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第2章 必修教科等の研究 5 音楽科 イメージを表現につなげるために 

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Academic year: 2021

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音楽科

イメージを表現につなげるために

松井 弥寿雄 本論の要旨 音楽科の授業の中で,イメージという言葉は非常に大切な言葉である。この形の見え ないイメージを,音楽科の授業の中で生徒たちとどのように共有していけばよいか考え ると非常に難しい。それは,頭の中でイメージしたことの説明を,周囲に正しく説明で 。 , きる生徒が少ないと感じているからである 生徒自身がもどかしさを感じるポイントは 頭の中で描いたことをぼんやりと抽象的にしか説明できず,具体的に整理して伝えられ ないためである。 特に実技教科の中でも,形に残すことができない音楽というジャンルにおいて,イメ ージしたことを具体的に整理して伝えるためには,別の力を育てていかなければならな いのではないか。その力はどのような力で,どのような方法を用いると,生徒たちが身 につけることができるのかを模索していきたい。 キーワード 新学習指導要領,イメージマップ,根拠をもって批評 1.研究主題によせて (1)はじめに 平成24年度からの新中学校学習指導要領に[共 通事項]が新設された。しかし,この新しく設定さ れた[共通事項]を見ていると,これは決して新し いものではなく,今までから学習指導要領に書かれ ていたことの大切なポイントがわかりやすく整理さ れていることがわかる。 この[共通事項]は,すべての音楽活動の支えと なる指導内容であるので,自分の頭の中で描いたイ メージを具体的に説明できるようになれば,表現や 鑑賞の指導と関連付けしやすくなり,生徒たちの多 くが成就感を持つことができるのではないかと考 え,本研究テーマを設定した。 (2)研究のねらい 人間が漠然と頭の中でイメージしたことを他人に 伝えることは非常に難しい。途中で,何を言ってい るのかわからなくなっていたり,イメージしていた ことを口に出して説明してみたら全然違うものに変 化していたことなど,誰もが一度はそんなもどかし さを経験したことはあるだろう。 音楽科では,表現や鑑賞の授業において,イメー ジしたことを他人にわかりやすく,そして具体的に 伝えられる方法を見つけることができれば,頭の中 で描いたことが自分の中で再確認することができ る。再確認することができれば,自分の記憶にしっ かりと焼き付けることができ,他人のイメージと比 較もしやすい。 生徒の持っているみずみずしいまでの感性をどこ まで具現化させられるかが音楽科教師の勝負どころ になるであろう。 (3)研究仮説 歌唱する曲に初めて触れたとき,シンキングツー ルを用いて曲のイメージを書き込む。そして,楽曲 を深く学習した後にもシンキングツールに書き込 む。そのシンキングツールを見比べながら生徒自ら が自分自身の変化に気づき,また分析することによ って,学習の深化を自ら確認することができるであ ろう。 (4)研究方法 研究は次のように行う。 ①生徒の実態把握,教材化に向けての幅広い資料収 集 ②教材化に向けた授業内容の焦点化と内容の吟味 ③授業展開の検討,授業用資料の作成および準備 ④授業の実践と記録,生徒の観察 ⑤授業の分析,考察

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2.授業実践1 (1)題材名,対象学年,授業時数 「ドナドナ」~楽曲の背景を知ることによる心情 の変化を表現しよう~ 第1学年,2時間 (2)題材によせて この楽曲は「旋律の重なりや曲の構成」が学習す るポイントであると教科書には記載されてある。教 材研究を進めれば進めるほど 「旋律の重なりや曲, の構成」を学習しただけて終わってよいのだろうか と疑問を持ってしまう 「ドナドナ」には,壮絶な。 背景があるにもかかわらず,学習する生徒が「仔牛 がかわいそう」という思いだけで取り組みを終わら せてはいけないのではないか。教科書の中で,ここ まで重い背景がある歌唱曲は数少なく,そこから学 ぶことはたくさんあるはずである。ホロコーストと いう隠された背景に迫ることにより,生徒が楽曲の 重みや深さを感じてくれてこそ「ドナドナ」を学習 する値打ちがあると考える。 1年生は,どんどん思春期に突入し,大きく歌声 を出すことに恥ずかしさを感じてきている生徒も見 られるが,音楽の学習は好きである。その気持ちを 大切にしながら,学級の一員としてみんなで声を出 すことの喜びと協調性を学ばせ,学級の団結にもつ なげていきたいと考えている。しかし,歌い終えた ときの達成感を感じさせるまでにはまだ到っていな いので,楽曲の持つ力を利用しながら奥深さを感じ てもらいたい。また,想像力や発想力を活用できる 状況を少しでもたくさん作り出してやる場面を設定 し,純粋に音楽に浸り,音楽に対する愛好心をさら に伸ばしていきたい。 メロディを斉唱させてから,三部合唱へとつなげ ていきたい。そして,イメージマップを用いること により,歌詞に隠されている真実を知る前と後との , 。 違いや変化を 生徒自身に実感させて歌唱させたい また,社会科の学習の様であるが,ホロコーストの 歴史的事実を知ることにより,戦争が引き起こした ことによる悲しさと平和な世界を願う気持ちが,音 楽の授業を通して少しでも表れてくれたのなら,こ れほど幸せなことはない。 (3)学習目標 ①しっかりとした声で歌唱し,響きを作ろうとして 。 【 】 いる 関心・意欲・態度 ②楽曲の深みを感じ取り,それらによって生み出さ れる曲想とのかかわりを理解することができる。 【音楽の感受】 ③楽曲の持つ曲想や雰囲気を感じ取り,歌詞と旋律 との関わりを意識した歌唱表現ができる。 【表現の技能】 ④つかんだイメージや曲想をもとに,曲にふさわし い歌唱表現をすることができる。 【学んだことを活用する力】 (4)学習計画 第1次 メロディーを覚え,音と言葉の関わりから イメージマップに表現できる。 1時間 第2次 歌詞に隠された歴史的背景を知り,考えを 深め,歌唱表現につなげることができる。 1時間(本時) (5)本時の目標 〔第2時の場合〕 ①歌詞の裏側に隠された,ホロコーストの歴史的事 実を知る。 ②イメージマップによる自分自身の変化に気づき, 曲にふさわしい歌唱表現をすることができる。 (6)評価規準 ①楽曲に関心を持ち,歌詞の意味や内容を考えて意 。【 】 欲的に歌唱しようとしている 関心・意欲・態度 ②歌詞の意味や内容,楽曲に隠された真実を感じ取 り,イメージをふくらませることができる。 【音楽の感受】 ③歌詞の意味や内容,言葉の抑揚にふさわしい表現 で歌唱することができる。 【表現の技能】 (7)学習過程 〔第2時の場合〕次頁に記載 (8)イメージを具現化するために 生徒は楽曲を学習するときに,必ず頭の中に何か を感じている。しかし,それが何なのかは生徒自身 も具体的に言葉で説明できないことの方が多い。そ こで,イメージマップを用いて頭の中に浮かんだこ とや連想したことをまず単語から書かせて広げてい く。そうすることにより,生徒自身がキーワードに なる言葉を踏まえながらイメージしたことを説明す ることができる。 音楽の歌唱の授業において,楽曲の歌詞だけを抽 出して歌詞の意味や内容だけを学習することは,中 身の薄い言語活動と言われるが,イメージマップを 用いることで,中身の濃い言語活動になり,それだ けでなく先々の学習につながる足場を築くことがで きる。

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ただ,言語 活動はあくま でも言語活動 にすぎないた め,音楽活動 につなげてい かなければな らない。 学習指導要 領の中に「ア 歌詞の内容や 曲想を感じ取 り,表現を工 夫して歌うこ 。」 , と とあり その中の「表 現を工夫して 歌う」部分に 大きくつなげ ることができ る。 そこには, 表現したい思 いや意図をは っきりとさせ て,生徒たち と共有しなが ら歌唱してい くことになる が,これはあ くまでもはじ めの段階であ る。この「ド ナドナ」の単 元2時間の場 合であると, あくまでもこ れから大きく展開されるほんの序章にしかすぎな い。 「ドナドナ」に限ったことではないが,歌詞の裏 側に隠された事実や史実を持っている楽曲の場合 は,いかに生徒たちに大きなギャップとして伝える か,大きなインパクトを心の中に与えるかが勝負ど ころであり,またとても楽しみの一つである。 前出の学習指導要領の目標「歌詞の内容を感じ取 る」部分の中に,歌詞や楽曲の成立の背景も必要に 応じて学習することが望まれるとあるので,まさに 「ドナドナ」は背景を知ることが,大きく歌唱表現 に影響と変化を与えられる。生徒にとっては,非常 にショックを受ける生徒もいるくらいである。 音楽教師の中にも 「ドナドナ」に隠された事実, を知らない人が多いのも現実であり,教材研究の必 要性が再認識されるところである。 「ドナドナ」の歌詞には,ホロコーストのユダヤ 人大虐殺で,強制収容所へ連れて行かれる貨車に乗 せられたユダヤ人の子どもを,市場へ連れて行かれ る仔牛に見立ててある。何気なく歌唱すれば,さら っと歌唱して終わる曲が,何十倍もの深みを生徒た ちに感じさせてくれるからである。

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その一例として二人の生徒のイメージマップをこ の頁に掲載した。上の方の生徒は,はじめの段階で 歌詞のイメージを頭の中ではアニメで映し出してい たことに自分で気づき,成立の背景を知った後のイ メージマップでは,その広がり方から現実の生々し さが感じられていることがよくわかる。 このように,生徒自身が楽曲成立の背景を知る前 後の変化に改めて気づけることが,生徒にとっても 喜びであり,自発的な音楽表現の変化につながって くれるはずである。これが本論の要旨で述べた「別 の力」として身に付き,また活用できるものと考え ている。 では,イメージマップで確認できたことを音楽表 現にどのようにつなげていくのか。そこがうまく機 能しなければ,ただ単にイメージマップを書いただ けに終わってしまうので,ねらいをしっかりと持っ

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て[共通事項]につなげていくことが,生徒にもわ かりやすく,指導する側も方向性を見失うことにな らないであろう。 「ドナドナ」で考えると,生徒が考えやすい自発 的な音楽表現の変化では [共通事項]の中の速度, や旋律,強弱,構成が挙がってくるのではないか。 また,それらの働きが生み出す特質や雰囲気までも 感受することができ,学級全体で共感し,より深ま った音楽活動の楽しさを体験できるところまでつな がっていくと 考えられる。 (9)考察と まとめ これは鑑賞 領域に首をつ っこむことに なるのである が,学習指導 要領の目標の 中に,第2, 第 3 学 年 は 「根拠をもっ て批評する」 とあり,この 部分を第1学 年では「言葉 で説明する」 とある。言葉 で説明するた めには,音楽 を形づくって いる要素や構 造と曲想との かかわりを感 じ取って聴か なければなら ず,この力を 歌唱領域に応 用していって もよいのでは ないかと考え ている。 前出の学習 指導要領の目 標 に は 「 言, 葉で説明する などして,音 楽のよさや美しさを感じること」とあり 「音楽の, よさや美しさを感じること」は表面的に快い,きれ いだといったことにとどまることなく,その音楽の 内容を価値あるものとして自らの感性によって確認 する主体的な行為である。また,別の目標の中に, 「音楽の特徴をその背景となる文化・歴史や他の芸 術と関連付けて理解する」ともあるので,この「ド ナドナ」では歌唱領域の楽曲ではあるが,生徒自身 が背景となる文化や歴史,またそこに関連する項目

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を自らが調べていくことにより,楽曲に対する深ま りが変化し,その音楽の価値を高めることができ, 目標に迫ることができると感じている。 では,どのような形で生徒自身に迫らせればよい のかと考えたときに,ホロコーストという聞き慣れ ない言葉を先頭に,調べ学習ができるようにプリン トを配布し,各自で調べさせた。生徒は,軽い気持 ちで始めていったが,どんどん内容を知っていく中 で衝撃を受けている。ゲットーやアウシュビッツ= ビルケナウといった 「ドナドナ」の歌詞にリンク, し て く る ワ ー ド を 調 べ , そ し て 自 分 が 気 に な っ た キ ー ワ ー ド を 2 種 類 調 べ さ せ る と , 生 徒 の 方 か ら 気 に な っ た キ ー ワ ー ド は た っ た 2 つ で は 済 ま な い と の 声 が た く 。 さん聞かれた ま た , 早 く 次 の 音 楽 の 時 間 に な っ て , こ の 調 べ た こ と 「 」 が ドナドナ と ど の よ う に リ ン ク す る の か 知 り た い と 思 う 生 徒 も 出 て き た 。 そ の こ と か ら も , 自 ら 調 べ て い く 中 で , ど ん ど ん 興 味 と 関 心 が 高 ま っ て い っ た こ と が よ く わ か る 。 本 論 の 要 旨 , にも書いたが 音 楽 と は 形 と し て 残 す こ と , ができないが そ こ に つ な げ る た め に 創 意 工夫を施し,生徒たちに興味や関心を与えられるよ うな,目に見えるものを必要に応じて挿入していく ことが必要である。 今後,授業時数の限られた音楽の学習活動を進め ていく中で,生徒たちとたくさんの発見や学びを共 有し,新たな力を少しでも多く見つけていくための 努力は怠らないようにしていきたい。

参照

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