• 検索結果がありません。

第1章 総論 「判断」のありように着目した学習指導研究の意義と展望 : 思考ツールなどを活用し協同的に学び合うことで得られる,問題解決・課題解決の力

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "第1章 総論 「判断」のありように着目した学習指導研究の意義と展望 : 思考ツールなどを活用し協同的に学び合うことで得られる,問題解決・課題解決の力"

Copied!
6
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

1 「思考力」「判断力」「表現力」の語の登場した経緯と,3語の関係については,次でも言及した。舟橋 秀晃 * 「 アブダクション』に着目した論理的思考力を伸ばすための国語科読解教材の開発 ―実践『別の見方を試し『 てみると』(中二)を通して― ,滋賀大国文会『滋賀大国文』第50号,2013,」 pp.35 50のうち .35 36- p

-第1章

総論

「判断」のありように着目した学習指導研究の意義と展望

-思考ツールなどを活用し協同的に学び合うことで得られる,問題解決・課題解決の力- 舟橋 秀晃 本論の要旨 本稿は,国立教育政策研究所より「平成25年度教育課程研究指定校事業 (中学校・総合的な学習の」 時間)の指定を受けて本校が本年度実施した研究内容とその意義,今後にむけての展望について報告 するものである。 , ,「 」 本研究では 生徒に問題解決・課題解決の場面を効果的に経験させるために 総合的な学習の時間 の指導に,探究活動導入期での「テーマ」指導の強化/思考の集約場面だけでなく思考の拡散・発想段階 での思考ツール活用/探究の過程への介入・指導の機会の制度化/探究の過程を繰り返し自覚的に試行 錯誤の練習をさせる機会の確保,の4点の工夫を施す試みを行った。 また 「総合的な学習の時間」の指導改善によって,各教科等の学習でも「表現を大切にする文化」, が醸成され始めた。その一端として各教科等の学習において,生徒間交流の深化/「分からないから の2点の効果が得られた。 こそ意見を述べる」ことの重要性の自覚, 思考力・判断力・表現力,問題解決・課題解決,交流,最適解,価値観 キーワード はじめに 本校は本年度,文部科学省国立教育政策研究所の 「平成25年度教育課程研究指定校事業 (中学校・」 総合的な学習の時間)の指定を受け 「思考と表現, をつなぐ『判断』のありように着目した学習指導研 究 ~思考ツールなどを活用し協同的に学び合う過 程の実現を通して~」という研究主題のもと,実践 開発を進めてきた。 本稿では,長年本校が取り組んできた「総合的な 学習の時間」等に見られる指導上の課題をまず挙げ る。次に,本校が実践開発に当たって,本年度どの ような改善を進めてきたのかを述べる。最後に,こ れらの研究から得られた成果,また,全国の中学校 ▲図1 「判断力」とは何か で今後目指されるべき方向性について記したい。 な お 「 総 合 的 な 学 習 の 時 間 」 の 中 に あ る, 「 B I W A K O T I M E」( 以 下 「 B T 」 ) 「COMMUNICATION TIME」(以下「CT」 「情報) の時間」それぞれに関する本年度の運用の実際の詳 述,またその成果と課題についての考察は,本研究 紀要に所収の各論考に譲ることとする。 1.問題の所在 (1 「判断力」とは何か) 学校教育法第30条の第2項に「前項の場合におい ては,生涯にわたり学習する基盤が培われるよう, 基礎的な知識及び技能を習得させるとともに,これ らを活用して課題を解決するために必要な思考力, 判断力,表現力その他の能力をはぐくみ,主体的に 学習に取り組む態度を養うことに,特に意を用いな ければならない」という文言が盛り込まれて以降, 「思考力・判断力・表現力」は教育行政文書に頻繁 に登場するようになった。ただし 「判断」は思考, 活動の一部であるのだから,厳密には「判断力」と 「思考力」の関係は並列でないとも考えられる 。*1 本校では,研究の実効性を得るため,この議論を 避け 「判断は,思考から表現に移る際,その結節, 点において下される行為である 「多面的・多角的」

(2)

2 次に詳しい。本校『平成24年度研究開発実施報告書 別冊資料-第3年次-教科書,学習指導要領,評価規準 * ・評価方法等 合本』,2013 に思考しようとすればするほど,立場や見方の違い により複数の価値観が並んだり対立したりすること となり,各個人がその価値観のどれを取り上げどれ に優先順位を与えるかによって,各個人が下す判断 のありようが様変わりすることがある 「ゆえに,」 思考の深さも表現の適切さも,判断の的確さが大き 図1 く作用する」と仮説的にとらえることにする( 参照 。以下,この前提に立って論を進めることと) する。 (2)本校研究の経緯と現状から 本校では異学年混成4~8人グループで調査研 究を行う総合学習BT(開始時は「びわ湖学習 )」 を30年継続して実践してきたが,インターネットの 普及に伴い,生徒が深く考えずに web の情報を丸 写しする傾向が目立ってきた。これに対し,本校で は当時から情報教育にも取り組んでおり,発表会で 話題提示やBGMなどを工夫し「豊かに表現する」 点では効果を上げていたものの 「深く思考する・, 的確に判断する・適切に表現する」点では不十分だ ったことになる。 そこで,平成22~24年度に文部科学省研究開発学 校指定を受け「情報の時間」を特設し,情報の見方 や,情報社会における私たちの望ましい暮らし方, またその背景として必要な情報技術に関する知識と 操作を系統的に学べる学習指導要領試案や,教科書 等を作成した 。*2 この取り組みの成果は,例えばBTにおいては, 生徒が文献丸写しを止め出典を示して複数引用する ことを心がけるようになったり,アンケートをとる 際に必要な母集団の規模を考え,それまではあらゆ るアンケートを全校生徒にとっていたものを内容に よって調査対象を絞り込むようになったり,グルー プごとの学習発表の場でアニメーションやBGMに 凝るのでなく,データやその出自を紹介しながら自 分たちの調査内容と考えを語るようになったりする など,生徒の姿の変化として表れた(図2参照 。) ただし,そのBTにおける学習発表の場で,質疑応 答については依然として活発にならなかった。つま り,情報を鵜呑みにしがちな本校の生徒たちは,人 の発表をその場で聞いて質問する場面においては, 「深く思考する・的確に判断する・適切に表現する」 ことがまだ充分にはできていなかったと言えるので ある。 この改善のためには,次の二つの策が必要だと考 えられる。いずれも,思考力・判断力・表現力とい う一連の能力のうち,特に「判断力」に大きく関係 するものである。 ①課題の設定からまとめ・表現に至る探究の過程に おける「判断」を改善する指導の強化 「情報の時間」での学習内容は,BTで調査を進 め発表内容をまとめるような,一定の時間をかけ協 同的に作業する場面ではそれなりに想起され生かさ れた。しかし学習発表の質疑応答のような,質問側 が各個人で しかもその場で即座に資料を分析し 判, 「 断」する能力が求められる場面では,まだ充分には 発揮できていないように見える。したがって「情報 の時間」の学習内容を厳選するとともに,その内容 がより深く定着し,実際の「判断」の場面により発 揮されるよう,指導を強化するべきであろう。 ②「表現を大切にする文化」の醸成 未解決の問題や課題に対して何らかの答えを得る には,唯一の「正解」と言えるものはなかなか存在 しないため,あれこれと議論をしながら多面的・多 角的に思考し,データを踏まえて各自の「判断」を すり合わせ,一定の見解を得られるものを足場にし て合意を積み上げていくという試行錯誤的な推論で 「最適解」を探り当てるしか方法がない。この方法 の過程では,仮説の案を複数述べ合い,各仮説の有 力さを比較し検討すること,また,一つのデータに 「 」 , 対する様々な 判断 の可能性とその確からしさを 錯覚や盲点を発生させない目的で〈念のために〉述 べ合う手続きが必要不可欠になる。 しかし本校の生徒は,それまでの学校や社会で自 ずと身につけた文化からであろうか,話し合いの場 で結論や合意が見えれば,敢えて自分からその流れ に棹さす発言を控える。さらには 〈念のために〉, ▼図2 本校「BIWAKO TIME」の課題

(3)

3 例えば,中央教育審議会最終答申『幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等 * の改善について(答申 』2008年1月17日,) pp.11 15,特に .14。- p 「 」( ) 述べている他者の意見を KY 空気が読めない と決めつけたり 「最適解」に至る過程の試行錯誤, を「恥ずかしい失敗」と見なしたりして,嘲笑した りうっとうしがったりする傾向さえある。 そもそも,学ぶ場は練習の場であるのだから,必 然的に失敗することから学びが始まるはずである。 また,生育歴の異なる多様な他者が同じ場に集って 学ぶことの意義は,単にその地域の同年齢の子ども をまとめて教育するという学校制度の効率面だけで なく,各者各様の「判断」に触れて,自分とは違う 思考や表現があることを知り,思考や表現の幅を広 げ,より好ましい思考や表現を身につけ自己を形成 するという,集団学習の効用面にこそ宿るはずであ る。ならば,流れに棹さす発言を控えたり 〈念の, ために〉行われる発言の手続きを面倒に感じたり, ましてや人の失敗をからかったりする雰囲気は,学 校には本来,不要なはずである。 本校生徒がBTの学習発表の場で質疑応答を活発 に交わさない背景には,前述の①の点だけでなく, 未解決問題に対する質疑応答のもつ重要性への無理 解か,敢えて発言して周囲に嘲笑されたりうっとう しがられたりすることへの恐怖のどちらかあるいは 両方,つまり仮説をもとに「判断」の試行錯誤を共 有し合う行為自体に価値を見出さないか恐怖を覚え 。 , ることがあるのではないかと推測される それゆえ の点に加え,この無理解か恐怖に対しても策を講 ① じ,多様な他者が各者各様の「判断」を語り表現す る行為そのものを互いに尊ぶ「表現を大切にする文 化」を学校の中に築いていく必要がある。 (3)我が国の教育をめぐる状況 学校教育の場で問題解決能力を育て,学んだ力が 社会で生かされるようにするには,特別活動や学校 行事だけでなく「総合的な学習の時間」や各教科等 においても,問題解決・課題解決のために生徒が試 行錯誤する場面をしつらえて,生徒に試行錯誤を繰 り返しながら解決に到達する経験を実際に味わわせ るのがおそらく有効であろう。 日本の学校教育は今日まで,40人という諸外国 より多い学級定員ながら,国際的な様々な学力調査 で,人口1億以上の国として唯一,トップグループ に入るなど,高い効率を上げてきた。ところが昨今 は,PISA調査や全国学力・学習状況調査等の各 種調査の結果から思考力・判断力・表現力等を問う 読解力や記述式の問題に課題があると指摘されてい る 。例えば,PISAの「落書き」の是非を論じ*3 させる問題のように 「正解」が一つではなく,自, 分の下した「判断」とその根拠を論述する問題にお いて,諸外国の満15歳と比べ,解答を初めから避け る生徒が我が国に多かったことは,すでに周知の通 りである。 , , 我が国の教育をめぐる現在の状況を このように 各生徒の「判断」のありように着目して仮説的にと らえるならば,本校が課題とする前項(2)の①・ は,本校のみならず我が国の学校教育全体の課題 ② とも言えそうである。本校がもしこれら①・②への 実効性ある対策を提案できれば,おそらく全国の各 学校現場でも役立つであろう。 2.研究の構想 (1)基本方針 研究開発学校指定が終了したため,教育課程の特 例が認められないことから,本年度は教育課程を見 直し 現行法制のもとで再構築したい その際, 。 ,「総 合的な学習の時間」の充実を図りたい。また,その , 「 」 , 指導に当たっては 特に生徒の 判断 に着目して 思考ツールなどを活用し協同的に学び合う過程の実 現によって「的確に判断できる力」を高め,生徒の より深い「思考」やより適切な「表現」を引き出す ことをねらいたい。 ゆえに,BTを問題解決を経験する場として位置 づけ直すとともに,BTなどでよく見られる問題解 決上のつまずきへの対応を系統的に学ぶ場として 「情報の時間」を位置づけ直し,さらに各教科では 思考ツールなどを使って各自の「判断」を生徒相互 でみがき合う授業場面を増やすことで,生徒の問題 解決能力を高めり,各教科等で身につけた力を社会 でより生きて働きやすくするようにしたい。 (2)教育課程編成上の工夫 研究開発学校指定の終了に伴い,各学年とも年間 50時間に及んだ特設科目「情報の時間」は,もはや そのまま継続実施することはできない。 ゆえに,前節1.の問題を踏まえ,本年度は「総 合的な学習の時間」を再編することにした。具体的 には(表1参照 ,) ・BT(24時間,1年生は+1時間) ・情報の時間(20時間) ・CT(26時間,1年生は-1時間) の三つで「総合的な学習の時間」を構成することと

(4)

した。 このうち「情報の時間」は,1.(2)の①を具 現化する中核のカリキュラムとして位置づけ直し た。すなわち,特設科目だった旧「情報の時間」よ りも配当時間数・単元・内容ともに大幅に圧縮し, 以外の要素を削減した。また,前期に毎週2時間 ① のペースで展開するBTと同時並行的に授業が進む よう,前期に毎週1時間のペースで実施するように した。 「同時並行的」とは,具体的に言えば,生徒の縦 割り小集団によるBTでの探究の過程で毎年よく見 られる学年ごと・時期ごとの課題に対応し,教科授

平成25年度「総合的な学習の時間」構想と時数配当

郷土を愛し世界へはばたく心豊かな生徒の育成

学校教育目標 (3)自然と文化を愛する (1)自他の人格尊重、連帯協力 (2)創造的知性、正しい判断力 (5)国際的視野、国と郷土をきずく (4)苦難克服、開拓、たくましさ ■「総合的な学習の時間」の各時間数とコンセプト等 行事枠で計上 呼 称 情 報 の 時 間 B I W A K O T I M E COMUNICATION TIME コンセプト より深く考えよ 滋賀県をフィールドとした 苦難を乗り越え連帯協 り的確に判断し 学び方を学ぶ,異学年 力するコミュニケーション学習 より適切に表現 合同の調査研究学習 する学習 役 割 学び方の系統学 各教科の縦糸と学び方の横糸で織り成す 習( 横糸 )「 」 学びを総合化する問題解決のフィールド(場) ただし,劇に関する横 糸学習も(旧情報学活) 目標との関 (2)問題解決の (1)(5)社会性の涵養、 (1)(4) 互いの意見の 連 学びの方法知 会社や働く大人モデル 違いを越え苦難を解 を得る、正し との出会い(キャリア教 決し連帯協力 い判断力を磨 育) (2)BT と情報を生か き教科で使う (2)問題解決の学びの す (4)問いに挑む 方法を実際に体験 ねばり強さ (3)(5)郷土を深く知る 1年70h 20 25 25 大学訪問【存続】 飛鳥探訪 (20h オーバ (旧・情報学活5h+ h2 ×5 10 5+ ー) h) 韓国の言葉と文化 2年70h 20 24 26 10 修学旅行事前学習 (旧・情報学活5h+ h2 ×5 11 6+ ) h 3年70h 20 24 26 職場体験【解消】 進路学習 (旧・情報学活5h+ h2 ×5 11 16+ ) h (前年並み) 圧 縮 数 -15 -6 圧 縮 元 各年5h4単元で 中間発表簡素化 11h(1年生10h)は上演 を含む 運用アイディア ・道徳で別に毎 ・模造紙→レジュメ 年5 1単元実施h ・外出1回以上努力義務 ・単元の担当者 ・アポ礼状3年は体験義 は基本、教科内 務・3回繰り返す学びゆ + 容に近い教科で え1年生は「見て学ぶ」 (個人交渉可) 「積極的に手伝う」 ・毎年度始めに ・テーマとエリアは基本 県内 担当者確認 ・引率は交通量に応じて ▲表1 本校の「総合的な学習の時間」の内容,時数配当,コンセプト等(平成25年度)

(5)

業同様の指導形態をとる「情報の時間 (学級単位」 の50分授業/指導者は,単元内容に近い当該教科 教員による,単元ごとのリレー)の単元(5時間× 4単元)を計画的に配置し,各学年各時期のBTで の課題解消に見合う思考法や情報処理の概念を順番 に手ほどきしていけるよう,BTと同時進行で「情 」 。 , 報の時間 を展開したことをいう この改変により いわば運動部活動の〝練習試合〟のように 「情報, の時間」で資料を分析し「判断」する能力を取り立 てて練習し伸ばしておき,いわば〝公式試合〟に当 たるBTでの探究の過程で,その力が発揮されやす くなるようにしたのである。 いっぽう新設のCTは,前節(2)の②を具現化 する中核のカリキュラムとして位置づけ直した。す なわち,旧「情報の時間」に含まれていた「学活的 単元 (コミュニケーションのあり方を学級担任指」 導のもとで経験的に学ぶ単元)を独立させ,文化祭 学級劇上演という形でのまとめ・表現と,それに至 る探究の過程を仕組むことで 「表現を大切にする, 文化」を醸成することを意図した。 (3)研究体制の確保 本校が本年度とった研究体制について,工夫点を 以下に列挙しておく。 ・校務分掌を「教務部・生活指導部・研究部」の3 事業部に整理することで,小規模校において校内 研究に携われる職員を7名確保し,チームで臨機 応変に議論しつつ推進した。 ・研究部内にBT・ 情報の時間 ・CT等の各担当「 」 者を置き,授業のポイントを各職員に発信し,指 導記録や指導上の課題を各職員から集約して,研 究推進の円滑化を図った。 ・毎月2回校内研究会を行い,校内研究の起案,議 論,企画,運営,省察を年間を通じて連続的に行 いつつ,学外から講師を招き,研究に助言をいた ▲図3 「テーマ」指導の強化(BT) だいた。また,研究部会は敢えて校内研究会の 「後」に開催することを増やし,職員全員の議論 への参加感を高めつつ,生徒の実態に即した企画 立案をするよう努めた。 3.実践の開発と成果 (1)1年間の主な取り組み 全学年で20時間程度「情報の時間」 通年 を毎週実施(毎週1回1時間) 前期 全学年で24時間程度BTを毎週実施 ( 5~10月、週1回2時間ペース) 全学年で26時間程度CTを集中実施 BT・情報の時間等での実践内容を 4~5月 議論(特に判断力向上方策) 担当官BT・情報の時間視察,研究 5月13日 内容への指導 (月) BT・情報の時間等での実践期間① 6~7月 本校「研究協議会」における中間報 8月 告と議論(①成果の発表) 9~10月 BT・情報の時間等での実践期間② 11~12月 研究成果のまとめ,報告書執筆検討 報告書提出,本校研究紀要に成果掲 3月末 載,本学学術情報リポジトリで公開 探究の過程での「判断」改善指導の強化 (2) 生徒に問題解決・課題解決の場面を効果的に経 験させるために 「総合的な学習の時間」の指導に, 次の4点の工夫を施した。 ①探究活動導入期での「テーマ」指導の強化 「○○を調べたい」では丸写しの調べ学習に陥る ので,BTでは調べたいテーマを「○○が□□なの はなぜか」という問いの形で書き出させ,仮説をも たせる指導につなげた(図3参照 。) ②思考の集約場面だけでなく思考の拡散・発想段階 での思考ツール活用 BTやCTでは「思考ツール」で抽象的思考の具体 操作化を図り,生徒間交流や指導の促進を図った。 また 「情報の時間」ではなるべく「思考ツール」, を用い,BTやCTでの利用に先行して使用法に習 熟させておいた。さらには,特に生徒がBTでリサ ーチクエスチョンを立て研究を開始する段階で,ピ ラミッドストラクチャーや指導者面談を取り入れる ことで 「問い」からまず仮説を立てて調査に入る, よう仕組んだ。

(6)

③探究の過程への介入・指 導の機会の制度化 一旦探究活動が始まっ てしまうと,探究の過程 における生徒個々の進捗 状況や悩みを見取りづら くなるので,BTで生徒 の活動に適切に介入し指 導を加えるため,指導者 面談と毎時間末「行き詰ま り」報告カード提出の機会 を設けた。 ④探究の過程を繰り返し 自覚的に試行錯誤の練 習をさせる機会の確保 探究の過程は試行錯誤 , , の過程であり 一度経験しただけではうまく行かず 重ねて何度も行って身につける必要がある。そこで 「情報の時間」ではBTでのつまずきを予想し,B Tでの活用を意識して授業を行う年間計画を組ん だ。またBTの学習成果を発表する場では,指導者 が質問のモデルを見せることで,生徒のフロアから の質問を引き出せた。 (3 「表現を大切にする文化」の醸成) CTの実施や前項(2)の工夫によって,各教科 等の学習でも「表現を大切にする文化」が醸成され 始めた。次の2点は,その一端である。 ①生徒間交流の深化 意見交流時に指導者が思考ツールを使って整理し ながら生徒の意見を板書し,その板書からさらに生 徒に意見を求めることが増えた。またそれにつれ, 生徒が自発的に思考ツールを使って自他の意見をメ モし意見する姿が散見されるようになった。 ②「分からないからこそ意見を述べる」ことの重要 性の自覚 かつては,間違えたら恥ずかしいので意見を言わ ない思春期の生徒の姿が顕著であった。しかし,未 解決問題の解決には仮説を述べ試行錯誤を繰り返す ことこそが重要であることを自覚するにつれ,生徒 は正解不正解に過度にとらわれず,徐々に自らの考 えを記し述べるようになってきている。例えば,全 国学力・学習状況調査において本校の3年生は,昨 年度3年生に増して 「正解」が分からずともも何, かしら自分の考えを記した。このことが調査結果に 反映し,低位層の生徒の分布密度減少傾向(底上げ 図 効果)としてグラフに表れたことが確認できる( 参照 。 4 ) おわりに (1)本研究の意義 社会生活では未解決問題について合意形成を迫ら れる場面が日々訪れる。そこでは,メンバーが議論 し合って既有の知識や方法を出し合い選択し,折り 重なる価値観を整理し優先度順に配列して判断を下 す必要がある。しかし各教科におけるこれまでの学 習は,指導と評価の一体化,指導の系統化などの諸 改善により非常に明解に授業展開が図られるように なった結果 (例えば数学なら単元名を見るだけで, 「式と計算 「二次方程式 「円周角」など,生徒が」 」 応用問題の解法を感づいてしまうように)既習事項 を想起したり選んだり,価値観の選択で迷ったりす る場面が,各教科の授業に乏しくなっている。その ことが「問題解決の力が弱い 「学んだことを生か」 せない」課題につながっているのではないか,とも 考えられる。本研究の成果は,この課題の解決にも 役立つであろう。 (2)展望 各教科等で生徒間交流を深める具体的方策につい ては 未開発の部分が残っているため 引き続き 思, , 「 考ツール」の開発ならびに活用に重点を置いて研究 を継続していきたい。 また,(1)で述べたことが適切であるならば, 選択・ 各教科等においても,従来型の指導に加えて 迷い・判断の機会を増やすような指導改善が必要に 。 。 なる その見地からの実践開発も行っていきたい ▼図4 全国学力・学習状況調査における本校正答率の,国語・数学 平均=◎全国・ ○本校 相関分布の推移(平成22・24・25年度)

参照

関連したドキュメント

  BCI は脳から得られる情報を利用して,思考によりコ

(注 3):必修上位 17 単位の成績上位から数えて 17 単位目が 2 単位の授業科目だった場合は,1 単位と

○本時のねらい これまでの学習を基に、ユニットテーマについて話し合い、自分の考えをまとめる 学習活動 時間 主な発問、予想される生徒の姿

本時は、「どのクラスが一番、テスト前の学習を頑張ったか」という課題を解決する際、その判断の根

このような情念の側面を取り扱わないことには それなりの理由がある。しかし、リードもまた

「職業指導(キャリアガイダンス)」を適切に大学の教育活動に位置づける

指導をしている学校も見られた。たとえば中学校の家庭科の授業では、事前に3R(reduce, reuse, recycle)や5 R(refuse, reduce, reuse,

小学校学習指導要領総則第1の3において、「学校における体育・健康に関する指導は、児