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理科の授業と生活体験-夜間中学及びフリースクールの授業実践から見えてきたこと-: 沖縄地域学リポジトリ

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Author(s)

盛口, 満

Citation

沖縄大学人文学部紀要 = Journal of the Faculty of

Humanities and Social Sciences(10): 157-170

Issue Date

2007-12-31

URL

http://hdl.handle.net/20.500.12001/6228

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沖縄 大学 人文学 部紀要 第10号 2007

理科の授業 と生活体験

一 夜 間中学及 び フ リース クール の授業実践 か ら見 えて きた ことI

満 要 約 「理科離れ」 といわれ る現状 には、現代の生徒たちの置かれている、生活体験が希薄 な 日常があると思われ る。そ うした現状のなかで理科の授業 に求め られているものは 何か ということを、夜間中学 とフ リースクールの授業実践 を対比させつつ明 らかにし てゆ く。 この中で見えてきた ことは,少ない生活体験 をうまくす くいあげ教材化する 工夫 と、授業の中に生活体験 を組み込む視点であった。 また こうした問題点がある こ とは逆に、今後の授業作 りにまだまだ可能性が残 されていることにも言及するO キーワー ド :夜間中学、 フリースクール、理科、生活体験、珊瑚舎スコ- レ 1. は じめに 理科教育に関 しては これ まで もさまざまな形の実践報告や教材研究の試みがなされてきた。た とえば民間の理科教育団体である科学教育研究協議会は、1958年 に創刊 した 『理科教室』 とい う雑誌を、現在 にいたるまで毎月発行 しつづけ、その誌上において毎号実践報告を掲載 している。 しか しこれまで実践報告 において、夜間中学校や フ リースクール を実践の場 とした報告はあま り なされてきていないように思われる。 『理科教室』 の最近5年分 (2002-06年)のバ ックナ ンバ ーにあたってみたが、各号

2-3

篇ほど掲載 されている実践報告 と銘打たれた ものの中には、夜 間中学校やフリースクールを実践の場 として報告 された ものはなかった。 これは夜間中学校や フ リースクールがやや特殊な教育の場であると考 え られているということに、ひ とつの原因がある のではないか と考え られる。著者は この6年間、 フリースクール において、 また この3年間夜間 中学校 において教壇 に立つ機会 を得た。特 に2007年度、前期の授業実践 にお いて、夜間中学校 や フリースクールの授業での実践結果は決 して特殊事例ではな く、理科教育全般 を振 り返るに値 する視点 を与えて くれるものである、 と確信す るに至 った。 これは この期間に著者が もうひ とつ 別の教育現場に関わ った ことで、よ りいっそ うはっき りする こととなった。近隣の公立中学校の 総合の時間に関わ ったのである。 この総合の時間の教育 目標は 「自分の住んでいる地域 を知 る」 というものであ り,著者の専門 とす る理科 とは直接関わ るものではなかった。 また授業 自体 も、 NPO団体がプログラムを構成 し、現場の教員が進める形をとり、筆者 らはそのサポー ト的な立場 での関わ りであった.が、公立の中学1年生の授業風景を週一回、見学できた ことは貴重な体験 であ り、そ こで強 く印象に残った ことは 「地域 を知 る」 という課題設定 に対 して、生徒たちが現 実感 を持ち得ない ・・・という現状だった。 これは課題の内容 に問題があった ということではな く、生徒の現状を飛び越えて課題が設定 されて しまった、 ということにあると考え られた。例 を ひ とつ挙げたい。授業の中で、 「地域 を知 るために自分の通学路の地図を描 き、そ こで見 るもの を具体的に書き込め」 といった課題が出された。 この課題 を前に生徒たちはなかなか筆 を運べな いでいた。 いわ く、 「描 くよ うな ことなんて無い」 ・・・とい うことだった。 とっさに教壇 に立 - 1

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57-たせて も らい、 い くつかのや りと りを生徒 たち と交わ した。 「た とえば、通学路で見た生き物の 名前を挙げて ごらん」 - ・こうした問いを発する ことで、多少な りとも課題 に取 り組む とっか か りをつかんで も らお うと考 えたのである。その答 えが これ また印象的な ものであった。 「ハ ト、 イ ヌ、ネ コ、 ゴキ ブ リ、 草」 とい うものであったのである。 目の前の生徒たちの くらす 「地域」 がいか に都市化 された ものであ り、そ のなかではぼ 自然 と関係 を断ち切 られたなかです ごしてい る とい うことを、 あ らためて思 い知 らされたのであるO これでは 「地域」 に リアル さを持て、 と いわれて も難 しいのでは と、筆 の進 まぬ生徒たちの気持 ちがわかるよ うな気が した。 これはなに も地域学習 に限 った話ではな く、 ときに口の端 にあげ られ る 「理科嫌 い」 も同質の根 を持つよ う に思われ る。 ところが夜間中学校 の生徒たち とのや り取 りは まった く対照的な ものであったOそ れが何 に起 因す るか といえば、生活体験 の豊か さによるものであろうと考 え られた。 また フ リー スクールの授業実践か らは、生活体験が希薄な生徒たちに対 して どのよ うな授業が有効であるの かが見 えてきた。以下 にお いて、 これ らふたつの授業実践 を報告す る とともに、現代 の理科教育 に必要 とされ る観点 につ いて、論考す る。 2.珊瑚舎スコー レの概要 実践の場 となった、珊瑚舎ス コ- レの概要 について まず説明す る。 学校NPO珊瑚舎ス コ- レは創立者兼校長 の星野人史の手 によって、2001年に沖縄県那覇市樋 川 に設立 された。校舎は既存 の ピル の2階、 3階 を借 りる形 をとってお り、郊外 の商域市佐敷 に 寮、畑、 ガ ンマ リ (これ につ いては後述す る) を借 りて いる。 開校 当初は高等部、専門部の二部 構 成であったが、現在 は昼 間 に開講 して いる中等部、高等部、専門部 に加え、2004年か ら始 ま った夜間中学部の4部構成 となっている。 中等部 は小学校

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年生以上、 中学生 を主な対 象 として いる。 (主な ・・・と書 くのは中学生以 上の場合で も本 人の状況や希望 にあわせて所属す る場合があるためである)基本的 に義務教育期 間 にあた っているため、 中等部 の生徒 は何 らかの理 由で所属 の小、 中学校 に通 っていない生徒で ある。午前 中は各 自の学 力にあわせた個 人学習 を、サポーターが手助 けをす る形態で学習 を進め て いる。午後は珊瑚舎ス コ- レ独 自の講師、講座の授業 をとりお こな って いるC これは平和学の よ うに中等部の生徒 のみの授業 と、音楽 のよ うに高等部や専門部 の生徒 と合同の授業がある。 高等部 は通信制高校 に所属 しつつ通 っている生徒 と、高校卒業程度認定試験 をめ ざ して勉強 を 続 けて いる生徒が いる。午前中は個別学習か、認定試験用 の各教科 の授業 をお こな う。午後は珊 瑚舎ス コ- レ独 自の授業で あるが、 高等部 の場合は学年制なので、学年 (3学年) によって授業 が異なる。 専 門部 は高校卒業以降の学生 を対象 としてお り、 2年制で沖縄 とアジアに関 して学ぶカリキュ ラムが設 け られて いる。 (2年次 にはアジア各国、オ-ス トラ リアへの留学期間がある) 以上、昼間部 の定 員は中等部、高等部各学年、お よび専門部それぞれ15名であ り、07年現在、 合計で23名の生徒、学生が在籍 している。 夜 間中学校は3年制で各学年、定員は20名であるが、 このうち15名は中学校未修 了者 と定め ている。 また夜間中学校 の授業者は全員ボ ランテ ィアである。 3.夜間中学での授業実践 珊瑚舎ス コ- レ夜間中学 に現在通学 している生徒 の多 くは、なん らかの事情 によ り義務教育 を 受 け られなか った経歴 を持つ。珊瑚舎ス コ- レの発行 して いる 『まちかんて い !通信』 か ら、生 徒の事情 の具体例 をい くつか紹介す る。 (珊瑚舎スコ- レ事務局によ り、聞き書 きされた もの)

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-158-盛 口 :理科の授業 と生活体験 「父は病死 と言 っていますが、戦争中に爆風で飛ばされ1週間意識不明にな り、意識は戻 った ものの戦後す ぐに亡 くな りました。私は7歳で した。 (中略)7歳の私が家の世話 を し下 の兄弟 を面倒みていました。 (中略)小学校 1年は行 った り行かなか った りで (以下略 ・・その後学校 には行けなかった ・・)」 = 「4歳の時,父が盲 目にな りました。 (中略)働 き手は母 と2人の姉ですC とはいえ食べ るも のが無 く、近所の子守をさせて もらい芋 をもらって食べていました。 (中略 ・・学校は1年生の ときだけ ・・)8歳か ら 11歳 まで、ある家に女中として住み込み ま した (以下略)」 (2) 「小学校は入学 どころか校門をくぐった こともあ りません。母は病気で私が1歳の時 に死 にま した。その後姉 と兄が相次いで死んで しまいま した。それか らは父が四苦八苦 して残 った私たち 兄弟3人を育てて くれたのです (以下略)」 (3) このように、小学校 も満足に終え られなかった生徒がいる こともあって、夜間中学の授業は読 み書きの基礎か ら始めている。夜間中学は2期制をとっているが、理科は 1年の後期、 2年の前 期、後期及び 3年の前期に授業の時間があるo夜間中学の始業は 6時半で終 了は 9時半。 この間、 45分授業が3コマあるO理科は2コマを続けて授業 しているので、授業のあるのは、隔週 に一度 である。 著者は07年前期、 3年生の理科 を担 当した。 この年度の

3

年生は

1

5

名。年齢は

67-81

歳。小学校 を未終 了の生徒が多 く、修 了者は このう ちの2名である。 授業を始めるに当たって、半期分の指導案はまった く予定がたたなかった。 というのも、著者 が この学年の生徒 を受け持つのは初めての ことであ り、 どのような授業が望 まれているのか未知 数であったか らだ。 またそれ までの2年間著者が担 当した夜間中学の授業は、せいぜ い月に1回 程度のものであったので、その ときは相互の授業のつなが りまで、構築で きなかった ことも関係 している。 初回は授業者の紹介 と生物分野 における自然の見方 を紹介す ることを兼ねて、 「ブタの骨か ら 見る歴史」 という授業をお こな うこととした。 この授業 自体 については、すでに発表 して いるた め、 (盛 口 2003) ここではその概要のみ述べる。 1. ビーバーの奮った木材片 を提示 し、 どんな動物の馨 り跡かを問 う。 2.同様 に硬 いものを馨 る動物 として リスを提示. リスの剥製、頭骨 を観察 させ、頭骨の特 徴 を見て取る。 3, 肉食動物 の頭骨 を見せ、 どんな動物 のものであるかを考 えさせ る。 (教材 としたのはタ ヌキ)生徒か らでた意見の中にあったイヌとネ コについて も頭骨 を提示 し、それ と共 に、 この両者 に見 られる頭骨の違いとくらしを関連付ける。 4. リス、タヌキ とまた異な った様式の歯 を持つ動物の頭骨 を見せ、何 かを問 う。 (ブタの 頭骨を使用) ブタであることを確認 したあと、食性 と頭骨の関わ りをまとめる。 5.沖縄で食材 とされ るテビチ (ブタの肢先部) を例 に挙げ、 ブタの指は何本指であるか を 問う。 6.ブタの指が4本指であるわけを考える。 7.暮 らし方 によって、指の数が変わっていく例をウマの脚の骨 を観察 しつつまとめ、最終 的に、骨か ら生き物の歴史性 を読み取れるということをまとめる。 この授業は夜間中学のために開発 した授業ではないが、授業 を行 ってみると、夜間中学で も好 評であった。それは 「知っている」 と思っていた ことが 「じつはよ くわか らないことである」 と いうことに気づ く、わか りやす い例 を提示できているか らではないか と思 う。た とえば、 ブタの

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-159-頭骨 を見せ て,何 と思 うか と問 うと、多 くの生徒 はヤギではないか と答 えるO また同様 にブタの 指数 も4本ではな くて、2または3本 と答える生徒が多いo これは夜間中学 に限 らず、小、中、高 どの学年で この授業 を行 って も見 られ る傾向であるが、夜間中学の場合、生徒たちは長年 ブタ と つきあって きた分だけ、余計 に 「気づ き」 に驚 くよ うだ。 「昔は ブタを各家でつぶ していたけれ ど、頭 の骨 までわか らんね」 授業 中の こうした発言 にその ことがよ く現れていると思 う。 さらに夜間中学で この授業 を行 って興味深か った点は、 ブタの頭骨 を見せた ことをきっかけに して,各 自のさまざまな生活体験が語 られだ した とい うことだ った。 「ブタの頭はバ ラバ ラにしてた いて いま したよ。頭痛 の ときは こうしてた いた ブタの頭の脳 を 食べたんですよ」 た とえば このよ うな体験が語 られだすのである。 こうした生活体験がつぎつぎに語 られだすの が夜間中学な らではの授業風景 といえるのだが、逆 に、 こうした生活体験 にまつわ る発言がよ り 発言 しやす いよ うな授業 こそ、夜 間中学 で求 め られて いる授業なのではな いか と、気がついた。 これは、生徒たちのそれ までの生活が、別 の角度か ら意味づけされ直す という作業が授業の場の 中で行われ る とい うことで あるか らだ。 つ ま り生活体験 が授業 の中で語 られだす という現象は、 学びが生活 に密接 に関わ って い くことを示唆 している。

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回 目の授業は前回、骨に秘め られた歴史 (つま りは進化)を扱 ったので、それ と関連 させて、 化石 の授業 を行 ったOその際、思 い もかけず、豊かな生活体験が語 られだす場面があった。 実際の化石 の観察、それ を通 して化石 とは何か とい う問 いとまとめ, さらに沖縄 は化石の宝庫 であるということに話が及 んだ ときである。 沖縄 島の土壌 は伝統的 に 「国頭マー ジ

「島尻マー ジ

「ジャー ガル」 な どに区分 されて いる。 この うち沖縄 島南部で広 く見 られ る島尻マー ジは琉球石灰岩が風化 した ものであ り、 またジャー ガルは 「クチ ャ」 と呼ばれ る泥岩が崩れた ものである。 (堀 1992)言 い換 えれば石灰岩は珊瑚 礁の化 石である。 また海成層のクチ ャ中か らも貝や魚類 の耳石な どの化石が しば しば見つか る。 こうした点 で沖縄 島の中、南部地域は化石 の宝庫 とな って いる。 こうした話の うち、生活体験談 を引き出す糸 口とな ったのはクチ ャという言葉であったo 「昔は市場で クチ ャが売 られて いて、それで髪の毛 を洗 ったですよ」 「袋 に入 って、10パ ックいくらで売っていましたよ」 「私 の ところではマスで量 り売 りして いましたよ」 「髪の毛 を洗 うにはアカバナー (ハイ ビスカス) も使 って いま したね」 このよ うな発言がつぎつ ぎにな されたのだ。 なお この場合の クチ ャは泥岩 というよ り、それが崩れて泥 にな った ものであろう (つ ま りはジ ャー ガル)。 この泥 の粒子 が細 か いため、洗髪剤 として使われて いたのである。 このよ うにクチ ャとジャーガルは混同 されて使われ る こともあるよ うで、 「クチ ャとジャーガルは どう違 うのか」 という質問 も授業中にな された。 クチ ャが生活体験談 を豊富 に呼 び起 こしたのは、洗髪剤 としての関わ りだけではな く、 もちろ ん作物 をつ くる土壌 としての関わ りもあったか らだ。 クチ ャを皮切 りに して、他 の土や石につい て も話がおよぶ。南部 はクチ ャと石灰岩及びその風化 した土壌が主体であるので、石灰岩以外の 石 に 「マ-イ シ (真石)」な る呼称がある ことも生徒か ら教わ る。 この授業 を うけて、3回 目以降 の授業 プランをクチ ャと石灰岩 をキー ワー ドとす る ことを決め た。 3回 目 土ので き方、岩 ので き方

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-160-盛 口 :理科 の授業 と生活体験 4回目 沖縄島の地 面の歴 史 5回目 土壌 と植生 6回目 沖縄の野菜 7回目 野菜の歴史 結果 として このよ うな授業の流れ となった。後半部の土壌 と関わって、植生か ら野菜 に話が移 った とき、 この野菜でもさまざまな生活体験談が語 られた。 これか らの理科教育のめざす道 について、最首は 「教師は学習者である」 というデューイの言 葉を引きつつ、論 じているO (最首 2001)夜間中学の場は、 この教師が学習者であるというこ とを強 く感 じさせ られる場であった。戦前か らの沖縄の 自然の変化 を、体 をもって知っている生 徒たちが眼前にいるということは、いろいろな意味で勉強 になった。そ して、夜間中学の生徒た ちの旺盛な発言 を目の当た りにす るにつれ、 まず生活体験 こそが理科 の学習の基本 にあるのでは ないか と考えるようになった。 この点 に関 して,長年高校の化学教育 に携わ ってきた盛 口 (秦) は化学を例にして次のように述べている。 「化学は言 うまで もな く …もの"学です。 日常、身のまわ りにある様々な …ものり に目くぼ り し、関心をもって もらわないことには学習が成 り立ちません」 (盛 口裏 2001) この言葉は著者が公立の中学校の総合に関わる中で感 じた ことを端的に言 い表 している。盛 口 (秦)はまた、 こうした状況の中で、 「学習のす りこみ」ばか りが横行 していると、前掲書 中で警 告を発 している。 この 「学習のす りこみ」 とは 「学習パター ンが商品化 され、テス トで評価 され る学習環境 に、小学校の中学年か ら慣 らされ、すっか り型が決 まっているというべき」現象の こ とであるという。つま り学習 目的がいかに優れていようと、その実態は 「や らされている」生徒 と、 「やったつ もりでいる」教師 という構 図か ら抜 け得ないということだ。その構 図か ら抜け出 す道はどこにあるのか ?また夜間中学の生徒 と異な り、現代社会の中で、生産 の場か らも自然 と 関わる場か らも切 り離 されがちの今の小、 中、高校生は生活体験が圧倒的に乏 しい。そ うした生 徒たちにどんな理科の授業が必要 とされるのか。その ことを、珊瑚舎ス コ- レの高等部の授業実 践をもとに考えてみたい。 4.フリースクールでの授業実践 著者は珊瑚舎スコ- レの高等部 1年、及び専門部1年 にお いて授業 を担 当しているO (07年よ りはボランテ ィアとして関わっている) ここでは このうち07年前期高等部 1年の授業実践 を紹介 する。 高等部1年の授業の名称は 「自然講座」である. (週一回、90分)例年、 この授業では前期 に 「生き物のか らだの しくみに見る、進化の歴史」、後期 には 「ニ ッチをキー ワー ドにして生態系を 考える」 という二つの単元 を扱 ってきたO しか し07年の授業では こうした例年通 りのカ リキ ュラ ムを変更せ ざるをえなかった。 これはフリースクール という場の性格上、年度 によって、対象 と する生徒の人数、状況が変動するためである。 07年の場合、高等部一年の生徒数が少なか った ことに加え、それ までの学習歴が少ない生徒 (不登校経験者)や学習障害 を持つ生徒が含 まれたため、 ある部分、抽象的な思考 を必要 とす る 従来のカ リキュラムを進めるのは難 しいと、途中で判断せ ざるをえなかった。 さらに中等部の生 徒 も合同で授業 を行 う必要にせ まられ、学年の枠 を超えた基礎的な 「自然」 の学習 プログラムを 作っていくことになった。結果 として、 2人の高等部の生徒 と 1人の中等部の生徒が授業対象者 となった。 いずれ も学習歴だけでな く生活体験 も乏 しい生徒たちである。 このため、そのよ うな 生徒たちにとって も関わ りのある自然物 として 「塩 と砂糖」 という二つの物質を教材 とした授業

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-161-を試み る こととした。 この授業の内容 をまず紹介す る。授業の雰 囲気 をつかんで もらうため、授 業 中の生徒の発言 もで きるだけそのまま紹介す る ことにする。 また この授業には、珊瑚舎ス コ-レのスタ ッフをして いる成 人女性 も一人、生徒 として加わ って いる。 これは学習障害 をもつ生徒 のサポー トのためで もあったが、何よ り本 人が理科 を学びなお したいとい う希望 を持 っていたた めである。実際、他 の生徒 たち と対等な立場で授業 に参加 したのだが、 この ことはひいては,中 学、高校で理科 を学習 した ことになって いる多 くの人の中に、学習の成果があま り残 って いない とい うことを奇 しくも物語 って くれた。以下、 生徒 の発言 の中には このスタ ッフの発言 も区別せ ず に含めていることを注記 してお く。 1回 目 「これは何?」 1本の ロウソクを見せ るところか ら授業を始めた。 「ロウソクで しょ ・・・」 ロウソクというのはひ とつの物 の名前であ るo黒板 に 「ロウソク ・・・物」と書 く。物 には材 料があるDた とえば教卓な ら木材 とい うよ うにOでは ロウソクの材料は何 ?と再び問 うたC しか し、は っき りと答 えが返 って こない。そ こで ロウソクの もと、 は ロウである ・・・と言 う。 「え-つ」 この ロウの ことを物質 とい うO 「ロウ ・・・物質」 と板書す るO この ロウをあたためる とどう なるだろ うか。 「とけるよ」 ロウを試験管 の中に入れ、火 にかける。 しば し融 けるさまを観察す る。 この融 けた ロウは放 っ てお くと再び もとの固体 の ロウに戻 る。他 に こうした変化 を見せ る物質 にどんな ものがあるだろ うか、 と聞いたO 「水 と氷」 では塩 をあたためた らどうなるだろ うか。 変わ らな い、融 ける、焦 げる、分か らない この4つの選択肢 を選んで もらう。 4人の生徒が 1人ずつそれぞれの選択肢 を選ぶ結果 となっ た。そ こで試験管 に入れた塩 を卓上 コンロであぶ ってみ る。やがてぱちぱち と試験管のなかで塩 がはぜだす。 「変わ らないよ」そんな声が出始 めた。 「そ うだね。変わ らな い。で もひ ょっ として、物質 のい じめかたが まだ弱いか らか もしれない よ」 - ・こういって、今度 は ブタ ンガスバーナーであぶ り始めた。 「炎が黄色 くな ったよ」 「ガラスは とけな いの?」 やがて試験管が少 し曲が り始 め、 中の塩 は透明な液体 になった。 「えー っ、塩 もとけるんだ-」皆、結構、驚 いて いるD 融 けた塩 を机 の上 に流 しだす と一瞬で固 まって しまう。 「それ って しょ っぱいの?」 - ・こうした声 も聞 こえたので、冷 えた頃 をみはか らってなめ させてみた。 「じゃあ、砂糖 をあたためた らどうなるだろ う?」 融 ける、焦 げる、その両方、わか らな い、 という4つに意見は分かれた。実際にあたためると、 たちまち黒ずみあわ立 ち始める。 こうした砂糖 の性質 を利用 したお菓子がある ・・・ということ

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62-盛 口 :理科の授業 と生活体験 で、 このあ とはそれぞれがベ ッコウアメ作 りにチ ャレンジした。 この授業では塩 と砂糖 を対比 させて物質の世界 を見てゆ くとい う今 回のカ リキ ュラムの導入 を 試みた。 この時点では生徒たちの中にまだ 「融 ける」 と 「溶 ける」 とい うことの違 い もはっき り していない。ただ少な くともよ く見知 って いるはず の塩や砂糖 の中にも知 らな い側面が ある こと を提示できたのではないか と思 う。 2回目 「砂糖 には糖 という言葉がついているけれ ど、他 に

○糖 ってついて いる ものは知 って る?」 この発間か ら授業 を始めた。 「オ リゴ糖」 「三温糖」 「果糖 ブ ドウ糖液糖」 「よ くそんなの知 っているね」 「ジュースに入って いるよ」 それでは ・・・とある袋 を見せ る。 「これは何糖?」 と。 「ヨー グル トに入っているやつだよね」 「で もなんだろ」 一 口ずつなめ させ る。 あんま り甘 くない ・・・との声。実は これが砂糖である。 「えっ、 じゃあ普通 のは ・・・あっ、上 白糖 って書 いてある」 普段砂糖 と呼んで いるものは純粋な砂糖ではない。 これ は砂糖 に、 ある ものを混ぜた ものであ る ・・・と話すOそれは何だろ うか. ここで先 ほ ど生徒 の発言 にあった ジュース を見せ た. (令 成 ジュース) この原材料名に果糖 ブ ドウ糖液糖 の名が挙 げ られて いる。 これ は果糖 とブ ドウ糖 と いう2種類の糖が混 ざった物質である。 このうち、試 しにブ ドウ糖 をなめさせてみる。 「砂糖 よ りもっと甘 くな い」 つま り上 白糖>砂糖> ブ ドウ糖 とい う関係式が成 り立つ。そのため砂糖 にブ ドウ糖 を混ぜて も 甘 くはな らない。結局上 白糖 に混ぜ られているものは、砂糖 よ り甘 い果糖である。実際 には上 白 糖は砂糖 に果糖 ブ ドウ糖液糖 をまぜ る ことで作 られて いるO 「じゃあなぜ ブ ドウ糖なんか混ぜてるの ?果糖だけでいい じゃない」 この生徒 の発言は もっともである。 この発言 を考 えてい く前 に、 もう少 し、物質 と遊んでお くO ブ ドウ糖 を使 って、 スポーツ ドリ ンクを作 ってみた。 スポー ツ ドリンクが点滴 に由来 して いる という話 を紹介 した後 で、各 自、 ブ ドウ糖や塩な どをはか り、水 に溶か して飲むO さて、先ほ どの発言 に戻 って考 えてみ る。なぜ上 白糖 には果糖 だけでな く、 ブ ドウ糖 も加え ら れているのかQ これは砂糖 を分解 した ものが、果糖 とブ ドウ糖 の混合物である果糖 ブ ドウ糖液糖 であ り、 これが砂糖 の甘みの増加 に利用 されて いるためだ と話す。砂糖 は一種類 の物質か らな る 純物質である。 ところが砂糖 を分解す る と果糖 とブ ドウ糖か らなる混合物 となる。 この時点では 授業ではまだ元素記号 を扱 っていない。そのため、説明は何度 も繰 り返す必要があった。砂糖 を 分解す る と砂糖 よ り甘 くないブ ドウ糖 と、砂糖 よ りあまい果糖 に分かれ る とい うのが、何 よ り不 思議に思 うよ うであったO 氷砂糖 をここで配 る。 「あんま り甘 くない」 氷砂糖が混合物 の上 白糖ではな く、純物質 の砂糖である ことを、甘 さか ら確認 した。 -

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63-「氷砂糖 って作 るの難 しそ う」 この発言 を受 けて、氷砂糖 は砂糖 の分子が規則正 しく並 んだ結晶である、 とい うことを説明 し たO逆 に分子が規則正 しく並んでいないのが、前回に作 ったよ うなアメと呼ばれ るものだ。 「他 にもアメ と氷砂糖 の関係みたいなのってある ?」 そんな発言がでる. アメは分子 が規則正 しく並 んでいな いぶ ん、形は 自由自在だ。 一方、結晶は規則正 しく並んだ 分子が ある決 まった形 を作 り出す。 こうした例 として水晶を見せた。 またガ ラスはアメと同 じ状 態だよ ・・・と話す。 砂糖 は ここまで見たよ うに分解 をす る と果糖 とブ ドウ糖 になる。ではさ らに分解す る ことはで きるだろ うか。今 回の授業ではで きるだ け化学薬品 を使わぬよ うにと試みた。 これは もともと珊 瑚舎スコ- レには理科室がないため、化学薬品 も実験用具 もほ とん どない ことがひ とつの理 由に なって いる。加 えて、生徒たちにな じみのない化学薬品ではな く、生活 の中で出会 う物質か ら化 学的な ものの見方 を見つけ出させたい と考 えたか らで もある。 ただ し、 い くつかの化学薬品は使 用す る必要があった。そ のひ とつが ここで使用 した硫酸である。 「硫酸 ってなんか怖そ う」 「人にかけた らとける ?」 生徒が このよ うなイ メー ジを持 って いる硫酸 を砂糖 にか ける。 たちまち黒ずみ、湯気 を出 しつ つ溶岩 のよ うに盛 り上が り始 める。硫酸 には脱水作用があるため、砂糖 中の水分が吸収 され、炭 が後 に残 った ということにな る。 つ ま り砂糖 -水 +炭 ・・・とい うことだ。 「えーっ」 「砂糖 は炭水化物 の仲 間だよ」 「あー つ、言 う、言 う」 「じゃあ、焦げるものって、みんな砂糖 が入 っているの?」 その質問は次回に考 える ことに した。 この授業では塩 や砂糖 を作 っているもの ・・・つ ま り分子や原子の存在 を考 える足がか りを作 る ことをめざ した。砂糖 の中に炭が入 っている ことに生徒 は驚 いて いたが、その驚 きを元 に して、 見える世界か ら見 えない世界へ思考 を進めていきた いC 以上2回分 の授業は細かな ところまで紹介 を したが、以下、授業の続 きは ざっと紹介す るにと どめる。その後、 この授業実践か ら見 えてきた ことをまとめてみたい0 3回 目 口ウか ら炭 をと りだす 沸騰 させた ロウの入 った試験管 を空 中で逆 さに して 自然発火 をさせ る てんぷ ら油の 自然発火 スチール ウール を塩酸で溶か して水素 を発 生 させ るo この水素で シャボ ン玉 をつ くり爆発 させ る。 こう した実験 をもとに砂糖が結局、炭 と酸 素、水素の化合物か らな る ことをつき とめて い く。 いっぽうで鉄 のよ うな物質は単体 とよばれ るものである ことも見て ゆ く。 4回 目 人工ダイヤ を燃やす コイ ンの原材料 を考 える

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64-盛 口 :理科の授業 と生活体験 ホ ッ トケーキを作 る まず、前時の単体、化合物、混合物 の復習 をダイヤや コイ ンを教材 として行 う。そ の後、 身近 な化合物の化学変化 について、重曹 (炭酸水素ナ トリウム) を例 に して、 ホ ッ トケーキ を作 りつ つ見てゆ く。 5回 目 重曹を利用 して、イ ンスタン トジュースを作 る 10円玉を磨き粉で磨 く ・・・金属 とさび 1円、 5円、10円、100円それぞれのコイ ンで電気 を通す ものは どれかを考 える 鉛 を溶かす 仁丹 に金属 を通す これ まで塩 と砂糖 をテーマ として取 り扱 ってきたが、物質 は大 き く言 うと3つに分類できるこ とを紹介 した。 そのひ とつである金属 の性質 につ いて実験 を通 してみて いった。それ をふ まえ、 3大物質 とは、金属、金属 じゃないもの、金属 と金属 じゃないものが くっついた もの ・・・であ る ことを提示 した。砂糖 は金属 じゃな いもの、塩 は金属 と金属 じゃな いものが くっついた もので あることをここでまとめた。 6回 目 鉛 をつかってオ ブジェを作 る 重曹を使用 したお菓子 の観察 中華麺のかんす いとカ レー粉 の反応 前時の復習で鉛 をとか してオ ブジェをつ くった。 この作業 を通 じて のや りとりか ら、融解 と溶 解 の違 いをはっき りさせた。 この中で有機水銀 中毒 につ いてな どにもふれた。 またかんす い とカ レー粉 の実験か ら金属 と金属 じゃないものが くっつ いた ものの中に、 アルカ リと呼 ばれ る物質が あることを見ていった。 7回 目 スチールウール を酸素の中で燃やす マグネシウム リボ ンを燃やす イ ンスタン トカイロの原理 パ ウダー シュガーの粉塵爆発 酸化鉄 の英語名は何 ? 燃 える、 さびる、爆発 というものが酸素 との化合 という同 じ現象である こと考 えてゆ く。 また さびて いるものは もう燃 えな いということに気 づかせる。つ ま り塩が燃 えな いわ けはすで にさび て いるか らである。 8回 目 元素記号の歴 史 元素の種類 水、塩水、醤油、酢、 コー ラに電気 を通す ここでは じめて元素記号 を紹介 した。 さ らに電気 を通す溶液,通 さな い溶液 を見つ ける中で、 次回以降のイオ ンの学習 に話 しをつなげた。

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-165-9回 目 黒砂糖溶液に電気 を流す スポー ツ ドリンクに電気 を流す 豆腐 を作 る 砂糖 の溶液は電気 を通 さないが、黒砂糖 の溶液 は電気 を流す ことか ら、電気 を流す溶液の共通 点 を探 る。原子 とイオ ンにつ いて ごく簡単 に紹介 したあ と、イオ ンの利用 として豆腐 を作 る こと に した。 10回 目 豆乳 とにが りの違 い 牛乳か らカ ッテー ジチーズを作 る スポー ツ ドリンクで豆腐 を作 る 溶液 とコロイ ド溶液 の違 いか ら、イオ ンが コロイ ド粒子 を凝集 させ る働 きがある ことを学習す る。塩な ど、金属 と金属 じゃな いものが くっついた ものが水 に溶 ける とイオ ンになるが、金属 じ ゃないものである砂糖 は水 に溶 けて もイオ ンにはな らない。以上のよ うに塩 と砂糖の違 いを見 る 中か ら、 日常の中で出会 うもの、特 に料理な どにも化学の世界が関係 しているんだよ ・・・とこ れ までの学習 をまとめた。 以上のよ うな実践の中か らい くつかの ことが見 えてきたよ うに思 う0 まず、生活体験 に乏 しい生徒であ って も、塩や砂糖 のよ うな ものには関わ りがあったDつ まり 生活体験が少な くなった とは いえ, まった くゼ ロではないわけであるか ら、その地点か ら授業 を 組み立てる ことは可能 であるということだ。総合的 に見て、生徒たちにとってかけ離れた世界の 話 ・・・という時間 にはな らなか った と思 って いる。それは先 に引用 した盛 口 (義) の 「ものの 学問」 とい う視点 に立脚 したためであろうが、そ の 「もの」をで きるだけ生徒が 日常 に出会 うもの とした ことも、重要な点であった と考 えて いる。た とえば、 この授業実践で使用 した教材 を理化 学教材店で購入 した もの と、一般 に市販 されて いるもの とに分けて書 き並べてみ る。 理化学教材店 硫酸、塩酸、マ グネシウム リボ ン、 ブ ドウ糖、電子 ばか り、 シャー レ、 ビー カー、試験管、試 験管ばさみ 一般 に市販 されて いる もの ブタ ンガスバーナー、卓上 コンロ、 フライパ ン、お玉、 コ ップ、 ロウソク、 食塩、上白糖、砂 糖、 ジュース、 ビタ ミンC、てんぷ ら油、スチール ウール、洗剤、酸素ボンベ (健康 グ ッズ)、 コ イ ン、鉛 (釣 りのお も り)、小麦粉、重 曹、 クエ ン酸、仁丹、電球、 ソケ ッ ト、水晶、重曹を利 用 した創作菓子、 カ レー粉、 ター メ リック、 中華麺、 ソース、イ ンスタ ン トカイ ロ、岩塩、パ ウ ダー シュガー、 ゴミ袋、大豆、酢、醤油、 コー ラ、 スポーツ ドリンク、ニ ガ リ、牛乳、豆乳、マ

シュマロ

その他 人工 ダイヤ、砂鉄

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66-盛 口 :理科の授業 と生活体験 以上のように、市販 されて いるものを活用す る ことで十分化学実験 が成立す る ことがわか る。 また、授業 中のや りとりで気がついた ことであるが、生徒たちが生活体験 の基盤で出会 う物 は やは り時代 とともに変化 して きている。 た とえば実験材料 として使用 した ものの うち、スチール ウールや仁丹は現代 の生徒 には もはやな じみのな い ものであった。 このよ うな変化 もあるので、 教師は 目の前の生徒たちの生活基盤 について、たえず注意 してい く必要があるだろ う。 実践か ら見えてきた ことは もう一点 ある。先 にのべた事 に関 して、 中学校 の理科教育実践 を通 して岩間は、 「H今 の子 どもたちには生活体験が希薄だ 'とい うこ_と娃か な りの教師がきづ いて い るが、それが致命的な こととは多 くの教師が思 っていな い」 と指摘 して いる。 (岩間 2001)さ らに、光 を学ぶ上で欠かせない、 「真 っ暗」 とい う状況の体験 の欠如 を例 に、 「実体験 の中で体験 できなかった ことは、授業で体験 させ る必要がある」 とい う大変 に重要な指摘 も述べて いる。実 践か ら見えて きた点 もまさに この点である。著者 の実践で も同様 の考 えか ら、豆腐作 りな どの、 実験 というよ り体験 を授業の中に組み入れ るよ うに した。 以上の2点 をまとめると、生活体験が希薄な生徒たちの実情 をつかみ、乏 しい生活体験 をうま く生かす授業 を組む ことで、 まず生徒たちの興味、 関心 を授業 の場 に引き寄せ、後、生活体験 を 補充 してい くよ うな授業展開を しつつ理科の学習 目標 を達成 してい くということになろ う。 岩田は 「生物教育の建て直 しと生物学」 の中で、生物学 を例 とす る と、 高校卒業 までのカ リキ ュラム編成は3段階に分け られると述べている。小学校 中学年 までの第 1段階、 中学校低学年 ま での第2段階、そ して高校卒業までの第3段階である。 この第1段階では個別的な基礎学習、第 2 段階では基本法則や事実 の学習、第3段階では人間 と生物世界の関係や歴史 をそれぞれ主 に扱 う べきであると岩 田は主張 しているO (岩 田 2005)この考 えに立つ と、 これ まで述べて きた生活 体験 に立脚 した理科 の授業は、特 に岩 田のいう第1段階で こそ重要である と考 え られ る。ただ し、 現在 にお いてはまだ このよ うな視点 にたった理科教育 を十分受 け られて いな い生徒が、第2段階 以降に進学 している現状がある。 このよ うな ことか ら、 これ まで述べて きたよ うな視点 を、現実 の生徒 に即 して、 中学生以上を対象 とす る授業で も考 えて い く必要があるよ うに思われ る。 冒頭で紹介 した公立 中学 における総合 の時間に、試み として、90分 は どの時間 をも らい授業 を 行 った。 (3回の授業 を行 い、そ の合計が90分で あった) 内容 は夜 間中学でお こな った骨 の授業 を主体 とした ものであるo これ は今、 生徒たちが 自分 の通学地域 に 自然 を感 じられ ないのな ら、 授業の場で骨 とい う自然物 に触れて もらいたい とい う考 えか らである0 結果 として、 この授業後、地域 (著者の勤務校 もこの中にある) の中で授業 を した中学生たち に会 うと、 しば しば声をか け られ るよ うになった。 「新 しい骨、見つけた ?」 「骨、ち ょうだい」 それ もこんな声をか け られ るよ うになったのである。 これは授業 の場で、教師 を媒介 として 自 然物 になにか しらの興味 をもった表れ と見た い。 5.授業の可能性 最後 に、生活体験 は理科 の授業の場だけではな く、学校 とい う場全体 の中で生徒が どう過 ごす か ということにも関わ っている ことについて言及す る。 珊瑚舎スコ- レの昼間部 の生徒 は月か ら木 までは教室での座学が 中心 となっているO毎週金曜 日は これ にたい して 「ガ ンマ リ」 の時間 と銘打たれて いるO ガ ンマ リとは沖縄語でいたず らを意 味 した言葉で あるO 金曜 日は郊外 の南城市佐敷 の畑で の作業か、 同 じく佐敷 の山 に設 け られ た 「ガンマ リ」 で山仕事 をす る ことにな って いる。 このガ ンマ リの作業 とは、一言 で言 うな らばか - 167

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-っての沖縄 の循環型社会 の復元 をめ ざす場所作 りの ことである。具体的 には天水 を利用 した トイ レの設置、か ま どを使 う炊事場の建築、 さ らには宿泊施設の建築 もめざして いる。 夜間中学校 の授業 にお いて、 クチ ャとい う言葉か ら多 くの生活体験が語 られたO しか し昼間部 の生徒 に とっては、 クチ ャは単な る理科用語 として しか認識 され えない時代 のギ ャップがある。 ところが、 ガ ンマ リの炊事場作 りの際 に、 このクチ ャは生徒 にとって印象深 い出会 いのあるもの とな ったQ ガ ンマ リの作業はかつての沖縄 の くらしに造詣の深 い珊瑚舎ス コ- レの講師の一人が 指導 にあた って いる。そ の指導で炊事場 のか ま どを作 る ことになったのだが、か まどの材料がク チ ャであったのだ。 ガ ンマ リ周辺か らクチ ャを採土 し、それ を足で こね、か まどを形作 る。嬉 々 としてクチ ャを足で こねて いる生徒 を見 ると、た とえクチ ャという言葉 を この時点で知 らな くと も、機会があれば この言葉はす ぐ生徒 の こころの うちに落 ちるであろうと思わ された。すなわち、 理科 の授業 に とって生活体験が重要であるな ら、珊瑚舎ス コ- レの理科 に とって、ガ ンマ リの時 間はきわめて重要である ことにな る。 岩 田は前掲 の論文 のなかで人間に とって 自然は他者であ り、そ の他者意識で 自然 を捉える学習 の必要性 を説 いている。 また この他者意識 の形成 は 自然 に意図的 にはた らきかける生産活動にお いて顕著で あるので、 こうした行動的な学 びを取 り入れ る必要性 につ いて も述べているO これか らは理科 の授業枠 にと らわれず、 こうした 自然 と対峠す る場 をどう形作 るか も課題 となるであろ

う。

理科 の授業 にお ける、生活体験 の希薄 さを問題 と して ここまで述べて きたが、逆 に この ことは これか らの学校教育、特 に授業 の重要性 を物語 っているとも考 え られ るO 珊瑚舎ス コ- レの校長である星野は珊瑚舎ス コ- レの教育方針 を次 のよ うに語 っている。 「…授業" を とお して …自分 を創 る= ための手助 けを しますO授業 という言 いふ るされた言葉 の中に、 これか らの学校教育 の大 きな可能性がある と考 えて いるか らです。 あ らか じめ用意 され た知識や技術 を身 につけるための授業ではな く、生徒、教員、教材 の三者 の交流か ら生まれ る力 を育むよ うな授業がそれ を可能 に します」 (4) この星野の文章 にある 「授業の可能性」 という言葉 をこそ、今後 さまざまな面か ら検証 してい かね ばな らな い。 注 (1)珊瑚舎ス コ- レ 『まちかんて い通信 第3号』 2004年 8月 (2)同 『まちかんて い通信 第4号』 2004年 9月 (3)同 『まちかんて い通信 第17号』 2005年 12月 なお、 「まちかんて い」 とは 「待 ちかねて いたよ」 の意。夜間中学校 のある生徒が、入学 に 際 し、 「7歳 の ときか ら自分 の通 う学校が いつかで きる と思 って、60年待ち ま した。夢は実 現す る ものですね」 といった ことに由来 して いる。 (4)珊瑚舎スコ- レ2007年度入学パ ンフレッ ト

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-168-盛∩:理科 の授業 と生活体験 引用 文献 堀信行(1992)「土 のイ メー ジ ・石 のイ メー ジ 一方 名 ・地 名 ・物語 にみ る 自然 とひ ととの交流」 サ ンゴ礁地域研 究 グルー プ編 『熱 い心 の島 サ ンゴ礁 の風土 誌』 古 今 書 院、31-47頁 岩 間滋(2001

)

「生 きる力 を取 り戻す 一昔 と光 か ら考 え る」 最 首悟 他 編 『理科 を変 え る、学 校 が 変 わ る』 七つ森 書館、96-114頁 岩 田好 弘(2005)「生物 教 育 の建 て 直 しと生 物 学」 科 学 教 育研 究 協 議 会 編 『理 科 教 室』48 (5) 星 の環 会、32-35頁 盛 口裏(2001

)

「…ものM に こだわ る化 学 一高校 は 小、 中、 大 の 中継 ぎ」 前掲、 『理科 を変 え る、 学校 が変 わ る』、216-237頁 盛 口満(2003)『骨 の学校 2』 木魂 社、1-246貞 最 首悟(2001

)

「ソ フ トパ スへ の道」 前掲 、 『理科 を変 え る、 学校 が変 わ る』、239-248貢

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ー169-Abstract

It is said that more Japanese students are moving away from the sciences. I think the reason for this is that experiences of most students in their actual lives are becoming meager.

In my essay, I try to clarify what is demanded in science classes comparing the night and daytime classes of an alternative school, "Sangosya Schole" .

Through this process, it has become evident that we teachers need to scoop up the students' statements from their meager experiences and use these to create teaching materials. It is important to program these experiences into the classes. I also refer to the potentials of creating classes with new ideas in the future while facing these difficulties.

Keywords: night class, alternative school, science class, experience in actual life, Sangosya Schole

参照

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