イカアイトを晶出させるシオワッカ冷泉水の起源
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(2) 北海道教育大学紀要(自然科学編)第59巻 第1号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(NaturalSciences)Vol.59,No.1. 平成20年8月 August,2008. イカアイトを晶出させるシオワッカ冷泉水の起源. 伊 藤 俊 彦 北海道教育大学釧路枚地学教室. OntheOriginofShiowakkaCold−SpringWater fromWhichIkaitePrecipitatesinWinter ITO Toshihiko. DepartmentofEarthSciences,KushiroCampus. HokkaidoUniversityofEducation,KushiroO85−8580. ABSTRACT ThewaterchemistryofShiowakkacold−SpringwatershowshighercontentsofNa+,ClandHCO3 COmparedtootherhot−andcold−Springwaterthatisaccompaniedwithaprecipitationofcalcareoussin−. terinJapan.Therarecalciumcarbonatemineralssuchasikaiteinwinterandmonohydrocalciteinsum− merareknownasbeingprecipitationsfromShiowakkacold−Springwater.FromthehighcontentsofNa+ andCl,thewater’soriginissupposedtobeinsea−Water,butthelowcontentofSO42suggestsitsorigin isinfossilsea−Water.. Thevaluesof∂180−5.9%oand∂D−59.3%00fShiowakkacoldspringwaterareknownfromisotropic analysis.ontheotherhand,thevalue∂180sMOW−11%00frainwaterisknownfromthedataofMizota& Kusakabe(1994)andfromtheformula∂D=8∂180+10(Craig,1961),thevalueof∂D−78%。isobtained. Therefore,thehigh∂DofShiowakkacoldspringwatersuggeststhattheoriginalwaterisfossilsea. WaterOrprOducedthroughthereactionbetweenundergroundwaterandcalcareousrocks. FromMatsubaya’smeans(Matsubaya,1991),∂180+10%。(marineconnatewater,∂D=0)isdeter− minedbythedrawingofatielinebetweentwopoints,∂180−11%。,∂D−78%。(localmeteoricwaterof Asyorodistrict)and∂180−5.88%。,∂D−59.3%。(Shiowakkacoldspringwater).Thevalueof∂0+10%。is areasonablevalueincomparisonwith∂180+18%00fthefossilwaterobtainedfromtheYatateandYuno− sawahot−Springs(Matsubaya,1991). The∂CpDB6.10%00fthecalcareoussinteralsosuggeststhatthehighvaluewasderivedfromthe reactionbetweenthemarine connatewaterand carbonaceous rocks.. 31.
(3) 伊 藤 俊 彦. 部先白亜紀層の不整合面や割れ目から複数の冷泉 はじめに. が湧出している(三谷ほか,1958)。周辺の地質は,. シオワッカ冷泉は,世界的にも希産鉱物のika−. 本地域の基盤である最下層の先白亜紀層(小利別. ite,mOnOhydrocalcite,Vateriteなど多種類の. 層)の直上に,鮮新世・本別層が乗る。即ち,同. 炭酸カルシウム鉱物の生成が見られる貴重な場所. 地域でそれら両層の中間層となる古第三紀層と新. である。即ち,ここではaragonaiteを除き自然. 第三紀中新世層を欠いた状態である。しかし,シ. 界で産する5種の炭酸塩鉱物全てが生成してい. オワッカの直ぐ近く,1km弱ほど東側では,両. る。. 層と中新世層とは断層で接して見られる(図−. その水質はNa+,Ca2+,Cl,HCO3の各イオ. 1)。先白亜紀層は輝線凝灰岩,粘板岩,赤色チャー. ン濃度が高く,それらは石灰華の沈積が知られて. ト 硬質頁岩,石灰岩からなり,シオワッカから. いる国内の温泉・冷泉の中でも高い備に当たる。. 3km北方の美利別では石灰岩と赤色チャートの. 近隣の足寄町内の温泉やシオワッカ冷泉の北東. 互層した露頭が観察される(三谷ほか,1964)。. に位置する活火山である雌阿寒岳麓に見られる温. シオワッカ冷泉の湧出口は国道脇にあり,その. 泉とは水質,沈殿物において明らかに異なってい. 存在は道路の整備が行われる以前から知られてい. ることから,その湧水の起源もまた異なると考え. て,古くは近隣の人々が冷泉水を湧かしフロ(温. られた。. 泉)として使用していた形跡が,鉄製の五右衛門. 本稿ではこの貴重なシオワッカ冷泉水の起源に ついて,その水の化学組成と安定同位体比(∂D,. ∂0),冷泉から晶出したikaite後の方解石並びに. 風呂の風呂釜や木枠として近くの川岸に最近まで 残っていた。 冷泉の湧出口は螺清川の河岸段丘上に位置し,. 沈積した石灰華の安定同位体比(∂C,∂0)から. 螺清川へ流れ下っている。途中の斜面で沈積した. 検討を行った。. 多量の石灰華は,川側に凸状の裸地を呈している。 その形態的特徴から石灰華半ドームと呼ばれて,. 足寄町の指定する天然記念物になっている。しか. 1.冷泉と石灰華の産状. し,近年その冷泉の湧出量に急激な減少が見られ,. 足寄町上螺湾シオワッカ地区において,新第三 紀鮮新世の十勝層群本別層基底火山砕屑岩層と下. その影響は石灰華ドーム表面の乾燥や剥離・剥落 等として顕著に見られるようになった∩ 湧き出. 地質時代. 岩. 質. 記 号l 模 様. 第四紀・洪積世 中位段丘堆積物. Tm 芸言さ. 新第三紀・鮮新世 螺湾礫岩一砂岩層 Hr 、l/一一l. 基底火山砕屑岩層 ・中新世 玄武岩質溶岩・凝灰岩 Km/Kb/Ni 先白亜紀 輝緑;疑灰岩. 赤色チャート石灰岩. シオワッカ冷泉. 図−1 シオワッカ周辺の模式地質図. 32. Hv. じ/ニー′.
(4) イカアイトを晶出させるシオワッカ冷泉水の起源. し口は泉水で満たされた直径1mを越えるほぼ 円形の穴として見られ,絶えず炭酸ガスの泡がプ クプクと出ている。その周辺には噴泉塔の様な石. 2.シオワッカ冷泉の水質 本冷泉は泉質からは高濃度の炭酸食塩泉(図−. 灰華塊は存在しない。湧き出し口は,秋から冬に. 2)である(伊藤,1993;Ito,1999)。シオワッ. かけて周囲の木々からの落ち葉で覆われるが,石. カ地域は阿寒国立公園の南緑に隣接する場所で,. 灰華の沈積が少ない為,落ち葉の表面を石灰華の. 凡そ25km東北東には雌阿寒岳があり,現在も活. 薄層が被覆している程度である。即ち,互いが石. 発な火山活動が見られる。よって,近くには火山. 灰華でしっかり固着されることはない。. 性の温泉が多くあるが,シオワッカ冷泉に類似し. 当地では,石灰華の主成分鉱物としての方解石. た泉質のものは,雌阿寒岳麓(オンネトー湯の滝). の他に,夏期にはmonohydrocalcite(伊藤,1993). や足寄町(町泉源)など周辺の温泉との比較から. が,冬期にはikaite(Ito,1996),雪解け時期に. も見当たらない。このことからは,冷泉水の起源. はvaterite(Ito,1999)の生成が知られており,. が近隣の温泉とは異なることを示す。. このように多種類のCaCO3鉱物が同一箇所で,. 石灰華(CaCO3)を沈積している各地の温泉水. しかも環境変化に応じて見られる場所はシオワッ. は,当然含まれるCa2+,HCO3の濃度が高く,シ. カ以外では知られていない。そのような点からも. オワッカ冷泉のそれらの値もまた同様に高い。更. 水質に関わる湧水の起源に関心が持たれた。. に,Na+,Clの値も共に4,000ppm以上と高い 濃度を示す。石灰華の沈殿が知られる本邦の代表 的温泉17箇所の水質(北野,1990)との比較にお. (単位:g/彪). 温泉名 二股 増富 瀬波 夏油. 湯ノ川 大津 白浜−1 白浜−2. 弟子屈 塩原. Cl HCO3 5.3 4.2 2.0 1.6 4.1 0.53 1.1 4.4 1.3 0.62. 1.70 2.00 0.15 0.70 0.88 0.16 2.30 4.70 0.22 0.40. 伊香保 0.18 0.70 久芳 鹿部. 0.29 0.88 1.6 0.46 1.1 0.08. あたかわ 1.2 0.11 濁川 伏目. 2.3 1.40. 7.3 0.06. シオワッカ:□. 白 浜 :△ その他 :◆ (シオワッカ以外は北野(1990)による). 図−2 HCO。−Cl関係図(本邦の石灰華を伴う主な温泉水とシオワッカ冷泉). 33.
(5) 伊 藤 俊 彦. いて,HCO3−Cl関係図(図−2)からは,本冷. 冷泉水の同位体分析で,酸素同位体比∂OsMけW. 泉の値がそれらの中でも際立って高いことが認め. =−5.9%。,水素同位体比∂D=−59.3%。が得られ. られる。この水質を反映してか,夏の炎天下にお. た。また,足寄地域の天水の酸素同位体比を. いてビーカーに汲み取った冷泉水の表面に,方解. Mizota&Kusakabe(1994)の「日本列島の地. 石の微細板状結晶が晶出し,浮いている様子が観. 表水・浅層地下水の酸素同位体の地理的分布図」. 察された。. から直接求めた。即ち,足寄地方の地理的位置に. 温泉での石灰華の沈積は,「CO32とNa+,Cl濃. 対応して∂OsMOw=−11%。が得られる。その∂180. 度の高い温泉水ほどCaCO3の溶解度が大きく,. 値−11%。をクレイグの式(Craig,H,1961)に代. 大量のCa2+,HCO3を溶解する。その場合CO2が. 入して,水素同位体比∂D=紺RO+10=−78%。が. 逸失することによりCaCO3の溶解度が減少し,. 得られる。これら二つの値は20%。ほど違っており,. 石灰華CaCO3を沈殿する(北野,1954)」と説明. 冷泉水が示す重い同位体比からは,単純な天水起. されていて,シオワッカ冷泉の水質もまたそれに. 源の湧水で無いことは明らかである。冷泉の示す. 合敦した組成と濃度であることが判る。. 特徴的な高塩濃度からは,海水の関与について関. 本冷泉が高濃度の食塩泉であることに注目した 時,以下のことが参考になるだろう。日本各地の. Na+,Ca2+並びにClを主成分とする高塩濃度の 温泉や鉱泉水のほとんど全てが,化石海水か,現. 心が持たれた。. ここでは,桧葉谷(1991)の用いた「海水ある いは化石海水を起源とする地熱水のCト∂H2 (∂D),∂0−∂H2(∂D)の関係図」(図−3)を. 在の海水を起源とすると考えられている。その中. 用い,冷泉への海水・化石海水の関与の可能性を. で化石海水起源で説明のできない兵庫県有馬温泉. 検討した。. や長野県鹿塩温泉などの高濃度の塩水の起源は,. マグマ起源や堆積岩の変成に伴う脱水起源が考え られている(桧葉谷,1991)。. また,SO42が油田塩水(化石海水)には殆ど. 1)足寄地区の天水と海水との混合でシオワッ カ冷泉が生じたとすれば,Cト∂H2(∂D)図. 上において,海水(Cl1濃度:20g/kg)と冷. 含まれていない(太秦・那須,1960)ことや,化. 泉水(Cl1濃度:4g/kg,∂D:−59.3%0). 石海水起源の温泉として論じられている矢立. の2点を結ぶ延長線がCl1濃度ゼロの縦軸と. (SO4216ppm)及び湯ノ沢(1−20ppm)の. 交じわる点が,地域の天水の同位体比に当た. 含有量も,他の秋田・青森県の黒鉱地域や周辺の. る。こうして得られた天水の∂D値−72%。は,. 温泉水と比べ極めて少ないことが知られている。. 先に地理的∂0値とクレイグの式から求めた. シオワッカ冷泉水のSO42含有量も又15.6ppmと. ∂D値−78%。と比べて,大きく違っていない. 少ない値であることから,冷泉水の化石海水起源. ことから,シオワッカ冷泉の起源を海水と足. を考える上での傍証となるだろう。. 寄地域の天水との混合によって説明すること. は可能と思われる。しかし,シオワッカの地 3.冷泉の安定同位体比(6D,6180sMOW) 前述のようにシオワッカ冷泉の高いNaCl濃度 からは,その塩水の起源として化石海水の関与が. は海岸線からは遠い内陸の山中に位置してい ることから,海水が天水と混合する可能性の ないことは明らかである。 2)そこで,化石海水と足寄地区の天水との混. 疑われる。海水の水素並びに酸素の同位対比は,. 合によってシオワッカ冷泉水が生じたとの仮. 天水やマグマ水とは著しく異なることから,海水. 定に立ち,化石(変質)海水の∂180値を,. 起源の地熱水は容易に判別H来る(放棄谷ほか.. 同じく放棄谷(1991)の手法に倣って. 1975など)。. ∂0−∂2H(∂D)図より求めた。足寄地区の. 34.
(6) イカアイトを晶出させるシオワッカ冷泉水の起源. 句ゴ︵蜃︶. ︵軍︶HN亀. *:松葉谷の固から求まる∂D,∂180 Cl−∂2H図= 足寄地区の天水の∂D(∂2H), ∂180−∂2H岡= 想定される化石海水の∂180. □:シオワッカ冷泉(Cl濃度,∂2H値) ■:シオワッカ冷泉(∂180値,∂2H値) ▽:足寄地区の地理的データとCraig(1961)の式からの天水の値 図−3 海水・化石海水起源の地熱水とシオワッカ冷泉の安定同位体比. 地理的データに基づく天水の値(∂0:−11. して論じられている失立鉱泉や津軽湯の沢温. %。,∂D:−78%。)と分析で得た冷泉水の値. 泉(青森,秋田両県の県境にある)の酸素同. (∂0:−5.88%。,∂D:−59.3%。)の2点を プロットし,それらを結ぶ直線を上方に延長 して,海水に相当する∂D値0%。の横軸との. 位体比が参考になるだろう(桧葉谷ほか, 1975)。 両温泉水の∂180値として約+18%。(桧葉. 交点を求めた。その∂180値が化石海水の酸. 谷,1991)の極めて高い値が知られ,それは. 素同位体比に当たる。即ち,化石海水を考え. 今回と同様の方法で求められている。今回得. た場合の∂180値として+10%。が得られた。. られた∂180値+10%。もまた高い値であり,. 高い酸素同位体比は,包蔵水と周囲の岩石と. 上記2つの温泉との比較からも化石海水とし. の同位体交換によって高められることで得ら. て十分取り得る値であることが判る。. れることが論じられている。また,反応する. なお,矢立・湯ノ沢両温泉の起源の化石海. 岩石が石灰岩や炭酸塩鉱物を含む地層の場合. 水は,新第三紀中新世のグリーンタフの包蔵. には,一層大きくなる傾向のあることも知ら. 水とされている(松葉谷ほか,1978)。. れている。. こうして得られたシオワッカ冷泉の∂180 値+10%。が妥当性のある値か否かの判断に は,シオワッカと同様,内陸に在って高い塩 濃度を有し,化石海水との混合による温泉と. 4.石灰華とikaite後の方解石の安定同位体 比(6C,60) シオワッカ冷泉はNa+,Clが高濃度である他. 35.
(7) 伊 藤 俊 彦. に,HCO3濃度もまた本邦の石灰華を伴う温泉(北. 華並びにイカアイト(CaCO3・6H20)後の方解. 野,1990)の中でも極めて高いことが判る。しか. 石の同位体比∂180pDBがそれぞれ−2.09,−3.69%。. し,その原因を先に述べた冷泉水の起源となる化. (FriedmanandO’Neil(1977)の換算式からは. 石海水に直ちに結びつけて論じることは出来な. ∂180sMOW:28.77,27.12%。),また炭素同位体比. い。冷泉中の多量の炭酸イオンの存在は,「地下. ∂13C。。B6.10,4.20%。が得られている(伊藤,2004)。. での石灰岩質岩石と地下水との反応」が起きたこ. シオワッカ冷泉の石灰華(CaCO3)が示す高い. とが示されれば,無理なく説明出来るだろう。地. ∂180値は,天然物の中で最も高い酸素同位対比. 質からも,足寄地域の基盤岩である先白亜紀層(小. を持つ堆積岩の示す備に匹敵するほどの値である. 利別層)には赤色チャート等と共に石灰岩が爽在. ことで注目された。. していることが知られており(三谷他,1958),. 方解石と水の酸素同位体分別は28%。程度(酒. 地下で石灰岩と地下水との反応の起きた可能性は. 井・松久,1996)とされる。冷泉水(∂180−5.6%。). 考えられる。. と上記石灰華(∂180sMOW28.77%。)の間の同位体. それらについて同位体比から検討した。. 分別は約34%。であり,28%。に比べ6%。ほど大きな. CaCO3鉱物の炭素同位体比∂13Cでは,熱水鉱脈. 値である。これに関しては,先に内陸の湖水の例. 中の方解石や堆積岩中の方解石仮像がマイナスの. で述べたようにCO2の逸失で石灰華が生成し,そ. 値を示すのに対して,シオワッカ冷泉並びにカリ. の際に同位体分別が生じることから,冷泉が持つ. フォルニアの塩湖に産するCaCO3鉱物のそれら. 極めて高いHCO3含有量との関連についても関心. はいずれもプラスで,高い同位体比が得られてい. が持たれる。. る(伊藤,2004)。. それについては,同位体比の変動に関わる動的 同位体効果として,解離エネルギーから軽い同位 体を含む結合の方が小さくて断裂し易く,反応が. 5.地質からの検討 シオワッカ冷泉水と石灰華の同位体比を基にし. 一方向にのみ進む反応では動的同位体効果が大き. て,冷泉の起源を化石海水と足寄周辺の天水の混. い(松尾,1989)ことが知られている。即ち,洛. 合により,説明出来ることを示した。また,地質. 存重炭酸イオンが二酸化炭素と炭酸イオンに分解. 的状況もそれを支持するものとなっていることを. する際に,遊離したCO2の方に軽い同位体が濃集. 指摘した。. されるところから(松葉谷ほか,1978),内陸の. 地質に関して既述したことに付け加えるなら. 塩湖ではCa2++2IICO3→CaCO3+II20+CO2の. ば,シオワッカの北東部即ち雌阿寒岳の南側には. プロセスを通して,湖水は次第に重い炭素同位体. 新第三系・中新世の地層が広く発達している。こ. 比へと向かうことで説明される。. の地層は北海道東部地域における石油および天然. しかし,シオワッカ石灰華の炭素同位体比が重. ガスの胚胎層となっており,足寄川本流最上流に. い値を持つ理由は,当然上記とは異なるものでな. は抽徴が,また雌阿寒岳麓のオンネトー湖では天. ければならない。高濃度のNaCl含有量から化石. 然ガス徴候が数多く,噴出して見られる(三谷ほ. 海水起源と推測された冷泉が,地下で海成炭酸塩. か,1964)。従って,本地域での化石海水の胚胎. 岩(重い∂C値を持つ)との反応を経て来たもの. 層として,これら中新世の地層が最も叶能性が高. とすれば,冷泉水からの沈殿物(石灰華)の示す. いと言える。. ∂Cもまた,その炭酸塩岩起源の重炭酸イオンに. 他方,化石海水を混合した水と海成石灰岩との. よる重い∂Cが反映されたものとして説明でき. 反応により,高Ca2+,HCO31イオン濃度の他,. る。. 高い∂0がもたらされたことの可能性を論じた。. 酸素同位体比では,シオワッカ冷泉からの石灰. 36. しかし,化石海水を新第三紀層の包蔵水由来とす.
(8) イカアイトを晶出させるシオワッカ冷泉水の起源. れば,その化石海水との反応を考えた海成石灰岩 (先白亜紀層)は地質時代においてより古く,下. 版会,391p. 松尾禎士(1989)地球化学,講談社,266p.. 松葉谷 治・酒井 均・佐々木 昭(1975)秋田県,青. 位の層準に当たる。. 森県の黒鉱地域およびその周辺の温泉水についての同. 従って,両層が正常な層序関係を保った状態で. 位体化学的研究,地質調査所月報,第26巻,第1号,. は,上位層に包蔵されている化石海水は一旦地下 深部へ向かわねばならない事になり疑問が残っ. 1−13.. 松葉谷 治・酒井 均・上田 晃・堤 真・日下部 実・佐々木 昭(1978)北海道の温泉ならびに火山に. た。. つい ての同位体化学的調査報告,岡山大学温泉研究. シオワッカ周辺の地質図(三谷ほか,1958,1964). 所報告,第47号,55−67.. からは,先白亜紀層と新第三紀層の両層,即ち基. 松葉谷 治(1991)熱水の地球化学,裳華房,pp.139.. 盤である小利別層(先白亜紀層,Pcr)とその上. 三谷勝利・小山内照・橋本 亘(1958)「足寄太」五万分. 位層の川上層群(中新世層,Km/Kb/Ni)の両. の一 地質図幅,同説明書 北海道開発庁,66p. 三谷勝利・藤原哲夫・石山昭三(1964)「上足寄」五万分. 地層の関係は,先白亜紀層の分布する全ての箇所 で両者は断層(凶−1)で接して見られる。この. の一 地質図幅,同説明書 北海道開発け,57p.. Mizota,C.andKusakabe,M.(1994)Spatialdistributionof ∂D−∂1BO values of surface and shallow ground−WaterS. 様な関係が地下でも存在すれば,上位層準に含ま. fromJapan,KoreaandeastChina,Geochem.J.,28,. れている化石海水と下位層準の石灰岩との反応は 起こり得る。従って,「シオワッカ冷泉は,化石. 387−410.. 酒井 均・松久幸敬(1996)安定同位体地球化学 東京. 海水と海成石灰岩との反応に伴って生じた」とす る説は,足寄地域で見られる地質からもその可能. 大学出版会,403p. 太秦康光・那須義和(1960)油田塩水と温泉水の化学成. 性が否定されるものではないと考える。. 分の比較,日本化学雑誌81巻,3号,401−404.. (釧路校教授). 参考文献. Craig,H.(1961)IsotopicVariationinMeteoricWater, Science,133,1702−1703.. Friedman,Ⅰ.andO’Neil,J.R.(1977)Compilationof. StableIsotopeFractionationFactorsofGeochemical Interest,DataofGeochemistry,6th,ed.,U.S.Geol. Surv.Prof.Paper,440−KK.U.S.Gov.PrintingOffice, Washington.11p. 伊藤俊彦(1993)北海道足寄町,シオワッカの冷泉石灰. 華に産するmonohydrocalcite(CaCO3・H20)の産状, 岩鉱,88(1¢),485−491.. Ito,T.(1996)IkaitefromcoldspringwateratShiowak− ka,Hokkaido,Japan,VOl.91,No.6,209−219. Ito,T.(1999)Vaterite afterikaitein carbonate Sediment,Jour.Min.Pet.Econ.Geol.Vol.94,No.5, 176−182.. 伊藤俊彦(2004)本邦産玄能石とアメT)カ西部Pyramid Lake産チノライト,一特に酸素・炭素安定同位体比−, 北海道教育大学紀要(自然科学編),第55巻,第1号, 1−8.. 北野 康(1954)温泉水のCa2十,HCO3,CO32の含有量 にいて,日本化学雑誌,75,872−876. 北野 康(1990)炭酸塩堆積物の地球化学,東海大学出. 37.
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