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複数情報源からの情報発信を考慮した情報拡散モデルの検討

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(1)

複数情報源からの情報発信を考慮した情報拡散モデルの検討

Consideration of information diffusion model

considering multiple information sources

池田 圭佑

1,2

榊 剛史

3

鳥海 不二夫

4

栗原 聡

1

Keisuke Ikeda

1,2

, Takashi Sakaki

3

, Fujio Toriumi

4

, and Satoshi Kurihara

1

1

電気通信大学

1

The University of Electro-Communications

2

日本学術振興会特別研究員 (DC)

2

Research Fellow of Japan Society for the Promotion of Science

3

株式会社ホットリンク

3

Hotto Link Inc.

4

東京大学

4

The University of Tokyo

Abstract: 東日本大震災や熊本地震の際,Twitter を通して重要な情報が拡散されると同時にデマ 情報のような誤った情報が拡散され,大きな社会問題となった.そこで,我々はこの問題を解決する ためにデマ情報のような有害な情報は抑制し,有用な情報はより早く拡散させるための情報拡散制 御手法構築を目指し研究を行っている.これまで我々は情報拡散制御手法構築の前段階として情報拡 散モデルを構築し,拡散メカニズムの同定を試みてきた.しかし,現在の情報拡散モデルには課題が 存在しており,拡散メカニズムの同定には至っていない.そこで,本稿では実データ分析から得られ た知見をもとに,これまでの情報拡散モデルにおいて複数情報ソースからの情報発信を考慮するこ とで,より精緻な情報拡散モデル構築を試みる.また,新しい提案モデルを用いて実際のデマ拡散の 再現を行い,妥当性を評価する.

1

はじめに

本稿では,我々がこれまでに提案した情報拡散モデ ルを実際のデマ拡散の特徴である複数情報ソースから の情報発信を考慮できるよう改良し,その評価を行う. Twitter は,人気のあるマイクロブログサービスの 1 種であり,多くのユーザーが友人知人とのコミュニケー ションや情報収集・発信のために利用している.また, Twitter は日常生活においてだけでなく,震災などの災 害時にも有用な情報源として利用されたことが報告さ れている [9][10].東日本大震災時には,ライフライン情 報や,家族・友人知人の安否情報,震災の規模などの情 報が Twitter を通してやり取りされた [8].また,2016 年 4 月に発生した熊本地震の際にも Twitter などが活 発に利用されており,今後の災害発生時にも Twitter などが利用されると予想される.しかし,Twitter に は,一度デマ情報が拡散されてしまうと,その情報が 瞬く間に広まってしまうという大きな問題も存在する. 連絡先:電気通信大学       東京都調布市調布ヶ丘 1-5-1 東 2 号館 417        [email protected] 特に災害時のような混乱した状況では被災者らは受け 取った情報が正しいかを確かめることは困難であり,デ マ情報によりさらなる混乱の発生や深刻な被害を出て しまう可能性がある.そのため,Twitter の利用には十 分な注意が必要である. 東日本大震災や熊本地震の際に Twitter 上で拡散し たデマ情報として以下のような内容が挙げられる.な お,本稿では文献 [1] の定義より,デマ情報を「根拠が 無く,後に誤りを指摘する内容の情報が発表された情 報」とする. • 石油タンクが爆発,炎上した結果,有害物質が 雨に混じって降ってくるので注意せよという情報 (東日本大震災) • 関東地域において不足する電力を補うため,関西 地区においても節電を行ったほうが良いという情 報(東日本大震災) • ライオンが逃げ出した(熊本地震)1

(2)

デマ情報の拡散は,非常に大きな社会問題であり,デ マ情報の拡散を早期に収束させる方法が必要とされて いる.Twitter 等のソーシャルメディア上での情報拡散 メカニズムを同定することは,デマ情報による被害を 抑制するために重要である. 我々は,これまで Twitter ユーザーを趣味嗜好の概 念を持つエージェントとして定義し,複数のエージェ ントが相互作用することで情報拡散現象を表現する情 報拡散モデルである AIDM(Agent-based Information Diffusion Model)の提案・検証を行ってきた [6].しか し,現在の AIDM にはいくつかの課題が存在しており, 情報拡散メカニズムの同定には至っていない.そこで, 我々はより精緻な情報拡散モデルを構築するために,実 際に東日本大震災時に拡散したデマ情報及びデマ訂正 情報の分析を行った.その結果,同一のデマ拡散であっ ても複数の情報ソースからの情報発信が行われている ことが明らかになった.本稿では,その分析結果をも とに,より実際の現象に即した状態でデマ情報拡散の 再現を行い,AIDM の妥当性を評価する. 本研究に関連する研究として以下の 2 つの研究を紹 介する.Takeuchi ら [3] は,コンピューターネットワー ク上において,人が情報をフィルタリングしていると いうことを考慮した情報拡散モデルを提案した.この モデルは,情報を拡散させるかの判断は,ユーザの持 つ情報に対する価値によって決まるとされている.ま た,情報の持つ価値にはどのようなルートで情報を得 たかも含まれると述べられている.Takeuchi らの研究 では,現実の人同士で構成された小規模の友人ネット ワークを用いて,検証実験を行った. 実験設定として は,複数の情報ソースからの情報発信は可能であった. しかし,本研究と比べて被験者の数は 22 人と極めて小 規模であり,目的も人間が情報のフィルタリングを行 うということ検証するためのものであった.そのため, 複数情報ソースからの情報発信が大規模な拡散現象と なるかに対しては検討されていない. Serrano ら [2] の研究では,デマ情報をつぶやいたユー ザー,デマ情報であると知っているユーザー,デマ情 報を否定する情報を拡散したユーザーを設定している. それらのユーザーの状態遷移を,遷移確率を用いて遷 移させることにより情報拡散現象を表現している.本 稿で提案するモデルとの相違点としては,以下の 2 点 が挙げられる.Serrano らのモデルでは Twitter 以外の 外部からの情報の流入を考慮し,情報拡散現象を表現 している.また,一度デマ情報をつぶやいた人はデマ 情報を否定するツイートをしないとしてモデル化をし ている.しかし,AIDM の特徴である各ユーザーに着 目したモデル作りは行われていない.また,初期値と http://www.huffingtonpost.jp/2016/04/15/kumakoto-earthquake-dema-tweet n 9700622.html,2016 年 7 月 19 日アクセス して,複数のユーザーからの情報発信を行うことは可 能であるが,本研究のように時間毎に新たな情報発信 者が増えていくことは考慮されていない. 本稿の構成について述べる.2 節ではこれまでに我々 が提案した情報拡散モデルについて述べ,3 節でこれ までの情報拡散モデルの持つ課題とその課題に対する 解決方法を提案する.4 節でその解決手法をもとに構 築した新しい情報拡散モデルの妥当性の評価実験につ いて述べ,最後に 5 節でまとめを述べる.

2

AIDM: Agent-based

Informa-tion Diffusion Model

我々は,これまで Twitter ユーザーや Twitter ネッ トワークの特徴に着目し,情報拡散現象を再現するた めのモデルである AIDM を提案した.しかし,これま での AIDM では一部のデマ拡散の再現性は確認した が,一部のデマ拡散の再現性は確認できていない.本 節ではこれまで我々が提案した情報拡散モデルの特徴 及び AIDM におけるエージェントの振るまいについて 述べる.

2.1

AIDM の特徴

AIDM は,以下 4 つの要素を考慮することにより,現 実のユーザーの情報拡散行動を模したモデルである. a. エージェント毎に異なる趣味嗜好を考慮し,多様性 を表現 b. エージェントが複数回つぶやくことを考慮 c. Twitter ネットワークが持つ情報経路の多重性を表現 d. 人間の生活パタンを表現 2.1.1 エージェントの多様性の表現 口コミ伝播の研究知見 [5] からユーザーが情報を伝播 させる際の重要な要素が判った.この知見によると情 報を拡散させる際,ユーザーがその情報にどのような 価値を見出すかや,情報源の信頼性が重要な要素であ るとされている.ここで「情報の価値」とは,情報の鮮 度とその情報に対するユーザーの興味関心の度合いで ある.ユーザーが興味をもつ情報はユーザー毎に異なっ ており,拡散させる情報も異なると考えられる.そこ で,我々はエージェント毎に異なる興味関心を持たせ たり,情報源の信頼性を表現したりすることで上記の ことを表現した.具体的には,エージェントのツイート したいという欲求を表す指標である MoT(Motivation

(3)

of Tweet)を導入し,その MoT がしきい値を超えると エージェントがつぶやき,情報が拡散する.MoT の計 算式は以下の式の通りである. M oTkβt= M oTkβt−1e−λ(t−F G)+ ikβsβn an (1) なお,β は情報を受取りつぶやくかどうか迷ってい るユーザ,t は現在の時刻,anは時刻 t においてユー ザ β の情報元となるユーザの集合,λ は忘却率,k は受 取った情報のトピック,F G は最初にデマ情報を受取っ た時刻を表すものとする. 2.1.2 複数回つぶやくことの表現 Twitter では同一のユーザーが複数回つぶやくこと が可能である.また,人間は同じトピックに対しても その情報が重要であったり,以前つぶやいたことを忘 れていたりした場合は再度つぶやくことも考えられる. そこで,同一のデマ情報であっても複数回つぶやくこ とができるエージェントの状態遷移モデルである ORS モデル (Outsider-Reciver-Sender モデル) を提案・導入 した.ORS モデルの各状態について説明する.まず, Outsider はまだデマ情報もデマ訂正情報も知らない状 態である.次に Receiver はデマ情報・デマ訂正情報の どちらかあるいは両方を受取った状態である.最後に, Sender はデマ情報やデマ訂正情報を拡散させた状態で ある.一度状態が Sender となっても,再度 Receiver に 遷移することにより,新たに情報を受取ることで再度 つぶやくことが可能となる. 2.1.3 情報経路の多重性の表現 実際の Twitter では,ユーザーは様々な人をフォロー したり,フォローされたりしている.そのため,ユー ザー毎にタイムラインに表示される情報は異なってい る.フォローしているユーザーが一斉に同じ内容をつ ぶやくことは考えにくく,その時々で様々な情報が表 示される.そのため,フォローしている人物によって各 ユーザーが受け取る情報は様々であり,同じ内容でも受 け取るタイミングが異なると考えられる.このように, Twitter には様々な情報経路が存在するため,AIDM で はそれらを考慮している.これにより情報を一度受取っ ただけではつぶやかなくても,複数回情報を受け取る ことで,関心の無かった情報や信頼していなかった情 報に関してもつぶやくことを再現可能である. 図 1: 各時間における平均投稿数と投稿数の割合 2.1.4 生活パタンの考慮 Shahzad ら [4] の研究により,Twitter がよく利用さ れている時間帯には偏りがあることがわかっている.図 1 は,我々が 2011 年 3 月 11 日から 3 月 17 日までの 7 日間の各時間帯における平均ツイート数と投稿割合 を調査した結果である.この図 1 より,日中では 12 時 頃や 15 時頃に投稿数が多くなっていることが分かる. これは,昼食や休憩の時間にあたり,投稿数が増えた と考えられる.また,17 時頃から再びツイート数が増 えはじめ,22 時頃に 1 日の最大投稿数を数えている. これは,この時間帯が終業後からの余暇の時間帯であ るためだと考えられる.23 時頃からは投稿数が減少し はじめ,早朝 5 時頃には投稿数が 1 日の最小投稿数と なっている.これは,23 時から 5 時というのは多くの ユーザーが睡眠をとるための時間帯であると考えられ る.このように,震災時であっても Twitter の投稿数は ユーザーの生活パタンにより時間帯毎に異なっている ことが明らかになった.そこで,AIDM では,時間帯別 の Twitter 投稿割合をもとにエージェントが情報を確 認するか否かを決定する.つまり,時間帯毎に Twitter を利用するエージェント数を変化させることで,人間 の生活パタンを考慮可能である.

2.2

AIDM におけるエージェントの振るま

AIDM は,エージェントが情報を受け取ると MoT が 計算され,MoT がしきい値が超えるとそのエージェン トがつぶやき情報が拡散するというモデルである.情 報を受け取る際,受け取る時刻に応じて情報を受け取 るかどうかを決定することとした.これにより,実世 界のように Twitter を利用する時間と利用しない時間 を表現可能となる.ここで,具体的にエージェントの振

(4)

Algorithm 1 エージェントの振舞い 1: if 現在時刻における表 3 の割合に応じてエージェ ントがデマ情報を受取る かつ 同じデマを拡散していない場合 then 2: 式 1 に従い,MoT を計算 3: if MoT > しきい値 then 4: 状態を S に遷移し,そのユーザのフォロワー にデマ情報を拡散 5: else 6: 状態を R に遷移 7: end if 8: end if 9: if 状態が S then 10: 状態を R に遷移 11: end if 新たにデマ情報が流れてきたら、同様に繰り返す るまいを擬似コード (Algorithm1) として示す.この擬 似コードを,ユーザー β がデマ情報を受取った場合を 用いて説明する.まず,ユーザー β は現在の時刻にお ける表 3 の割合に応じてデマ情報を受取るかが決定さ れる.なお,この表は実データ (図 1) に示した各時間 帯ごとのツイート投稿割合を基に作成した.ユーザー β がデマ情報を受け取った場合は,式 (1) に従い MoT を計算する.もし,MoT がしきい値を超えていれば, ユーザー β はデマ情報をリツイートし,デマ情報をユー ザー β のフォロワーへと情報が伝播する.もし,MoT がしきい値を超えていなければ,ユーザー β はそのデ マ情報をリツイートしない.その後,ユーザー β が新 たなデマ情報を受取ると再度 MoT を計算し,しきい 値以上であればその情報がリツイートされ,情報が伝 播する.なお,ユーザー β が一度デマ情報を拡散して いたとしても,異なるデマ情報を受取った場合であれ ば同様に振舞う.また,デマ訂正情報を受取った場合 も,同様に振る舞う.

3

AIDM

の持つ課題と改善策

我々は,これまでに 2.1 節で紹介した AIDM を用い て東日本大震災で拡散した実際のデマ拡散の再現を行っ た.シングルバースト型デマ拡散2として,コスモ石 油に関するデマ拡散3の再現を行った.また,マルチ 2我々はデマ情報及び訂正情報の拡散ピークが 1 度だけのものと シングルバースト型デマ拡散と定義している. 3東日本大震災直後に発生した千葉県市原市のコスモ石油の千葉 製油所での火災によって有害物質の含まれた雨が降るというデマ情 報 バースト型デマ拡散4として,節電に関するデマ拡散5 の再現を行った.しかし,現状のモデルではシングル バースト型デマ拡散の再現性しか確認できず,マルチ バースト型デマ拡散の再現には至っていない.よって, 本節では AIDM の持つ課題とその課題に対する改善策 を述べる.

3.1

AIDM の持つ課題

AIDM が持つ課題として,「” 情報拡散のされ方”や “ 拡散した情報ソースの種類数”が実際のデマ拡散現象と 乖離している」ということが挙げられる. 我々はこれまで Twitter を利用するユーザーに着目 してモデルの構築を行ってきた.その際,情報の拡散 はリツイート6(以降,RT と表記) による伝播現象であ ると考え,同じデマ情報であれば情報ソースとなるツ イートの種類は数種類程度と仮定し,情報拡散のモデ ル化を行ってきた.しかし,実際のデマ情報の拡散で は,通常ツイートによる拡散や情報ソースが複数存在 する場合も考えられた.そこで,改めて実際のデマ拡 散現象についてそれぞれのデマ情報がどのような方法 で拡散されたかという “情報拡散のされ方”,また情報 ソースがいくつあったかという “拡散した情報ソース の種類”という視点から分析を行った. まず,“情報拡散のされ方”という視点では,当初我々 は『デマ情報の拡散は RT による拡散である』と想定し ていた.しかし,実際のデマ情報の拡散では,RT によ る拡散以外にも通常ツイート7による拡散も一定数含ま れており,想定と乖離していたことが明らかになった. 次に,“拡散した情報ソースの種類数”という視点で は,コスモ石油に関するデマ情報におけるデマ情報の ソース数は 2820 件,訂正情報のソース数は 3850 件存 在しており,節電に関するデマ情報におけるデマ情報 のソース数は 6215 件,訂正情報のソース数は 8301 件 で存在した.これは当初シングルバースト型デマ拡散 であればデマ情報や訂正情報のもととなるツイートは それぞれ 1 つであり,マルチバースト型デマ拡散であ ればデマ情報や訂正情報のもととなるツイートはそれ ぞれのピーク数に対応する数であるという想定と大き く乖離していることが明らかになった.なお,これら の分析についての詳細は文献 [7] を参照して頂きたい. 4我々はデマ情報及び訂正情報の拡散ピークが複数回存在するも のをマルチバースト型デマ拡散と定義している. 5東日本大震災時に流れた関西地方でも関東圏の電力を補うため に節電をするほうが良いというデマ情報 6RT(リツイート)とは,他者の投稿を引用してツイートするこ とで,自身のフォロワーにも情報を伝える方法である. 7通常ツイートとは,RT やリプライを用いず,単に Twitter に テキストを投稿することである.なお,最大 140 字の字数制限があ る.

(5)

表 1: ネットワークの設定 ノード数 100,000 リンク数(次数) 最大値  = 3000 の期待値 下限  = 10 パレート指数 = 0.5 リンクされやすさ 上限 =15.0 下限 = 0.05 パレート指数 = 0.5

3.2

課題に対する改善策の提案

前述した AIDM の持つ課題を改善するため,本稿で は複数の情報ソースからデマ及び訂正情報の発信が行 われることを考慮する新たな AIDM を提案する.新し い AIDM において,複数情報ソースからの情報発信を 考慮するため,各シミュレーションステップ時に一定 の条件 (ノードが持つフォロワー数が 100 以上) を満た したノードから無作為に選択し,新規のデマ情報の発 信源とする.その際,生活パタンを考慮し,時間帯に よってデマ情報を発信するノード数を変化させる.な お,シミュレーションの全ステップにおけるデマ情報の 最大投入数は実際のデマ情報のソース数と実際のユー ザー数及びシミュレーションで使用するノード数をも とに決定する.また,訂正情報の発信に関しても同様 に行う.

4

実験

本節では,複数の情報ソースからの情報発信を考慮 可能な新たな AIDM の妥当性を評価する実験について 述べる.デマ拡散のメカニズム同定のためには,普遍 的な情報拡散モデルを基に推定する必要がある.その ため,同一のモデルを用いてシングルバースト型デマ 拡散とマルチバースト型デマ拡散両方の再現性を確認 しなければならない.そこで,本稿では提案モデルの 初期評価としてこれまで我々の研究で再現性が確認で きていたシングルバースト型デマ拡散を新たな AIDM を用いて再現できるかの確認を行う.今回,再現を行 うシングルバースト型デマ拡散は,コスモ石油に関す るデマ情報である.

4.1

実験及び評価手法

今回行う実験は,提案モデルを搭載したシミュレー タを使用して行う.今回対象とするコスモ石油に関す るデマ拡散は,実データ分析により 2011 年 3 月 11 日 18 時 45 分頃から拡散しはじめたと考えられる.また, 表 2: 各パラメータの設定

興味度 i

0∼1 の範囲のランダム値

感度 s

0∼1 の範囲のランダム値

影響度 a

ノード毎の PageRank 値

忘却率 λ

1/8

しきい値

0.0005

デマ訂正情報の拡散は,2011 年 3 月 11 日 20 時頃であ ると考えられる.そして,3 月 13 日 18 時には拡散は ほぼ収まったと考え,192 ステップのシミュレーション を行う.なお,本シミュレーションでは,シミュレー ション 1 ステップを実時間の 15 分として実験を行う. 以下に,実験時の各設定を記す.表 1 にはシミュレー ションで用いるネットワークの設定を,表 2 にモデル内 で用いているパラメータの設定を示している.全ユー ザーのうち各時刻において情報に接触することのでき るユーザー割合は表 3 の通りとする.また,新たなデ マ及び訂正情報を投入するかどうかの選択も表 3 の割 合にて行い,1 ステップの最大情報ソース数は 3 とす る.さらにシミュレーション全体での最大情報ソース はデマ情報 315 件,訂正情報 430 件までとする.この 最大値は,実際のユーザー数 896,775 ユーザー8に対 してコスモ石油に関するデマ情報のソース数はデマ情 報で 2820 件,訂正情報のソース数は 3850 件であった ため,今回のシミュレーション規模におけるノード数 との比をとり算出した.なお,今回は再現シミュレー ションを 5000 回ずつ行い,その中から最も類似してい たものを結果とした.これは,我々がデマ情報の投稿 は日常的に行われており,大規模な拡散は偶然である という考えからである. 次に,提案手法による現実のデマ情報拡散の再現性 及び従来の AIDM との比較のため,以下の指標を用い て実験結果の評価を行う. 類似度 本実験でシミュレータから得られる結果は,各シミュ レーションステップにおける各状態の人数である. 各ス テップの対応する点間のユークリッド距離から計算す る類似度により評価する. 感染率 シミュレーションにおいて,あるノードが受け取っ たデマあるいは訂正情報の数と,その後それらの情報 を発信した回数によりノード毎の感染率が算出できる. ノード毎の感染率を全ノードに対して計算し感染率の 平均値を求め,シミュレーション 1 試行における感染 8我々は 2011 年 1 月 30 日時点での,各ユーザーのフォロー状況 を収集した.本稿ではその際のユーザー数である 896,775 人を実際 のユーザー数と仮定する.

(6)

表 3: Twitter 利用割合の設定

時刻

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

Tweet を読む確率 (%)

6.15

4.26

2.67

1.72

1.62

1.34

1.56

2.29

2.78

2.96

3.31

3.55

時刻

12

13

14

15

16

17

18

19

20

21

22

23

Tweet を読む確率 (%)

4.18

4.00

4.06

5.32

4.87

4.89

5.20

5.53

6.01

6.71

7.78

7.28

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 2011/3/11  18:00 2011/3/12  6:00 2011/3/12  18:00 2011/3/13  6:00 2011/3/13  18:00 ツ イ ー ト の 割 合 ⽇日時 Outsider(実データ) デマ情報発信者(実データ) 訂正情報発信者(実データ) Outsider(従来AIDM) デマ情報発信者(従来AIDM) 訂正情報発信者(従来AIDM) デマ情報発信者(提案⼿手法) 訂正情報発信者(提案⼿手法) Outsider(提案⼿手法) 図 2: 提案手法によるシミュレーション結果及び従来 AIDM によるシミュレーション結果,実データとの比較 表 5: 感染率 実データ 提案手法 従来の AIDM デマ情報 0.00142 0.031 デマ訂正情報 0.00242 0.076 率とすることで従来の AIDM と提案手法との比較が可 能となる.

4.2

実験結果

図 2 に今回の実験で得られた結果を示す.この図か らデマ情報発信者の増加の様子は実データに比べて早 く,ツイート数も多いが概ね同じように増加している ことがわかる.訂正情報発信者の増加の様子もデマ情 報発信者と同様に実データに比べ,早くてツイート数 が多いが概ね同じ用に増加している.表 4 に提案手法 及び従来の AIDM における類似度を示す.提案手法と 従来の AIDM の類似度から比を求めたものを併せて記 す.この表から提案手法は従来の AIDM に比べて,デ マ情報発信者の類似度は 2.27 倍であり,類似性が低下 した.しかし,3 状態の類似度の平均値を提案手法と 従来の AIDM で比べたところ類似度が 0.851 倍であり, デマ情報及び訂正情報の拡散という現象としては提案 手法の方が従来の AIDM よりも類似性があることが示 された. さらに,表 5 に提案手法における感染率と従来の AIDM における感染率を記す.この表から,提案手法 と従来の AIDM の感染率に大きな差はないことが明ら かになった.このことから, 今回の提案手法を用いても 従来の AIDM と同様に実際のデマ拡散を再現可能であ ることを示すことができた.

5

おわりに

東日本大震災や熊本地震の際,Twiter などのソーシャ ルメディアを通してデマ情報が拡散し,大きな社会問 題となった.我々は,この問題を解決するためデマ情 報などの有害な情報は抑制し,有用な情報は早期に拡 散させるための情報拡散制御手法構築に向け,情報の 拡散メカニズムの解明のために情報拡散モデルの構築 を行ってきた.しかし,これまでの情報拡散モデルで は,一部のデマ拡散しか再現できておらず,拡散メカ ニズムの推定には至っていなかった.そこで,本稿では 実データの分析により明らかになった知見をもとに複 数情報ソースからの情報発信を考慮する情報拡散モデ ルである AIDM を提案した.本提案モデルの初期評価 のため,まずはこれまでの我々の研究で再現が確認で きていたシングルバースト型デマ拡散の再現を行った. その結果,提案モデルを用いることでシングルバース ト型デマ拡散を再現することができ,妥当性を評価す ることができた. 今後は,これまでのモデルでは再現に至っていなかっ たマルチバースト型デマ拡散の再現実験を行い,提案 モデルのさらなる評価を行う.そして,再現可能なモ デルをもとに情報拡散メカニズムを同定し,情報拡散 制御手法の構築を目指す.

謝辞

本研究は JSPS 科研費 JP16J04396 の助成を受けた ものである.

(7)

表 4: 提案手法によるシミュレーション結果及び従来 AIDM によるシミュレーション結果と実データとのユーク リッド距離 Outsider デマ情報発信者 デマ訂正情報発信者 平均 提案手法 0.943 0.927 1.198 1.023 従来の AIDM 1.613 0.408 1.585 1.202 提案手法と従来の AIDM との比 0.585 2.27 0.756 0.851

参考文献

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[3] Susumu Takeuchi, Junzo Kamahara, Shinji Shimojo, and Hideo Miyahara. “Human-network-based filter-ing: the information propagation model based on word-of-mouth communication.” Applications and the Internet, 2003. Proceedings. 2003 Symposium on. IEEE, 2003.

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[5] Hiroto Endo, and Masato Noto. “A word-of-mouth information recommender system considering infor-mation reliability and user preferences.” Systems, Man and Cybernetics, 2003. IEEE International Conference on. Vol. 3. IEEE, 2003.

[6] 池田 圭佑,榊剛史,鳥海不二夫,栗原聡,“生活パタン を導入した情報拡散モデルにおける拡散再現性の考察”, 2016年度人工知能学会全国大会,2016 [7] 池田 圭佑,榊剛史,鳥海不二夫,栗原聡,“東日本大震 災時のデマ情報拡散の分析”,ネットワークが創発する 知能研究会国内ワークショップ(JWEIN2016),2016 [8] 執行文子,“ 東日本大震災・被災者はメディアをどのよう に利用したのかーネッ トユーザーに対するオンライン グループインタビュー調査からー”,NHK放送文化研 究所『放送研究と調査』,2011月号,pp.18-30,2011 [9] 総務省:平成23年度情報通信白書, http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ ja/h23/pdf/index.html, 2011 [10] 吉次由美. “東日本大震災に見る大災害時のソーシャル メディアの役割:ツイッターを中心に.”放送研究と調査 61.7 (2011): 16-23.

表 1: ネットワークの設定 ノード数 100,000 リンク数(次数) 最大値  = 3000 の期待値 下限  = 10 パレート指数 = 0.5 リンクされやすさ 上限 =15.0 下限 = 0.05 パレート指数 = 0.5 3.2 課題に対する改善策の提案 前述した AIDM の持つ課題を改善するため,本稿で は複数の情報ソースからデマ及び訂正情報の発信が行 われることを考慮する新たな AIDM を提案する.新し い AIDM において,複数情報ソースからの情報発信を 考慮するため,各シミュレーシ
表 3: Twitter 利用割合の設定 時刻 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 Tweet を読む確率 (%) 6.15 4.26 2.67 1.72 1.62 1.34 1.56 2.29 2.78 2.96 3.31 3.55 時刻 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 Tweet を読む確率 (%) 4.18 4.00 4.06 5.32 4.87 4.89 5.20 5.53 6.01 6.71 7.78 7.28 00.10.20.30.40.
表 4: 提案手法によるシミュレーション結果及び従来 AIDM によるシミュレーション結果と実データとのユーク リッド距離 Outsider デマ情報発信者 デマ訂正情報発信者 平均 提案手法 0.943 0.927 1.198 1.023 従来の AIDM 1.613 0.408 1.585 1.202 提案手法と従来の AIDM との比 0.585 2.27 0.756 0.851 参考文献

参照

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