記録と史料 №30(2020.3) 56 当年度のセミナーは令和2年11月26日(火) に、ネオルネサンス様式の旧県庁舎を修復・ 活用した山形県郷土館「文翔館」(国指定重 要文化財)の議場ホールで開催された。 山形県の施設が会場になったのは、本年3 月の公文書管理条例の制定と、寒河江町内の 地域事務所に県史編纂室と同居していた公文 書センターが山形市内にある県立図書館の内 部に移転・開館するのに合わせたためで、セ ミナーの前には文翔館の見学会も開催された。 セミナーは全史料協会長のメッセージの代 読で始まり、司会の加藤聖文氏が公文書セン ターの移転にあわせてセミナーを開催する意 義を述べ、趣旨説明を行った。このとき挙手 で参加者の所属を尋ねたが、県職員と県内市 町村職員と一般市民がほぼ3分の1ずつと見 受けられた。参加者総数は96名であった。 はじめに築達秀尚氏(山形県学事文書課) の報告「山形県における適正な公文書館管理 への取組 -公文書管理条例制定にかかる経 緯等-」で、山形県の公文書管理の歩みと公 文書センターの開設までが説明され、今後の 展望が示された。 山形県では県政運営の透明化のため、平成 29年11月に外部有識者の視点も入れて情報公 開の現状を検証する「情報公開・提供の検証、 見直し第三者委員会」(通称:見える化委員会) を設置し、公文書管理条例の制定のほか、情 報公開から歴史公文書の保存までを含む多く のテーマを討議し、平成30年の委員会報告で 改善案が提案された。 これを受けて有識者からなる条例検討組織 (山形県公文書管理条例検討委員会)を設け、 公文書管理条例の具体的な内容を検討した。 その中で、実施機関の範囲を情報公開条例の 範囲と同様とし、県の地方独立行政法人も実 施機関かそれに準じた扱いとし、職員の公文 書の作成義務・範囲は公文書館法に準じ、歴 史公文書の利用請求権を規定した。そして第 三者委員会として設置する公文書等管理委員 会の役割を、規則・規定等の制定・改廃時の 諮問機関であり、公文書の保存期間満了に伴 い廃棄する際の意見徴収機関であり、歴史公 文書の利用請求にかかる審査請求があった場 合の諮問機関(救済制度)であるとした。し かし民間からの史料の受け入れ(寄贈・寄託) は直ちに行い得ず、将来の課題に残された。 そしてパブリックコメントを実施し、県の 規則案と知事部局の文書管理規定案を山形県 公文書等管理委員会で審議して条例施行への 準備を続け、職員への研修を実施している。 いっぽう、多くの歴史公文書を管理するに は公文書館の整備が望まれるが、山形県では 歴史的・文化的な価値を有すると認められる 公文書(歴史公文書)の収集・保存と閲覧の 窓口施設として、平成27年11月9日に村山総 合支庁西庁舎(現在の西村山地域振興局)の 学事文書課分室内に公文書センターを開設し た。しかし人口密集地から離れていて利用に 不便なので、山形市の中心部にある県立図書 館の改築にあわせてその内部へ移転し、令和 2年2月に再オープンの予定である。 続く安藤福平氏(元広島県立文書館)の講 演「適切な文書分類により公文書をコント
ア ー キ ビ ス ト の 眼
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2019年度 公文書館機能普及セミナー in 山形
調査・研究委員会(岡山市立中央図書館)飯島 章仁
“求められる公文書館機能の姿とは”の記録
57 ロールする」では、必要な公文書が即座に検 索でき、重要な公文書が特定されて確実に公 文書館に移管されるかどうかは文書分類の出 来、不出来にかかっており、そのためには業 務活動の分析を通じてレコード制御手段が開 発されなければならないことが説かれた。 ISO15489でもICAでも文書は業務活動に関 わる情報と定義されており、文書は業務活動 を再現できるように体系的に整理されること が望ましく、文書の分類システムは組織の業 務活動の分析を基に構築されるべきである。 そして業務は機能、活動、処理の3段階の 構造をもつ。機能は組織の目標を遂行するた めの責務・任務で、年度を超えて長期的に継 続する最大単位の事務である。活動はそれぞ れの機能を達成するために遂行される数週間 から数ヶ月にわたる事務で、年度単位に実施 される。そして処理は業務活動を遂行する中 でなされる個々の仕事(最小の仕事)で、数 時間~数日の短期間で実施される事務である。 行政文書の具体的な分類の方法として、現 物の行政文書を確認しながら以上の3段階の 階層構造の分類が行われる。相互に密接な関 連を有する行政文書を一の集合物にまとめて 小分類とし、小分類をまとめて中分類とし、 中分類をまとめて大分類とするが、相互に密 接な関連を有する文書とは同一ないし類似の 業務から発生する文書であり、文書の分類は 業務の分類を反映したものであるべきである。 現状の文書を分類することから始める「ツ ミアゲ式」の分類方法については、文書は業 務から生じたものであるから、作成した職員 がみずから分類すれば、従事する業務活動に ついて知悉しているので、自然に業務に照応 した分類になることが多い。つまり仕事をし やすいファイリングをすれば自然とそうなる のだが、それを目的意識的に行い、業務の体 系を顧慮して分類を組んでいくことが大切で ある。つまり文書を分類するのではなく、業 務を分類することが重要で、それには業務を 知悉する現場の知恵を尊重し、ツミアゲ方式 で現場中心主義の考え方をとるようにしたい。 以上の考えを示したあと、広島県、大阪市、 山形県および国の文書分類の特徴を分析した。 広島県では全庁的な文書分類表を定め、こ れを基に職場ごとにファイル管理表を作成し ているのでワリツケ・ツミアゲ折衷方式にあ たるが、文書分類表は階層的に区分され、機 能の展開過程と文書分類がおおむね対応し、 人工的ではなく業務を反映した分類・排列と なっており、文書を作成する職員にも第三者 にも理解しやすい。 しかしきわめて精緻な文書分類表を作成 し、ウェブでも公開しているのは大阪市であ る。款・項・目・節・簿冊名称の5階層の分 類のほか、必要に応じて節の下に細節を加え、 簿冊名称に副題を付けられるので、実際は7 階層となる。この文書分類表によりウェブ上 で必要な文書が容易に検索できるが、大阪市 で作成される公文書簿冊は年間に10万4千 冊、全体では100万2千冊がある。 公文書管理条例の実施にむけて行政ファイ ル管理簿の整備途上とみられる山形県では、 文書分類は広島県や大阪市と一致するところ が多いが、比べると区分の精粗や、あるはず の簿冊が欠けている箇所、文書分類記号の誤 記とみられる箇所などが炙り出される。行政 府は互いに類似した業務を行っているので文 書分類も同様の排列になることが多く、比較 すれば特徴が明らかになる。その点で大阪市 の分類は的確で、分類表をウェブ上に出して 透明性を高めているが、国は分類の体系を示 していないので、ブラックボックスから目当 ての公文書を探すようになる。 このように、適切な文書分類は、公文書を コントロールし、公文書を見える化し、大量 の公文書を扱うことを可能にし、レコードス ケジュール管理を適切化する。 最後の早川和宏氏(東洋大学)の講演「山 形県を残す ~公文書センターが果たすべき 法的役割~」では、公文書管理と公文書館の 意義について法律家の立場から解説された。 すでに昭和22年制定の地方自治法で地方自 アーキビストの眼1・2019年度公文書館機能普及セミナー in 山形
記録と史料 №30(2020.3) 58 治体の事務に「証書及び公文書類を保管する こと」(第149条8)があり、地方公共団体は 平成21年の公文書館理法の制定をまたずとも 公文書管理に取り組む責務を有している。 そして昭和62年制定の公文書館法は、第2 条で情報公開法および情報公開条例の対象と なる現用の文書を対象から除き、非現用文書 に特化した法律である点が公文書管理法と異 なっている。その第3条で「国及び地方公共 団体は、歴史資料として重要な公文書等の保 存及び利用に関し、適切な措置を講ずる責務 を有する」とし、公文書館の設置の有無にか かわらず、すべての公共団体が保存の責務を 負うことを定めているのである。 さらにその第4条では、「公文書館は、歴 史資料として重要な公文書等・・を保存し、 閲覧に供するとともに、これに関連する調査 研究を行うことを目的とする施設とする」と 定め、公文書館を市民の利用に供する施設と しているので、第5条2で「地方公共団体の 設置する公文書館の当該設置に関する事項 は、当該地方公共団体の条例で定めなければ ならない」となる。これは地方自治法第244 条で公の施設を「住民の福祉を増進する目的 をもつてその利用に供するための施設」と定 義し、第244条2で「公の施設の設置及びそ の管理に関する事項は、条例でこれを定めな ければならない」としているからである。 以上から、地方公共団体は公文書館設置の 有無にかかわらず「歴史資料として重要な公 文書等」の保存・利用に適切な措置を講ずる 責務を負い、それを果たす手段の一つとして 公文書館という施設があることになる。そし て住民が利用する施設である公文書館は地方 自治法の「公の施設」に該当し、条例による 設置・管理が必要である。 次に、公文書等の管理に関する法律(公文 書管理法)では、第1条で「・・公文書等が、 健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知 的資源として、主権者である国民が主体的に 利用し得るものである」とされ、「現在及び 将来の国民に説明する責務が全うされるよう にすることを目的とする」と結ばれて、公文 書等が国民共有の知的資源であり、現在のみ ならず将来の国民への説明責務が全うされる ことが目的とされている。ただし、この法律 は国及び独立行政法人等が対象で、ここに定 められている「公文書等」には地方自治体の 文書は入らない。そこで第34条で「地方公共 団体は、この法律の趣旨にのっとり、その保 有する文書の適正な管理に関して必要な施策 を策定し、及びこれを実施するよう努めなけ ればならない」として地方公共団体にも同様 の努力義務を課しているので、公文書管理条 例を独自に定めることが求められるのである。 そして公文書管理法の「公文書等」とは、 国の行政機関の文書(行政文書)と独立行政 法人の文書(法人文書)からなる公文書等と、 国立公文書館に国の行政機関と独立行政法人 等とそれ以外の国の機関(立法機関、司法機 関)から移管され、団体や個人から寄贈・寄 託された文書(つまり公文書等の「等」は民 間由来の文書を含意する)を指す特定歴史公 文書等からなり、この法律で現用の文書から 歴史公文書までが管理され、情報公開法等と 対になって開示・利用請求の対象となる関係 にある。地方公共団体もこの法律の趣旨に則 る努力義務があるが、法人文書や歴史公文書 等には管理が行き届いていないことが多い。 以上に照らして山形県の公文書管理条例 (山形県公文書等の管理に関する条例)を検 討すると、公文書管理法の規定と比べて対象 とする公文書等の範囲に漏れ(議会文書、電 磁的記録の一部、官報・県公報・白書・新聞・ 雑誌・書籍等の不特定多数に配布するもの、 出資法人や指定管理者等の文書等)があり、 民間の文書の寄贈・寄託も想定されていない。 ただし第15条で、目録に記載の特定歴史公文 書に「利用の請求があった場合は、次に掲げ る場合を除き、これを利用させなければなら ない」とし、都合の悪いものを恣意的に隠せ る情報提供ではなく、権利としての利用が規 定され、目録にある特定歴史公文書について は、条例が例外として規定する場合を除き、
59 利用拒否ができなくなっている。 しかし公文書館は条例の条文で規定され ず、附則の中で公文書センターに言及されて いるのみである。スペースと専門職員の確保 の不十分から公文書センターを公文書館と規 定することが見送られているが、住民が利用 する施設として運営されている以上、条例で 規定し公文書館とするべきではないか。 そして国立公文書館では国立公文書館法の 規定により、特定歴史公文書等(国立公文書 館に引き継がれた公文書等)の保存・利用だ けでなく、行政文書の紛失や誤廃棄を防ぐ保 存措置(いわゆる中間書庫機能)や、現用文 書の評価選別に関する助言、現用機関の職員 への研修、地方公共団体への指導・助言等、 館外に所在する歴史公文書等にも広く関わる 業務を行っている。そうでなければ、国の機 関や独立行政法人から今後引き継がれ、団体 や個人から寄贈や寄託されるべき歴史公文書 等を守ることができず、「将来の国民に説明 する責務」を全うできないからである。 その点で、山形県では県立図書館の地下書 庫に保管されていた歴史公文書が図書館の蔵 書の増加から平成18年に現用機関だけの価値 判断で多量に選別廃棄されており、公文書セ ンターが専門的技術的な助言をできなければ 同じことが繰り返される可能性がある。また、 山形県の活動を現在と将来の県民に説明する 責務が全うされるには、実施機関の文書だけ でなく、山形県の活動を説明するのに必要な 民間所在の文書(団体や個人の文書)の寄贈 や寄託も受け入れるようにしたい。 最後に、鳥取県では「鳥取県における歴史 資料として重要な公文書等の保存等に関する 条例」で、「歴史公文書等は、・・それぞれの 保有主体が適切に保存し、及び利用に供する ことを原則としつつ、県、市町村および県民 の相互の連携と協力により、将来の世代に引 き継がれなければならない」(第3条)とし、 「県は、市町村及び県民等に対し、必要に応 じ、歴史公文書等の保存及び利用に関する協 力を行う」(第5条2)ことを定めていて、 県と市町村と県民等の協力・連携で「鳥取県」 を将来に残す立場がとられている。また「県 は災害が発生したときその他歴史公文書等の 滅失又は破損のおそれがあると認められると きは、その保有主体その他の関係者との連携 と協力により、必要に応じ、当該歴史公文書 等の一時的な保管場所の確保その他の適切な 措置を講ずるものとする」(第8条)とあり、 災害時の歴史公文書等のレスキューを県の任 務とし、踏み込んだ姿勢を示している。 こうして「過去から残ってきた遺産」であ る歴史公文書等だけでなく、「いま、残した から歴史的公文書等になっていくもの」にも 大いに活動を 広げてほしい と、公文書セ ンターに期待 する言葉で締 めくくられた。 質疑応答では、「業務に基づく文書分類の 実践方法は?」との問いに、「まず文書管理 課が自課の文書で実践するか、どこかの課の 協力を得て実践例を示し、全庁に広めていく とよい(安藤氏)」とか、「プライバシー保護 で閲覧を制限する場合の考え方は?」に、「プ ライバシーは永久にあるのではなく、時間と ともに逓減するとみなされるので、その考え 方に沿って順次公開する(早川氏)」など、 セミナーの内容を自身の課題として実践的に 生かすための質問が相次ぎ、参加者の意識の 高さがうかがえた。また築達氏は、質問に応 えて公文書センターを公文書館法に基づく公 文書館へ発展させる決意と希望を述べた。 2人の講師の講演は山形県の公文書管理の 充実と公文書センターの発展を願って周到か つ丁寧に準備されたものであったが、司会の 加藤氏が「県民市民の皆さんがぜひ公文書セ ンターに主体的に関わって大きく育ててほし い」と結んだように、このセミナーで語られ たことが参加者の一人一人によってさらに深 められ、豊かに結実するのを願ってやまない。 討議の様子 アーキビストの眼1・2019年度公文書館機能普及セミナー in 山形