ロシアのAPEC加盟 -- 域内統合・発展への名目的参
加からようやく実質的関与へ (特集 APECはどこに
いくのか? -- APEC研究センターコンソーシアム会
議 2010)
著者
タギル フジヤトフ
権利
Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization
(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp
雑誌名
アジ研ワールド・トレンド
巻
183
ページ
25-28
発行年
2010-12
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
URL
http://hdl.handle.net/2344/00004354
一
はじめに
これまで、アジア太平洋地域に おける経済協力および安全保障に 関連する研究は、ロシア国内の複 数の研究機関が実施してきた。そ のうち二機関は、正式には﹁A P EC 研究センター﹂と呼ばれ、A PEC のウェブサイトのA PEC 研究コンソーシアムのリストに含 まれている︵両機関ともにモスク ワにあり、ロシア科学アカデミー 世界経済国際関係研究所︵ IME MO ︶およびロシア連邦外務省内 に設置されている︶ 。外務省の所 管では、モスクワ国立国際関係大 学 ︵ MGIMO ︶内の東アジア ・ 上海協力機構研究センターもあ る。極東研究所、東洋研究所︵双 方ともモスクワのロシア科学アカ デミーに属する︶ 、経済研究所︵ハ バロフスクのロシア科学アカデ ミー極東支部︶および極東国立総 合大学などの機関は、アジア太平 洋の経済統合をテーマとする研究 に携わっている。一方、ウラジオ ストクの極東国立総合大学内のA PEC 研究センターは、A PEC およびアジア地域に係る調査研究 を制度化すべく二〇一〇年に設立 された 。その目的は 、︵ロシア内 外の︶他のA PEC 研究センター と我々の研究を調整し、A PEC 関連の議論を円滑に進められるよ うにすること、およびそれらをよ り成果志向で有意義な水準のもの にすることである。同センターの 設立は、ロシアが二〇一二年のA PEC の議長国を務めるための備 えでもある 。﹁ハードウェア﹂面 で適切な準備を整えることも重要 ではあるが、 ロシアは ﹁ソフトウェ ア﹂を開発する必要もある。残念 ながら、ロシアではA SC のネッ トワークが十分に整備されていな いのが現実だが、ロシアは少なく ともこの問題に取り組んではい る。また、ロシア政府がA PEC の問題に係るコア・センターとし て位置付けられるような国家機関 としてのA SC を、行政の下に設 立することが望まれている。二
ロシアとアジア太平洋
ロシアの国章である双頭の鷲の 文様を見るとわかるが、 ロシアは、 多くの地域に国土が広がっている ため、経済外交面でどの地域との 関係を重視すべきか迷いがあっ た。ロシアは欧州に関心を向ける べきだろうか? それとも、その 関心を欧州大西洋にまで広げるべ きだろうか? アジアおよびユー ラシアであるべきか? 客観的に 見ると、アジア太平洋地域および アジア太平洋の経済統合は、ロシ ア首脳がどのように宣言したかと は関係なく、地域経済プロセスへロシ
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特 集
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APECはどこにいくのか?
APEC研究センター
コンソーシアム会議2010
ウラジオストク極東国立総合大学ルースキー島キャンパス(イメージ) ロシアの国章のロシアの包括的参加の観点から も、極東ロシアの経済発展の観点 からも、ロシアにとって特別な価 値がある。ロシアは最近、対外経 済政策においてこれまで以上に積 極的にアジア太平洋地域に関与し ている。こうした関与は、同地域 諸国との二国間関係の観点から も、地域の経済統合および多国間 フォーラムへの参加の観点から も、政治色は少ない。 そ れ に 加 え て 、 ロ シアのア ジア 太 平洋地 域 と の 経済 関係が 、 今 の と ころ 他 と 比 べ ま だ 弱い こと は 明 ら かで あ る 。 ロ シアの 対 外 貿 易 に 占 める E U の 割 合 が 五 〇 % を 超 え て いるのに 対 し 、 A P EC 加 盟 エ コ ノ ミー の割 合 は 二 〇 %に過 ぎ な い 。 ま た、 外 国 企 業 お よ び 域 内 、 グ ロ ー バル 生 産 ネッ ト ワ ー ク 等 と の 連 携 を深 め統 合 を 強 め る と い う 面 で は 、 ロシ ア は 後 塵 を 拝 し て き た 。 特 に、 アジ ア太平 洋 地域 に お け る ロ シ ア の経 済 的 存 在 感 の 薄 さ が 、 同 地 域 にお ける ロ シ ア の 外 交 政 策 へ の 取 り 組み に も 影 響 を及 ぼ し て い る 。 こ れは 、 ロ シ ア が 長 年 、 外 交 政 策 の 焦点 を 欧 州 ま た は 欧 州 大 西洋諸 国 に当 て て きた結 果 、 経 済 関 係に つ いて も こ れ ら 諸 国 と の 関 係 を 優 先 して き た と い う 状 況 を 反 映 して い る た めで あ る 。 ロ シアの 外 交 政 策 お よ び 対外経済政策 に 急激 な 変 化 が あ る と は 依 然 と して 言い 難い が 、 ロ シ アはそ の政 策 を 多 様 化 し 均 衡 をとろ う とし て い る。 ロ シ アは、 ア ジア 太 平 洋 地 域 に 関 し て よ り 積 極 的か つ 建 設 的 姿 勢 を 取 り始め て い る。 こ れ は 極 東 ロ シ ア の 経 済 発 展 を促 進さ せ る た め の ロ シ ア政 府 の 取り組みを 見 て も 明ら か で あ る 。
三
ロシアおよびAPEC
一九 九 八 年 の A P E C 加 盟 以 降 、 ロシアは徐々にではあるが着実に A P EC 内での活動を進めてきた。 AP E C に 関 わ る ロ シ ア の 最 近 の 動きを以下にいくつかを示す。 ●二〇 〇 九 年 七月 一 五 日にシ ン ガ ポール で A P E C 高 級 実 務 者 会 合 ︵SOM ︶ が 開 催 さ れ 、そこでロシ ア の 個別行動計画 ︵ I A P ︶ の レ ビュー が 行 わ れ た 。 結 果 は 、 お お む ね 良好 で ロ シ ア の 対外経済政策 が着 実に改 善し 、 国 際 的な規 範 と 調和的 で あ る こ と 、 経 済 の 改革と 開放を維持 し て お り 、 結果と し て AP E C の 主 た る 目 標 に 向 かって 着実 に 歩 を進め て い る こ と が 指 摘 された。 ●二〇〇九年一二月に、 経済発展、 経済統合に係る政府の委員会が設 置された。委員長には、ロシア連 邦の第一副首相︵イーゴリ・シュ ワロフ氏︶が就任、A PEC に係 るロシア省庁間の事業調整を行う ことになった。 ●二〇〇九年一二月に、ロシア経 済発展省の所管の下、二〇一二年 のロシア主催A PEC 関連諸イベ ント開催中に打ち出すA PEC 活 動の重点的方針を検討するための 作業部会が、アンドレイ・スレプ ニョフ次官を長として設置され た。 ●二〇一〇年には、ロシア連邦は A PEC ビジネス・トラベルカー ド︵A BTC ︶制度に暫定参加国 として認められた。これによりA PEC 二一加盟エコノミーすべて が、同制度に現在参加しているこ とを意味する。ロシアは、国際空 港 ・海港にA BTC のファスト ・ トラックレーンを設けている。ロ シアは暫定参加国であるため、ロ シアに入国するA BTC 所持者 は、これまで通りビザを取得しな ければならないだろう︵ロシアの 法律や国際協定により免除されて いる場合を除く︶が、A BTC 所 持者によるビザ申請は優先的に扱 われるだろう。四
ロシアの対外経済関係に
おける重点事項
ロシアの対外経済関係において 七つの重点事項がある。 第一に、 航空機工学、 宇宙産業 ・ 宇宙サービス、 原子力エネルギー、 造船、情報・通信技術、および長 期的に見た場合のナノテク産業の 諸分野での研究開発の専門知識 、 強みを生かし、 ハイテク製品 ・ サー ビスの国際市場において主導的な 地位を獲得することである。 第二に、ロシアは、製品の輸出 を増加させるため、機械製造、農 業・漁業、冶金、化学工業、およ び建設業の分野で国際的競争力の 向上を目指すことである。 第三 は、 ロ シ アが世 界 経 済 に お け る主要 輸 送 拠 点 に な る こ と を 目 的 に 世界 の 輸 送 シ ス テ ム と の 接 続を 円滑 化し 、 ロ シ ア 経 済 が持 つ 潜 在 的 輸 送 能力 を 発 揮す る こ と で あ る 。 第四は、 世 界 の エ ネル ギ ー 安 全 保 障の 維 持のた め ロ シ ア が 積 極 的 に 役 割を 担 い 、 炭 化 水 素を主 成 分と す る石 油 、 天 然 ガ ス な ど の市 場で の地 位を強 化 し て い く こ と で あ る 。 第五は 、ロシアの中心地域と ユーラシア経済地域とを効果的に 結びつけることである。 第六は、ロシアに国際金融セン ターを創設し、およびロシアの通 貨ルーブルを地域基軸通貨にする ことである。 最後に、世界の経済秩序形成にロシアの APEC 加盟
―域内統合・発展への名目的参加からようやく実質的関与へ おけるロシアの役割の強化であ る。 ロシアは、これらをすべて実行 するために、数ある方策の中でも 特に、国境を超えた産業連鎖を形 成し、ハイテク産業への海外直接 投資の誘致を通じて、ハイテク分 野での産業技術連携、世界の主要 企業と提携関係を構築していく予 定である。 E U はロシアの最重要パート ナーであり続けるだろうが、 将来、 ロシアはA PEC での存在感を強 め、アジア太平洋地域の主要国と の協力関係を構築する戦略を重要 視するだろう。五
極東ロシアおよびアジア
太平洋地域
極東ロシアにとっては、アジア 太平洋諸国とのその経済関係が極 めて重要である 。実際のところ 、 その対外貿易︱輸出入合計︱の九 〇 % が 、この地域 ︵特に 、中国 、 日本および韓国︶との間のもので ある。観光業に関しては、アジア 太平洋諸国︵中国、タイ、ベトナ ム、インドネシアなど︶が重要な パートナーである。学術交流もこ の地域に集中している 。例えば 、 ウラジオストクの大学にはアメリ カ、オーストラリアおよび中国の 大学との二つの学位プログラムが あり、 FENU には日本校がある。 ウラジオストクにおける最も人気 のある外国語は 、英語 、中国語 、 日本語、韓国語で、加えて学生は ヒンドゥー語、ベトナム語、スペ イン語、タイ語およびインドネシ ア語も学んでいる。 また、最後ではあるが重要なこ ととして 、ウラジオストクには 、 アジア太平洋諸国一七カ国の領事 館がある。そのため、在外公館の 数では、ウラジオストクはモスク ワとサンクト・ペテルブルグに次 いで第三位である。これらに鑑み て、極東ロシア地域が、ロシア全 体の中でとりわけ、アジア太平洋 地域と広く、深い関係を築いてい るということがわかるだろう。六
二〇二五年までの極東地
域およびバイカル地域の
社会的
・経済的発展戦略
︵二〇〇九年採択︶
諸分野での経済活動の競争力の 強化、経済の効率性の向上、生活 環境の快適化を目標にして以下の とおり基本的行動を定めた。 ●極東地域のエネルギー産業への 投資プログラムの策定。これによ り、エネルギー・電力供給の安定 性向上、 ﹁ボトルネック﹂の解消、 新たな発電容量の実現、およびエ ネルギー効率向上技術 ・エネル ギー節減技術の開発を目指す。 ●輸送インフラへの投資プログラ ムの策定。これは、輸送能力の向 上、バイカル・アムール鉄道なら びにシベリア鉄道の運搬能力の向 上、輸送・物流サービスの質の向 上、そして地域的 ・ 国際的な輸送 ・ 物流システムへの統合を目指すも のである。 ●ロシア極東地域とアジア太平洋 諸国との国境を越えた国際的な連 携 の 主 な 目 標 を 以 下に掲げる。 ● 原 材 料 の 輸 出 か ら 高 付 加 価 値 製 品 の輸出への転換 ● ア ジ ア 太 平 洋 地 域 経 済 統 合 プ ロ セ ス へ の ロ シ ア の 参 加 を 前 提 と し た 経 済の多様化 ● ロ シ ア 東 部 と 北 東 ア ジ ア の 近 隣 諸 国 と の 経 済 的 、 文 化 的 、 人 的 関 係 の 構築と強化 ● 国 境 地 域 に お け る 共 通課題︱経済 、 物流、 輸 送、 エ ネ ル ギ ー 、 環 境 な ど ︱ に関する連 携 協 力 ●中小企業の発展に向けた能力構 築 ●円滑かつ迅速な通関・越境を促 進するための貿易手続きの簡素化七
ロシア
、ウラジオストクを
中心とするAPEC研究
ウラジオストクではA PEC 関 連 の 問 題 に 係 る 会 議 や ワ ー ク ショップなどの開催が計画されて いる。なかでも、ユニークな取り 組みが 、﹁ナジェジュダ号﹂ ︵﹁希 ナジェジュダ号望﹂ ︶と名付けられた帆船を二〇 一一年および二〇一二年にA PE C 加盟エコノミーへの親善使節団 とともに航行させるというもので ある。ナジェジュダ号はネヴェリ スコイ記念海洋国立大学︵ウラジ オストク︶の訓練用帆船であり 、 船上にアド・ホックベースでA P EC 研究センターを設置すること になっている。我々はこの計画の 進捗に関し、加盟国エコノミー国 に随時、情報を提供したいと思っ ている。