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日本国際文化学会研究奨励賞受賞論文 『在外ペルー人が問いかけるもの』(特集2 湘南の知的資産)

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Academic year: 2021

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2010年度第2回日本国際文化学会研究奨励賞 をいただいた論文題名は「在外ペルー人が問い かけるもの—グローバル化のなかのナショナ ル・アイデンティティの行方」である。本論文 は『叢書グローバル・ディアスポラ第6巻ラテ ンアメリカン・ディアスポラ』を構成する一章 であり、筆者はこの章のほか終章「ラティーノ の可能性」も執筆している。 本書の基本的な編集方針は、ラテンアメリカを その基層において移動性が組み込まれた地域とし て浮かび上がらせることであった。20世紀から21 世紀にかけて急速に進行したグローバル化のなか で、植民地時代から「伝統的に」移民受け入れ地 域としてイメージされることの多かったラテンア メリカ諸国が、一転して移民送出地域として位置 づけられる傾向が強まった。こうした現象の背後 には、移民受け入れ地域と送出地域の間にある経 済格差が作用していることは確かだが、それだけ では捉えきれない政治的・社会的・文化的な要因 が働いており、そうした複雑な要因の絡みあいの なかで「ディアスポラ」という新しい国境を越え た主体が形成される可能性について、世界に拡散 したラテンアメリカ(人)をめぐる動きを事例と して提示した。 日本でも1990年代以降のラテンアメリカから の「日系人」による「デカセギ現象」は、多く の研究者の注目を集めて、多様な学問分野から の調査・研究が積み重ねられてきた。しかし、 これまでの大部分の調査・研究は、「デカセギ現 象」を日本と出身国の間における日系人という 特殊な民族的バックグラウンドをもった人たち の「環流移民」として捉えるパースペクティブ を大前提としたものであった。 これに対して、本書が提示しているパースペ クティブは、ラテンアメリカからの出移民状況 をグローバルな観点から捉えることである。「デ カセギ現象」は日本にだけ起こっているのでは なく、イタリアやスペインなどの移民をラテン アメリカに送り出した国においても見られるこ とであり、祖先の出身国への出移民は他の多く の選択肢と同様に、人生における一つのチャン スにすぎない。このような国境の有無をほとん ど問題にしないような移動に対する意欲の高さ は、一般的な現代日本人の感覚とは根本的に異 なるものであるだけに、その意味が正確に理解 されていない恐れがある。 2009年現在の出入国管理局データによると在 日ペルー人の外国人登録者数は57,464人であり、 在日外国人人口数としては5番目に大きい(第 1位中国人、第2位朝鮮・韓国人、第3位ブラ ジル人、第4位フィリピン人)。このこと自体、 多くの日本人には認知されていない事実であろ う。また、文教大学湘南校舎の所在地である神 奈川県は在日ペルー人人口が特に集中している 地域であることも地元の日本人にはあまり知ら れていない。 −115− 特集2 湘南の知的資産

日本国際文化学会研究奨励賞受賞論文

『在外ペルー人が問いかけるもの』

Lessons that We Can Learn From the Peruvians in the World

山 脇 千賀子

* Chikako YAMAWAKI

(2)

他方、ペルー側からみると在日ペルー人の在 外ペルー人人口に占める割合は約1.7%にすぎな い。2008年時点でのペルー外務省筋の推計によ ると、在外ペルー人人口は約300万人に上る。こ れはペルー総人口の約11%にあたる。最も多く のペルー人が在住しているのは米国で約150万人 に上るものとみられ、日本在住の約6万人を除 いた残りを、地理的に近い中南米諸国(例:ア ルゼンチン、ベネスエラなど)と歴史的に縁の 深いEU諸国(例:スペイン、イタリアなど)に 半数ずつ分布させている。つまり、在外ペルー 人は南北アメリカ大陸と欧州の間に広く拡散し ている状態にあり、ほんの一握りが日本に来て いることになる。 こうした事態を受けて、ペルー外務省は2001 年に在外ペルー人コミュニティ課を新設して、 在外国民に対する政府としての行政サービスの 向上の意思表明をすると同時に、在外ペルー人 を積極的に国家開発プロジェクトに巻き込むた めのプログラムを打ち出すようになった。その 背景には、在外ペルー人による母国の家族支援 を目的とした送金額が国家経済において大きな 意味をもつほどに成長している実態がある。 以上で描写したペルーからの出移民状況は21 世紀に突入して以降加速しており、ほとんどの 南米諸国に共通した特徴をもつ。2007年のある 社会調査によると「条件さえ整えば移民するつ もりがある」と答えたペルー人は約70%にも上 った。これに対して、2010年日本の内閣府が行 った調査によれば、海外で就労することに関心 のある日本人は22%にすぎない。 受賞論文では、在外ペルー人を中心に据えて トランスナショナルな組織活動が行われている 状況と国家にとってそのようなトランスナショ ナルな動きがどのような意味をもつものとして 捉えられているのか、さらには「ペルー人」と いうナショナリティを担保しているものが脱領 域化している実情を描き出したつもりである。 そこには、従来の近代国民国家体制のもとでナ ショナリティを議論することの限界が見えてお り、トランスナショナルな主体のあり方にはど のような可能性があるのかについての示唆があ ると考える。 グローバル化が進むことによって、世界のど こに生活する人々であろうと、ますます「ディ アスポラ的に生きる」ことが強いられているの かもしれない現代社会において、われわれがラ テンアメリカ(人)から学ぶべきことは少なく ない。

【文献】

山脇千賀子「在外ペルー人が問いかけるもの— グローバル化のなかのナショナル・アイデン ティティの行方」中川文雄・田島久歳・山脇 千賀子編著『ラテンアメリカン・ディアスポ ラ』明石書店,2010年,pp.135−164. −116− 湘南フォーラム No.15

参照

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