幼児の骨密度と身体特性、食事、身体運動との関連性
藤 田 公 和 中野 真知子 加 藤 信 子
Evaluation of the Relationship between Bone Density and Physical Characteristics,
Meal and Physical Exercise in Infant
Kimikazu F
UJITA, Machiko N
AKANOand Nobuko K
ATO【目的】 骨は骨吸収を担当する破骨細胞と骨形成を担当する骨芽細胞により、絶えず骨吸収と骨形成 を繰り返している。ヒトの一生のうちで最も骨吸収や骨形成が盛んな時期は成長期であり、中 でも思春期が最も旺盛である(山中ら、2001)。ヒトの骨密度に影響を及ぼす因子として、カ ルシウム、タンパク質などの摂取量や身体活動などが挙げられる。これまでの研究により、学 童期以降の子どもは加齢に伴って骨密度が急激に増加することがよく知られている。しかしな がら骨密度・骨量に関する研究報告は成人を中心に小学校以降のデータが多く(檀上ら、 2010;三村ら、2005;鳥居、2006)、幼児の骨密度は測定する骨の大きさや測定装置の特性な どの課題があり、あまり実施されていない。境田ら(2007)は3,4,5歳児102名の骨密度と 体格、身体組成などを測定し、男女児とも有意な加齢変化が認められるものの、それぞれの年 齢の中での個人値の差異は非常に大きいことを指摘している。北野ら(2009)は骨密度測定装 置を用いて、3∼6歳の幼児861名の骨密度を測定している。男女別に3歳後半から6歳後半 までの音速 SOS 値(speed of sound: m/sec)を半年ごとに比較した結果、すべての年齢間にお いて男女とも年齢による差は認められず、男女間にも有意差は認められなかったことを報告し ている。 骨密度・骨量は出生後加齢に伴って急激に増加し、18∼20歳で最大値となる。中・高年期 以降の特に女性では、性ホルモンの作用により骨密度が減少することがよく知られており、一 つの予防策として、乳幼児期から20歳までの骨の成長期に最大骨密度の数値を上げておくこ との重要性も提起されている。そのため、幼児期の骨密度・骨量の個人差に着目して栄養と身 体運動との関連性を探ることは、幼児の生活習慣や生活環境を見直すうえで重要な課題である と考えられる。本研究では幼児の骨密度と身体特性、食習慣や運動習慣などを調べ、骨密度の 個人差の要因について検討した。さらに園庭などの環境が異なる3園の子ども達の骨密度を比 較し、園での生活(遊び)環境との関連性について考察した。
表1.被験者数 男子(人) 女子(人) A園 31 40 B園 15 15 C園 14 13 合計 60 68 0 1 2 3 男子 女子 (n=60) (n=68) 骨密度( OSI 値) 図1.骨密度の男女差 【方法】 被験者は豊明市内の私立幼稚園(A園)、名古屋市内の私立保育園(B園)および長久手市 内の私立幼稚園(C園)の年長クラス(5∼6歳児)の男児60名と女児68名であった(表1)。 子 ど も の 骨 密 度 は 乾 式 超 音 波 法 骨 評 価 装 置 (AOS100 ALOKA 社製)を用いて右足踵骨の超 音波伝播速度を計測し、骨密度を推計した。得ら れ た デ ー タ は 音 響 的 骨 評 価 値 OSI(osteo sono-assesment index)で示した。超音波骨密度測定 (Quantitative Ultrasound: QUS)は足のポジショニ ングや温度、測定者の経験などにより測定値にば らつきが出ることが指摘されてはいるが(杉森ら、 1997;黒澤ら、2009)、持ち運び可能で放射線を 使わない簡便な測定法であり、成人対象の一般的 な集団検診に広く用いられている(楊、2012)。 一方、子どもの測定時には足の大きさを補正する 付属品を使用するが、大まかな補正であるため誤 差が生じやすいことも指摘されている(鳥居、 2006)。そのため、子どもの骨密度を測定する際 には、超音波の発生部位が足の踵骨に正確に密着 していることが必須条件となる。本研究ではまずプレ実験として、成人男女(10名)と幼児 男女(6名)の骨密度測定時に、超音波発生装置の中心部分の接触部位に印をつけ、足全体の 写真撮影を行なった。さらに足の画像をもとに、床面から距骨中心部(足の内側の出っ張り)、 踵から距骨中心部、床面および踵から測定装置(振動子メンブレン)の足への接触中心部位ま での距離、足長などを測定し成人と子どもで比較した。その結果、成人の場合、超音波発生装 置の先端部は足長全体に対して踵から11.7±1.0%、接地面から距骨先端部までの40.5±4.1% の範囲に集中していた(足長は23.2±1.5cm)。そのため幼児の骨密度を測定する場合には、足 長18∼22cm 用の小児用アダプターを使用し、さらに踵部分に厚さ3mm の厚紙を入れることに よって、成人とほぼ同じ位置で踵骨の骨密度が測定できることが分かった(足長は17.6± 0.6cm)。 保護者に対して子どもの食生活や身体運動習慣についてアンケート調査を実施した。質問項 目は日常の食事内容、食べ物の好き嫌いおよび運動習慣などである。また各クラスの担当保育 者には、クラスの中で体力水準の高い子どもと低い子ども、各2∼3名を選んでもらった。保 護者および園長、担当保育者に対して、研究の目的や具体的な測定方法および得られたデータ の扱いについて書面で説明し、測定についての理解と協力を得た。子どもには骨密度の測定時 に丁寧な説明を行ない、測定協力の意思を確認した。
0 1 2 3 体力 高い 体力 低い 骨密度( OSI 値) (男女;13名) (男女;15名) 図2.骨密度と体力水準との関係 0 1 2 3 100 105 110 115 120 125 骨密度( OSI 値) 身長(cm) 女子 y = 0.003x+2.488 r = 0.053 図4.骨密度と身長との相関(女子) 0 1 2 3 100 105 110 115 120 125 骨密度( OSI 値) 男子 身長(cm) y= 0.003x+1.811 r = 0.049 図3.骨密度と身長との相関(男子) 0 1 2 3 4 5 10 15 20 25 骨密度( OSI 値) BMI 男子 y = 0.014x+1.984 0.084 r = 図5.骨密度と BMI との相関(男子) 男女間および3園の骨密度の比較は一元配置分散分析と Tukey-Kramer 法を用い、5%未満 を有意差ありとした。 【結果】 男子の骨密度は2.19±0.25 OSI 値、女子は2.17±0.20 OSI 値であり、性差は見られなかった(図 1)。体力水準の高い子ども(男女13名)の骨密度は2.19±0.92 OSI 値、低い子ども(男女15名) は2.23±0.31 OSI 値であった(図2)。図3,4は骨密度と身長との相関を示しているが、男女 とも骨密度と身長との間に有意な関係は見られなかった。図5,6は骨密度と BMI との関連性 について示しているが、男女とも有意な相関は認められなかった。骨密度と食事内容との関連 については、図7が乳製品の摂取状況、図8が肉や魚などの摂取状況を示している。アンケー ト調査の結果、乳製品や肉・魚の摂取状況で全く摂取しない子どもはいなかったため、「よく」 と「ときどき」間で、摂取頻度の違いによる比較を行なった。その結果、乳製品をよく摂取す る子どもの骨密度は2.16±0.20 OSI 値、時々摂取する子どもは2.11±0.26 OSI 値であった。肉 や魚をよく食べる子どもの骨密度は2.12±0.22 OSI 値、時々食べる子どもは2.18±0.18 OSI 値
0 1 2 3 肉や魚をよく食べる 肉や魚を時々食べる 骨密度( OSI 値) (n=38) (n=13) 図8.肉や魚の摂取状況と骨密度との関係 0 1 2 3 5 10 15 20 25 骨密度( OSI 値) BMI y 0.004x+2.223 r ==0.029 女子 図6.骨密度と BMI との相関(女子) 0 1 2 3 㧭園 㧮園 㧯園 骨密度( OSI 値) 2.14 0.21 2.11 0.13 2.31 018 女子 ** ** 図10.3園の子ども ( 女子 ) の骨密度の比較 (**p<0.01) 0 1 2 3 㧭園 㧮園 㧯園 骨密度( OSI 値) 2.22 0.28 男子 2.13 0.26 2.26 0.14 図9.3園の子ども(男子)の骨密度の比較 0 1 2 3 乳製品をよく食べる 乳製品を時々食べる 骨密度( OSI 値) (n=25) (n=51) 図7.牛乳やチーズ、ヨーグルトなどの乳製品 の摂取状況と骨密度との関係 であり、どちらも有意な差異は認められな かった。図9,10は男女別に3園の子ども たちの骨密度を比較したものである。男子 では3園間で大きな差異は観察されなかっ たが、女子ではC園と他の2園との間に有 意な骨密度の差異が認められた。図11は 3園の園庭の様子を示した。A園は300名 の子どもに対して、平面の普通の広さの園 庭、B園は建物の屋上でも遊べるように なってはいるが、名古屋市内に設置されて
A幼稚園 B保育園 C幼稚園 図11.3園の園庭の様子 いることからも基本的には狭い園庭、C園は広い園庭の大部分が段差のある傾斜地で、この傾 斜を利用した様々な遊びが日常的に展開されている。 【考察】 骨密度、骨量を規定する因子は遺伝的要因、栄養的要因および身体運動的要因であると考え られている。このうち、遺伝的要因の関与の程度は年齢によって異なり、幼児期では大きいが、 加齢とともに栄養や運動の環境的要因が増加することが指摘されている(西田ら、2001;清野、 2006)。 1、栄養と骨密度 骨形成、骨密度の維持のためにカルシウムの摂取が重要であることは一般的な共通認識であ る。廣田ら(2014)は、骨祖鬆症の発症原因としてカルシウム摂取の影響が最も多く、カルシ ウム吸収や骨のリモデリングに関わるビタミンD、成長ホルモンや IGF-1、さらにビタミンK とCおよび各種ミネラル量の摂取が影響していると述べている。田中(2009)は、子どもの骨 強度を規定する因子としてⅠ型コラーゲンの重要性を指摘している。清野(2006)は小児のカ ルシウム摂取量を1,500mg/ 日群と900mg/ 日群とで比較した場合、高カルシウム負荷群の骨密 度は対象と比較して1年間で1%増加していたことを報告している。三村ら(2005)は、中学 生男女で3食きちんと摂取できている生徒と時々抜く・毎日2食以下の生徒との間には SOS 値に有意差が見られたことを報告している。西田ら(2001)は3∼5歳の82名の女児とその 母親の骨密度と食事に関するアンケート調査を実施した。その結果牛乳・乳製品の摂取頻度と 骨密度との関連性は認められず、出生後3∼5年程度の短期間では食習慣の影響が出にくいこ とを指摘している。 今回のアンケート調査では「牛乳やチーズ、ヨーグルトなど」「肉や魚」を全く食べないと いう回答はなかったため、結果的によく食べる群と時々食べる群との比較を行なった。そのた め食品群別摂取頻度と骨密度との間にはいずれも有意な相関は認められず、明確な結論は得ら
れなかった。西田ら(2001)の調査も、週当たりの食品群別(牛乳・乳製品、肉類、緑黄色野 菜など)摂取頻度と骨密度との関連性というレベルの解析であり、栄養学的な観点から幼児の 骨密度の個人差を解明するためには、摂取栄養素の内容に関して、より厳密な解析の方法を検 討する必要があると思われる。 2、身体運動と骨密度 児童期以降の子どもは、身体活動を実施することによって骨密度が増加するという研究結果 は、既に多くの研究者によって確認されている。三村ら(2005)は中学期・高校期における運 動群と非運動群との SOS の比較を行ない、運動群では男女ともに SOS 値が有意に高かったこ とを報告している。檀上ら(2010)は小学5,6年生538名と中学生339名の運動習慣と骨密度 の関係を調べている。そして小学生、中学生とも、運動あり群と運動なし群とを比較した場合、 男女とも運動あり群の方が有意に骨密度が高かったことを報告している。 幼児期の子どもの骨密度と身体活動との関連性については、測定の困難さや数値自体の信憑 性の問題もあり、研究報告例は少ない。西田ら(2001)は幼稚園の女児82名の骨密度とアンケー ト方式による身体的な活発度を調査している。その結果、日常的に活発な子どもは不活発な子 どもと比較して骨密度が有意に高いと述べている。今回の測定では被験者数の関係で、男女一 緒に高体力群(n=13)、低体力群(n=15)の2群に分類し比較したが、大きな差異は認められ なかった。この点については今後被験者数を増やすなど、再検討が必要であろう。 既報の研究結果も含めて、同年齢の幼児における骨密度の個人差に着目した場合、かなりの 個人差が認められるが、その原因については不明な点が多い。西田ら(2001)は3,4,5歳女 児82名とその母親の骨密度を調べ、親子間で有意な正の相関が認められたことから、(少なく とも)幼児期の女児には母親からの遺伝的素因がかなり大きなウエイトを占めていることを指 摘している。今回の研究では、幼児の骨密度と体格、運動能力、食事などとの間には相関関係 がみられなかった。このような研究結果をまとめると、運動や食品群別摂取頻度の関係で骨密 度に個人差が出てくるのは小学校中学年以上からであり、今回測定した6歳時点では食事内容 や身体運動の量・強度に起因した骨密度の個人差は現われにくいことが分かった。ただし図 10、11で示したように、女児に関しては3園間で骨密度に有意差が認められた。この原因に ついては不明ではあるが、一つの可能性として、日常的な運動遊び環境が影響していることが 推察される。すなわちC園は園庭の大部分に段差や斜面があり、骨に対して常に垂直方向の衝 撃が加わっていると考えられる。B園は名古屋市内に設置されているため園庭がかなり狭く、 測定は行なわなかったが、日常の運動量もA園、C園と比較してかなり少ないと考えられる(図 11参照)。 Grimston ら(1993)は平均年齢12.9歳の男女34名について、着地の際の床反力を体重の3 倍以上受ける衝撃負荷スポーツ(ランニング、体操、タンブリングなど)の実施者(1回60分、 週3回以上実施)と水泳実施者の骨密度を比較している。その結果、大腿骨頸部の骨密度は衝 撃負荷スポーツ実施者のほうが有意に高かったことを報告している。さらに Cassel ら(1996)
は7∼9歳の体操競技実施女子では、全身の骨密度が水泳実施女子と一般女子よりも有意に高 かったこと、Dyson ら(1997)も7∼11歳の体操競技実施女子は一般女子よりも全身、大腿骨 および腰椎の骨密度が有意に高かったことを報告している。そして宮本と石河(1993)は、発 育期に体重を支持することによって床反力を受けるスポーツや筋力を発揮するスポーツを実施 することは、骨の発達に有意義な影響を与えると述べている。スウェーデンでの小学生を対象 とした研究(Detter ら、2014;Linden ら、2006)では、小学校低学年(7∼9歳)から6年間 ないし2年間の運動指導(1日40分、週5回の球技やランニング、ジャンプ)によって、特 に女子の大腿骨頸部の骨塩量や骨サイズが有意に増加したことを報告している。したがって、 C園の子どもはA、B園の子ども達と比較して日常的に足(脚)に対して衝撃負荷を受ける頻 度が高く、その結果男児よりも影響を受けやすい女児の骨密度が高くなったということが推測 される。幼児期の子どもの骨密度を高めるためには、日常的な運動量や運動強度に加えて、縦 方向の重力負荷など、運動の内容に配慮する必要があると思われる。この点については今後の 検討課題である。 文献
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