学校と社会を結ぶ音楽教育 Ⅲ ─ さまざまな文化にもとづいた音楽活動を教室に! ─
8
0
0
全文
(2) 音楽教育学第49−2(2020). 図1 10月19日の授業概要. 《Cherokee Morning Song》( ア メ リ カ, チ ェ. 2.Campbell の「世界音楽教授法」および TAS モデルをもとにした授業実践. ロキー族の歌). 《Resham Firiri》(ネパールの歌). 高須 裕美. 教材の歌詞は,それぞれの言語で書いたものであ. る。音階などにも固有な音楽的要素を見ることがで. 1)問題の所在. TAS モデルが,異なる文化や形式を持つ音楽に取. きる。一方,ベトナムの唱え歌と同様の遊びうたは. り組む際のフレームワークとして有効性を持つもの. 日本にも存在し,またチェロキーの歌におけるカノ. であるかどうかがこれまで検討されてきた。本事例. ン,ネパールの歌におけるロンドのような構造は,. では,TAS モデルの提案者である坪能が,世界音楽. 他の文化の音楽と共通性を持つ。授業ではこのよう な音楽の共通性と固有性に着目した。世界の音楽に 触れる授業は教科書等にも出てくるが,それぞれの 音楽が持つ共通性と固有性から触れることで世界の 音楽を身近に感じることが出来,子どもたちが音楽 を通して世界のつながりを自然に心地よく感じてく れたらと考える。アドバイザーである Campbell お よび高須から提案された曲をもとに子どもへの実践. の教材化の方法として,音楽の固有性や共通性に着 目していることから,Campbell の WMP(世界音楽教. 授法)と比較しながらその有効性について検討し た。具体的には,TAS モデルの音楽教育実践を通し て,筆者および Campbell が Adviser(A)として関. わった役割と TAS モデルの有効性について述べる。 2)Adviser としての活動内容 . Adviser に該当する専門家として,作曲家,音楽. を考える中で,これまで知らなかった新しいレパー. 教育研究者,音楽学者の3者が挙げられる。本事例. トリーと出会えたこと,また Campbell の「世界音. では,音楽教育研究者である Campbell と高須が担. にも大きな収穫があったと感じる。. 本事例全体の具体的な役割を列挙する。. 楽教授法」をもとに実践を考えることが出来たこと. 当した。ここでは,まず,Adviser の役割について. -44-.
(3) 学校と社会を結ぶ音楽教育 Ⅲ. ① 楽曲の提供 ② 選曲のねらいと音楽に関する情報の提供 ③ Campbell の「世界音楽教授法」を Teacher と 確認. ④ Adviser 同士の情報共有. ⑤ Organizer(坪能)との打ち合わせ. 次に,筆者はフィールドワークなどにより世界音 楽を収集した Campbell の著作(2008)に掲載され. 図2 P.S. Campbell(2004)による世界音楽教授法1). ているおよそ300曲から15曲を選曲した。その中か ら Teacher である岩井が1曲を選んだ。. しかし,Campbell 著のベトナムの伝統的な歌を. 教授法1)は,子どもへの曲の動機付けとして,. 収集した楽曲資料(1990)は,この事例に活用する. 曲の印象や,様々な楽器や声の音色について意識し. ことはできなかった。本事例の Supporter であるベ. て聴く活動である。. トナムからの留学生には,馴染みのない曲だったか. 教授法2)では,打楽器の音を手拍子で真似た. らである。ベトナムの音楽文化の流行が速く伝承文. り,少しずつ旋律を口ずさんだり,舞踏様式を取り. 化が根付いていなかったためなのか,居住していた. 入れてみたりすることで音楽的な特徴に気付きなが. 地域の違いなのかと推察される。しかし,世界音楽. ら聴いている。. からアジア地域の音楽2曲を教材にしたのは,近. 教授法3)は,現在聴いている音楽をそのままの. 年,日本は近隣諸国からの留学生や移民を受け入れ. 様式で演奏することを目的に聴く活動であり,複数. 国際化が進んでいるが,アジアの音楽を教材として. の授業にまたがることも考慮しながら,ここまで聴. 開発することはあまり行われておらず,今後も教材. いてきた音楽を(部分的でも良い)模倣し,演奏す. 化が求められるからである。. る活動につなげていく。. そこで,Supporter からいくつかの唱え歌や手合. 教授法4)は,音楽づくりになるか,即興的表現. わせ遊びを提供してもらい,それらの音楽的な構造. になるか,その音楽から発展した劇活動になるのか. (リズム,発音,抑揚,意味)を調査しながら,ネ. はそれぞれの授業によって単元が変わってくるが,. パールで知られている楽曲とベトナムの手合わせ歌. 子どもの創造活動の始まりとして発展させていく。. の教材化に取り組んだ。. 教授法5)は,楽曲の学びが,文化・言語・歴. 3)5段階の「世界音楽教授法」. 史・地理・文学・科学・映像・芸術表現に発展する. Campbell(2004)は,「聴く」ということに重点. 可能性を持つ段階である。教師は,音楽を子どもに. をおいた5段階の「世界音楽教授法」を下記のよう. 学ばせるだけでなく,文化的背景や価値観を伝える. に示している。この教授法の前提に,子どもが「何. ことに貢献できるものであるとし,他の教科の専門. となく聴く活動」から「意識して聴く活動」という. 家と一緒に展開する可能性もあることを述べている。. 導入があることも述べており,様々な形で聴く活動. 特徴的なのは,世界音楽を楽譜や形式的な要素を. を大切にしている。 1)Teaching Music Globally(2004)から高須が作成した。 -45-.
(4) 音楽教育学第49−2(2020). 中心に教えているのではなく,民族音楽学の知見か ら聴く活動を学習の中心に位置付けていることであ る。「どのように感じるのか?」という感覚的に聴 取する活動から「何がどのように聴こえるのか?」 と分析的に聴取する活動へ移行し,そして知的な理 解に留まらず,最終的には独創性を持つ創造的な活. and Temple Yards: Traditional Music of Viet Nam, World Music Press, U.S.. Campbell, P. S.(2004)Teaching Music Globally: Experiencing Music, Expressing Culture, Oxford University Press.. 3.世界音楽の授業化に向けて:TAS モデル. 動に展開しているところにある。. と WMP. 4)両者におけるサポーターの位置付け この事例では,世界音楽教授法の1)~4)のプ. 田中 多佳子. ロセスを TAS モデルに合わせて授業実践として試. 1)世界音楽の範疇. みた。多文化国家である米国の文化的背景の中で教. 学習指導要領第一次(試案) (1947年)では「ヨー. 鞭をとる Campbell は,諸外国の民族・文化を背景. ロッパ音楽」を基礎とすることが各所に明記されて. に持つ「演奏家」を,大学の授業やワークショップ. いた。第二次(試案)(1952年)では「ヨーロッパ. に度々招聘している。実際に演奏してもらうことを. 音楽」は消え,「音楽という世界共通語」という表. 実践活動の中で重要視しているからである。この. 現が現れた。以来,何度改訂が重ねられても,「民. 「演奏家」が TAS モデルにおける Supporter に該当す. 族音楽」「諸民族の音楽」「諸外国の音楽」,「わが国. る。今回の実践では,世界音楽を教材化するために. の音楽」などが加えられるにつれ,それらを除く. 海外からの留学生や多くの Supporter が参加した。. 「音楽」は何をさすのかが曖昧になり総体としての. が,TAS モデルをさらに有効なものにしていくので. 音楽 ethnic music」という語は,元来,非キリスト. Campbell は基調講演の中で,Supporter の代替を. た語であるから使用するべきではないし,今日,英. 見る事ができるような ICT の導入についても肯定. traditional music と解されることが多いので使う必要. TAS モデルの3者の理想的なバランスを保つこと はないだろうか。. 果たす視聴覚教材として,世界音楽の実際の演奏を 的に考えていることを述べている。しかし,TAS モ. 「音楽」の定義がないまま今日に至っている。「民族 教徒・非西洋の音楽に対して侮蔑的に使用されてき 語で「ethnic music」というと各々の国の伝統音楽. もない。文字通りヨーロッパの音楽もクラシックも. デルは,社会から学校へ演奏家を招き入れ,子ども. わが国の音楽もすべて併せたものが「世界の音楽」. や教師が実際に演奏する音を聴き,一緒に活動する. であるという共通認識には当分至りそうもない。だ. というモデルであることから,これからこのフレー. が,地球規模で見れば,今日の音楽科授業で取り扱. ムワークを発展させていくためには,Supporter の. われている教材の文化的バランスは決して良くはな. 確保が一番大きな課題になるだろう。. い。そんな観点から,これまであまり教材として光 が当てられることのなかった独特な音楽的魅力を持. 参考文献. つ様々な音楽を,バランスよく扱おうという主張を. Campbell, P. S.(2008)Tunes and Grooves for Music. 込めて「世界音楽」という語を使うことにする。. Education, Pearson Prentice Hall.. Phong N. & Campbell, P. S.(1990)From Rice Paddies. 2)世界音楽の教え方 さて,「日本・アジア・ヨーロッパという音楽の. -46-.
(5) 学校と社会を結ぶ音楽教育 Ⅲ. 三角点」などと世界音楽のバランスに言及し,わが. かなりハードルが高い。そこで,現場教員と相談の. 国の音楽科教育に大きな影響を与えた先駆者は民族. 上,インド音楽の演奏家に細かい注文をして演奏を. 音楽学者の小泉文夫である。2015年よりその門下有. してもらい,授業に不可欠な質の高い映像資料を試. 志で小泉の音楽教育論を再検証する共同研究を進め. 作した。これを用いた授業のいくつかが計画されて. 2). てきた 。当時は貴重だった様々な「世界音楽」の. いる。. 公演や視聴覚資料制作を実現した功績は大きいが具. 4.The Plurality of Worlds, the Plurality of. 体的授業化の方法にまでは触れていない。. Musics. そのような折,2016年,第28回小泉文夫音楽賞の 受賞者として来日した Campbell の存在を知った。そ の提唱する WMP やワシントン大学で毎年開催され. 今田 匡彦 ウォーカー(Walker 1996, p. 13, 今田訳)は以下の. る夏季ワークショップに関心を抱き,渡米して授業. ように述べる。「音楽や言語などの文化を基盤とす. や講義を参観したり,今回の来日に際して度々の講. る人間の行動が生得的である,という実験結果は,. 演を聞いたり意見交換を行ったりする機会を得た。. 生物学,人類学,心理学のいずれからも得られたこ. 様々なルーツを持つ教室の子どもたちの背景たる音. となどない。人間は自らの存在のための基本的適応. 楽を,徹底的リスニングを通じてわが物として口ず. 能力を持つには違いないが,人間の行動が文化的文. さめるようになるまで親しめば,自然にその文化的. 脈によってどうのように変化するかとなると,予想. 背景にも興味や敬意がわく,というごく自然な主張. のしようもない。人間の音楽行動は,ある特定の環. は,むしろ人種差別的偏見を強める今日のアメリカ. 境に於ける存在論的条件,社会的関係性,生産的関. では受け入れられにくくなってきたという。. 係性などを通して多角的に研究するしかないのだ」. その一方で,私は数年前から坪能由紀子からの提. 音楽の普遍項は,民族音楽学による音響の構造原. 案で,研究対象であるインド音楽を教材とする TAS. 理と行動分析(McAllester 1971;Blacking 1973) ,音. モデルによる授業開発に取り組んできた。 3)方法論としての TAS モデルと WMP . 楽心理学による知覚行動分析(Harwood 1976)のい ずれからも発見されることはなかった。人間の存在. このように別々に考えてきたものが,まさに同一 ライン上に学んだのがこのセッションであった。子 どもと教え方をよく知る教員(Campbell の場合は. を消し去れば,当然動物音楽学(e.g., Mache 1983;. Herzog 1941)も立ち上がるが,動物という変数が 追加されても,音楽の普遍項は不明だ。つまり,す. 教え子の研究者だった)と音楽や教育を本質的にと. べてを包摂する音楽など存在しないのだ。事象を唯. らえる研究者,そして音楽の本質を実演によって直. 物論的に包摂するトータルな世界は存在しない,と. 接伝えることのできる音楽家との3者の協働で授業. したガブリエル(Gabriel 2017)は,しかし,並列. を構築する TAS は理想的な形だと思う。だが,現. 実的には時間も予算も限られた教育現場の教員には. し孤立したローカルな小世界は,いくらでも存在す ると主張する。異なる対象領域を〈量的〉に収斂し 一つの世界とみなす自然科学主義への,哲学からの 挑戦である。彼の哲学は,それらのローカルな小世. 2)2018~2021年度「日本伝統音楽と民族音楽を位置付け た学習理論構築と実践開発─小泉文夫の理論を軸に─」 (権藤敦子代表,基盤C18K02625). 界は連結可能であり,その連結にはヘジェモニー闘 争が無い,とする。では,並列し孤立したローカル. -47-.
(6) 音楽教育学第49−2(2020). な小音楽とは,なんだろうか。TAS モデルのそれぞ れのキャピタルが小音楽を示唆することは間違いな いだろう。たとえば S という小音楽には,プロの演. 奏家,民族芸能者,歌舞伎役者,能楽師,ジャズや. d ’Arion, Klincksieck, Paris.. Walker, R.(1996)Can We Understand the Music of Another Culture?, Psychology of Music 24, pp.103-130.. ロック・ミュージシャンなどが,A には民族音楽学. 5.基調講演から. 者,脳科学者,音響物理学者,心理学者,人類学者. 音楽の伝統を知ることの大切さ:子ども自身. などがいるかもしれない。問題は,歌劇場で声を響. の音楽を,そして世界のすべての音楽を. かせるオペラ歌手やコンサート・ピアニスト,或い は演歌歌手が,自分たちの対象領域を「孤立した ローカルな小音楽」とは考えないことである。彼ら. 1)チャイルドロア. Patricia Shehan Campbell. 私たちは西洋音楽に一番慣れ親しんでいますが,. は自らの技術で一人でも多くの観客に感動を与える. それは音楽の一部にすぎません。世界中の音楽を見. ことにプライオリティを置くが,量的戦いに敗れた. ていくと本当に多様であり,私たちは一つの音楽の. lost majority(大多数の敗者)は,その技術を他者. 伝統を受け継いではいるけれど,もう一つ別の音楽. とにより,敗者復活戦に挑むといった具合なのだ。. ます。. (大抵の場合は子どもたちや若い世代)に教えるこ このような弊害は T の属する小音楽にも,合唱コン クール,吹奏楽コンクールの〈強豪校〉として現れ. る。彼らは音楽という極めて質的な領域に〈強者〉. の伝統を認識することによってそれが分かってき ~《Unbroken Circle》を口ずさむ~. 音楽の伝統とは全く変わることがなく,強く同じ ものを保持していて,世代を超えて変わることはな. 〈弱者〉という概念を持ち込む。音楽教育学に求め. いと思われがちなのですが,今歌ったアメリカの歌. られる役割は,ガブリエルが自然科学に挑んだ哲学. は絶対変わらないのでしょうか? そんなことはあ. と同じだ。ローカルな小音楽を連結し,子どもたち. りません。いろんな人たちが違ったやり方で歌い,. にヘジェモニー闘争の外側にある音楽の方向性を示. 違った楽器が入る,伝統とは必ずしも変わらないも. すために,TAS モデルは重要な役割を果たす。. のではなく,このように新しい特徴を持ったものが 生まれてくる場合もあるのです。. 引用・参考文献. それに対して,長年海外からの影響があっても,. Blacking, J.(1973)How Musical Is Man? Seattle: University of Washington Press.. Gabriel, M.(2017)Why the World Does Not Exist., Polity Press, Cambridge.. Harwood, D.(1976)Universals in Music: A Perspective. 世代を超えてあるいは一千年以上全く変わらない文 化的な伝統,例えば日本の雅楽,といったものもあ ります。 最近,民族音楽学者の著した本には,伝統や文化 遺産の変化について書いているものが何冊もありま. from Cognitive Psychology, Ethnomusicology 20 No.3,. す。私たちは,自分たちの文化遺産のみを専ら学ぶ. Herzog, G.(1941)Do Animal Have Music?, Bulletin of. すし,そこから新しい伝統を作っていくこともでき. Mache, F. B.(1983)Musique, mythe, nature, ou les Dauphins. 今日の子どもたちは素晴らしかったですね。そし. pp. 521-533.. こともできるし,それを多角的に学ぶことも可能で. the American Musicological Society No.5, pp.3-4. るのです。. -48-.
(7) 学校と社会を結ぶ音楽教育 Ⅲ. て岩井先生が子どもたちと一緒に,私たちに見せて. てくれた時には,歌に何が託されていたでしょう. くださった授業も素晴らしかったです。子どもたち. か? もちろん歌の美しさ自体も大切ですが,ベト. には子どもたち独自の音楽的伝統があることを,目. ナムの人々からのメッセージもこめられていたはず. の前で,私たちに示してくださったと思います。. です。そして子どもたちがアメリカの先住民族,. 子どもたちが遊びながら歌い,楽器を演奏し,互. チェロキーの曲も歌ったのですが,子どもたちは,. いに影響し合う,それを素晴らしい先生のもとで. 歌こそが無形の文化遺産であるということを,音楽. やっていくことで,子どもたち自身のフォークロ. を通じて私たちに伝えていたと言えるでしょう。. ア,つまりチャイルドロア(Childlore,子ども独自 の文化をさす)が形成されていくのです。. 音楽的伝統を受け継ぐ方法としては,私たち大人. ~ I’ve been Working on the Railroad ~(《線路は続く よ》の原曲)を歌う). が子どもたちに伝達し,子どもがそれを教室を超え た Big Musical Culture(大人が承認した大きな音楽. この曲はアメリカでは教科書にも載っているし,. 文化)として学んでいくというやり方があります。. どこでも歌われている曲で,私も子どもの頃からこ. こうして彼らは大きな音楽文化からレパートリを獲. の曲を聴いて育ちました。でもこの曲には黒人をか. 得する。でもそれはきちっと形を定められた,西洋. らかったり侮辱したりするといった背景があるので. 的な音楽である場合が多いのです。. す。線路工事で働く黒人の貧しい生活,厳しい労. 今日の授業では大人から子どもだけでなく,子ど. 働,そして家族と離れ離れになった様子を歌った歌. もから子ども(と言っても優秀な先生のもとではあ. です。これが白人の娯楽になった時,写真にもある. るんですけども)へと伝えられる歌,つまり Little. ように黒人をからかう歌になる。この歌にはそう. ができていて,それは例えばネパールの歌,ベトナ. です。. Heritage(子どもたちの手になる伝承)というもの. いう相反する二つのメッセージがこめられているの. ムの歌などをもとにした独自の音楽文化を形成して. 教材としての歌では,つまり子どもたちが歌を聴. いました。. く時,歌う時,自分たちでつくる時に,こうした歌. 2)音楽の背景にあるもの. の背後にある「要素」に着目することが大切です。. それでは「歌」にはどんな意味があるのでしょう. もちろんいわゆる「音楽的な要素」も重要です。歌. か?. として適切かどうか,楽器での演奏に際して子ども. ・自らの音楽表現と文化理解の運び手としての歌. たちの発達段階に適しているかどうかなどです。で. ・人々の歴史,文化遺産,社会的な価値観を表すも. もこれらとともに,その歌の背景について考えるこ. のとしての歌. とも必要です。 3)世界の音楽文化における共通性と相違点. ・無形の文化遺産 ・口承伝統そして,口承による表現の形. 音楽には我々に近い音楽と遠いものなど,いろい. ・歌とそれ以外の声を使った表現(chants, rhymes,. ろあると思います。それらの共通性について,文化. poems, proverbs, riddles, tales, narratives な ど が 挙 げ. やその他の違いを超えた人間の音楽として,比較し. られている). ながら考えていくことが大事です。またそうしたも. 今日,子どもたちがベトナムの歌を私たちに歌っ. のすべてにある相違を,対比的に考える必要がある. -49-.
(8) 音楽教育学第49−2(2020). でしょう。私たち自身の文化の音楽と,アメリカの 先住民族であるチェロキーの音楽,そしてベトナム の音楽などとの対比です。. どもたちは教師の歌を聴いたり,CD などで鑑賞し たり,それらの美しい歌をつくったベトナムや,ネ パールや,チェロキーの人たちがどんな人たちで. 私たちが音楽の伝統という時,大きな音楽の伝統. あったかを想像し,理解していくのです。. と小さな音楽の伝統を考える必要があります。北ア. 私たち教師には,西洋の芸術音楽のみを教える,. メリカの先住民の場合,子どもの音楽と大人の音楽. あるいは自分が重要だと思う音楽のみに限定する,. は分かれています。大きい音楽と小さい音楽との両. あるいは自分たちの伝統的な文化の音楽だけを教え. 方を考えることによって,私たちは音楽の伝統をカ. る,というのではなく,その先へ進む,という大き. リキュラムの中に取り入れることができるのです。. なチャレンジが必要です。今日の授業のように,子. 小泉文夫はまさにこの点で,世界に大きなイン. どもたちを新しい世界へと導くことが大切なのです。. パクトを与えました。音楽にはいくつもの似た要素. こうして私たちは世界について考え,私たちのま. があること,でもそれらが音楽の中でどう取り扱わ. わりの社会について考えていきます。私のように多. れているかは,日本,ブラジル,ナイジェリア,あ. 文化社会にいると,本当に多くの民族的コミュニ. るいはアフガニスタンで,つまり様々な音楽的伝統. ティーがまわりに存在するのです。これらを知るた. において,まったく違っています。そこにはいくつ. めに自分たちで歌を歌ったり,YouTube やヴィデオ. もの解釈の仕方があり,また多くの表現があること を,私たちは知る必要があるのです。. などで音楽を鑑賞したりしながら,他の文化の音楽 家たちを知ることができるのです。. 多文化的(multicultural)な音楽や,いろいろな. さて,この部屋で行われた子どもたちのセッショ. 文化が混じり合った(Intercultural)音楽を通して,. ンに,ここで賞賛をおくりたいと思います。子ども. 文化というのはどういうものなのか,自分たちの文. たちはいろんな言語でいろんな音楽を歌っていまし. 化がどういうもので,他の文化がどういうものか,. た。ここで考えるべきは,今私たちはどこにいるの. またそれらがどのようにつながっているのかという. かを知ることとともに,世界現象としての音楽に,. ことを,子どもたちは音楽を通して学ぶことができ. 多様なそして発展しつつある私たちの視点をどのよ. ます。. うに向けて,次のステップに進むべきかということ. WMP を使いながら2歳から5歳ぐらいまでに他. でしょう。. 国の多文化的な音楽を教えていくことによって,子 どもたちの年齢が上がるに連れ,多文化というのは. 最後にこのようなすばらしいプロジェクトに招い. どういうものか,文化交流というものがどういうこ. ていただいた関係者のみなさまに,感謝の意を表し. となのかを理解することができるのです。. たいと思います。. こうしたことを繰り返しているうちに,子どもた. (基調講演から抄訳:今田 匡彦・坪能 由紀子). ちが歌い,踊り,動き,演奏し,ある時には音楽を. 文責:坪能 由紀子(開智国際大学). つくるという場面に出会うことができます。また子. -50-.
(9)
関連したドキュメント
音楽は古くから親しまれ,私たちの生活に密着したも
「教育とは,発達しつつある個人のなかに 主観的な文化を展開させようとする文化活動
「職業指導(キャリアガイダンス)」を適切に大学の教育活動に位置づける
「旅と音楽の融を J をテーマに、音旅演出家として THE ROYAL EXPRESS の旅の魅力をプ□デュース 。THE ROYAL
1951 1953 1954 1954 1955年頃 1957 1957 1959 1960 1961 1964 1965 1966 1967 1967 1969 1970 1973年頃 1973 1978 1979 1981 1983 1985年頃 1986 1986 1993年頃 1993年頃 1994 1996 1997
英国のギルドホール音楽学校を卒業。1972
2017 年夏より始まったシリーズ 企画「SHIRAI’s CAFE」。自身も 音楽に親しむ芸術監督・白井晃
社会教育は、 1949 (昭和 24