左室収縮機能障害を持つ筋ジストロフィ患者におけ
る血漿脳性ナトリウム利尿ペプチド上昇の特徴: 特
発性拡張型心筋症患者との違い
著者
出町 順
号
3386
発行年
2006
URL
http://hdl.handle.net/10097/23012
氏名(本籍)
学位の種類
学位記番号
学位授与年月日
学位授与の条件
最終学歴
学位論文題目
てまちじゅん出町順(青森県)
博士(医学)
医第3386号
平成18年3月1日
学位規則第4条第2項該当
平成2年3月3!日
弘前大学医学部卒業
Characteristicsoftheincreaseinplasmabrain
natriureticpepti(ielevelinleftventricular
systolicdysfunctionassociatedwithmuscular
dystrophyincomparisonwithidiopathic
dilate(icar〔iiomyopathy
(左室収縮機能障害を持つ筋ジストロフィ患者に
おける血漿脳性ナトリウム利尿ペプチド上昇の
特徴:特発性拡張型心筋症患者との違い)
論文審査委員
(主査)
教授下川宏明
教授糸山泰人
教授上月正博
553一論文内容要旨
Duchemle型およびBecker型筋ジストロフィーは,dystrophin蛋白の欠失あるいは質的異常 に基づく筋細胞膜の異常により,進行性の骨格筋,心筋,平滑筋の萎縮,線維化をきたす予後不 良の疾患である。呼吸筋の障害により,70-80%の患者は20歳代前半で呼吸不全,肺感染で死亡 するが,近年は在宅でも可能な経鼻間欠陽圧呼吸の導入によって長期の生存例もみられるように なった。本疾患患者においては,心電図,心エコー,心臓核医学検査などにより左室収縮機能低 下が高率に認められる。骨格筋量の低下により身体活動が制限されるため,心不全症状を呈する ものは末期に至るまでは比較的少ないが,心不全は主要な死因の一つである。血漿脳性ナトリウ ム利尿ペプチド(Brainnatriureticpeptide,BNP)値は左室機能不全で上昇し,患者の予後 を予測する因子の一つである。Duchemle型筋ジストロフィー患者においては,明らかな左室収 縮機能不全があるにも関わらず,血漿BNP値の上昇は軽度であると報告されている。しかし, 左室収縮機能不全をきたす代表的疾患である拡張型心筋症(Dilatedcardiomyopathy,DCM) の患者と,左室収縮機能不全を伴う筋ジストロフィー患者の血漿BNP値の上昇を直接比較検討 した報告はない。今回私は,筋ジストロフィー患者と同程度の左室収縮機能不全を呈するDCM 患者と比較することにより,その血漿BNP値上昇の特徴を明らかにすることをこの研究の目的 とした。 国立療養所西多賀病院入院中のDuchenne型およびBecker型筋ジストロフィー患者46例中, 心エコー検査で左室駆出率0.50未満の左室収縮不全を示す31例を対象とした。DCM患者は東 北心不全協議会登録患者の中から,筋ジストロフィー患者との年齢的な差を小さくするために 43歳以下の患者20例を選択し,血漿BNP値と心エコーの指標の関係を比較検討した。 両疾患群間の年令差はなかったが,筋ジストロフィー患者は全て男性であった。DCM患者は 全例歩行可能であったが,筋ジストロフィー患者は28例(90%)が車椅子を使用し,うち16例 (52%)は電動車椅子の使用者であった。さらに3例(10%)はベッド上の生活を強いられてい た。さらに筋ジストロフィー患者のうち,17例(55%)は,経鼻間歇陽圧呼吸を必要としてい た。筋ジストロフィー患者では,血漿BNP値および心エコー図で得られた左室拡張末期径が DCM群に比べて有意に低かったが,左室駆出率は有意差がなかった。血漿BNPの対数値(Log BNP)と左室駆出率との関係は,それぞれの疾患群で有意の負の相関を示したが,筋ジストロ フィー患者群ではDCM患者群と比較して回帰直線が有意に下方に偏位していた。すなわち,同 様の左室駆出率に対して,筋ジストロフィー患者では血漿BNP値が低かった。一方,LogBNP と左室拡張末期径の関係は,それぞれの疾患群で同様の正の相関を示した。すなわち,両回帰直 線はほぼ重なっていたが,LogBNPと左室拡張末期径の関係を示す点が筋ジストロフィー患者-. ではより左室拡張末期径が小さい側に偏位していた。 今回の研究において,筋ジストロフィー患者の血漿BNP値と左室駆出率の関係は,DCM患 者とは異なっていた。従って,血漿BNP値から左室収縮機能不全の程度を推測するとその程度 を過小評価する可能性があることが示唆された。心不全をきたした筋ジストロフィー患者の管理 に血漿BNP値を用いる場合には,この点を充分に考慮する必要があると考える。大規模臨床試 験ではないが,左室収縮機能不全をきたした筋ジストロフィー患者においても,アンジオテンシ ン変換酵素阻害薬,アンジオテンシン受容体拮抗薬,β遮断薬が予後を改善する可能性を示す報 告がある。これらの薬剤を使用するタイミングを逸しないためには,血漿BNP値の測定のみで は不十分であり,定期的に心エコー図を行い薬剤を使用する機会を逃さないようにする必要があ ると思われる。筋ジストロフィー患者において左室収縮機能不全の割合に血漿BNP値が低い機 序は明らかではないが,左室内腔の拡大の程度が小さいこと及び身体活動性が極めて低いことが 挙げられるかもしれない。 555