150 人 工 知 能 30 巻 2 号(2015 年 3 月) 本学会誌において初となる「農業」をテーマとする企 画である.ここ数年,テレビなどの身近なメディアにお いて「スーパー農家」といった熟練技能者を題材とする 企画をよく見かける.また,同じく TPP という単語も 多く登場している.この両方の単語から想起される背景 として,国土面積が狭く,作物をつくるに際して高コス ト体質の日本においては「量」よりも「質」で勝負する しか道はないにもかかわらず,質の向上の鍵となる熟練 農家の貴重な技術・ノウハウが知識として共有されにく いという状況が見て取れる.加えて熟練農家の高齢化や 跡取り問題も指摘され始めている.この深刻な状況を解 決する打開策として IT 農業や AI 農業という新しい取 組みへの注目が高まりを見せつつある.これまでも「熟 練技術者のノウハウをいかに知識化するか」という問題 に対するさまざまな取組みが行われているが,熟練技術 者が認識している知識を取り出すのであれば聞取り調査 でも可能であると思われるが,実際はそう容易ではない. 一方,野菜工場のように,自然の環境と異なり,光や水・ 気温など完全に制御可能な環境にて安定して野菜を生産 する方法も稼働し始めている.無論,国としての包括的 な取組み・戦略がなければ国際的な立ち位置が定まらず 話にならない. そこで,今回「人工知能と農業」と題した特集を組む こととした.9 本の記事という,通常と比べボリューム のある特集となった.しかも,農作業の現場から国の戦 略までを以下の 9 本に凝縮することができた. いきなりであるが「サトウキビ」が登場する.杉本 明氏に「行為としてのサトウキビ育種」と題して,熟練 技能者である杉本氏がいかにして経験と想像力を駆使し てサトウキビの育種に挑戦し,そして育種という作業に おいて AI に何を期待するのかについて語っていただい た.そして菊池康紀氏には,農業という範囲を広げ,地 域資源を ICT を駆使して統合的に活用する枠組みの構 築に向けた取組みについて執筆いただいた.種子島や佐 渡島といった島レベルでの統合的情報基盤構築という大 規模なプロジェクトに関する解説となっている. 続く 3 本の記事は要素技術についての解説である.「知 農ロボット」で有名な澁澤 栄氏に,知農ロボットの現 在の状況から未来の構想に向けて寄稿いただいた.そし て,島津秀雄氏には NEC での ICT 導入による営農指 導支援システムについて,また神成淳司氏には AI を導 入して上述した暗黙知を抽出し,これを知識化する取組 みついて執筆いただいた. さらに続く 3 本の記事は企業における取組みの紹介で ある.宮地克嘉氏には,(株)クボタによる「クボタスマー トアグリシステム」を中心に農業機械を ICT の中心的 な要素として取り込む方法について解説いただいた.砂 子幸二氏には,クラウドを導入した農業知識の共有化に 関する富士通(株)の取組みについて紹介いただいた. そして,自らが IT を導入し野菜を育て,流通までのサ プライチェーンを手がけるベジタリア(株)を束ねる小 池 聡氏から,その取組みについて紹介いただいた.共 著の森川博之氏は ICT 研究の第一人者であり,AI 研究 分野と並んで ICT 研究分野においても第一次産業への 注目度が高まりを見せていることを実感できる. そして,本特集の締めくくりとして,先ほどの神成氏 に日本としての農場・流通促進戦略について寄稿いただ いた.神成氏は大学教員であると同時に内閣官房 IT 総 合戦略室のメンバであり,まさに国の戦略の策定に関わ るポジションからの目線でこれからの日本の農業活性化 に向けた展開について記載いただいた. 以上,この特集にて農業の現場の視点から国としての 視点までを概観できる流れとなっており,AI を適用・ 導入する大きな場があることを実感いただけると思う. 新分野への AI 適用に際しては,まずその分野を知る ことが重要であり,その意味で今回取り上げた農業の現 場を知る(体験する)ということは,現在の日本におけ る第一次産業の現状を理解するうえでも意味があり,加 えて新しい人的ネットワークを構築できる極めて貴重な 機会にもなる.ちなみに,筆者は昨年から先ほどの杉本 氏に科研費研究でお世話になっており,数回種子島を訪 れている.実際に自分の目で見て触ることの新鮮さと驚 きは体験した者でないと共感できないものであり,AI のさらなる活用先としての農業(第一次産業)もこの機 会に検討いただけると嬉しい限りである.
特集「人工知能と農業」にあたって
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