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障害児教育臨床に携わる者に求められること : 子ども理解のために 利用統計を見る

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(1)障害児教育臨床に携わる者に求められること -子ども理解のために- 山 口. 勝 弘. (山梨大学障害児教育講座). Ⅰ.はじめに. 日常生活で体験するストレスは、その多くが人間関係の営みに原因を求めることが出来 る。その原因は個人の側と個人が属する集団の側の両方に存在している。従って、風通し の良い人間関係を樹立するためには〝人の正しい理解の仕方〟と〝集団力動〟について検 討しておく必要がある。 人には生理的、心理的、社会的側面があり、人々はそれぞれの存在としての自己の存続 に創意工夫を凝らしながら生活を営んでいる。創意工夫がうまくいかない時や、周囲から それを認めてもらえない時は大変苦痛である。その際は、日常生活を送る上で欠くことの 出来ない統合的援助が必要となる。 〝必要な援助〟は、周りの人々から見たものと当事者が感じているものの両面がある。 どちらか一方に傾斜する援助は片手落ちになる。そこで2人の自分、すなわち多くの人々 から一致して理解されている自分と、本人が主観的に認知している自分の二面性を捉えて 理解することが大事になってくる。援助的環境を考える時、それが家庭、学校、職場、地 域社会のいずれの舞台であっても、〝援助する人-される人〟という枠組みから、相互に 援助機能を創造していく〝共生〟という枠組みへの変更が、これからの社会に求められる のではないだろうか。大人、子どもそして障害の有無を超えて、誰にも言えることではな いだろうか。 障害児教育に心理臨床の立場から取り組んできた過程を振り返る中で、このような雑感 を所持してきている。このような事柄を念頭に置きながら、以下に、障害児教育と心理臨 床の融合を目指して実践してきた〝実際〟を通して、障害児教育臨床に携わる者に所持し ていてほしい事柄について明確化の試みをしてみたい。. Ⅱ.過程科(?)の設置について. 障害児教育臨床を通じて、本質的には〝援助する人-される人〟から〝共生〟という枠 組みが基本であるという実感を今日まで所持して来ているが、そういう価値観が芽生えて きた初期の頃の資料がある。以下に示す資料は、1976年4月に創刊された山梨大学保健管. - 1 -.

(2) 理センター広報誌「キャンパス」第5号(1977.1)に掲載した指針らしき提案をした筆者 の記事の抜粋である。. 「. 俗人間学④. -過程科(?)の設置について-. ………*選挙のたびに政治への〝1億総参加〟が叫ばれるが、何か忘れてはいないだろうか。〝総 参加〟の意義を訴えることが重要なのではなく、皆が話し合う過程を共有し、その中から〝総参加 〟の重要性が提案された時、はじめて真の総参加の重要性が言行一致で成就されるのだと思う。 ……*高校生の薬物乱用対策にコネティカット州セイモア高校で導入したパイロット・プログラ ムの数年間にわたる実践記録がある。プログラムの開発には教師群、生徒群あるいは混合群を編成 し、また、生徒群では乱用経験者群、未経験者群、混合群を編成して討議を重ねていった。教師や 管理者は従来の階層的役割とは違った不慣れな新しい役割関係に入るための心の準備が要求され た。生徒達に与えている自己の影響を自ら気付く人間でなければResource Personとして生徒達に 役立たないことを学習していった。生徒達も個々に自他の理解や尊重、コミュニケーション技術の 向上と言う点で変化が見られたという。 ……*つらつら思うに、私達は能率化や便利さという美名のもとに、過程抜きの生活様式に慣れ 親しんできていることは事実である。……出来合いの物、少し手を加えれば完成する半製品はいろ いろな分野に見られる。物質生活では物の属性に精通し、問題解決に当たっては、どの物を選択す れば良いかを考えれば、一応快適な生活は可能になる。精神生活でもマニュアル思考が闊歩し、物 の考え方や対処の仕方の中に、踏むべき過程を踏まないで、容易に結果だけを得ようとする風潮が 見られる。……大学の大衆化が完了しつつある今の世の中で、我々は真のエリート像を求めるべき である。それは、既知の知の持ち主に代わって、過程を共有しながら、未知の真理に謙虚に取り組 む姿勢ではなかろうか。」. 約30年前の話だが、この間、社会の変遷に応じて様々な価値観のもとに物事へのいろい ろな取り組み方が提案されてきた。現代では効率の良さが第一に優先される場面が多く、 例えば、書籍探しではインターネット上での検索は欠かせない重要な手段になっている。 事務的にはそれで用は済むが、書籍探しの過程で起こる創造性は養われない。新たな興味 や関心がわき起こったり、何かを感じたり、何かをイメージさせたり、何かに出会ったり する機会は得られにくい。 教育にはこれらの事柄が必要である。正解がわかればそれで良いという世界ではない。 育む過程がなければ人は成長していかない。いつの時代でも過程を共有することの重要性 は一貫しているのではないかと考えている。教育臨床、心理療法、ソーシャルワーク、コ ミュニティ活動を通していつも実感しているところである。そんな自分の目を通して、次 に、障害児教育臨床に取り組む際に所持しておかれると良いと思われる事柄を知識情報と いう形で簡便に表現してみたい。. Ⅲ.教育診断のための情報蒐集. 1.情報蒐集の要点 関係者からの情報蒐集では、主に対象の生活背景に関する事柄について調査することに. - 2 -.

(3) なる。具体的には、家族構成、生活史、対象の生活現況等の客観的環境を把握するための 情報蒐集に努めなければならない。 家族構成は単に家族数、年齢構成、同居家族、職業等々を形式的に調べるだけでは不十 分で、それらが対象にどのような影響を与えているのかといった視点で情報を蒐集するこ とが肝要である。また、その家族がどのような地域社会の中で生活しているのかといった ことも重要になる。すなわち、不適応状態にある人々や家族に対する地域社会の受け止め 方が、本人及び家族の生き様に大きな影響を及ぼすからである。 生活史では不適応の原因、発症時期等から予後の状態を推測したり、また、それによっ て対象の心身の発達過程にどのような影響があったのかを検討しなければならない。従っ て、生活史は胎児期から現在までの間の各時代における諸側面の発達状況、医療的なケア の行動に及ぼす影響、療育環境の変遷等を詳しく調べることになる。 現在の状況については、適切な指導目標や指導法の設定のために、そして対象との間に どのようなコミュニケーションを営むことが可能かを検討するために、体調、学校や日常 生活での状況と自立性、対人関係の状況と営み方等について情報を蒐集する。 いずれにしても情報蒐集にあたっては客観的事実の把握に努めるが、それだけではなく、 その事実を対象がどのように受け止めているかという主観的事実の把握も大事になる。. 2.面接 面接は直接対象から情報を蒐集することのできる貴重な機会である。面接場面は本人で なければわからない情報や、関係者からの情報の中で不足している部分をその場で補うこ とのできる場である。また、それらの情報を診断者が自分の目で観察し、確認できるとい う利点がある。しかし、面接ではその場で診断者が対象との間にどのようなコミュニケー ションを営めるかによって、蒐集できる情報量や情報の質が規定される。面接で診断者の 行う精神作業は「質問をする」、「聞く」そして面接場面での対象の「行動観察」である。 必要な情報を蒐集するためには、事前に次のような事柄を熟知しておくことが望ましい。 (1)聞くと聴く 他者の話を聞く場合、2つの聞き方がある 。「聞く」は話の内容を額面通り理解して受 け止めるという聞き方である。通常、打ち合わせや事務的連絡の際に用いられる聞き方で ある 。「聴く」は相手の話の言外の意味を理解しようとする聞き方で、比喩やジョークの ほか、日常でもその言葉に託して別の意味を伝えるという場合があるが、そのような場合 に必要となる聞き方である。重要な情報が必ずしも直接言葉で語られるとは限らないので、 常に「聴く」という姿勢が求められる。 (2)質問について 質問のされ方によって、話しやすくなったり抵抗感が生じたりすることはよく経験する ところである。面接場面では上手な質問が要求される。上手な質問とは相手が質問されて 話しやすくなるような質問のことである。そのためにはいろいろな配慮が必要になる。質 - 3 -.

(4) 問は「何時、どこで」という事実関係を尋ねる質問と、「なぜ、どうして」という尋問形 式の質問に分けられる。前者は比較的答えやすいが、後者は時に相手の中に抵抗感を生み やすい。また、質問の持つ機能やタイミングも重要な要素になる。松井(1978)は質問の 持つ機能について、①確認、②明確化、③探索、④情報補充、⑤整理の5つを挙げている。 これらの働きを目的に応じて使い分けしながら、相手が話しやすくなるように配慮したり、 必要な情報を蒐集したりする。 (3)非言語的表現 面接場面では単に質問に対する回答内容だけでなく、その際の態度や話し方からも対象 理解のための重要な情報を蒐集することができる。その時々の面接者に対する印象や、質 問された事柄に対する感じ方や受け止め方についての情報を観察するのである。従って、 面接では話されたことを記録しているだけでなく、同時に面接時の対象の様子、すなわち 顔や手など身体部位で表現される表情(非言語的表現)の中にどのような情報が含まれて いるのかを観察しなければならない。 (4)話し方の観察 話し方の観察からは、内的状態や思考機能についての情報が得られる。観察の視点は会 話のテンポや量、声の大きさや抑揚、話の論理性、話の連続性や反復性等が挙げられる。. 3.行動観察 行動観察では、基本的に次のような項目について情報を蒐集することが求められる。 (1)日常生活 洗面、衣服の着脱、入浴、排泄、食事、就寝・起床等々、日常生活の基本的動作(Activities of Daily Living―ADL)がどのくらい出来ているかを調べる。 (2)対人行動 対人関係の営み方やそれに必要な社会技術の習得状況について調べる。挨拶等ができる かといったことから、どのような対象にどのような対人関係の営みを示すのかをなるべく 具体的に明らかにする必要がある。そのためには、年齢、性、既知等々の面で自分と同じ かあるいは異なる対象に対する関心の度合い、関わり方、対人交流の性質等について観察 しなければならない。 (3)集団内行動 日常生活でも学校生活でも、人は多くの時間を公式ないし非公式集団の中で過ごす。従 って、集団の中での過ごし方の特徴を観察しておく必要がある。集団に対する態度につい て、松井(1978)は次のような8つの分類を提唱している。 ① 集団適応. ② 集団順応. ③ 個人依存. ④ 作業依存. ⑤ 反. ⑥ 集団拒否. ⑦ 集団無視. ⑧ 集団支配。. 発. ③~⑧は通常集団参加ができない人と評価されるような態度であるが、それぞれの前提 条件が許容されるならば集団で過ごせるという分類である。診断作業では単に集団に参加 - 4 -.

(5) できるか否かだけを評論するのではなく、どのような前提があれば参加できるのかといっ た情報を蒐集することが大事になってくる。常に明日の指導の糸口を提供しなければなら ない。 治療教育場面では、どのようなオリエンテーションで展開される指導であっても、そこ での活動は子どもにとって治療的・発達促進的・癒し的意味を持つものでなければならな い。そのためには親和性のある活動や教材・教具の選択、指示的あるいは即興性に富む関 わり方等々について、柔軟な対応が求められる。また、授業場面の中での子どもの行動観 察を詳細にしながら、逐次、変化する子どもの実態把握のし直し作業を連続的にしていか ねばならない。そして、そこで得た子どもの活動への取り組み方の水準(適応水準)を常 に念頭に置きながら指導構造を操作して、子どもに快体験やコミュニケーションの体験の 機会を提供し、そこでの体験が自他の理解、社会性の拡大、認知発達、運動機能の強化、 自我機能の改善、情動の安定等につながるようなものにしなければならない。単に〝楽し かった〟でいつも終わってしまわないようにするためには、上述した1~3を念頭に置き ながら綿密な子どもの教育診断と科学的な評価作業に努めなければならない。. Ⅳ.子どもへの対応の基本. 子どもの実態把握及び適切な指導を実現していくためには、以下の事柄を熟知しておく ことが望ましい。. 1.ライフサイクルから見た発達過程 子どもの理解とそれに基づく指導環境の構築には、まず子どもの標準的発達過程の特徴 について把握しておく必要がある。以下にそれらを略記する。 (1)乳幼児期(0~3歳) *母 子 共 生 期:共同課題(授乳・保護 )、安心感・万能感の感情(外を考慮しなくても安心してい られる時期 )、同じ殻にいて、外界からは母が守り快刺激だけを子に与え、相互に 幸せな一体感を経験する時期(8ヶ月)。 *分 離 開 始 期:近接知覚感覚(触覚)>遠知覚感覚(視覚・聴覚)による探索行動、対象永続性。 *練. 習. 期:直立歩行・手指の運動能力・言語の諸技能を駆使して試行錯誤する時期。 見守る>過保護・無保護、最初の文化への適応(離乳・排泄の自立、しつけ)。. *再 接 近 期. :母親から離れたことに気づき不安になると母親を求め、安心すると再び遊び始める。 母親を自分の自由にならない存在として認知。自から近寄る→甘え。母子共々葛藤 (不安定な対応・呑み込まれ不安)を経験する。. *個体化の達成:一応、3歳位で完成(思春期を過ぎて可能)。地域社会(幼稚園等)へ参加。. (2)幼児期後期 *現実と空想の境界のなさ、併行遊び→ごっこ遊び→模倣遊び、具体的な試行錯誤(豊富な体験 )、 感情の起伏( 葛藤、嫉妬・敵意・罪悪感・恐怖感等)、現実検討をしながら自己の欲求実現に努力。. - 5 -.

(6) (3)児童期 *新しい環境への適応(家庭から学校へ) ルールのもとでの能力発揮、競争社会への参加‐学力評価‐、対教師・友達への適応。 *学級集団の集団力動と社会的技術の学習 低学年から中・高学年になるにつれて、教師から仲間の関係に関心が移る映る。 *自己評価 学年進行につれ、自己評価が仲間との比較でなされていく。 *興味 高学年は科学的世界への関心から主観的世界への関心へと少しずつ移行する過度期。 [旺盛な好奇心のもと、様々な世界に目を向け、いろいろなことを知り、社会生活では一定のルールの もとで協力・競争等の体験を通して対人関係に関する社会技術を習得し、思春期の分離個体化のため の準備をする時代。]. (4)思春期 ○青年期前期(思春期):中学時代 特徴:*自己の身体に対する強い関心と同性の仲間との比較に関する過敏性→自他の異同、劣等感、 同質性 *性的関心に対する感情の変化→恥、罪悪感→拒否的・批判的態度 *内面の欲求と外的行動の間のずれ *仲間集団からの承認及び仲間集団に対する所属感 *反抗依存 *論理的思考と二者択一思考 *興味の中心が科学的世界から主観的世界へと変化 *自己の考え・意見を所持したい傾向の増加(経験不足と情緒的要因の関与により、極端に なりやすい) 〔親からの分離個体化、仲間集団への適応、性的同一性の確立、内面世界の構築〕 *精神病理の発症(対人恐怖・摂食障害・非行・不登校等-受験・パーソナリティ)。思春期 問題は個人病理、教育病理、社会病理の諸側面の総体。. ○青年期中期:高校時代 特徴:*性的同一性の確立 *進路と高校生活(体験の未消化ないし模擬的経験) *対人関係(親友―孤立) *思考パターンが主観的から客観的傾向へと復活. 2.子どもを取り巻く現代社会の変動 子どもの特徴は個人の側の属性によって規定される面があるが、同時に生活環境や社会 のあり方から大きな影響を受ける面もある。戦後の社会復興のために近代工業化を目指し た社会から、今日では情報化社会へと変遷してきている。その間、様々な価値観が尊ばれ、 それらがいろいろな社会を生み出し、また学校教育や家庭教育の世界にも大きな影響を与 えてきている。表1はそれらの様子を略記したものである。. - 6 -.

(7) 表1 価 戦 後. 値. 戦後社会の価値観の変動と社会・個人の関係. 観. 社. 会. 個. 人. スピード重視. 能率社会. 試行錯誤のしにくさ. 生産性奨励. 管理社会. 個性が認められない状況. 画一性奨励. 同質性. 管理強化 現. 価値の多様化・個性化. 目標喪失社会. アイデンティティの確立. 情報技術重視. 情報化社会. 情報化に対する判断力. 代. 人間関係の変化(上下系列消滅、役割構造 の曖昧化、義理人情から合理的人間関係へ). その結果、どのような影響を子どもに与えてきたのかを考えると、次のことが挙げられ る。 *試行錯誤の機会減少 能率・同質性・生産性を求められる結果 、“遊び”の機会が失われ、家庭・学校に牧歌的空間が 乏しくなる。体験の不足や創造性が発揮しにくい環境に囲まれて生活することになる。 *競争社会 コースに乗っていれば安泰と思う大人のもとで、子に積極的な生き方を求めても、現実と理想の 狭間で葛藤を起こす。逞しくは育てられていない。 *情報化社会 氾濫する情報に対して、必要な情報を主体的に選択する判断力の育成が求められている。 *個性化 価値の多様化・個性化は上下関係・役割構造の曖昧化を生じさせている。さらに義理人情の心性 から合理的関係を重んじる風潮は、対人関係の基本である共感し合う関係の不安定さをもたらし ている。. 個々の子どもの特徴を検討する時には、このような社会からの影響についても考慮しな ければならない。. 3.現代の子どもの特徴 多くの子どもに共通に見られる特徴については、次の事柄が挙げられる。 ① フラストレーショントレランスの減少:欲求不満に対する耐性の低下。 ② 知 性 化:防衛機制の1つで、不安を軽減するために自己の情緒(気持)を理屈 で説明するという心性。 ③ 身 体 化:悩みを精神的な面で受け止める自我機能が発揮できない時、悩みを身 体症状に変換して受け止める心性。これも防衛機制の1つである。 ④ 仮性適応:対人関係の中で、他者からの不快刺激を避けるため、他者の気に入る ように振る舞うことで、身の保全を図ろうとする心性。. - 7 -.

(8) これらの現象が起こる原因は、個人の側では疑似体験、通過儀礼の未消化、社会の側で は受験社会(教育には多様化がない )、価値の多様化-拡散、目標喪失の社会、ユニフォ ーム心性を求める文化等が関係していると思われる。その結果、生への関心・辛さ・面白 み等に対する学習不足、仲間意識の希薄さ、フラストレーションの容易な増大と未熟な表 現、短絡的ないじめ行動、死への短絡的行動が見られる。 子どもに見られる病理は思春期から現われやすいが、表2は各発達段階における問題行 動を列挙したものである。. 表2 年. 幼児期. 齢. 発達段階と問題行動 発達過程と臨床症状・適応上の問題. 1~2. 夜泣き、かんしゃく発作、自閉症(→アッタチメント). 3~4. 多動、抜毛癖、登園拒否、吃音・言語問題、遺尿・夜尿問題. 5~6. 多動、チック、性器いじり、緘黙、集団への不適応. 7~9. 多動、頻尿、チック、嘔吐、頭痛、腹痛、強迫症状、恐怖症、不登校、いじめ、孤立. 10~11. 頻尿、頭痛、嘔吐、強迫症状、問題行動. 児童期 頭痛、睡眠障害、強迫神経症、ヒステリー、不登校、反社会的行動、友人関係の悩 思春期. 12~15 み、親・教師との関係、学業問題 ※幼児期または青年期に初めて診断される障害について、DSM‐Ⅳの分類も参照のこと。. 4.問題行動の理解の仕方. 子どもの問題行動への対応に際しては、その行動が器質的疾患に由来するものであるな らば、医療的ケアが優先されることは言うまでもない。除外診断の結果、心理的なもので あることが予想される場合は、次の事柄を理解しておくことが望ましい。 ①. 問題行動 子どもにとっては、問題行動の〝行動〟が重要である。その行動は問題解決の姿、問. 題に直面している姿あるいは問題を抱えて生きている姿である。大人にとっては問題行 動の〝問題〟に多くの関心が払われる。欠席、学習の未消化、体調の悪さ、学習時の態 度、家庭の崩壊等々、管理的側面に問題の所在を感じる傾向がある。 ②. 問題行動(症候)の意味 問題行動は妥協形成の産物として捉えることができる。すなわち、葛藤の解決手段と. して、相反する方向の力をどこかで妥協させていく方法が問題行動(症候)を形成する。 ③. 妥協形成の実態把握 どのような力と力が葛藤を引き起こしているのか、どのような努力をした後に妥協形. 成が出来上がったのかを検討しておくことが必要である。葛藤は知性(超自我)レベル と情緒(自我)レベルでの相反する力の対立である。妥協形成は葛藤の根本解決には結 - 8 -.

(9) びつかないが、葛藤から来る不安を和らげる効果がある。. Ⅴ.コミュニケーションの構築. 教育活動は教師と児童・生徒との間の対人関係の営みの中で展開されるものである。対 人関係を円滑に営むためには相互コミュニケーションを実現しなければならない。通常、 対人関係のまずさの原因を価値観の違い、立場の違い、性格の不一致、性の違い、生まれ 育ちの違い、世代の違い等に求めがちだが、それらは2次的なもので、基本的にはディス コミュニケーションが人と人との関係を気まずいものにしてしまうのである。相互コミュ ニケーションとは自他の異同を確認し合える関係の中に存在するものである。ディスコミ ュニケーションにならないためには最小限、次の事柄を知っておくことが望ましい。. 1.コミュニケーションの2形態 コミュニケーションはいろいろな基準による分類がなされるが、臨床的には合理的コミ ュニケーションと情緒的コミュニケーションという分類が便利である。 合理的コミュニケーションとは発言内容を額面通りに理解することで成立するコミュニ ケーションのことで、打ち合わせや申し送り等の際に用いられる。事務的コミュニケーシ ョンとも言われる。 情緒的コミュニケーションは発言の言外の意味を理解することで成立するコミュニケー ションで、ある言葉を介して、その言葉の辞書的意味内容とは異なる感情を伝えるたり受 け止めたりするコミュニケーションのことである。 対人関係の営みでは、両者がこれらのコミュニケーションスタイルのいずれかで一致し ていないとディスコミュニケーションが生じてしまう。. 2.「わかる」ことの二面性 コミュニケーションの営みの中で、話がわかったとかわからないという場合、2通りの わかり方がある。1つは知性レベルでのわかり方で、いわば理屈の上でのわかり方である。 もう1つは情緒レベルでのわかり方で、気持ちの上ではわかるというわかり方である。こ の2つのわかり方のどちらでわかったと言っているのかを互いに確認しておかないと、デ ィスコミュニケーションが生じる。両方のレベルで一致してわかる場合あれば、一方のレ ベルではわかっても他方のレベルではわからないという場合もある。. 3.主観的環境の把握 環境は客観的環境と主観的環境に分けることができる。前者は対象にどのような刺激を 与えている環境があるかという意味で、その対象を取り巻く客観的環境のことである。後 者はその環境(客観的環境)が本人の目にどう映っているかということで、本人が主観的 - 9 -.

(10) に受け止めている環境を指す。良かれと思って関わっていても、相手は迷惑に思っている るということがあり、後日言い訳したりするが、相互コミュニケーション実現のためには、 主観的環境の把握が重要になる。. Ⅵ.保護者への援助. 子どもの養育や教育に際しては、親の果たす機能が重要になる。しかしわが子の不適応 状態にまつわる種々の問題に直面し、同時に不安や不満等を所持する。従って、親でなけ れば果たせない機能を発揮してもらうためには、子どもへの対応と併行して親への援助が 必要になる。親にとっての基本的課題は、子どもに対して妥当な保護機能を所持し続ける ことと、子どもの不適応状態を心理的に受け止められるようになることである。以下に、 保護者への支援に際し必要な3つの事柄について触れておきたい。. 1.保護について 〝保護〟は子どもを危険から守ったり、健康や発達促進に結びつくような世話をすると いう関わり方を指す言葉であるが、それが行き過ぎると〝過保護〟になり、必要な保護が なされなければ〝無保護〟ということになる。〝過保護〟も時には結果として〝無保護〟 になる。〝過保護〟になりがちな原因としては、一般に次のようなことが挙げられる。 ①. 対象への不安:子どもに対して〝弱い子〟、〝何もできない子〟と受け止めて、心 配や不安が強ければ強いほど過保護になりがちになる。. ②. 愛情のない養育:本音では子どもの世話に関心がないが、それでは親としての役目 を果たしていることにはならず、周りから批判される恐れがある。それを避けるた めに形式的・義務的に子の世話をする。融通性の効かない対応になる。. ③. 対象への管理・支配を偽装する場合:親自身が自分の生き甲斐を子どもの成長に見 出すような場合で、子どもの有様が自己の利益に直結するので、どうしても過干渉 になりがちになる。. 上記3つの事柄はどれが良くてどれが悪いと言う問題ではなく、養育の過程で誰もが経 験することである。このような心性を自覚したり了解していくことが肝要と考える。. 2.障害否認と障害受容 子の親になることは、誰でもが初めての経験であり、戸惑いも多い。その中で、子に障 害があることを知った時は、障害をもつ子の親にもなる訳である。そのショックは計り知 れない。障害児の親としての自分を知的にも情緒的にも受け入れられるような自己を確立 していかないと、そのショックは解決しない。単なる〝子の親〟や〝障害児の親〟から〝障 害児の親になれる親〟へと変身していくことが求められる。子に障害が発見された直後か ら、親はフラストレーション状況に陥り、自分の中に生じてきた不安や攻撃感情を受け止 - 10 -.

(11) められなくなる。無意識過程で子の障害を否認することで身の保全をしていくのである。 子の障害を否定してくれる専門家や病院等を探しまわり、都合の良い意見だけを過大評価 したりする。 障害否認から障害受容、すなわち理屈だけでなく気持の上でも子の障害を受け止められ るようになるためには、親への心理的援助が必要になる。障害をもつ子の親としての自分 と初めて対面した時の戸惑い状態から、何らかの信念や良い意味での開き直りからくる自 信を持って生きていける自分へと変身する作業は親自身の問題である。変身は容易には実 現できないが、この作業に取り組んでいる時は、以外と精神保健は保たれている人が多く、 子にとっては何とも力強い親なのである。 障害受容とは次のような状態を指すのではないかと思っている。 ①. 親が子との間に適度な心理的距離を保つことが出来る。. ②. 親自身が自己の精神保健を保つための現実的な方法を身に付けている。. ③. 子の将来の生活に対して現実的な対応策が立つ見通しが出てきた時。. 障害否認から障害受容への変身過程は親の生涯を通して展開される。そこには親自身の 努力はもちろんのこと、身近な関係者の協力、とりわけ一緒に歩んでくれる人々の存在が 不可欠になる。. 3.障害児教育相談 精神障害の世界と同様に、障害児の治療教育と相談活動は長い年月にわたって展開され ることが多い。それは子どもの発達過程を親共々歩まねばならないからである。治療教育 の実践は子どもの発達促進を目指して継続的に行うことが必要であるし、相談活動ではそ の過程で刻々変化していく親の不安や関心に対応していく必要があるからである。子ども の発達と、障害児の親になれるまでのいわば親の発達過程に添っていくことが大事である。 障害児教育相談の中で子や親の様々な問題に対応していく時、相談の形態は個別的対応 とグループワークの両方が必要であることを実感している。治療教育の実践でも、子ども の適応水準に応じて個別指導と集団内での指導の両場面が設定されるが、親の場合も同様 のことが言える。孤立的になりやすい状況の中、親を中心とした集団(社会)への参加は、 親の精神保健の改善だけではなく、親の成長に貢献する様々な体験の場を提供してくれる のである。従って、相談活動ではカウンセラーは情報や知識の提供、親との間での相互コ ミュニケーションの実現、小集団の集団力動の操作に力量を発揮しなければならない。 相談活動での最終目標は、心理的に親が障害をもつ子どもの親になれるまでの過程を共 有しながら創造していくこと、換言すれば、親のライフサイクル(成人期)の中で再度新 たなアイデンティティづくりに貢献していくことである。そしてその作業に取り組む過程 で生じる親のストレス状況に対して、何でも話せる人や機会があるのか、職場や家庭に恵 まれているのか、生活史を通して柔軟なパーソナリティが形成されてきているか等々に配 慮しながら、相談場面で、あるいは時には現実社会で共々可能な限り継続性を持って一緒 - 11 -.

(12) に揺れ動いていく姿勢が求められる。. Ⅶ.教育臨床に携わる者の心の健康. 教育臨床の実際では、親や教師等、子どもに関わる大人自身は日頃から自己の精神保健 を保つための力量を所持していなければならない。一般に、精神的に健康な人には以下の ような特徴を見ることができる。これらは自己の精神保健を保つための手段でもある。 ①. 精神的に健康な人は過去に生きてはいない。静かで安定した人生よりも、少し挑戦 と興奮を伴う人生、すなわち新しい目標や新しい経験を切望する。. ②. 精神的に健康な人は常に理性的とは言えないまでも、意識的に自分の行動を方向付 け、自分の運命を引き受けることができる。. ③. 精神的に健康な人は自分の長所・欠点を意識しており、両方を安心して自分の中に 受け入れている。自分でないものを装うようなことはしない。. ④. 精神的に健康な人は複数の充実感を感じる自分の顔を所持し、使い分けをしている。. 上記のような自己の精神保健を保つ手段を所持していることを前提に、多くの優れた指 導者には、さらに次のような特徴を容易に見出すことが出来る。 ①. いつでも自分の関わり方についての戸惑い(これで良いのかという真摯な内省作業) を受けて立つことを当然のこととして受け止めている。. ②. 自分のためにだけでなく、人のために多くの言葉を使う。. ③. 〝あの時、あそこで〟よりも〝今、ここで〟を大事にしている。. ④. 個の受容、自立を念頭に置いて、常に発達や適応等の機会-試行錯誤の機会-を提 供している。. ⑤. 人間が大好きで、世話好きである。. 教育臨床に取り組む人は、様々な領域の知識・技術を習得する努力をしていくことが求 められるが、同時に、上述のような人となりを自己の内に育んでいくことも重要ではない かと思っている。. Ⅷ.総括. 本稿は障害児教育臨床に携わる時に身に付けて置いてほしい事柄を要約的に羅列したも である。過去の実践の中で、著者自身が大事にしたいと感じ、また教えられた事柄を思い 起こしたもので、系統だった解説にはなっていない。ただ、ここで述べた事柄が立場や領 域の違いを超えて、多くの方々と共有できるものであったらと思っている。最後に、上述 の事柄を統合して、次のように表現したい。 人が人らしく成長するのは、人が単に人として誕生するからではなく、人によって育て られるからである。人を人らしく育てるということは、実に難しいことである。人が人(子) - 12 -.

(13) を育てることによって幸福がもたらされるが、同時に不幸もまた生じてくることを自覚す べきである。 人は誰でも共通した発達過程を歩んで成長していく。発達過程は省略できない。発達過 程のその時々に、タイミングよく体験の機会が提供され、そこでの学習成果の蓄積が次の 発達を可能にしてくれる。 また、誕生から死に至るまで何等かの集団の中で生きていく人間にとっては、コミュニ ケーションの営みの有様が自己の成長や精神的健康、自己理解・他者理解等に大きな影響 を与える。従って、家庭、学校そして社会で、家族、友達、教師等いろいろな人々との間 に相互コミュニケーションを構築していくことが大事になってくる。 いつの時代に生きる子どもにとっても、自分で自分を発揮し得る環境をどう創り出せる かが自己の成長の鍵になる。従って、与えられるものから創り出すという方向で行動する ことが重要になる。そのためには自分の力量で取り組める活動の場を、そして体験学習と 失敗が許容される場を、換言すれば、〝すべての子に出番とプレイの機会〟を提供してい く必要がある。社会に対してはプレイの機会を増やす社会構造をつくることの必要性を訴 えていくべきと考えている。このことは子ども達だけではなく、親や教師そして高齢化で 介護を必要とする人々等々、すべての人々に当てはまることだと考えている。日常生活の 中で〝出番〟が得られるように配慮するすることは、〝する人-される人〟共々必要なこ とではないだろうか。. 文献 1) マービンE.ショウ著、原岡一馬訳(1981)小集団行動の心理.誠信書房. 2) L・グリンベルグ他著、高橋哲郎訳(1982)ビオン入門.現代精神分析双書、岩崎学 術出版、第Ⅱ期、第8巻. 3) 山口勝弘(1990)自己のカウンセラー・アイデンティティを求めて.松井紀和先生還 暦記念論文集、255-2601. 4) 松井紀和編著(1991)小集団体験.牧野書店. 5) 山口勝弘(1991)大学教育における心理療法的アプローチの活用.山梨大学教育学部 研究報告、第42号、177-183. 6) 山口勝弘(1992)心理療法的アプローチの落し穴.現代のエスプリ(至文堂 )、295 号、137-148. 7) 山口勝弘(1993)発達障害児の集団適応過程と個人防衛の関係について.山梨大学教 育学部研究報告、第44号、239-247. 8) 山口勝弘(1994)障害否認から障害受容へ-障害児教育相談から見た子供と親の心理 過程-.音楽療法、Vol. 4、1-9. 9) 山口勝弘(1994)障害児心理臨床から見た発達障害児の行動理解と指導の実際.山梨 大学教育学部紀要、第8号、64-78. - 13 -.

(14) 10) 山口勝弘(1994)発達障害児の小集団内行動に関する心理学的考察.山梨大学教育学 部紀要、第9号、53-67. 11) 山口勝弘・山下滋夫著(1994)障害をもつ子ども達の理解とその教育.啓明出版. 12) 山口勝弘(1999)ウイーンの音楽療法事情.音楽療法、Vol. 9、7-26. 13) 山口勝弘・古屋義博編著(2002)子どもの発達支援.啓明出版.. - 14 -.

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参照

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