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行政による制裁的公表の処分性を 争点とする判例の傾向と分析 : 続・行政による制裁的公表の処分性に関わる 法的問題に対する研究

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行政による制裁的公表の処分性を

争点とする判例の傾向と分析

続・行政による制裁的公表の処分性に関わる 法的問題に対する研究

はじめに Ⅰ 制裁的公表の処分性 1 法的性質 2 学説・判例 3 処分性判断基準 Ⅱ 2017年の「消費生活条例事件」による 2 つの下級審決定 Ⅲ 制裁的公表の処分性に対する考察 1 判例の傾向に対する再検討 2 処分性を意識した法の仕組みの構築の必要性 (1)「公表→行政処分」の仕組み (2)「公表→不利な取扱い」の仕組み (3)処分性を意識した法の仕組みの構築の必要性 むすびに 補論 キーワード:制裁的公表,公表,行政処分,処分,行政上の実効性確保

は じ め に

近年,国や地方公共団体の行政機関の別を問わずに,法令による義務や

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行政指導に従わない等の事実の公表が導入・実施される例が徐々に増加す る傾向にあり,このような公表は,行政機関による公の秩序に反するよう な公的規制に従わない者に対して経済上の不利益を含めた社会的制裁を国 民・住民一般の反応に期待する行為である。このような行政上の制裁とし ての公表活動は,行政法学上,情報公開の一環としての情報提供とは種差 され,法令による義務や行政指導による公的規制の実効性確保手段の一つ の「制裁的公表」あるいは「公表」等として取り上げられてい(1)る。本稿で は,このような行政による公表の制裁としての目的や機能に着目し(2)て, 「制裁的公表」と呼称す (3) る。 行政による制裁的公表が,現行の法律上に定められている例としては, 国民生活安定緊急措置法 6 条 3 項,国土利用計画法26条,新型インフルエ ンザ等対策特別措置法45条 4 項,大規模小売店舗立地法 9 条 7 項,食品衛 生法63条,食品表示法 7 条,児童福祉法19条の17第 2 項,健康増進法32条 2 項,介護保険法103条 2 項,家畜伝染予防法12条の 6 第 3 項,個人情報 の保護に関する法律42条 4 項(2020年改正。現在未施行)等がある。さら に,制裁的公表は,法律によって導入されるだけではなく,国の行政機関 による通達・通知等の行政の内部規範によって導入された公表(4)や,法律に よって先占されていない領域に対する規制や法律による規制を補完する必 要等から,各地方公共団体が立法した条例や策定した要綱(ここでは,国 の行政機関よるものではなく,地方公共団体の行政機関が要綱,要項,要 領,指針,方針,ガイドライン,基準等の名称にかかわらず行政を執行す る際の内部規範を総称して,以下「要綱」とする。)によっても盛んに導 入・実施されてい(5)る。例えば,行政手続条例,個人情報保護条例,景観条 例,消費者保護条例,公害防止条例,暴力団排除条例,ヘイトスピーチ防 止条例,新型コロナウイルス対策条例,火災予防条例,石川県土地対策指 導要綱20条(4),八王子市認可外保育施設に対する指導監督要綱10条 5 項, 名古屋市旅館等指導要綱11条 2 項等がある。また,これら以外にも,実際 の行政実務を見るならば,法律,条例又は要綱にすら基づかずに実施され ている公表も散見することができ (6) る。

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行政による制裁的公表によって行政処分を為された事実や行政指導に従 わなかった事実を公表される個人や事業者にとっては,公表によって名誉 感情,名誉・信用を毀損されることは,それだけに止まらずそれに伴う風 評により経済的被害等の重大な損害を生ずる可能性は当然否定できない。 そのため,公表される者(あるいは公表されようとする者)の権利利益を 保護するための事前・事後的な司法的救済を検討する価値がある。このよ うな制裁的公表からの公表される者(あるいは公表されようとする者)に 対する司法的救済手段の中で,公表に処分性の存在が認められて行政事件 訴訟法(以下「行訴法」という。)の抗告訴訟を利用することは,公表を 取消しあるいは提訴又は判決のタイミング如何によっては公表による被害 の発生や拡大を未然に防止することに資するものであり,個人や事業者が 名誉・信用毀損や経済的利益の損失から自己の権利利益の救済を図る上で 有効な選択肢の一つとして考えることができるように思われる。そして, 抗告訴訟において当該行為に処分性が認められることは,処分性の存在が 訴訟要件となる取消訴訟や差止訴訟といった抗告訴訟以外にも本案の審理 が適法に係属していることが要件となる執行停止や仮の差止めといった仮 の救済措置が利用できるか否か,つまりこれらの訴えや申立てが退けられ るか否かにおいても重要なメルクマールとなるものである。また,処分性 の存否は行訴法上の司法的救済だけに止まることなく,行政不服審査法の 不服申立てにおいても処分性の存否が申立ての重要な適法・不適法のメル クマールとなることから,制裁的公表の処分性の存否は重要な論点である。 したがって,制裁的公表の処分性の有無を検討することは,学理上有益で あるだけではなく裁判等の実務上においても公表された者(あるいは公表 されようとする者)の権利利益の救済の観点からは,制裁的公表に関わる 法的問題に対する重要な研究課題の一つであるように思われる。 上記のような筆者の認識から,行政による制裁的公表の処分性の存否に 対して,筆者は,本稿に先立って2013年に発表した「行政による制裁的公 表の処分性に関わる法的問題に対する研究」(以下「前稿」という。)に(7)て, その時点で得ていた知見を基にした検討を試み (8) た。しかしながら,上記の

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前稿を発表してから数年が経過していることや,2017年に,出版物やイン ターネットサイト上の商用又は公的判例集には未登載であったがために未 だ社会的にその存在を知られるまでには至ってはいないが,公表の処分性 の存否やその判断基準等に対して考察を加える上で興味深い論点を包有し ている東京都消費生活条例50条 1 項に基づく同48条の勧告に従わない事実 の公表の処分性を争点とする裁判例(以下「消費生活条例事件」という。) が現れたことから,先に挙げた前稿による研究成果に対する更新の必要を 感じるようになっ(9)た。 そこで,上記の2017年の東京都における「消費生活条例事件」を見出し たことを切っ掛けとしながら,本稿では,これを含めて新たに得られた知 見を盛り込みつつ,行政による制裁的公表の処分性を争点とする判例の動 向を検討して分析をすることによって,これまでの筆者による制裁的公表 の処分性の存否に対する法的考察に対して補完的な更新を試みることを目 的とした。具体的には,前稿内容の確認として,本稿では,まずは制裁的 公表の処分性の存否に対する学説・判例を参考にすることにより,処分性 の判断基準を検討する。次に,上記の「消費生活条例事件」の 2 つの下級 審決定を検討する。最後に,それらを踏まえた上で,処分性の拡大による 国民の権利利益の実効的な救済の確保の観点か (10) ら,制裁的公表の処分性に 関する判例の傾向に対する再検討や公表の処分性を意識した法の仕組みの 構築の必要性を考察することにしたい。また,補論として,現下の新型コ ロナウイルス感染症(COVID!19)に関わって用いられている行政による 公表についても,当該公表の処分性を含めて若干の付言をする。 なお,行政による制裁的公表の処分性に関わる法的問題の中で基礎的あ るいは詳細に至る内容であって,本稿において触れない内容については, 上記の前稿の中で既に検討して一定の研究成果を得ていることから(例え ば,制裁的公表の前提となる行政指導の処分性の有無等。),それを参照に されたい。

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制裁的公表の処分性

行政による制裁的公表は,行政機関による公の秩序に反するような公的 規制に従わない者に対して経済上の不利益を含めた社会的制裁を国民・住 民一般の反応に期待する行為である。ここでは,制裁的公表の法的性質を 検討するとともに,制裁的公表の処分性に関わる従前の学説又は判例を参 照することを通じて,最後に制裁的公表の処分性の存否に対する判断基準 を検討する。 1 法的性質 行政による制裁的公表とは,行政機関による公の秩序に反するような公 的規制に従わない者に対して経済上の不利益を含めた社会的制裁を国民・ 住民一般の反応に期待する行為である。このように定義付けられる制裁的 公表は,行政機関による情報公開の一環としての情報提供と外形上は近し いものであれども,制裁としての目的を有する行為として種差されている。 このような制裁的公表は,上記のような現行の法律や条例等の条文上の 文言を手掛かりにしながら整理するならば,次のように幾つかの種類に分 類することが可能であ(11)る。法令による義務や行政指導に従わない等の事実 の公表として,例えば,①障害者の雇用の促進等に関する法律47条は,同 法46条 1 項所定の障害者雇入れ計画につき「厚生労働大臣は,前条第一項 の計画を作成した事業主が,正当な理由がなく,……勧告に従わないとき は,その旨を公表することができる。」として,行政指導の不服従に関わ る氏名等を含む一定事実の公表(以下「行政指導不服従事実の公表」とい う。)を規定(12)し,また,②小田原市市税の滞納に対する特別措置に関する 条例 6 条 2 項本文は,滞納処分手続着手後に行政サービス停止等と併せて 「市長は,必要があると認めるときは,……滞納者の氏名,住所その他必 要と認める事項……を公表することができる。」として,法律や条例によ る法的義務の違反に関わる氏名等を含む一定事実の公表(以下「義務違反

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事実の公表」という。)を規定してい(13)る。さらに,行政による「制裁」に 含めるかはその定義如何であるが,公的規制としての行政指導や行政行為 に付随して世論の批判によって心理的に圧迫し,その公的規制の将来の履 行のための間接強制としての機能を期待する公表とし (14) て,③特定商取引に 関する法律(以下「特定商取引法」という。) 8 条 2 項は,販売業者又は 役務提供事業者に対し,訪問販売に関する業務の全部又は一部を停止すべ きことを命じた時に「主務大臣は,……命令をしたときは,その旨を公表 しなければならない。」として,措置命令等といった不利益な行政処分を した事業者等の氏名等を含む一定事実の公表(以下「行政処分事実の公表」 という。)を規定(15)し,また,④食品表示法 7 条は,食品関連事業者に対し, 表示事項を表示し,又は遵守事項を遵守すべき旨の指示した時に,「内閣 総理大臣,農林水産大臣又は財務大臣は,……指示……をしたときは,そ の旨を公表しなければならない。」として,規制的な行政指導をした事業 者等の氏名等を含む一定事実の公表(以下「行政指導事実の公表」とい う。)を規定してい (16) る。また,これらのような法律や条例に規定されてい る公表以外にも,上記の 4 つの種類に該当する国の行政機関による通達・ 通知等の行政の内部規範によって導入された公表(17)や,地方公共団体が立法 した条例や策定した要綱等による法規範に基づかずに実施されている公表 も数多く存在してい(18)る。これらの制裁的公表は,規定する法律や条例等に 定められた条文で示されているように,義務違反者や行政指導不服従者等 の氏名を含めた一定事項を公表する行為であるから,制裁的公表そのもの 自体としては,国民や住民一般に対して情報を提供するに止まる行為であ る。 これらの現行の法律又は条例等の条文上の文言を手掛かりにしながら, 行政による制裁的公表の法的性質を考えるならば,行政の行為の一態様で あったとしても,行政作用法上の代表的な法概念である行政行為やその他 の権力的行為のそれとは異なるように思われる。ここで,行政行為とは, 論者によってその定義は若干異なるが,行政法学上の伝統的・通説的なも のとしての「行政庁が,法に基き,公権力の行使として,人民に対し,具

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体的な事実に関し法律的規制をなす行為」とさ(19)れ,また,即時強制や直接 強制といった行為は「行政庁の一方的意思決定に基づき,特定の行政目的 のために国民の身体,財産等に実力を加えて行政上必要な状態を実現させ ようとする権力的行為」たる権力的事実行為であ (20) る。そして,これらのよ うに表現される行政行為や権力的事実行為とは異なり,制裁的公表そのも の自体は国民・住民一般に対する単なる行政情報の公表に止まる行為で あって,公表内容が特定の者の社会的評価を低下させるおそれがあり,法 律又は条例によって規定されていたとしても,公表される者を名あて人と した直接的な強制力を持つものでないこと,また,公表される者に対する 権利義務その他法的地位を具体的に変更するなどの法行為とは言えないこ とから,制裁的公表そのもの自体の法的性質は,「非権力的事実行為」と 捉まえることができ(21)る。 2 学説・判例 上記 1 のように,行政による制裁的公表は,法律又は条例の条文上に規 定されていたとしても,その法的性質は非権力的事実行為である。ここで は,このような制裁的公表の法的性質を踏まえつつ,公表の処分性の存否 に対する学説及び判例の傾向を検討する。 様々な態様の行政の行為の中で処分性が認められる行為とは,判例上, 行訴法 3 条 2 項所定の「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」 として,「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち,その行 為によつて,直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定すること が法律上認められているもの」に該当する行為と解されてお(22)り,行政の行 為の公権力性や具体的法的効果の有無を基準としてその処分性を判断され る。そして,伝統的・通説的には,かかる処分性が認められる行政の行為 とは,講学上の行政行為たる権力的法行為及び権力的行為としての事実行 為と解されてい (23) る。当該判例を踏まえるならば,行政による制裁的公表は, 事実上の制裁的又は侵害的な性格があるとしても,経済上の不利益を含め た社会的制裁を国民・住民一般の反応に期待する行為であり,公表そのも

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の自体によっては直接的に国民の権利義務に影響を及ぼすとまでは言い難 いから,その法的性質は非権力的事実行為であるとして,抑もから処分性 の存在は認められ難いように思われる。そこで,以下においては,制裁的 公表の処分性の存在が認められるか否かにつき,この点に関わる従前の学 説や過去の判例の傾向を検討する。 まず,行政による制裁的公表の処分性の存否について述べる法学者等に よる見解を幾つか挙げるならば,まずは制裁的公表の処分性の存在に否定 的なものとしては,例えば,「制裁的公表に制裁的機能・侵害的性格が認 められるとしても,それ自体が直接法律効果を有するものではない以上, 制裁的公表が抗告訴訟の対象となると解するのは困難であり……,その前 提としての行政指導も抗告訴訟の対象とはならないものと解するほかはな かろう。」と(24)か,あるいは,行政機関による「勧告,公表制度の場合も, それ自体としては法効果を有しないし,事実上の強制力もないところから, 取消訴訟を利用することはできない」とするものがあ(25)る。管見によるなら ば,制裁的公表の処分性に対する法学者等による見解は,処分性の有無の 判断につき法的効果が存することを基準とする前記の判例を前提にしてい るように思われるが,公表それ自体の法的性質が非権力的事実行為である からか,制裁的公表の処分性を否定あるいは処分性の存在に懐疑的なもの が通説的と言えないまでも有力であ(26)る。 一方では,行政による制裁的公表の処分性の存在を肯定する旨の見解も 幾つか散見することができる。例えば,行政指導の実効性確保をするため に,これに対する不服従の場合に行われる制裁的公表は「まさにサンク ションとしての不利益公表と言ってよいであろう」として「そのような行 為を抗告訴訟の対象となり得る『処分』」と「考える余地が多分にある」 と(27)か,「制裁としての公表に対して,抗告訴訟を提起することが認められ ると解することは可能であろうが……,誤った公表がなされたことに起因 する不利益は,公表の取消しによっても十分に解消されないことが多いと 思われる」と(28)か,さらに,名誉信用等の侵害が社会的受忍限度を越える場 合には,処分の直接の効果と考えるべきとして「公表の結果社会的心理的

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に当然生ずるであろう不利益の受忍義務を考えれば公表にも法効果がある ことになる」として取消訴訟の処分性を認めるものがあ (29) る。また,「法律 上の根拠のある勧告・指導や公表も,事実行為であるが,それらを受けた ことがないことが法律上の資格要件とされていたり,勧告に従わなかった 場合には一定の不利益処分をすることが法定されていたり,勧告や公表を されたことが給付等の欠格事由とされていたりするような制度が採られた とすれば,その場合には,その勧告・指導や公表は直接法的地位に変動を 生じさせるものと認めることができるから,抗告訴訟の対象となる行為に 当たるものと解することができる」とす (30) る。これらのように実質的な公表 の制裁的あるいは侵害的な効果の存在に着目するとか,あるいはもっぱら 公表される者の救済の観点から行政の行為に処分性を認めるというような, 制裁的公表の処分性を肯定する見解は少数ではあるが,幾つか存在して い (31) る。 次に,行政による公表に対する裁判例を見るならば,過去の最高裁判決 では,公表対象を特定していない情報提供に止まるような公正取引委員会 の為した私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(いわゆる「独 占禁止法」である。)の規定に対する法令解釈を示す公表につき,公表そ のもの自体に法的効果が存しないとして処分性の存在が否定されたものが 存在す(32)る。一方では,公表対象を特定した行政による制裁的公表の処分性 の有無を争点として正面から検討した最高裁判決・決定は未だ存在してい ないように思われる。そのため,制裁的公表の処分性の有無は,それを争 点とする図表 1 のような下級審判例を中心に検討することになる。 そして,これらの下級審判例で示された判示内容としては,例えば,② は特定商取引法23条 2 項に基づく行政処分事実の公表である「業務停止命 令の公表の差止めを求める部分は,特定商取引法23条 1 項の業務停止命令 がなされた場合,これに付随してなされることが定められている事実行為 であって,それ自体は行政処分性を有するものではない」と (33) し,また,④ は介護保険法103条 2 項に基づく行政指導不服従事実の公表は「国民に対 する情報の提供であって,これにより国民の権利義務を形成し,又はその

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範囲を確定することが法律上認められているとはいえないから,行政庁の 処分その他の公権力の行使に当たる行為(行政事件訴訟法 3 条 2 項)には 当たらないというべきである。」とす(34)る。また,⑥は川崎市中高層建築物 等の建築及び開発行為に係る紛争の調整等に関する条例22条に基づく行政 指導不服従事実の公表である「本件公表は,川崎市長による調停受諾勧告 を受けた者が,同勧告に正当な理由なく応じなかったことを一般的に知ら せる行為であって,国民に対する情報提供としての側面を有する非権力的 な事実行為であり,それ自体によって,直接国民の権利義務に影響を及ぼ すとはいえず,控訴人に対し,事実上調停受諾を促す制裁的な側面が認め られるとしても,それ自体が直接法律効果を生じさせるものでない以上, 処分性があるとはいえない。」とす (35) る。これらのように,下級審判決・決 定は,制裁的公表そのもの自体の法的効果を否定することによって処分性 を否定するというものが多い。一方で,下記にて改めて詳述するように, ⑩は東京都消費生活条例50条 1 項に基づく行政指導不服従事実の公表につ いて「公表によって事業者が立たされることになる地位は,事実上のもの とはいえず,本件条例自体が意図している法的地位といえるから,本件条 例50条 1 項の規定による公表は,それによつて直接事業者の法的地位を形 成し又はその範囲を確定することが条例によって認められている行為とし て,抗告訴訟の対象となる行政処分に該当する」として公表そのもの自体 の法的効果を認めて処分性の存在を認めた (36) が,これは公表の処分性の存在 を認めたおそらく特筆すべき唯一の裁判例ではあっても例外的存在である (なお,この抗告審である⑨は,公表の処分性を否定してい (37) る。)。これら のように下級審判決・決定によって示された判示内容を検討するならば, 結論としては,制裁的公表には処分性の存在が認められ難い傾向が,下級 審判例として定着しつつあると言い得るように思われる。 そして,上記のように,行政による制裁的公表の処分性の存否に対する 学説と制裁的公表の処分性の存否を争点とする過去の判例の動向を検討す るならば,制裁的公表そのもの自体の法的性質は非権力的事実行為である ため,制裁的公表の法的効果を否定することによって処分性の存在を否定

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する傾向が大勢として定着しつつある,と総括することができるように思 われる。 3 処分性判断基準 上記のように,行政による制裁的公表の処分性に対する学説や制裁的公 表の処分性の有無を争点とする判例を概観するならば,制裁的公表に処分 性を否定する傾向が定着しつつあるが,ここでは,行政の行為の処分性に 対する1964年と2005年の最高裁によるリーディング・ケースを踏まえなが ら,制裁的公表の処分性の存否に対する判断基準を検討する。 従前の行政の行為の処分性判断の基準として,1964年のごみ焼却場設置 条例に基づく設置行為に関わる最高裁判決において,行訴法 3 条 2 項所定 の「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」とは,「公権力の主 体たる国または公共団体が行う行為のうち,その行為によつて,直接国民 の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められてい るもの」と解されているとこ(38)ろ,当該判決は抗告訴訟の対象を当該行為の 公権力性と法的効果の直接具体性によって判断するという基準を提示した ものとして,それを「従来の公式」と称されることがあ(39)る。これを以て, 行政庁の行為が一定の具体的な法的効果を発生させないような場合には, 処分性判断の理由 訴訟類型 裁判例 ・公表の処分性が否 定された裁判例 ・公表そのもの自体の法 的効果に着目 無効等確認の訴え 仮の差止めの申立て 仮の差止めの申立て 仮の差止めの申立て 差止め訴え 取消しの訴え 差止めの訴え 差止めの訴え ①東京地判平成9年10月 2 日判タ1004号257頁 ②名古屋地決平成18年 9 月25日裁判所ウェブサイト ③宇都宮地決平成19年6月18日裁判所ウェブサイト ④東京高決平成19年11月13日裁判所ウェブサイト(③の抗告審) ⑤宇都宮地判平成21年 3 月31日判例集未登載(③の本案訴訟) ⑥東京高判平成21年11月19日 D1-Law(28162417) ⑦東京地判平成29年11月21日裁判所ウェブサイト ⑧東京高判平成30年 6 月28日裁判所ウェブサイト(⑦の控訴審) ・公表後を含めた法の仕 組みにも着目 仮の差止めの申立て ⑨東京高決平成29年 7 月12日判例集未登載(⑩の抗告審) ・公表の処分性が肯 定された裁判例 ・公表そのもの自体の法 的効果に着目 仮の差止めの申立て ⑩東京地決平成29年 2 月 3 日判例集未登載 ・公表後を含めた法の仕 組みにも着目 該当なし 該当なし 図表 1 制裁的公表の処分性が争点となった下級審裁判例

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たとえ関係者に一定の事実上の不利益を与えるものであっても,一般に行 政の行為に処分性が否定される傾向にあ (40) る。 先にも述べたように,行政による制裁的公表は,制裁としての目的と機 能が認められて,社会的評価の低下やそれに伴う経済的損害等の実質的に 侵害的な効果があったとしても,公表それ自体は国民・住民に対するもの であるから,それ自体が公表される者に対して非権力的事実行為として具 体的に法的効果を有するものではない以上,それ自体によって直接的に国 民の権利義務に影響を及ぼすとまではいえないことから,制裁的公表が抗 告訴訟の対象たる処分性を有する行為と解するのは困難であるように思わ れる。また,法律や条例上の条文に基づく公表とは異なり,国の行政機関 による通達・通知等や地方公共団体の要綱のような内部規律に基づく公表 の場合には,法律や条例等の法規範に基づく行為ではないから,それらに 基づく公表に処分性の存在が認められ難いことは言うまでもな (41) い。さらに は,名誉,信用,プライバシー,経済的利益を害する公表がされた後に, その取消訴訟を提起することが可能であるとしたとしても,公表の取消し は一度失われた名誉等の回復には繋がらず,実効的救済が図れるものとは 言えないことから訴えの利益はないものと解される。また,名誉,感情や 信用等は行訴法 9 条 1 項所定の「回復すべき法律上の利益」と解されてい な(42)い。さらには,損害賠償が抗告訴訟を経ずとも直接に提起できるので, 抗告訴訟を提起する実益は乏し (43) い。これらのように,公表される者(ある いは公表されようとする者)の実効的な権利救済を図る上では,制裁的公 表に対する実質的当事者訴訟や仮処分による事前救済や,あるいは国家賠 償や名誉回復等措置による事後救済の方途を採る方が,公表に処分性を認 めて取消訴訟を含めて抗告訴訟による救済を求めることや仮の差止めを含 めた仮の救済措置を申立てることよりも,現実的な選択であるように思わ れ(44)る。 一方で,2005年の医療法30条の 7 の規定に基づく病院開設中止の勧告に 関わる最高裁判決は,「医療法上は当該勧告を受けた者が任意にこれに従 うことを期待してされる行政指導として定められているけれども,当該勧

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告を受けた者に対し,これに従わない場合には,相当程度の確実さをもっ て,病院を開設しても保険医療機関の指定を受けることができなくなると いう結果をもたらすもの」とし,「国民皆保険制度が採用されている我が 国においては,健康保険,国民健康保険等を利用しないで病院で受診する 者はほとんどなく,保険医療機関の指定を受けずに診療行為を行う病院が ほとんどなく,保険医療機関の指定を受けずに診療行為を行う病院がほと んど存在しないことは公知の事実であるから,保険医療機関の指定を受け ることができない場合には,実際上病院の開設自体を断念せざるを得ない ことになる」ということを勘案し,当該勧告の処分性の存在を肯定し (45) た。 当該判決は,行政の行為を定める法令全体や関連法令を考慮に入れて全体 の法の仕組みや行政過程の中での作用を如何に捉えるかによって処分性を 導く手法を採り,個々の行為の根拠規定を見たのみでは処分性を認められ ない行政庁による相手方への精神的作用に止まる事実行為であっても,そ れに処分性の存在が認められる可能性を示すものである。このように解す る場合には,法文の文言上は個々の行政の行為としては非権力的事実行為 であるとしても,論理的な法解釈により当該行為に処分性が認められる場 合もあることにな(46)る。ところで,行政法規の解釈に際し,当該法律の奉仕 する価値・目的を明らかにし,その上に立って,具体の条文についてどの ような解釈方法を採るのが適合的であるかを考慮しつつ,法的仕組みを明 らかにするというものであり,これを「仕組み解釈」と称されることが あ(47)る。そして,このような仕組み解釈による処分性の判断基準の在り方の 一つとしては,紛争の成熟性のアプローチがあ (48) る。これは,法の仕組みの 上でどの段階で違法を争うことが適切であるかが問われており,後の処分 を争ったのでは十分な救済が得られないような場合であれば,立法段階で は意図されていなくとも,処分性が認められる可能性を示すものであ(49)る。 もっとも,このような「仕組み解釈」によって処分性の存在を判断するよ うな場合には,行政の行為に処分性が認められるか否かは,法の仕組みか ら如何なる法的効果が生じるかへの評価や「相当程度の確実さ」のような 法的効果の具体性の如何に対する評価は条文や運用を踏えた裁判所の広汎

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な裁量判断に委ねられるから,法の解釈・適用における法的安定性の観点 からは若干の危惧を抱かざるを得ない。 そして,行政による制裁的公表の処分性を「仕組み解釈」によって判断 するならば,「公表→行政処分」のような公表後に行政処分・罰則等の不 利益を課する法の仕組みが存するような場合に(50)は,法の仕組みをどのよう に解釈するか如何では,公表の処分性が認められる可能性がある。なお, 公表そのもの自体に何かしらの法的効果があるとしても公表が為されたあ るいは公表が中止された時点の基準を以て効果は終了すると評価されたと しても,上記の「公表→行政処分」のような仕組みがある場合には,公表 に処分性の存在が認められるだけではなく,公表された者には行訴法 9 条 1 項所定の「法律上の利益」をも認められるであろうか (51) ら,このような意 味からしても,行政処分に前置される制裁的公表に対する訴えは適法なも のとして扱われるように思われる。それらのため,法律や条例に基づき, 例えば,「行政指導→公表」のように行政指導の後にその事実を公表する ような最終的に行政処分や罰則等々の公権力の行使に至らない行政過程と 異な(52)り,公表に後置された行政処分や罰則等に至るまでに「公表→行政処 分」といった法の仕組みを採る場合に(53)は,最終的に不利益な行政処分のよ うな公権力の行使に指向しながら個々の行政の行為が段階的に積み重ねら れるという行政過程と見ることができ(54)る。したがって,行政による制裁的 公表には処分性が認められ難いといえども,公表された者(あるいは公表 されようとする者)に対する実効的救済の確保の観点からは,法の仕組み として「公表→行政処分」のように公表後に措置命令等の不利益な行政処 分や罰則を科せられること等が予定されている場合であれば,制裁的公表 の段階において直接国民の権利義務その他法的地位に影響を与えるとみな して,例外的に抗告訴訟による救済が必要となり,公表に処分性が認めら れる余地が多分にあるように思われ(55)る。

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Ⅱ 2017年の「消費生活条例事件」による 2 つの下級審決定

上記のように,行政による制裁的公表は,行政機関による公の秩序に反 するような公的規制に従わない者に対して経済上の不利益を含めた社会的 制裁を国民・住民一般の反応に期待する行為であり,その法的性質は非権 力的事実行為に止まるから,公表そのもの自体には法的効果が認められ難 いから,制裁的公表の処分性に関する従前の学説・判例は公表の処分性の 存在を否定する傾向にある。一方で,法律又は条例の規定上に「公表→行 政処分」のような制裁的公表の実施後に措置命令等の不利益な行政処分, 強制措置,罰則又は給付拒否等が予定されているような法の仕組みがある 場合であれば,国民の権利利益の実効的な救済の確保の観点から,制裁的 公表に処分性が認められる余地があるように思われる。 此処までの私見に対して参考となる裁判例について,図表 1 で示すよう に,近年は,行政による制裁的公表の処分性を争点とした下級審裁判例が 幾つか存するが,これらの下級審裁判例の中で,出版物やインターネット サイト上の判例集には未登載であり,前記の前稿が2013年に発表された時 点においては,その存在を確知できずに慮外となったが,制裁的公表の処 分性の存否を争点として興味深い法学的論点を包有する2017年の 2 つの下 級審決定を「消費生活条例事件」と称して検討す (56) る。なお,下記の決定要 旨内の下線は,筆者による加筆である。 【事実の概要】 本件は,東京都知事が,投資用マンションの販売等を業とする事業者 (原告,被抗告人)に対し,平成27年10月28日付けで,事業者が消費者と 取引を行うに当たり東京都消費生活条例(以下「本件条例」という。)25 条 1 項の規定により定められた不適正な取引行為を行い同 2 項の規定に違 反したとして本件条例48条の規定による是正の勧告(以下「本件勧告」と いう。)をし,さらに,平成29年 1 月16日付けで,事業者が本件勧告に従っ

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ていないと認められるので本件条例50条 1 項の規定によりその旨の公表を することを予定している旨を記載した文書を送付した。 そこで,事業者が,東京都(被告,抗告人)に対し,行訴法37条の 5 第 2 項の規定により,東京都知事による公表の仮の差止めを求めたところ, 第一審は,東京都知事は,本案事件の第一審判決の言渡しから30日を経過 するまで,事業者が本件条例48条の規定による勧告に従わない旨の同条例 50条 1 項の規定による公表を仮にしてはならない旨の決定をしたところ, 東京都が,この第一審の決定を不服として即時抗告をした。 【 2 つの決定の判旨】 ① 第一審・東京地方裁判所平成29年 2 月 3 日決 (57) 定 「行政事件訴訟法37条の 5 第 2 項は,適法な『差止めの訴えの提起』が あることを仮の差止めの第 1 の要件としているところ,本件では,申立人 が本案事件において差止めを求めている本件条例50条 1 項の規定による公 表が抗告訴訟の対象となる行政処分に該当するか否かが争われているので, この点について検討する。(改行)抗告訴訟の対象となる行政処分とは, 公権力の主体である国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によって 直接国民の権利義務その他の法的地位を形成し又はその範囲を確定するこ とが法律又は条例によって認められているものをいうものである(最高裁 昭和39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻 8 号1809頁等参照)。(改行) これを本件条例50条 1 項の規定による公表についてみると,同項の規定は, 本件条例25条 2 項が,事業者は,消費者と取引を行うに当たり,同条 1 項 の規定により定められた不適正な取引行為を行ってはならない旨を定め, 本件条例48条が,知事は,上記の定めに違反をしている事業者があるとき は,その者に対し,当該違反をしている事項を是正するよう勧告すること ができる旨を定めていることを受けて,知事は,事業者が同条の規定によ る勧告に従わないときは,その旨を公表するものとする旨を定めているも のである。」。 「そして,本件条例25条 1 項各号は,知事が不適正な取引行為として規

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則で定めることができる行為を列挙しているところ,これらの行為は, ……いずれも消費者の利益を不当に害し,又は害するおそれの高い悪質な 取引行為というべきものであって,本件条例50条 1 項の規定による公表が なされた場合,当該事業者がこのような悪質な取引行為を行った事実,そ の結果,知事から是正の勧告を受けた事実,そうであるにもかかわらずそ の勧告にも従わなかった事実が広く都民等に周知されることとなる。これ らの事実は,公表されることによって,これを知った消費者や金融機関等 が当該事業者との取引を避けるなどすることにより当該事業者の経済的利 益に打撃を与えるとともに,その社会的信用を失わせる蓋然性が極めて高 い事実であるといえるから,このような事実を公表する行為は,それに よって当該事業者を経営上あるいは競争上不利益な地位に立たせることが 相当な確実さをもつて予測される行為であるといえる。」。 「これらの規定を全体としてみれば,これらの規定は,公表されること によって事業者を経営上あるいは競争上不利益な地位に立たせることが相 当な確実さをもつて予測される事実を,事業者が勧告に従わない場合の公 表の対象として定めているものといえるから,本件条例50条 1 項の規定に よる公表は,単に情報提供を目的とする行為としてではなく,勧告に従わ ない事業者に対する一種の制裁として,当該事業者を経営上あるいは競争 上不利益な地位に立たせるとともに,当該事業者をこれらの不利益から逃 れるために勧告に従わざるを得ない地位に立たせることによって,勧告の 実効性を確保することを目的とする行為として規定されているものと解す るのが相当である。このように解すべきことは,本件条例の前文において, 『都民の消費生活における消費者の権利を具体的に掲げ,その確立に向け て,実効性ある方策を講ずることを宣明する。』と述べられていること ……や,『不適正な取引行為に関する情報提供』が目的というのであれば, まさにその見出し……が付された本件条例27条の規定による調査の経過及 び結果の明示で足りるはずのところを,あえてこれとは別の『公表』に関 する規定が本件条例50条 1 項に置かれていることによっても裏付けられて いるというべきである。」。

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「そうであるとすれば,上述したような公表によって事業者が立たされ ることになる地位は,事実上のものとはいえず,本件条例自体が意図して いる法的地位といえるから,本件条例50条 1 項の規定による公表は,それ によって直接事業者の法的地位を形成し又はその範囲を確定することが条 例によって認められている行為として,抗告訴訟の対象となる行政処分に 該当するというべきである。」。 ② 抗告審・東京高等裁判所平成29年7月12日決(58)定 「行政事件訴訟法37条の 5 第 2 項は,差止めの訴えの提起があることを 仮の差止めの要件としているところ,同法37条の 4 第 1 項の差止めの訴え は,『一定の処分』がされる場合に提起できるものであるから,本案事件 において,相手方が差止めを求めている本件条例50条 1 項の規定による公 表が,抗告訴訟の対象となる行政処分に該当しない場合には,仮の差止め を求める要件も欠くことになる。(改行)そして,抗告訴訟の対象となる 行政処分とは,公権力の主体である国又は公共団体が行う行為のうち,そ の行為によって直接国民の権利義務その他の法的地位を形成し又はその範 囲を確定することが法律又は条例によって認められているものをいう(最 高裁昭和39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻 8 号1809頁等参照)。」。 「これを本件についてみるに,本件条例は,同25条 1 項各号において, 知事が不適正な取引行為として規則で定めることができる行為を列挙した 上,同条 2 項において,事業者は,消費者と取引を行うに当たり,同条 1 項の規定により定められた不適正な取引行為を行ってはならない旨を定め, 本件条例48条において,知事は,同25条 2 項の定めに違反をしている事業 者があるときは,その者に対し,当該違反をしている事項を是正するよう 勧告することができる旨を定めていることを受けて,本件条例50条 1 項に おいて,知事は,事業者が本件条例48条の規定による勧告に従わないとき は,その旨を公表するものとする旨を定めている。(改行)したがって, 本件条例50条 1 項の規定による公表がされると,知事が,同25条 1 項が定 める『不適正な取引行為』を同条 2 項による禁止に違反して行っている事

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業者に対し,当該違反をしている事項を『是正するよう』にとの指導・勧 告(同48条)したが,当該事業者が勧告に従わなかった旨の事実が広く都 民等に周知される効果を有するといえ,その結果,当該事業者が,経営上 あるいは競争上の不利益を受けたり,その社会的信用が低下するなどの影 響を受ける可能性が高いことは否定できない。(改行)しかし,本件条例50 条 1 項の規定による公表がされたとしても,当該事業者に対し,事業を停 止させるなど事業者の身分や権利義務に変動を生じさせるような本件条例 その他の法令等による何らかの法的措置が講じられることは予定されてお らず,公表は当該事業者に対する何らかの作為や不作為を命じるものでも なく,公表された後の不利益処分や罰則等の適用も予定されていないか ら,当該事業者は,公表によって,公表の前提となった勧告に従うことを 法的に強制されるという法的地位にあるとはいえない。(改行)仮に,本 件条例50条 1 項の規定による公表がされることにより,当該事業者が,不 利益を避けるために勧告に従わざるを得ないと考えたとしても,前記のと おり,法的な不利益処分や罰則等の適用も予定されていないことに照らせ ば,それは,当該事業者が,様々な事情を考慮した上で決定したものであ り,法的に強制されたものとはいえない。(改行)また,本件条例50条 1 項の規定による公表によって当該事業者が受ける不利益は,結局のところ, 情報の公表を受けた消費者や金融機関等が,各人の自由な意思により,公 表によって得た情報やその他の事情等に基づいて,自らの取引相手として 当該事業者を信頼することができないと判断し,当該事業者との取引を停 止するなどの行動をした結果として生じるものであるから,それは,間接 的かつ事実上の効果に過ぎず,公表そのものによって直接的に生じる法的 効果とはいえない。」。 「この点,行政指導である医療法30条の 7 の規定に基づく都道府県知事 の勧告について,同勧告は抗告訴訟の対象となる行政処分に該当すると判 示している最高裁の判決がある(最高裁平成17年 7 月15日第二小法廷判 決・民集59巻 6 号1661頁,最高裁平成17年10月25日第二小法廷判決・裁判 集民事218号91頁)。これらの判決は,行政処分の性質をもたない都道府県

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知事の勧告であっても,他の行政行為と相互に組み合わされることによっ て構築された仕組みの全体を視野に入れると,各行為が新たな意味と機能 を持つ場合には,行政指導でも抗告訴訟の対象となると判断したと解され るが,前記のとおり,本件条例50条 1 項の規定による公表は,一定の事実 を示して都民に情報を提供するという事実行為であり,これが他の行政行 為と相互に組み合わされることにより,相手方の法律上の地位ないし権利 義務に具体的な影響を及ぼすというものではない。本件条例50条 1 項の規 定による公表によって,相手方が顧客,金融機関等から取引を停止される などの結果,営業ができなくなることがあるとしても,それによって相手 方が被るのは事実上の営業上の不利益であり,この公表は,直接相手方の 権利義務を形成したりその範囲を確定するものではない。(改行)前記判 決を踏まえても,本件条例50条 1 項の規定による公表は,抗告訴訟の対象 となる行政処分に該当するとはいえない。」。 「なお,本件条例50条 1 項の規定による公表は,当該事業者が本件条例 25条 1 項に定める不適正な取引行為を行い,その結果,知事から是正の勧 告を受けたが,その勧告に従わなかったという要件とあいまって,公表に よって,当該事業者が営業上の不利益を受ける可能性が高いことは否定で きないのは前記のとおりである。そうであるとしても,本件条例は,前文 において,『東京都は,消費者と事業者とは本来対等の立場に立つもので あるとの視点から,事業活動の適正化を一層推進するとともに,消費者の 自立性を高めるための支援を進める』,『都民の消費生活における消費者の 権利を具体的に掲げ,その確立に向けて,実効性ある方策を講ずることを 宣明する。』と規定し,第 1 条において,確立されるべき具体的な消費者 の権利として『消費生活を営むために必要な情報を速やかに提供される権 利』と規定していること,本件条例には,公表の前提となる勧告をする際 に当該事業者に意見陳述及び証拠提出の機会を与えるよう本件条例49条で 定めるほかには,公表の手続や公表に対する不服申立ての方法等について 何らの規定も置かれていないことを併せ考えると,本件条例50条 1 項の規 定による公表は,本件条例27条とあいまって,事業者と対等な立場に立つ

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べき消費者の自立性を高めるために,『消費生活を営むために必要な情報 を速やかに提供される権利』を確立する目的で規定されたものというべき であって,公表することの主たる目的は,都民に対する一定の事実の情報 提供にあり,公表が主として,事業者に対して制裁を与えることにより勧 告の実効性を確保することを目的とするものと解することはできず,本件 条例が,同50条 1 項の規定による公表について,これを抗告訴訟の対象と なる処分として規定した,すなわち,それによって直接事業者の権利義務 その他の法的地位を形成し又はその範囲を確定することを認めたものとは 解されない。」。 「以上によれば,本件は,行政事件訴訟法37条の 5 第 2 項の前提となる 適法な差止めの訴えの提起があったとは認められないから,その余の点に ついて判断するまでもなく,本件申立ては理由がない。」。 【解説】 本件にかかわる東京都消費生活条例の概要は,本件条例25条 1 項は,東 京都知事は,事業者が消費者との間で行う取引に関して,一定の行為を, 不適正な取引行為として規則で定めることができる旨を定め,同 2 項は, 事業者は,消費者と取引を行うに当たり,同条 1 項の規定により定められ た不適正な取引行為を行ってはならない旨を定める。本件条例26条は,知 事は,本件条例25条 1 項に定める不適正な取引行為が行われている疑いが あると認めるときは,その取引の仕組み,実態等につき必要な調査を行う ものとする旨を定め,本件条例27条は,知事は,不適正な取引行為による 被害の発生及び拡大を防止するため必要があると認めるときは,本件条例 26条の規定による調査の経過及び結果を明らかにするものとする旨を定め る。また,本件条例48条は,知事は,本件条例25条 2 項の規定に違反をし ている事業者があるときは「その者に対し,当該違反をしている事項を是 正するよう指導し,及び勧告することができる」旨を定め,本件条例50条 1 項は,知事は,事業者が本件条例48条の規定による「勧告に従わないと きは,その旨を公表するものとする。」旨を定める。

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そこで,まずは本件の第一審を検討するならば,第一審の決定は,ごみ 焼却場設置条例に基づく設置行為に関わる最高裁判決による「従来の公 式」を踏襲することを明示した上で,「本件条例50条 1 項の規定による公 表は,単に情報提供を目的とする行為としてではなく,勧告に従わない事 業者に対する一種の制裁として,当該事業者を経営上あるいは競争上不利 益な地位に立たせるとともに,当該事業者をこれらの不利益から逃れるた めに勧告に従わざるを得ない地位に立たせることによって,勧告の実効性 を確保することを目的とする行為として規定されているものと解するのが 相当である」とし,さらに「公表によって事業者が立たされることになる 地位は,事実上のものとはいえず,本件条例自体が意図している法的地位 といえる」と評価して,公表による制裁を本件条例が意図する法的なもの であるとして,公!表!そ!の!も!の!自!体!が!有!す!る!公!表!か!ら!生!じ!る!不!利!益!を!法!的!効! 果!として捉まえて,そのような本件条例50条 1 項に基づく公表の処分性の 存在を肯定したものである。 次に,本件の抗告審を検討するならば,抗告審の決定は,第一審と同様 に「従来の公式」を踏襲することを明示した上で,「本件条例50条 1 項の 規定による公表がされたとしても,当該事業者に対し,事業を停止させる など事業者の身分や権利義務に変動を生じさせるような本件条例その他の 法令等による何らかの法的措置が講じられることは予定されておらず,公 表は当該事業者に対する何らかの作為や不作為を命じるものでもなく,公 表された後の不利益処分や罰則等の適用も予定されていないから,当該事 業者は,公表によって,公表の前提となった勧告に従うことを法的に強制 されるという法的地位にあるとはいえない」とし,さらに「公表は,一定 の事実を示して都民に情報を提供するという事実行為であり,これが他の 行政行為と相互に組み合わされることにより,相手方の法律上の地位ない し権利義務に具体的な影響を及ぼすというものではない」として,公表と 本件条例の仕組みから見て,公!表!そ!の!も!の!自!体!の!法!的!効!果!を!否!定!す!る!とと も(59)に,加えて,医療法に基づく勧告に関わる最高裁判決による「仕組み解 釈」に言及して「本件条例50条 1 項の規定による公表は,一定の事実を示

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して都民に情報を提供するという事実行為であり,これが他の行政行為と 相互に組み合わされることにより,相手方の法律上の地位ないし権利義務 に具体的な影響を及ぼすというものではない」として,本件条例の仕組み から見て,公!表!が!行!政!処!分!や!罰!則!等!に!前!置!さ!れ!て!い!な!い!ことから,この公 表の処分性の存在を否定したものである。第一審及び抗告審の両決定にお いて,公表の処分性の存在の有無に対する争点に対する判断の差異が生じ たのは,第一審の決定が「従来の公式」の立場から行政指導不服従事実の 公表に法的効果を見出して当該公表に処分性の存在を認めた点に対し,一 方では抗告審の決定は公表に法的効果が存在しないとしたことに加え (60) て, 「公表→行政処分」という法の仕組みが無いことにも着目して公表の処分 性の存在を否定したところにある。 上記のように,第一審の決定は「従来の公式」を前提としつつも,公表 されれば社会的評価の低下に伴う人格権への侵害や社会的排除を通じた経 済的不利益を含めた何かしらの不利益効果があると一般的感覚からすれば 思料するであろうことや,過去の行政の行為によって名誉・信用毀損が生 じるような場合にはそれを以て法的利益が侵害されたとする幾つかの少数 の下級審判例を前提にするなら(61)ば,本件条例50条 1 項に基づく公表に処分 性の存在を認めることは一見して的外れな判断とは言えないが,公表の法 的効果の存在を否定してきた下級審判例による先例と異なると評価できる。 その一方で,抗告審の決定は,公表そのもの自体の法的効果を否定して 「従来の公式」から公表の処分性の存在を否定するとともに,これまでの 公表の処分性を争点とした下級審判例では十分に検討されて来なかった 「仕組み解釈」にも目配りした上で,公表が行政処分や罰則等が予定され るような「公表→行政処分」といった法の仕組みが存しない公表の処分性 の存在を否定したものであるから,行政の行為に対して従前の最高裁が示 してきた処分性の判断基準に関わる双方の判例に拠るものであり,判例に よる法令解釈上の法的安定性の観点から堅実な判断をしたものと評価でき る。 加えて,第一審は公表の目的を本件条例48条に基づく「勧告に従わない

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事業者に対する一種の制裁」であるとする(62)が,一方で,抗告審は公表の主 たる目的を「情報提供」であることを公表の処分性を否定する理由の一つ とする。これまでの公表の処分性の存否が争われた図表 1 の下級審判決・ 決定の中にも,公表の目的が情報提供であることを理由にして争点となっ た公表の処分性を否定しているものがあるか(63)ら,公表の目的を以て処分性 の存否を論じること自体は別段目新しい視点ではない。しかしながら,公 表の目的を制裁か情報提供であるかとして,条文上の外形等から明確に区 分することは困難であ(64)り,これらの区分に対する判断は個々の判決・決定 ごとの法令解釈によって左右されることは容易に想像できるところ,これ は本件の第一審と抗告審においてこの判断が分かれたことによって象徴さ れた。このように,公表の目的を明確に区分することは困難であるから, 公表の目的からだけで処分性の有無を検討するだけではなく,公表による 実質的な侵害となる制裁的な機能にも着目して具体的な法的効果を検討す ることが必要であると思われる。そして,本件条例50条 1 項に基づく公表 について見れば,公表による制裁的ないし侵害的な効果があったとしても, それは公表される者(あるいは公表されようとする者)には具体的な法的 効果とまでは言えないから,本件条例50条 1 項に基づく公表には処分性を 認めることは困難である。 ところで,本件の第一審及び抗告審による 2 つの決定の判例としての直 接的な射程距離としては,①本件と同様に本件条例50条 1 項に基づく公表 の処分性が争点となる事案に及ぶことは当然として,加えて,②本件条例 50条 2 項に基づく公表を含めて他の法律や条例に基づく行政指導不服従事 実の公表の処分性を争点とする事案,さらには,③上記の②の行政指導不 服従事実の公表の処分性を争点とする事案だけではなく,上記Ⅰの 1 にお いて挙げたような,「義務違反事実の公表」,「行政処分事実の公表」ある いは「行政指導事実の公表」のような他の種類の公表の処分性が争点とな る事案であっても,「公表→行政処分」というような行政処分や罰則等と いった相手方の法律上の地位ないし権利義務に具体的な影響を及ぼす公権 力的な行為に公表が前置されている法の仕組みが存しないような同様な場

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合において,そこでの公表に処分性が争点となる事案の全般に及ぶと解さ れる。 なお,本件は事業者が消費者と取引を行うに当たり本件条例25条 1 項所 定の不適正な取引行為を行い同条 2 項の規定に違反したことのみを本件勧 告が為された理由とするから,本件の第一審と抗告審では争点とはならず に検討されることはなかったが,本件条例51条 1 項柱書は東京都「知事は, 消費者被害の拡大防止のため特に必要があるものとして別表に定める取引 について,次の各号のいずれかに該当するときは,その事業者に対し,1 年以内の期間を限り,契約の締結について勧誘すること又は契約を締結す ることを禁止することを命ずることができる。」とし,同項 1 号は「前条 の規定による公表をされた後において,なお,正当な理由がなくてその勧 告に係る措置をとらず,第25条の2の重大不適正取引行為をしたとき。」 を挙げていることからすれば,本件で問題となった本件条例25条 1 項所定 の「不適正な取引行為」に該当する行為とは,本件条例25条の 2 所定の相 対的に悪質性の高い「重大不適正取引行為」を包摂する行為であるから, 本件条例48条に基づく本件勧告の趣旨が本件条例25条の 2 にも該当する違 反行為の是正を促す内容であったとすれば,「公表→行政処分」が予定さ れていたと言い得るから,「仕組み解釈」の観点から処分性の拡大を検討 するならば,公表の段階において不利益処分を受ける蓋然性が認められる として,本件条例50条 1 項に基づく公表に処分性が生じる余地はあっ (65) た。 もちろん,ここで検討した東京都における「消費生活条例事件」による 2 つの決定は,2017年に判じられた比較的に新しい裁判例であることや, さらに商用あるいは公的な判例集に未登載の裁判例であることから,判例 としての波及効果が如何程かは計り難いが,本件条例50条 1 項に基づく公 表の運用や,今後の行政による制裁的公表の処分性の存否や判断基準への 考察を加える上では,格別に参考となる事例と位置付けられる。

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Ⅲ 制裁的公表の処分性に対する考察

ここでは,上記の検討を踏まえて,処分性の拡大による国民の権利利益 の実効的な救済の確保の観点から,これまでの検討を踏まえながら行政に よる制裁的公表の処分性の存否に対する過去の判例の傾向に対する再検討 をするとともに,今後の公表を含めた法の仕組みへの示唆として,公表の 処分性を意識した法の仕組みの構築の必要性を考察することにしたい。 1 判例の傾向に対する再検討 図表 1 の①ないし⑨の行政による制裁的公表の処分性の存否が争点と なった下級審判決・決定の中で問題となった,川崎市中高層建築物等の建 築及び開発行為に係る紛争の調整等に関する条例22条 1 (66) 項,介護保険法 103条 2(67)項,特定商取引法23条 2(68)項,東京都消費生活条例50条 1 項のよう(69)に, 行政による公表を定めた法律又は条例等のそれぞれの条文の文理的内容は, 個々の字義的にはいずれも行政指導不服従者や処分対象者の氏名等を内容 とする一定事実の公表を実施する旨が規定されているに止まり,行政行為 や権力的事実行為と同等な権力的法行為を規定しているものではない故に, これらの規定に基づく個々の公表そのもの自体には具体的な法的効果を見 出すことはできない。そのため,図表 1 の①ないし⑨の下級審判決・決定 は,公権力性と具体的法的効果の有無を問題とする「従来の公式」による 処分性の判断基準を踏襲しつつ,それぞれの公表を定める法律や条例の規 定を手掛かりにすることにより,公表に伴う具体的な法的効果の発生が予 定されていないことを理由に,制裁的公表の処分性の存在を否定したもの である。一方で,図表 1 の⑩の下級審決定は,その他と同様に「従来の公 式」に拠りつつも,東京都消費生活条例50条 1 項に基づく公表そのもの自 体の法的効果を論理的に認めた上で公表の処分性の存在を認めたことは特 異な裁判例であった。これらのように,従前の制裁的公表の処分性を争点 とする判例の動向としては,公表の処分性を認めた図表 1 の⑩のような例

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外がありつつも,公表そのもの自体に具体的な法的効果が存しないことか ら処分性を認めないというものが,現時点における大勢であると評価する ことができる。 一方では,図表 1 の⑨の下級審決定は,図表 1 の①ないし⑧の下級審判 決・決定と同様に,行政による公表に処分性は存しないと結論付けたが, しかしながら,⑨の下級審決定は「仕組み解釈」をも処分性の判断基準と して公表の処分性を論理的に判断したものであり,東京都消費生活条例に は公表に後置された行政処分や罰則等に至る「公表→行政処分」というよ うな法の仕組みが存するかどうかを吟味して公表の処分性を判断しようと 踏み込んだ点は,従前の下級審判決・決定の傾向には無かった先駆的なも のであると評価することができる。 以上から,これらの行政による制裁的公表の処分性の有無を争点とした 下級審判決・決定よる判例傾向を再検討するならば,(ア)制裁的公表その もの自体には法的効果は認められ難いから「従来の公式」からした場合に は,制裁的公表が非権力的事実行為であるから法的効果は認められないが ために処分性の存在は認められないことは,判例傾向としてほぼ確定的で あるように思われる。一方では,(イ)法律や条例の全体の仕組みを検討す る「仕組み解釈」の判断基準から処分性の存在を判断した場合には,法律 又は条例上に公表後に行政処分や罰則等が後置されているような「公表→ 行政処分」といった法の仕組みがあるのであれば,処分性拡大による国民 の権利利益のより実効的な救済の観点からは,公表に処分性の存在が認め られる余地があるということになる。 そこで,本稿の検討を踏まえて,行政による制裁的公表の処分性の存否 について述べるならば,制裁的公表は,行政機関による公の秩序に反する ような公的規制に従わない者に対して経済上の不利益を含めた社会的制裁 を国民・住民一般の反応に期待する行為であるから,公表される者に対す る制裁的な効果があるとしても,その侵害的効果及び侵害のおそれは,国 民・住民一般の反応に起因するものであるから,公表そのもの自体には具 体的な法的効果があるとまでは言えないように思われる。そのため,上記

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(ア)は,「行政指導→公表」という公表が最終的な行為となっているよう な行政過程を採る法の仕組みに止まる場合には,公表そのもの自体による 侵害的効果及び侵害するおそれは,国家賠償や民事訴訟等を通じて事前 的・事後的な司法的救済を図ることが可能であるから,公表に処分性を強 いて認める必要までは無いように思われる。このような一方で,上記(イ) については,公表される者(あるいは公表されようとする者)の実効的救 済の観点からして,「公表→行政処分」とする法の仕組みがある場合には, 公表に後置された行政処分や罰則等による法的な不利益を回避するために, 公表の処分性が存することを拒む必要は無いように思われるから,公表さ れる者(あるいは公表されようとする者)には,公表に処分性を認めて訴 えを適法なものとしてもよいように思われる。 もちろん,行政による制裁的公表に処分性が認められるような場合には, 行訴法上の司法的救済や行政不服審査法上の申立てが適法になることを意 味する一方で,このような法の仕組みから見て当該公表は最終的な行政処 分に至るまでの段階的な行政手続の過程途上に位置付けられることから, 当該公表は特別の法の仕組みに基づく行為として,公表の違法性を争う方 途が行訴法上の抗告訴訟や仮の差止め等の仮の救済措置に制限され,また 厳格な出訴期間の制限があることに加えて,公表は「公権力の行使」(行 訴法 3 条,同44条)に該当するから,行訴法44条との抵触の問題が生じて, 仮処分の保全手続を利用することはできないことに注意しなければならな い。 2 処分性を意識した法の仕組みの構築の必要性 上記Ⅱにおいて検討したように,2017年の東京都における「消費生活条 例事件」の図表 1 の⑩の抗告審の決定は,東京都消費生活条例上の規定を 手掛かりに処分性拡大の「仕組み解釈」を処分性の判断基準として用いな がらも,結果としては公表の処分性の存在を否定したものであるが,逆に 言うならば「公表→行政処分」の法の仕組みがあれば公表の処分性が認め られる可能性を示した裁判例であると解することができる(少なくとも,

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