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リメディアル学習者を対象とした音読指導のための共同生成的アクションリサーチ

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Academic year: 2021

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(1)リメディアル学習者を対象とした音読指導のための 共同生成的アクションリサーチ Collaborative Action Research on Oral Reading Instruction for College-Level Developmental Learners 杉田 千香子 中央大学. 内野 駿介 北海道教育大学. 濱田 彰 明海大学. Chikako SUGITA Chuo University. Shunsuke UCHINO. Hokkaido University of Education. Akira HAMADA Meikai University Abstract. This action research reports the collaborative approach adopted to improve classroom teaching techniques by a research community. Past studies on English education have focused on professional researchers as subjects for the action research. However, there is little research on teachers collaborating with researchers in planning teaching methods, collecting and analyzing data, and reflecting and making decisions about problems specific to their classrooms. In this study, Japanese university students participated in oral reading activities to develop phonological decoding skills by improving speech comprehensibility for accuracy in word reading, chunking, prosody, and phonetic change. The research community cooperatively evaluated the extent to which the teaching objectives were achieved and gained several practical insights through collaborative discussion. Reflections within the research community revealed that (a) practitioners 287.

(2) expect researchers to provide different perspectives of their practice to determine the teaching procedures that need modification; (b) systematic and thorough reporting of teaching practice enables both practitioners and researchers to obtain practical insights for improving their practice; and (c) partnerships between practitioners and researchers are essential for collaborative reflection on the practical significance and problems of teaching. 1. はじめに 本実践の目的は,リメディアル教育を必要とする大学生を対象に,発音の理解性 (comprehensibility) の改善を中心とした音読指導によって,音韻符号化能力 (phonological decoding skills:「テキストの意味 理解に至る過程で文字を音声に変換する処理」鈴木・門田, 2012, p. 18) を向上させることである。そ のために,同じ問題意識を持つ実践者が共同生成的にアクションリサーチに関わるリサーチコミュニ ティの運営を目指した。本稿では,私1,および私たち2 が共同生成的アクションリサーチを通して, 自らが行っている実践をいかに内省し,改善につなげたかを評価し報告する。 近年の英語教育研究では「教師が自ら指導している文脈における状況や問題を把握し,指導方針や 指導計画に対する意思決定を行い,内省を取り入れながら実践を行う」(藤田, 2015, p. 118) 反省的実 践研究が行われるようになってきている。例えば濱田 (2018),藤田 (2017),三上・三上 (2015) らは, 教室固有の問題を解決するために反省的実践研究を行い,課題の解決過程をも含めて指導の成果を評 価・報告している。このように教師自らが実践者・記述者・読者となって実践内容を内省することは, 教室内外での教師行動に対する認識や信念を再構築する働きがある (樫葉・大塚・坂本・柳瀬, 2014)。 さらに,実践が行われた文脈を共有できる他者にその内容を公開し,様々な視点からの意見を取り入 れることで得られた知見を客観的に考察することも,アクションリサーチにおける研究知見の導出段 階において必要となる (秋田・市川, 2001)。 したがって,反省的実践を行うリサーチコミュニティがどのようにして実践的な知見を得るに至る のかを報告することが,本稿の研究としての目的である。英語教育研究におけるこれまでのアクショ ンリサーチでは,実践者が単独で児童生徒や学生に働きかける関係をもちながら,対象者に対する支 援と研究を同時に行ってきた (樫葉他, 2014; 藤田, 2017)。一方で,秋田・市川 (2001) がモデル化し た共同生成的アクションリサーチでは,実践を行う私だけでなく,本実践と同じ文脈を共有するイン サイダー (第二著者) と,同じ問題関心を持つアウトサイダー (第三著者) が研究プロジェクトチーム の一員となり,新たな知見を創造することが行われる (図1参照)。本実践を遂行するにあたって,私 たちは図1に従い,問題の共有と明確化,具体的な実践の計画,実践の実施,検証および内省をリサー チコミュニティ内で行うことにした。. 2.問題の共有と明確化 教室固有の問題をリサーチコミュニティ内で共有する第一歩として,私は現状置かれている教室環 境を把握することから始めた。私が担当する大学生は看護学を専攻し,コミュニケーション科目の1 つである必修英語を1年次に受講していた。共通シラバスに記載されている科目の目標は「中学,高校. 288.

(3) で学ぶべき2,700語の語彙と文法を再復習し,英語による自己表現ができる」となっていた。この教育 目標を達成するために,スピーキングやライティング等のアウトプット活動を中心に授業を展開する ことが大学から求められている教育方針であった。. 実践のコミュニティ. 文脈を共有 できる他者. 研究プロジェクトチーム. 批評. インサイダー. アウトサイダー a.. 行為内での モニタリング. 探求のコミュニティ. b.. 批評. 同じ問題関心を 持つ研究者. 問題の共有と明確化 (観察, 面接, 調査). 具体的な実践の計画. 観察中の モニタリング. c. 実践の実施と記録・記述 評価の モニタリング. 行為後の評価 としてのモニタリング. d. 実践の過程と結果の分析. e. 実践の評価と課題の明確化. f.. 研究知見の導出と公開. 図1. 共同生成的なアクションリサーチのプロセス (秋田・市川, 2001, p. 168)。第一著者である私は, 教室における明確な問題に対し実践を計画し,実践の実施と記録を行った。第二著者はインサイダー として私と共に同じ実践を行い,学習者の行動を観察し,指導の効果を評価する役割を担った。第三 著者はアウトサイダーとして,私が行った実践内容を研究の観点からモニタリング・再分析し,私と 第二著者の省察に異なる視点を提供する役割を担った。 シラバスの記載にある通り,多くの学生はリメディアル教育を必要とする学習者であった。濱田 (2018) や藤田 (2017) が観察を通して英語が苦手な学習者の特徴を述べているのと同じく,私が担当 した学生もアウトプット活動をするために必要な基本的な言語形式や表現を習得できていなかった。 彼らの実践ではアウトプットのためのプロセス・ライティング (濱田, 2018) であったり,スピーキン グの心理的負担を軽減 (藤田, 2017) したりするアプローチが採用された。一方で,私が担当した学生 は,単語認知を支える音韻符号化能力に課題が見られた。例えば,簡単な英語の音声を正しく聞き取 ったり,単語を正しく音読したりすることができていなかった。これらは英語学習におけるスローラ ーナーに典型的に見られる特徴である (泉, 2012)。 これらの現状を踏まえ,私は音読活動を中心に毎回の授業を展開することにした。文字を音声化し て読むことは,(a) 単語認知の自動化,(b) 音韻符号化の高速化,(c) 語彙や文法など言語知識の内在 化に寄与する (門田, 2007)。音韻符号化は語彙学習やリーディング,リスニング,スペリング能力と いった英語学習の基礎力向上につながることから (門田, 2007; 宮迫, 2002; Koda, 2005),音読は特に英. 289.

(4) 語学習の入門期指導において,英語の音と文字を結びつけるために行われている (鈴木・門田, 2012)。 ゆえに私たちは,音韻符号化能力を向上させることを授業の方針として定め,そのために必要となる 音読指導の継続的な改善に向けて,教室固有の問題を明確にすることにした。 学生の多くはこれまでの英語学習において,音読活動に取り組むこと自体は経験していた。それに も関わらず音韻符号化能力が低いままなのは,学生の音読の取り組み方に何か問題があると考えた。 2017年度前期のうちに学生の音読パフォーマンスを観察したり面談したりしたところ,(a) 文字と音 の対応関係に規則性がある場合でも単語を正しく音声化できない,(b) 音調・強勢・リズムなどのプ ロソディを適切に音声化できず,これらに関わる明示的知識も有していない,(c) 意味のまとまり (チ ャンク) に区切って音読できないという問題が見られた。これまで学生が受けてきた音読指導の詳細 について面談したところ,教師やCDのモデル音声を「よく聞いて音読しましょう」「できるだけ真似 て音読しましょう」などの指示を受けてきたことが分かった。一部の学生からは「自分の音読が英語 らしくないことは分かるが何が良くないのかは分からない」という意見を得た。これらの問題を解決 する方策を第二著者と協議したところ,明示的な音読指導と,学生自らが発音を自己モニタリングで きることの必要性が挙げられた。ゆえに本実践では,明示的な指導および自己モニタリングを促す音 読活動が,リメディアル教育を必要とする大学生の音韻符号化能力をどの程度向上させることができ るのかをアクションリサーチのテーマとして設定することにした。. 3. 具体的な実践の計画 3.1 予備調査 実践の具体的な計画を立てるにあたって,学生の音読におけるどのような要因が発音の理解性を損 ねているのかを予備的に調査した。第4節で詳述する通り,予備調査は学生の音読パフォーマンスの事 前評価にあたる。学生は図2 (4.2節参照) に示したテキストを使って,1分間の黙読後に,各自の音読 パフォーマンスをICレコーダーに録音した。 音読パフォーマンスは「英語として理解可能か」という観点から,3名の中学・高等学校英語教員 が段階評価した。結果,平均して「全体を通して英語らしさが不十分である」という評価になり,具 体的には語句の読みの誤りやプロソディの不適切さが指摘された。したがって,私たちが観察や面談 を通して主観的に捉えていた学生の姿は,同じ文脈を共有できる別の実践コミュニティによる評価と 一致すると判断した。. 3.2 指導内容と手順の計画 ここからは,学生の音読活動を観察・面談・調査して明確にした問題点を解決するために,どのよ うに指導計画を立てたかについて述べる。聞き手にとって理解しやすい発音を音読指導により促すこ とで,学生の音韻符号化能力を向上させるという目的を達成するため,まずはどの音声項目を指導す べきかを検討した。第二著者と文献調査を行い,どの音声項目を指導すれば聞き手にとって理解しや すい発音が可能になるのかを検討したところ,(a) 子音字を中心とした語句の読み (Saito, 2011),(b) 音 調・強勢・リズムなどのプロソディ (Saito & Saito, 2017),(c) 意味の区切りでポーズを置くチャンキ ング (鈴木・門田, 2012),および (d) 連結・同化・脱落などの音声変化 (安井, 1992) が関わることが. 290.

(5) 分かった。予備調査において評価者から受けた指摘とも合わせて,本実践にはこれら4項目を指導内容 として含めることにした (表1参照)。 表1 音読活動における指導内容と手順 語句の読み (子音字・数詞を中心に): 1. 事前評価の時点で読みの誤りの多かった英単語を用いて,文字と音の対応関係を解説したり,数 詞の読み方を説明したりした。さらに,日本語にない子音 (/f/ /v/ /θ/ /ð/) を中心に,教師がモデ ルとなって口元の形を示しながら 1 音ずつ練習させた。 2. 学生どうしをペアにし互いの口元の形や音の違いを確認させた。 3. 英文内の単語を使って個人練習,その後にパッセージ全体を音読させた。 チャンキング: 1. CD の音声を聞きながらチャンク (ポーズ) ごとにスラッシュを入れさせた。 2. どこにスラッシュが入ったのかをペアやグループで考えさせた (e.g., カンマやピリオドの後,前 置詞句の前)。 3. 教師側でスラッシュを入れた英文を使ってどの位置にポーズが入るのかを確認させ,チャンクで 区切って読むことの利点を理解させた。 4. 再度 CD の音声を聞いて,スラッシュがどこに入るべきかを確認させた。スラッシュの位置では ポーズを置いて音読できるよう練習させた。 プロソディ (音調・強勢・リズム): 1. CD の音声を聞いて,強勢のある音節や文中の単語に印をつけさせた。 2. どのような単語・位置に印がついているか考えさせた。 3. 強勢を受ける語・受けない語 (強形と弱形,内容語と機能語), 強勢によって生じる英語のリズム (強弱パターン) について理解させた。 4. 再度 CD の音声を聞いて,強く発音されている語とそうでない語,英語特有のリズムを確認させ た。英語の強勢,特有のリズムに注意して音読させた。 5. 音調については,強勢とリズムの指導の際に補足説明した。特に下降調と上昇調の使い分けにつ いて基本的な事項を紹介し音読させた。 音声変化 (連結・同化・脱落): 1. CD の音声を聞いて,繋がって聞こえる語句,もしくは聞こえにくい語句にアンダーラインを引 かせた。 2. 連結,同化,脱落の音声的特徴について理解させた。 3. 再度 CD の音声を聞いて,連結,同化,脱落の音声的特徴を確認させた。その後に連結,同化, 脱落に注意を向けさせつつ音読の練習をさせた。 注. 教師は学生の音読パフォーマンスを机間巡視し,Saito (2015) のようにリキャストを行ったり,靜 (2009) のように発音矯正のためのフィードバックを行ったりした。. 291.

(6) どのような指導が発音の理解性を向上させるのかについてはSaito (2012) のメタ分析を参照した。音 読活動のように予めスクリプトを提示する場合,Focus on Formでは6つの事例すべて,Focus on Forms でも8つの事例すべてにおいて指導の効果が見られた。一方,Focus on Meaningでは8つのうち1事例で しか発音指導の効果が見られなかったことが報告されていた。これらに基づき第二著者と指導方法に ついて協議した結果,発話内容に焦点を当てつつも音声形式に注意を向けさせるFocus on Form (プロ ソディ・チャンキング指導のため) および,音声形式そのものを明示的に指導するFocus on Forms (語 句の読み・音声変化の指導のため) を併用することにした。 実践内容の客観的な評価を求める第三著者の提案に基づき,私たちはさらに,Lee, Jang, and Plonsky (2015) によるメタ分析を参照して明示的な発音指導に期待される指導の効果を調べた。表2に示す通 り,高い指導効果が見込まれるのは,(a) 熟達度が低い学習者に,(b) コンピュータ支援学習ではなく 教員による指導のもと,(c) フィードバックを行うときであることが分かった。また本実践の指導項 目で期待される効果量は0.86から1.04の範囲にあった。 本実践が教室固有の問題を解決できたかを判断 するために,これらの基準を用いることにした。 表2 発音指導に期待される効果 (Lee et al., 2015; Table 2とTable 4に基づき作成) 期待される効果 (Cohen’s d). 95% CI. 初級学習者. 1.27. [1.15, 1.40]. 中級学習者. 0.55. [0.51, 0.58]. 調整変数 (a) 熟達度 (b) 指導者 (c) フィードバック (d) 指導項目. カテゴリー. 教員. 1.35. [1.21, 1.50]. コンピュータ. 0.75. [0.70, 0.81]. あり. 0.92. [0.87, 0.96]. なし. 0.89. [0.78, 1.01]. 子音. 1.04. [0.98, 1.11]. 文の強勢. 0.96. [0.87, 1.05]. 音調. 0.86. [0.80, 0.91]. リズム. 0.98. [0.86, 1.10]. 注. 本実践で扱ったチャンキングと音声変化に関する効果量の報告はなかった。効果量は事前・事後 評価計画で計算されたものである。 本実践では,学生が自分の発音を自己モニタリングできるようになることも,音韻符号化能力向上 のための課題の1つであった。小林 (2014) は,録音した自分の発音を聞き,評価し,誤りに気づけば それを正しく発音できるよう練習することを発音の自己モニタリングと定義し,一連の流れを反復す ることで発音の正確さが向上したことを報告している。今回の実践では毎回の音読パフォーマンスを ICレコーダーに録音し,指導内容に沿って自身の発音を聞き直すことで,指導項目に対する気づきを 促すようにした。. 292.

(7) 3.3 目標 共同生成的アクションリサーチによって教室固有の問題がどのような過程を経て解決されるのか を記述するために,本実践で取り組む目標を以下のように定義した。目標1は本実践の主目的であり, 指導の前後で大学生の音韻符号化能力がどのように変化したのかを中心に実践内容の記録と評価を行 った。 目標2に対しては, 指導内容の改善に向けた分析とリサーチコミュニティ内での議論を報告する。 目標1: 明示的な音読指導によりリメディアル教育の必要な大学生の音韻符号化能力を向上させる。 目標2: 音韻符号化能力の向上は,語句の読み,チャンキング,プロソディ,および音声変化の正確 さの向上とどのように関わるのかを明らかにする。. 4. 実践の実施と記録・記述 4.1 参加者 本実践に参加した学習者は,看護学を専攻する大学1年生64名であった。参加者はそれぞれ,私と 第二著者が担当するいずれかのクラスに属していた。ただし全7回の音読指導のうち1回でも欠席のあ った18名を分析から除外し,最終的な分析対象者は46名 (女性38名・男性8名) となった。全員が13歳 から18歳まで日本で外国語としての英語を学んでおり,英語圏での長期滞在を経験した学生はいなか った。本研究への参加については全員から書面による同意を得た。 2017年度前期の初回の授業で実施されたTOEIC Bridge®の平均正答率は66% (n = 46, 95% CI [64.13, 68.78], SD = 7.83) で,TOEIC®推定スコアは310点となった。『TOEIC® Program DATA & ANALYSIS 2017』によると,2016年度にTOEIC® IPを受験した大学1年生 (N = 232,669) の平均スコアは430点で あるため,私たちが担当した学生はリメディアル教育が必要な英語学習者であると判断した。. 4.2 教材と指導手順 音読指導は 2017 年度 9 月から 12 月までの半期 15 回の内, 7 回の授業で行われた。 教材として 『English Upload』 (Hickling・大崎, 2013) の読解テキスト “Lady Gaga” を使用した (図 2 参照)。テキストは 100 語から成り,モデル音声は 130WPM で作成された。 各回の音読指導は授業の開始 30 分で実施した。毎回の指導手順は,(a) 各回でポイントとなる音声 学的知識の明示的指導 (表 1 参照),(b) 教師による発音矯正を含む音読練習,(c) 録音した音声のモニ タリング (音読時間の記録,5 段階での自己評価,上手くいったこと・反省点・気づいたことの振り 返り) の 3 ステップから成る。全 7 回の主な指導内容は次の通りである。 1 回目: 事前評価として「英文を 1 分間黙読した後, 声に出して音読しましょう」という指示に従い 学生は自分の音読を録音した。 2 回目: 数詞の読み方を中心とした文字と音の対応や子音字の発音矯正を行った。 3 回目: チャンクで区切って音読することを中心としたスラッシュ・リーディングを行った。 4 回目: 英語の音調・強勢・リズムなどを含むプロソディの練習を行った。 5 回目: 連結・同化・脱落など音声変化の練習を行った。. 293.

(8) 6 回目: 4 観点の総復習および個別の子音字 (/f/, /v/, /θ/, /ð/) の発音矯正を行った。 7 回目: 事後評価として「これまでに学習した英語の音声学的知識に注意して音読しましょう」とい う指示のもと面談形式で音読テストを実施した。 音読練習はクラス全体,ペア,個別の形態で,Chorus reading (Listening & Repeating),Pair reading, Overlapping,Shadowingを行った。録音した音声について振り返る際には,必ず,前回の音読と比較し てどのように自分の音声が変化したかを記述させた。音読テストによる学習への正の波及効果をねら って,初回の指導時に,音読テストの目的と評価の観点を伝えた。評価の4観点について,適切な速さ で,相手に伝わる十分な声量で,聞き取りやすい音読ができているかを評価すると伝えた。. 音読提出用. 第4回. 2017 年. 月. 日. 「数字/スラッシュ・リーディング/アクセント」 Student Number. Name. ★ CD を聞いて,アクセントのあるところ(強く読まれているところ)の下に「●」を書きましょう。 Lady Gaga Stefani Germanotta, / or Lady Gaga, / was born on March 28, / 1986 / in New York City. / She started playing the piano / when she was four, / and at 11 / she began taking acting lessons. / At age 16, / she began to sing and act / in front of live audiences. / After high school / she entered New York University, / but she wasn’t very happy there / and left before / finishing her second year / to focus on her musical career. / In 2008 / “Just Dance” / and “Porker Face” / were number one pop singles / from her first album / The Fame. / Today she is a superstar / in the music business. / 音読時間:. 分. 秒. 自己評価:音読の 「英語らしさ」 は5段階評価でどれくらいだと思いますか?◯をしましょう。いい方が5です。 1. 2. 3. 4. 5. 振り返り:上手くいったこと,反省点など。気づいたことを書きましょう。. .. 図 2. 音読指導用のハンドアウトおよび事前・事後評価に使用した英文。スラッシュおよび下線部はチ ャンキング回の書き込みであり (スラッシュはポーズを置く箇所,下線部は途中で区切らずに読む箇 所を意味する),回を経るごとに音読のポイントを重ね書きできるようデザインした。. 294.

(9) 4.3 音読パフォーマンスの評価 発音の理解性は,プロソディの正確さなど特定の音声現象に対して,リッカート尺度やルーブリッ クにより評価される (Derwing & Munro, 2005)。例えば Saito and Saito (2017) は音調,強勢,およびリ ズムなど超音節に関わる発音指導の結果,日本人英語学習者の発音がどれくらい理解可能なものにな ったのかを印象評価している。本研究の対象である音韻符号化能力は,Saito (2011) に従い音読課題に よって評価した。具体的には,図 2 のテキストを正確に音声化できているかを評価する総括的評価を 音韻符号化能力として扱った。また分析的評価として (a) 個々の語句を正確に読めているか,(b) チ ャンクごとに区切って読めているか,(c) 音調・強勢・リズムが正確にできているか,および (d) 連 結・同化・脱落ができているかの 4 観点を用意した。評価基準は宮迫 (2002) を参考に 5 件法のリッ カート尺度 (5. 正確に読めている,4. 概ね正確に読めている,3. 一応正確に読めている,2. 正確さ が不十分である,1. 正確に読めていない) を採用した。 評価は 3 名の中学・高等学校英語教員によって行われた。評価の正確さの観点から評価基準を共有 する方法を第二著者と協議し,分析対象者以外の音読から下位・中位・上位の音声を選定して,尺度 1,尺度 3,尺度 5 の事例として評価者に提示することにした。また,どの音声データが事前・事後評 価のものかを告知しないことで,事後評価の音声データが有利に採点されないよう配慮した。. 5. 実践の過程と結果の分析 アクションリサーチでは収集したデータの分析過程,およびその結果から,どの程度まで実践の問 題が解決されたのかが評価される。特に,今回行った実践がどれだけ問題解決に機能したかという有 効性や,同様の文脈内で将来起こりうる問題にもその解決法が有効かという確実性が重視される (秋 田・市川, 2001; 佐野, 2005; 藤田, 2015)。したがって私は,アウトサイダーの役割を担う第三著者に実 践内容とデータを公開し,実践の成果と課題を協議によって特定することにした。ここからは第三著 者による分析過程と,それに対するリサーチコミュニティ内での省察を報告する。. 5.1 目標 1:発音の理解性評価とその解釈 図 3 は多相ラッシュ分析により 3,評価者間の厳しさ,評価規準の違いによる採点のバイアス,お よび評価基準の適切さを推定した結果を示している。まず評価者間の厳しさは約 5 段階 (Separation index = 4.66) に分かれていた χ2(2) = 66.4, p < .001。一方で評価者の採点パターンに対する Infit (range = 0.79–1.10) と Outfit (range = 0.73–1.13) は共に 0.70 から 1.30 の範囲に収まっていたため (Bond & Fox, 2015),各評価者は内的に一貫した評価を行っていたと判断した。同様に多相ラッシュ分析で推定され た信頼性係数は.96 であり,評価者間信頼性も十分であることを確認した。評価者の厳しさによる得点 の不公平は期待得点を算出することで解消されるため (Eckes, 2015),以降は期待得点を使用して音読 指導の効果を判断することにした。 音韻符号化能力および分析的評価それぞれの違いによる採点のずれについて,各評価規準は約 4 段 階 (Separation index = 3.54) の難易度に分かれた χ2(4) = 67.1, p < .001。多相ラッシュ分析では学生の能 力と難易度は切り離されて考えられるため (Bond & Fox, 2015; Eckes, 2015),今回使用した評価規準で は学生の音読パフォーマンスに関わらず,チャンキングはその他の観点に比べて易しめに採点された. 295.

(10) ことが分かった。しかし実際の採点においては,図 3 の敷居値のラインが示す通り,チャンキングも その他の観点も,パフォーマンスが同程度であれば評定値として同じ「3」が与えられていたことが分 その他の観点も,パフォーマンスが同程度であれば評定値として同じ かる。また,尺度 2 の幅が他と比べて広いものの,ほぼ等間隔に尺度 1 から尺度 5 までが配置されて いた。インサイダー内での協議において,当初,評価基準として定めた「概ね,一応,ほどんど」と いった表現だけで評価者は音読パフォーマンスの質を識別できるのかという問題が指摘されていたが, 評定のために音声サンプルを提供したことが適切な評価につながったと考えた。. 事前評価. 5. 事後評価. 期待得点. 4. 3. 尺 度4. チャン キ ン グ 評価者1 音韻符号化 評価者2 語 句 の読 み プ ロ ソ デ ィ音 声 変 化 評価者3. 尺 度3. 学習者の能力推定値. 尺 度5. 尺 度2. 2. 尺 度1. 1. 評価者. 評価規準. 尺度. 図 3. 多相ラッシュ分析による Person-Item マップ。上に位置する評価者・評価規準ほど易しい採点を 行ったことを意味する。事前・事後評価のヒストグラムは各参加者の位置を示している。 表 3 は期待得点による事前・事後比較を示している。得点の 95%信頼区間は事前と事後評価で互い に重複せず,表 2 に示した効果量を上回る結果であった。今回得られた効果量は事前・事後評価計画. 明示的な音読指導によ の枠組みで十分に大きいと定義されていることから 4 (Plonsky & Oswald, 2014), る音韻符号化能力は目標通りに向上したと評価した。明示的指導により文字を正しく音声化する力が 向上することはメタ分析 (Lee et al., 2015; Saito, 2012) を含む多くの先行研究で報告されており (e.g., 小林, 2014; 靜, 2009; Saito, 2011, 2015; Saito & Saito, 2017),本実践の結果はこれらと一貫している。効 果量に基づき指導の有効性や課題を考察する試みは多くのアクションリサーチで行われている (濱田, 2018; 藤田, 2017; 三上・三上, 2015)。本実践では,過去の実践例に基づいてより高い効果の見込まれ る指導法を選択することの重要性を示すことができたと言える。 ただし,Lee et al. (2015) が示した効果量を大きく上回ったのは,事前・事後評価,ならびに音読練 習に使用したテキストが同一であったからという可能性も第三著者から指摘された (Takaki, Hamada, & Kubota, 2018)。より正確に音読指導の効果を省察し指導内容の改善を行うためには,初見のテキス トによる評価が必要であることをリサーチコミュニティ内で共有した。. 296.

(11) 表3 事前・事後評価における音読パフォーマンスの記述統計 (n = 44). 事前評価. 効果量. M. 95% CI. SD. M. 95% CI. SD. d. 95% CI. 2.28. [2.13, 2.44]. 0.51. 3.21. [3.05, 3.37]. 0.53. 1.79. [1.29, 2.28]. 指標 語句の読み. 事後評価. チャンキング. 2.41. [2.18, 2.65]. 0.78. 3.89. [3.64, 4.13]. 0.82. 1.39. [0.93, 1.86]. プロソディ. 2.18. [1.98, 2.38]. 0.66. 3.54. [3.28, 3.79]. 0.84. 1.80. [1.30, 2.30]. 音声変化. 2.11. [1.93, 2.28]. 0.58. 3.59. [3.39, 3.78]. 0.63. 2.44. [1.89, 3.00]. 音韻符号化. 2.31. [2.12, 2.50]. 0.62. 3.71. [3.50, 3.92]. 0.68. 2.15. [1.62, 2.68]. 注. 音読パフォーマンスは多相ラッシュ分析による能力推定値を尺度 1-5 に換算したものである。録 音音声が不明瞭で評価できなかった 2 名のデータを分析から除外した。. 5.2 目標 2:音韻符号化能力向上に効果のあった指導内容の特定 音韻符号化能力向上に特に効果のあった指導内容を特定するため,事前・事後評価それぞれに対し 音韻符号化能力を目的変数,4 つの下位尺度を説明変数とした重回帰分析を行った。図 4 は事前・事 後評価それぞれにおける音韻符号化能力と下位 4 尺度間との相関係数,およびデータの分布を示して いる。表 4 の標準化偏回帰係数 (β) が示す通り,事前評価の時点では音韻符号化能力を予測するのは プロソディ (.68) と語句の読みの正確さ (.27) であり,その他観点との関連性は見られなかった。一. 方,事後評価になると音声変化 (.50),プロソディ (.39) および語句の読みの正確さ (.15) が音韻符号 化能力を説明した。. 1. 4. 5. 0.85. 0.85. 0.91. 0.73. 0.68. 0.76. チャンキング. 0.80. 0.81. プロソディ. 0.76 音声変化. 1. 1. 3. 音声変化. 5. 3. 3. 0.77 語句の読み. 2. 1. 1. 5. 0.78. 5. 3. プロソディ. 4. 1. 0.77. 3. 3. 0.81. 2. 5. 5 1. 0.54. 3. 5. チャンキング. 5. 0.55. 3. 0.77. 音韻符号化. 3. 3. 1. 5. 0.86. 0.57. 1. 4. 1. 0.79. 3. 5. 0.66 語句の読み. 2. 3. 1. 1. 5. 5. 4. 3. 3. 1. 5. 2. 5. 1. 音韻符号化. 1. 2. 3. 4. 5. 1. 2. 3. 4. 5. 1. 2. 3. 4. 5. 1. 2. 3. 4. 5. 1. 2. 3. 4. 5. 1. 2. 3. 4. 5. 図 4. 事前評価 (左: n = 44),および事後評価 (右: n = 46) における音韻符号化能力と下位 4 尺度間との ピアソン積率相関係数およびデータの分布図。 語句の読みの正確さとプロソディは事前・事後評価どちらにおいても音韻符号化能力を説明する重 要な観点となった。特に事前評価の時点では適切なプロソディで英文を音読できることが理解可能な 発音として高く評価されたと考えられる。語句の読みの正確さとプロソディの間には中程度の相関 (r = .55 [事前], r = .68 [事後]) があったものの,正しいプロソディで読めることと語句の読みの正確さは, それぞれが単独で音韻符号化能力に関わっていたと判断した。. 297.

(12) 表4 語句の読み・チャンキング・プロソディ・音声変化による音韻符号化能力の予測 B. 95% CI. SE B. β. t. Step 1: プロソディ. .72. [.51, .93]. .10. .68. 6.93. Step 2: 語句の読み. .29. [.08, .50]. .10. 指標. p. R2. 事前評価 (n = 44) < .001. .67 .72. .27. 2.76. .009. Step 3: チャンキング. .17. 1.19. .242. Step 4: 音声変化. .09. 0.70. .487. 事後評価 (n = 46) Step 1: 音声変化. .56. [.37, .76]. .10. .50. 5.80. < .001. .79. Step 2: プロソディ. .35. [.20, .50]. .07. .39. 4.84. < .001. .88. Step 3: 語句の読み. .15. [.00, .29]. .07. .89. Step 4: チャンキング. .15. 2.04. .047. .15. 1.51. .139. 音声変化を正しく音読に反映できたかは,事前評価の時点では音韻符号化能力と有意な関係性を持 たなかった。一方,事後評価になると音声変化の適切さが音韻符号化能力を最もよく説明する評価の 観点となった。表 3 で示した通り,音声変化の指導の効果は他の指導項目と比較して一番大きく (d = 2.44),そのことが発音全体の理解性の向上に貢献したと考えた。 チャンキングの正確さは, どちらの回帰モデルにおいても有意な説明変数にならなかった。 つまり, 事前・事後比較でチャンキングの適切さは向上しているものの (d = 1.39),ポーズの置き方は音韻符号 化能力と連関することはなかった。この結果についてアウトサイダーは,意味の区切りに沿ってポー ズを置くことがプロソディの評価と重複した可能性を指摘している。具体的には,チャンキングとプ ロソディの評価の観点が似ていたために,適切な位置にポーズを置いて音読する能力独自の説明率が 低くなったと考察している。最終的に,私たち全員が授業の様子や評価者からのフィードバックを踏 まえて協議し,ポーズを適切に置くことはプロソディの評価と観点が重複していた可能性を採用する ことにした。ただし,発音の理解性向上のためにチャンキング自体は重要な能力であり (門田, 2007; 鈴木・門田, 2012),チャンキングの指導は継続すべきであると判断した。 録音した発音を自己モニタリングすることについて,振り返りシートに書かれた学生の内省には次 のようなものが含まれていた。まず内省の 45%が反省点に関することであった。上手くいった点につ いては「前よりスラスラ読めるようになって嬉しかった」など全体的な内容に言及する一方,反省点 については「アクセントをつけて読むことが難しかった」などのように具体的な課題に自ら気づくケ ースが見られた。具体的な気づきに関する言及は反省点の 82%で見られた。例えば「the を『ザ』と 読むか『ジ』と読むか」や「繋がって読むところや,消える音があることがわかり楽しかったです」 といった知識面に関する気づき, 「同じものを何回も録ることで自分の成長をわかることができたから, どこがダメかを振り返ることができた」といったモニタリング方略に関わる言及が見られた。特に自 分の発音をモニタリングすることについては「自分の発音を聞いてどこが変なのか客観的に判断する ことができた」といった反応を示した学生が 86%であった。ただし,録音した音声を振り返ることが 「恥ずかしかった」とか「スマホを授業で使いたくない」という意見もあり,教員による明示的フィ. 298.

(13) ードバックのみを好むケースもあった。自律学習のために発音を自己モニタリングできることは重要 な能力であり (小林, 2014),第二著者とともに録音内容の振り返りという手段を継続することについ ては了解を得ている。しかしながら,学生の気づきや振り返りの内容に基づいて柔軟に指導方法を選 択していくことも重要であると再認識した。. 6. 実践の評価と課題の明確化 共同生成的アクションリサーチの枠組みに沿った本実践では,リメディアル教育の必要な大学生に 対する音読指導について,同じ文脈を有するコミュニティ内で教室固有の問題を共有し,実践の実施 とその改善に向けた反省的評価を行った。私たちが共同で導いた今回の実践の知見は以下のようにま とめられる。ここからは,これらの知見がどのように導出されたのかについて,本研究で取り組んだ 課題を中心に記述する。 1.. 明示的な音読指導および発音の自己モニタリングを促すことによって音韻符号化能力が向上し たことから,教室固有の問題を解決する手段としての本実践には一定の有効性がある。. 2.. 私のクラスだけでなく第二著者のクラスでも指導の効果が見られたことから,メタ分析に基づき 指導方針を決定することには一定の確実性がある。ただし音読テキストの扱いが一般的でなかっ たことから,将来起こり得る同様の問題を解決できるかという点を検討しなければならない。. 3.. 英語を学習するための基礎力不足という,本実践の出発点となった教室固有の問題が,音韻符号 化能力の向上で解決できたのかについては経過観察が必要である。. 4.. アウトサイダーをリサーチコミュニティに加えることで,インサイダーは指導改善のための異な る視点を得ることができる。. 5.. 毎回の授業後の内省は局所的に指導内容を修正する。一方,実践後に指導の効果を検証するとい う形で内省を行うことは大局的なレベルで授業の方針を決定することにつながる。 私は本実践に限らずこれまでの授業においても,自身の指導を振り返り改善を試みてきた。しかし,. 授業改善のための方策を独自に行っていたことから,その判断や意思決定にバイアスが入っていた可 能性があった。教師個人による教室経験についての省察は実践を改善する上での重要な知識体系であ る一方 (Farrell, 2015, 2018),ただ省察するだけで教室固有の問題が解決するわけではない (樫葉他, 2014; 佐野, 2005; 藤田, 2015)。例えば観察や学生との個人面談を通して各学生の能力や個性を把握し, 適性処遇を考慮した指導を行うことはできても, その情報に基づき授業全体の方針を決めることには, 同様の文脈で将来起こりうる問題にもその授業が有効に機能するかという確実性の点で課題があった。 しかし今回は共同生成的に実践内容を計画・評価することで,私固有の問題が第二著者の教室にも当 てはまること,具体的な指導内容・方法・評価を共有できることを確認できた。特に,実践の成果を 評価するにあたって,私自身の指導技術や担当学生の様子だけでなく,第二著者の指導の成果を参照 することで問題解決が図られたかを評価するようになっていた。図1に基づけば,実践の計画・実施・ 評価をインサイダーどうしで相互にモニタリングすることで,共同生成的に実践の知見を導出するこ とに意義があったと言える。. 299.

(14) アウトサイダーが実践評価に用いたデータはインサイダーによる実践の記録 (指導計画,ハンドア ウト,音声データ,評価データ) である。本実践の場合,アウトサイダーは実際の指導の様子を授業 の録画でしか把握できていない。そのためアウトサイダーは,指導目的,方法,評価を中心にこれら の詳細を逐一説明するようインサイダーに求めた。その過程においてインサイダーは,今回の音読指 導が (a) 発音の理解性向上は音韻符号化能力の改善につながること,(b) 指導内容は学生の様子を見 て決めるだけでなく何が発音の理解性にとって重要なのかという調査に基づいて判断すること,およ び (c) 学習成果の評価は適切なデータ解析に基づいて行うことを学んだ。このように実践内容を他者 に公開することは,内省のための詳細な視点,さらにはインサイダーとは異なる論点を得ることにつ ながっていた。 省察を行うために実践の記録や分析結果をどのように扱うかについて,インサイダーとアウトサイ ダーの間に違いが見られた。インサイダーは指導改善のためにどのような分析結果が必要かという観 点からデータの取り扱い・解釈について議論を行っていた。例えば目標2に対して行った重回帰分析に ついて,アウトサイダーは研究としての厳密さを求めたのに対し (i.e., サンプルサイズなど様々な制 限から重回帰分析は行わない方がよいと主張した),インサイダーは指導改善のための情報を得るとい う目的で当該分析の実施を決めていた。また,学生の反応等を授業の観察や質問紙から質的に検討す る際に,実践に参加していないアウトサイダーの限界点が見られた。質問紙による毎回の授業の振り 返りは観察だけでは見えてこない学習者の行動や気づきを検討するものであるが (佐野, 2005),普段 の学生の様子を知らないアウトサイダーは質問紙の自由記述欄から推察される学生の気づきについて ほとんど言及しなかった。実践記録の取り扱いが様々であることは多様な知見を得る上で重要だと考 えられるものの,それぞれの役割に限界があることにも留意する必要があることを認識した。 リサーチコミュニティ内で本実践の課題を議論したところ,同様の文脈内で将来起こりうる問題に 今回の指導が有効かは分からないという点での確実性の低さが指摘された。 今回は音読用テキストを1 種類に絞ったが,別の教室では単元ごとにテキストを変更する場合もある。また,メタ認知的な活動 である発音の自己モニタリングの成否は,学生が持つ音声学的知識に左右されると思われる。教師に よる個別のサポートが必要な学習者への対応についても考える必要性が挙げられた。最後に,本実践 の出発点である,英語を学ぶ上での基礎力の欠如が音韻符号化能力の向上で解決できたのかは未解明 であることが指摘された。文献調査に基づき音韻符号化能力の向上を指導の目標としたものの,本来 の意味で学習者の問題を解決できていないことに留意することをリサーチコミュニティ内で共有した。 アクションリサーチの最終段階では研究知見の公開が求められる。しかし,報告書等を作成する過 程が実践上の問題解決につながらなければ,教師にとっての実践報告は業務上の負担になりかねない (Farrell, 2015)。そこで樫葉他 (2014) は実践内容を公開することに向けて,実践者と研究者が対等な立 場でアクションリサーチを進めること,Farrell (2018) はアクションリサーチの内容が実践そのものと 離れてしまわないようにお互いが支援し合うことの重要性を述べている。自らの実践を公開するため にその内容を言語化することは「教室実践を自分自身で納得できるだけでなく,広く他の教師にも納 得してもらえる方向に変化させる誘因となる」(樫葉他, 2014, p. 102)。そのためには,対等な関係にあ るアウトサイダーを含めた実践およびリサーチコミュニティの運営が求められるだろう。. 300.

(15) 注 1.. 本実践の主担当である第一著者の思考過程を表現するために「私」という一人称を使用した。. 2.. 本実践と同じ文脈を共有する実践者 (第二著者) および同じ問題関心を持つ研究者 (第三著者) を含むリサーチコミュニティ全体を指して「私たち」を使用した。. 3.. インサイダーである私と第二著者は,当初,3 名の評価者それぞれの平均評定値を標準得点に換 算してから事前・事後比較を行っていた。3 名の評価者の厳しさをテストの難易度と見なし,異 なる難易度間での比較をある程度可能にする標準得点を使用することについては第三著者も承 認している。一方でインサイダー側でも観測得点や標準得点の限界を認識しており,多相ラッシ ュ分析による得点調整が望ましいという総意を得た。. 4.. Plonsky and Oswald (2014) は外国語学習における効果量の大きさについて,事前・事後評価計画 の場合はd = 0.60で小,d = 1.00で中,d = 1.40で大とメタ分析に基づき定義している。. 謝辞 本研究は科学研究費助成事業・若手研究 (B)・研究課題番号17K13512の助成を受けました。本論文 の修正にあたり,3名の査読者から貴重なご助言をいただいたことに深く感謝申し上げます。. 引用文献 秋田喜代美・市川伸一 (2001)「教育・発達における実践研究」南風原朝和・市川伸一・下山晴彦 (編 著)『心理学研究法入門―調査・実験から実践まで』(pp. 153–190). 東京:東京大学出版会. 泉恵美子 (2012)「スローラーナーのつまずきの原因を探る」 『英語教育』, 61(4), 10–13. 樫葉みつ子・大塚謙二・坂本南美・柳瀬陽介 (2014) 「英語教師が自らの実践を書くということ(2) ―中高英語教師が自らの実践を公刊することについて」CASELE Research Bulletin, 44, 97–106. https://doi.org/10.18983/casele.44.0_97 門田修平 (2007)『シャドーイングと音読の科学』東京:コスモピア. 小林翔 (2014)「生徒の自己発音モニタリングが正確な発音の定着に与える効果」STEP BULLETIN, 26, 130–145. Retrieved from https://www.eiken.or.jp/center_for_research/pdf/bulletin/vol26/vol_26_p130-p145.pdf 佐野正之 (2005)『はじめてのアクション・リサーチ―英語の授業を改善するために』東京:大修館書店. 靜哲人 (2009)『英語授業の心・技・体』東京:研究社. 鈴木寿一・門田修平 (2012)『英語音読指導ハンドブック―フォニックスからシャドーイングまで』東 京:大修館書店. 濱田彰 (2018)「データ駆動型学習と英文構造の可視化によるライティング指導のアクションリサー チ」ARELE: annual review of English language education in Japan, 29, 305–320. https://doi.org/10.20581 /arele.29.0_305 Hickling, Robert・大崎さつき (2013)『English Upload―コントラストで学ぶ大学英文法』東京:金星堂. 藤田卓郎 (2015)「アクション・リサーチ再考―結果の一般化に焦点を当てて」Reports of 2014 Studies in. 301.

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(17)

表 3  事前・事後評価における音読パフォーマンスの記述統計   (n = 44)  事前評価 事後評価 効果量 指標 M  95% CI  SD  M  95% CI  SD  d  95% CI  語句の読み 2.28  [2.13, 2.44]  0.51    3.21  [3.05, 3.37]  0.53    1.79  [1.29, 2.28]  チャンキング 2.41  [2.18, 2.65]  0.78    3.89  [3.64, 4.13]  0.82    1.39  [0.9
表 4  語句の読み・チャンキング・プロソディ・音声変化による音韻符号化能力の予測 指標 B  95% CI  SE B  β  t  p  R 2 事前評価  (n = 44)  Step 1:  プロソディ .72  [.51, .93]  .10  .68  6.93  &lt; .001  .67  Step 2:  語句の読み .29  [.08, .50]  .10  .27  2.76  .009  .72  Step 3:  チャンキング .17  1.19  .242  Step 4:

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