氏 名 鈴 木 孝 子 学位(専攻分野の名称) 博 士(食品栄養学) 学 位 記 番 号 甲 第 714 号 学 位 授 与 の 日 付 平成 28 年 3 月 20 日 学 位 論 文 題 目 亜鉛過不足食投与時における骨代謝機構に関する研究 論 文 審 査 委 員 主査 教 授・博士(生物環境調節学) 松 﨑 広 志 教 授・医 学 博 士 田 中 越 郎 教 授・博 士 (農 学) 服 部 一 夫 医 学 博 士 鈴 木 和 春* 論 文 内 容 の 要 旨 亜鉛(Zn)は必須微量元素の一つであり,300 種類以 上の酵素に含有され,生命活動において重要な役割を果 たしている。Zn 欠乏は鉄(Fe),ビタミン A,ヨウ素, 葉酸の欠乏とともに,特に発展途上国において大きな栄 養問題とされている。また近年,我が国のような先進国 においても精製食品や加工食品の摂取量の増加,偏食や ダイエット食による Zn 不足が問題となりつつある。Zn の 1 日推奨量(日本食事摂取基準 2015 年版)は,成人 の 男 性 10mg,女 性 8mg(妊 婦・授 乳 婦 は,+2∼3 mg)と定められている。しかし,2013 年の国民健康・ 栄養調査によれば,通常食品からの Zn 摂取量は,成人 男性が平均 8.8mg,成人女性が平均 7.2mg であり, 2015 年版の推奨量を充足していない。また,2003∼ 2005 年に日本で行われた血清学的 Zn 過不足の調査で, Zn 欠乏と推定される人が約 20%,潜在的欠乏と推察さ れる人が約 10% いることが報告されている。飽食の時 代と言われる現代においては,Zn 摂取不足による欠乏 症が起こりえないと信じられてきたが,このように Zn 不足による Zn 欠乏症が存在することが広く認知される ようになってきた。 Zn は欠乏すると皮膚炎,脱毛,発育不全,下痢,貧 血,免疫不全と多岐に渡る症状を引き起こす。また Zn は骨形成に関与する酵素に含有されることから,その欠 乏症として骨粗鬆症が存在する。骨の恒常性は,破壊と 形成による動的なバランスにより保たれている。この再 構築は骨リモデリングと呼ばれ,骨を維持し生命維持に 必須なミネラル代謝を制御している。Zn は骨芽細胞形 成 遺 伝 子 で あ る Runt-relatedtranscription factor 2 (Runx2)や Alkaline phosphatase(ALP)の発現を誘 導し骨形成を促進する作用と破骨細胞特異的遺伝子であ る Tartrate-resistant acidphosphatase(TRAP)や Cathepsin K の発現を阻害し骨吸収を抑制する作用を有 することが報告されている。しかし Zn 欠乏食投与によ る骨代謝に対する詳細な作用機構は明らかではない。 また Zn はその欠乏が問題視されている一方,欧米や 日本において,健康食品として Zn 強化食品やサプリメ ントの普及による過度の Zn 摂取が懸念されている。し かしながら,過度な Zn 摂取による骨代謝への影響を報 告しているものはない。以上のことを踏まえて,本研究 では Zn 過不足食投与による骨代謝機構を解明すること を目的とした。 実験 1 Zn 欠乏食投与による骨中ミネラル代謝への影 響 被験動物には 4 週齢の Wistar 系雄性ラットを用い, 3 日間の馴化試験後,正常食(C)群(Zn : 30.0mg/kg) 及び Zn 欠乏食(ZD)群(Zn : 1.0mg/kg)は自由摂取 させ,制限食(PF)群は ZD 群と等量の正常食(Zn : 30.0mg/kg)を与えた。4 週間の飼育観察後,解剖を行 い,大腿骨の摘出及び採血を行った。飼育終了前 3 日間 の糞を採取し見かけの Ca 吸収率を算出した。解剖時に 摘出した大腿骨中ミネラル量(Zn,Ca,Mg,P)及び 骨密度を測定した。さらに,血清及び 24 時間蓄尿を用 いて,骨代謝マーカー(オステオカルシン(OC),Ⅰ型 コラーゲン C テロペプチド(CTx))を測定した。また 血清中 Zn,Ca,パラソルモン(PTH)濃度を測定し た。 その結果,Zn 欠乏食投与において成長遅延及び血清 中 Zn 濃度の顕著な低下が確認された。骨中 Zn,Ca, P 量は他の 2 群に対し ZD 群で有意に低値を示した。一 方,骨中 Mg 量は C 群に対し ZD 群で有意な差は見ら れなかったが,PF 群に対し ZD 群で有意に高値を示し *仁愛大学人間生活学部健康栄養学科 教授
た。また骨密度は他の 2 群に対し ZD 群で有意に減少し た。これらのことから,Zn 欠乏食投与は Zn,Ca,P 量を低下させることで骨密度を減少させることが明らか となった。骨形成マーカーである血清中 OC 値は他の 2 群に対し ZD 群で有意に低値を示し,一方,骨吸収マー カーである尿中 CTx 値は他の 2 群に対し ZD 群で有意 に高値を示した。In vitro の研究において Zn 欠乏は骨 芽細胞形成遺伝子である Runx2 や ALP の発現を抑制 し,骨形成を低下させることが報告されている。そのた め,Zn 欠乏食投与による骨形成の低下は Zn の不足が 直接的に関与していると推測される。一方,血清中 Ca 濃度及び見かけの Ca 吸収率は他の 2 群に対し ZD 群で 有意に低値を示した。さらに Ca 調節ホルモンである血 清中 PTH 濃度は他の 2 群に対し ZD 群で有意に高値を 示した。PTH は血清中 Ca 濃度の制御において重要な 働きをしており,血清中 Ca 濃度の減少に伴い,分泌が 促進され,骨からの Ca を放出させることで血清中 Ca 濃度を維持する方向に働く。つまり Zn 欠乏食投与によ る血清中 Ca 濃度の低下に伴い PTH の分泌が促進され, 骨中 Ca 量の減少が引き起こされることが示唆された。 また骨において PTH は骨芽細胞に存在する破骨細胞分 化・形成刺激分子である Receptor for activator of NF-kB ligand(RANKL)及び Macrophage colony-stimu-lating factor(M-CSF)を誘導し骨吸収を促進すること が知られている。以上のことから,Zn 欠乏食投与は直 接的に骨形成を抑制し,血清中 Ca 濃度の低下に伴う PTH 分泌過多を介し,間接的に骨吸収を促進すること が示唆された。 実験 2 Zn 欠乏食投与による骨中過酸化脂質反応への 影響 実験 1 において Zn 欠乏食投与が主要元素である Ca に影響を及ぼすことが明らかとなった。一方で Zn は微 量元素の一つである Fe と拮抗することが知られてお り,Zn 欠乏食投与により肝臓,精巣といった臓器にお いて Fe が蓄積することが報告されている。また,この Zn 欠乏による Fe 蓄積は酸化ストレスの亢進を引き起 こすことが示唆されている。さらに骨代謝において酸化 ストレスの亢進は骨形成を抑制し,骨吸収を促進するこ とが知られている。そこで実験 2 では Zn 欠乏食投与に よる骨中 Fe 量及び過酸化脂質反応への影響について明 らかにすることを目的とした。被験動物,飼料組成,飼 育期間及び解剖は,実験 1 と同様に行った。解剖時に採 取した大腿骨を用いて,Fe 量,2-チオバルビツール酸 反応性物質(TBARS),抗酸化酵素群としてグルタチオ ンレダクターゼ(GR),グルタチオンペルオキシダーゼ (GPx)を測定した。 その結果,Zn 欠乏食投与により骨中 Fe 量及び骨中 TBARS 値が増加することが明らかとなった。またこれ ら二つの間には正の相関関係が見られた(r=0.757 ; p<0.001)。一方,抗酸化酵素である骨中 GR,GPx 活 性は全群間で有意な差は見られなかった。これらのこと から,Zn 欠乏食投与による骨中 Fe 蓄積が酸化ストレ スの亢進を引き起こしていることが示唆された。 さら に酸化ストレスの亢進は骨形成を抑制し,骨吸収を促進 することが知られている。そのため,Zn 欠乏食投与に より引き起こされる骨中 Fe 蓄積に伴う酸化ストレスの 亢進も間接的に骨代謝異常に関与している可能性があ る。 実験 3 Zn 欠乏食投与による骨代謝及び酸化ストレス 反応関連遺伝子の mRNA 発現量の変動 Zn 欠乏食投与によるミネラル変動を介した骨代謝異 常を解明するために実験 3 では,real-time PCR 法を用 い様々な骨代謝及び酸化ストレス関連遺伝子の発現変動 について解析を行った。また実験 1 及び 2 の結果におい て,Zn 欠乏食投与による骨中 Zn 量の顕著な減少が示 されており,この Zn 不足が骨形成の抑制に直接的に関 与している可能性があると考えている。Zn 輸送体は細 胞内に Zn を取り込む 14 種類の Slc39a(Zip)と細胞外 に Zn を排出する 9 種類の Slc30a(ZnT)が存在するこ とが報告されており,Zn の恒常性を維持するのに重要 な役割を担っている。 そこで Zn 欠乏食投与による Zn 輸送体(Zip1,Zip13,Zip14,ZnT5,ZnT7)への影響 についても検討した。さらに Zn 欠乏食投与により骨中 Fe 量の著しい増加が観察されていることから Fe 輸送 体への影響があると考え,それらの発現量の変動につい ても解析を行った。被験動物,飼料組成,飼育期間及び 解剖は,実験 1 と同様に行った。大腿骨中骨代謝,酸化 ストレス反応関連遺伝子及び Zn,Fe 輸送体の mRNA 量は real-time PCR 法にて測定した。各 mRNA 量は b-actin の mRNA 量で補正した後,C 群を 1 として相対 的に算出した。 Zn 欠乏食投与による骨中 Zn 輸送体の mRNA 量は全 群間で有意な差は見られなかった。Zn 欠乏食投与によ る骨中 Zn 量は 1 週間で有意に減少するという報告もあ り,骨中 Zn 輸送体の mRNA 量の変動は,実験 1∼3 で 設けた飼育期間よりも早い段階で生じている可能性があ る。次に骨芽細胞関連遺伝子である Bone morphoge-netic protein 2(BMP2),Runx2,Osterix 及び骨形成
関連因子である ALP,Osteocalcin,Collagen type I a 1(Col1a1)の mRNA 量は他の 2 群に対し ZD 群で有 意に低値を示した。BMP2 は Runx2 の上流に存在し Osterix は Runx2 の下流に存在しており,ALP,Oste-ocalcin,Col1a1 といった骨形成関連因子の発現を誘導 することが知られている。したがって,Zn 欠乏食投与 は BMP2 の発現の低下による Runx2 及び Osterix の発 現の減少を引き起こし,骨形成を抑制することが明らか となった。また,酸化ストレスの亢進により Runx2 や ALP の発現が低下することが報告されていることから, Zn 欠乏食投与による骨形成の抑制に酸化ストレスの亢 進が関与している可能性が示された。 一方,PTH により誘導される破骨細胞分化因子であ る RANKL 及び M-CSF の mRNA 量は他の 2 群に対し ZD 群で有意に高値を示した。また M-CSF は破骨細胞 膜上にある受容体 Macrophage colony-stimulating fac-tor recepfac-tor(c-Fms)と結合し,前駆破骨細胞の生存 に重要な働きを示し,RANKL とともに破骨細胞の分化 誘導をすることが知られている。そこで c-Fms の mRNA 量を測定したところ,他の 2 群に対し ZD 群で有意に増 加した。 また RANKL は破骨細胞膜上に存在する Re-ceptor for activator of NF-kB(RANK)と結合し,破 骨細胞の分化・成熟を誘導する。RANKL と結合した RANK は Tumor necrosis factor receptor-associated factor 6(TRAF6)あるいは c-Fos を介し,破骨細胞分 化のマスターレギュレーターとして知られる Nuclear factor of activatedT cells cytoplasmic 1(NFATc1)に 作用し Cathepsin K,TRAP といった骨吸収に関わる 破骨細胞特異的遺伝子を誘導する。そこで TRAF6,c-Fos,NFATc1,Cathepsin K,TRAP の mRNA 発現量 を測定した結果,他の 2 群に対し ZD 群で有意に高値を 示した。これらのことから,Zn 欠乏食投与は PTH の 分泌増加による M-CSF 及び RANKL の発現誘導を介し た骨吸収の促進を引き起こすことが示唆された。 実験 2 において Zn 欠乏食投与による骨中 Fe 蓄積に 伴う酸化ストレスの亢進を見出している。そこで Zn 欠 乏食投与による Fe 輸送体である Divalent metal trans-porter 1(DMT1)及び Ferroportin(FPN)の mRNA 量を測定したところ,Fe の細胞内への取り込みを担う DMT1 の mRNA 量は他の 2 群に対し ZD 群で有意に低 値を示した。一方,Fe の細胞外への排出を担う FPN の mRNA 量は他の 2 群に対し ZD 群で有意に高値を示 した。したがって,Zn 欠乏食投与により骨に蓄積した Fe に対し生体が反応し,細胞内に Fe をこれ以上取り 込まずに排出する方向に働いていることが示唆された。
次に炎症性サイトカインである Tumor necrosis factor-a(TNF-a),Interleukin-1b(IL1b)の mRNA 量を解 析した結果,TNF-a,IL1b の mRNA 量は他の 2 群に 対 し ZD 群 で 有 意 に 増 加 し た。TNF-a,IL1b は M-CSF 及び RANKL 発現を誘導し骨吸収を促進する働き がある。そのため Zn 欠乏食投与による酸化ストレスの 亢進により TNF-a 及び IL1b の発現量が増加し,それ らが M-CSF 発現及び RANKL-RANK シグナルを誘導 することで骨吸収を促進させることが示唆された。さら に TNF-a は Tumor necrosis factor receptor- associ-atedfactor 2(TRAF2)と複合体を形成し,RANKL を 介さずに骨吸収を促進する作用がある。本実験において TRAF2 の mRNA 発現量は他の 2 群に対し ZD 群で有 意に高値を示した。このことから,Zn 欠乏食投与によ り誘導された TNF-a は RANKL 依存的だけではなく, RANKL 非依存的に骨吸収を促進している可能性がある と示唆された。
酸化ストレスの亢進は高い Reactive oxygen species (ROS)の産生と抗酸化物質による防御反応の不均衡に より発生する。そこで抗酸化物質の mRNA 発現量を測 定した。Manganese-superoxide dismutase(Mn-SOD) の mRNA 発現量は全群間で有意な差は見られなかった が,Cu/Zn-SOD の mRNA 発現量は他の 2 群に対し ZD 群で有意に低値を示した。また抗酸化作用を有する Zn 結 合 タ ン パ ク 質 で あ る Metallothionein 1(Mt1a), Metallothionein 2(Mt2A)の mRNA 量は他の 2 群に 対し ZD 群で有意に低値を示した。一方,GR,GPx の mRNA 発現量は全群間で有意な差は見られなかった。 以上のことから Zn 欠乏食投与による酸化ストレスの亢 進に伴う TNF-a 及び IL1b の発現量の増加が M-CSF の発現や RANKL-RANK シグナルを刺激し,骨吸収の 促進を引き起こすことが明らかとなった。また Zn 欠乏 食 投 与 に よ る 抗 酸 化 能 を 有 す る Mt1a,Mt2A,Cu/ ZnSOD の発現量の低下も酸化ストレスを増強させてい る一因であることが示唆された。 実験 4 Zn 添加食投与による骨代謝への影響 これまでの実験より Zn 欠乏食は Zn が欠乏するだけ ではなく,他のミネラルの変動を介し,間接的に骨代謝 異常を引き起こすことが明らかとなった。このように Zn の重要性が示された一方,サプリメントによる Zn の過剰摂取が懸念されている。そこで次に Zn を添加し た食餌をラットに与えた際に骨代謝に対しどのような影 響を及ぼすか検討した。被験動物には 4 週齢の Wistar 系雄性ラットを用い,3 日間の馴化試験後,正常食(C)
群(Zn : 30.0mg/kg),高 Zn 食(HZ)群(Zn : 300.0mg/ kg)と Zn 過剰食(EZ)群(Zn : 3000.0mg/kg)の 3 群 に分け,4 週間の飼育を行った。解剖時に摘出した大腿 骨中ミネラル量(Zn,Ca,Mg,P)及び骨密度を測定 した。さらに,血清を用いて,Zn 濃度及び骨代謝マー カー(OC,CTx)を測定した。また大腿骨中骨代謝関 連遺伝子及び Zn,Fe 輸送体の mRNA 量は real-time PCR 法にて測定した。各 mRNA 量は b-actin の mRNA 量で補正した後,C 群を 1 として相対的に算出した。 その結果,飼料摂取量及び最終体重は C 群に対し HZ 群で有意な差は見られなかったが,EZ 群で有意に低値 を示した。また血清中 Zn 濃度及び骨中 Zn 量は飼料中 Zn 添加量に依存して増加し,C,HZ 群に対し EZ 群で 有意に高値を示した。また骨量,骨の長さ,骨面積は C 群に対し HZ 群で有意な差は見られなかったが,他の 2 群に対し EZ 群で有意に低値を示した。一方,骨密度は C 群に対し HZ,EZ 群で有意に低値を示し,HZ 群に対 し EZ 群で有意に低値を示した。骨中 Ca,P 量は C 群 に対し HZ 群で有意な差は見られなかったが,C,HZ 群に対し EZ 群で有意に低値を示した。また骨中 Mg 及 び Fe 量は C 群に対し HZ,EZ 群で有意に低値を示し, HZ 群に対し EZ 群で有意に低値を示した。このことか ら Zn 過剰食投与は,成長を抑制し,骨ミネラル量及び 骨密度を顕著に減少させる一方,高 Zn 食は骨の大きさ には影響しないが,骨中 Mg,Fe 量を減少させ,骨密 度を低下させることが明らかとなった。 骨形成マーカーである血清中 OC 値は全群間で有意な 差は見られなかった。骨吸収マーカーである血清中 CTx 値は C 群に対し HZ 群で有意な差は見られなかっ たが,C 群に対し HZ 群で約 33% 高い値を示した。ま た血清中 CTx 値は他の 2 群に対し EZ 群で有意に高値 を示した。このことから,Zn 添加食投与は骨吸収を促 進することが明らかとなった。 次に大腿骨中骨代謝関連遺伝子及び Zn,Fe 輸送体の mRNA 量を測定した。骨中 Zn 輸送体である Zip1, Zip13,Zip14,ZnT5,ZnT7 の mRNA 量は全群間で有 意な差は見られなかった。一方,Zn 結合タンパク質で ある Mt1a 及び Mt2A の mRNA 量は C 群に対し HZ 群 で有意な差は見られなかったが,C 群に対し各々約 2 及 び 2.6 倍と高い値を示した。また Mt1a 及び Mt2A の mRNA 量は他の 2 群に対し EZ 群で有意に高値を示し た。次に Zn 添加食により骨中 Fe 量の低下が確認され たことから骨中 Fe 輸送体の mRNA 量を測定した。そ の結果,細胞外に Fe を排出する FPN の mRNA 発現量 は全群間で有意な差は見られなかったが,細胞内への Fe の取り込みを担う骨中 DMT1 は C 群に対し HZ,EZ 群で有意に高値を示し,HZ 群に対し EZ 群で有意に高 値を示した。このことから,Zn 添加食投与による骨中 Fe 量の低下に伴い,骨における Fe の要求量の増加が 引き起こされていることが示唆された。 骨代謝マーカーの結果を踏まえ,骨代謝関連遺伝子の mRNA 量を解析した。Runx2,ALP の mRNA 量は全 群間で有意な差は見られなかった。また Runx2 の上流 に存在する BMP2 の mRNA 発現量は全群間で有意な差 は見られなかった。一方,Osterix,Col1a1,Osteocal-cin の mRNA 量は C 群に対し HZ 群では有意な差は見 られなかったが,EZ 群で有意に低値を示した。骨芽細 胞は各種刺激によって間葉系幹細胞から前骨芽細胞を経 て成熟骨芽細胞へと分化し,各分化段階によって骨芽細 胞関連遺伝子の発現パターンが変化することが知られて いる。Runx2 は間葉系幹細胞から前骨芽細胞への分化 過程で作用し,Osterix は前骨芽細胞から成熟骨芽細胞 への分化過程で作用する。また,ALP は前骨芽細胞に おいて発現し,Osteocalcin,Col1a1 は成熟骨芽細胞に おいて発現する。そのため,Zn を過剰に添加すると骨 芽細胞の分化段階の後期に影響を及ぼす可能性が考えら れるが,これらを明らかにするには更なる検討が必要で ある。 次に破骨細胞分化形成遺伝子の mRNA 量を解析した ところ,RANKL,TRAF6,c-Fos,NFATc1,Cathep-sin K,TRAP の mRNA 量が C 群に対し HZ,EZ 群で 有意に高値を示し,HZ 群に対し EZ 群で有意に高値を 示した。さらに RANKL 刺激因子である TNF-a 及び IL1b の mRNA 量が C 群に対し HZ,EZ 群で有意に高 値を示し,HZ 群に対し EZ 群で有意に高値を示した。 これらのことから,Zn 添加食は TNF-a 及び IL1b の発 現増加を介した RANKL-RANK シグナルの誘導により 骨吸収を促進することが示唆された。 おわりに 本研究は Zn 過不足食投与による骨代謝への影響につ いて明らかにすることを目的とした。 その結果,Zn 欠 乏及び過剰摂取において骨代謝異常を及ぼすことが示さ れた。まず,Zn 欠乏食投与は血清中 Ca 濃度の低下に 伴う PTH 分泌過多を引き起こし,さらにそれにより誘 導される M-CSF の発現増加や RANKL-RANK シグナ ルを介し,骨吸収を促進することが明らかとなった。ま た Zn 欠乏食投与により Fe 蓄積に伴う酸化ストレスの 亢進が引き起こされることで TNF-a,IL-1b が誘導さ れ,M-CSF の発現や RANKL-RANK シグナルを刺激
することが示唆された。さらに Zn 欠乏食投与は BMP2 の発現低下を介し,Runx2,Osterix の発現を減少し, 骨形成を抑制することが示された。次に Zn を添加させ た高 Zn 及び Zn 過剰食投与は RANKL-RANK シグナ ルを介した骨吸収の促進を引き起こし,骨密度を低下さ せることが明らかとなった。また RANKL-RANK シグ ナルは Zn 添加食投与による TNF-a,IL1b の発現増加 により誘導されることが示された。本研究は Zn 欠乏食 投与による骨代謝異常が単なる Zn の不足によるものだ けではなく,他のミネラル変動を介し,生じたものであ るという新たな糸口を示したものである。また Zn 過剰 食投与時についても検討し,これらにおいても骨代謝異 常を引き起こすことを実証した。以上より,本研究は適 正な Zn 量の摂取が骨代謝維持に非常に重要であること を示したものであり,食生活の乱れが問題とされている 現代に適切な Zn 摂取のあり方を提示したものであると 考えている。 審 査 報 告 概 要 本研究はラットを用い Zn 過不足食投与による骨代謝 機構を解明することを目的とした。その結果,Zn 欠乏 食投与は破骨細胞分化・形成に重要な M-CSF の発現量 の増加及び RANKL-RANK シグナルを刺激し骨吸収を 促進させることを見出した。この作用は,血清中 Ca 濃 度の低下に伴う PTH の分泌過多及び骨中 Fe 蓄積に伴 う酸化ストレスの亢進による TNF-a,IL-1b の発現増 加に起因することが示唆された。また,Zn 欠乏食投与 は骨形成の主要因子である BMP2 の発現低下を介して Runx2 および Osterix の発現を減少させ,骨形成を抑 制させることを見出した。さらに,Zn 過剰食投与は骨 形成に対しては影響を及ぼさないが,TNF-a,IL-1b の 発現増加に伴う RANKL-RANK シグナルを介した骨吸 収の促進を引き起こすことを明らかにした。本研究は, Zn の過不足食投与時の骨代謝変動を遺伝子レベルで解 明し,骨代謝における微量栄養素である Zn の重要性を 示した価値ある研究である。 よって,審査員一同は博士(食品栄養学)の学位を授 与する価値があると判断した。