「特別の 教科 道徳」実施の趣旨がまだ十分に理解されていないことなどから,道徳の授業の 指導について戸惑う教員は少なくない.本研究では,教員が感じる道徳の授業の指導 の難しさに視点をあて,教科化の趣旨を踏まえた道徳の授業となるよう授業構想の在 り方について考察した. キーワード:「特別の教科 道徳」「考え,議論する道徳」 授業構想 指導の難しさ
Ⅰ
「特別の教科 道徳」実施の背景と趣旨
道徳の時間は,昭和 33 年に小・中学校に設けられ,教科という位置付けではなく学校全体で行う 道徳教育の要の時間として,週1時間,年間 35 時間(小学校第1学年は 34 時間)行われてきた.平 成 27 年の学校教育法施行規則及び学習指導要領の改正は,この道徳の時間を「特別の教科」とする ものであり,道徳の時間が特設されて以来の大改革であったと考えることができる. この背景としては,道徳教育を丁寧に行い,成果を上げている事例がある一方で,「歴史的経緯に 影響され,いまだに道徳教育そのものを忌避しがちな風潮があること,他教科に比べて軽んじられ ていること,読み物の登場人物の心情理解のみに偏った形式的な指導が行われる例があることなど 多くの課題が指摘されている」(文部科学省, 2017a)ことがある.「特別の教科」として実施するこ とにより,「年間 35 単位時間の授業が確実に行なわれる『量的確保』」と,「子供たちが道徳的価値を 理解し,これまで以上に深く考え道徳的価値の自覚を深める『質的転換』」(注1)を図ることをね らいとしていると考えることができる. 特に授業の「質的転換」については,「発達の段階に応じ,答えが一つではない道徳的な課題を一 人一人の児童が自分自身の問題と捉え,向き合う『考える道徳』,『議論する道徳』へと転換を図る」 (文部科学省, 2017b)ことが求められている.Ⅱ 考え,議論する道徳 ー「答えが一つではない」とはー
授業の「質的転換」について「答えが一つではない道徳的な課題を一人一人の児童が自分自身の *教育実践創成講座問題と捉え,向き合う」とあるが「答えが一つではない」とは,どのようなことなのだろうか.指 導する内容を例に考えてみる. 道徳科で指導する内容は,「小学校学習指導要領 第3章 特別の教科 道徳 第2 内容」に示 されている.例えば,1学年及び2学年には,「うそをついたりごまかしをしたりしないで,素直に 伸び伸びと生活すること」,「友達と仲よくし,助け合うこと」,「約束やきまりを守り,みんなが使 う物を大切にすること」など,19 の内容が示されている.これらの内容は,「うそをつかずに,正直 に行動しなさい」「友達と仲よくしなさい」「決まりを守りなさい」など,人としてどう行動するか を「押し付けている」と考える向きも一部にはあるようだが,「うそをつくことは,なぜよくないの か」「よくないと分かっていながらうそをついてしまうことがあるのは,なぜか」「友達と仲よくす るとは,どうすることなのか」「どのような理由で,約束やきまりを守る必要があるのか」といった 意義や理由,実現方法などについて考えた時,「内容の押し付け」ではなく,そしてその答えは一つ ではないのである. 「うそをつくことは,なぜよくないのか」について考えた時,例えば「うそをついてしまった時 の自分の内面の変化」「うそをつかれた相手の心情やその相手との今後の関係」「自責の念を抱える こと」など,いくつかの視点があることが想像できる.また,友達と仲よくすることについても, 相手の状況により様々な方法があることや,約束やきまりを守ることが単に「社会の規範」という ことだけではなく,「安全」や「信頼」というような内容にも関わるなど,様々な理由や意義がある と考えられる.これらの道徳的な課題について自分のこととして考え,他者の意見と比べたとき, 「答えは一つではない」ことに気付いていくのではないだろうか. 「特別の教科 道徳」の目標は,「よりよく生きるための基盤となる道徳性を養うため,道徳的 諸価値についての理解を基に,自己を見つめ,物事を多面的・多角的に考え,自己の生き方につ いての考えを深める学習を通して,道徳的な判断力,心情,実践意欲と態度を育てる」(文部科学 省, 2017c)ことである.実際に道徳の授業を行う際には,教師の側が道徳的な課題を示す場合や, 児童生徒が気付いた課題を取り上げる場合など様々な展開の方法があるが,いずれにせよ「答えが 一つではない道徳的な課題」について,一人一人の児童生徒が「自分自身の問題」として考え,他 者の意見と比べたり,もう一度考え直したりすることにより「多面的・多角的」に道徳的な課題を 見つめ,これからの自分の生き方を探るような授業が求められていると考えることができる.
Ⅲ 研究の目的と方法
1.研究の目的 「特別の教科 道徳」の目標は,道徳性を養うことである.この道徳性は,「人間としてより よく生きようとする人格的特性であり,道徳教育は道徳性を構成する諸様相である道徳的判断 力,道徳的心情,道徳的実践意欲と態度を養うことを求めている」(文部科学省, 2017d)と示さ れている.また,先に述べたように「特別の教科 道徳」の授業は,「発達の段階に応じ,答え が一つではない道徳的な課題を一人一人の児童が自分自身の問題と捉え,向き合う『考える道 徳』,『議論する道徳』へと転換を図る」(文部科学省, 2017b)ことが求められている. これらのことから考えると,道徳の授業は道徳性を育むために行うものであるから,授業構 想の段階で,「児童生徒の発達の段階」を把握し,「道徳的判断力,道徳的心情,道徳的実践意 欲と態度」の中の,どこに焦点をあてて授業を行うのかを検討しておく必要があることが分か る.さらに,その内容を踏まえて「答えが一つではない道徳的な課題」を明確にし,児童生徒 が自分の問題として考えられるよう展開する必要がある.このように,道徳の授業を行う際に,授業者が判断しなければならない部分が多いことが, 道徳の授業構想や指導の難しさにつながっているのではないかと考え,実際に道徳の授業を 行っている教員が,道徳の指導についてどのようなことに難しさを感じているのかを調査し, その結果を生かし,できる限り簡易的な授業構想の在り方について考察する. 2.研究の方法 研究の方法は,次の3点である. (1)道徳の指導に関する調査の実施 (2)調査結果を踏まえた授業構想の在り方の検討 (3)検討した授業構想の在り方を使用した授業案の作成
Ⅳ 道徳の指導に関する調査内容とその結果
1.調査目的 公立小・中学校の教諭が道徳の指導について感じていることを把握し,授業構想の在り方に ついての考察に生かす. 2.調査内容及び方法 表1に示す調査内容について,調査内容1は4つ中から最も当てはまるもの1つを,調査内 容2,3については,10 の視点の中から最も当てはまるもの3つを選択することとした.また, 「その他」を選択した場合は,具体的に記述することとした. 表1 調査内容 1 道徳の授業は,他教科の授業と比べて,指導が難しいと感じますか. 1) そう思う 2) どちらかというとそう思う 3) どちらかというとそう思わない 4) そう思わない 2 道徳の授業を行う際に,難しいと感じることは,どのようなことですか. 1) ねらいを設定すること 2) 発問を考えること 3) 教材活用(提示)の方法 4) 導入の展開の仕方 5) 話合い活動,書く活動,役割演技・動作化等の表現活動の工夫を図ること 6) 考える学習,議論する学習の行い方 7) 終末の展開の仕方 8) 児童生徒の発言の活かし方 9) 児童生徒に自分のこととして考えさせること 10) その他 3 道徳の授業づくり(構想・準備)の段階で重要なことは,どのようなことだと考えますか. 1) ねらいを明確にすること 2) 発問を考えること3) 児童生徒の実態を把握すること 4) 教材活用(提示)の仕方を明確にすること 5) 導入の展開の仕方を明確にすること 6) 話合い活動,書く活動,役割演技・動作化等の表現活動の工夫を図ること 7) 考える学習,議論する学習場面の設定 8) 終末の展開の仕方を明確にすること 9) 板書計画・学習プリント作り 10) その他 3.調査時期及び対象 調査時期:2019 年9月 調査対象:山梨県公立小学校 5校 (回答数 98) 山梨県公立中学校 4校 (回答数 89) 4.調査結果 (1)調査内容1 調査内容1は,教員が道徳の指導について他教科と比べてどのように感じているかについ て問う設問であり,表2に示すように小学校,中学校共に約 80%の教員が,「難しい」か「ど ちらかというと難しい」と回答する結果であった. 表2 調査内容1の回答結果 道徳の授業は,他教科の授業と比べて,指導が 難しいと感じるか 小学校 中学校 人数 割合(% ) 人数 割合(% ) どちらかというと難しい 60 61.3 44 49.5 難しい 19 19.4 26 29.2 どちらかというと難しくない 14 14.3 12 13.5 難しくない 3 3.0 5 5.6 未回答 2 2.0 2 2.2 (2)調査内容2 調査内容2は,道徳の授業を行う際に,難しいと感じることを具体的に問う設問であり ,10 の視点の中から最も当てはまると思うもの3つを選択することとした.表3と図1にその結 果を示す. 道徳の授業を行う際に,難しいと感じること 小学校 (n=98) 中学校 (n=89) 回答数 割合(% ) 回答数 割合(% ) 発問を考えること 66 67.3 53 59.6 考える学習,議論する学習の行い方 56 57.1 46 51.7 児童生徒に自分のこととして考えさせること 52 53.1 29 32.6 話合い活動,書く活動,役割演技・動作化等の表 現活動の工夫を図ること 28 28.6 38 42.7 表3 調査内容2の回答結果
児童生徒の発言の活かし方 28 28.6 26 29.2 終末の展開の仕方 30 30.6 22 24.7 ねらいを設定すること 17 17.3 11 12.4 導入の展開の仕方 9 9.2 12 13.5 教材活用(提示)の方法 2 2.0 18 20.2 その他 4 4.1 5 5.6 記述内容 (小学校) ・評価 2名 ・ねらいを達成するためにどのように授業を展開 していくか ・道徳を行う意味 (中学校) ・教科書の使い方(展開方法)2名 ・行動につなげること ・板書 ・多様性を受け入れること 小学校,中学校ともに「発問を考えること」( 小学校 67.3%,中学校 59.6% ) と回答した教員が最 も多いという結果であった.次いで「考える学習,議論する学習の行い方」( 小学校 57.1%,中学校 51.7% ) で,上位二つは,半数以上の教員が難しいと感じているという結果であった. 回答数が次に多かったのは,「児童生徒に自分のこととして考えさせる方法」( 小学校 53.1%,中 学 校 32.6 %),「 話 合 い 活 動,書く活動,役割演技・ 動作化等の表現活動の工 夫 を 図 る こ と 」( 小 学 校 28.6 %, 中 学 校 42.7 % ) という順であった. 他の教科の指導におい ても授業づくりの重点で ある「ねらいを設定する こと」については,全体 の 15 % が 選 択 す る に 留 まった. (3)調査内容3 調査内容3は,道徳の授業づくり(構想・準備)の段階で,重要だと感じることを具体的 に問う設問であり,10 の視点の中から最も当てはまると思うもの3つを選択することとした. 表4と図2にその結果を示す. 表4 調査内容3の回答結果 道徳の授業づくり(構想・準備)の段階で重要な こと 小学校 中学校 人数 割合(% ) 人数 割合(% ) 発問を考えること 68 69.4 59 66.3 考える学習,議論する学習場面の設定 64 65.3 57 64.0 ねらいを明確にすること 57 58.2 46 51.7 図1 調査内容2の回答結果
話合い活動,書く活動,役割演技・動作化等の表 現活動の工夫を図ること 36 36.7 37 41.6 児童生徒の実態を把握すること 24 24.5 23 25.8 終末の展開の仕方を明確にすること 11 11.2 15 16.9 板書計画・学習プリント作り 13 13.3 7 7.9 導入の展開の仕方を明確にすること 9 9.2 10 11.2 教材活用(提示)の仕方を明確にすること 4 4.1 12 13.5 その他 5 5.1 1 1.1 記述内容 (小学校) ・自分自身に置き換えること ・児童の意識の流れに沿って授業を展開すること ・教材選び ・学びの記録 (中学校) ・オープンエンドを心がけること ・教材研究 小学校,中学校ともに,6割以上の教員が「発問を考えること」( 小学校 69.4%,中学校 66.3% ) 「考える学習,議論する学習の行い方」( 小学校 65.3%,中学校 64.0% ) と回答する結果であった. 調査内容2と大きく回答数が異なったのは,ねらいに関する設問についてであり,授業の構想段 階で「ねらいを明確にすることが重要」と回答した数は,小学校 58.2%,中学校 51.7%と全体で3 番目に多いという結果で あ っ た が,「 ね ら い を 設 定することが難しい」と 回 答 し た 数 は, 小 学 校 17.3%,中学校 12.4%と 低かった. また,道徳では授業の ねらいや発問を考える際 に児童生徒の実態を踏ま え て 考 え る 必 要 が あ る が,「 児 童 生 徒 の 実 態 を 把握すること」が重要だ と い う 回 答 は, 全 体 の 25%に留まった. 5.調査結果の分析 調査内容1からは,多くの教員が他教科と比べて道徳の授業について指導の難しさを感じて いることが分かった.筆者のこれまでの経験を踏まえた推論でしかないが,この理由は,先に 述べたように「道徳教育そのものを忌避しがちな風潮があること」や,道徳の時間が週に1時 間しか設定されていないにも関わらず,他の指導の時間に振り替えられることがあり,他教科 に比べ教員が指導をする回数や指導方法を理解したり習得したりする機会が少なかったことな 図2 調査内容3の回答結果
どによるものだと考える. また,特に中学校は専門の教科の指導を行う教員として採用されるため,その教科の指導法 については研究や研修の機会があるが,道徳については教科に比べて研究や研修の機会が少な かったことなども理由として考えられる. 調査内容2,3について,約6割の教員が「発問を考えること」「考える学習,議論する学習 の行い方」と回答するという結果であったこと,また,調査内容2の3番目に多かった回答が 「児童生徒に自分のこととして考えさせること」であったことから,多くの教員が教科化の趣旨 である「考え,議論する授業」,「児童生徒が自分のこととして考える授業」を行おうと考えて はいるものの,実際の指導方法について難しいと感じていることが分かった.また,これまで 述べてきたように,そのような授業を行うためには,「答えが一つではない道徳的な課題」を発 問として示すことが重要だと考えるが,効果的な発問を考えることに対して特に多くの教員が 難しさを感じていることが分かった. 次に,授業のねらいを明確にすることについては,授業構想の段階では 103 人 (55%) の教員 が重要だと回答したが,ねらいを設定することを「難しい」と感じる教員は,28 人 (15%) と少 なかった.このことからは,指導意図を明確にした授業づくりが重要であると捉える教員が多 いことと,指導意図を明確にすることは,実際の指導に比べ,容易であると感じている教員が 多いということの表れだと考える. さらに,調査内容2,3ともに回答割合が4番目に多かった項目が,「話合い活動,書く活動, 役割演技・動作化等の表現活動の工夫を図ること」であったことからは,話し合うことや自分 の考えを整理すること,体験的な活動を行うことなどにより,児童生徒が考えを深めることを 意識した指導の工夫が重視されていると考えることができる. また,道徳では授業のねらいや発問を考える際に児童生徒の実態を踏まえる必要があるが, 「児童生徒の実態を把握すること」が重要だという回答が全体の 25%に留まった.このことから は,道徳の授業は原則として学級担任が行うので実態は十分に把握できていると判断され,あ まり意識されずに授業が行われていることの表れだと考えられる.
Ⅴ 調査結果を踏まえた授業構想の例と授業構想
1.調査結果を踏まえた授業構想の例 約8割の教員が他教科の指導に比べ,道徳の授業の指導に難しさを感じている.道徳の授業 構想をシンプルに考える必要があるのではないだろうか.そのために,「特別の教科 道徳」の 目標を達成するための授業や授業構想の在り方を考えたい. まず,道徳の授業は道徳性を育むために行うものであるから,道徳性の諸様相である「道徳 的判断力,道徳的心情,道徳的実践意欲と態度」のどこを育むための授業なのかについて,児 童生徒の実態を踏まえて明らかにする必要がある.そのことで,本時のねらいが明確になる. 次に,児童生徒が自分自身のこととして考えられるような「答えが一つではない道徳的な課 題」を明確にする.実際の学習では,「答えが一つではない道徳的な課題」について考える学習 が中心となり,その課題を明らかにするために,自分のことを振り返ったり,多面的・多角的に 考えたり,自己の生き方についての考えを深めたりするような学習を展開していくこととなる. その際に重要なことは,児童生徒が1単位時間をかけて考えるに値する「答えが一つではな い道徳的な課題」を提示することだと考える.これは多くの授業の場合,教師側から「発問」 として児童生徒に示される.授業構想の段階で,児童生徒の発達の段階を踏まえ,児童生徒が「自分自身の問題として考える」ことのできる,「答えが一つではない問い」をあらかじめ考え ておかなければ,考える道徳とすることは難しい.調査の結果からも分かるように,多くの教 員が発問を考えることが授業構想の段階においても最も重要なことの一つだと感じてはいるが, 一方でその発問を考えることが一番難しいとも感じているという結果であった. 以上のことを踏まえ,図3に授業構想の簡易的な手順を示す. ステップ1 本時のねらいの検討 ステップ1 本時のねらいの検討 ステップ2 ねらいに迫るための本時の学習の中心(発問)の検討 ステップ3 学習の中心について効果的に学ぶための工夫の検討 ① 内容の確認(解説の「指導に当たっては」の段落を中心に) ② 指導内容に関わる児童生徒の実態の確認 ③ 道徳的心情,判断力,実践意欲・態度 どの部分の育成をねらいとするか検討 ④ 教材分析を生かした中心発問の検討 ・答えが一つではない,児童生徒が自分のこととして考えられる内容か ・資料の内容や登場人物の心情等について考えることでねらいに迫るのか,資料を きっかけにし,これまでの経験やこれからのことについて考えることでねらいに迫 るのか ⑤ 話合い活動,体験的な活動,書く活動等の必要性について検討 ⑥ 学習の中心(発問)までに,どのようなことを確認したり,考えさせたりしておけ ばよいか,展開を検討 ⑦ 導入や終末の展開方法,板書等を検討 図3 授業構想の簡易的な手順 2.簡易的な手順に沿った授業構想の実際 図3に示した簡易的な手順に沿って,1つの教材に対して2例の授業構想案を作成した. 結果を以下に示す. (1)教材名 星野君の二るい打(出典 小学生の道徳6 廣済堂あかつき) (2)授業構想の実際 ① 解説で内容の確認(特に「指導に当たっては」の段落を中心に) ② 指導内容に関わる児童生徒の実態の確認 ③ 道徳的心情,判断力,実践意欲・態度 どの部分の育成をねらいとするか検討 構想例1 構想例2 ねらい きまりや約束のもつ意義について考え ることを通して,進んで守ろうとする 態度を育む. きまりや約束のもつ意義について考え ることを通して,進んで守ろうとする 心情を育む.
ステップ2 ねらいに迫るための本時の学習の中心(発問)の検討 ステップ3 学習の中心について効果的に学ぶための工夫の検討 ④ 教材分析を生かした中心発問の検討 ・答えが一つではない,児童生徒が自分のこととして考えられる内容か ・資料の内容や登場人物の心情等について考えることでねらいに迫るのか,資料をきっかけ にし,これまでの経験やこれからのことについて考えることでねらいに迫るのか 構想例1 構想例2 中心発問 私たちの周りには様々な約束やきまり があるが,「少しくらいなら」「見つか らなければ」「みんな守っていないから」 というような思いが湧き,約束やきま りが守れそうもなくなってしまった時, きまりを守れる自分でいるためには, どんな考えが必要か. きまりを守ることは,なぜ大切だと考 えるか. ⑤ 話合い活動,体験的な活動,書く活動等の必要性について検討 ⑥ 学習の中心(発問)までに,どのようなことを確認したり,考えさせたりしておけばよい か,展開を検討 ⑦ 導入や終末の展開方法,板書等を検討 構想例1 構想例2 導入 1 本時の教材の方向性を知る. 〇野球の「バント」を知っていますか. 1 本時の教材の方向性を知る. 〇野球の「バント」を知っていますか. 展 開 2 教材を読んで考える. <教材内容の確認> ・監督にバントを命じられた時,星野 君はどんなことを考えたか. ・二るい打を打ち,県内野球大会に出 場することになった星野君は,どん な気持ちか. ・そのことに対して監督の別府さんは 何と言ったか. ○星野君のとった行動について,どう 思いますか. 2 教材を読んで考える. <教材内容の確認> ・監督にバントを命じられた時,星野 君はどんなことを考えたか. ・二るい打を打ち,県内野球大会に出 場することになった星野君は,どん な気持ちか. ・そのことに対して監督の別府さんは 何と言ったか. ○星野君のとった行動について,どう 思いますか. ・賛成と反対の意見が予想されるが,偏りがある場合には,教師が少数派の意見を 加勢し,両方の考え方に触れ,深められるようにする. ・「結果がよければ約束は守らなくてもよいのか」「結果が悪かったらどうなるか」, 「星野君は心の底から勝ったことを喜べているか」「周りの仲間は,このことをど う思うか」など,補助的に問い,約束を守ることの意義や守らなかった時の影響 について考えられるようにする.
Ⅵ 結語
教科化の趣旨は,「量的確保」と「質的転換」であり,週1時間の道徳の授業を確実に行うこと と,その質の改善が求めれている.今回の道徳の指導に関する調査からは,教員が道徳の授業につ いて指導の難しさを感じながらも,教科化の趣旨である「考える道徳」の授業の創造に向けて取り 組んでいることや,そのために発問が重要であると考え,授業構想を行っていることなどが明らか になった. 一方,教職員の働き方改革が求められる中,必要以上に時間をかけずに「質的改善」を図るため に,できる限り簡易的な授業構想の流れが分かることが,「量的確保」にもつながると考え,授業構 想の流れと授業構想の例を示した.実用性については,検証するに至っていないが,今後の自分に 課せられた課題と考えたい. 道徳の授業構想の際,役割演技などの体験的な活動や,話合い活動など,「活動すること」に重点 が置かれ,肝心なねらいや「児童生徒に何を考えさせるのか」ということが曖昧なまま授業を行っ てしまうことがある.そして,児童生徒の発言の内容によって,指導者の意図することとはかけ離 れた授業となってしまうこともある. 週1時間しかない道徳の授業で,自己の生き方を見つめ,よりよくなろうとする思いを広げたり 深めたりすることは,非常に重要である.道徳的価値の大切さについての確認だけに留まることな く,「よりよくなりたいと願う思いが誰にもあること」「そう願っていながらも,行動が伴わないこ とがあること」さらに,「そのような弱さを乗り越えるための思い」などについて考えることができ るよう,指導意図を明確にした,児童生徒が自分の問題として考える授業が必要である. 道徳の時間が「特別の教科」となったことを好機と考え,子供たちが未来に向けて自分の生き方 を考えられるような時間へと転換されることを願う. 最後に,ご多用の中,調査にご協力いただいた先生方にお礼を申し上げ,結語とする. ◎今回の話に限らず,私たちの周りに は様々な約束やきまりがあるが,「少 しくらいなら」「見つからなければ」 「みんな守っていないから」というよ うな思いが湧き,約束やきまりが守 れそうもなくなってしまった時,き まりを守れる自分でいるためには, どんな考えが必要か. ◎きまりを守ることは,なぜ大切なの だと考えますか. 終末 3 本時を振り返って考える. ・学習シートへ学習感想を記入. 〇中心発問に対する指導者の考えの紹 介 3 本時を振り返って考える. ・学習シートへ学習感想を記入. 〇指導者がきまりを守ってよかったと 感じた経験を紹介 評価の観点 ・約束やきまりのもつ意義について考 え,進んで守るための考え方に気が 付くことができたか. ・きまりや約束のもつ意義について考 え,きまりを守ることの大切さに気 付くことができたか.注 注1 文部科学省「考える道徳への転換に向けたワーキンググループ 議論のまとめ案についての参考 資料 資料4,p.14」, 平成28年8月16日, http://www,mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/078/ siryo/__icsFiles/afieldfile/2016/09/15/1377233_3.pdf,2019年10月14日最終アクセス 引用文献 文部科学省(2017a)『小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編』,p.2. 文部科学省(2017b)『小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編』,p.2. 文部科学省(2017c)『小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編』,p.16. 文部科学省(2017d)『小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編』,p.20.