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Wechsler式知能検査による高機能広汎性発達障害の認知特性の理解

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椙山女学園大学

Wechsler式知能検査による高機能広汎性発達障害の

認知特性の理解

著者

神谷 美里

雑誌名

椙山女学園大学研究論集 人文科学篇

37

ページ

1-9

発行年

2006

URL

http://id.nii.ac.jp/1454/00001327/

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Wechsler 式知能検査による高機能広汎性発達障害の

認知特性の理解

神 谷 美 里*

Analyzed the cognitive Ability of High-Functioning Pervasive Developmental

Disorders on Wechsler Intelligence Scale

Misato K

AMIYA 1. はじめに  高機能広汎性発達障害とは,知的な遅れを伴わない自閉性障害(特定不能の自閉性障害 を含む)やアスペルガー障害を包括した概念である。この障害は,人との相互交渉,コ ミュニケーション,想像力の3つの領域に障害が認められた場合に診断がなされる。これ らの症状に加えて,彼らは感覚の過敏性や不器用さなどさまざまな領域に障害を抱えてい る。これが“広汎性”と呼ばれる所以である。さまざまな領域にあらわれる障害の1つ に,認知機能の偏りがあげられる。彼らの認知特性を理解し,鑑別診断や支援へと役立て るべく,これまでさまざまな研究が行われてきた。この種の研究では,Wechsler 式の知能 検査が最もよく用いられる。本論では,このWechsler 式の知能検査を用いた研究を概観 した上で,この検査をどのように彼らへの支援へ活かしていくか,事例をあげて検討す る。 2.広汎性発達障害の Wechsler 式知能検査プロフィール研究の概観  自閉性障害のプロフィールについては,古くから研究が行われてきた。彼らのプロ フィール特徴としてまず,言語性IQ(以下,VIQ と記す)と動作性 IQ(以下,PIQ と記 す)には乖離があり,PIQ の方が高いという点があげられる。VIQ よりも PIQ が高い,つ まり言語発達に遅れがある一方で,知覚体制化能力は高いという傾向は,自閉性障害に特 徴的であると考えられてきた。さらに,下位検査の成績については,言語性下位検査では 「数唱」が良く「理解」が低い,動作性では「積木模様」が良く「絵画配列」「符号」が低 いという特徴が報告されている。これらの特徴から,機械的な記憶や視覚刺激を部分に分 解する力は優れている一方で,社会的な判断や結果の予測をすること,事務的な作業を素 * 人間関係学部 臨床心理学科

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神 谷 美 里

早く行う能力は劣るという特徴がみえてくる。以上のようなプロフィール特徴は,いくつ かの研究で共通して報告されており,自閉性障害に特有のパターンとしてとらえられてき た(ex; Ohta, 1987; Lincoln, A. J. et al., 1988)。

 80年代後半以降になると,アスペルガー障害の概念が広く知られるようになり,アス ペルガーをはじめとする高機能群の研究が盛んにおこなわれるようになった。研究が進む につれ,先述したプロフィール特徴が全ての自閉性障害に認められるわけではないことが 報告された。例えば,Siegel, D. J., Minshew, N. J., & Goldstien, G. (1996) は,厳密に診断を した高機能自閉性障害児者(VIQ および FIQ が70以上)を対象にプロフィール特徴を検 討している。その結果,自閉性障害に特徴とされているVIQ<PIQ という傾向は多くの被 験者には認められたものの,有意な差としてはあらわれなかったとしている。また,下位 検査の成績については「理解」が最も低く,「積木模様」が最も高いという自閉性障害の プロフィール特徴と一致した結果であったが,全ての被験者にこの傾向が認められたわけ ではないと報告している。以上のことから,Siegel, D. J. らは,それまで言われていた自 閉性障害に特徴的なプロフィールパターンは,高機能群には必ずしも当てはまらないこ と,各個人でプロフィールパターンには幅があることを指摘している。  その一方,自閉性障害に特有といわれるプロフィールは,高機能群には必ずしも当ては まらないが,知能水準が低い群にはあらわれるとの報告もある。Szatmari, P., Tuff, L., & Finlayson, M. A. J. et al. (1990) は,FIQ<86と FIQ≧85の2群を比較し,プロフィールパ ターンはIQ に左右されると報告している。すなわち,低 IQ 群には言語性が低く動作性 が高いという典型的パターンが明瞭にあらわれた一方で,高IQ 群はより複雑なパターン を示しており,外来患者群と比較して「理解」「絵画完成」「絵画配列」「組合せ」の成績 が低かったとしている。この結果から,Szatmari, P. らは高 IQ 群も低 IQ 群同様,抽象能 力の柔軟性が障害されていると指摘している。さらに,神尾・十一(2000)は,より詳細 に群別けをしてIQ 値によるプロフィールパターンの違いを検討している。群別けには FIQ と VIQ の双方を基準とし,高言語知能群(FIQ≧70,VIQ≧85),境界言語知能群 (FIQ≧70,70≦VIQ<85),軽度精神遅滞群(50≦FIQ<70,50≦VIQ<70)の3群比較を おこなっている。その結果,知能水準が高くなるにつれてVIQ<PIQ のパターンが VIQ> PIQ へと変化し,この研究の被験者においては,VIQ≧88になると VIQ>PIQ のパターン があらわれている。また下位検査では,動作性検査については「積木模様」の成績が良い という典型的パターンが3群ともに認められている。その一方で,言語性検査では境界群 と遅滞群には「数唱」が良く「理解」が低いという典型パターンが認められたが,高言語 群では「理解」の成績が良く,「類似」が低いという他の2群とは異なるパターンが見出 されている。この結果から,神尾・十一は,高い言語能力を持つ自閉性障害者は社会的な 判断・知識を獲得することが可能な一方,抽象概念の理解は言語能力の低い群と同様に障 害されているとしている。さらに,Mayes, S. D., & Calhoun, S. L. (2003) は,IQ が低い群 (FIQ<80)と高い群(FIQ≧80)は,「知識」「類似」「単語」という言葉の知識を問う課 題の成績が良いが,「理解」という社会的判断を問う課題の成績が低いという点で共通し ていたとしている。一方,この2群の差異点として,低IQ 群は「積木模様」「組合せ」 という視覚体制化能力を測る成績がよいが,高IQ 群はそれらの課題の成績はそれほど優 れておらず,「符号」「算数」「数唱」の成績がIQ に比して低いと報告している。ここか

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ら,高IQ 群に書きや注意記憶力の問題があることを指摘している。以上のことから,低 IQ 群には自閉性障害の典型パターンがみてとれるが,高 IQ 群にはそのパターンは当ては まらないことがわかる。加えて,Mayes, S. D. らは,年少群(3~7歳)では言語能力よ りも非言語能力が高いが,年長群(6~15歳)では言語能力と非言語能力はほぼ同じで あったと報告している。ここから,VIQ<PIQ のパターンは年齢の影響を受ける可能性が 示唆される。年齢要因の可能性については,Joseph, R. M., Tager-Flusberg, H., & Lord, C. (2002) も指摘している。  以上のことから,プロフィールパターンは知能水準や年齢に影響を受けること,つまり 知的に低い年少の自閉性障害児が典型プロフィールを示す可能性は高いが,年齢や知能水 準が上がるとこのパターンはあらわれにくいという結論が導き出される。一方,ここに挙 げた研究からは,年齢や知能水準が高い自閉性障害に共通したパターンを見出すことは困 難といえる。  ところで,高機能広汎性発達障害のプロフィールを検討するにあたって,アスペルガー 障害(以下,AS と記す)と高機能自閉性障害(以下,HFA と記す)との異同を扱うことは, それぞれに特徴的なプロフィールを明らかにすること,さらにそこから鑑別診断が可能で あるか検討することにつながる。この2群を比較した研究には,プロフィール上にほとん ど差がないとする報告(Manjiviona, J., & Prior, M., 1999; Ozonoff, S., South, M., & Miller, J. N., 2000)とプロフィール上に何らかの差異を見出している報告がある。差異を見出している 報告の多くはAS の方が言語性能力が高いと報告しているが,これを AS の特徴として捉 え てHFA と の 鑑 別 に 有 効 で あ る と す る 報 告(Kiln, A., Volkmar, F. R., Sparrow, S. S., & Cicchetti, D. V., 1996)と,これを鑑別に有効なほどの AS の特徴とはしていない報告がある。 このように,この2群のプロフィール上の差異を検討した報告に関しては,一貫した結果 が報告されていない。ただ,近年はAS 群の言語能力の高さを指摘しつつも,それが HFA 群との鑑別の指標とは主張していない報告が多いようである。以下,その幾つかを紹介す る。

 この種の研究として,まず,Ehlers, S., Nyden, A., & Gillberg, C. et al. (1997) の研究をあ げることができる。ここでは,AS 群は言語理解能力に優れ,HFA 群は「積木模様」に代 表される視覚認知能力が高かったとされている。ただし,この傾向は全ての被験者に当て はまるわけではないため,プロフィールのみから診断を予見することは困難であるとも指 摘している。高橋・平林・小松ら(2001)もほぼ同様の報告をしている。すなわち,AS 群はVIQ が優位で「類似」「単語」「理解」といった言語面の能力が高い一方,HFA 群は PIQ が優位で「積木模様」の成績が最も良いとしている。そしてこの結果について,すべ てのAS や HFA に一般化することは困難なこと,全ての被験者がこの結果と同じ認知特 性を示すわけではないことを指摘し,個々のデータを検討する必要があるとしている。ま た,瀬戸屋・長沼・長田ら(1999)は,AS 群は HFA 群に比して VIQ,「知識」「単語」の 成績が優れていること,全体的なプロフィール特徴をみていくと「数唱」が高く「理解」 が低い,「積木模様」が高く「絵画配列」が低いというパターンが両群に認められたとし ている。この結果から,両群は基本的には共通のプロフィール特徴を有しながら,AS 群 は言語機能に障害がなく,言語面での知識が豊富といった特性をもつことを指摘してい る。さらに,Ghaziuddin, M., & Mountain-Kimchi, K. (2004) は,VIQ と PIQ のディスクレパ

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神 谷 美 里 ンシーを中心に検討している。結果として,AS 群は VIQ>PIQ となり,そのディスクレ パンシーが大きいと報告をしている。一方のHFA 群にも,VIQ>PIQ というパターンを 示す者がいるが,ディスクレパンシーはAS 群よりも小さいとされている。さらに,VIQ >PIQ のディスクレパンシーが大きくない AS のいることから,VIQ>PIQ のパターンは AS 群の典型といえるが,AS にもいくつかのパターンが存在する可能性を示唆している。  ここにあげたAS と HFA を比較した研究は全て,AS は言語能力が高いというパターン を報告しているが,それが全てのAS にあらわれるわけではない,HFA との鑑別の基準と はならないとしている。そもそもAS の診断基準には“言語発達に遅れがないこと”とい う内容が含まれているため,言語能力が高いという結果になるのは当然のことといえる。 したがって,言語能力の高さのみを指摘するのでは,AS の認知特性を理解したことには ならない。一方,言語能力以外の面については,各群のプロフィール特徴に共通した見解 が得られていない。対象児の年齢や知能指数の幅があること,AS や HFA の診断基準が時 代によって流動的であること,使われている診断基準が研究によって異なることなどが各 研究の結果に影響を与えている可能性もある。今後,どういった要因が影響を与えるのか 明確にしていくことで,彼らの認知特性の理解が深まるかもしれない。  以上,自閉性障害や高機能自閉性障害,アスペルガー障害のWechsler 式知能検査のプ ロフィールを検討した研究を概観した。大雑把に総括すると,知的に低い年少群は自閉性 障害に典型のプロフィールを示す場合が多いこと,アスペルガー障害は言語能力が高い傾 向にあること,HFA や AS には自閉性障害の典型プロフィールが全ての被験者に当てはま るわけではなく,各群に特有のプロフィール特徴は存在しない,という点があげられる。 HFA と AS について,典型のパターンが全ての被験者に当てはまるわけではない,各群に 特有のプロフィール特徴が存在しないということはつまり,彼らの認知特性には幾つかの パ タ ー ン(Ghaziuddin, M., & Mountain-Kimchi, K., 2004) や 幅 が あ る(Siegel, D. J., Minshew, N. J., & Goldstien, G., 1996)ということである。

 ところで,各群の認知特性を理解することは,各群に有効な支援の指針を明確にするこ とにつながる。例えば,高橋ら(2001)は各群のプロフィール特徴を検討した結果から, HFA 群には指示を視覚的に提示することが有効であること,AS 群には指示を口頭で与え ることが有効であると示唆している。ただし,これらの方針は典型事例に対応する際の留 意点であって,実際の支援では個別の認知特性をふまえる必要があることも述べている。 確かに,HFA と AS に特有のパターンが存在しない以上,支援の指針を得るためには, 個々のプロフィールを検討する必要がある。そもそも,Wechsler 式知能検査は,複数の下 位検査を実施することによって多種の能力の個人内差を評価し,各子どもの発達支援に役 立てる目的をもって作成された検査である。このWechsler 式知能検査の本来の目的に立 ち戻って考えるならば,各個人のプロフィールをみていく必要性が改めてみえてくる。そ こで次項から,アスペルガー障害児のプロフィールを1事例提示し,先行研究との比較を するとともに,その子ども個人の認知特性と支援の指針について検討する。

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70 75 80 85 90 95 100 105 110 処理速度 注意記憶 知覚統合 言語理解 全検査 動作性 言語性 図1 IQ と群指数 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 迷路 記号 組合せ 積木模 様 絵画配列 符号 絵画完 成 数 唱 理解 単語 算数 類似 知識 図2 下位検査プロフィール 3. 事例提示 3-1.WISC-III 知能検査の結果と受検態度  被験児:アスペルガー障害男児,生活年齢11歳  プロフィール:IQ 値と群指数,下位検査プロフィールについては図1,2参照。

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表1 言語性下位検査回答例 問 題 回 答 得点 単  語 4.自転車 便利な二輪車,歩行としての物体。 2(質疑後) 9.はだし 何もない足,何も着てない足。 2(質疑後) 16.友情 友だちとしての見栄え。 0 22.栄える ガネメというのは冗談,盛り上がる。 0 理  解 2.ボールをなくす るまやあ。〈Q〉反対にしたら。 1 4.財布 盗む。うそうそ,届ける。 2(質疑後) 5.隣の家から煙 119だっけ。 2(質疑後) 10.法律を破った人 2度と歯向かわないようにするため。 0 神 谷 美 里  受検態度:終始落ちつきがなく,離席も数回あった。また,検査とは関係ない話を一方 的に始めようとすることも多々あり,多弁であった。言語性検査では検査者がききとれな いほどの早口での応答が目立った。また「うそ,うそ」,「というのは冗談で」などと,正 答をすぐには言わない場面もあった(表1参照)。これらの応答は,課題の意図や正答が わかっている上での行為のようでもあった。一方動作性検査では,目の前に提示された刺 激にすぐさま反応して,作業にとりかかかっていた。その反応が素早すぎるためか,一度 回答をした後に自ら訂正する場面もあった。また,提示された刺激について彼なりのコメ ントを言う場面が多くあったが,次々課題を提示すればそれを言い続けるようなことはな かった。作業中もコメントを言いながら手を動かしていたが,何か言いながらの方がむし ろ集中できる様子であった。 3-2.先行研究との比較  本児の診断は,アスペルガー障害である。「2.研究の概観」で記したとおり,この障 害のプロフィール特徴としては言語能力の高さがまずあげられる。本児の場合,VIQ は 96で,知能水準としては「平均」に位置する。PIQ と比較すると,PIQ よりも高くはなっ ているものの,有意な差ではない。群指数でも,言語理解が最も高くなってはいるが,こ の群指数のみが突出しているわけではない。つまり,言語能力は年齢相応に発達している こと,個人内差としてみると言語能力が突出しているわけではないことがわかる。  下位検査プロフィールについては,アスペルガー障害の典型プロフィールが存在しない ため,ここではまず,瀬戸屋・長沼・長田ら(1999)の報告したものと比較してみる。彼 らは,HFA と比較すると AS は「知識」「単語」の成績が良いこと,全体的なプロフィー ル特徴をとしては「数唱」が高く「理解」が低い,「積木模様」が高く「絵画配列」が低 いというパターンを報告している。本児のプロフィールと彼らの報告と比較すると,AS の特徴である「知識」の高さは一致するが,他のプロフィール特徴は合致しない。多くの 研究で「積木模様」の成績が良いことが指摘されているが,本児の場合はこの下位検査の 成績はそれほど高くない。むしろ,Mayes, S.D., & Calhoun, S. L. (2003) の指摘した「符号」 「算数」「数唱」がIQ に比して高くないという結果に合致する。ただし,Mayes, S. D. らの

研究の対象は,AS ではなく HFA である。

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なった。先行研究で報告されている特徴のある一部はあてはまるが,全てがあてはまるわ けではないという結果であった。ここからAS の認知特性には幾つかのパターンや幅があ ることが多少なりとも実証されたといえる。以下から,本児のプロフィール解釈を行い, 彼の認知特性の理解を進めることにする。 3-3.プロフィール解釈  本児の全検査IQ は93で,知能水準は平均に属す。言語性 IQ と動作性 IQ に有意な差は 認められないが,群指数や下位検査評価点には有意な差がみられる。群指数では言語理解 と比較して,注意記憶と処理速度が有意に落ちている。  下位検査プロフィール検討していくと,まず得点が高いのは,「知識」と「絵画完成」 である。これらの成績から,長期記憶が優れているといえる。つまり,「知識」の成績か ら一般的事実についての知識量が豊富なこと,「絵画完成」から視覚的長期記憶が強いこ とがわかる。同じく「絵画完成」の成績から,視覚的敏捷性も示唆される。実際,視覚刺 激には素早く反応して課題に取り組んでいた。また「類似」「単語」「理解」の評価点か ら,言葉の意味理解や言葉についての知識はほぼ年齢相応に発達していることがわかる。 ただ,表現力の面では少し拙さがあるようで,「単語」「理解」など長い説明が必要な課題 では,説明不足な表現や彼独特の表現をする場合があった(表1参照)。  一方,「数唱」の成績が低いことから聴覚的な短期記憶が弱いことがわかる。特に本児 は,聴覚情報に注意を向けることが苦手なようで,「算数」では検査者が読み上げる問題 を1回で理解することに困難を示していた。また「符号」「組合せ」が低いことから,事 務的作業を正確に素早く行う力や部分間の関係を予測することの弱さを指摘できる。 3-4.本児への支援の指針  ここでは,先のプロフィール解釈をもとに本児への支援の指針について考えてみること にする。その際,「3-1.WISC-III 知能検査の結果と受検態度」で示した検査中の行動 も参考にする。  まず彼は,記憶力は非常に優れているので,この能力を活用した課題の成績には期待が 持てる。一方,耳から情報を入れることは苦手であるため,情報を提示するときには視覚 的なものを補助的に使うと有効だといえる。ただし,視覚刺激には瞬時に反応するため, 刺激の内容や提示の仕方には工夫が必要である。また言語面では,説明不足な表現や彼独 特の表現をすることがあった。この点については,彼は基本的な言語理解能力は備わって いるので,彼独自の表現をある程度は尊重しながら,より適切な表現を伝えていく方向が 良いといえる。また,検査中の態度で多動やおしゃべりが非常に目立った。しかし,そう した態度をとりながらもこちらの指示を聞くことは可能であったし,そうすることでむし ろ集中もできるようであった。そのため彼に関しては,多動・多弁をある程度は許容する というこちら側の態度も必要といえる。  ここに記した指針は,AS という彼の診断をもとにしたものではなく,あくまでも彼個 人の認知特性や検査中の行動を踏まえて立てたものである。彼のもつ様々な特性に応じた 指針を立てることができたといえよう。

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神 谷 美 里 4.おわりに  本論では,Wechsler 式知能検査を高機能広汎性発達障害の支援へどのように活かすべき か,先行研究の概観と事例の提示から検討を行った。先行研究の概観をおこなった結果, 自閉性障害に共通して認められる典型パターンが存在はするものの,それが全ての被験者 に当てはまるわけではないこと,高機能自閉症やアスペルガー障害に関しては,この2群 を明確に区別できるほどのプロフィール特徴があるわけではないことが明らかになった。 ここから,検査の結果を支援に活かすためには,診断名にとらわれることなく,各個人の 認知特性を検討する必要があることが明らかになった。そこで事例を1例提示し,そのプ ロフィール解釈と検査中の行動をもとに,個別の認知特性の理解と支援の指針に検討し た。個別の認知特性の理解を進めることで,各児に合った指針を立てることができること が確認された。  高機能広汎性発達障害は知的な遅れはないものの,認知機能に特異性を抱えるが故に, さまざまなスキルの獲得に困難を示す。彼らが必要なスキルを獲得する際,それが速やか に進むようにするために,彼らの認知特性を個別に理解し,各個人に合った支援計画を立 てることは重要なことである。 文  献

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