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勾留・証拠・再審

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勾留・証拠・再審

清 水 晴 生

第1節 勾留について 1 勾留 2 保釈 3 勾留理由開示と弁護人の立会い 第2節 伝聞証拠と伝聞法則 1 証拠調べの公平さ保障としての伝聞法則 2 伝聞・非伝聞 3 検面調書 4 証言拒否 第3節 違法証拠類型と違法阻却 1 「令状主義の精神を没却するような重大な違法」と比例原則 2 比例原則の機能不全 3 違法阻却審査 (1)緊急性 (2)具体的な証拠隠滅行為や証拠散逸の事態への対抗(具体的必要性) (3)遵法意図 (4)補充性 (5)比例性・法益権衡 4 取調べにおける違法証拠類型 (1)約束による自白類型 (2)偽計による自白類型 (3)長時間・長期間に亙る取調べ類型 (4)深夜に亙る取調べ類型 (5)ミランダ警告不実施(黙秘権・弁護人依頼権不告知)類型 5 捜索・所持品検査における違法証拠類型 (1)令状主義違反類型 (2)プライバシー権侵害類型 6 結語

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第1節 勾留について 1 勾留  勾留(1)とは、逮捕(2)された状態(=「留置」。205条1項)の更なる継続 であり、10日以内に起訴するかを決しうることが見込まれるときに初めて 認められる(208条1項)。これが見込めないときは、始めから「やむを得 ない事由がある」(208条2項)ことを見込んでの勾留請求ということにな るが、「やむを得ない」というのは差し迫った事情を指すのであり、10日 も前から差し迫るということはありえないのであるから、始めから勾留延 長を見込んでの勾留請求は208条1項に違反しているといわざるをえない。  逆にいえば、10日以内に起訴するかを決しうることが見込まれるほど 捜査を尽くした段階に至って初めて勾留請求ができるのであり、逆算すれ ば、令状逮捕における「相当な理由」(199条2項本文)もまた、13日間 で起訴を決しうることが見込まれるだけの「相当な理由(嫌疑)」である (1) 勾留の要件に関する最近の重要判例として、最高裁第一小法廷平成26年11月17日 決定判例時報2245号129頁、判例タイムズ1409号129頁参照。また最高裁第二小法廷 平成27年10月22日決定裁判所時報1638号2頁も参照。 (2) 逮捕とは、逃亡防止・証拠隠滅防止のための身柄の確保である(刑事訴訟規則143 条の3)。「相当な理由(嫌疑)」がある(199条2項本文)ことが必要だが、勾留・ 起訴にはまだ足りない理由・嫌疑でよい。 第4節 再審請求の三要件 1 はじめに 2 判例の検討 (1)国税徴収法違反事件 (2)DV事件 (3)大崎事件第1次再審請求 (4)日産サニー事件 (5)姫路郵便局強盗事件 (6)松橋事件 (7)布川事件第二次再審請求 (8)財田川事件 (9)白鳥事件 3 私見 4 結語

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ことが求められることになる。他方で、現行犯(213条)逮捕の場合では、 それだけの「相当な理由(嫌疑)」はすでに備わっているということになる。  「やむを得ない事由」(208条2項)による延長がいわば事後的にしか許 されない以上、208条1項上の勾留10日間、逮捕と併せて13日間というほ ぼ半月に亙る期限こそが、無罪推定(336条)を受ける被疑者の権利保障 に対する捜査の必要による制約・侵害の限界である。これが1条の法の両 目的を勘案・衡量した上での法の帰結であり、線引きである。  そうすると、208条2項の「やむを得ない事由がある」という意味は、 勾留請求段階では想定することが不可能だった事情変更が生じたことが必 要条件となる。このように解さなければ、法がわざわざ原則10日間と勾 留期限を画した意味がないことになる。「やむを得ない」という法的文言 は補充的ないし少なくとも必要最低限を意味すると解するほかないのであ るから、やむを得なかったといえるためには想定不可能だった、不可避の 事情変更が生じたということが当然前提とされなければならない。  そしてそうであるならば、勾留延長が請求され、その許否を決する際に も、想定不可能であった事情変更について具体的な言及がなされ、これに 対して判断が尽くされなければならないのはもちろんであるところ、勾留 請求段階においても、10日間でどのような詰めの捜査を行う予定であるの か、その取調べ対象の範囲について一定の幅はあるとしても可能な限り具 体的に特定しなければならないし、特定できる段階にそもそもなくてはな らない。10日という原則の期限が法が許した身柄拘束期間の限界なのであ るから、勾留請求はこのように具体的な捜査予定を踏まえて初めて10日 以内に起訴不起訴を決しうる前提での請求であることが確認され、だから こそ勾留が許される余地があるのである。従って、逮捕・勾留の理由につ いても抽象的に「身上関係に照らし」ただけでは足りずその疑いの程度ま で理由を付することが求められる(3)のと同様に、逮捕の必要性(199条2 (3) 最高裁第一小法廷平成26年11月17日決定判例時報2245号129頁。

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項但書、刑事訴訟規則143条の3)や勾留の必要性(205条1項、60条1項) についても、証拠が多いとか時間がかかるといった抽象的な理由で認める ことは許されず(4)、具体的に特定された内容に基づいて認定されるのでな ければならない。 2 保釈  勾留延長を原則的に認め、あるいは保釈(5)を容易に認めない運用は、被 疑者・被告人を今なお訴訟の客体と見る訴訟観の表れであり、この点を検 察官・裁判官は再度顧みるべきである。弁護人は当該被疑者・被告人の専 任の弁護人ではない。被疑者・被告人自身の防禦権を完全に剥奪する運用 は、憲法32条の「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれな い。」という人権保障に違反する。憲法31条の「法律の定める手続」が適 正手続であるとき、憲法32条で奪われることがないと保障されていると ころの「裁判所において」の「裁判」というのも、「裁判所」の名に値す る適正な刑事司法手続が行われるところの、実質的な意味における「裁判 所」の裁判であり、単なる名目的・形式的な意味での「裁判所」ではない ということになる。現行憲法下でのこのような実質的な意味を持つ「裁判 所」において行われるところの刑事「裁判」というのは、当事者主義が原 則的に保障されている刑事裁判であることには疑いがない。そうであると すれば、弁護人に頼る以外、被疑者・被告人自身による防禦権の行使が全 面的に制約されるような刑事手続は憲法31条のみならず、憲法32条にも 違反するものといわなければならない。まして物量的にも、質的にも及ば ない被疑者・被告人側の防禦をより多く制限するというのは比例原則違反 (4) 最高裁第三小法廷昭和37年7月3日判決民集16巻7号1408頁。 (5) 保釈に関する最近の重要判例として、特に最高裁第一小法廷平成26年11月18日決 定刑集68巻9号1020頁。その他、最高裁第三小法廷平成27年4月15日決定判例時報 2260号129頁、判例タイムズ1414号152頁、最高裁第三小法廷平成26年3月25日決定 判例時報2221号129頁、判例タイムズ1401号165頁も参照。

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という意味でも適正手続に違反する。被疑者・被告人は本来であれば、証 拠隠滅に至らない限り、証人と接触・面会して証言を得ることが当然とさ えいえるはずである。そうするとむしろ、せいぜい個別具体的に相当の理 由を認定可能な接触・面会禁止や移動制限を保釈条件として設定するとい う限度においては尚防禦権に対する制約も憲法上許容可能だというにとど まるのであり、身柄そのものを拘束して防禦権行使を著しく制限して裁判 を受ける権利を侵害する運用は、本来の原則と例外との関係を逆転させて いるといわなければならない。 3 勾留理由開示と弁護人の立会い  憲法34条前段は「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護 人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。」と定め、 同後段では「又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があ れば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示 されなければならない。」と定められている。  つまり前段では、勾留には「勾留理由開示」と「弁護人依頼権」とが「且 つ」によって結ばれており、後段では特に勾留の理由が示される対象を「本 人及びその弁護人」としており、「本人又はその弁護人」とはしていない。  憲法34条は勾留には「正当な理由」が必要だというのである。そして そればかりでなく、法廷でその理由を一緒に聞く弁護人も必ず必要だとい うのである。  刑事訴訟法60条1項は勾留の理由のみを掲げている。住所不定(同1 号)、罪証隠滅を疑う相当の理由(同2号)、逃亡を疑う相当の理由(同3 号)。  しかし憲法34条は実は「法廷でその理由を一緒に聞く」という意味で の実質的な弁護人依頼権までを同時に要求している。勾留理由開示裁判請 求権は実質的弁護人依頼権と不可分である。

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 なぜ正当な理由ないし相当の理由があるだけ、あるいはその開示手続が あるだけでは足りず、共にその理由を聞く弁護人の存在までが憲法上必要 的とされているのか。  このように考えれば、憲法34条が「直ちに告げられ」また「示され」な ければならないとする「正当な理由」ないし「相当の理由」については、 単に告げられあるいは示されるだけでは足りず、その嫌疑の刑法上の意味 内容、罪証隠滅等の相当の理由の内実、勾留の必要性の具体的内容につい て、それらの法的な意味を日常用語的に解釈・解読し直した内容を被疑者 に伝える役割が弁護人に求められ、その役割が十全に果たされることに よって初めて「告げられ」そして「示され」たといえるということになる。 その「且つ」や「及び」といった文言を慎重に解釈する限り、憲法34条 はこのような実質的な保障を被疑者の憲法上の権利として規定したものと 考えざるをえない。  そうであるとすれば、逮捕後の弁解録取手続時に弁護人の立会いが認め られなければそれは憲法34条違反である(6)  身柄が拘束される以前はいわば任意捜査の範疇内であるから当事者主義 的訴訟構造上の要請は未だ強くは働かないものの、逮捕・勾留に至ればそ の時点からすでに被疑者はこの対立構造に強制的に置かれるのであるから 当事者対等原則の要請が強く働くことになる。しかも公判段階と異なり裁 判所の関与は間接的とならざるをえない分、公判段階以上に対等当事者と しての保護を十二分に保障して、その後の公判手続の公平性いい換えれば 真実発見を妨げるアンバランスの解消を担保しうる手続となっていなけれ ばならない。尚「事案の真相を明らかに」するために捜査・取調べを要す るとしても、それは法1条が念を押している通り「公共の福祉の維持と個 人の基本的人権の保障とを全うしつつ」行われるのでなければならないか (6) 弁解録取時には黙秘権の告知さえ要しないとする最高裁第一小法廷昭和27年3月 27日判決刑集6巻3号520頁は更にこの弁解録取書に証拠能力まで付与するが、職 権主義的訴訟観の残滓というほかない。

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ら、法律的知識ゼロ、場合によっては裁判経験もゼロのいわば徒手空拳の 被疑者を孤立無援の状態に放置することは当事者対等原則違反というほか なく、弁護人の立会いはもうこの段階から認められなければならない。 第2節 伝聞証拠と伝聞法則 1 証拠調べの公平さ保障としての伝聞法則  いわば伝聞書面は、主尋問や反対尋問におけるまごつきや逡巡や曖昧さ や自信のなさといったものを全て回避して、完全な問答がなされ終えた状 態を保障されることになる。そのようなことは実際の尋問においては非常 に困難であるにもかかわらず、これが容易にしかも完全な形でなされえて しまう。しかもそれは証拠へのアクセスが容易な検察側によってより便利 に活用可能だという不公平さをも備えている(7)  口約束では足りないから契約書を作るという社会慣行からも明らかな通 り、我々は一般に口頭でやりとりする内容は不確実なものと捉え、書面に 固定されたものこそ信用に値するという感覚を持ちがちである。しかも伝 聞書面においては更に、その内容と構成についてあらかじめ吟味したとこ ろをそのまま再現でき、何度も訂正が可能で時間にも十分な余裕があり、 その論理一貫性を確保することも容易である。いわばぶっつけ本番のライ ブ演奏ではなく、何度も繰り返した中のベストを採用し更に部分的な編集 さえ可能なレコーディング演奏との違いだといえばわかりやすい。これは 同様に時間をかけて繰り返すことが可能で、そのうちのベストの部分を採 用することのできる取調べ録画映像についても同じことがあてはまる。  このように伝聞書面は人質司法や取調べにおける不公平がそのまま法廷 での証拠調べに引き継がれてしまうところに大きな問題がある。伝聞書面 は知覚・記憶・表現叙述の各過程で誤りを生じやすくまた反対尋問による (7) 早野暁「法廷証拠となることを知ってなされる供述と対決権条項」法学新報(中央 大学)121巻3・4号170頁以下も参照。

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その是正が保障されないが故に排除されるというだけでなく、今やそれが 捜査段階の不当さや不公平さまでを法廷における証拠調べに直接持ち込み 影響を与えるからこそ、当事者対等主義に適う公平な手続による真実発見 を損なうが故に排除されなければならないというべきである(8) 2 伝聞・非伝聞(9)  東京高裁昭和58年1月27日判決(10)は、某月25日の会議で話し合われた内 容を後に聞き知った者により「(25)確認点―しゃ罪といしゃ料」と書き留 められたメモにつき、原審がおそらく「いわゆる供述証拠ではあるけれど も、伝聞禁止の法則の適用されない場合であると解した」ものと推測でき るところ、「人の意思、計画を記載したメモについては、その意思、計画を 立証するためには、伝聞禁止の法則の適用はないと解することが可能であ る。それは、知覚、記憶、表現、叙述を前提とする供述証拠と異なり、知 覚、記憶を欠落するのであるから、その作成が真摯になされたことが証明 されれば、必ずしも原供述者を証人として尋問し、反対尋問によりその信 用性をテストする必要はないと解されるからである」旨判示した上で、右 メモの記載についてはその内容を教示した原供述者(11)から伝え聞いた内容 をメモに記載したというのであるから再伝聞供述と解さなければならない とした。そして更に「それが最終的に共犯者全員の共謀の意思の合致する (8) 伝聞法則をこのように捉えるときには、伝聞証拠の扱いに一定の偏面性を認めるべ きとする主張にも当然妥当性が認められる。 (9) 例えば、最高裁第二小法廷昭和30年12月9日判決刑集9巻13号2699頁参照。また、 大政正一・栗原宏武「証言の証拠能力」判例タイムズ599号11頁以下等も参照。 (10) 判例時報1097号146頁、判例タイムズ496号163頁。評釈として、川出敏裕「伝聞 の意義」井上正仁編『刑事訴訟法判例百選[第8版](別冊ジュリスト174号)180 頁以下等参照。また、大阪高裁昭和57年3月16日判決判例時報1046号146頁、判例 タイムズ467号172頁も参照。 (11) この者を原供述者としうるかも実は疑わしく、更に伝聞性を重ねて考慮すべき余 地が事案上認められる。原供述者も「謝罪と慰謝料を要求する旨の発言を聞き」、こ れを伝えた、とされているからである。

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ところとして確認されたものであること」が前提とされる限りにおいては、 「それが真摯に作成されたと認められるかぎり、伝聞禁止の法則の適用され ない場合として証拠能力を認める余地があるといえよう」とした。  即ち、共犯者全員についてメモ作成者と同等の立場において、作成され たメモにつき伝聞法則不適用(非伝聞)とする余地があるとしたものであ る。その理由は当該メモが「知覚、記憶」を前提とせず、単に「表現、叙 述」を前提とする供述証拠でしかないことから、その作成の真摯性さえ認 められれば一般の伝聞証拠相当の信用性テストを要しないと解されるから だというのである。  本判示は本件メモを再伝聞供述だと認めていながら非伝聞証拠と同様に 扱うとするもので、法廷の伝聞例外要件を排していわば超法規的に信用性 を肯定して伝聞例外(非伝聞)を認めうる場合を創造し、その要件につい ても真摯性で足りるとしたもので、かなり思い切った判例立法を展開した ものともいえる。刑事証拠法についてこのような司法による立法が正当化 される余地があるかは疑問なしとしない。  通常の伝聞証拠は、例えば目撃証言であれば、視覚情報をそのまま視覚 情報として記憶しておきながら、いざ供述場面においてはこれを記述情 報・文章表現に置き換えていく作業が必要となり、その過程において必ず しも論理的ではない直感的な視覚・映像情報の変容・部分的な欠落あるい は文章表現の拙さや想像による補強・論理性補完などを容易に来し、完全 な再現がままならないことが伝聞法則の根拠となっていよう。  本件のようなメモの場合についても、実は説明という文章表現をメモと いう同じ文章表現として書き留めるという過程を経る意味で変容のおそれ が小さいように思えるが、そうではなかろう。単に逐語的に書き留める記 録係の速記録のようなものとは異なり、犯行計画謀議の参加者は当該計画 が実現可能なものであるか、逃走の方法・経路に至るまで安全に遂行可能 であるか、自分に与えられる役割が相応な負担にとどまっているか、当該

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犯行手段が目的に見合ったものであるかなど、その内容を十分に理解・咀 嚼した上で同意・不同意を表明したり、了解したり、参加を決定したりす るのである。そこには知覚・理解・整理・解釈・吟味・確認・図式化ない し箇条書きなどといった濃密なコミュニケーションプロセスが介在してい るのであって、そのいずれの段階にも勘違い・取り違え・誤解、考え違 い・勝手な解釈、不十分な理解・早合点、ミスコミュニケーション、混 乱、誤記などが混入してくる。非日常事態である犯罪計画謀議であれば尚 更複雑な過程を経るといえよう。  つまり、自分で立案計画した内容を書き起こしたというのとは異なり、 他人の意思形成が伝達されてなされた意思形成のメモについては、やはり 原供述を「知覚、記憶」して更に理解・整理・解釈・吟味・確認等の過程 を経た上で「表現、叙述」に至っているのである(12)から、要件を緩和し て非伝聞扱いすることは理由がないといわなければならない。  まして刑事訴訟法上の伝聞法則は書面化されたこと自体を以て伝聞証拠 禁止の対象としているのであり、それは真摯に作成された供述書であろう と変わりはないのであるから、明文によらない伝聞法則の潜脱は認められ ないというほかない。  このような法潜脱的な非伝聞化により、他の共謀参加者らの意思内容ま でが当該メモの内容から推認されうる(13)ことにもなろうが、これは実質 (12) 伊藤睦「犯行メモの証拠能力(迎賓館事件)」法律時報82巻2号122頁も「記載通 りの犯行計画が練られていたか否か、つまりはメモ作成者が共謀者の発言内容も含 めた犯行計画を正確に知覚し、正確かつ誠実に記録したか否かが問題となるのであ るから、本来「知覚・記憶」の過程は問題とならざるを得ない」という。堀江慎司「伝 聞証拠の意義──犯行計画メモの証拠能力──」刑事法ジャーナル31号38頁も「例 えば複数人の共謀による犯行とされる事案において、犯行計画メモから、そこに記 載された内容通りの共謀が成立していたこと(ないし謀議参加者の間でそのような 内容の共通意思が形成されたこと)を推認しようとするのであれば、同メモは典型 的な伝聞証拠と位置づけられることになる。単にメモの作成者自身の計画・意思を 推認しようとする場合と異なり、作成者が例えば謀議の内容を知覚し記憶した過程 も問題になるからである」という。 (13) 三好幹夫「伝聞法則の適用」判例タイムズ816号64頁参照。

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的には原供述者の供述を聞いた者が書き留めた書面からの推認という重層 的な伝聞過程を経た認定となるものであり、メモした本人でない者の意思 内容までの推認を許容しうるほどの信用性を担保しうるものであるかは疑 義なしとしない。 3 検面調書  刑事訴訟法321条1項1号と同2号はほぼ似ているが、2号後段が特信 情況を要求している点が異なる。これはつまり2号書面について、やはり 信用性が特に必要であることが明示されているということである。1号で は信用性が擬制されているとすると、1項の中で唯一2号前段だけが、後 段におけるのと同じ2号書面であるにもかかわらず信用性が要求されてい ない点で特殊な扱いだということになる。しかし伝聞例外の本質が必要性 と信用性双方の充足にあることを考えれば、2号前段は単に特殊というだ けにとどまらず、不当に伝聞例外性が認められてしまっているということ が明らかである。検察官に法曹としての公益性追求の性格を認めうる余地 がそもそもないことはもはや明らかというほかなく、当事者主義の浸透に よる職権主義残滓の排斥も証拠法でこそ尚更充足されなければならない。 とりわけ検面調書については、起訴後の有罪立証を見越した、法的観点を 踏まえた内容として作成されるという意味ですでに中立的な性格を半ば以 上失っている証拠なのであるから、これを容易に伝聞例外として許容すべ きではない。内容においても員面調書の内容を踏まえて作成される以上、 むしろ3号書面に準じた要件が課される必要さえある。そうであれば、1 号前段と全く同じ要件の下で例外とされる理由は認められない。この不当 性を回避するためには、以上の論理から当然に導かれるように、相当の信 用に足る情況の保障が要求されよう。即ち、2号後段の相対的特信情況は いわば相反性に基づく必要性との組み合わせによって伝聞例外とされるの であるが、前段は供述不能による必要性しか満たしていない。しかし供述

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不能による必要性と相反性による必要性との間で、法定外供述の必要性の 意味における差異はないといえるから、供述不能の場合に特段の必要性を 認めてこれのみで伝聞例外とすることはできない。そしてこの場合におけ る信用性については後段の場合のように相対的な判断をすることができな いのであるから、まずは相対的特信情況に相当するような一定の信用性要 件を要求する必要がある。この2号後段の相対的特信情況はいわば相反性 という必要性に関わる事態を前提としたものであるが、他方で3号の絶対 的特信情況はいわば不可欠性という必要性に関わる事態を前提としてい る。もはや相反性自体が伝聞例外の必要性を基礎づけうるともいえないこ とはまず確認されるべきである。公判中心主義に反するのみならず、人質 司法・調書裁判により当事者対等原則が害されているといわなければなら ない。そうするとむしろ相対的特信情況自体がいってみれば絶対的特信情 況に比肩するものとして捉えられなければならないことになる。他方で3 号ではこれは供述不能要件と「かつ」で結びつけられていることからもわ かる通り、いわば3号にいう特に信用すべき情況は唯一絶対的に裁判全体 を支えるに足りるだけの特別な信用性を要求する場合に初めて許容される 証拠であるところ、2号の特信情況は唯一絶対性までは要求されないもの の裁判全体を支えるに足りるだけの特別な信用性を必要としよう。そうで あればやはり、2号前段の供述不能についても、供述が可能であったとし てもやはり「前の供述」の方が特に十分な信用性が認められたという場合 に初めて伝聞例外として許容されうると解すべきである。以上のように、 2号と3号の特信情況の実質を、それぞれ十分な絶対的特信情況と唯一の 絶対的特信情況と捉えた上で、2号前段にも十分な絶対的特信情況を要求 することで初めて、伝聞例外を認めるに相応しい信用性要件を課すことが できることになる。このように解しても尚、2号書面は3号の場合とは異 なり、供述不能かつ相反性ということにはならないという意味において3 号との間の実定法上の差異は無視されてはいないのである。

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 伝聞法則は知覚・記憶・叙述表現において誤りが混入しうるから信用性 が類型的に低く、反対尋問による保障等を要すると趣旨説明されるもので ある。この意味では伝聞法則は法律的関連性に関わる。このように信用性 が低いが故に禁止されている以上、これを何ら保障することなく、必要性 のみを理由として伝聞例外を認めることはそもそもできないといわなけれ ばならない。  他方でまた、伝聞書面は、ただ単に誤りが混入してしまうというだけで はなく、不可避的に調書化の過程において取調官の創作性が大いに介入・ 介在して元の証言を変性させざるをえないという意味で、法廷での直接の 証言と比較するときにはこれはもはや真実から遠ざかる危険を孕むものと して禁止すべきとさえいうことができる。問答が逐語的に再現されている わけではない検面調書については、いわば訴追する側という一方当事者の 意図を反映させて新たに作り上げられた、あえていうならば伝聞過程を経 て創造・創作された書面というべき性格を本質的に有している。これは悪 意による場合に限らず、要約型の検面調書が不可避的に内蔵する性格であ るが故に、これは単に裁判所の判断を誤らせるおそれがあるというにとど まらず、その創作性・作為性・技巧性故に法廷への顕出を禁止すべきもの である。警察官による員面調書が取調べの過程を比較的全般的にまた広汎 に調書化するが故に作為性・創作性においては比較的高まらないのに対し て、検面調書は有罪立証を踏まえた訴追官の視点によって再構成され、も はや単なる伝聞書面の域を越えて新たに整合性や完成度を伴い創作された というに足りる書面である。これはもはや証拠法における当事者対等原則 を侵害する証拠というべきであり、本来的に禁止されなければならない。 このように伝聞法則において2号書面が単に法律的関連性の観点のみなら ず証拠禁止の観点からも厳しく制限されるべきものである以上、その例外 を認めることも厳しい制限の下に初めて許容されなければならない。  そして無論、この信用性は証拠能力の要件であるから、書面の内容(証

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明力)から評価することは許されない。そもそも伝聞書面はその整合性等 の点において法廷での証言よりも当然整合性を保ちやすいのであるから、 これをもって特信性を認めることは伝聞法則の趣旨に真っ向から反してい るものといわなければならない。  更にまた、員面調書をそのまま引用したような検面調書について2号所 定の要件で伝聞例外を認めることが許されないことからもわかる通り、検 面調書が員面調書よりも緩やかな要件の下で例外性が認められるのは、そ れ相応の実質を伴うからこそのことなのである。法は1号から3号までの 伝聞例外について単に形式的な差を設けたわけではなく、実質的に相異な る内実を持つものとして差を設定したのであるから、2号前段要件につい てもその実質的な差異に見合った内容を持つものと解釈されるのでなけれ ば憲法31条違反といわざるをえないことになる。 4 証言拒否  供述不能について証言拒否の場合を含めうるかについては、供述不能 をどのように捉えるべきかということをまず踏まえる必要がある。即ち、 ここでいう供述不能とは検察官や裁判所がいわば主観的な観点から、もう 話さないと判断できるから不能だといえるものなのだろうか。むしろ物理 的ないし客観的に供述できないということを定めたのではなかろうか。そ うでなければ、例えば証人が明らかな嘘ばかりを答えるとか、全く問いと は関係ないことばかり答える場合でさえ、これをもって全くまともに答え る気がない・証言する気を見せないから供述不能だということさえ可能と なってしまう。これらは供述不能ではなく、あくまで供述拒否なのである。  また以前から、公判では人間関係などを気にして証言を拒否する場合が あるなどといった指摘もあるが、抽象的且つ一方的な指摘である。むしろ 公判でようやく任意に拒否に及んだということは、逆に取調べ時の任意性 を疑う証左と考えるべきである。そうであればやはり証言拒否の場合を供

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述不能とし伝聞例外を認めることは、任意性・信用性に疑義のある証拠を 許容することにもなりうるのであるから、尚更2号前段要件の類推拡張を 許すべきではないことになる(14) 第3節 違法証拠類型と違法阻却 1 「令状主義の精神を没却するような重大な違法」と比例原則  最高裁第三小法廷昭和51年3月16日決定(15)は「意思を制圧」(16)して初め て強制処分だとした。つまりこのレベルで初めて令状主義が実質的に妥当 することになる。  他方、最高裁第一小法廷昭和53年9月7日判決(17)は「令状主義の精神 を没却するような重大な違法」(18)があって初めて証拠排除がなされるとし た。令状主義の精神を没却するためには、その前提として令状主義の精神 が妥当すべき処分であることが必要である。令状主義の精神が妥当すべき 処分とは結局、「意思を制圧」するような処分だといえる。  つまり、意思を制圧するものではない任意処分は令状主義の精神が妥当 すべきものではない以上、任意処分によって令状主義の精神が没却される ことはありえないことになる。結局、違法な任意処分が令状主義の精神を 没却することはありえず、従って証拠排除されることもない。2つの最高 裁判例の論理では、違法な任意処分によって証拠排除されることは全くあ りえないということになる。 (14) 最高裁判所大法廷昭和27年4月9日判決刑集6巻4号588頁参照。その他、証言 拒否と伝聞例外・供述不能につき、吉弘光男「供述不能の意義」松尾浩也・井上正 仁編『刑事訴訟法判例百選[第7版](別冊ジュリスト148号)182頁以下、山本正 樹「供述不能の意義」井上正仁編『刑事訴訟法判例百選[第8版](別冊ジュリスト 174号)182頁以下、吉村典晃「供述不能の意義」井上正仁・大澤裕・川出敏裕編『刑 事訴訟法判例百選[第10版](別冊ジュリスト232号)184頁以下等参照。 (15) 刑集30巻2号187頁。 (16) 刑集30巻2号191頁。 (17) 刑集32巻6号1672頁。 (18) 刑集32巻6号1682頁。

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 のみならず、では令状主義が妥当すべき強制処分においては、どの程度 証拠排除の可能性があるのか。  証拠排除されるのは違法が「重大な」場合である。  昭和53年判決はこの重大性基準を具体的事案(19)に対して次のようにあて はめた。「これを本件についてみると、原判決の認定した前記事実によれ ば、被告人の承諾なくその上衣左側内ポケツトから本件証拠物を取り出した K巡査の行為は、職務質問の要件が存在し、かつ、所持品検査の必要性と緊 急性が認められる状況のもとで、必ずしも諾否の態度が明白ではなかつた被 告人に対し、所持品検査として許容される限度をわずかに超えて行われたに 過ぎないのであつて、もとより同巡査において令状主義に関する諸規定を潜 脱しようとの意図があつたものではなく、また、他に右所持品検査に際し強 制等のされた事跡も認められないので、本件証拠物の押収手続の違法は必ず しも重大であるとはいいえないのであり、これを被告人の罪証に供すること が、違法な捜査の抑制の見地に立つてみても相当でないとは認めがたいか ら、本件証拠物の証拠能力はこれを肯定すべきである。」と。  重大性を否定した要素を取り出してみると、それは次のようなもので あった。 ・所持品検査の必要性と緊急性が認められる状況だった ・被告人の諾否が不明であった ・許容限度をわずかに超えたに過ぎない ・令状主義潜脱の意図なし ・他の強制なし  更に結論として、「本件証拠物の押収手続の違法は必ずしも重大であると はいいえない」のであり、「これを被告人の罪証に供することが、違法な捜 査の抑制の見地に立つてみても相当でないとは認めがたい」とした。この (19) 原判決(大阪高裁昭和51年4月27日判決刑集32巻6号1765頁)は、「本件証拠物 の収集手続の瑕疵は極めて重大であって、憲法35条及び刑事訴訟法218条1項所定 の令状主義に違反するもの」(1771頁)としていた。

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部分については、「必ずしも重大であるとはいいえない」ということは、重 大とする余地もないではないということにもなる。そうであるのに証拠排 除されない。つまりただ単に重大であるというだけでは足りない。それは 「相当」な「重大」さでなければならない、ということになる。「違法な捜 査の抑制の見地」云々というのは、単に重大なだけでなく、相当に重大で あることを要求するための修飾表現だったとわかる。つまり、「令状主義の 精神を没却するような」重大な違法とは、「相当」に重大な違法であった。  結局、証拠排除が妥当しうるほどの違法な強制処分かどうかもまた、任 意処分における比例原則と同様に、証拠排除すべきほどに「相当程度に重 大」なのかそれともそれほどには「相当程度に重大とはいえない」のかと いう相対的な違法の程度によって決せられることになる。つまりここでも 比例原則が妥当している。  何と何との比例性か。  それは究極的には、証拠排除により防禦権保障を実効的なものとする利 益と、証拠を許容して刑罰権の実現を図る利益との間の比例性ということ になる。  後者の刑罰権実現利益を正当化する諸要素として、先に列挙したものが 摘示されたのである。これらが刑罰権実現利益を正当化しうる要素である ことを定める法的な基準・規範は元々は存在しない。最高裁自身が具体的 な事案の中から丁寧に一つ一つ取り上げたものであり、それぞれが違法の 些少さを物語ろうとするものである。しかしいずれもよく見れば大した理 由になるとも思われないものばかりである。所持品検査の必要性と緊急性 が認められる状況だったことは強制捜査の違法評価とは関わりがない。そ もそも所持品検査の必要性と緊急性さえ認められなければ元から論外とい うだけの話である。被告人の諾否が不明であったことなど何の言い訳にも ならない。許容限度をわずかに超えたに過ぎないことは、情状としては考 慮されても違法かどうかを決する時点では意味を持たない。潜脱の意図な

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どなくて当然であり、これを積極要素として加味する意味がわからない。 他の強制がなければ良いという理屈がそもそも成り立っていない。  それ以上に問題なのは、比例性判断のもう一方の対象である防禦の利益 について、何一つ具体的に検討していないことである。それはひとまとめ に「令状主義の精神」という姿形さえない「精神」として扱われただけで ある。つまり、刑罰権実現利益については何の手がかりさえない中から、 最高裁自身が具体的な事実を掘り返していくつも列挙してみせたのに対し て、防御権保障の利益については余りに抽象的な「精神」を語っただけな のである。これではまともに比例性判断を行うことはできない(20)  こうした裁判所一般に見られる姿勢がある限り、違法証拠排除において 比例原則はほとんど機能しえない。それはまさに令状主義潜脱の明白な意 図の下に組織的に具体的事件を俟たずに行われたようなごく例外的な場合 に限られてしまう。刑罰権実現利益を始めから偏重し、防御権保障に対す る具体的検討さえ怠る裁判所の態度の前では、任意処分に関しても強制処 分に関しても比例原則による判断が機能しうることはおよそ考えられない というのは、まさに刑事裁判の現実とも一致する(21) (20) 比例原則が機能するためには、利益衡量にあたり「個別事案の具体的事実状況」が 取り入れられることにより審査密度・規律密度が高められなければならないとするも のとして、亘理格「利益衡量型司法審査と比例原則」法学教室339号44頁以下参照。 (21) 無論ごくわずかな例外は存在する。例えばGPS捜査事件大法廷判決(最高裁大法廷平 成29年3月15日判決刑集71巻3号13頁)においては、当該捜査や証拠を必要とする利益 以上に、「私的領域への侵入」が「網羅的探索」的になされることから保護される防御 の利益の方が大きいものと判断された。それは元々刑事訴訟法が予定していなかった新 たな捜査手法の性質を厳密に検証した結果であった。大法廷判決全般につき、尾崎愛美 「GPS捜査の適法性に関する最高裁大法廷判決を受けて(上)(下)」捜査研究798号43頁、 800号2頁参照。また、GPS捜査については例えば、池亀尚之「GPS捜査──近時の刑 事裁判例の考察と法的問題点の整理──」愛知大学法経論集209号77頁。今後更に、ビッ グデータの活用と結びついた捜査や証拠の違法を審査する際には、網羅性・探索性のみ ならず、蓄積性や転用可能性・汎用性等も考慮されなければならない。    しかしいずれにしても、この幸運な例外となるかどうかの指針は何も示されてい ない。粘り強い弁護活動が結果的に実を結ぶかどうかは文字通り幸運か不運かに よって左右されるようなものといえる。

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2 比例原則の機能不全  しかし実のところ、比例原則が機能していないのは一人刑事訴訟法上の 捜査や証拠に関わる争いにおいてだけではない。  猿払事件(22)において示された「国公法102条1項及び規則による公務員 に対する政治的行為の禁止が右の合理的で必要やむをえない限度にとどま るものか否かを判断するにあたつては、禁止の目的、この目的と禁止され る政治的行為との関連性、政治的行為を禁止することにより得られる利益 と禁止することにより失われる利益との均衡の三点から検討することが必 要である。」(23)とのいわゆる違憲審査基準も、法による規制の目的や関連 性が捜査手続と同様にほとんど問題とされえない(24)ときには、結局のと ころは(刑罰権実現の利益と同様の)大きな公益と小さな私益との比較衡 量による司法消極主義の維持以上のものではないことになる(25)  同じことは近年のいわゆる世田谷事件最高裁判決(26)にもあてはまる。 そこでは偏面的に、侵害される政治的中立性については深くその実質的な おそれにまで言及した。曰く「被告人は、……指揮命令や指導監督等を通 じて他の多数の職員の職務の遂行に影響を及ぼすことのできる地位にあっ (22) 最高裁大法廷昭和49年11月6日判決刑集28巻9号393頁。これについて例えば、 小山剛「比例原則と猿払基準」法学研究(慶応大学)87巻2号29頁以下。 (23) 刑集28巻9号399頁以下。 (24) オリヴァ・レプシウス(横内恵訳)「比例原則の可能性と限界」自治研究89巻11 号64頁以下は「比例原則の限界」、「比例原則に不向きな法領域」として租税に言及 する。曰く「目的−手段−コントロールに適していない法領域は少なくない。なぜ ならば、典型的には、目的達成のための手段は一つしか存在せず、それ故、合理性 審査が排除されるからである。租税法を想起されたい。租税の目的は、国家の一般 的な財政需要を充足することである。その目的のためには、一つの手段しか存在し ない。すなわち、租税である。したがって、より緩やかな手段を用いることができ ないために、適合性と必要性の審査は、大概、不要となるのである。」と。 (25) それ以上のものとなった例外的なケースとしては、法令違憲となったわずかな ケースのほかに、例えば、エホバの証人剣道実技事件(最高裁第二小法廷平成8年 3月8日判決民集50巻3号469頁)も参照。    その他、こうした憲法訴訟における比例原則の適用については、拙稿「プライバ シー権と自己実現」白鷗法学26巻2号159頁以下も参照。 (26) 最高裁第二小法廷平成24年12月7日判決刑集66巻12号1722頁。

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たといえる。このような地位及び職務の内容や権限を担っていた被告人が 政党機関紙の配布という特定の政党を積極的に支援する行動を行うことに ついては、それが勤務外のものであったとしても、国民全体の奉仕者とし て政治的に中立な姿勢を特に堅持すべき立場にある管理職的地位の公務員 が殊更にこのような一定の政治的傾向を顕著に示す行動に出ているのであ るから、当該公務員による裁量権を伴う職務権限の行使の過程の様々な場 面でその政治的傾向が職務内容に現れる蓋然性が高まり、その指揮命令や 指導監督を通じてその部下等の職務の遂行や組織の運営にもその傾向に 沿った影響を及ぼすことになりかねない。したがって、これらによって、 当該公務員及びその属する行政組織の職務の遂行の政治的中立性が損なわ れるおそれが実質的に生ずるものということができる。そうすると、本件 配布行為が、勤務時間外である休日に、国ないし職場の施設を利用せず に、それ自体は公務員としての地位を利用することなく行われたものであ ること、公務員により組織される団体の活動としての性格を有しないこ と、公務員であることを明らかにすることなく、無言で郵便受けに文書を 配布したにとどまるものであって、公務員による行為と認識し得る態様で はなかったことなどの事情を考慮しても、本件配布行為には、公務員の職 務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められ、本件配布行 為は本件罰則規定の構成要件に該当するというべきである。」(27)(28) (27) 宍戸常寿「国家公務員の政治的行為に対する刑事罰」『平成25年度重要判例解説』 (ジュリスト1466号)24頁以下も参照。同25頁は堀越事件判決により「猿払判決は 一つの事例判断として位置づけ直されることになった。」とするが、むしろ堀越事件 判決が尚「一つの事例判断として」しか位置づけられえない、従って「精神的自由 に関する諸判例の見直しの扉も開け放たれた」(同25頁)わけではなく、変わらず鍵 まではかかってないものの閉じられたままであることに思いを致したい。 (28) 政党機関紙の配布という積極的に支援する行動を行うような被告人であれば、職務中に も無意識の内にあるいは暗に部下らに偏った影響を与えてしまいかねない、だから政治的 中立性が損なわれる実質的なおそれがあるというのである。しかしこれでは単に表現の自 由を制限するおそれがあるというだけではなく、職務中の内心の自由に対する直接の制約 を罰則付きで認めているのと同じであって、このような論理で正当化される罰則規定であ るとしたならば、当該規定は憲法19条に違反するものといわなければならないだろう。

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 同日の同じ第二小法廷によるいわゆる堀越事件(29)では、公務の政治的 中立性に対する実質的なおそれがその非支配管理性と非組織性とによって 否定された。比例原則にあてはめていい換えれば、これはつまり当該行為 により侵害される公的利益が小さい故に、当該行為が禁止されることで奪 われる利益の方が大きいと判断されたということになる(30)。しかし、実際 のところ判決文の中では、当該禁止により奪われる利益の大きさ、重要さ についてはほとんど具体的に述べるところがない。公務員である個人が新 聞やチラシ・ビラを配るというほとんど唯一可能ともいえる政治的表現の 重要さ、更にはそれがむしろ国民の政治的多様性に資するという意味での 重要さについても何ら言及するところがない。近隣との関係性も希薄な現 代にあって、勤務時間外に個人の活動として新聞や文書を配るという最も 侵害的でない態様さえ刑罰でもって禁止することのアンバランスさが比較 衡量に加味されたわけではなく、ただその公務侵害の軽微さ故に正当化さ れたのである。いわば表現活動の憲法上の重要さを正当に比較衡量の俎上 に載せたわけではなかった(31)  この点、堀越事件控訴審の東京高裁判決(32)が、あえて「時代や社会の 流れの中での国民意識の変化を、いわば公知の事実として、判断要素とす ることも許容されると考える」として、あるいは当該罰則の萎縮効果も考 慮に容れつつ、国民の法意識の変容や、表現の自由、言論の自由の重要性 (29) 最高裁第二小法廷平成24年12月7日判決刑集66巻12号1337頁。 (30) 実質的違法阻却の判断(判例上は専ら構成要件該当性がないとされることになる) をあえて合憲限定解釈とか適用違憲と呼ぶべき意味は、その罰条の文言や規定ぶり が罪刑法定主義上の明確性を担保しえず憲法31条に照らし違憲であるとする文脈に おいては、ないとはいえない。世田谷事件の須藤正彦裁判官反対意見を参照。反対、 同じ世田谷事件の千葉勝美裁判官補足意見を参照。千葉勝美裁判官のいう罰則の「通 常の法令解釈」とか「罰則規定の一般的な法令解釈」(堀越事件)もまた、罪刑法定 主義を参照することで憲法31条上の疑義を質すこととなり、本来的にはそれがまさ に憲法訴訟そのものだといわなければなるまい。 (31) 最高裁らしく、そこで腐心されたのは世田谷事件と猿払事件との整合性であった。 (32) 東京高裁平成22年3月29日判決刑集66巻12号1687頁。

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に対する認識の一層の深まり、公務員の政治活動のあり方を取り巻く社会 情勢の変化等まで丁寧に視界に捉えて、本件の罰則適用が「国家公務員の 政治活動の自由に対する必要やむを得ない限度を超えた制約を加え」たと 述べて、いわば比例原則違反の結論を導いたのとは対照的である(33)  判例上機能していないといわれる違憲審査基準といったアイデアもま た、裁判所の姿勢如何によって容易に左右されてしまう比例原則や比較衡 量の安易な利用(34)と、結局はそのことによって現実に憲法上の権利の行 使が制限され歪められている現状とを何とか改善しようという前向きな試 み(35)であるはずである。 (33) 東京高裁判決はこれらを主に合理的関連性の内容として論じ、一般職公務員の政 治活動全般に亙る広範に過ぎる罰則規定が保護しようとする実質的な法益侵害の危 険(中立性とその信頼を損なうおそれ)の存否と、他方で罰則規定により制限される 「表現の自由という憲法上の極めて重要な権利」とを繰り返し対比させた上で、罰則 適用の憲法適合性について「謙抑性を始めとする刑罰法規の基本原則に照らしても、 明らかに行過ぎ」とか「禁止される対象が政治的自由という憲法上の権利であること を考慮すると、安易に過ぎる」などとしながら、抽象的な公益と対比するのが難しい 具体的・実質的な権利侵害を慎重に見出し、繊細な比較衡量を行っている。 (34) 裁判一般において比例原則や比較衡量が一切機能しないというのではもちろんな い。逆に、裁判が形式的な判断に終始しがちで、具体的・実質的事情を十分に顧みよ うとしない場面では、むしろ比例原則・法益衡量こそが大いに機能しうる。例えば刑 法上、刑事裁判上の実質的違法阻却の判断などは、十全に機能しているとはいえな いまでも刑事裁判における実質的な違法判断の内容を形成し、形式的な構成要件該 当性判断の抽象さや不用意さを是正するのに機能しているといえる。出入国管理法上 の在留特別許可を巡る裁判においても、現状はとても十分とはいえないものの、尚 機能しうる余地がある。渡邉彰悟「実務家からみた行政裁量──出入国管理領域にお ける政策的(政治的)裁量を中心に」法律時報85巻2号41頁以下、特に44頁以下参照。 (35) 市川正人「国公法二事件上告審判決と合憲性判断の手法」法律時報85巻5号70頁 以下参照。同71頁では、多様な「諸般の事情」の総合判断が不可避的に伴う予測の 困難さにも言及しており、更には「利益衡量論と違憲審査基準論との統合を指向し ている」としても、それが「結局、違憲審査基準をつまみ食い」することに終わっ ているともいう(同72頁)。    また、現状を改善するための前向きな試みということはいわゆる三段階審査につい ても同じようにあてはまろう。だからこそ、逆にいえば、違憲審査基準は機能しない が三段階審査なら機能するとはいい難いように思われる。裁判所がむしろ広く融通無 碍に活用したいところの比例原則・比較衡量をに対して、これを規制しうるアイデア が取り入れられるということ自体がそもそも容易であるとは思われないからである。

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 同じような試みを違法証拠排除の審査に関して、また違憲審査基準のよ うな段階的な審査基準を提示するという形ではなく、審査の枠組を新たに 作り替えることによって提示しようというのが本稿の試みである。そこで はいわば今までの原則と例外とを入れ替えて、任意性を欠いたことの主張 を被告人・弁護人側が積み重ねた後で、検察側がそれを否定する主張をす るというのとは反対に、違法証拠類型に該当すれば任意性を欠いたことが 推定され、これを違法阻却するためには検察側が違法阻却事由を積極的に 示すことが必要だとする枠組である。  つまり、多様にありうる違憲審査の局面では審査基準という画一的な判 断基準のあてはめにより解決するという手法は採用し難く、具体的事情を 加味した比較衡量による実質的判断が機能しやすいのに対して、違法証拠 排除の審査というともすれば証拠の必要性が常に肯定されやすい局面に あっては、逆にそのような実質的な衡量を許さずに類型的な判断によって 規律・統制することで初めて裁判においても捜査・取調べの現場において も機能しうる規範・規律となりうるのである。 3 違法阻却審査  違法証拠排除に係る弁護側の主張は概ね類型性を示す。そうでなければ それが違法証拠であることを認めさせることが困難だからである。また 違法証拠についてはその最たるものについて憲法38条や35条の定めもあ り、これをよすがにすることもできる。刑事訴訟法319条も同様である。  しかし通常裁判所の判断は、当該取調等がいわばニュートラルの状態か ら審査を開始する。令状主義潜脱の明白な意図の下に組織的に具体的事件 を俟たずに行われたようなごく例外的な場合を除いて、いわば違法証拠類 型に該当する捜査が行われたにもかかわらず、そこから直ちに違法性を推 定せずに、適法性を根拠づけるささやかな要素を並べ立てることであたか も正当化がなされえたように論じられることが一般的と思われる。

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 しかしこれでは、すでに侵害された防禦の利益の具体的な重大さを顧み ることができないばかりか、比較衡量・利益衡量としても公平に行われて いるとはいい難いことになる。防御の利益の侵害が抽象的にしか考慮され ないおそれがあるとすれば、むしろ防御の利益が類型的に侵害されたこと を前提とした上で審査に入る方が公平ということになる。検察側訴追証拠 の任意性や信用性を担保しうる説明を尽くすのは元々検察側の責務である から、このような前提と枠組として捉え直すことに特段の疑問は生じない だろう。  またその類型も先に述べた通り、憲法38条や刑事訴訟法319条という明文 規定を手掛かりとすることができるのであるから明確である。例えば、当 然に①肉体的・物理的な暴行・有形力が加えられた場合であるとか、ある いは②暴言・騒音等間接的・心理的暴力が加えられた場合、また③脅迫・ 偽計・約束が講じられた場合であったり、④長時間・長期間あるいは深夜 に亙る取調べの場合ないし休憩を与えずに取調べが続けられた場合、更に ⑤黙秘権や弁護人依頼権が告知されなかった即ちミランダ警告がなされな かった場合、⑥接見前に取調べが行われ、あるいは接見妨害が認められた 場合、そして今や⑦取調べの全面的な録音・録画がなされなかった場合や ⑧取調べに弁護人の立会いが認められなかった場合ないし弁護人の同意な しに調書に署名・指印がなされた場合もここに加えることができよう。  捜索や所持品検査に関していえば、①各種の令状主義違反がある場合や ②プライバシー権侵害が認められる場合、更には③弁護人の立会いが認め られなかった場合などがこれに該ろう。  以上に尽きるものではないが、これらに該当するような取調べや捜索で あれば違法証拠類型に該当し、違法性が推定される。この推定を覆すため には、検察官が積極的に違法阻却事由が充足されるとの主張を展開し、違 法阻却に足りる十分な理由づけを行わなければならない。  違法証拠審査にあたっては、その前提として違法な捜査と証拠との間の

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因果関係は促進的な因果関係で足りると解されなければならない。とりわ け密室での取調べでの不当な圧力の影響等は、保釈が認められたといった ような特段の事情でもない限り、その後も継続する取調べの中で容易に解 消されうるものとは考えられない。一旦脅迫しておいて、今のはなかった ことにするというのは本来考えられないようなことだが、非常識なことに 違法証拠評価ではなぜか容易に認められてきた。被疑者の心理に働きかけ る因果関係即ち心理的因果関係である以上、それはいわゆる従犯因果関係 と同様に促進的な因果関係で足りるはずである。そしてその因果的な影響 を消し去るためには積極的な働きかけが必要だと考えられてきたはずであ る。このような刑事裁判上通用してきた認識を、違法証拠評価においてだ けなしにするというのは、被疑者の防禦権を不当に軽視するものというほ かなかろう。従って、違法証拠類型に該当するような捜査・取調べがなさ れた場合には、「重大な」違法があるとまず推定されなければならない。 そしてこのような推定を否定しようと思えば、即座に保釈を認めて身柄拘 束を解き、弁護人と十分な面会・協議を行いえたといった事情により、あ たかも終了未遂後の中止犯に因果的影響払拭のための真摯な努力が求めら れるのと同様に、更には結果不発生に相当するような状況の現出を俟って 初めて、因果的影響の除去を主張しうるものと解すべきであろう。  更にまた、昭和53年判決が示したような、どんな事柄でも正当化要素 となりうるということは許されない。一体何が正当化要素かを予めある程 度類型的に決定しておくべきである。そうでなければ理由ともいえないよ うな理由が述べられ、理由ともいえない理由によって正当化され、なぜそ れが正当化理由となるのかといったことについては何ら争われないといっ たことになるからである。  例えば強制処分の違法性が問われているのに、それよりも緩やかに認め られる任意処分の要件があったなどという主張は本来およそ意味がないは ずである。このようないわば他事考慮は許されないといわなければならな

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い。被告人の諾否が不明であったこともこれに含まれる。  許容限度をわずかに超えたに過ぎなかったというのは違法の軽微性をい うものだが、このような実質的考慮こそまさに比較衡量そのものであり、 ここでの審査と全く相容れないものである。そもそも被害の軽微さを理由 としうるのかにも大いに疑問がある。例えば窃盗罪の評価において、いわ ゆる一厘事件のような考え方は刑事裁判から放逐され、携帯電話の充電程 度の被害であってもその反法的性格即ち規範違反的要素を重視して刑罰に 相当する違法性が認められるものと判断してきたはずである。罪に問うと きにはこのような考え方をしておいて、自らに対しては違法が軽微だから といって寛大な処置を希うというのは、まさに司法の廉潔性に背く態度と いわざるをえない。むしろ罪に問う側こそより厳しい基準が課されてしか るべきほどであろう。この点を加味すれば、違法が軽微だから、重大でな いから証拠が許容されるという安易な評価は許されないといわなければな らない。  更に、令状主義潜脱の意図がなかったことや、他の強制がなかったこと は、逆に令状主義潜脱の意図があったことや他の強制もあったことが違法 性を強化し増大させることはあっても、これらがないのはむしろ当然で あって、何ら違法性を減少させる積極的な要素とは考えられないのである から、これらをそのような性格の要素として加味することは許されないと いわなければならない。  以上のように、冒頭の昭和53年判決が理由としたようなことが実は本 来、何ら証拠の違法を違法阻却・正当化しうるようなものではなかったこ とを明らかにすることができた。  それでは一体どんな枠組において違法証拠審査はなされるべきであろう か。ここでもやはり参照されるべきは、まさに違法類型該当行為(捜査) に対して違法阻却・正当化事由の存否を質すという刑事裁判上慣れ親しま れた枠組である。

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 即ち、当該捜査が、①緊急性を要するものであったこと、②具体的な証 拠隠滅行為や証拠散逸の事態に対抗してなされたこと(具体的必要性)、 ③潜脱意図がないだけでなくむしろ遵法意図によるものであったこと、④ 厳密に関連しうる代替手段がおよそなく補充的なものであったこと、⑤行 為の程度が過剰に及ばず比例原則・法益権衡を満たしていたこと、といっ た要件を全て充足した捜査であって初めて、当該類型的違法は解消・阻却 されうると解することができる(36)。以下、更に解説する。 (1)緊急性  まず、①緊急性要件こそが、それがあって初めて法を破りうるものであ ることは古来より自明である。そもそも緊急性を満たさないのであれば時 間をかけて他のより侵害的でない方法を選択すべきである。法に対して侵 害的な方法が許容されるのは、証拠散逸の事態が差し迫っているがために 他の元から適法・穏当な方法を採りうる余裕がないためである。他の方法 を選ぶことが不可能ないしそれに準ずる程度に困難であるといった状況が 認められて初めて、当該侵害的な方法が許される可能性が現れるものとい える。 (2)具体的な証拠隠滅行為や証拠散逸の事態への対抗(具体的必要性)  しかし、ただ単に緊急だったという主張はおよそ主観的なものにとどま り、検証不可能な抽象的な内容に終始しがちであることから、更にそれ は、当該捜査手段が②具体的な証拠隠滅行為や証拠散逸の事態に対抗して (36) 同意は違法阻却事由・要素となりうるか。刑事訴訟法上、同意による証拠能力付 与を許容しているのは伝聞例外の場合に限られている(326条)のであるから、これ に反して、不用意な弁護活動による同意があることによって容易に違法が治癒され 被告人に不利益が及びうるようなことを一般的に認めることは許されない。最高裁 大法廷昭和36年6月7日判決刑集15巻6号915頁に付された小谷勝重、河村大助両 裁判官による少数意見(同936頁以下)を参照。また、樋口裕晃「同意と違法収集証 拠──大阪高裁昭和六〇年七月一八日判決」判例タイムズ825号22頁以下も参照。

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なされたといえて初めて具体的・実体的な主張として成立しうるものとい える。ただ単に緊急だというのではなしに、目前で今まさに証拠隠滅行為 がなされようとしていたとか、逃走を図ったという場合に初めて、真の意 味での事実具体的な緊急状況を前提として考慮することができる。もしそ のような状況でなければ、強度の侵害を伴う違法な捜査方法が採られる必 要もなく、またそれを許す理由もないのである。 (3)遵法意図  潜脱意図がなかったことが積極要素と解されてきたが、脱法の意図のな かったことが積極的に評価されるというのはよく考えればおかしいのでは なかろうか。悪質さを軽減するというのであろうが、被疑者側からすれば 相手の意図を察しうる余地はなく、それどころか取調官・捜査官がよもや 違法行為を行うはずがないとの信頼の上で、取調べ側が想定する以上の圧 迫を受けているのである。法曹関係者と異なり、一般市民が公務員・司法 官が脱法行為を行っているものと想定することはほとんど不可能である。 従って脱法意図がなかったことは事後的には悪質さを軽減しうるように見 えて、実際の行為時にはそのような要素を持ち合わせないことに注意すべ きである。むしろ適法だとの確信の上で脱法行為が行われていることの方 が、取調べを受ける被疑者側からすれば防禦権・人格権侵害の度合は一般 に大きくなるものと考えられる。確信があれば遠慮するところがなく、後 ろめたさもなく、正しさを確信している故の容赦のなさが発揮されるもの と容易に想定されるからである。それ故、脱法意図がなかったというのは せいぜい違法性を強めないというだけであって、違法性を更に低減させう るものとはいえないとしなければならない。むしろ遵法意図から導かれた 慎重さが看取される場合に初めて、そこに主観的正当化要素を見出すこと ができよう(37) (37) いわゆる判断過程統制に類するものといえるかもしれない。例えば、山本真敬「立 法裁量の『判断過程統制』の観念について」下関市立大学論集61巻3号83頁以下参照。

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(4)補充性  まさに他に採りうる手段がなかったという非代替性・補充性が必要であ る。他に採りうる手段があったにもかかわらず違法な手段に出たことを許 す理由はないからである。なぜ他に採りうる手段があったにもかかわらず あえて違法な手段が採られたかといえば、それはまさにそのような手段に よって任意性を排除した証拠の獲得が意図されたからだといえる。このよ うに補充性を満たさない違法な手段の選択・実施は、いわば類型的に任意 性(38)を損なう手段を行使したということになる。これはもはやその手段 自体として、およそ一般人であれば任意の対応を困難にするものだったと いうのであるから、証拠の瑕疵とその瑕疵への影響・因果関係も強く推定 されざるをえない。この推定を破るためにはこれらの影響を完全に遮断 し、その影響の本質であるところの心理的・促進的因果関係を断絶させる に足りる明白な事情が認定されなければならない。 (5)比例性・法益権衡  以上の4つの要件を満たした上でようやく初めて、その捜査の手段が厳 密な比例性・相当性即ち法益権衡を満たしていたかが更に問われうる。こ のように見てくれば、単に比例性のみを基準に総合判断で足りるとしてき たこれまでの評価枠組がいかにぞんざいなものであったかが明らかであろ う。またここでは、質的過剰・量的過剰の双方それぞれの場合と、あるい はまた両者の混合形態をも考えることができる。この要件充足の有無の評 価において初めて、事案の重大さを踏まえての当該証拠の不可欠性の意味 での必要性を考慮することができる。それはいわば防禦権と対向するとこ ろの捜査権・刑罰権といった公益の具体的な程度の評価の内に加味され (38) 違法証拠排除の根拠は何かという視点と、取調べの録画のためのカメラがどの方 向を向くべきかという視点とはやはり相通じる。任意性説はカメラが被疑者の方を 向いている様子を想定し、違法排除説はカメラが取調官の方を向いている様子を想 定している。

参照

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