は
じ
め
に
東南アジア、とりわけ島嶼部のマレーシアとインドネシ アにおいて、アブラヤシ栽培が急拡大している。アブラヤ シから取れるパーム油は、最低のコストで製造できる植物 油脂であるうえ、植物油、石鹸、洗剤、口紅の原料など汎 用性が高いことがこうした島嶼部での急拡大をもたらして いる。加えて、地球温暖化対策や原油価格の高騰などから 脱 化 石 燃 料 の 動 き が 強 ま る な か で、 パ ー ム 油 は バ イ オ・ ディーゼルとして急速に世界の注目を集めた。そのことが グローバル資本の関心をさらに喚起してアブラヤシ栽培に 拍車を掛けている。二〇〇四年にはパーム油生産量は大豆 油を抜いて世界最大の生産量を誇る植物油となっている。 パーム油生産の二大国マレーシアやインドネシアの政府は ア ブ ラ ヤ シ 栽 培 と 生 産 性 の 向 上、 効 率 的 な パ ー ム 油 脂 製 造、バイオ・ディーゼルとしてパーム油の積極的利用など を重要施策として掲げている。しかも、世界銀行の傘下に あ る 国 際 金 融 公 社 ( International Finance Corporation: IFC ) も 農 村 部 で の 貧 困 削 減 プ ロ グ ラ ム の 一 環 と し て ア ブ ラヤシ栽培企業への融資を進めてきたことが典型的に示す ように、グローバルなレベルでアブラヤシ栽培拡大を支持 する声は強い。それゆえ、今では栽培地域は島嶼部東南ア第Ⅱ部
東南
ア
ジ
ア
を
め
ぐ
る
グ
ロ
ー
バ
ル
・
イ
シ
ュ
ー
と
地域研究
環境
に
や
さ
し
い
ア
ブ
ラ
ヤ
シ
農園
と
い
う
デ
ィ
ス
コ
ー
ス
の
誕生
︱︱
イ
ン
ド
ネ
シ
ア
の
ア
ブ
ラ
ヤ
シ
農園拡大戦略
か
ら
岡本正明
ジアに限らず、タイ、さらには赤道直下の西アフリカ、南 米にも拡大しつつある。先進国にも伸びるパーム油のサプ ライ・チェーンも考えれば、アブラヤシはまさにグローバ ルな商品作物であるといえる。 一方で、環境問題や先住民問題を扱う国際NGOは、森 林破壊や生物多様性消失の元凶、少数民族の生存権侵害を 理由としてアブラヤシ・プランテーションの急拡大に厳し い批判を行っている。こうした批判に対し、アブラヤシ・ プ ラ ン テ ー シ ョ ン 拡 大 を 推 進 す る 企 業、 企 業 連 合 や 政 府 は、アブラヤシ栽培の重要性をさまざまな側面から訴え、 正 当 化 し よ う と し て い る。 目 立 つ の は、 食 糧 安 全 保 障 ( Food Security ) と エ ネ ル ギ ー 安 全 保 障 ( Energy Security ) の点からの正当化である。アブラヤシから取れるパーム油 は、食用油としてグローバルな需要があり、その生産量向 上は食糧安全保障の観点から重要性が高いとする。また、 化石燃料に変わるバイオ燃料への需要が高まるなか、低コ ストでバイオ・ディーゼルとなるパーム油はエネルギー安 全保障の点からも生産性向上が不可欠とする。しかも最近 では、 C O 2 排出権取引、炭素蓄積量保全を一つの目的とす るREDD+との絡みで、アブラヤシ栽培が環境保護に貢 献 す る と い う 意 味 で、 環 境 安 全 保 障 ( Environmental Security ) の 観 点 か ら も 正 当 化 し う る と い う 議 論 ま で 出 て きている。 このように、アブラヤシがグローバルな商品作物となる なか、その栽培拡大についてはグローバルなレベルで賛否 両論が巻き起こっており、アブラヤシそれ自体がグローバ ルなイシューである。それだけでなく、アブラヤシ栽培拡 大 の 支 持 者 も 反 対 者 も 食 料 安 全 保 障、 エ ネ ル ギ ー 安 全 保 障、環境安全保障、生物の多様性保全、森林保護といった グローバルな課題を引き合いに出してそれぞれの主張の正 当化を図っており、アブラヤシはグローバルな正義がぶつ かり合うアリーナとも化している。 このグローバルなイシューと化したアブラヤシに着目す るにあたり、本稿ではその拡大の支持者の側に着目してみ た い。 そ も そ も、 ア ブ ラ ヤ シ 栽 培 拡 大 を グ ロ ー バ ル な イ シューにしていったのは、反対派であった。天然林が一気 にアブラヤシの単一農園に化け、オランウータンが死んで いくというストーリーは一般市民にはきわめてインパクト があり、とりわけ先進国でアブラヤシは否定的に見られる ことが多くなった。それゆえ、拡大支持派はさまざまな手 段を駆使して正当化に奔走しており、また、実態としてア ブラヤシ農園拡大に成功し続けている。それでは、その拡 大を支える政府の政策はいかなるもので、また、政府や企 業 の 正 当 化 ロ ジ ッ ク と は 何 な の か。 ア ブ ラ ヤ シ に つ い て は、生態学者や林学者らによる研究、あるいは、アブラヤ シ 栽 培 が 引 き 起 こ す 問 題 に 焦 点 を 当 て た 研 究 は 多 い 一 方
で、政府や企業がどういったロジックで正当化を図ってい るのかといった側面に焦点を当てたものは、政府や企業が 作り上げた報告書をのぞけば皆無といってよい。アブラヤ シ栽培が東南アジア、とりわけマレーシアとインドネシア に お い て 大 き な 社 会 変 容 を 引 き 起 こ す 原 動 力 と な っ て お り、アフリカや中南米でも同様の変化が起きる可能性が高 い以上、この正当化のロジックを理解することは不可欠で ある。本稿では、世界最大のアブラヤシ栽培面積とパーム 油生産量・輸出量を誇るインドネシアを取り上げ、同政府 が具体的にどのような政策を推進し、それをどういったロ ジックで正当化しているのかを、アブラヤシ関連企業の動 向も踏まえながら見ていくことにする。 まず、次章では、インドネシアにおけるアブラヤシ栽培 の拡大について見ていこう。
Ⅰ
イ
ン
ド
ネ
シ
ア
に
お
け
る
ア
ブ
ラ
ヤ
シ
栽
培
の
始
ま
り
と
プ
ラ
ン
テ
ー
シ
ョ
ン
の
拡
大
イ ン ド ネ シ ア で ア ブ ラ ヤ シ が 初 め て 植 林 さ れ た の は 、 植 民 地 時 代 の 一 八 四 八 年 の こ と で あ る 。 観 賞 用 と し て ブ イ テ ン ゾ ル グ 植 物 園 ( 現 在 の ボ ゴ ー ル 植 物 園 ) に デ ュ ラ 種 の 二 本 の 苗 が 植 え ら れ た 。 そ の 後 ジ ャ ワ 各 州 に 普 及 し た が 、 そ れ ら は 観 賞 用 で あ っ た 。 一 八 七 〇 年 頃 に は 政 府 主 導 で ス マ ト ラ ( ム ア ラ ・ ウ ニ ム や ム シ ・ ウ ル ) に お い て 試 験 的 に 商 業 用 に 植 林 さ れ た が 、 こ の 時 点 で は 失 敗 す る ( van Heurun 1985: 20 ) 。 一 八 五 七 年 、 ス マ ト ラ 東 岸 の デ リ に 植 林 さ れ 、 一 九 一 〇年にたばこプランテーションを展開していたベルギー人 エ イ ド リ ア ン ・ ハ レ ー ( Adrien Hallet ) が 初 め て デ ュ ラ 種 ア ブラヤシの大規模プランテーションを展開した。 一九四〇年代にはプランテーションは一一万ヘクタール にまで拡大したものの、日本軍政時代に換金作物から食糧 生産に重点が移されたため、プランテーション面積は若干 減少した。さらに、第二次大戦後、とくに独立後の内戦が 激しくなると、プランテーションが破壊され、拡大のペー スは落ちた。一九五七年、政府はプランテーションを接収 したうえで国有化した。一九六〇年には、デリを中心に政 府主導の大規模なアブラヤシ・プランテーションが造成さ れた。一九六六年に始まるスハルト権威主義体制下でアブ ラヤシ・プランテーションの拡大は国家政策となっていっ た。 スハルト体制から現在までのインドネシアにおけるアブ ラヤシ栽培拡大のスピードを図で見ていこう。図1は一九 七五年から二〇一一年までのマレーシア、インドネシアの アブラヤシ栽培面積の変遷であり、図2は一九九五年から 二〇一〇年までのパーム油搾油が可能な成木アブラヤシの14,000 12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010年 千 Ha マレーシア インドネシア 2ヶ国計 図1 マレーシア、インドネシアのアブラヤシ栽培面積推移(1975〜2011年) (出所)林田 2013:22 15 10 5 0 1995 2000 2005 2010(P) 百万 Ha 1.4 2.2 1.2 1.6 2.9 2.2 2.0 3.6 3.7 3.0 4.1 5.7 (P)暫定値 インドネシア マレーシア その他諸国 図2 マレーシア、インドネシアにおける成木アブラヤシ栽培面積推移(1995〜2010年)
45,000 40,000 35,000 30,000 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 0 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010年 千 t マレーシア インドネシア 2ヶ国計 図3 マレーシア、インドネシアのパーム油生産量推移(1975〜2011年) (出所)林田 2013: 22 50 40 30 20 10 0 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010(P) 世界 インドネシア マレーシア (P)暫定値 百万 t 15.2 16.3 17.2 20.6 21.9 24.0 25.4 31.0 33.8 37.3 43.3 45.3 46.7 9.1 10.6 10.8 11.8 11.9 13.4 14.0 15.0 16.1 19.2 21.1 22.1 4.2 4.5 5.4 5.4 6.3 7.1 8.1 9.4 10.6 14.1 15.9 15.8 17.7 17.6 17.7 17.9 28.2 38.8 7.8 8.4 8.3 17.3 12.4 図4 パーム油生産量の推移(1995〜2010年)
栽培面積の変遷である。さらに、図3は一九七五年から二 〇一一年までのマレーシア、インドネシアのパーム原油生 産量の変遷、図4は一九九五年から二〇一〇年までのパー ム 原 油 生 産 量 の 変 遷 で あ る。 一 連 の 図 か ら 明 ら か な よ う に、 マ レ ー シ ア、 イ ン ド ネ シ ア の ア ブ ラ ヤ シ 栽 培 面 積、 パーム原油生産量の拡大は急速であり、この二カ国だけで 二〇一〇年で世界の栽培面積の七七%、パーム原油生産の 八五%を握っている。当初はマレーシアが栽培面積、パー ム原油生産の両分野で世界第一位であったが、栽培面積に ついては一九九七年に、パーム原油生産量については二〇 〇六年にインドネシアがマレーシアを抜いて世界第一位に なっている。では、どのような政策がこうしたアブラヤシ 栽培の急増を生んだのであろうか。
Ⅱ
イ
ン
ド
ネ
シ
ア
に
お
け
る
ア
ブ
ラ
ヤ
シ
・
ビ
ジ
ネ
ス
関
連
政
策
表1を見てもらいたい。これは一九六九年から二〇一〇 年までの所有主体別アブラヤシ栽培面積の推移である。こ こではアブラヤシ栽培地の所有者を国営企業、民間企業、 小 農 に 分 け て い る。 ス ハ ル ト 権 威 主 義 体 制 の 時 代 (一 九 六 六 〜 一 九 九 八 年) に は、 ど の 主 体 の ア ブ ラ ヤ シ 栽 培 面 積 も 拡大していることが分かる。スハルト体制下では、大規模 な土地の収容も比較的容易だった上に、農園拡大に有利な 低利融資などのスキームがあったからである。ただし、国 営企業農園の拡大はスハルト体制前期までであり、スハル ト体制後期には民営企業農園の伸びが大きい。一九八〇年 代後半から規制緩和により民間主導の経済成長が始まった 年 国営企業 民間企業 小農面積(Ha) 増加率* 面積(Ha) 増加率* 面積(Ha) 増加率*
1969 84,640 34,880 1975 120,940 42.89% 67,885 94.62% 1980 199,538 64.99% 88,847 30.88% 6,175 1985 335,195 67.99% 143,603 61.63% 118,564 1820.06% 1990 372,246 11.05% 463,096 222.48% 291,338 145.72% 1995 404,732 8.73% 961,718 107.67% 658,536 126.04% 2000 588,125 45.31% 2,403,194 149.89% 1,166,758 77.17% 2005 529,854 –9.91% 2,567,068 6.82% 2,356,895 102.00% 2010 616,575 16.37% 3,893,385 51.67% 3,314,663 40.64% 表1 所有主体別アブラヤシ栽培面積の推移と増加率 (1969〜2010年) (出所)Tungkot 2012: 20, 24 (注)*増加率は年率平均ではなく、5年ごとの増加率である
からである。また、小農の栽培面積が一九八〇年以降に急 拡 大 す る の は、 国 営 企 業 農 園 に 対 し て 中 核 農 園 シ ス テ ム (P I R) が 導 入 さ れ た か ら で あ る。 P I R の も と で は、 国営企業は、労働者がアブラヤシ栽培に従事する中核農園 を経営するだけでなく、その周辺に小農向けの農園を設け て支援することが義務付けられた。そのため、アブラヤシ 栽培をする小農が急増したのである * 1 。 一九九八年にスハルト体制が崩壊して、分権的民主主義 体制が始まっても、基本的には八〇年代以降の規制緩和路 線を継承しており、内外資本の誘致を積極的に行い、そう することで経済成長の実現を図るという姿勢に変わりはな い。いやむしろ、スハルト体制期以上に経済自由化に面舵 を切っているとも言える。約四〇年ぶりに改正された投資 法、二〇〇七年第二五号法では、国内資本と海外資本の差 別 を な く し、 す べ て の 企 業 が 事 業 権 (H G U) を 最 長 九 五 年間もの長期にわたって獲得できることになった。二〇〇 四年には、初めてプランテーション・ビジネスに関する法 律、二〇〇四年第一八号法が制定された。同法前文の注釈 に よ る と、 こ の 法 律 が 作 成 さ れ た 理 由 の 一 つ は、 「プ ラ ン テーション・ビジネスは、インドネシア経済を襲った不況 や経済危機を乗り越えた。したがって、プランテーション は、住民、民族、国家の経済を成長させるために、計画的 に、開かれた形で、統合的に、プロフェッショナルに、そ して責任を持って実施、経営、保護、利用される必要があ る」からである。そして、同法は、プランテーション企業 のHGUを三五年という長期間にわたって認め、さらに二 五年間のほぼ自動的な延長を認めている。さらに、同じ企 業が同じ用地について新規のHGUを同じ期間だけ取得す ることも認めている。 こ う し た 経 済 自 由 化 路 線 は 、 ア ブ ラ ヤ シ ・ プ ラ ン テ ー シ ョ ン 企 業 に と っ て は き わ め て 好 都 合 で あ り 、 ス ハ ル ト 体 制 期 か ら 継 続 し て 、 ア ブ ラ ヤ シ 栽 培 面 積 、 パ ー ム 原 油 生 産 量 ・ 輸 出 量 は 上 昇 を 続 け た 。 天 然 資 源 を 軸 と し た 経 済 成 長 が 進 み 、「 脱 産 業 化 」 が 進 む と い わ れ る イ ン ド ネ シ ア 経 済 を 象 徴 す る か の よ う に 、 二 〇 一 一 年 に は パ ー ム 油 関 連 輸 出 が イ ン ド ネ シ ア の 非 石 油 ・ ガ ス 部 門 の 輸 出 貿 易 品 目 で 第 一 位 を 占 め る ま で に な っ て い る ( 表 2 参 照 ) 。 イ ン ド ネ シ ア に と っ て ア ブ ラ ヤ シ は い わ ば 経 済 成 長 の 牽 引 車 で あ り 、 内 外 の 資 本 を 引 き つ け る 目 玉 品 目 で あ る 。 植 物 油 は 世 界 の 人 々 の 食 生 活 の 基 本 で あ り 、 し か も パ ー ム 油 が 他 の 植 物 油 よ り も は る か に 安 価 に 入 手 で き る と な れ ば 、 当 面 の 間 、 需 要 は 増 え る こ と は あ っ て も 減 る こ と は な い と い う 見 込 み が 立 つ 。 加えて、昨今の石油価格高騰や環境問題への関心から来 るバイオ燃料ブームもアブラヤシ・ビジネスにとっては追 い風となったかに思われた。インドネシア政府は、マレー シア政府同様、二〇〇六年になってバイオ燃料に対する関
心を強め始めた * 2 。これは、インドネシアが産油国でありな がら二〇〇四年には原油輸入国になり新たなエネルギー安 全保障政策が必要になったという理由に加え、明らかに二 〇〇七年のバリでのC O 2 排出量規制に関する国際会議CO P 13のホスト国として体裁を保つという意図もあったであ ろ う。 二 〇 〇 六 年 一 月 に は、 「国 家 エ ネ ル ギ ー 政 策 に 関 す る 二 〇 〇 六 年 第 五 号 大 統 領 令」 「代 替 燃 料 と し て の バ イ オ 燃料の準備と利用に関する二〇〇六年第一号大統領通達」 を 同 日 に 出 し た。 さ ら に、 七 月 に は い る と、 「貧 困 と 失 業 削減促進のためのバイオ燃料開発国家チームに関する二〇 〇六年第一〇号大統領決定」を出した。第五号大統領令で は、二〇二五年までに全エネルギー消費のうち五%をバイ オ燃料に依存すると決め、それを受けて、二〇〇八年には 「代 替 燃 料 と し て の バ イ オ 燃 料 準 備・ 利 用・ 流 通 に 関 す る 第 三 二 号 エ ネ ル ギ ー・ 天 然 資 源 担 当 国 務 大 臣 令」 を 出 し た。同令では、表3にあるように、バイオ・ディーゼル、 バイオ・エタノール、そしてバイオ燃料全般について二〇 二五年までに各セクター別に最低利用率の達成を義務付け た。公共輸送車両にいたっては、バイオ・ディーゼルの利 輸出品目 (億ドル)輸出額 構成比(%) 1 石炭 255 13 2 石油ガス 229 11 3 パーム油・派生物 173 8 4 原油 138 7 5 天然ゴム 118 6 6 銅鉱石 47 2 7 コプラ・パーム核油 31 2 8 石油製品 29 1 9 精錬銅 25 1 10 未精錬錫 24 1 10 大品目合計 1,069 52 全輸出 2,035 100 表2 インドネシアの10大輸出品目 (2011年度) (出所)佐藤 2013 セクター別 ディーゼルバイオ・ エタノールバイオ・ バイオ燃料全般 家計* ― ― ― 公共交通 20% 15% 産業およ び交通 産業 10% 非公共部門交通 20% 15% 産業・商業 20% 15% 海上 10% 発電 20% ― 10% 表3 各バイオ燃料利用率の2025年1月までの セクター別最低目標 (出所)「2008年代替燃料としてのバイオ燃料準備・利用・流通に関する第32号 エネルギー・天然資源担当国務大臣令」 (注)*家計部門に関しては、現在のところ目標は設定されていない
用率を二〇二五年までに二〇%にまで増加させるというき わめて野心的な内容となっている。 第一号大統領通達では、経済調整大臣、エネルギー・天 然資源担当国務大臣ほか一二人の大臣、さらには州知事や 県知事・市長に対して、バイオ燃料利用促進を指示するな ど、全国家的対応を決めた。エネルギー・天然資源担当国 務大臣には、バイオ燃料の供給と流通の確保、バイオ燃料 利用促進のための政策や価格決定などを求めている。そし て、林業大臣には、バイオ燃料発展のために非生産的な林 地の利用許可を与えるよう指示している。通達以上に拘束 力の強い第一〇号大統領決定で設けられたバイオ燃料開発 国家チームでは、貧困削減と失業者削減とも絡ませてバイ オ燃料開発の推進が目論まれている。このチームは、経済 調 整 大 臣 と 住 民 福 祉 調 整 大 臣 が 共 同 で チ ー ム 委 員 長 と な り、構成員はエネルギー・天然資源担当国務大臣をはじめ とした一二人の大臣に加え、国土庁長官、技術開発応用庁 長官、投資調整庁長官の一五人からなっている。さらに、 同チームの下に、国営電力会社監査役会会長経験のあるア ルヒラル・ハムディを長とする実務チーム、そして六つの 作業グループも結成された。第一号通達で示された以上に バイオ燃料開発に対して国家が真剣に取り組もうとしてい ることがうかがえた。 そもそもこうした国家主導のバイオ燃料政策がどこまで 正確な試算に依拠しているのか、実現可能性はあるのか、 さらには省庁横断型のチームが結成されたことで省庁間の 調整がなされる保証があるのかといった点については、過 去のインドネシアの経験を見ても大いに疑問が残った。し かし、バイオ燃料への転換が世界的なトレンドでもあり、 民 間 部 門 で も バ イ オ 燃 料 ビ ジ ネ ス に 急 速 に 関 心 が 高 ま っ た。企業連合としては、インドネシア・バイオ燃料製造者 連 合 や イ ン ド ネ シ ア・ バ イ オ・ エ タ ノ ー ル 実 業 家 連 合 (二 〇 〇 八 年 一 一 月) が 誕 生 し た。 そ し て、 早 く も 二 〇 〇 七 年 に は 一 四 の 外 資 系 企 業、 二 三 の 国 内 企 業、 一 五 の 国 有 企 業、協同組合、NGOが五八のバイオ燃料関連投資案件に ついて認可を受けた。その総額は一二四億ドルにのぼった ( Anasia 2008: 4 )。 メ ド ゥ コ・ グ ル ー プ、 シ ナ ル・ マ ス・ グループ、プトゥラ・サンプルナ・グループ、ラジャ・ガ ルーダ・マスなど、有力ビジネスグループも次々とバイオ 燃料分野への進出に関心を見せ始めた。 表4は各種の油脂からバイオ・ディーゼルを作る場合の コストを比較したものである。明らかに、パーム油がバイ オ・ディーゼルを生産するうえでコスト的には安い。バイ オ燃料ブームは、パーム油の使途の拡大につながり、アブ ラヤシ ・ ビジネスにとってはプラスとなりうる。インドネ シアにおいて国内生産できるバイオ燃料といえば、ジェト ロファやサトウキビから作られるバイオ・エタノールもあ
り得るが、生産量はまだわずかであり、今のところそれほ ど急速に成長する見込みはない。十分な生産量があり、栽 培の歴史も長いパーム油からバイオ・ディーゼルを作るこ とが合理的となる。アブラヤシの需要は食用油にとどまら ずさらに伸びることになり、いっそうの生産拡大が必要と なる。インドネシア政府は、パーム原油生産量を二〇〇八 年の一九二〇万トンから二〇二〇年には四〇〇〇万トンに ほぼ倍増することを目論んでいる。そのために単位面積あ たりの生産量を上げることに加えて、栽培面積を現在の約 七〇〇万ヘクタールから一八〇〇万ヘクタールに拡大でき る と し て い る。 結 局、 二 〇 〇 八 年 に 石 油 価 格 が 下 落 す る と、二〇〇六年の時のようなエネルギー安全保障上の危機 感は一挙に弱まって、バイオ燃料国家開発チームは解散と なった。しかし、パーム原油生産量倍増計画は生き残り、 バイオ燃料としてパーム油を使う計画も続いている。
Ⅲ
正当化
の
デ
ィ
ス
コ
ー
ス
二〇〇九年一一月九日、世界銀行総裁ロバート・ズリッ クは、IFCに対して、インドネシアのアブラヤシ ・セク ターへの融資の一時停止を命令した。それは、IFCの融 資案件であるシンガポール資本のウィルマール社のインド ネシアでのアブラヤシ ・ プランテーション開発は社会的、 環境的問題があると国際NGOが指摘したことを受けての こ と で あ っ た ( Bioenergy Business 2009. 9. 9 )。 こ の 事 件 が象徴するように、アブラヤシ ・ プランテーション開発に ついては、インドネシア各地で深刻な社会、環境問題が起 きている。インドネシア政府としても、当然、そうした諸 問題については理解しており、それを踏まえ、アブラヤシ 栽培拡大を正当化する主張を展開している。その主張を見 ていこう。 ここでは、二〇〇九年一二月一日から四日にかけて、イ ン ド ネ シ ア・ ア ブ ラ ヤ シ 企 業 連 合 ( Gabungan Pengusaha 油脂作物 単位面積当たり油脂量(t/ha) 大豆油 0.41 サンフラワー油 0.60 菜種油 1.37 ジャトロファ 1.50 パーム油 4.10 表4 油脂作物別の単位面積当たりの油脂量 (出所)アジアバイオマスエネルギー協力推進オフィス HP (http://www.asiabiomass.jp/topics/images/0911_2_1.jpg) を基に作成Kelapa Sawit Indonesia: GAPKI ) が主催した国際会議「イ ンドネシア・アブラヤシ会議と二〇一〇年の価格展望:持 続可能なパーム油開発:挑戦と好機」におけるハッタ・ラ ジャサ経済調整大臣とススウォノ農業大臣の基調講演から インドネシア政府の主張を見ていく。ハッタ・ラジャサは ユ ド ヨ ノ 政 権 で 連 立 の 一 翼 を な す 国 民 信 託 党 幹 部 (現 党 首) で あ り、 そ の 政 治 調 整 能 力 の 高 さ か ら ユ ド ヨ ノ の 高 い 信頼を勝ち得ている人物である。ススウォノはユドヨノ政 権で同じく連立に入っているイスラーム主義政党、福祉正 義党の幹部である。 ハッタ・ラジャサは、パーム油ビジネスは、食用油、オ レオケミカル関連製品、そしてバイオ燃料として現実的に 好機にあるという。その一方で、アブラヤシの持続的発展 可能性をどう実現するのか、そして、パーム油の食糧利用 と燃料利用との均衡をどう保つのかという二点を重要な課 題 と し て あ げ て い る。 前 者 に つ い て は、 「持 続 的 な パ ー ム 油 に 関 す る 円 卓 会 議」 ( Roundtable on Sustainable Palm Oil: RSPO ) が 定 め た 基 準 に 従 う こ と が 重 要 で あ る と し た (RSPOについては後述) 。 ハッタ・ラジャサの取り上げた重要な課題のうち、後者 の 食 糧 か 燃 料 か と い う 課 題 に は 直 接 対 策 を 述 べ る こ と な く、代わりにインドネシアにとってアブラヤシ・ビジネス は次の五つの点で貢献してきている点を強調した。一つ目 は、雇用機会創出、貧困削減である。第一〇号大統領決定 で発足した国家チームの目的も貧困と失業削減であるよう に、この分野でのアブラヤシ・ビジネスの貢献はインドネ シア政府にとってはきわめて重要である。インドネシア政 府高官がアブラヤシについて語るときには必ず言及する。 そ し て、 三 五 〇 万 人 が 小 農 と し て、 ア ブ ラ ヤ シ・ プ ラ ン テーション労働者として働いており、とりわけ農村部にお ける雇用創出に貢献していることを強調する * 3 。また、二つ 目の貢献として、地域経済の活性化をあげている。アブラ ヤシ・プランテーションが作られれば、パーム原油加工工 場 も 当 然 に 必 要 と な り、 経 済 活 性 化 に つ な が る だ け で な く、農村部でアブラヤシ・プランテーションが開かれるこ とで、道路建設などインフラ整備が進み、近隣住民にも裨 益効果があることもポジティブな貢献になるからである。 三つ目は、貿易黒字である。先述の通り、非石油・ガス品 目では最大の輸出品目であり、二〇〇八年には一二四億ド ルの外貨を稼ぎ出している。四つ目は、健康的かつ低コス ト 基 礎 食 品 (植 物 油、 加 工 食 品 材 料) を 国 民 に 提 供 し て い ることである。パーム油には悪玉コレステロールを増加さ せるトランス脂肪酸が含まれないことから健康的というこ とのようである。また、はじめに触れたように、他の植物 油脂と比べると明らかに安価で生産できる。それゆえ、中 国、インドといった大人口を抱える途上国での消費量が圧
倒的に高くなっている。最後に、バイオ燃料として競争力 の あ る 原 料 と し て 有 望 だ と い う こ と で あ る 。 こ れ は 前 述 の 通 り で あ る 。 ススウォノ農業大臣は、ハッタ・ラジャサ同様、アブラ ヤシの将来性を強調しながら、環境系NGOなどのアブラ ヤシ・プランテーション拡大への批判にも対抗言説を展開 している。すなわち、アブラヤシ・プランテーションの拡 大が森林伐採を引き起こし、希少種の絶滅をもたらし、 C O 2 排出と地球温暖化の主要な責任者であるということへの 反 論 を 展 開 し た。 ス ス ウ ォ ノ に よ れ ば、 一・ 三 三 億 ヘ ク タールの森林のうち、インドネシア政府は二一〇〇万ヘク タールを保護林として指定することで、野生動物の自由な 生息を許し、生物多様性も保持できるとしている * 4 。また、 イ ン ド ネ シ ア の 法 律 で は、 転 用 可 能 生 産 林 ( Hutan Produksi yang dapat dikonversi ) のみがアブラヤシ・プラ ンテーションへの転用可能な森林であるとする。そして、 およそ七〇〇万ヘクタールのアブラヤシ・プランテーショ ン用地のうち、三八〇万ヘクタールがそうした転用による もので、残りのプランテーション用地は国家が自由に処分 で き る 国 有 地 ( Tanah negara bebas ) 、 他 目 的 の 土 地、 部 族 ( tribe ) の 土 地 で あ り、 保 護 林 や 保 安 林 を 伐 採 し て い な いと主張する。現在のアブラヤシ・プランテーション拡大 の 問 題 は、 違 法 に 保 護 林 や 保 安 林 を 伐 採 し て プ ラ ン テ ー ションを拡大していることだけではなく、慣習法上の土地 が制定法上の根拠がないゆえに簡単にプランテーション化 されていることにもある。この点については、農相は十分 に答えているとは言えない。 さらに、農相はインドネシアのアブラヤシ・プランテー ション、とりわけ転用可能林からのプランテーションは、 もともと森林伐採が進んでいた林地を利用しており、アブ ラヤシを植えることで炭素貯蔵効果があり、温室効果ガス の排出を阻止しているとまで述べている。また、泥炭湿地 林でのアブラヤシ栽培について批判が上がっていることに ついては、農業大臣決定で規制をかけているとした * 5 。その 規制の中心ポイントは、深さが三メートルを超える泥炭層 ではプランテーション開発を認めないというものである。 しかし、この三メートルの根拠ははっきりしておらず、泥 炭層保全の観点からではなく、三メートル以上の泥炭層で はアブラヤシが生育しにくいからにすぎないとも言われて いる。 また、国際社会が地球温暖化対策として温室効果ガス削 減に努めていることを評価しながらも、それが現在の貿易 障壁をさらに高めることがないように釘を刺した。この最 後 の 発 言 は、 E U が 二 〇 〇 八 年 一 二 月 に 再 生 可 能 エ ネ ル ギー促進指令を出し、その規定の一つに、ライフサイクル の温室効果ガス排出量が化石燃料の排出量より三五%削減
される燃料しか再生可能バイオ燃料として認めないという 規定があることを受けてのものである。パーム原油製造過 程で発生するメタン回収をする設備があれば五一%の削減 率となるが、その設備がない場合には一六%の削減率にし かならず、インドネシアのパーム原油加工工場の多くはそ うした設備がない。農相は、その結果としてインドネシア のパーム原油がEUのバイオ・ディーゼル市場に食い込む ことが困難になっていることを批判しているのである。マ レ ー シ ア の パ ー ム 油 連 合 (M P O A) や G A P K I は こ の E U の 方 針 に 対 し て、 E U 域 内 で 生 産 で き る バ イ オ・ ディーゼルの原料である菜種油関連企業の保護政策である という批判を展開しており、インドネシア政府もこの見解 を踏襲していると言える * 6 。
Ⅳ
林
地
と
し
て
の
ア
ブ
ラ
ヤ
シ
・
プ
ラ
ン
テ
ー
シ
ョ
ン
へ
二〇〇九年にはいると、新たな正当化論理も出てきた。 アブラヤシ・プランテーションを林地に位置付けようとい う主張である * 7 。その動きが最初に表面化したのは、EUに おいてであった。二〇〇九年二月の欧州委員会と欧州議会 向 け の 欧 州 理 事 会 の 通 達 案 が、 「継 続 的 に 林 の あ る 地 帯」 ( Continuously Forested Area ) の 定 義 と し て、 「樹 木 が 最 低でも五メートルの高さに達しているか、達することが可 能で、樹幹の投影面積が林地の三〇%以上である地帯」と したのである。そして、一般的には、自然林、森林プラン テ ー シ ョ ン、 ア ブ ラ ヤ シ な ど の そ の 他 の 林 の プ ラ ン テ ー シ ョ ン を 含 む と し て い る ( European Commission 2009 ) 。 したがって、森林からアブラヤシ・プランテーションへの 変更は、それ自体では、EU指令の定める基準に反したこ とにはならない、とした。温室効果ガス排出削減率を理由 として、パーム油をバイオ燃料市場から閉め出そうという 動きとは正反対の動きである。欧州委員会がこのような通 達案を出したのは、パーム油の利益団体であるインドネシ アのGAPKI、そしてマレーシアのMPOAが使節団を 派 遣 し て ロ ビ ー 活 動 を 行 っ た 成 果 の 可 能 性 が 高 い ( Butler 2009 ) 。 アブラヤシ・プランテーションを林地に含めようとする 動きは、EUにとどまらず、パーム油の最大生産国たるイ ンドネシアでも起きている。おそらく、欧州委員会の時と 同様に、GAPKIのロビー活動があったのであろう。二 〇一〇年には、林業省がアブラヤシ・プランテーションを 林地と指定する省令を準備しており、それに農業省も同意 したとの情報が流れた ( Kontan Online 2010. 2. 9: AM1 0:2 3 ;2010. 2. 11: AM10:00 ; Tempo Interaktif 2010. 3. 1: AM07:04
)
同省令案を準備したのは、林産物育成総局であった。同総 局 長 の ハ デ ィ・ デ ィ ル ヤ ン ト は、 「こ の 規 定 に よ っ て、 森 林セクターへの投資を推し進めて投資額を引き上げること になるだろう。統計庁がアブラヤシからの産品を農業セク ターに位置付けていても問題はない」と述べた。さらに、 ハディは、インドネシア政府がプランテーションと森林を 二分法的に位置付けて別々に扱うのはとても奇妙であると した。アフマド・マンガバラニ農業省プランテーション総 局長は、まずは森林空間計画が明確でなければいけないと しながらも、こうした規定変更により、アブラヤシ・プラ ンテーション部門への投資が一層拡大するであろうと述べ ており、ハディもマンガバラニも経済的観点からアブラヤ シ・プランテーションを林地と位置付けることに合意して いる。 ハディは、この省令案での「林地」の定義は、国際連合 食 糧 農 業 機 関 (F A O) の 定 義 * 8 に 従 っ て お り、 マ レ ー シ ア でもすでにこの定義に従ってアブラヤシ・プランテーショ ンを森林セクターに位置付けていることにも言及して、同 省 令 案 を 正 当 化 し た。 同 省 の 森 林 調 査 開 発 庁 長 官 タ フ リ ル・ファトニは、 「こうした規定変更をするのは、 『森林減 少・ 劣 化 か ら の 温 室 効 果 ガ ス 排 出 削 減 プ ロ ジ ェ ク ト 』 (R E D D) を 見 越 し て の こ と で あ る」 と 指 摘 し た。 森 林 の 定 義は各国の裁量により定めることができ、アブラヤシ・プ ラ ン テ ー シ ョ ン を 林 地 に 位 置 付 け る こ と で、 よ り 多 く の カーボン・クレジットを獲得できるようになるという判断 がある。アブラヤシ・プランテーションを林地の一部とす ることで、アブラヤシ・プランテーション拡大が森林伐採 に つ な が っ て い る と の 批 判 を か わ す だ け で な く、 カ ー ボ ン・クレジットまで獲得しようという、いわば一石二鳥の 作戦を打ち出したことになる。 具体的には、アブラヤシ・プランテーションを産業用人 工 林 ( Hutan Tanaman Industri: HTI ) と し て 位 置 付 け、 プランテーション企業にHGUを与えることである。ゾー ニングを行い、アブラヤシを植えることができるのは用地 の七割として、残りの用地を地域住民用森林に確保するこ とを義務付けるというものである。新規にプランテーショ ン化する場合または再植林する場合にこの規定を適用する とした。ハディによれば、こうしたゾーニングを通して環 境 保 全 と 動 物 保 護 の た め の 保 護 地 区 が 設 け ら れ る こ と に よって、環境保全の考え方がより効果的に反映されること になるとして、この省令案を正当化している。事業用地の 三割をプランテーション化しないことで生物多様性も確保 できるということのようである。 その後、この省令案に対して強い批判がNGOから巻き 起 こ っ た (た と え ば、 一 〇 の 国 際 環 境 系 N G O の 連 合 体 で あるエコシステム気候連合〈 Ecosystems Climate Alliance 〉
やインドネシア国内の農地改革コンソーシアム 〈 Konsorsium Pembaruan Agraria 〉 な ど) 。 そ の た め、 い っ た ん は 二 〇 一一年第六二号林業省大臣令として施行されたものの、同 年九月に撤回された。 この省令案実現失敗に続いて、アブラヤシ農園拡大支持 派を悩ませたのは、ノルウェー政府の提案であった。同政 府は、二〇一〇年五月、ユドヨノ大統領に対し、REDD +についての覚え書きを交わす代わりに一〇億円の無償支 援を申し出たのである。二〇一一年一月にこの覚え書きに 沿って森林伐採が禁止されるようになれば、アブラヤシ農 園企業は新規農園開拓が不可能となる。そのため、企業側 からは強い不満があがった。結局、この覚え書きが施行さ れ る 一 方 で、 抜 け 道 も で き た。 荒 廃 地 ( tanah terlantar ) である。林業大臣は、一次林の伐採は禁止するが、農園企 業は一次林を用地転用して伐採するのではなく、七〇〇万 ヘクタールほど存在する荒廃地を農園にしたらよいと述べ た ( Kontan Online 2010. 5. 11: PM18:23 ) 。二〇一一年一月 に大統領指令二〇一一年第一一号が施行されて、荒廃地の 定義が示され、アブラヤシ農園新規開拓が完全に停止する ような事態にはならなかった。
Ⅴ
NGO
へ
の
反論
インドネシア政府がアブラヤシ関連政策の正当性、無謬 性を主張したとしても、さまざまなステークホールダーか ら強い批判が続いていることは事実である * 9 。たとえば、国 際NGOのグリーンピースや国内NGOのワルヒなどから は、アブラヤシ・プランテーション拡大が森林面積の減少 をもたらしており、その結果として、生物の多様性を失わ せ、オランウータンなどの希少動植物が絶滅の危機にさら されていること、また、森林伐採、とりわけ泥炭湿地林で の伐採の過程で発生する温室効果ガスの発生も問題視され ている。社会経済的には、慣習法上所有していた土地にア ブラヤシ・プランテーションが拡大し続けていることも大 きな問題である。実定法的には慣習法上の土地は所有権が 不明瞭であることが多く、プランテーション企業は実定法 上の手続きにのっとって土地の利用権を獲得できてしまう ことがある。また、プランテーション企業が地元の役人や 慣習共同体のリーダーを買収して土地を取得しているとい う 話 も あ る。 ど ち ら の 場 合 で も、 企 業 対 地 元 住 民 (+ N G O) と い う 構 図 の 土 地 紛 争 と な る。 そ の 数 は 増 え 続 け て お り、アブラヤシ・プランテーション問題に取り組む最有力の 国 内 N G O サ ウ ィ ッ ト・ ウ ォ ッ チ ( Sawit Watch ) の 報 告では、二〇〇三年の一一四件から二〇〇七年には五一三 件 と な り、 二 〇 一 一 年 一 二 月 ま で に 六 六 三 件 を 数 え て い る。 N G O な ど か ら の ア ブ ラ ヤ シ 行 政 に 対 す る 批 判 に 対 し て、インドネシア農業省が反論に持ち出す理由の一つは、 地方分権化である * 10 。二〇〇一年に始まった地方分権化によ り、プランテーションについての権限の多くも自治体に委 譲 さ れ た た め に、 プ ラ ン テ ー シ ョ ン 総 局 が い く ら「健 全 な」アブラヤシ政策を展開しても自治体が換骨奪胎してし まい、アブラヤシ・プランテーションの拡大が環境破壊、 森林伐採を伴ってしまっているという。地方分権化によっ て、広域自治体である州よりも、とりわけ基礎自治体であ る県・市がプランテーションについても広範な権限を獲得 したことは事実である。ある企業が二五ヘクタール以上の プランテーションを開く際に必要な許可を例に考えてみよ う。 用 地 適 性 確 認 ( Pencadangan Lahan ) : 企 業 が 農 地 と し て 適 切 か ど う か を 調 べ る た め に 必 要 な 許 可 (半 年 間、 三 ヶ 月 延 長 可) : 一 県・ 市 内 な ら 県 知 事・ 市 長、 複 数 県・市にまたがるなら州知事の許可が必要。 用 地 取 得 許 可 ( Izin Lokasi * 11 ) : 企 業 が そ の 土 地 を 開 発 す る 際 に 取 得 す べ き 許 可 (二 五 ヘ ク タ ー ル 以 上 五 〇 ヘ ク タール以下なら二年以内、五〇ヘクタール以上なら三年 以内に土地買収終了義務あり〈五割以上買収済みなら延 長可 〉) :県知事・市長からの許可が必要。 プ ラ ン テ ー シ ョ ン 事 業 許 可 ( I U P 、 I U P ― B 、 I U P ― P * 12 ) : 企 業 が 土 地 を プ ラ ン テ ー シ ョ ン と し て 開 発 す る ための許可:一県・市内なら県知事・市長、複数県・ 市にまたがるなら州知事の許可が必要。IUPは二五 ヘクタール以上のプランテーションを持ち、ヤシ果房 ( Tandan Buah Segar: TBS ) を 一 時 間 に 五 ト ン 以 上 処 理できる加工工場を持つことを計画している企業が申 請 す る 許 可、 I U P ― B は、 二 五 ヘ ク タ ー ル 以 上 一 〇 〇〇ヘクタール以下のプランテーションを所有する計 画があって加工工場を持つ計画のない企業が申請する 許 可 で あ る、 I U P ― P は、 T B S を 一 時 間 に 五 ト ン 以上処理できる加工工場を持つことを計画している企 業が申請する許可で、同企業は同工場の原料の二割を 自らの農園で調達する義務がある。 事 業 権 ( Hak Guna Usaha: HGU ) : 二 〇 〇 七 年 新 投 資 法 では外資、国内資本を問わず九五年間:国土庁支局長 を通じて国土庁長官の許可が必要。 ここから明らかなように、HGUをのぞけば、一つの県 あるいは市のなかにプランテーションがあれば、基本的に 県知事、市長から許可をもらえればプランテーション経営
が可能なのである。さまざまな許可を取得するに当たって は、手っ取り早く金で解決することも多いと聞く。たとえ ば、南スマトラ州での話では、用地取得許可を進めるに当 たっては、一ヘクタールあたり郡長に一〇〇万ルピア、村 長に二五万ルピアを支払うことで郡長、村長それぞれから 用地取得に必要な土地証明などを強引に獲得して、期限内 に 用 地 買 収 を 終 わ ら せ る よ う に し、 H G U を 取 得 す る に は、企業側は国土庁支所に五億ルピアを支払っていると言 われている * 13 。 また、プランテーション企業側は、プランテーション事 業許可を得るに当たっては、第三者による環境アセスメン トを行うことが義務づけられている。それも、第三者が客 観的にアセスメントを行っているのかどうか、仮に行って いたとして問題がある場合に、それを関係部局に報告する のかどうか、報告を受けた関係部局がまともに対応するの かどうかは疑わしい。他にも、自治体のアブラヤシ・プラ ンテーション関連部局が、プランテーション企業が用地取 得を認められた域内で活動をしているのかどうかをきちん と監視しているのか、あるいは違法性が発覚したときに制 裁 を 課 し て い る か ど う か に つ い て も 疑 わ し い と こ ろ が あ る。それは企業側の贈賄というより、自治体の関連部局の 人材の質的・量的不足によるところも大きいであろう。多 くの場合、広大なプランテーションの監督を任されている 自治体公務員数は非常に少ない。 さらに重要なことは、自治体レベルでもアブラヤシ・プ ランテーション拡大正当化のディスコースが着々と作り上 げられていることである。たとえば、南スマトラ州の場合 だと、政官財学からなる南スマトラ州プランテーション合 同 フ ォ ー ラ ム ( Forum Bersama Perkebunan Provinsi Sumatra Selatan ) が で き て お り、 闇 雲 な ア ブ ラ ヤ シ・ プ ラ ン テ ー ション拡大を正当化するようなディスコースが知的ヘゲモ ニ ー を 握 っ て お り、 対 抗 言 説 は き わ め て 周 辺 化 さ れ て し まっているという。加えて、八〇年代、九〇年代に法律扶 助 協 会 (L B H) な ど、 弱 者 の 側 に 立 っ て い た N G O で 働 いていた学生活動家や学生上がりの活動家たちも、壮年を 迎えて生計を立てる必要が高まったことから、プランテー ション企業のコンサルタントに変貌してしまっており、ア ブラヤシ・プランテーション拡大を批判的に捉えて、諸問 題を自治体、中央政府、そして国際社会に訴える勢力は、 地 元 に は 学 生 を 中 心 と し た 青 年 た ち し か い な い と い っ て よい * 14 。 地域住民に目を向けてみると、国際NGOや地元NGO が主張するように、すべての住民が土地問題などで被害を 被っているわけではない。むしろ、アブラヤシ栽培の拡大 で恩恵を受けている家庭も多く、彼らがアブラヤシ栽培拡 大支持の声を支えている。たとえば、南スマトラ州ムシ・
バニュアシン県 ( Kabupaten Musi Banyuasin ) バユン・リ ン チ ル 郡 ( Kecamatan Bayung Lincir ) の シ ナ ル・ ハ ラ パ ン 村 ( Desa Sinar Harapan ) の 事 例 を 考 え て み た い * 15 。 政 府 の国内移民政策により、一九八三年にジャワ人やスンダ人 の移民が現在のシナル・ハラパン村に当たる地域に住み始 め た。 当 初 は 四 五 〇 世 帯 が 居 住 し て お り、 一 世 帯 あ た り 一・七五ヘクタールの土地が与えられていた。一九八六年 になって集落から村に昇格してシナル・ハラパン村となっ た。 そ の 頃 は、 す べ て の 世 帯 の 生 活 は パ ラ ウ ィ ジ ャ (米 以 外 の 大 豆、 ト ウ モ ロ コ シ お よ び ラ ッ カ セ イ な ど の 食 用 作 物 の 総 称) を 中 心 と し た も の で 非 常 に 苦 し か っ た と い う。 そ れ ゆえ、多くのスンダ人が去っていった。一九八〇年代は村 にはバイクは一台もなく、村への道も整備されておらず車 が入ることができなかった。一九九〇年代に入っても状況 はさほど変わらず、バイクは村に数台に増えたものの、相 変わらず車は入ることができなかった。シナル・ハラパン 村のこうした状況が一変したのは、二〇〇五年にブルカッ ト・ サ ウ ィ ッ ト・ ス ジ ャ テ ィ 社 ( PT. Berkat Sawit Sejati: BSS ) が ア ブ ラ ヤ シ・ プ ラ ン テ ー シ ョ ン 開 発 を 始 め て か ら であった。 B S S 社 は 強 引 な 土 地 取 得 で プ ラ ン テ ー シ ョ ン 開 発 を 行って、現在まで続く土地問題を引き起こした一方で、B SS社の契約農民になったもののなかには急速に裕福にな るものが生まれ始めた。二〇〇七年に果房が一キロあたり 二一〇〇ルピアに高騰すると村の生活は大きく変わったの である。その恩恵にあずかった者は、八〇年代から九〇年 代にかけて貧困に耐えられずに同村を離れた世帯の農地を 次々と取得し、その農地をアブラヤシ・プランテーション にして果房をBSS社に売ったのである。その結果、バイ クの数は急増し、一家に二台所有する世帯も現れ、二〇〇 八年にはアスファルト舗装の道路が村まで通るようになっ た。農業指導員のS氏もそうして成功した人物の一人であ る。 S氏は小学校教員の妻と四人の子どもがいる。彼は農地 取得を重ねて今では一〇ヘクタールのプランテーションを 所有しており、BSS社の契約農民を辞めてヒンドリ社の 契約農民となっている。二〇〇七年に果房が急騰したとき には、二ヘクタールからの純益が一ヶ月で五〇〇 〜 六〇〇 万ルピアになり、生活はおおいに潤った。自宅を改築し、 南スマトラ州の州都パレンバンにいる三人の子どもたちに 仕送りもしている。二〇〇九年八月段階の月額支出は一五 〇 〇 万 ル ピ ア (内 訳: 借 金 返 済 七 〇 〇 万 ル ピ ア〈自 宅 改 築 ロ ー ン: 二 〇 〇 万 ル ピ ア、 農 地 取 得 費: 五 〇 〇 万 ル ピ ア 〉、 生 活 費 三 〇 〇 万 ル ピ ア、 仕 送 り 五 〇 〇 万 ル ピ ア〈パ レ ン バ ン に い る 三 人 の 子 ど も た ち 〉) と な っ て お り、 世 界 市 場 で の パーム油価格の乱高下でもそれだけは稼げているという。
二〇〇八年にはパーム油価格の急落で、アブラヤシ・プ ラ ン テ ー シ ョ ン 企 業 と は 契 約 を 結 ん で い な い 独 立 プ ラ ン テーション経営者のなかには大打撃を被ったものも出てお り、すべてのアブラヤシ経営世帯が豊かになってきている わ け で は な い * 16 ( Tempo 2008. 9. 21: 94-95 ; 2008. 11. 16: 92-93 ; 2008. 12. 7: 68-70 ; Gatra 2008. 10. 29: 72-74 ) 。むしろ、価格 の乱高下のなかで成功する者と失敗する者が現れ、貧富の 格差が拡大してきている。そこで発言力を持つのは成功し た者であり、彼らにとってアブラヤシ・プランテーション 拡大は望ましい事実である。 炭 素 排 出 や 生 物 多 様 性 減 少 と い っ た 環 境 問 題 や 土 地 紛 争、あるいは新たな貧富の格差拡大といった社会経済問題 が あ る に せ よ、 地 方 で は 政 官 財 学 界 が お お よ そ ア ブ ラ ヤ シ・プランテーション拡大に与している。地域社会でも土 地紛争の被害者をのぞけばアブラヤシ・プランテーション 拡 大 に 反 対 す る 声 が 弱 い な か で、 保 護 林 地 区 や (三 メ ー ト ル を 超 す) 泥 炭 湿 地 に お け る ア ブ ラ ヤ シ・ プ ラ ン テ ー シ ョ ンの展開など、違法なプランテーションの拡大が止まらな い。国家にはこうした問題に対処できていないことへの不 満もあり、先述のRSPOという国際協調スキームが誕生 した。RSPOは、認証制度を導入して市場の論理に基づ いて持続可能なアブラヤシ栽培を実現しようという試みと して関心が高まっている。
Ⅵ
RSPO、
そ
し
て
ISPO
RSPOは、WWFがアブラヤシ・プランテーションの 拡大が深刻な環境問題、社会経済問題を引き起こしている ことを憂慮し、二〇〇一年にステークホールダー参加型の フォーラムを結成しようとしたことから始まった。二〇〇 二年にアブラヤシ企業やMPOAが参加する二回の会議を 経て、二〇〇三年マレーシアのクアラルンプールで発足会 議が行われた。そして、二〇〇四年にスイスのチューリッ ヒ に 本 部 を 置 い て 正 式 に 発 足 し た * 17 。 事 務 局 が ク ア ラ ル ン プールにあり、連絡事務所がジャカルタにある。二〇一二 年一月現在、会員数は五〇カ国から一〇八八を数える。そ の 一 四 % は イ ン ド ネ シ ア の 会 員 で あ る * 18 。 会 員 に は、 正 会 員、 サ プ ラ イ・ チ ェ ー ン 会 員 (五 〇 〇 ト ン 以 下 の パ ー ム 油 を 扱 う サ プ ラ イ ・ チ ェ ー ン ビ ジ ネ ス 関 係 者) 、 賛 助 会 員 の 三 種類があり、次の七分野に関係しているものが正会員にな る。アブラヤシ栽培業、パーム油加工・貿易業、消費財製 造業、小売業、銀行・投資家、環境・自然保護系NGO、 社会問題・開発問題系NGOの各分野である。国家の関与 が見られず、参加も自主的である点が特徴である。 R S P O は、 「サ プ ラ イ・ チ ェ ー ン で の ス テ ー ク ホ ー ルダー間の協力と開かれた対話を通じて、持続可能なパーム 油の発展と利用を促進すること」を目的としており、その 最大の特徴が認証制度の導入である。今のところ、RSP O 認 証 を 受 け た パ ー ム 油 生 産 能 力 は、 世 界 で 生 産 さ れ る パーム油の一四%に相当し、その生産能力のうち四六%が インドネシアにある。世界的にも認証パーム油への関心は 少しずつ高まってきている。 とはいえ、インドネシア政府や企業の間からは、RSP Oにおける国際環境系NGOの影響力が強いうえに、RS POの認証を受けたパーム油に高い付加価値がつかないこ とに不満がある。また、先述のEUだけでなく、アメリカ もバイオ燃料として使用するパーム油については環境基準 を持ちだして輸入規制を強めていることにも不満がある。 もっといえば、アブラヤシ栽培面積、パーム油生産量のど ちらをとってもインドネシアは世界第一位であるにもかか わらず発言権が弱く、西側諸国主導で規制がなされている ことに反発が強まっていた。二〇一一年三月、こうした不 満なり反発が乗じて、インドネシア政府は国内法に従った 独 自 の ス キ ー ム、 「イ ン ド ネ シ ア の 持 続 可 能 な パ ー ム 油」 ( Indonesian Sustainable Palm Oil: ISPO ) を 発 足 さ せ た。 ISPO委員会常任委員長ルスディアナは、最大のパーム 油生産国として、インドネシアは他国にコントロールされ てはならない、インドネシアが他国の基準に従うのは不幸 で あ る と、 大 国 意 識 を 強 く に じ ま せ た 発 言 を し て い る ( media perkebunan 2013: 14 ) 。 インドネシア政府は、既存の国内法を順守すれば十分に 持続可能なパーム油生産が可能であるとし、少なくともイ ンドネシアのアブラヤシなりパーム油についてはインドネ シア政府が認証制度を作っていくという立場である。RS P O の よ う な マ ー ケ ッ ト 主 導 で 自 主 参 加 型 の 認 証 で は な く、ISPOは国内でアブラヤシに関わるすべてのステー クホールダーの参加が義務付けられており、国家主導の認 証 制 度 と な っ て い る。 「持 続 可 能 な パ ー ム 油」 に つ い て 二 つの解釈が誕生したことになる。ススウォノ農業大臣は、 二〇一四年にはインドネシア国内の農園すべてがISPO 認証を受けるようにするという強気の発言をしているが、 小農も含めれば到底不可能である。
お
わ
り
に
もともと食用油以外にも多様な用途のあったパーム油が バイオ燃料としても脚光を浴びるなかで、アブラヤシ栽培 にさらに拍車が掛かることになっている。パーム油は低価 格な食用油を提供できるという意味で食糧安全保障の観点 から重要なだけでなく、バイオ・ディーゼルの原料としてエネルギー安全保障上も重要性がある。さらに、インドネ シア政府は、パーム油を利用して脱産業化からの脱却も試 み始めた。二〇〇六年以降、パーム油を軸とした産業クラ スターを育成することで製造業の活性化を図ろうとしてい るのである。二〇一一年には、再び国家主導の経済成長戦 略 を 始 め る か の よ う に、 二 〇 二 五 年 ま で の「経 済 開 発 拡 大・加速マスタープラン」を作り、雇用と付加価値の創出 を目論んだ介入主義的政策が始まった。六つの経済回廊を 設 け、 ス マ ト ラ 回 廊 に つ い て は ア ブ ラ ヤ シ を 主 要 産 品 と し、北スマトラのセイ・マンケをアブラヤシの川下部門ビ ジネスの中心地帯にすることを目論んでいる。さらに、同 年八月にはパーム原油への輸出関税率をあげて、川下産業 ほど輸出に有利な関税政策を設けてパーム油を軸とした製 造業の活性化を目指している * 19 。 アブラヤシによる成長戦略に加えて、インドネシア政府 はISPOという認証スキームを作り、国家主導で「環境 にやさしい」アブラヤシ栽培の実現を目指している。IS PO発足経緯を見れば、明らかに西側主導のRSPOに対 する反発と世界最大のアブラヤシ栽培面積とパーム原油生 産量への自負とがない混ぜになった動機がちらつく。それ とは別に、二〇一三年六月、RSPOの進展さえも不十分 だと感じる熱帯林行動ネットワークやグリーンピースなど の環境系NGOが、RSPO以上の環境基準を満たすアブ ラ ヤ シ 農 園 経 営 の 実 現 を 目 指 し て、 「パ ー ム 油 刷 新 グ ル ー プ」 ( Palm Oil Innovation Group ) な る ネ ッ ト ワ ー ク を 作 り上げた。環境主義的「持続可能なパーム油」の実現を目 指している。あるいは、マレーシア政府は、マレーシア版 I S P O、 「マ レ ー シ ア 持 続 可 能 な パ ー ム 油」 (M S P O) を作り上げようとしている。 パ ー ム 油 を バ イ オ 燃 料 と し て 使 う 場 合 に は 、 E U で も 認 め ら れ た 認 証 ス キ ー ム で あ る 「 持 続 可 能 な バ イ オ 燃 料 の た め の 円 卓 会 議 」 ( Roundtable on Sustainable Bioenergy ) や 「 国 際 的 持 続 可 能 な カ ー ボ ン 認 証 」 ( International Sustainable Certified Carbon ) な ど も 存 在 す る。 い わ ば、 さ ま ざ ま な アクターとアクター間をつなぐネットワークが「正しい」 「環 境 に や さ し い」 パ ー ム 油 を め ぐ っ て 覇 権 争 い を し て い る状況である。この争いが建設的な方向に進むことを望む が、今のところ、その行方は分からない。 仮 に 持 続 可 能 性 ス キ ー ム が 定 着 し た と し て も 問 題 は 残 る。アブラヤシ・ブームに乗って、モノカルチャー栽培を 続けることの危険である。モノカルチャー栽培が生物多様 性を減少させるというだけではない。一次産品の常として 価格の急落があることに加えて、パーム油の生産拡大が続 けば、いずれはパーム油価格が頭打ちし、下落する可能性 もある。価格崩壊が起きたとき、生態系も含めた地域社会 への影響は深刻なものとなる。インドネシアの場合であれ
ば、急速に増えている小農園経営者たちが路頭に迷う可能 性が高い。彼らは、アブラヤシに特化した農業経営ではな く、ゴムやその他の作物を栽培するような経営の多角化を 図っていくことがよいのかもしれない。そうすれば、仮に アブラヤシに変わるバイオ燃料の登場などでアブラヤシ栽 培のブームが過ぎ去っても地域社会が崩壊しない強靱性を 持つことができるであろう。アブラヤシ栽培がグローバル に拡大している以上、土地問題、環境問題が起きている局 所的なアブラヤシ栽培地帯だけに目を配るのではなく、モ ノカルチャーなアブラヤシ栽培地帯であればどこでも抱え るこうした構造的脆弱性にも目を向けた政策の必要性が高 い。それは、アブラヤシなしの地域社会でも、アブラヤシ だけの地域社会でもない、アブラヤシもある地域社会をつ くり上げることである。 ◉注 * 1 ス ハ ル ト 体 制 時 代 か ら 現 在 ま で の ア ブ ラ ヤ シ 関 連 政 策 の 概略については、 Tungkot ( 2012: 19-29 )参照。 * 2 マ レ ー シ ア の バ イ オ 燃 料 政 策 に つ い て は、 岩 佐(二 〇 〇 八)参照。 * 3 た と え ば、 二 〇 〇 九 年 八 月 の「持 続 可 能 な パ ー ム 油」 に つ い て の R S P O の パ ブ リ ッ ク・ フ ォ ー ラ ム で の 農 業 省 農 園 局高官のプレゼンテーション。 * 4 た だ し、 林 業 省 の 計 算 で も イ ン ド ネ シ ア 全 体 の 森 林 面 積 に つ い て は、 二 〇 〇 七 年 末 ま で 一 億 二 〇 〇 〇 万 ヘ ク タ ー ル か 一 億 三 三 〇 〇 万 ヘ ク タ ー ル か で 分 か れ て い る( Departemen Kehutanan 2008: 14-15 )。 林 業 省 と リ ア ウ 州、 リ ア ウ 島 嶼 部 州、 中 カ リ マ ン タ ン 州 政 府 と の 間 で 林 地 面 積 に つ い て の 合 意 が な さ れ て い な い か ら で あ る。 ま た、 林 業 省 の 二 〇 〇 七 年 統 計 に よ れ ば、 陸 地 部 分 の 保 護 林 面 積 は 一 九 九 〇 万 ヘ ク タ ー ル となっており、農業大臣の面積と異なっている。 * 5 「ア ブ ラ ヤ シ 栽 培 の た め の 泥 炭 湿 地 利 用 の た め の 農 業 大 臣 令 二 〇 〇 九 年 第 二 四 号」 で あ り、 泥 炭 層 が 三 メ ー ト ル 以 下 な ど 五 つ の 条 件 を 満 た し た 泥 炭 湿 地 林 で の み ア ブ ラ ヤ シ 栽 培 を認めており、この基準はRSPOの基準ともなっている。 * 6 二 〇 〇 九 年 一 一 月 に 開 催 さ れ た R S P O 第 七 回 会 合 で も こ の E U 指 令 に 従 う よ う な 原 則 と 基 準 を 含 め る こ と に 合 意 し た 。 M P O A と G A P K I は こ の 原 則 と 基 準 は 自 主 的 に 遵 守 す べ き も の と し て 受 け 入 れ た 。 た だ し 、 E U も パ ー ム 油 を 植 物 油 として輸入する場合にはEU指令を適用するわけではない。 * 7 ス ハ ル ト 政 権 崩 壊 直 後 に 大 統 領 に 就 任 し た ハ ビ ビ の も と で も 一 度 は そ う し た 動 き が あ り、 農 業 省 下 に あ っ た 農 園 総 局 は 林 業 省 下 に 入 り、 同 省 の 名 前 が 林 業・ 農 園 省 に な っ た こ と が あ っ た。 し か し、 ワ ヒ ド 政 権 下 で 再 び 農 園 総 局 は 農 業 省 下 に入った。 * 8 F A O の 林 地 の 定 義 は、 五 メ ー ト ル 以 上 の 樹 高 の あ る 高 木 か ら な る 樹 冠 の 投 影 面 積 が 一 〇 % 以 上 を 占 め る 土 地 と な っ ている。 * 9 N G O か ら の フ ィ ー ル ド 調 査 を 基 に し た 報 告 書 は 数 多 く 出 て い る 。 た と え ば 、
Colchester, Norman Jiwan et al.
(
2006
Iris Maher ed. ( 2007 )、 Setara Jambi ( 2007 )、 Serge Marti ( 2008 ) 、 Environment Investigation Agency and telapak ( 2009 )、 TASP ( 2009 )。 * 10 農 業 省 プ ラ ン テ ー シ ョ ン 総 局 プ ラ ン テ ー シ ョ ン 作 物 保 護 局 長 ヘ ル ド ゥ ラ ジ ャ ッ ト 氏 と の イ ン タ ビ ュ ー、 二 〇 一 〇 年 二 月一六日。 * 11 用 地 取 得 許 可 に 関 す る 一 九 九 九 年 第 二 号 農 地 担 当 国 務 大 臣・ 国 土 庁 長 官 令。 同 令 に よ る と、 申 請 企 業 が 県 知 事・ 市 長 に 提 出 す べ き 書 類 は 次 の も の で あ る。 ① 申 請 願 い、 ② 申 請 者 の身分証明 (法人設立証、 その変更証明) 、 ③納税者番号 (内 外 投 資 会 社 を の ぞ く) 、 ④ 申 請 地 区 の 図、 ⑤ プ ロ ジ ェ ク ト 計 画・プロポーザル、⑥州知事の推薦書。 * 12 農 園 事 業 許 可 指 針 に 関 す る 二 〇 〇 七 年 第 二 六 号 農 業 大 臣 令。 同 令 に よ る と、 申 請 企 業 が 県 知 事・ 市 長 あ る い は 州 知 事 に 提 出 す べ き 書 類 は 次 の も の で あ る。 ① 企 業 設 立 証 明、 そ の 最 終 的 変 更 証 明、 ② 納 税 者 番 号、 ③ 居 住 証 明 書、 ④ 州 知 事 が 発 行 す る 農 園 事 業 許 可 に つ い て は、 県・ 市 空 間 計 画 と の 整 合 性 を 県 知 事・ 市 長 が 証 明 す る 書 類、 ⑤ 県 知 事・ 市 長 が 発 行 す る 農 園 事 業 許 可 に つ い て は、 州 空 間 計 画 と の 整 合 性 を 州 知 事 が 証 明 す る 書 類、 ⑥ 県 知 事・ 市 長 の 用 地 取 得 許 可 証 と 農 園 候 補 地 の 地 図(一 〇 万 分 の 一 か 五 万 分 の 一 の 縮 尺) 、 ⑦(森 林 地 域 を 農 園 に す る 場 合 に は) 林 業 省 か ら の 用 地 利 用 に 関 す る 技 術 的 検 討 書、 ⑧ 県 知 事・ 市 長 認 知 済 み の 原 料 供 給 保 証 証 明、 ⑨ 農 園 お よ び 農 園 産 品 加 工 場 開 発 計 画、 ⑩ 現 行 法 令 に の っ と っ た 環 境 ア セ ス メ ン ト 評 価 報 告、 あ る い は、 環 境 マ ネ ー ジ メ ン ト 活 動 お よ び 環 境 監 査 活 動 書、 ⑪ 法 定 最 大 面 積 以 上 の 土 地 を 申 請 企 業 が 取 得 し て い な い こ と の 表 明 書、 ⑫ 病 害 虫 駆 除 の た め の イ ン フ ラ と シ ス テ ム を 整 備 し う る と の 表 明 書、 ⑬ 火 入 れ を し な い 用 地 開 発 と 防 災 の イ ン フ ラ と シ ス テ ム を 整 備 し う る と の 表 明 書、 ⑭ 地 域 住 民 用 農 園 開 発 整 備 表 明 書 と 開 発 計 画 書、 ⑮ 農 園 企 業、 農 園 労 働 者、 地 域 住 民 間 の パ ー ト ナ ー シ ッ プ 樹 立 を す る と の 表 明 書 と 作 業 計 画。 こ の 農 業 大 臣 令 は、 二 〇 〇 二 年 第 三 五 七 号 農 業 大 臣 決 定 を 変 更 す る も の で あ り、 再 集 権 化 の 動 き が 強 ま る な か で、 ⑤ に あ る よ う に 県・ 市 の 許 認 可 に つ い て も 州 知 事 の 関 与 を 強 め る も の と な っ て い る。 二 〇 一 三 年 一 〇 月 に こ の 二 六 号 令 は 改 正 さ れ て 農 園 なしの加工工場建設を容易にした。 * 13 農地基本規則に関する一九六〇年第五号。 * 14 関係者とのインタビュー、二〇〇九年八月二三日。 * 15 同村での聞き取りによる、二〇〇九年八月二二日。 * 16 大 手 プ ラ ン テ ー シ ョ ン 企 業 は 二 〇 〇 八 年 の パ ー ム 油 価 格 急落の時でも利益は上がっていたという( Tempo 2008. 8. 31: 121-123 )。 * 17 本 部 を チ ュ ー リ ッ ヒ に 置 い た の は、 非 営 利 団 体 の 登 録 に おいてはスイスが有利だという理由からに過ぎない。 * 18 二 〇 一 三 年 七 月 現 在、 日 本 の 会 員 数 は 二 七 で あ り、 正 会 員数は一九である(WWFジャパン・ウェブサイト) 。 * 19 東 南 ア ジ ア 学 会 二 〇 一 三 年 七 月 関 西 例 会・ ア ブ ラ ヤ シ 研 究 会 共 催 の 研 究 会(二 〇 一 三 年 七 月 二 〇 日 開 催) に お け る 佐 藤百合氏のプレゼンテーションより。