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成人期と高齢期におけるエネルギー代謝の比較

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は じ め に サルコペニアには,骨格筋をはじめとする多 くの筋肉細胞のエネルギー代謝障害を伴ってい ることが多いと推測される。この総説では,筋 肉のエネルギー代謝の特徴をまとめ,成人期と 高齢期で比較した。 1.微量栄養素は ATP 産生に 必要な化学物質 食事摂取基準において,成人女子では 1 日当 た り の 概 数 と し て,300 g の 糖 質,60 g の 脂 肪,60 g のタンパク質,0.15 g のビタミン,5 g のミネラルを摂取することが推奨されてい る。ビタミンの中で必要量がずば抜けて多いの がビタミン C であり,1 日当たり 100 mg と策 総 説

成人期と高齢期におけるエネルギー代謝の比較

柴 田 克 己・伊 美 友紀子・吉 岡 泰 淳 川 畑 球 一・寺 尾 純 二

Comparison of Energy Metabolism in Adulthood and Old Age

SHIBATA Katsumi, IMI Yukiko, YOSHIOKA Yasukiyo,

KAWABATA Kyuichi and TERAO Junji

Abstract: It is an urgent problem what kind of nutritional advice should be given to prevent the aged person from falling into sarcopenia and frailty. We have summarized the latest information on the underlying the en-ergy production pathway and its regulation. Since stored fat plays an important role in enen-ergy production, we summarized the control mechanism of fatty acid biosynthesis from glucose via citric acid and the biosyn-thetic pathway from fatty acids to fat. Next, we summarized how fatty acids are delivered from fat in adipose tissue and utilized in target cells. Finally, we compared the control mechanisms of energy production in adult and aging muscles.

Key Words: energy metabolism, frailty, sarcopenia, fat metabolism, fat drop, aged person

抄録:高齢者がサルコペニアやフレイルに陥らないようにするためには,どのような栄養指導をすべ きかが緊急の課題である。この基盤となる①エネルギー産生経路とその制御に関する最新情報,②エ ネルギー産生には貯蔵脂肪が大切な役割を果たしているので,グルコースからクエン酸を介する脂肪 酸生合成,脂肪酸から脂肪への合成経路の制御機構,③脂肪組織の脂肪からどのようにして脂肪酸が 切り出され,どのようにして標的細胞で利用されていくのか,についてまとめた。そのうえで,成人 期と加齢筋におけるエネルギー代謝を比較した。 キーワード:エネルギー代謝,フレイル,サルコペニア,脂肪代謝,脂肪滴,高齢者 ─────────────────────────────────────────── 甲南女子大学医療栄養学部医療栄養学科 39

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定されている。ビタミン C は水溶性ビタミン であり,水溶性環境下で抗酸化作用を示す化学 物質であるが,エネルギー代謝には直接関わる ことはない。また,4 種類の脂溶性ビタミン (A, D, E, K)もエネルギー代謝に直接関わる 作用は知られていない。脂溶性ビタミンの中で 必要量が多いのが,抗酸化作用を示すビタミン E である(10 mg/日)。ビタミン C もビタミン E も,エネルギー産生に付随する負の産物であ る活性酸素の消去に関わっている。 B 群ビタミンがエネルギー代謝に直接関わ る。ビタミン B1, B2, B3, B5, B6, B7, B9, B12の 8 種類である。8 種類の B 群ビタミンの必要量 を総計しても 20 mg/日である。B 群ビタミン の中で必要量が高いのはビタミン B3(ナイア シン)の 15 mgNE(ナイアシン 当 量)/日 で あ る。B 群ビタミンの役割は酵素タンパク質の補 因子,特に補酵素としての機能である。ミネラ ルは必要量から多量ミネラル(5 種類;Na, K, Ca, P, Mg)と微量ミネラル(8 種類;Fe, Zn, Cu, Cr, Mn, I, Mo, Se)に分類される。多量ミ ネラルの必要量の合計は 5 g/日である。多量ミ ネラルの主要な役割は Na が細胞外浸透圧の調 整,K が細胞内浸透圧の調整,Ca, P, Mg が硬 組織の構成成分である。8 種類の微量ミネラル の必要量の合計は 20 mg/日である。微量ミネ ラルの役割は,8 種類の B 群ビタミンと同じ く酵素タンパク質の補因子,特に補欠分子族と しての機能である。ここで,強調したいのは, エネルギー源となる糖質・タンパク質・脂肪か らエネルギー物質である ATP が産生されるに は,8 種類の B 群ビタミンと 8 種類の微量ミ ネラルが補因子として必要不可欠であるという 点である。 2.グルコースからグリコーゲンへ 摂取した糖質の主な構成成分はグルコースで ある。反応性に富むグルコースをそのままの形 で細胞内に蓄積しておけないので肝臓と骨格筋 は,グルコースの危険なアルデヒド基を完全に マスクする手段として,グリコーゲンを合成し て,貯蔵している。しかしながら,グリコーゲ ンの貯蔵量には限界がある。最大量として肝臓 で 100 g 程 度,骨 格 筋 で 300 g 程 度,エ ネ ル ギー量に換算すると 1,600 kcal 程度となり,1 日のエネルギー消費量程度である。 3.グルコースから脂肪へ グリコーゲンとして貯蔵しきれないグルコー スは,脂肪に変換されて貯蔵される。脂肪に は,反応性に富んだ官能基は存在しないので, 多量の脂肪を体内に貯蔵することができる。体 内には体重の 15% 程度の脂肪が蓄積されてい る。平均的な日本人女子の体重を 50 kg とする と,7.5 kg の脂肪が蓄積されて い る。エ ネ ル ギー量に換算すると 67,500 kcal である。計算 上ではあるが,1 か月程度のエネルギー量を脂 肪として貯蔵していることになる。 3-1.細胞質内に輸送されたクエン酸を介して 脂肪酸合成へ 脂肪酸の生合成経路を図 1 と図 2 に示した。 細胞質に存在する脂肪酸生合成系の実質上の基 質はミトコンドリア内で生成したクエン酸であ る。解糖系の最終産物であるピルビン酸の一部 はミトコンドリア内に存在する ThDP, FAD, NAD+依存性ピルビン酸脱水素複合体により, アセチル CoA に変換される。一方で,一部の ピルビン酸はミトコンドリア内に存在するビタ ミン B7依存性−Mn 含有ピルビン酸カルボキ シラーゼによりオキサロ酢酸に変換される。ク エン酸は,クエン酸シンターゼにより,アセチ 図 1 脂肪酸合成に関与する代謝経路の概略 脂肪酸生合成に必要な還元力は,NADPH によって供給さ れる.その供給源はペントースリン酸回路から 60% 程 度,リンゴ酸→ピルビン酸の反応から 40% 程度が供給さ れる.ペントースリン酸回路において,ペントースリン 酸を再びグルコース-6-リン酸に戻す非酸化的経路におい て中心的な役割を果たす酵素が ThDP 依存性トランスケ トラーゼである. 40 甲南女子大学研究紀要Ⅱ 第 15 号(2021 年 3 月)

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ル CoA とオキサロ酢酸が縮合することにより 生成する。細胞がエネルギーリッチになると, クエン酸シンターゼは阻害される。そこで,細 胞は TCA 回路で処理をせずに,脂肪酸合成系 で処理をする代謝に切り替える。結果として, 体内に脂肪というエネルギー源物資を貯蓄す る。 3-2.脂肪酸生合成における五炭糖リン酸回路 の重要性 NADP+ → NADPH の反応は,主として細胞 質に存在する五炭糖リン酸回路の酸化的段階で 行われる.この回路が脂肪酸合成過程において 重要な役割を担っていることは,初発酵素であ るグルコース 6-リン酸デヒドロゲナーゼ[EC 1.1.1.49]が,パルミトイル-CoA によって阻害 をうけることからも推測できる.ステアリル-CoA,オレイル-CoA,リノレイル-CoA はパミ トイル-Co とほぼ同じ程度の阻害効果がある1) 1 分子のパルミチン酸が合成されるには,1 分子のアセチル CoA, 7 分子のマロニル CoA, 14 分 子 の NADPH を 必 要 と す る。マ ロ ニ ル CoA はアセチル CoA から作られるので,8 分 子のアセチル CoA と書き換える こ と が で き る。グルコースから考えると,理論的には,1 分子のグルコースから解糖系とピルビン酸デヒ ド ロ ゲ ナ ー ゼ 複 合 体 か ら 2 分 子 の ア セ チ ル CoA が,さらなる 1 分子のグルコースから 12 分子の NADPH が作られる。したがって,1 分 子のパルミチン酸(炭素数 16)は,約 5.2 分子 のグルコースから作られていることになる(8 分子のアセチル CoA が 4 分子のグルコースか ら,そして 14 分子の NADPH が 1.2 分子のグ ルコースから作られるため)。 栄養学的には,ビタミン B1が脂肪酸の生合 成過程における律速物質となる。NADPH の供 給量が律速となるからである。筋肉の安静時の エネルギー源は脂肪である。ビタミン B1が不 足していると,グルコースから脂肪酸への合成 がうまくいかず,筋肉疲労を起こしやすくな る。特に,安静時に使用する姿勢維持に必要な 腰や肩の筋肉,目の運動に必要な筋肉が疲労し やすくなる。 3-3.脂肪酸から脂肪への合成 大部分の脂肪は肝臓の滑面小胞体で合成さ れ,VLDL を介して脂肪組織に貯蔵される。 肝臓で合成 さ れ た 脂 肪 酸 は CoA と ア シ ル CoA 合成酵素によって活性化後,アシルトラ ンスフェラーゼの作用でグリセロール-3-リン 酸への段階的なエステル化により,脂肪が合成 される(図 3)。グリセロール-3-リン酸は解糖 系で生じたジヒドロキシアセトンリン酸からグ 図 2 グルコースから脂肪酸への生合成経路 ①と⑦アセチル CoA-ACP トランアシラーゼ(AT)[EC 2.3.1.85],②マ ロ ニ ル CoA-ACP ト ラ ン ス ア シ ラ ー ゼ (MT)[EC 2.3.1.39],③β-ケト ア シ ル ACP シ ン タ ー ゼ (KS)[EC 2.3.1.41],④β-ケトアシル ACP レダクターゼ (KR)[EC 1.1.1.100],⑤β-ヒドロキシアシル ACP デヒ ドラーゼ(DH)[EC 4.2.1.59.3],⑥β,γ-トランス-エノイ ル ACP レダクターゼ(ER)[EC 1.3.1.39].Pant-SH=ア シルキャリアータンパク質のホスホパンテテインの SH 基,Cys-SH=システインの SH 基.ACC,アセチル-CoA カルボキシラーゼ. 図 3 脂肪の合成経路 脂肪の骨格となるグリセロールは,解糖系の中間代謝 産物であるジヒドロキシアセトンリン酸が主な供給源と なる.脂肪酸は図 2 に示した脂肪酸合成酵素系によって 供給される.①グルセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼ [EC 1.1.1.94],②ア シ ル ト ラ ン ス フ ェ ラ ー ゼ[EC 2.3.1.15],③ホ ス フ ァ チ ジ ン 酸 ホ ス フ ァ タ ー ゼ[EC 3.1.3.4],④グリセロールキナーゼ[EC 2.7.1.30],⑤ア シル CoA シンテターゼ[EC:2.3.1.20]. 柴田克己 他:成人期と高齢期におけるエネルギー代謝の比較 41

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リセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼによっ て触媒される。本酵素はミトコンドリア内膜の 膜間スペース側と細胞質の 2 か所に存在してい る。また,グリセロール-3-リン酸は,グリセ ロールキナーゼによってグリセロールと ATP からも生成する。 3-4.脂肪酸,脂肪生合成経路の調節 肝臓や脂肪組織の脂肪合成系遺伝子群は絶食 時に発現が抑制され,食後は逆に遺伝子発現が 劇 的 に 増 加 す る。主 要 な 調 節 段 階 は,ACC (acetyl-CoA carboxylase),ACL(ATP-citrate ly-ase),FAS(fatty acid synthase),GPAT(glycerol-3-phosphate acyltransferase)などである。 (1)肝細胞における脂肪合成の転写調節メカニ

ズム

絶食・摂食応答は転写因子 SREBP-1(sterol regulatory element-binding protein-1)の働きを介 して調節を受 け る2)。SREBP-1

は,basic-helix-loop-helix-leucine zipper ( bHLH-Zip ) フ ァ ミ リーに属する転写因子であり3),同じ フ ァ ミ リーに属する SREBP-2 がコレステロール合成 系の諸酵素遺伝子の転写をつかさどるのに対 し,SREBP-1 c は主に脂肪酸・脂肪合成系の諸 酵 素 遺 伝 子 の 転 写 を 促 進 す る 働 き を 持 つ。 SREBP-1 遺伝子の発現制御機構は,酸化ステ ロールをリガンドとする核内受容体型転写因子 で あ る LXR(liver X receptor)が RXR(reti-noid X receptor)とヘテロ二量体を形成して LXRE(LXR response element)に結合すること で転写調節に関与している4)。しかしながら, SREBP-1 の絶食・摂食応答には LXRE だけで は 不 十 分 で あ り,KLF15(Kruppel-like factor 15)も関与している5)。空腹時に KLF15 が誘導 さ れ る。KLF15 は LXR/RXR と SREBP-1 遺 伝 子プロモーター上で複合体を形成する。そし て,この複合体は転写抑制因子 RIP 140 を呼び 込むことで SREBP-1 遺伝子の転写をオフにす る。一方,食後には逆に,KLF15 の発現が低 下し,この複合体から消失することで,転写抑 制因子 RIP 140 が転写促進因子 SRC1 と入れ替 わり,SREBP-1 遺伝子の転写がオンになると いうメカニズムが明らかとなっている6) (2)脂肪細胞における脂肪合成の転写調節メカ ニズム 脂肪細胞における脂肪合成の調節メカニズム は,肝細胞とまったく異なっている。脂肪細胞 においては,SREBP-1 が脂肪合成の転写調節 に関与しない。詳細な in vivo Ad-luc 解析を重 ねた結果,脂肪細胞では nuclear factor Y(NF-Y)が肝細胞とは異なるメカニズムで脂肪合成 系の転写調節に関与していることが明らかにな っている7) 4.脂肪の利用 ∼脂肪細胞から脂肪酸の切り出し∼ 4-1.肝臓 肝臓で合成された脂肪は,VLDL や LDL な どのリポタンパク質として筋肉,脂肪組織やそ の他の組織に輸送され,エネルギー源や細胞膜 の構成成分として利用される。 4-2.脂肪組織 脂肪組織では,脂肪細胞内にあるホルモン感 受性リパーゼ(HSL)によって脂肪が加水分解 されて,脂肪酸とグリセロールが生成する。こ の過程は脂肪組織から血中へ脂肪酸が動員され る律速段階である。HSL はリン酸化により活 性化される。このリン酸化は,グルカゴン,エ ピネフリン,成長ホルモン,甲状腺ホルモンに よる一連のシグナル伝達経路によって活性化さ れる cAMP 依存性プロテインキナーゼによっ て起こる。一方,インスリンは cAMP の産生 を抑制することで,活性化 HSL を脱リン酸化 する酵素であるリパーゼホスファターゼを活性 化することで,不活性型に変換する。 (1)ペリリピンのリン酸化による調節 脂肪細胞での脂肪の蓄積と分解におけるペリ リピンの重要性が,次第に明らかとなってき た8)。安静時の状態にある動物の脂肪細胞では, ペリリピンはリン酸化されていない。この状態 では,HSL や他のリパーゼは,脂肪滴に蓄え られた脂肪に作用することはできない9, 10)。し たがって,ペリリピンによって脂肪分解が守ら れている状態では,脂肪細胞は大量の脂肪を蓄 積することが可能となる。一方,リン酸化され たペリリピンは,リパーゼに対する防護壁とし 42 甲南女子大学研究紀要Ⅱ 第 15 号(2021 年 3 月)

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ての機能を失い,むしろ,逆に積極的にリパー ゼ類が脂肪滴に作用するのを促進する。実際, HSL は安静時にはほとんど脂肪滴に存在しな いが,エピネフリン刺激が加わると脂肪滴に集 まってくる。 (2)脂肪から脂肪酸の切り出しの開始は HSL ではなく ATGL ペリリピン自体にはリパーゼ活性は認められ ない。CGI-58 と協同して作用する11)。安静時 の脂肪細胞では,CGI-58 はペリリピンと相互 作用することによって,脂肪滴表面に結合す る。しかしながら,エピネフリン刺激によっ て,ペリリピンがリン酸化されると結合ができ なくなるため,脂肪滴から遊離していく。CGI-58 は,脂肪細胞特異的トリグリセリドリパー ゼ(adipocyte triglyceride lipase; ATGL)を活性 化 す る は た ら き を も っ て い る12, 13)。ATGL は HSL と比較した場合,脂肪に対して特に強く 作用する。脂肪に最初に作用するのは,HSL よりもむしろ ATGL であるという報告が増え てきた14) (3)脂肪から脂肪酸の完全な切り出し 脂肪細胞の脂肪が完全に 3 分子の脂肪酸と 1 分子のグリセロールにまで分解されるには, ATGL, HSL,および第三のリパーゼ(MGL: モ ノ グ リ セ リ ド リ パ ー ゼ(monoglyceride li-pase)が段階的に作用することが必要である。 安静時には,CGI-58 はペリリピンと結合し ているので,ATGL と相互作用できず,ATGL が脂肪滴にはたらくことができない。また,ペ リリピンは HSL が脂肪滴に作用するのを妨害 している。その結果,脂肪の蓄積が分解を上回 り,脂肪滴が肥大化してくる。 一方,空腹や運動によって血糖値が低下する と,エピネフリンの血中濃度が高まり,脂肪細 胞表面の受容体に結合する。これに応答してペ リリピンがリン酸化されると,CGI-58 はペリ リピンから離れ,かわりに ATGL と相互作用 することによって,ATGL を活性化する。ま た,ペリリピンがリン酸化されることによっ て,HSL は脂肪滴に結合できるようにな る。 HSL 自身のリン酸化も,脂肪滴への結合と活 性化に寄与する。このように,多くのタンパク 質や酵素が脂肪滴表面で協調してはたらくこと により,大規模な脂肪分解が起こると考えられ る。 (4)脂肪滴 脂肪動員の過程では,脂肪滴の形態にも劇的 な変化が起こる。大きな脂肪滴が消失して,微 小な脂肪滴が無数に現れてくる。脂肪分解が活 発に行われるのは微小脂肪滴であり,大きな脂 肪滴から脂肪が移送されることによって,脂肪 分解が進む。 5.脂肪酸輸送体と標的細胞への取り込み 脂肪組織から切り出され,血管に放出された 遊離脂肪酸は,血液中ではアルブミンとの複合 体として輸送され,肝臓や筋肉で脂肪酸結合タ ンパク質に引き渡され,エネルギー源として利 用される。心臓,肝臓,骨格筋などが,脂肪酸 を特に多くエネルギー源として消費する器官で ある。 血液中での脂肪酸の半減期は 1∼2 分である。 心筋は使用するエネルギー源の 70% を脂肪酸 から得ている。脂肪酸への細胞内への取り込み は,70% 程度が輸送体を介する能動輸送で, 20∼30% が受動拡散である。 脂肪酸輸送体としての機能が確定されている タンパク質は,plasma membrane fatty acid bind-ing protein(FABPpm は mitochondrial aspartate aminotransferase と同一分子),CD36(fatty acid translocase=FAT とも呼ばれる),および fatty acid transport proteins(FATP)である15, 16),CD

36 は,骨格筋では脂肪酸をエネルギー源とす る type I 筋繊維に遍在しているが,糖をエネ ルギー源とする type II 筋繊維には非常に少な い17)。なお,FABPpm の役割は,細胞膜の表層 に存在することから,血液中を流れている脂肪 酸を細胞表面で受け止めたのち,CD36 に渡す ことであると推定されている17) 6.ミトコンドリア内での脂肪酸の酸化 (β 酸化系) 細胞に取り込まれた脂肪酸がエネルギー源と なるためには,まず ATP のエネルギーを使用 して活性化され,アシル CoA が生成する。引 き続いて β 酸化系酵素が存在する内膜内部の マトリックスに輸送されるには,カルニチンが 柴田克己 他:成人期と高齢期におけるエネルギー代謝の比較 43

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必要である。 図 4 にカルニチンの生合成経路を示した。出 発物質はタンパク質中のリシンがトリメチル化 されることから始まるが,タンパク質のメチル 化反応とカルニチン生合成経路は全く別の制御 システムを受けているものと考えられている。 しかし,カルニチンの生合成経路の制御をタン パク質のメチル化から計画した研究報告を見出 すことはできなかった。実際には,リシン残基 がトリメチル化されたタンパク質がリソゾーム 内で加水分解されて,遊離型のトリメチルリシ ンが切り出されるところから,カルニチンの合 成は始まる。重要なことは,ヒトでは遊離型の リシンの ε-アミノ基を直接メチル化する酵素 が存在していないことである。その合成には, 2-オキソグルタル酸,鉄,ビタミン C,ビタミ ン B3,ビタミン B6が関わっている。ヒトにお けるカルニチンの生合成経路,異化代謝経路に 関する研究が始まったところであり,情報は少 ない。カルニチンは肝臓と腎臓で合成されてい るが,存在場所は主に筋肉である。カルニチン は食べ物からも吸収可能であり,organic zwit-terions/cation transporter(SLC22A4)に よ っ て 吸収される18) 7.成人期におけるエネルギー代謝 7-1.軽い運動時 軽い運動時には,骨格筋と脂肪組織の貯蔵脂 肪がリパーゼ類によって加水分解された結果生 じた脂肪酸がエネルギー源となる。骨格筋細胞 内に入った脂肪酸は細胞質内の脂肪酸結合タン パク質によってミトコンドリア膜まで輸送さ れ,ア シ ル CoA に 変 換 さ れ る。ア シ ル CoA は カ ル ニ チ ン ア シ ル ト ラ ン ス フ ェ ラ ー ゼ (CPT)Ⅰと CPTⅡを介してミトコンドリアに 入り,β 酸化系などの一連の反応により ATP が産生される。骨格筋の脂肪酸酸化速度は 65 %最大酸素摂取量を超える強度になると漸減す る。これは,骨格筋の脂肪酸取り込み速度と CPTI の活性が低下することによる。 しかしながら,トレーニングにより脂肪への エネルギー依存度が高まる。この効果をグリ コーゲン節約効果という。この現象には,筋細 胞のミトコンドリア容量の増加,β 酸化の亢 進,リポタンパク質リパーゼ活性の増加,筋内 脂肪含量の増加,筋内 AMP と無機リンの増加 の 減 少,グ リ コ ー ゲ ン 分 解 と 解 糖 の 低 下, CPTI 活性の増加および骨格筋組織の毛細血管 の増加,さらに,脂肪細胞のエピネフリンによ る脂肪分解の感受性が亢進することも関係して いる。 7-2.疲労困憊を伴う持久運動時 持久性運動時には,活動の主体となる骨格筋 に加え,肝臓のエネルギー代謝も亢進し,筋肝 のエネルギー臓器連関,コリ回路が活発化す る。肝臓では,筋肉から血液を介して輸送され た乳酸を利用した糖新生によってグルコースが 作られる。この糖新生における律速は,ビオチ ン依存性ピルビン酸カルボキシラーゼとホスホ エノールピルビン酸カルボキシキナーゼであ る。この糖新生に使用される ATP は脂肪酸の β 酸化で得たものである。肝臓で作られたグル コースは血液を介して筋肉に輸送される。さら に,運動が激しくなると,糖・脂質に加え,筋 肉ではタンパク質の分解とアミノ酸の異化が亢 進し,アミノ酸の炭素骨格をエネルギー源とし て用いるようになる。異化されたアミノ酸のア 図 4 カルニチンの生合成経路 ①リシン N -メチルトランスフェラーゼ[EC:2.1.1.59],② 複数のタンパク質分解酵素[EC 3.4.−.−],③トリメチルリ シンジオキシゲナーゼ(TMLD)[EC:1.14.11.8],④3-ヒド ロ キ シ-6-N -ト リ メ チ ル リ シ ン ア ル ド ラ ー ゼ(HTMLA) [EC 4.1.2.−],⑤4 N -トリメチルアミノブチルアルデヒド 脱水素酵素(TMABADH)[EC:1.2.1.47],⑥γ-ブチロベタ イ ン ジ オ キ シ ゲ ナ ー ゼ(BBD)[EC:1.14.11.1].SAM=S -Adenosylmethionine, SAH=S -adenosylhomocysteine, TML= 6-N -trimethyllysine, HTML = 3-hydroxy-6-N -trimethyllysine, TMABA=4N -trimethylaminobutyraldehyde.

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ミノ基はほとんどが,PLP 依存性-トランスア ミナーゼ反応により,グルタミン酸に固定され る。筋肉では,グルタミン酸のアミノ基は,さ らにピルビン酸に渡され,アラニンと 2-オキ ソグルタル酸が生成する。そして,筋肉から多 量のアラニンが血液中に放出される。アラニン は肝臓に取り込まれ,糖新生経路でグルコース に変換され,筋肉に戻ってくる。この筋肝連関 をグルコース−アラニン回路という。また,筋 肉には分岐鎖アミノ酸が多く含まれ,また分岐 鎖アミノ酸アミノ基転移酵素(BCAT)が筋肉 に特異的に発現しているため,分岐鎖アミノ酸 は筋肉で代謝される。BCAT は分岐鎖アミノ酸 +2-オキソグルタル酸→分岐鎖 2-オキソ酸+グ ルタミン酸の反応を触媒する。この反応におけ る 2-オキソグルタル酸の供給を保証するため の反応として,グルタミン酸のアミノ基がピル ビン酸に渡され,アラニンと 2-オキソグルタ ル酸が生成する。生成した分岐鎖 2-オキソ酸 は,分岐鎖アミノ酸分解の律速酵素である分岐 鎖 2-オキソ酸脱水素酵素複合体(BCKDH)に よって代謝される。BCKDH は安静時ではリン 酸化された状態で不活性型であるが,運動によ って,脱リン酸化され,著しく活性が上昇す る。 アミノ酸が異化代謝される時に放出されるア ンモニアは,細胞毒性が強いため,最終的に肝 臓で尿素に代謝された後,尿中に排泄される。 尿素の合成にはエネルギーが必要であり,運動 時にアミノ酸を異化することは一見非効率的に 思えるが,重い持久運動時に脂肪酸を燃焼させ るためにはアミノ酸を異化することが不可欠で ある。その理由は,骨格筋で脂肪酸の β 酸化 によって生成された大量のアセチル CoA がク エン酸回路に進入するためには,オキサロ酢酸 が必要であるためである。このオキサロ酢酸の 供給源としてアミノ酸が用いられる。通常,オ キサロ酢酸は解糖系の最終産物であるピルビン 酸から合成される。しかし,長時間の運動等で 骨格筋のグリコーゲン量が低下し,解糖系由来 のピルビン酸の供給がエネルギー需要に追いつ かない場合に,アミノ酸の異化が増大し,オキ サロ酢酸が供給される。 8.加齢筋のエネルギー代謝 加齢や身体不活動に伴い,筋萎縮や筋力低 下,筋細胞内脂質の増加が起こる。筋細胞内脂 質は,若年者では,最大筋力に影響を与える要 因の一つであるが,高齢者では影響していな い。 加齢に伴う骨格筋の萎縮は,加齢に伴い増加 する酸化ストレスが挙げられている。酸化スト レスにより,筋肉内のエネルギー代謝酵素活性 やミトコンドリア機能の低下などが複合的に引 き起こされる。加齢による萎縮の影響は遅筋繊 維よりも速筋繊維にあらわれやすい。 8-1.加齢筋の特徴 (1)筋核 加齢による筋の弱体化はサルコペニアと呼ば れ,筋線維レベルでは,特に MCH-II 線維にお ける筋線維の損失と線維萎縮の両方が引き起こ される19)。ヒトにおけるサルコペニアの顕著な 症状は一般的に 70 歳を過ぎてから起こる。超 高 齢 の ラ ッ ト(32 カ 月 齢)の 筋 で は,MND (myonuclear domain,筋核ドメイン)サイズの 減少に加えて筋核の質が低下してくる。 (2)サテライトセル 骨格筋においては,加齢による筋核自身の機 能低下の可能性に加えて,サテライトセル数の 減少,あるいはサテライトセルの能力低下が起 こる。サテライトセル数の減少速度は,遅筋よ りも速筋がより顕著である。例えば,常時活動 している筋(例えば横隔膜)では加齢に伴うサ テライトセル数の減少は起こらない。 8-2.安静時の骨格筋のエネルギー代謝 加齢時においても成人期と同様に,脂肪組織 から動員された脂肪酸が主たるエネルギー源で ある。 8-3.運動時のエネルギー代謝 加齢により,筋収縮能が低下する。筋小胞体 から Ca2+が放出されると収縮し,取り込まれ ると弛緩する。筋漿 中 に 放 出 さ れ た Ca2+は, 筋小胞に多くある Ca2+-ATPase を介して筋小胞 体に取り込まれる。加齢に伴い速筋の筋小胞体 柴田克己 他:成人期と高齢期におけるエネルギー代謝の比較 45

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の Ca2+取り込み能が低下する。この原因とし て,加齢により筋小胞体の容積が減少すること と,Ca2+-ATPase 能力そのものが低下すること が 挙 げ ら れ る。さ ら に,他 の 要 因,例 え ば, Ca2+チャネルのゲーティング機能の低下,Ca2+ を筋小胞体へ輸送するタンパク質の減少なども 考えられる。 9.エネルギー代謝を制御する シグナル伝達経路 飢餓状態においては,FOXO1 が骨格筋で顕 著に増加しており,筋肉タンパク質が分解され る。しかしながら,FOXO1 は,骨格筋アミノ 酸 代 謝 に 重 要 な 分 岐 鎖 ア ミ ノ 酸 代 謝 酵 素 (BCAT, BCKDH),アラニンアミノ基転移酵素 などの遺伝子発現には影響をおよぼさない。つ まり,転写因子である FOXO1 はインスリンシ グナルと拮抗し,筋委縮を引き起こす19)。一 方,核内受容体の転写共役因子である PPARγ co-activator 1α(PGC-1α)は,骨格筋のミトコ ンドリア数の増加とエネルギー代謝(β 酸化と 分岐鎖アミノ酸の異化代謝)の亢進を引き起こ す。つまり,PGC-1α は,骨格筋等において運 動により発現が増加し,ミトコンドリアの生合 成,筋線維タイプの変化,脂肪酸酸化促進な ど,エネルギー代謝や運動に関連する遺伝子発 現を活性化する。骨格筋特異的 PGC-1α 過剰発 現マウスは,骨格筋の顕著な赤筋化が生じ,持 久運動能力が向上する20) お わ り に 高齢期においても,成人期に劣らないような 生活活動を保つには,ATP を円滑に産生する システムの維持が肝要である。そのためには, 脂肪の代謝系,すなわち,グルコースから脂肪 酸,そして脂肪への生合成系,脂肪細胞におけ る脂肪からの脂肪酸の切り出し,脂肪酸の輸送 系,標的細胞の脂肪酸の取り込み,脂肪酸の酸 化,これら一連の代謝能力を落とさないように することである。これら一連の代謝系には微量 栄養素である 8 種類の B 群ビタミンと 8 種類 の微量ミネラルが必須である。さらに,ビタミ ン様物質であるカルニチンも必要である。高齢 期においては,これらの微量栄養素及びビタミ ン様物質の栄養状態が適正に維持できているか 否かが,脂肪の代謝系が円滑に作動しているか 否かの代替指標となる。強調したいことは,高 齢者におけるビタミン様物質といわれる体内で 生合成可能な酵素の補因子の生合成能力であ る。膨大な文章になるので,具体的に触れるこ とができなかったが,カルニチン,リポ酸,モ リブデン補因子,鉄硫黄クラスター,コエンザ イム Q10などである。高齢期におけるこれらの 生合成能力の低下が,どれほどのものか不明で ある。単純に,外部から補充することが良いの か,あるいは生合成経路を賦活する成分の補充 の方が良いのか,喫緊の課題である。 謝辞 本総説の執筆にあたり,科学研究費補助金(基盤研究 (B),課題番号 20H02943.次世代型フレイル予防食品開 発をめざすミトコンドリア機能制御の基盤研究)の一部 を使用した。関係各位に感謝する。 文 献

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(9)

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