寄宿舎や寄宿指導員の役割の現状と課題について : 寄宿舎指導員たちが使う特殊な用語による描写 利用統計を見る
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(2) ○学校教育法第79条第2項 寄宿舎指導員は , 寄宿舎における幼児 , 児童又は生徒の日常生活上の世話及び生活指導に従事す る。. ○鈴木(2006)の873頁 寄宿舎指導員の職務については,昭和49年の改正では ,「寮母は,寄宿舎における児童,生徒又 は幼児の養育に従事する。」と規定されていたが,平成13年の改正により,「寄宿舎指導員は,寄宿 舎における児童,生徒又は幼児の日常生活上の世話及び生活指導に従事する。」と改めた。これは, 盲学校,聾学校及び養護学校の児童生徒等の障害の重度・重複化に伴い,その職務が食事,洗濯等 の日常生活における世話に加えて,日常生活の習慣及び社会生活技術を身につけるための生活指導 を行う部分が増大しているため,その職務内容規定を実態により即したものとしたのである。 ○「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」の第4章 盲・聾・養護学校の寄宿舎は,入舎した障害のある児童生徒等が毎日の生活を営みながら,生活 のリズムをつくるなど生活基盤を整え,自立し社会参加する力を培う重要な場であり,老朽化した 施設・設備の改善を図るとともに,情報機器の整備等やバリアフリーの推進などを行い,居住環境 の向上に十分配慮する必要がある。. 要約すれば,寄宿舎とは,入舎している子ども(以下,舎生)たちが日々の生活の中で 日常生活の習慣や社会生活技術を身につける場であること,その実現のために寄宿舎指導 員たちが間接的および直接的な指導を行う場である。 しかし,それはあくまでもおおむねの合意の範囲である。この合意を補強する,例えば, 学習指導要領やその解説のような文書は皆無である。そのため,寄宿舎や寄宿舎指導員の 役割についての議論は続いている(寄宿舎教育研究会,2000;古屋,2005;石川・古屋, 2008;石川・古屋2009)。埼玉寄宿舎教育研究会(2008)は,アンケート調査で得た情報 をもとに,その役割についての考察を試みている。その報告書に「用語 」「読み方 」「意 味 」「備考」の欄から構成されている『埼玉寄宿舎用語集(以下,参照 )』がまとめられ ている 。「読み方」が付されていることから,特殊な用語が多い。その特殊性とは他職種 との違いの強調といえる。. ○職員の勤務にかかわること 明け,遅番,日勤,週勤者,職集者,職朝,週直者,宿直(者),宿直補助員/宿直代行者, 再調理当番者,配膳,〆勤/閉舎,SB対応,ボイラー点火・消火,申し送り/引き継ぎ,住み込み, 大宮ろう学校事件,通勤交替制,ワタリ/ワタル,主任寄宿舎指導員,寄宿舎指導員. ○入舎にかかわること 入舎,通年入舎,期間入舎,教育的入舎,緊急入舎,放課後入舎/時間入舎,宿泊体験,体験入舎, 入舎基準,通学困難(通困),家庭の事情,入舎形態,宿泊形態,泊数,全泊,隔週泊, 週途中帰省/曜日泊/部分泊,在舎,舎生,舎生カード/家庭調査票,舎費・舎友会費, 就学奨励費(就奨),入舎・退舎(届・願),入舎希望調査書/入舎申し込み書. ○施設にかかわること 自立訓練室,談話室(娯楽室),非常持ち出し袋,プレイホール. ○会議にかかわること 学担・舎担会議,議長団,グループ会議,ケース会議,献立会議/健康会議/寮食連絡会,. - 124 -.
(3) 山梨障害児教育学研究紀要 第4号(平成22年2月1日). 指導員会議,舎職員会議/全体会議,公開寄宿舎/寄宿舎公開週間,総括・まとめ,部屋代表者会議, 各棟会議,保護者会/保護者連絡会,舎生会/舎友会,部屋会/子ども会議,からふるタイム/ミニ集会. ○その他 舎監,舎監長/寮務主任,舎室,舎則,舎務分掌,引率権,お茶会,顔出し,帰舎,帰省, 自主通学,記録/行動・生活記録,舎務日誌/寄宿舎日誌,宿直命令簿/宿直実績簿, リクエストメニュー/行事食,連絡帳,からだの学習,地域との交流,部屋編成,夏開舎. 本稿は,埼玉寄宿舎教育研究会(2008)が作成した『埼玉寄宿舎用語集』に掲載されて いる用語を手がかりにしながら,寄宿舎や寄宿舎指導員の役割の現状や課題についての描 写を試みるものである。. Ⅱ.寄宿舎や寄宿舎指導員の役割の現状と課題について. 以下,埼玉寄宿舎教育研究会(2008)のその用語集に掲載されている用語や意味などの 引用には,原則的に[. ]印を付けて表記する。. 1.寄宿舎指導員の勤務にかかわること (1)給与や勤務時間などの勤務条件の歴史的経緯にかかわること 寄宿舎指導員(旧:寮母)はかつて[住み込み]勤務であり,その後[通勤交替制]へ と移行した。給与体系については,[ワタリ/ワタル],つまり[教育職給料表(二)1級賃 金から2級賃金に変わること]が条件付きながら認められて,その是正が行われた。 寄宿舎指導員は教諭や養護教諭らと同じ教育職の扱いでありながら,このように待遇面 で劣等な処遇であった歴史的な経緯がある。このことが,かつての寄宿舎指導員(寮母) の意識にさまざまな影響を与えていたといえる。 [住み込み]解消から半世紀近くが,そして[ワタリ /ワタル]の実現から約20年が経 過して,今は専門知識(社会福祉や障害児教育など)を高等教育機関で身につけ,各都道 府県で実施される競争倍率の高い採用試験をくぐり抜けた寄宿舎指導員が職場に増え,そ の中核をなしつつある。過去の経緯を熟知しながらも,かつそれを超越して,自分たちの 役割を再構築することが,現在の中堅の寄宿舎指導員に求められていると考える。 (2)舎生のための勤務の工夫にかかわること 限られた人員でいかにしてよりよい指導体制を組むか 。[明け ][遅番 ][日勤 ][週勤 者]の説明に[学校によって出勤・退勤時間が異なる。]との但し書きが添えられている。 各寄宿舎で工夫が継続的に行われているということである。 ある寄宿舎では ,「日勤」と「宿直」だけであった勤務体制に「遅番」を加えた。部活 動で[帰舎]が18時頃になる舎生とのかかわりは宿直勤務者に限られるため,あるいは手 厚い介助が必要な舎生の受け入れには放課後の人員を多くする必要があるため,というこ とがその理由である。ある寄宿舎では「遅番」の勤務時間を1時間遅らせた。その理由は,. - 125 -.
(4) 重度障害の子どもの食事指導をより手厚くするためや,放課後入舎の多様化するニーズ(帰 省時間が舎生によって異なる)への対応のためであった。 これらは,舎生にとってよりよい環境をつくりたい,舎生とのかかわりを大切にしたい という熱意で工夫されてきた勤務体制である。ただ,その見直しは,そこに勤務する全寄 宿舎指導員の合意が必要である。例えば,長年,そこに勤務している寄宿舎指導員にとっ て,当時の自分たちが「よりよい」と判断して築いた勤務体制に手を加えることそのもの に抵抗感が生じる。また,子育て中の寄宿舎指導員にとっては,宿直勤務以外に遅番勤務 があったり,退勤時刻が遅くなったりすることは,私生活上での大きな問題となる。. 2.入舎にかかわること (1)入舎や宿泊形態の工夫にかかわること 特別支援学校に寄宿舎は原則的に義務設置である。鈴木(2006)によればその理由は以 下のとおりである。 盲学校,聾学校及び養護学校について,寄宿舎を義務設置としたのは,これらの学校に在学する 児童生徒の状況( A)及び盲学校,聾学校,養護学校の設置状況( B)にかんがみて,特別な場合 を除き,通学が困難な児童生徒のために,寄宿舎を設置することが必要であるとの考えによるもの である。(873頁より引用。下線とアルファベットは筆者。). 下線部(B)のとおり,不十分な学校数のために通学が困難[通困]な子どもへの対応 が寄宿舎のかつての中心的な役割であり,年間を通じて入舎[通年入舎]する舎生が主流 であった。現在,特別支援学校は増え,通学区域も狭くなり,公共交通手段の充実やスクー ルバスの整備などにより,下線部(B)にかかわる諸問題は解消されつつある。 下線部(A)については,障害の重度・重複化,多様化が進行している。子どもを取り 巻く環境も,例えば,地域機能や家族の養育機能の低下など,変化している。この変化へ の対応が時代の要請である。このことについて,各学校や寄宿舎はさまざまな工夫をして きた。例えば ,[期間入舎]や[教育的入舎 ][体験入舎]などである。教育的な効果を 期待して,小学部や重度障害の子どもの比較的短期間の[教育的入舎]が試みられ,その 実績が積み重なり,教育的な機能の富む寄宿舎へと変化している。 しかし,その時々の教育行政の事情や学校長の認識の不足,つまり寄宿舎はそもそも[通 困]解消のためにあるという旧時代的な下線部( B)の発想で,下線部( A)への取り組 みが後退することがあった。その都度,寄宿舎指導員が[教育的入舎]の意義についての 説明を,教育行政官あるいは学校長や他の教職員にくり返してきた。 近年,定員をはるかに超える入舎希望がある寄宿舎が増えている。これは[教育的入舎] の意義が保護者を含めた関係者に広がっていることの現れである。入舎希望が増える一方 で,寄宿舎には限られた人数の舎生(定員)のための生活空間しかない。寄宿舎指導員の 人数も限られ,とくに夜間の勤務態勢の工夫に限界が生じている。その対応策として,例 えば,宿直代行員やパートタイムの寄宿舎指導員を雇い入れることがある。それらの職種. - 126 -.
(5) 山梨障害児教育学研究紀要 第4号(平成22年2月1日). は非常勤・非正規職員とはいえ,障害のある子どもとのかかわりができることが求められ る。加えて,夜間の業務があることも影響して応募者は少なく,人選に苦労している。さ まざまな条件に十分に適合する人を待つと採用が遅れ,現状の勤務体制に重大な支障が生 じてしまう。このように,入舎を希望する全員を希望どおりの期間や宿泊数で受け入れる ことは困難であり,例えば,[通年入舎]にしたい子どもを1・2学期だけの[期間入舎] に,あるいは週2泊を週1泊に,などとやむを得ずの調整がなされることがある。 ...... [緊急入舎]とは何らかの事情によって入舎が望ましいと判断された場合,年度途中で ...... も入舎できる仕組みである。何らかの事情とは,各学校や子どもで異なるが,例えば,怪 我や病気で保護者が入院したことで子どもの送迎ができなくなった場合や,両親の別居や 離婚により家庭の養育機能が著しく低下した場合などである。家庭(保護者)と学校(学 級担任や管理職 ),寄宿舎(寄宿舎指導員)の三者が十分に話し合い,入舎の是非を個別 的に判断する。 [緊急入舎]の是非については議論が分かれている。教育行政的な合理的な視点と子ど もがまず先にありきという教育職の視点との対立である。緊急一時避難的な役割が強調さ れると,児童福祉施設の役割との競合が生じて,寄宿舎の役割があいまいになる。教育行 政的な視点からは,そのような役割は児童福祉施設にあり,寄宿舎にはない,ということ である。一方で,現実的に目の前に[緊急入舎]が必要な子どもがいた場合,寄宿舎が設 置されているにもかかわらず入舎を断ったり,福祉サービスの利用をうながしたりするこ とへの抵抗感である。寄宿舎指導員も学級担任もその子どもやその家族の息づかいを肌で 感じているので ,「このようなことは寄宿舎の本来の役割ではない」と割り切ることがで きない。解決のためには,2つの立場の両立しかないであろう。仮に[緊急入舎]でも, 緊急一時避難的な入舎ではなく,あくまでも[教育的入舎]であるとの意味づけをしてい くということである。 (2)[放課後入舎/時間入舎]という試みの成果や課題にかかわること [放課後入舎/時間入舎]については,重度障害の子どもや小学部の子どもの保護者の, 「家に帰っても活動を共にする仲間がいない 」,「年齢を超えて多くの仲間と放課後にも かかわれるような場がほしい」という要望への対応である。 体力面や精神面で不安がある子どもが,[教育的入舎]の前段階として[放課後入舎/時 間入舎]を行うことがある。例えば,1か月間の予定期間で,夕食前までの入舎から始ま り,夕食後までの入舎,そして最終週に1泊だけ行う。子どもに無理のない,このような 取り組みにより,体力面や精神面での成長が図られていく。この調子ならば泊数も期間も 増やしてほしいとの要望が保護者から出されることがあるが,多くの希望者の計画的な入 舎のために対応しにくいのが現状である。1か月間というように期間を区切った場合,次 の[放課後入舎/時間入舎]までに長期間の待機が余儀なくされることもある。. - 127 -.
(6) 3.施設にかかわること (1)日々の生活そのものを充実させるための工夫にかかわること 大半の寄宿舎に[談話室 ][娯楽室 ][遊戯室]などと呼ばれる空間がある。そこでは 舎生たちが遊んだり,おしゃべりしたり,おやつを食べたりする。行事を行うこともある。 舎生同士および舎生と寄宿舎指導員との関係づくりの場でもある。 舎生たちは学校と寄宿舎で24時間,顔を合わせている。けんかをして,お互いに嫌な気 分になってしまうこともある。舎生には居室(2~4人程度で共用)があり,多くの舎生た ちが自分自身の居室で過ごす時間帯がある。そのような時間帯の誰もいない[談話室]や [娯楽室]などは,一人になれて,気分転換を行うことのできる重要な場となる。 (2)「自立」をより積極的にうながす工夫にかかわること 寄宿舎では,一人一人の子どもにとっての「自立(よりよく生きていこうとすること)」 を育む。入舎の目的として,保護者や学級担任から,社会的な自立がしばしば強調される。 とくに,卒業が間近の高等部生徒でその傾向は強い。そこで,一部の寄宿舎では[自立訓 練室]や[自立部屋]と呼ばれる部屋を使って,決められた期間,自分自身の責任で日課 や金銭,食事(調理)などの管理のための練習を試みることがある。家庭や学校では実施 しにくい取り組みである。卒業後にこのような取り組みの必要性があったとしても,時間 や場所(機会 ),第三者のサポートなどが十分に整えられるとはいえない。現在の寄宿舎 にある人的・物的な資源をより有効に活用することが期待されるであろう。. 4.さまざまな会議にかかわること (1)学校との連携にかかわること [学担・舎担会議]とは,学校(学級担任)と寄宿舎(寄宿舎指導員)とがお互いに担 当している子どもについて情報交換をする会議である。学校の中の公式な会議として年間 行事予定に位置づけられていることもある。一方で,寄宿舎指導員が学級担任のところに 足を運び,学校での子どもの様子を聴くことをきっかけとして,お互いに情報交換をする 日々の非公式の話し合い,俗にいう下駄箱会議や井戸端会議のような話し合いが重要に なっている。しかし,足を運ぶことに,寄宿舎側も学校側も,年度当初はもとより常にお 互いに遠慮があることは否めない。そのような遠慮のため,必要な共通理解がついつい先 送りされてしまう。些細な用件でも,電話や電子メール,メモ書きでのやりとりだけでは なく,お互いに足を運び,顔を直接合わせて伝えあうような習慣づくりが必要である。 学校と寄宿舎とのこのような連携が重要であるが,そこには守秘義務,とくに「集団と しての秘密保持」の義務が寄宿舎指導員にも学級担任にも発生する。その義務がたった一 人の寄宿舎指導員や学級担任によって果たされず,学校での出来事が寄宿舎へと,あるい は寄宿舎での出来事が学校へと,そのすべてが伝わっているという印象を舎生がもってし まうと,学校や寄宿舎に対する舎生の不信感につながり,その後の指導に重大な悪影響を 与えてしまう。これは十分に留意したい事柄である。. - 128 -.
(7) 山梨障害児教育学研究紀要 第4号(平成22年2月1日). (2)生活の場としての重要な食事にかかわること 舎生は寄宿舎で朝と夜の2回の食事をする。学校行事の関係で昼食をとることもある。 多くの舎生にとって楽しみな時間である。基本的生活習慣の確立という寄宿舎の役割から 考えても,1日2回の食事の機会は大切である。 [献立会議 /健康会議 /寮食連絡会]と呼ばれる会議で,栄養士や調理員,寄宿舎指導員 がみた舎生の食事の様子を出し合い,よりよいメニューや食事環境をつくるためのアイ ディアを出し合う。そのことにより,舎生にとってはより楽しい時間となり,寄宿舎指導 員にとっては舎生の基本的生活習慣の確立のための指導ができるよりよい機会となる。 各家庭や地域の生活に準じて,寄宿舎でも季節にちなんだ行事を行う。端午の節句や七 夕,クリスマス会,ひな祭りなど,さまざまな行事があるが,それらにちなんだメニュー である[行事食]により,その季節行事の印象を強くする。それらの食事を楽しみながら ... 季節行事の意味を伝えていく。例えば,節分でいわし料理が出され,それを食べながら, ... 「なぜいわし料理を食べるようになったのか」について話をするということである。 [リクエストメニュー]をとりいれている寄宿舎がある。寄宿舎での食事は舎生にとっ ての楽しみであり,思い出にもなる。そこで,寄宿舎での生活が残り少ない高等部3年生 に何が食べたいかのリクエストを聴きとる。例えば,舎生のリクエストにより,中華シリー ズや和食シリーズなどが出されたことがあった。とくに和食の中で出された「いりどり」 や「ごま合え」などは刻む食材が多く,手間がかかり大変だったと調理員たちから聞いた ことがある。寄宿舎での実践は,栄養士や調理員のこのような理解と協力で成立している。 そして,舎生たちは栄養士や調理員の理解と協力に対して,感謝の心を込めてあいさつを したり,メッセージカードをプレゼントしたりすることもある。そのような自然な営みの 中で,心も基本的生活習慣も養われるのである。 (3)寄宿舎の運営にかかわること 学校の職員会議に相当するのが[指導員会議]や[舎職員会議]などである。寄宿舎の 運営全般に関することを決める。交替勤務のため寄宿舎指導員の全員が集まれる機会は限 られているため, [開舎]の日(月曜日)の午前や午後,あるいは[閉舎]の日(金曜日) の午前に行うことが多い。 管理職や舎監が出席することもある。それにより,寄宿舎の中のさまざまな事情につい ての理解が促進される。例えば,寄宿舎と学校の意見が対立した際に,管理職が中立的な 立場で調整を図るということにつながる。 ただ,現実的に,寄宿舎の立場は弱い。寄宿舎と学校との意見が対立した際に,寄宿舎 側が一方的に妥協せざるを得ないこともある。そこで,よりデリケートな事項については, 管理職も舎監も抜きで話し合い,折衝のための方略を考えることも多い。 協議事項の中でとくに時間をかける事項は入舎選考である。一人の子どもの入舎期間や 泊数をめぐって,学校(の学級担任)の判断について寄宿舎(寄宿舎指導員)としての考 えをまとめるに十分な時間をかけて協議することが多い。次年度の入舎生を決定する際,. - 129 -.
(8) 最初に,入舎選考の方針や基準,手順などを職員会議や学部会などで説明して理解を得る。 次に募集を行い,希望者の中から選考をすすめる。その際,子どもに関すること(入舎を 希望した理由や希望の宿泊形態,必要な介助の程度を含めた実態など),寄宿舎での生活 指導の計画に関すること(小学部から高等部までの各人数のバランス,部屋編成,児童生 徒同士の人間関係など ),寄宿舎指導員の体制(予定される人事や宿直体制など)などを 踏まえて,総合的に判断・決定していく。その決定を「案」として,学部会や該当の教諭 らに説明する。学級担任は自分が担任する児童生徒のことを重点的に考えているので,例 えば小学部の教諭からは「高等部の生徒の宿泊を調整すれば小学部生が入れる」とか,重 複障害学級の教諭からは「単一障害の子どもを減らせば重複障害の子どもがもっと入れる のではないか」という意見がしばしば出される。そのようなやりとりが入舎選考時にはと ても多い。調整はしばしば難航するが,特別支援学校の設置目的や寄宿舎の設置目的と関 係する重要な事項なので,時間を十分にかけた話し合いが必要である。 (4)舎生の保護者との関係構築にかかわること 寄宿舎の教育的機能を高めるためには,保護者との連携は不可欠である。連携を強化す るために[連絡帳]や[保護者会/保護者連絡会]などがある。[連絡帳]では寄宿舎での 子どもの様子や必要な荷物などを担当者が記入して ,[帰省]の際に子どもに持たせる。 保護者が連絡帳をみることで子どもの様子を知ることができるが,文章だけでは伝えきれ ないことも多い。そのため,[保護者会/保護者連絡会]にて,保護者と直接話をして,よ り詳しい情報の共有を図る。 [帰省]や[帰舎]が保護者の送迎によれば,そこで随時話ができる。しかし,一人で 通学する舎生の場合,保護者と会う機会はきわめて限られるため,[保護者会/保護者連絡 会]は大切である。多くの保護者が無理なく参加できるように,学校行事に合わせその前 後に日程を組むことが多い 。[保護者会]に参加できない保護者に対しては,都合のよい 日に寄宿舎に来てもらうという個別的な対応も行っている。 (5)舎生との関係構築にかかわること 子どもたちが寄宿舎で生活する上での基礎集団は同じ部屋の仲間である。ある一定期間, 同じメンバーで生活していくので,舎生の属性(年齢や発達段階など)や舎生間の人間関 係や育てたい力などについて,総合的に考えて[部屋編成]を慎重に行っている。例えば, 高等部は高等部生徒同士にして日課の調整をしやすくしたり,学校で同じ学級の舎生を人 間関係の拡大をねらって,あえて別々の部屋にしたりするなどである。 4月から各部屋での生活が始まり,担当の寄宿舎指導員は部屋の1年間あるいは学期,月 ごとの運営方針を考える。舎生も自らの目標や取り組み,係分担などを[部屋会 /子ども 会議]で話し合う。そのような活動をとおして,自主性や責任感が育まれていく。舎生全 員での話し合いの場である[舎生会/舎友会]での活動もあり,自治能力が育まれていく。 生活をする中でさまざまな問題が日常的に生じる 。[部屋会 /子ども会議]や[舎生会 / 舎友会]などの舎生同士の話し合いを中心に解決を図っていくが,寄宿舎指導員が必要最. - 130 -.
(9) 山梨障害児教育学研究紀要 第4号(平成22年2月1日). 小限の調整に入り,解決のための手がかりを与えることもある。舎生中心の生活ではある が「何かあれば先生たちも一緒に考えてくれる」という舎生と寄宿舎指導員の信頼関係を 築く活動でもある。ただ,そのことを寄宿舎指導員は認識しているが,必ずしもうまくは いかない。例えば ,[部屋会]で舎生たちはこの1年間をどのような目標で,どう生活し たいのかについて話し合う。しかし,意見がなかなか出てこないことがある。寄宿舎指導 員は慎重に手がかりを与えて,意見を引き出すこともあるが,ついつい「こんな部屋になっ てほしい 」「こんなことをやりたい」という具体的なアイデアを出してしまい,結局,そ れが部屋の目標になってしまうことがある。舎生の自治活動である[舎生会 /舎友会]で も,寄宿舎指導員が具体的なアイデアを出しすぎてしまい,寄宿舎指導員が主導する会に なってしまうことも多々ある。おそらく多くの寄宿舎指導員はこの類の経験をもち,みな 反省するところであろう。 舎生と寄宿舎指導員の関係の素地をゆるやかに醸成するために[お茶会]がよく行われ る。昼間や夜の自由時間に舎生と一緒にお茶(紅茶やコーヒー,麦茶など)を飲みながら 話をする 。[部屋会 /子ども会議]や[舎生会 /舎友会]などの堅苦しい雰囲気の場では自 分の気持ちや意見をいえない舎生がいる。しかし,お茶を飲みながら話をすると本音や悩 みを聞くことができる。舎生を理解するための貴重な時間である。. 5.その他 (1)職務内容の権限にかかわる寄宿舎指導員の‘劣等処遇’について 前述の「1.寄宿舎指導員の勤務にかかわること」の「( 1)給与や勤務時間などの勤務 条件の歴史的経緯にかかわること」にて記したことと構造的に同じである。 [舎監]や[寮 務主任]について,学校教育法施行規則第124条に次のように記されている。 1 寄宿舎を設ける特別支援学校には,寮務主任及び舎監を置かなければならない。 2 前項の規定にかかわらず,第4項に規定する寮務主任の担当する寮務を整理する主幹教諭を置く ときその他特別の事情のあるときは寮務主任を,第5項に規定する舎監の担当する寮務を整理す る主幹教諭を置くときは舎監を,それぞれ置かないことができる。 3 寮務主任及び舎監は,指導教諭又は教諭をもつて,これに充てる。 4 寮務主任は,校長の監督を受け,寮務に関する事項について連絡調整及び指導,助言に当たる。 5 舎監は,校長の監督を受け,寄宿舎の管理及び寄宿舎における児童等の教育に当たる。. 法令上,寄宿舎指導員は教諭(寮務主任)による指導・助言の対象である。寄宿舎で実 施される「教育」は,教諭(舎監)が行う。このように,法令上,寄宿舎指導員は教諭よ りもランクの低い役割となっている。だから,舎生を連れて近くの店まで買い物に行く, 散歩に出かける,という[引率権]さえも寄宿舎指導員にはないという寄宿舎もある。こ のことが,現在の寄宿舎指導員の気持ちにさまざまな影響を与えている。 しかし,これはあくまでも法令上の理屈である。舎生にとって,学校にいる大人(教諭) の意味と寄宿舎にいる大人(寄宿舎指導員)の意味とは,次元が異なっている。舎生にとっ. - 131 -.
(10) て,寄宿舎指導員と教諭とは優劣という比較のできない存在のはずである。 寄宿舎指導員は,生活という自然な流れの中で,舎生に対して,そのときの必要に応じ た指導を自然にするしかない。例えば,「先生,宿題,ちょっとみて」といわれたら,「ど れどれ」と自然な対応をすればよいのである 。「先生(寄宿舎指導員)は,学校の勉強を 教えてはいけないことになっているの。だから,舎監の先生に聞いて。」などと,大人の 都合(法令上の縛り)を説明して,生活という自然な流れを寄宿舎指導員自身が断ち切る ことはあってはならない。 (2)記録について 勤務の関係で,寄宿舎指導員から別の寄宿舎指導員へと,舎生のさまざまな状況につい て引き継ぎを,[記録/行動・生活記録]にて行う。寄宿舎指導員が交替しても,生活の自 然の流れの中でのかかわりが途切れないための情報がそこには盛り込まれている。 ... 例えば,子ども同士のけんかの扱いは最重要である。ある寄宿舎指導員が宿直のときに ... 子ども同士のけんかが始まったとする。子どもたち同士で解決ができない場合,寄宿舎指 導員が子どもたちの気持ちを聴きとり,それをその場でわかちあうことで一応の決着が図 られる。ただ,あくまでも「一応の」であるので,記録に「引き続き学校や寄宿舎での様 子をみてください」と書く。それを読んだ他の寄宿舎指導員が,例えば自由時間に,当事 者二人の様子をより意図的に観察して,必要な対応を考えることができる。 [記録 /行動・生活記録]は自分自身の実践の振り返りにもなる。学期末ごとに舎生一 人一人の活動を文章としてまとめる機会があり,それまでの記録を読み返しながら自分自 身の実践や舎生の成長を見直すことができる 。[ケース会議]などで報告すれば,その舎 生の実態把握や対応の仕方などにかかわり,他の寄宿舎指導員から多くの意見をもらえる。 そのことが,次の実践に活かされ,寄宿舎指導員としての資質の向上にもつながっていく。. Ⅲ.おわりに. 新学習指導要領(平成21年3月告示)の総則に次のような記述がある。下線部はこれま での学習指導要領にはなかった記述である。 小学部において道徳教育を進めるに当たっては,教師と児童及び児童相互の人間関係を深めると ともに,児童が自己の生き方についての考えを深め,家庭や地域社会との連携を図りながら,集団 宿泊活動やボランティア活動,自然体験活動などの豊かな体験を通して児童の内面に根ざした道徳 性の育成が図られるよう配慮しなければならない。その際,特に児童が基本的な生活習慣,社会生 活上のきまりを身に付け,善悪を判断し,人間としてしてはならないことをしないようにすること などに配慮しなければならない。. 「集団宿泊活動」という語句が追加された理由が文部科学省(2009年1月)の『平成20 年度特別支援学校新教育課程説明会(中央説明会)資料』の総則編にて,以下のように記 されている。. - 132 -.
(11) 山梨障害児教育学研究紀要 第4号(平成22年2月1日). 社会の一員であるという自覚と互いが支え合う社会の仕組みを考え,平素と異なる生活環境に あって人間関係など集団生活の在り方などについて望ましい体験を積む集団宿泊活動,自分自身を も高めるためのボランティア活動,自然や動植物を愛し大切にする心や感動する心などを育てるた めの自然体験活動など,学校の教育活動全体において各教育活動の特質や児童の興味・関心を考慮 し,広い意味での豊かな体験をさせることを通して自然な形で児童の内面に根ざした道徳性が育成 されるようにすることが大切である。特に今回,発達の段階を踏まえた指導を重視する観点から, 小学部においては,体験活動の例示として集団宿泊活動を追加した。また,これらの体験活動は, 一定期間にわたって行うことにより,一層意義が深まるものである。. 文部科学省が示しているところの ,「集団宿泊活動」を支えている目的や「一定期間に わたる」という実施方法について,宿泊訓練棟を利用した教育課程上の工夫による実施, 例えば,年間1回程度の1泊2日の(非日常性の強い)宿泊学習では不足であることは明か である。新学習指導要領(平成21年3月告示)の本格実施により,寄宿舎や寄宿舎指導員 の役割が再評価されるはずである。いや,再評価されるような取り組みが寄宿舎指導員に 求められる 。「特殊教育から特別支援教育へ」の法改正がなされ,学習指導要領も改定さ れたこの転換期だからこそ,そのような取り組みがさまざまな方法で寄宿舎指導員の手で 継続されることが望まれる。. 文献 1)古屋義博(2005)特殊教育諸学校の寄宿舎の意義について-山梨県内の寄宿舎指導員 に対する意識調査から-.山梨大学教育人間科学部紀要,7(1),172-180. 2)埼玉寄宿舎教育研究会(2008)埼玉寄宿舎教育研究会20周年記念誌.埼玉寄宿舎教育 研究会. 3)寄宿舎教育研究会(2000)寄宿舎教育の課題と展望.寄宿舎教育研究会. 4)石川美知代・古屋義博(2008)寄宿舎の価値と課題(1)-2007年春に退職した寄宿 舎指導員3人への聴きとり調査-.山梨障害児教育学研究紀要,2,90-111. 5)石川美知代・古屋義博(2009)寄宿舎の価値と課題(2)-2008年春に退職した寄宿 舎指導員2人への聴きとり調査-.山梨障害児教育学研究紀要,3,132-142. 6)鈴木勲(2006)逐条学校教育法第6次改訂版.学陽書房.. 謝辞 寄宿舎は各都道府県や各寄宿舎でさまざまな事情が異なります。よって,本稿で記した 事項の一部については,あくまでも「埼玉県の場合」という限定がつくと思われます。 本稿執筆にあたり,埼玉寄宿舎教育研究会のご理解とご協力をいただきました。記して 深く感謝を申しあげます。. - 133 -.
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