中国 自動 車 産業 の現状 と今 後 の展 開
高
村
幸
典
大
島
一
二
1.は じ め に 中 国 の 経 済構 造 は輸 出 型 か ら内 需 型 に大 き く変 貌 しつ つ あ る 。す な わ ち, い わ ゆ る 「世 界 の工 場 」 か ら 「世 界 の市 場 」 が進 展 しつ つ あ る の で あ る 。 つ ま り,こ れ まで の 中 国 の 「安 くて 豊 富 な労 働 力 」 とい う大 前 提 が くず れ,人 件 費 上昇 と人 民 元 高等 に よ り輸 出 型 の存 立 が徐 々 に 困難 とな る状 況 が形 成 さ れ つ つ あ る 。 中 国 が世 界 の 工場 か ら世 界 の市 場 へ 変貌 しつ つ あ る こ との 主要 な要 因 は, 中 国 経 済 そ の もの の発 展 が 第 一 義 で あ る こ とは い うま で もな い が,本 稿 で論 じて い る 自動 車 産 業 に つ い て み れ ば,中 国 政府 に よる 産業 構 造 変 換 の意 図が そ の 背 景 に あ る と考 え られ る 。本 論 で は この 点 を 中心 に論 じて い く。 また,よ く知 られ て い る よ うに,中 国 の 自動 車 産業 は,外 資 資本 の生 産下 請 け 的色 彩 が 濃 く,自 立 的 な 自動 車 企 業 成 立 に は程 遠 い 実情 が あ る が,そ の 原 因 と今 後 の 展 開 に つ い て もあ わせ て論 じて い く。 2.中 国 政 府 に よ る 産 業 構 造 転 換 政 策 (1)外 資 企 業 の 企業 所 得 税 の優 遇 政 策 の廃 止 第1表 は外 資企 業 向 け企 業 所 得 税 の 減免 政 策 の 実態 を示 した もの で あ る。 この 表 は,か つ て の 「二 免 三 減 半 」 政 策 時 の 数値 で あ る 。 こ の 当 時 は,売 上 高 の 中 で 輸 出 額 が70%以 上 を 占 め る 企 業 が 特 に優 遇 され て きた こ とが 読 み キーワー ド:中 国,自 動車産業,世 界の工場,世 界の市場取 れ る が,こ の 政 策 は2007年12月 末 で廃 止 され た 。 現 状 で は先 端 技 術 型 企 業 は相 変 わ らず15%で あ るが,そ れ を除 い て は, 外 資 企 業 も中 国 一 般企 業 も一律25%で あ る。 この よ うに,1990年 代 か ら一 貫 して 継 続 して きた 外 資 企 業 お よ び外 資 と の合 弁企 業 の企 業所 得 税 の優 遇 が廃 止 され,一 般 の 中 国企 業 と同等 の競 争 条 件 とな っ た の で あ る 。 第1表2007年 末に廃 止され た外 資企 業 向け企 業所 得税 優遇 政策 単 位:% 1∼2年 目 3∼5年 目 6∼8年 目9年 以 上 一 般 企 業 免 税 7.5 15 輸 出型企 業 で 輸 出70%以 上 免 税 7.5 10 先 端技術 型企 業 免 税 7.5 10115 資料:「大 連 経 済技 術 開発 区投 資 案 内』から作 成 。 (2)人 件 費 の 上 昇 よ く指摘 され て い る よ うに,中 国 の 人件 費 は上 昇 の一 途 に あ る 。 第2表 は 中 国 の 主 要 地 区 の 主 要都 市 の最 低 賃金 の推 移 を示 した 。 第2表 主 要都 市の最低 賃金 の推 移 単 位:元/月 2009年 2010年 2013年 2013年12009年 比 較 深馴市 1000 1100 1600 1.60倍 上海市 ・ ・1 1120 1620 1.69倍 大連市 700 ・11 1280 1.83倍 西安市 ・11 760 1000 1.66倍 資料:中 国 政府 発 表 をベ ースに筆 者 が とりまとめ た。 この 表 か らは,輸 出 型企 業 の 集積 地 で あ る深 馴 市 ・上 海市 よ り も東 北 地域 や 内 陸 地域 が深 馴 市 ・上 海市 を上 回 る上 昇 率 を みせ て い る 。 出稼 ぎ労 働 者 で あ る 農 民 工(農 村 出 身 労働 者)が 多 く集 まる深fJll市・上 海 市 よ り も東 北 地域
の 大 連 市 お よび 内 陸 地域 の 西 安 市 の 方 が,2009年 と2013年 の上 昇 率 を比 較 した場 合,上 回 っ て い る こ とは,た だ,た ん に最 低 賃 金 が労 働 力 の需 要 と供 給 の バ ラ ンス に よっ て 決 まる もの で な く,政 府 の指 示 に よる こ とを示 して い る と筆 者 は 理解 して い る 。 つ ま り,地 域 間 の経 済格 差 の縮 小 と国民 の不 満 を そ らす 目的 で,中 国 政府 主 導 で 賃 金 上 昇 が 実 施 され て い る もの と理 解 して い る 。 この よ うに,こ れ まで 喧伝 され て きた 「安 くて豊 か な労 働 力 」 を大 前 提 と す る 輸 出 型 産 業構 造 は そ の前 提 が崩 れ て い る の で あ る 。 (3)労 働 者 福 祉 制 度 の拡 充 「農 民 工 」(農 村 出 身 出稼 ぎ労 働 者)の 不 満 を解 消 す る た め に,近 年 福 祉 制 度 が 拡 充 され て きた 。 しか し,こ の こ とは,労 働 者 を雇 用 す る 際 の会 社 側 の コス トが 上昇 して い る こ と を示 して い る 。 い う まで もな く,中 国 の福 祉 制 度 は全 国 一律 で は な く,地 方単 位 で異 な っ て い る の で,個 人 が 受 け る給 付 お よび各 企 業 の負 担 額 に は ば らつ きが存 在 す る 。 以 下 の 第3表 は,大 連市 金 州新 区経 済技 術 開発 区 の事 例 で あ る 。 第3表 大 連市 金州新 区経 済技 術 開発 区における福祉 制 度の概 要 単 位:% 種類 会社 負担 分 個 人負 担分 定年 養 老 20 8 失 業保 険 2 1 公 傷保 険 0.1∼1.1 0 出産保 険 o.s 0 医療 保 険 2.5 2元1月 住 宅積 立金 18 14 合 計 43.4^-44.4 23%+2元1.月 資料:「大 連 経 済技 術 開発 区投 資 案 内』から作 成 。 福 祉 政 策 の 充 実 は,前 述 の 人 件 費 の 上 昇 と相 ま っ て 企 業 の 負 担 を増 大 さ せ,か つ て の 「安 くて 豊 か な労 働 力 」 を大 前 提 とす る輸 出型 産業 の存 立 条 件
の 前提 を大 き く変化 させ て い る の で あ る 。 (4)人 民 元 の対 ドル レー トの ゆ る や か な上 昇 中 国 の 経 済 力 の増 大 や外 貨 準 備 高 の増 加 等 に よ り,国 際通 貨 体 制 の 中 で 人 民 元 の対 ドル レー ト上昇 が 余儀 な くされ て い る 。 一 方 で,輸 出 型企 業 を保 護 す る た め に,急 速 な 人民 元 高 は 回避 した く,人 為 的 ・政 策 的 に 人 民 元 を実勢 よ り もゆ る や か に上 昇 され た い の が,中 国政 府 の 本音 で あ ろ う。 この よ うに,人 民 元 の 国 際 化 は進 展 しつ つ あ る もの の,依 然 不 十 分 で あ り,中 国 の輸 出 入 に お い て 主 に 決 済 に使 用 され て い る通 貨 は米 ドル で あ る。 当 然 の こ とな が ら,人 民元 の対 米 ドル レー トが上 昇 す れ ば,輸 出者 で あ る 中 国 サ イ ドか ら見 て,人 民 元建 て の 手取 りは減 少 す る こ とに な る 。 第1図 人 民 元 の 対 米 ドル レート 資料:中 国 人民 銀 行 発 表 をベ ースに筆 者 作 成 以 上論 じた よ うに,輸 出 型 を さ さえ た 制度 ・前 提 が大 き く崩 壊 して い る。 中 国 政府 の 意 図 と して は,産 業 構 造 を輸 出型 か ら内需 型 に変 換 して,地 域 格
差 や 経 済格 差 の是 正 ・社 会 保 障 制 度 の 充 実 ・大 学 卒業 者 の雇 用 の増 大 等 を め ざ し,現 状 の 共 産 党 政権 へ 対 す る 国民 の不 満 の 目を そ ら した い の が,本 音 で あ る と筆 者 は 考 え て い る 。 3.中 国 自動 車 製 造 会 社 の 現 状 の 課 題 と今 後 の 展 開 中 国 の 産 業構 造 が輸 出 型 か ら内 需 型へ 変 換 す る な か で 中 国 の基 幹 産業 の一 つ で あ る 中 国 の 自動 車 産 業 は外 資 資本 の生 産 下 請 け 的色 彩 が色 濃 く残 っ て い る 。 なぜ そ うな っ て い る の か,そ の状 況 か ら脱 却 す る た め に 中 国 政府 は どの よ うな 政 策 をい ま まで打 ち 出 して きた の か,そ の結 果 は ど うで あ っ た か,等 を 検 証 す る と同 時 に,中 国 自動 車 産業 の今 後 の展 開 に つ い て論 じて み た い 。 (1)現 状 中 国 で 生 産販 売 され て い る車 の カ テ ゴ リー 大 き く分 け て 以 下 の論 じる 四種 類 に分 類 で きる 。 まず,第 一 に 上 海 汽 車 ・第 一 汽車 ・東 風 汽車 ・北 京 汽 車 ・長 安 汽 車 ・広 州 汽 車等 と外 国 資 本 との合 弁会 社 が生 産 ・販 売 す る外 資 ブ ラ ン ド車 が あ る 。 シ ボ レー ・パ サ ー ド ・カ ロ ー ラ ・シ ル フ ィ ・シ ビ ック等 で あ る 。 次 に上 記 合 弁 会 社 が 生 産 ・販 売 す る 中 国合 弁 自 主 ブ ラ ン ド車(中 国 専 用 車)が あ る。 中 国販 売 限 定 車 で あ る 「理 念 」:広 汽 ホ ン ダ(広 州 汽 車+ホ ン ダ)が シ テ ィ をベ ー ス に 開発,「 思 銘 」:東 風 ホ ンダ(東 風 汽 車+ホ ンダ)が シ ビ ッ ク を ベ ー ス に 開 発,「 啓 辰 」:東 風 日産(東 風 汽 車+日 産)が 開 発, 「宝 駿 」:(上 海 汽 車+GM+柳 川 五 菱 汽 車)の 合 弁 で あ る 上 海 通 用 五 菱 汽 車 が 開 発 「ス プ ラ シ ュ」:昌 河 ス ズ キ(江 西 昌河 汽 車+ス ズ キ)が 開発 等 が あ る 。価 格 面 で は,当 然 の こ とな が ら,中 国 自主 ブ ラ ン ドの ほ うが外 資 ブ ラ ン ド車 よ りも廉 価 で あ る 。 三 番 目は外 資 資 本 との合 弁 会社 が 自主 開発 して生 産 ・販 売 す る 中 国 自主 開 発 車 が あ る 。 「上 海 汽 車 」:栄 威 ・名 爵 ・上 海牌,「 第 一 汽 車 」:紅 旗 等 が あ る が 販 売 実 績 が 乏 し く,中 国新 車 販 売 に 占 め る シ ェ ア は1%未 満 で あ る 。
最 後 の 四番 目 に外 資 資 本 と合 弁 して い な い 民 族 系 の 自動 車 会 社(奇 瑞 ・ BYD・ 吉 利 ・長 城 他 多 数)が 生 産 ・販 売 す る独 自 ブ ラ ン ド車(自 主 ブ ラ ン ド車 と も呼 ば れ る)が あ る 。 ま と め れ ば,外 資 ブ ラ ン ド車 ・中 国 合 弁 自主 ブ ラ ン ド車 ・中 国 自主 開発 車 ・独 自ブ ラ ン ド車 の 四 つ に 区分 で きる 。 (2)大 手 企 業 の構 造 現状 の 制 度 下 で は,外 資企 業 は 中 国 の 自動 車 製 造 会 社2社 とま で合 弁 会 社 を設 立 で きる 。 トヨ タは 第 一汽 車 と広 州汽 車,ホ ンダ は東 風 汽 車 と広 州 汽 車 な どが 典 型 的事 例 で あ る 。 欧米 系 で は,GMが 上 海 汽 車 と第 一 汽 車,VWも 上 海 汽 車 と第 一 汽 車 と合 弁会 社 を 設 立 して い る 。 しか しな が ら,中 国 自動 車 側 で は合 弁相 手先 で あ る外 資 企業 の 数 に制 限 は な い 。 第2図 は 大 手5社 の 一 角 を占 め る 長安 汽 車 集 団 の事 例 で あ る 。 こ の会 社 は外 資3社 と合 弁会 社 を設 立 して い て,事 実上 生 産 下 請 け の色 彩 が 強 い。 この 図 か ら もわ か る よ う に,生 産 下 請 け 的 な 色 彩 が 濃 く,設 計 ・部 品 評 価 ・調 達 ・生 産 ・販 売 ・ア フ ター サ ー ビス とい う製 造 会 社 の基 本 的 な サ イ ク ル が確 立 して い な い の が 実状 で あ る 。 自立 した 自動 車 会 社 に は,程 遠 い実 情 が あ る 。 第2図 中国 自動車 会社 の大 手(長 安 汽車 集団)の構 造 資料:筆 者 作 成
(3)中 国 自動 車 産業 の構 造変 換 を主 目的 に した 自動車 購 入へ の補 助 金 導入 近 年,中 国 自動車 産 業 の構造 変換 を 主 目的 と した 自動 車 購 入 へ の補 助 金 が 導 入 され た 。 以 下 そ の 内容 をみ て み よ う。 1)小 型 車(1600CC以 下)の 自動 車 取 得 税 の減 税 日本 に も新 車購 入 時 に 自動車 取 得 税(地 方税)が あ る が,中 国 で こ れ と類 似 した 税 制 が存 在 した が,現 在 は 廃 止 さ れ て い る。 税 率 は,2009年 に10% か ら5%に 減税 され,2010年 末 で 終 了 した 。 2)低 燃 費 車補 助 金(エ コカ ー補 助 金) 2010年6月 ∼2011年 末 に終 了 した。 購1入時 に3000元/台 を 支 給 す る と い う制 度 で あ る。 当 時,外 資 ブ ラ ン ド車:17車 種,民 族 系 の 独 自 ブ ラ ン ド 車:13車 種 が 対 象 と して認 定 され た 。 民 族 系 の独 自 ブ ラ ン ド車 の ほ う が, 外 資 との 合 弁会 社 の外 資 ブ ラ ン ド車 よ り認 定 時 に優 遇 され て い た 。 3)「 汽 車 下 郷 」 政 策 「汽 車 下 郷 」 政 策(農 村 へ の 自動 車 普 及 政 策)は,2009年 か ら 実 施 さ れ,2010年 末 で 終 了 した 。 農 業 用 の 三 輪 自動 車 等 を淘 汰 し,1300CC以 下 の 小 型 車 を購 入 す る場 合,5000元 を上 限 に購 入 額 の10%を 支 給 す る とい う制 度 で あ っ た 。 (4)中 国 自動車 産 業 の構造 変換 を 目的 と した 自動 車 購 入 時 の補 助 金 政 策 この 制 度 は,独 自ブ ラ ン ド車(奇 瑞 ・BYD・ 吉 利 等)が 得 意 とす る小 型 車 へ の補 助 が 中 心 で あ り,外 国 資本 との合 弁 で な い民 族 系 の独 自ブ ラ ン ド車 販 売 の 支援 を 目的 と した が,外 資 との合 弁 会 社 が小 型 車 の販 売(中 国合 弁 自 主 ブ ラ ン ド車)を 強化 した の で 当初 の 思惑 とは異 な る 方 向へ 進 行 した 。 これ は外 資 との合 弁会 社 の 下 請 け 的 な色 彩 か らの脱 却 に つ な が らず,従 来 路 線 の維 持 を助 長 した 。 した が っ て外 資 との合 弁 会 社 の 自主 開発 車 に は進 展 が まっ た くみ られ な か っ た 。
また,販 売 台 数 の 面 で は,需 要 に先 取 りに過 ぎず,補 助 金 終 了後,販 売 台 数 は 鈍 化 した 。2010年 以 降,2013年 まで 中 国 の新 車 販 売 台 数 の伸 び 率 は鈍 化 して い る 。 以 下 の 第4表 は,主 な 自動 車 会 社 の 販 売 実 績 で あ る。 上 海 汽 車 ・第 一 汽 車 ・東風 汽 車 が 外 資 ブ ラ ン ド車 が 主 な 自動 車 会 社 で あ る。 奇 瑞 ・BYD・ 吉 利 汽 車 ・長 城 汽 車 が 民族 系 で独 自ブ ラ ン ド車 を製 造 販 売 して い る 。 第4表:主 な自動車 会社の販 売実 績 単 位:万 台 会社名 2008年 販 売 実 績 2010年 販 売 実 績 2008年1 2012年 比 2012年 販 売 実 績 主 な 外 国 資 本 上海汽車 172 358 2.07 ..・ GM・VW 第 一 汽 車 153 192 1.67 300 VWト ヨタ 東風汽車 132 272 2.06 1: 日産 ・ホ ン ダ ・プ ジ ョー 奇瑞 35 62 1.77 54 BYD 19 52 2.73 46 吉利汽車 22 42 1.91 49 長城汽車 13 36 2.77 49 資料:中 国汽車工 業協 会発 表に筆者 が加筆 (5)中 国 自動 車会 社 の現 状 と課 題 自動 車会 社 は 地 元 に税 収 と雇用 を もた らす の で,地 方 政府 に は貴 重 な存 在 で あ る 。 一 般 に 中 国 で は 「税 収+雇 用 」 が 中 国 自動 車 会 社 の構 造 転 換(自 主 開発 車 の 開 発 ・製 造 に よ り自立 的 な 自動 車 会 社 を め ざす)よ り も優 先 され て い て, 中 国 の 自動 車 会社 が 自立 した 意 味 の 自動 車 会 社 へ 変貌 す る こ とへ の 阻害 要 因 に な っ て い る 。 以 下 の例 か らみ られ る よ うに,そ れ ぞ れ の 地 方 政府 は 地域 に お け る生 産 の 維 持 や 拡 大 を 目的 と した独 自の補 助 金 制 度 を採 用 して い る 。 中 国 の 自動 車 会 社 が 自立 した 自動 車 会 社 に変 貌 す る 目的 とは,ま っ た く相 反 す る政 策 で あ
中 国 自動 車産業 の現 状 と今後 の展 開 る 。 (事例1)重 慶 市(長 安 汽 車 集 団 の生 産拠 点)で は,地 元 の長 安 汽 車 が 市 内 で 生 産 し た車 が 対 象 で あ り,1600CC以 下 の 小 型 車 の 購 入 に最 高3000元 の補 助 金 を支給 す る 。 (事 例2)西 安 市(BYDの 生 産 拠 点)は,BYDが 西 安 泰 川 汽 車 を吸 収 し た 拠 点 で あ り,BYDの 生 産拠 点 の統 廃 合 に よ り,西 安 のBYD(旧 西 安 泰 川 汽 車)の 生 産拠 点 は 淘 汰 され る可 能性 が あ り,地 方 政府 は そ れ を危 惧 して い る 。 また,大 手 自動 車 会 社 の トップ の椅 子 が共 産党 政府 の 人事 ロ ー テ ー シ ョ ンに 組 み 込 まれ て い て,中 長期 的視 野 で経 営 に取 り組 め な い こ と も大 きな弊 害 に な っ て い る 。 (6)中 国 自動車 会 社 の今 後 の展 開 今 後 の展 開 と して,筆 者 は 次 の 二 つ の シ ナ リオ を想 定 して い る 。 シ ナ リ オ① は,「 税 収+雇 用 」 を重 視 す る見 地 か ら,当 面,現 状 の体 制 が 続 き,自 主 開発 車 の 開発 に 進展 が み られ な い シ ナ リオ で あ る 。 こ の シ ナ リオ で は 自立 した 自動 車 会 社 へ 変 貌 は 難 しい 。 しか し,こ の 可 能 性 が 極 め て高 いo 周 知 の よ う に,中 国 の都 市 部 で の 交 通 渋 滞 や 駐 車 ス ペ ー ス の不 足,PM 2.5に 代 表 さ れ る よ うな大 気 汚 染 の深 刻 さ は,日 本 を は る か に超 え てお り, 環境 的 に は都 市 部 で の 自動 車販 売 の今 後 の大 きな拡 大 は,す で に 困難 な状 況 に あ る 。北 京 市 や 上 海市 で は,す で に新 車 の購 入 制 限 が な され て い て,他 の 都 市 へ の 拡 大 は 時 間 の 問 題 で あ る 。 また,農 村 部 で は,所 得 が都 市 部 よ り低 く,販 売 台 数 の面 で は農 村 部 で の 大 きな拡 大 は現 状 困 難 で あ る 。 この よ う な状 況 下 で,今 後,1年 間 の 新 車 販 売 台 数2000万 台 以 上 の 水 準 を維 持 して,さ らに 毎 年,前 年 実績 に対 して上 乗 せ を 図 る た め に は,今 ま で 以 上 に完 成 車 の 輸 出 に依 存 せ ざ る を え な い と考 え られ る。 こ の 点 に つ い て は,後 述 す る 。
シナ リオ② は,中 央 政府 の新 指導 体 制 の 方針 の も と,自 主 開発 車 の 開発 が 進 み,下 請 け 的 色彩 の 強 い 製 造会 社 か ら,自 立 的 な 自動 車 会 社 へ 脱 皮 す る シ ナ リオ で あ る 。 この た め に は,合 併 等 に よる 強 固 な 連携 が必 要 で あ る 。 中 国 政府 は 自動 車 産業 を3∼5社 の 大 企 業 に集 約 して,上 位10社 の シ ェ ア を90%に したい と考 え てい る(国 家 発 展 改 革 委 員 会 や 商 務 省 発 表 に よ る)。 た だ企 業 の 集約 は生 産拠 点 の統 廃 合 に よ り,税 収 や雇 用 の喪 失 に つ な が る地 域 が 発 生 す る 可 能性 が 高 く,現 状 の 共 産 党 政権 へ 不 満 の 目が む け られ る可 能 性 もあ り,積 極 的 に は推 進 で きな い事 情 が あ り,こ の シ ナ リオ の可 能性 は低 い と考 え る 。 具 体 的 な事 例 と して,2012年1月 江 西 省 景 徳 鎮 に お い て,長 安 汽 車 の 生 産拠 点 の再 編 に 反発 して,ス トが発 生 した事 例 が あ る 。 こ の事 例 で は,長 安 汽 車 集 団 が 当 時 の 長安 ス ズ キ と昌 河 ス ズ キ の統 合 を計 画 して,景 徳 鎮 に あ る 昌 河 ス ズ キ を重 慶 に あ る 長 安 ス ズ キへ の統 合 を計 画 した 。 ス トとい う事 態 を 収拾 す る た め に 景徳 鎮 の あ る江 西 省 政府 は 昌河 ス ズ キ の親 会 社 で あ る江 西 昌 河 汽 車 の 株 式 の70%を2012年5月 に取 得 した 。 そ の 後,そ の 株 式 は2013 年11月 に大 手 の一 角 で あ る北 京 汽 車 集 団 に転 売 され た。 景 徳 鎮 か ら生 産 拠 点 を今 後移 動 させ な い とい う確 約 を と りつ け た上 で の売 却 と思 わ れ る 。 (7)中 国 自動 車会 社 の 完 成車 輸 出 地 方 政 府 の 「税 収+雇 用 」 を第 一 の 目的 に して,今 後 も毎 年2000万 台 以 上 の新 車 を生 産販 売 し,さ らに毎 年,前 年 実績 に対 して上 乗 せ を 図 る た め に は,今 後,今 まで 以 上 に 自動 車 輸 出 に依 存 せ ざる を得 な い と考 え られ る 。海 外 生 産 で は,中 国 国 内 の 雇用 が確 保 で きな い か らで あ る 。 2015年 末 まで に,ASEANIO力 国 は,地 域 内 の 関税 の撤 廃 ・輸 出 入 手 続 き の 共 通化 ・簡 素化 が 実現 す る 。 さ らに 地域 内 の 道路 や港 湾 設備 の整 備 がす す め られ,物 や サ ー ビ ス の 円 滑 な交 流 が 進 む 。 この 統 合 の結 果,ASEAN10ヵ 国 は そ れ ぞ れ独 立 した 国 で あ る が,経 済 の面 で は,国 境 が な くな り,単 一 販 売 地域,単 一 生 産 地域 に な る 。
元 来,ASEAN地 域 へ は,日 本 の 自動 車 会 社 は1960年 台 か ら進 出 して, 販 売 に 占 め る 日本 車 の シ ェ ア は80%近 くを 占 め る。ASEAN共 同 体 の 設 立 に よ り,単 一販 売 地域 ・単 一生 産 地域 とな る の で,日 本 の 自動 車 会 社 だ け で な く,韓 国 ・ア メ リカ の 自動 車 会 社 も生 産 能力 増 加 や新 規 生 産拠 点設 立 の動 きが加 速 して い る 。 単 一 生 産拠 点 の 具体 例 と して は,ト ヨ タの 部 品 メ ー カ ー で あ る トヨ タ紡 織 は ラオ ス に 「トヨ タ紡 織 ラオ ス 」 を 設 立 して,自 動 車 用 シ ー トカバ ー な どの 内 装 部 品 を2014年4月 か ら生 産 を開 始 す る。 こ れ は タ イの トヨ タの 完 成 車 工 場 に納 入 予 定 で あ る 。 メ コ ン経 済 圏 の最 適 な場 所 で部 品 を生 産 して,最 適 な場 所 で 完 成 車 生 産 をす る とい う動 きで あ る 。 この よ うな 動 きに た い して,中 国 の 自動 車 会 社 は どの よ うな動 きを とる で あ ろ うか 。 前 述 の 「雇 用+税 収 」 を最 優 先 す る立 場 か ら,生 産 拠 点 をASEAN内 に移 転 して,ASEAN内 で生 産,販 売 す る戦 略 は と ら ない,あ る い は と る こ とが で きな い と筆 者 は 考 え て い る 。 しか し,一 部 に,長 城 汽 車 の タイ の生 産拠 点 の 設 立 の 動 きは あ る が,筆 者 は例 外 と理 解 して い る 。 タイ で は,車 種 の な か で ピ ック ア ッ プ トラ ック の シ ェ アが 高 く,50%弱 を 占 め て い る。 長 城 汽 車 は ピ ック ア ップ トラ ック の 生 産販 売 で は,世 界 指 折 りで か つ 中 国 で一 位 で あ る か らで あ る 。 中 国 の 自動 車 会 社 はASEANと 中 国 南 西 部 を結 ぶ 南 北 経 済 回 廊 を活 用 し て,関 税 軽 減 政 策 を利 用 してASEAN内 で 中 国生 産 の 完 成 車 を販 売 す る と考 え られ る 。 この展 開 の 上 に,さ らに ミ ャ ンマ ー の ダ ウ エ ー や モ ー ラ ミヤ イ ン を借 港 して,イ ン ドや ア フ リカ に完 成 車 を輸 出 す る と考 え られ る 。 この ル ー トを活用 す れ ば,マ ラ ッカ 海 峡 を 通過 す る場 合 よ り も時 間 的 に 四 分 の 一程 度 に な り,さ らに 運賃 も安 くな る 。 さ らに海 賊 が 出没 す る マ ラ ッカ 海 峡 を通 過 しな い の で安 全 も確 保 され る 。 外 資 資 本 との合 弁会 社 も,独 自ブ ラ ン ド車 を生 産販 売 す る民 族 系 も,中 国 の 内 陸 部 で の販 売 を強化 す る た め に 内 陸 部 に新 規 生 産拠 点 を設 立 して い る。
これ は 内 陸 部 で の 販 売 増 を 第 一 の 目的 に して い るが,同 時 に,ASEANで の 販 売,さ らに ミ ャ ンマ ー の 二 つ の港 を借 港 して イ ン ドや ア フ リカへ の輸 出 に つ な が る 戦 略 で もあ る 。 例 え ば,VWが 新 彊 ウ イ グ ル 自治 区 の ウ ル ム チ市 と四 川 省 成 都 市 に生 産 拠 点 を設 立 して い る 。GMは 子 会 社 の上 海 通 用 五 菱 汽 車 の 生 産 拠 点 で あ る広 西 チ ワ ン族 自治 区柳 川市 の生 産拠 点 を増 強 して い る 。 こ う した 中 国ASEAN南 北 経 済 回 廊 の 中 国 側 の 入 口 は 雲 南 省 の 昆 明 で あ り,内 陸 部 で 生 産 した 完 成 車 のASEANで の販 売,さ ら に イ ン ドや ア フ リカ へ の 輸 出 の拠 点 とな る もの と考 え られ る 。 以 下 の 図 は 中 国 自動 車会 社 の2013年 まで の 新 車 販 売 台 数(輸 出 台 数 含 む) と今 後 の 予想 で あ る 。 第3図 中 国の新 車販 売台 数 資料:中 国 汽車 工 業協 会の 発 表 による こ れ ま で,輸 出 台 数 の も っ と も 多 い 年 は,2013年120万 台 前 後 で あ り, わ ず か に 新 車 販 売 全 体 に 占 め る シ ェ ア は5%程 度 で あ っ た 。 し か し,前 述 の
よ う に 中 国 国 内 販 売 の大 幅 の 伸 びが 今 後 大 き く期 待 で き な い環 境 下 で お い て,完 成 車 輸 出 に力 を入 れ ざる を え な い と筆 者 は予 想 して い る 。 4.ま と め に か え て こ こ まで み て きた よ うに,中 国 が世 界 の工 場 か ら世 界 の消 費 地 に転 換 しつ つ あ る 環境 下 に お い て も,中 国の主たる基幹 産業 である 自動車 産業 は外 資資 本 の 生 産 下 請 け 的色 彩 が色 濃 く残 っ て い る 。本 稿 で は,そ の原 因 お よび今 後 の展 開 に つ い て論 じて きた 。現 在 の 共 産党 政権 が継 続 す る 限 り,今 後 も現 状 の 路 線 の 延 長線 上 に あ る と筆 者 は確 信 して い る 。 中 国 自動 車 市場 の現 状 は,古 代 の春 秋 戦 国 時代 を思 わせ る よ うに,多 くの 外 資 との合 弁会 社 と独 自ブ ラ ン ド車 自動 車 会 社 が乱 立 して い る 。 こ う した な か で,世 界 の 潮 流 と して は,ガ ソ リ ン車 は 環 境 面 で 課 題 が 多 く,低 公 害 の 次 世 代 自動 車 に傾 い て い る 。 また,中 国 国 内 の 環 境 悪 化 に よ り,こ の趨 勢 は ます ます 強化 され る で あ ろ う。 しか し,中 国 の 自動 車 会 社 は ハ イ ブ リ ッ ト車 ・電気 自動 車 ・プ ラ グ イ ンハ イ ブ リ ッ ト車 ・燃 料 電 池 自動 車 へ の 研 究 ・開発 の 分 野 で 大 き く立 ち遅 れ て い る 。現 在 ,話 題 に なってい る PM2.5に よ る大気 汚 染 問 題 の 主 な 原 因 は,自 動 車 本 体 の 排 気 処 理 能 力 で は な く,使 用 され て い る ガ ソ リ ンの精 度 に あ る と もい わ れ て い る が,中 国 の次 世代 自動 車へ の取 り組 み が,今 後 も強化 され る こ とは不 可 避 で あ ろ う。 この 次世 代 自動 車 の研 究 ・開発 の た め に は,現 状 よ り規 模 の大 きな 自動 車 会 社 の存 在 が 必 要不 可 欠 で あ り,生 産 下 請 け か ら脱 却 して,自 立 した 自動 車 会 社 に 変 革 しな い か ぎ り,実 現 は 難 しい と考 え る 。今 の ま ま で は 次世 代 に環 境 面 で 大 きな 負 の 遺 産 を引 き継 ぐ こ とに な ろ う。 自立 した 自動 車 会 社 へ の変 革 が 求 め られ て い る 。 参 考 文 献 南 亮 進 ・牧 野 文 夫編 著 『中 国 経 済 入 門』 日本 評 論社.2012年 南亮 進 ・牧 野 文 夫 ・羅歓 鎮 著 「中 国 の教 育 と経 済発 展』 東 洋 経 済 新 報社.2008年
加 藤 弘 之 ・上 原 一慶 編著 「現代 中 国 経 済 論』 ミネ ル ヴ ァ書 房.2011年 佐 久 間 信 夫 ・黒 川和 子編 著 『多 国籍 企業 の経 営 戦 略』 白桃 書 房.2013年
(た か む ら ・ゆ きの り/桃 山学 院大 学 兼 任 講 師) (おお しま ・かず つ ぐ/経 済学 部 教 授/2014年4月1日 受 理)
中 国 自動 車産業 の現 状 と今後 の展 開