Kobe Shoin Women’s University Repository
Title 複合語の意味構成
Semantic composition of a compound
Author(s) 浅見 徹(ASAMI Tooru)
Citation 文林(BUNRIN),No.36:1-19
Issue Date 2002
Resource Type Bulletin Paper / 紀要論文
Resource Version
URL
Right
複
合
語
の
意
味
構
成
浅
見
徹
複 合語 の意味構成 一 複 合 語 は 、 そ の 前 項 に 位 置 す る 語 と 後 項 の 語 が 意 味 的 に 深 い 繋 が り が あ る こ と に よ っ て 成 り 立 っ て い る も の で あ る 。 し か し 、 そ の 前 項 と 後 項 と の 意 味 的 関 係 が ど の よ う な も の で あ る か を 示 す 言 語 的 指 標 は 、 も ち ろ ん 存 在 し な い 。 前 項 ・ 後 項 の 両 概 念 の 意 味 的 関 係 は 、 か な り 多 彩 で あ っ て 、 並 列 的 、 逆 置 的 、 修 飾 的 、 述 定 的 な ど 、 さ ま ざ ま な 様 相 を 示 す 。 こ こ で は 、 複 合 語 の 中 で 、 前 項 が 体 言 、 後 項 が 動 詞 連 用 形 出 自 の 転 成 し た 体 言 で 構 成 さ れ て い る も の に つ い て 、 前 項 と 後 項 が ど の よ う な 関 係 で 結 ば れ て い る こ と が 多 い か を 考 え て み た い 。 こ れ に 適 合 す る よ う な 複 合 語 を 選 択 す る に 当 た っ て 、 田 島 鱗 堂 編 ﹃ 日 本 語 尾 音 索 引 ﹄ を 用 い る 。 こ の 書 は ﹃ 岩 波 国 語 辞 典 第 二 版 ﹄ を 基 に し て い る の で 、 や や 内 容 が 古 い が 、 日 本 語 の 現 状 に つ い て そ の お お む ね を 把 握 で き る だ ろ う 。 こ こ で 、 動 詞 連 用 形 出 自 の 語 を 後 項 と す る 複 合 語 は 、 お よ そ 五 百 例 く ら い 拾 う こ と が 出 来 る 。文林 三十六 号
塩
主 語 ・ ガ 1朗題 ・ , 場 所 、 時 間 ・ 二 目的 . 封 脚 ・ デ . ト シ ・テ ー 一 形 容 壬 的 他 隠 し 神 金. 錠 腐 、 項 ・ 耳 隠 れ 1 r1 1 ホ 、 璽 霞 角 鶴 一 揃 い 綴 、 勢 ﹃ 紬 喝 . . 一 不 揃 え ゜ 唖. r[ 直 し T 他 、. 繰起 隔 口 、 手 、 世 * 直o 伸 立ち 一 黙 牢 、 聾 、 自、 環 噸 鞭 彗 . 巽 褒 徒歩 i 本. 迎 、 掩 罵 轄.h﹂王 、 吊 、 蝕 、 棉領
鞠
馳
糾
網
輔
立τ轡類
麟
噌
嬬 、
古 ㌔ 日 、 兜 野 、 前 匡 ー ■ . . 卜 ← 卜 匡 ー ウ ー -I I 卜 IL , 7 7 1 無 、 店 、 手-坦 胤r...`・ 卜IrrI I■ ■ ■1 闇・ 唱. 流 し 十 鋤 、 鞘 箋 墨 、 虹 祀 一T 島 、 横 面 ". 片 、 ° 箕 礁 其 醇 雪 十 川 噛 楷 一 亟L 一 且 、 融 蝶 、 症塊 , 異 乱 十 劃 噂 覇覇 , 望 晶 々 り.#ん τゐ 遮 o こ O ら 帽 、 田 、 里、 俺世 、 日 、 . 本卦 蛸蛾 、 弔 言 ε 毎ち 占 坦 し ・ . . . . . ` . . . 揃 噌 一 ■ 囑 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ﹁ ■ ■ ■ ■ , . r 占 ■ . 1 1 ■ ■ ■ ■ . , . r l. ` . ° ¶ r A 風 、 干償 孟 、 概 翼 鎧 遇 幽 ` 遇 1 . ● . 占 ` , 1 1 . ` . 隔 . 一 . 1 闇 闇 ` 遇 画 . . . . 闇 1. .﹂ . 一 . 騨 r﹂ . . 騨 騨﹂ ﹂ r . r 脚. ﹂ . . . . 騨卜 I I I 卜卜 十1 . 1 ﹂ 1山 1 7 目 1 中I rI I II I ` 1' 1 甲 1 ﹁ 1 占 ` . i ﹁ ' 1司 ﹂1 1` ` 7 階 一i﹁司. . ﹁ -. i 1 1 司1 ﹁1 1` 11 i ` ー ヨ 一 人 堕 喚 糟 糊 . 霧 、 典 礫 鵜. 責 爽 雀 、 弟 子 、 仲間 、 婿 、 嫁 些 漸-謳、 ・ 糎 十 中 、 藪 一 一 入 血噸
順
横
型
噸
勲
畦紬
内 、 蔵 、 底 質 十 抽 与 像 、 鉦 輝 手 、 需 ・ +° 拮 め 膝睡
解
熊
類
幽
石 天 冊 ト 恥 、 喉 蜘 、 席 元 歳 毒 '灘 噛
翻
熊
融 凸 臨 り 噸 興. 嘆 曲q 麗 、 カ 、 舶子 、 麟.制 h O 帥 、 興 爪 鰻 . 二 、 壇 一 〒 r 珂 、 資 ( カ , ) 禍複合謡 の意味 構成 ト げ
噸
擁㌔
張
勲
興 閣 . 店, 興 螺 蝿 甜 薩摩 、 棚、 陸 汕 ゜空 、 生 精爆 ホ ・ 薦 与 出亀 、 塩 尾 帖興 ゜乗 巾 毒 が 直 餅 、 写 , ) 都 一 君 L 嘆 凶喘 、 凱、 煙 厄 逆 合 い 選 喰 岨 無 覗 司 撰 祠 典 塊 肪 、 °囁 哩-瑚 、 肌 、 踊 、 輯-冊 沖、 横 一 和堰 個 、 窒 興 地 借 せ鰍
讐場
譲 ・
詑 、 直. 夢 . 韓. 閥 忙 } 讐゜ 日 く . 匙菰 、 折晒 、 瓢 、 、 無鞘-哩紐 、 ,璽 噴 刷 一 瞭 、 嚥 世 . 酊 、 例 悼. へ 目. 団 腰 邑 、 異 粘 、 笠 、 唖 、 冠 、 與[,電心 、 言 、 侮 袖 、 稽 、 丁 、 岨 、 手 、 毎 山﹃楓 、 唖火.唄価 、 目 卑. 門 向 う 、 樋 、 刷 釘 、 枷 . 鍬 富岳 帯 脚-"、 咀 、 賊 、 ﹄` 興砧 、^ 逆 寄 噸 年 、 , 駐 耳 最 ・ 切 o噸
麟
煙
異
隔
犠
先 . 腕 世 、 叢 、 螺 苧 、 屈 、凹 、此 、 封 、 塩 、 備 壮 、 胴 盟 韓 、 寸. 下、 蹴 隔 柑 ﹃ 、 両 、 翰 火 直 、 一 町 駐 画 十 熈 艘 . 同 頓 嗅 モ 細 紬 む 曜 恥, 阻 、 闇所 、 道場 、 柚 喚,叩 ゜階 五 八 野 悼岩 與 、 塩、 噴 蹴 、 世、 世 舐㎜ 、 山 有 田 ﹂° ° 胆 万 里、 九 貧 龍 摩 、 踊戸 、 薦 蝦 蝦 梶 項 嘆 キ 鰹 、 池 謂 ノ 、 描 、 白 、 癖 君 ら 、丸 叫コ 叢 .聚 焼 け 胸 朝 、 タ 色 -° 昌 う 程 、 潮 、 碇 吼 . 雪 坐 、 尭 砧L ホ 、 ・ 醒 1 , , l l -I I . . 1 寺 . 匡 ■ 1 ﹂ ▼ . ' 咽一 , ﹁ 囑 咽 卜 I I-1 匡臣 ﹂齢 ー . ー ー ー ` 菊 一 草 、 品-水 與 冬 霜文林 三十六号 こ こ で 得 ら れ た 複 合 語 の 後 項 の 部 分 に 、 国 立 国 語 研 究 所 の ﹃ 分 類 語 彙 表 ﹄ に よ る 分 類 番 号 を 付 し て み た 。 こ れ に よ っ て ソ ー ト を 掛 け る と 、 類 似 し た 意 義 を 有 す る 語 が 近 く に 並 ぶ 。 特 に 、 活 用 形 式 が 異 な っ て 自 動 詞 ・ 他 動 詞 と し て 対 立 す る も の は 、 隣 接 し て 現 れ て く る 。 そ の 中 か ら 、 複 合 語 と し て の 実 例 の 比 較 的 多 い も の 、 顕 著 な 傾 向 を 示 す も の を 撰 ん で 表 示 し た の が 、 こ こ に 掲 げ た 表 と な る 。 こ こ で 、 後 項 に 来 る 動 詞 出 自 の 語 が 自 動 詞 か 他 動 詞 か で 、 前 項 の 体 言 と の 意 味 関 係 に は か な り の 差 が 傾 向 と し て 現 れ る こ と が 看 取 で き る 。 す な わ ち 、 他 動 詞 的 意 味 を 有 す る 語 に 対 し て 、 前 項 の 体 言 が 主 格 に 立 つ よ う な 構 成 を 示 す の は 、 表 の 冒 頭 に 挙 げ た ﹁ 神 隠 し ﹂ く ら い の も の で あ っ て 、 他 に は ま ず 見 ら れ な い 現 象 で あ る 。 前 項 主 語 、 後 項 述 語 の 構 成 を 採 る も の は 、 そ の 後 項 は す べ て 自 動 詞 出 自 の 語 で あ る 。 逆 に 、 前 項 が 助 詞 ﹁ を ﹂ を 採 っ て 後 項 の 動 作 概 念 の 対 象 と な る よ う な 意 味 関 係 で 結 ば れ る 場 合 は 、 そ の 後 項 は 他 動 詞 出 自 の も の で あ る 。 場 所 や 時 間 、 目 的 や 手 段 、 材 料 な ど を 表 す よ う な 、 助 詞 ﹁ に 、 で 、 と し て ﹂ な ど で 関 連 さ せ る 結 合 の 場 合 は 、 後 項 の 自 ・ 他 の 区 別 で あ る 程 度 の 傾 向 は 見 せ る と は い え 、 そ れ ほ ど 顕 著 な 差 は な い 。 二 と こ ろ が 、 こ こ に 問 題 に な る 複 合 語 の 例 が あ る 。 ﹁ 男 好 き ﹂ は 、 ひ た す ら 心 空 に 、 一 向 男 数 寄 の 身 と な り ゆ く そ れ は 、 ﹁ 男 好 き ﹂ と い う 語 で あ る 。 浮 世 草 子 ・ 好 色 三 代 男
複合語 の意味構成 男 ぎ ら ひ だ か 、 男 好 だ か 知 れ や あ し ま せ ん は 人 情 本 . 春 色 梅 児 誉 美 妾 く し は 男 好 き で -心 底 は 小 説 に あ る や う な 恋 が し て 見 た く て 男 の 方 に は 大 抵 誰 に で も 惚 れ て 見 ま す が 内 田 魯 庵 ・ 社 会 百 面 相 で も い く ら 男 好 き で も こ ん な の は み な 嫌 が り ま す か ら ね 島 田 清 次 郎 . 地 上 そ の と お り だ え 、 姉 妹 そ ろ っ て 男 好 き だ 石 坂 洋 次 郎 ・ 石 中 先 生 行 状 記 な ど の よ う に 、 他 動 詞 形 ﹁ 好 き ﹂ に 対 し て 、 そ の 対 象 と し て の ﹁ 男 ﹂ を 提 示 し 、 こ れ と 複 合 す る 用 法 が 多 い 一 方 、 い い を ん な し か し 、 美 女 だ 、 男 好 の す る 風 だ 滑 稽 本 . 浮 世 床 た ち 美 人 質 で は な い が 、 男 好 の す る 丸 顔 で 広 津 柳 浪 . 今 戸 心 中 所 謂 男 ず き の し そ う な 、 成 熟 し き っ た 肉 体 や 感 情 を 物 語 る 色 っ ぽ さ を 現 し て い た そ れ に あ の 人 は 、 何 と 云 っ て も 男 好 き の す る 顔 だ か ら お 由 の 方 が 年 上 だ け に ま せ て い て 、 男 好 き の す る 顔 だ か ら 娼 婦 は 広 く て 男 好 き の す る 口 の 端 を こ の 末 娘 は ⋮ ⋮ け っ こ う 男 好 き が す る の で は な い か 男 好 き の す る 、 抱 き 寝 を す れ ば ど う で あ ろ う 、 と 思 い を め ぐ ら し た く な る よ う な 色 が ぬ け る ほ ど 白 く 、 男 好 き の す る 顔 立 ち と い え た 里 見 諄 ・ 多 情 仏 心 芥 川 龍 之 介 ・ お 律 と 子 等 と 岡 本 綺 堂 ・ 半 七 捕 物 帳 大 江 健 三 郎 ・ 戦 い の 今 日 北 杜 夫 ・ 楡 家 の 人 々 司 馬 遼 太 郎 ・ 国 盗 り 物 語 司 馬 遼 太 郎 ・ 大 夫 殿 坂
文林 三十六 号 三 十 二 だ が 、 小 柄 で 、 ぽ ち ゃ っ と し て お り 、 胴 の く び れ た 男 好 き の す る タ イ プ で か な り 美 貌 で あ っ た 水 上 勉 ・ 雁 の 寺 な ど の 例 は 、 い ず れ も ﹁ 男 が 好 く ﹂ こ と を 表 現 し 、 ﹁ 男 ﹂ は ﹁ 好 く ﹂ の 主 語 と し て 設 定 さ れ て い る 。 こ の 両 者 に は 表 現 形 式 の 違 い が あ っ て 、 ﹁ 男 を 好 く ﹂ の 意 の 時 は ﹁ 男 好 き だ ﹂ も し く は こ れ に 準 ず る よ う な 表 現 と な り 、 ﹁ 男 が 好 く ﹂ の 場 合 は ﹁ 男 好 き の す る ﹂ の 形 が 圧 倒 的 に 多 い 。 こ れ は 、 対 応 す る よ う な 複 合 語 ﹁ 女 好 き ﹂ の 方 も 同 様 で 、 を な ご 女 好 き の 帥 直 、 其 儘 声 か け 歌 舞 伎 ・ 仮 名 手 本 忠 臣 蔵 女 す き て 、 腎 虚 火 動 て 、 ほ へ ほ へ し な れ た と 、 か い ほ う し た 書 生 か は な し 也 上 田 秋 成 ・ 胆 大 小 心 録 女 子 好 き な ら 八 丈 へ 行 き や れ 、 八 丈 昔 は 女 護 の 島 歌 謡 ・ 山 家 鳥 虫 歌 お れ が 女 ず き だ と い っ て 、 そ ふ う ま く 化 さ れ る も の か 談 義 本 ・ 無 事 志 有 意 か た そ う に 見 へ て す こ ぶ る 女 す き 川 柳 ・ 柳 多 留 拾 遺 大 ち が ひ 、 こ ふ 見 え て も 極 女 好 き で よ は る ヨ 人 情 本 ・ 春 色 辰 巳 園 な だ い ご ぜ ん を ん ぱ 此 邸 の 殿 様 が 評 判 の 女 好 き で 御 飯 炊 か ら 乳 嬬 さ ん ま で 意 地 汚 な を や る ん で 内 田 魯 庵 ・ 破 垣 こ の 多 裏 丸 と 云 う や つ は 洛 中 に 俳 徊 す る 盗 人 の 中 で も 、 女 好 き の や つ で ご ざ い ま す 芥 川 龍 之 介 ・ 藪 の 中 あ の ひ と は 有 名 な 女 好 き じ ゃ な い の 尾 崎 士 郎 ・ 人 生 劇 場
複合語 の意味構成 銀 行 員 は 気 の 弱 々 し げ な 男 で 、 酒 も の ま ず 、 煙 草 も の ま ず 、 ど う や ら 女 好 き で あ っ た 太 宰 治 . 彼 は 昔 の 彼 な ら ず お れ は き っ と 本 当 は 生 れ つ き 女 好 き だ っ た の が 伊 藤 整 . 氾 濫 院 長 が ⋮ ⋮ 御 多 分 に も れ ぬ 女 好 き で 北 杜 夫 . 楡 家 の 人 々 象 山 は 女 好 き だ と 、 勝 塾 の 門 人 達 が よ く あ け す け に 云 っ た も の で あ る 子 母 沢 寛 . お と こ 鷹 な み た い て い な 女 好 き で は な か っ た 頼 芸 は 司 馬 遼 太 郎 . 国 盗 り 物 語 こ の お っ さ ん 、 女 好 き な ん や な 野 坂 昭 如 . ア メ リ カ ひ じ き い く ら 俺 が 女 好 き で も 赤 川 次 郎 . 女 社 長 に 乾 杯 と い う ﹁ 女 を 好 く ﹂ の 意 味 を 有 す る 表 現 が 、 ﹁ 女 好 き だ ﹂ の 形 で 使 わ れ る の に 対 し て 、 女 の 方 か ら 引 っ か か っ て 見 た い と 考 え る ほ ど の 男 は 、 よ く よ く 女 好 き の す る も の を 持 っ て い る も の よ 室 生 犀 星 ・ 性 に 眼 覚 め る 頃 あ た し が 普 通 の 女 だ っ た ら 、 世 間 並 み に 、 た だ 女 好 き の す る 男 、 さ う 云 ふ 男 に で も か ら だ を 委 せ た か も 知 れ ま せ ん 岸 田 国 士 ・ 古 い 玩 具 大 木 戸 登 は 背 丈 が 高 く 、 顔 は 苦 み 走 り 、 女 好 き の す る 外 貌 を 備 え て い る 上 に 田 村 泰 次 郎 . 男 鹿 何 し ろ ち ょ っ と 女 好 き の す る 顔 立 ち で 、 す っ き り と し た 、 役 者 の よ う な 所 が あ っ て 、 ダ ン ス 仲 間 で ﹁ 色 魔 の 西 洋 人 ﹂ と 云 う 噂 が あ っ た ば か り で な く 、 谷 崎 潤 一 郎 ・ 痴 人 の 愛
文林 三十 六号 く ど か れ た ら 考 え て み る 気 に な る か も し れ な い 、 そ れ だ け の 女 好 き の す る 魅 力 を 安 田 の 顔 と 人 が ら は 持 っ て い た 松 本 清 張 ・ 点 と 線 沢 の 小 太 り で 髭 の そ り あ と の 青 い 女 好 き の す る た の も し 気 な か お ば か り が む ん む ん し て い て 源 氏 鶏 太 ・ 定 年 退 職 ﹁ 女 が 好 む ﹂ の 意 味 の 場 合 も 、 ﹁ 男 好 き ﹂ と 同 じ よ う に 、 ﹁ 女 好 き の す る ﹂ に 形 は 限 ら れ る 。 こ の よ う に 、 表 現 形 式 に 差 が あ っ て も 、 こ の ﹁ 男 好 き ﹂ ﹁ 女 好 き ﹂ は 、 と も に ﹁ ∼ を 好 く ﹂ ﹁ ∼ が 好 く ﹂ の 双 方 の 意 味 を 含 む の で あ る が 、 こ の こ と は 複 合 語 の 意 味 構 成 の あ り 方 か ら す れ ば 、 や は り 異 常 な も の と 見 な け れ ば な ら な い 。 三 そ の こ と を も う 少 し 検 証 し て み よ う 。 ﹁ 好 き ﹂ の 対 義 語 ﹁ 嫌 い ﹂ が ﹁ 男 ・ 女 ﹂ に 接 す る よ う な 例 は 、 次 の よ う な も の で あ る 。 [男 嫌 い ] 諸 国 よ り も 、 こ む す あ 、 又 は 男 ぎ ら ひ の 女 、 徒 者 、 若 後 家 な ん ど が つ ど ひ よ る な り 身 は よ ご れ て も 男 嫌 の 事 男 嫌 ひ を す る は 、 人 も て は や し て は や る 時 こ そ 其 男 嫌 ひ が 面 白 い 、 色 の い ろ は か ら 教 へ て 洒 落 物 に し て や る べ い か 米 八 さ ん は 日 頃 男 ぎ ら ひ だ の 堅 い の と 他 が い っ て ゐ る じ ゃ あ り ま せ ん か 仮 名 草 子 ・ 都 風 俗 鑑 浮 世 草 子 ・ 好 色 二 代 男 浮 世 草 子 ・ 好 色 一 代 女 歌 舞 伎 ・ 名 歌 徳 三 舛 玉 垣 人 情 本 ・ 春 色 梅 児 誉 美
複合語 の意味構成 札 付 き の 男 ぎ ら ひ と 名 を と る ま で ど ん な に 苦 労 を し た こ と か 人 情 本 . 春 色 辰 巳 園 何 し ろ 男 嫌 ひ で 通 し て き た 女 な ん だ か ら ね 、 始 末 に お へ な い や ね 小 山 内 薫 . 大 川 端 十 八 に な っ た お 島 は 、 そ の 頃 そ の 界 隈 で 男 嫌 い と い う 評 判 を 立 て ら れ て い た 徳 田 秋 声 . あ ら く れ あ の 摂 津 で も 小 中 将 で も ま だ お れ を し ら な い 内 は 男 嫌 い で 通 し て い た も の だ 芥 川 龍 之 介 . 好 色 そ れ が 又 純 真 な 傷 き 易 い 娘 時 代 で 一 段 と 堪 え た と 見 え 、 癒 し が た い 男 嫌 い に な っ て し ま っ た の で し ょ う 菊 池 寛 ・ あ る 恋 の 話 [女 嫌 い ] か か る 女 嫌 ひ も 世 に 又 あ る も の か な 浮 世 草 子 . 男 色 大 鑑 い や い や 愚 僧 は 女 ぎ ら ひ 、 ゆ る し て く れ よ と 尻 ご み す る も を か し 浮 世 草 子 . 御 前 義 経 記 讐 に い ふ 女 ぎ ら ひ と や ら ん の 人 に も や 人 情 本 . 仇 競 今 様 櫛 イ 、 ヤ 、 な ん ぼ 櫻 川 善 孝 の 息 子 で も 女 ぎ れ へ と い ふ 請 人 は あ る め へ 人 情 本 . 春 色 梅 児 誉 美 洪 農 君 は 女 嫌 ひ の 豪 傑 な り 矢 野 龍 渓 . 経 国 美 談 ま さ か 先 生 だ っ て 女 嫌 い だ と い う 訳 で も ご ざ い ま す ま い 島 崎 藤 村 . 新 生 僕 も 決 し て 自 分 を 女 嫌 い だ と も 思 っ て い な い け れ ど 里 見 弾 ・ 多 情 仏 心 女 嫌 い か と 言 わ れ た ほ ど の 変 わ り 者 で 、 夜 遊 び に な ど に は 眼 も く れ ず 島 崎 藤 村 ・ 夜 明 け 前 で も 北 原 っ て ひ と だ け は べ つ だ わ ね 、 あ の ひ と 女 嫌 い な ん で す っ て よ 山 本 周 五 郎 ・ 契 り き ぬ
文林 三十六号 い ず れ も ﹁ 男 ﹂ や ﹁ 女 ﹂ は ﹁ 嫌 う ﹂ 対 象 と し て 意 味 づ け ら れ て い て 、 男 や 女 が 嫌 う わ け で は な い 。 次 に ﹁ 好 き ﹂ を 後 項 と す る 複 合 語 を 眺 め て み る と 、 次 の よ う な 構 成 が 見 ら れ る 。 遊 び ∼ 、 新 し 物 ∼ 、 甘 い 物 ∼ 、 医 者 ∼ 、 悪 戯 ∼ 、 陰 謀 ∼ 、 噂 ∼ 、 運 動 ∼ 、 音 楽 ∼ 、 快 速 ∼ 、 菓 子 ∼ 、 管 理 ∼ 、 管 理 監 督 ∼ 、 外 出 ∼ 、 学 者 ∼ 、 学 生 ∼ 、 学 問 ∼ 、 客 ∼ 、 教 育 ∼ 、 規 律 ∼ 、 綺 麗 ∼ 、 行 政 ∼ 、 議 論 ∼ 、 公 卿 ∼ 、 計 画 ∼ 、 研 究 ∼ 、 コ ー ヒ ー ∼ 、 講 釈 ∼ 、 功 名 ∼ 、 骨 董 ∼ 、 子 供 ∼ 、 策 謀 ∼ 、 酒 ∼ 、 茶 道 ∼ 、 社 交 ∼ 、 将 軍 ∼ 、 勝 負 事 ∼ 、 書 画 ∼ 、 乗 馬 ∼ 、 情 報 ∼ 、 相 撲 ∼ 、 清 潔 ∼ 、 政 治 ∼ 、 整 頓 ∼ 、 世 話 ∼ 、 穿 盤 ∼ 、 煙 草 ∼ 、 茶 ∼ 、 釣 ∼ 、 天 子 ∼ 、 出 ∼ 、 出 歩 き ∼ 、 道 具 ∼ 、 動 物 ∼ 、 読 書 ∼ 、 賑 や か ∼ 、 に ぎ や か な 事 ∼ 、 女 房 ∼ 、 温 湯 ∼ 、 念 仏 ∼ 、 初 物 ∼ 、 派 手 ∼ 、 花 ∼ 、 話 ∼ 、 葉 巻 ∼ 、 博 打 ∼ 、 バ ッ ジ ∼ 、 美 術 ∼ 、 美 談 ∼ 、 ビ リ ヤ ー ド ∼ 、 風 呂 ∼ 、 武 芸 ∼ 、 文 学 ∼ 、 平 和 ∼ 、 勉 強 ∼ 、 本 ∼ 、 祭 ∼ 、 名 家 ∼ 、 モ ダ ン ∼ 、 物 ∼ 、 焼 物 ∼ 、 山 ∼ 、 有 名 ∼ 、 横 ∼ 、 料 理 ∼ 、 旅 行 ∼ 、 理 論 ∼ 、 連 歌 ∼ こ れ ら は 、 ﹁ 男 好 き ﹂ な ど の 用 例 を 捜 し て い る う ち に た ま た ま 拾 い 得 た も の で 、 ﹁ 好 き ﹂ を 後 項 と す る 語 を 網 羅 し よ う と し た も の で は な い 。 に も か か わ ら ず 、 こ れ だ け の 例 が あ る の は 、 ﹁ 好 き ﹂ の 生 産 性 が か な り 高 く 、 現 在 で も 好 み に 応 じ て 造 語 出 来 る こ と を 示 し て い よ う 。 そ の ﹁ 好 き ﹂ を 後 項 と す る 複 合 語 の 前 項 は 、 ﹁ 好 き ﹂ の 対 象 と し て 位 置 づ け ら れ て い る 。 例 外 と な る の は 、 ﹁ 人 好 き ﹂ と い う 語 く ら い で あ ろ う 。 あ の 子 が 見 え ね ば 大 人 ま で も 寂 し い 、 馬 鹿 さ わ ぎ も せ ね ば 串 談 も 三 ち ゃ ん の 様 で は 無 け れ ど 、 人 好 き の す る は 金 持 の 息 子 さ ん に 称 ら し い 愛 嬌 樋 口 一 葉 ・ た け く ら べ
複合語 の意味構成 絶 世 の 美 貌 と い う わ け に も い か な い が 、 な か な か 人 好 き の す る 魅 力 に 欠 け る こ と は な い と 彼 女 は 信 じ て い た し 北 杜 夫 ・ 楡 家 の 人 々 近 世 以 前 に は ﹁ 人 好 き ﹂ の 例 は 見 出 せ な い 。 こ こ で も ﹁ 人 好 き の す る ﹂ と い う 形 で あ る が 、 ﹁ 人 ﹂ は ﹁ 好 く ﹂ 主 語 と し て 位 置 づ け ら れ て い る 。 こ の ﹁ 人 好 き ﹂ の み が こ の よ う に 用 い ら れ て い て 、 他 に 前 項 が 主 語 と 位 置 づ け ら れ る よ う な 語 例 は な い 。 一 方 、 ﹁ 男 ﹂ や ﹁ 女 ﹂ を 前 項 と す る 複 合 語 は 、 ∼ 荒 ら し 、 ∼ 思 い 、 ∼ 暮 ら し 、 ∼ 狂 い 、 ∼ 好 み 、 ∼ 殺 し 、 ∼ 盛 り 、 ∼ 証 し 、 ∼ 泣 き 、 ∼ 憎 み 、 ∼ 望 み 、 ∼ 日 照 り 、 ∼ 振 り 、 ∼ 惚 れ 、 ∼ 勝 り 、 ∼ 交 じ り 、 ∼ 交 わ り 、 ∼ 持 ち な ど が あ る 。 こ の 場 合 の 両 項 の 意 味 関 係 は か な り 多 岐 に 亘 る 。 ﹁ ∼ ヲ 好 み 、 殺 し ﹂ 、 ﹁ ∼ 二 惚 れ 、 交 じ り ﹂ 、 ﹁ ∼ ト シ テ 盛 り 、 振 り ﹂ ﹁ ∼ ガ 暮 ら し 、 持 ち ﹂ な ど 。 し か し 両 項 の 関 わ り 方 は そ の 複 合 語 に よ っ て 定 ま っ て お り 、 二 種 類 の 関 わ り 方 を す る も の は な い 。 だ が 、 四 中 に は 両 義 に 解 釈 で き る 語 も あ る 。 そ れ は 、 ﹁ 男 連 れ ﹂ と ﹁ 女 連 れ ﹂ で あ る 。
文林 三十六号 [男 連 れ ] A 左 隣 に は 男 連 が 四 人 許 ゐ た 、 さ う し て 、 そ れ が 、 悉 く 博 士 で あ っ た 夏 目 漱 石 ・ そ れ か ら B ひ と り 男 つ れ が ご ざ り や し た が 、 ど う し て か 道 で は ぐ れ や し た 滑 稽 本 ・ 誹 語 堀 之 内 い い え 男 連 れ ぢ ゃ ア な い よ 、 大 島 町 の お 万 さ ん と 二 人 切 さ 人 情 本 ・ 春 色 雪 の 梅 あ た し た ち が う っ か り 男 つ れ で あ る い て ゐ よ う も ん な ら 、 す ぐ ち ょ っ と 来 い な ん だ か ら や り き れ な い の 宇 野 浩 二 ・ 子 を 貸 し 屋 し か も こ の 若 い 御 新 造 は 、 時 々 女 権 論 者 と 一 し ょ に 、 水 神 あ た り へ 男 連 れ で 泊 り こ む ら し い と 云 う じ ゃ あ り ま せ ん か 芥 川 龍 之 介 ・ 開 化 の 良 人 最 初 の 一 例 A は 、 そ の 四 人 連 れ が す べ て 男 性 で あ る 。 第 二 例 以 下 の B は 、 女 性 が 男 と 連 れ 立 っ て い る こ と を 、 同 じ 語 形 で 表 現 し て い る 。 も っ と も 、 明 治 の あ る 時 期 に は 、 ﹁ 男 れ ん ﹂ ﹁ 女 れ ん ﹂ と い う 語 形 も 存 在 し 、 ﹁ 連 ﹂ を 音 読 す る か 訓 読 す る か 不 明 の 例 も 多 い 。 [女 連 れ ] A 先 へ 行 た る 器 量 を 誉 め れ ば 、 跡 か ら 来 る 女 連 、 己 が 事 か と 心 得 て に っ と 笑 も お か し 談 義 本 ・ 根 無 草 女 つ れ が 二 一二 人 た っ て 見 て ゐ る う し ろ へ ま は り 滑 稽 本 ・ 東 海 道 中 膝 栗 毛 ま つ 五 六 て う の 駕 篭 を や と ひ て 女 連 を 不 残 乗 せ 人 情 本 ・ 春 色 辰 巳 園 向 う か ら 女 つ れ が 三 四 人 来 た か と 思 ふ と 、 突 然 清 三 は 袖 を 捉 へ ら れ た 田 山 花 袋 ・ 田 舎 教 師
複合語の意味構成 ビ ヤ ト リ ス は 一 入 の 女 伴 れ と 共 に 紅 い 花 を も っ て い た B 女 房 衣 に 取 り 付 き て ⋮ ⋮ わ た し も 連 れ て 行 か し ゃ ん せ 、 女 連 は 邪 魔 に な る ひ と す ぢ 綱 吉 お 万 の 二 人 は 、 春 の 日 の 永 き を も 、 女 連 に は 踏 み 余 る 、 其 の 遠 道 を 一 途 に 寒 月 君 の 女 連 れ を 羨 し 気 に 尋 ね た 事 丈 は 事 実 で あ る 大 阪 言 葉 を 露 骨 に 喋 々 と 雑 話 に 耽 る 女 連 も あ っ た あ の 二 人 の 女 連 れ が 向 う の 桟 敷 に い な く な っ た 時 、 ⋮ ⋮ 勿 論 女 の 方 は い な く な っ て も 、 で 女 連 れ で は あ る し 、 時 機 が 時 機 で 山 本 は 宿 帳 に 現 職 本 名 を 書 か な か っ た ら し い A は 女 同 士 の 仲 間 、 B は 男 が 女 を 伴 う 例 で あ る 。 や は り こ の ﹁ ∼ 連 れ ﹂ の 場 合 も 、 先 行 し た で あ ろ う 。 次 に は 、 動 詞 連 用 形 出 自 の 語 で は な く 、 漢 語 を 後 項 に 持 つ ﹁ 男 自 慢 ﹂ ﹁ 女 自 慢 ﹂ 有 島 武 郎 ・ 惜 し み な く 愛 は 奪 う 浮 世 草 子 ・ 諸 芸 袖 日 記 人 情 本 ・ 春 色 雪 の 梅 夏 目 漱 石 ・ 吾 輩 は 猫 で あ る 田 山 花 袋 ・ 蒲 団 縞 の 背 広 は や は り 隣 の 枡 芥 川 龍 之 介 ・ 開 化 の 良 人 阿 川 弘 之 ・ 山 本 五 十 六 異 性 を 連 れ て い る と い う 表 現 が こ れ と 区 別 す る た め に も ﹁ 男 れ ん ・ 女 れ ん ﹂ と い う 湯 桶 読 み の 語 が 使 わ れ た も の と 推 察 さ れ る 。 と い う 複 合 形 で あ る 。 漢 語 は し ば し ば 文 法 上 の 機 能 と し て は 体 言 相 当 で 、 意 味 と し て は 動 作 概 念 を 表 し て い る 場 合 が あ る 。 こ こ も そ の よ う な 例 で あ る 。 日 本 国 語 大 辞 典 は 、 ﹁ 男 自 慢 ﹂ の 項 に 、 ﹁ 女 が 、 自 分 の 夫 な ど 関 係 の あ る 男 を 自 慢 す る こ と ﹂ と い う ブ ラ ン チ を 立 て る が 、 そ の 用 例 を 掲 げ て い な い 。 ま た 、 私 も 見 出 し て い な い 。 ふ ら る る う ら み 山 の 端 の 色 、 一 分 は 男 自 慢 の 花 盛 り 俳 諸 ・ 談 林 十 百 韻 す こ し 男 自 慢 し て 、 伴 ひ し 者 に 、 是 見 た か 、 此 方 よ り 話 き て も 博 の あ か ざ る 事 も あ る に 、 あ な た か ら の お ぼ し め
文林 三十六号 し 入 、 然 も 去 太 夫 様 か ら じ ゃ 浮 世 草 子 ・ 好 色 一 代 男 婿 は す こ し 男 自 慢 の む ま れ つ き 浮 世 草 子 ・ 世 間 娘 容 気 男 自 慢 は 七 人 の 鼻 に 顕 れ 浄 瑠 璃 ・ 博 多 小 女 郎 波 枕 の 例 は 、 い ず れ も 男 が 自 分 の 男 ぶ り を 自 慢 し て い る 例 で あ る 。 同 書 は ま た ﹁ 女 自 慢 ﹂ の 項 に も ﹁ 男 が 、 自 分 の 関 係 あ る 女 性 の 自 慢 を す る こ と ﹂ と い う ﹁ 男 自 慢 ﹂ と 対 応 し た 説 明 で 、 ぶ ら ぶ ら と 女 自 慢 で の ら ぬ か ご 雑 俳 ・ あ か ゑ ぼ し の 例 を 載 せ て い る が 、 こ れ は さ れ ば 揮 妊 皇 后 の 女 ぢ ま ん も 大 人 び て 、 盛 は 少 し 過 た れ ど 初 花 も ど く 風 情 に て 浄 瑠 璃 ・ 善 光 寺 御 堂 供 養 と 同 じ く 、 女 性 が 自 分 の 女 ぶ り を 自 慢 し て い る 例 と 見 な す べ き で あ ろ う 。 ﹁∼ 自 慢 ﹂ の 場 合 も 、 両 用 に 使 わ れ る 例 は 無 い と 見 る 方 が よ い 。 か く し て 、 同 じ 語 形 を 持 つ 複 合 語 が 、 文 脈 に よ っ て 異 な る 意 味 に 解 釈 さ れ る こ と は き わ め て 稀 だ と い う こ と に な る 。 こ れ は い わ ば 当 た り 前 の こ と で 、 同 義 語 の 衝 突 も な る べ く な ら 避 け た い こ と で あ る し 、 一 語 の 多 義 性 と い う の と は 少 し 性 格 が 異 な る 。 多 義 語 の 多 く は 意 味 領 域 の 拡 張 や 転 義 、 比 喩 的 用 法 な ど か ら 引 き 起 こ さ れ る こ と で あ る が 、 複 合 語 の 場 合 は 、 両 項 の 意 義 的 関 わ り の 問 題 で あ る 。 両 項 の 概 念 が い か な る 意 味 的 関 係 を 結 ぶ か を 表 す 言 語 的 指 標 は 何 も 無 い 。 も と も と 日 本 語 は 、 概 念 間 、 叙 述 間 の 関 連 自 体 は 示 す も の の 、 そ れ が ど の よ う な 関 連 で あ る か ま で を 話 し 手 の 側
か ら 明 示 す る こ と は 少 な く 、 い わ ば 聞 き 手 の 側 に 任 さ れ る と い う 傾 向 が あ っ た 。 む ろ ん 、 聞 き 手 が そ れ を 恣 意 的 に 受 け 止 あ れ ば よ い と い う こ と で は な く 、 む し ろ 、 社 会 的 慣 習 と し て 受 け 止 め 方 の 型 が あ っ た と い う べ き で あ ろ う か 。 と な れ ば 、 ﹁ 男 好 き ・ 女 好 き ﹂ や ﹁ 男 連 れ ・ 女 連 れ ﹂ の 類 は 困 っ た 存 在 に な る 。 当 初 か ら こ の よ う な 事 態 が 併 存 し て い た の で は あ る ま い 。 ﹁ 男 好 き ・ 女 好 き ﹂ の 場 合 、 ﹁ 好 く ﹂ は 、 古 く は む し ろ 自 動 詞 的 に 用 い ら れ て い た 。 む ろ ん 、 そ の 頃 に ﹁ 男 好 き ﹂ な ど の 語 は 使 わ れ て い な い 。 そ し て 、 同 形 の 儘 他 動 的 意 味 で も 用 い ら れ る よ う に な り 、 こ ち ら の 意 味 合 い が 濃 く な っ て く る 。 そ こ で 使 わ れ る よ う に な っ た ﹁ 男 好 き ﹂ は 、 ﹁ ヲ 好 く ﹂ の 意 味 で あ っ た ろ う 。 用 例 の 古 さ は 大 差 な い よ う に も 見 え る が 、 ヲ 型 の 方 が 早 い 。 ﹁ 男 連 れ ・ 女 連 れ ﹂ の ﹁ 連 れ る ﹂ の 場 合 も 、 ほ ぼ 同 様 で あ る 。 ﹁ 連 れ 立 つ ﹂ な ど の 表 現 は 、 自 ・ 他 の 範 疇 で は 律 し き れ な い も の を 含 む 。 所 謂 自 ・ 他 同 形 の 語 で な け れ ば 、 こ の よ う な 事 態 は 起 こ ら な か っ た で あ ろ う 。 と は い え 、 自 他 同 形 語 の 場 合 に は 複 合 語 に 二 つ の 異 な る 意 義 連 結 が 必 ず 起 こ る と い う も の で も な い 。 意 味 関 係 が 、 い わ ば 社 会 的 に 規 定 さ れ る も の で あ る だ け に 、 そ こ に は 社 会 の 風 潮 が 反 映 す る の で あ る 。 複合語 の意味構成 五 両 項 の 意 味 的 繋 が り が 社 会 的 に 規 定 さ れ る 、 と い う の は 、 複 合 語 の 場 合 だ け で は な い 。 連 体 助 詞 ﹁ の ﹂ に よ っ て 結 ば れ る 場 合 も 同 様 で あ る 。 連 体 助 詞 は 格 助 詞 と は 違 っ て 、 前 後 の 体 言 が 意 味 的 に 深 い 関 係 に あ る こ と を 示 し は す る が 、 そ れ が ど の よ う な 意 味 関 係 か に は 関 わ ら な い 。 従 っ て 、 ﹁ の ﹂ に 結 び 合 わ さ れ る 両 体 言 の 意 味 的 関 わ り は 、 実 に 多 彩 で あ る 。 こ こ で は 、
文林 三十六 畳 体 窟 A + 格 助 詞 + 動 詞 + 体 言 B め 形 が 倭 冠 A + の + 体 言 B で 表 現 さ れ る 例 に つ い て 考 え て み よ う 。 東 山 画 伯 の 絵 塒 水 艦 畏 の 証 言 ヨ ー ロ ッ パ の 旅 タ レ ン ト の 写 真 春 の 爾 神 戸 の ホ テ ル 大 器 の 芽 こ の よ う な も の ほ 東 山 画 伯 が 描 い た 絵 満 水 艦 長 が お こ な っ た 証 言 ヨ ー ロ ッ パ を 訪 れ る 旅 / ヨ ー ロ 7 パ へ 行 く 旅 ク レ ン ト を 写 し た 写 真 / タ レ ン ト が 写 っ て い る 写 真 春 に 降 る 雨 神 戸 に あ る ホ テ ル 大 器 に 成 り う る 芽 天 国 の 階 段 / 天 国 へ の 階 段 栄 光 の 道 ノ 栄 光 へ の 道 故 郷 の 便 り / 故 郷 か ら の 便 り 六 田 -・山 の 眺 望 / 六 甲 山 か ら の 眺 望 } 月 よ り の 使 者 天 国 へ 向 か う 階 段 栄 光 へ 突 き 進 む 道 故 郷 か ら 来 た 便 り 六 甲 山 か ら 見 た 眺 望 月 よ り 来 た 使 者
複合語の意味構成 汚 職 の 温 床 と の 噂 汚 職 の 温 床 と さ さ や か れ る 噂 な ど 、 体 言 A は 、 想 定 さ れ る 動 詞 の 主 格 、 対 格 、 場 所 格 、 時 間 格 、 目 的 格 、 到 着 格 、 出 発 格 、 出 自 格 等 々 、 い か な る 格 関 係 で も こ の 形 に 転 換 で き る 。 こ の 際 、 ガ 、 ヲ 、 二 な ど の 助 詞 は 表 現 か ら 脱 落 し 、 そ の 他 の 格 助 詞 は 脱 落 し た り し な か っ た り と 、 落 ち な い も の と が 出 て く る 。 こ の こ と に つ い て は 多 く 論 じ ら れ て き て も い る の で 、 今 は 触 れ な い 。 た だ 、 そ の 脱 落 の 巾 は 、 格 助 詞 の 次 に 係 助 詞 が 下 接 す る 場 合 よ り も か な り 広 範 で あ る 。 実 際 、 ﹁ 故 郷 の 便 り ﹂ な ど は 、 ﹁ 故 郷 か ら の 便 り ﹂ と ﹁ 故 郷 へ の 便 り ﹂ と 、 方 向 と し て は 逆 向 き の 意 味 を 含 み う る 。 往 時 の 流 行 歌 の 題 目 に あ っ た ﹁ 湖 畔 の 便 り ﹂ な ど い う 表 現 も 、 湖 畔 で 書 い て い る 便 り 、 湖 畔 か ら 出 し た (来 た ) 便 り 、 あ る い は 時 に は 、 湖 畔 に 出 す 便 り の 意 味 に も な り う る で あ ろ う 。 だ が 、 実 際 の 表 現 に お い て は 、 場 の 状 況 、 文 脈 の 上 か ら 混 乱 の 怖 れ は 少 な い だ ろ う 。 ま た 、 そ の 怖 れ が あ れ ば 、 格 助 詞 を 挿 入 す る こ と が で き る 。 し か し 、 主 格 や 対 格 の 場 合 は 、 助 詞 を 挿 入 す る こ と は 出 来 な い 。 ﹁ 東 山 画 伯 ﹂ と い う 名 が 出 れ ば 、 人 々 は 有 名 な 東 山 魁 夷 と い う 画 家 を 承 知 し て い る か ら 、 ﹁ 東 山 画 伯 の 絵 ﹂ と い う 表 現 か ら 、 ﹁ 東 山 画 伯 ﹂ が 対 象 と し て 措 定 さ れ る ﹁ を 描 い た ﹂ と い う 動 詞 と し て も 、 ﹁ 所 蔵 し て い る ﹂ と い う 所 有 格 を 表 す も の と も 、 受 け 取 り は す ま い 。 だ が 、 職 業 を 示 唆 す る 呼 称 が 付 か ず 、 聞 き 手 に と っ て 記 憶 に な い 人 名 が 現 れ た な ら ば 、 現 場 か 文 脈 に 依 拠 し な い 限 り 、 体 言 A と 体 言 B と の 関 わ り 方 は 判 断 で き な い 。 最 近 各 地 で 見 掛 け る よ う に な っ た ﹁ 美 人 の 湯 ﹂ と い う 看 板 も 、 か な り 苦 し い 結 び 付 き で あ る 。 そ の 前 に 幾 つ か の 間 題 は あ る 。 ﹁ 美 人 ﹂ と い う と な ぜ 女 性 に 限 ら れ る の か 。 ﹁ 美 男 ・ 美 女 ﹂ と い う 語 は 、 中 世 頃 か ら ど ち ら が 古 く と い う こ
文林 三十六号 と も な く 、 ど ち ら が 多 く と い う こ と も な く 、 よ く 用 い ら れ て い る 語 で あ る 。 男 性 に も 美 男 が あ っ て も よ い 。 で あ る の に 、 ﹁ 美 人 ﹂ と い う 場 合 は 女 性 に 限 ら れ て し ま う 。 つ い で に 、 ビ ナ ン ・ ビ ジ ョ と 呉 音 ・ 漢 音 混 じ り 合 っ た 読 み 方 で 固 定 し て し ま っ た の は ど う い う 事 情 か 。 だ が 、 今 は こ れ ら の 問 題 に は 触 れ な い 。 ﹁ 美 人 の 湯 ﹂ で は 、 体 言 B が ﹁ 湯 ﹂ で あ り 、 こ の 看 板 が 掛 か っ て い る の が 温 泉 場 で あ る か ら 、 そ こ に 想 定 さ れ る 動 詞 は 、 ﹁ 入 る ﹂ で あ る の が 常 識 で あ ろ う 。 ﹁ 湯 に 入 る ﹂ は 自 動 詞 形 で あ る 。 従 っ て 、 こ の よ う な 場 合 、 特 に そ の 体 言 A が 人 を 表 す 語 で あ る 場 合 に は 、 体 言 A は そ の 動 詞 の 主 語 と し て 表 現 さ れ る の が 通 例 で あ る 。 だ か ら 、 ﹁ 美 人 の 湯 ﹂ は 、 ﹁ 美 人 が 入 っ て い る 湯 ﹂ の 意 味 を 表 現 す る 筈 で あ る 。 そ し て 、 あ る 概 念 が 措 定 さ れ れ ば 、 そ の 概 念 に 対 立 す る 概 念 や 、 そ の 意 味 範 疇 に 属 し な い 概 念 は 排 除 さ れ る の が 当 然 で あ る 。 そ れ 故 、 ﹁ 美 人 の 湯 ﹂ に は 不 美 人 は 、 あ る い は 美 人 の 範 疇 に 入 ら な い よ う な 人 ( す べ て の 男 性 を 含 ん で ) は 入 っ て い な い 、 と 見 な さ な け れ ば な ら な い 。 入 浴 し て い る ( あ る い は 入 浴 し よ う と す る ) 人 は 、 他 称 、 も し く は 自 称 ﹁ 美 人 ﹂ に 限 ら れ て い る 筈 で あ る 。 む ろ ん 、 実 際 に 人 々 は そ の よ う に は 、 受 け 取 っ て い な い だ ろ う 。 ひ ょ っ と す る と 、 男 は 美 女 の 集 団 が 入 っ て い る の か な 、 と 想 像 す る か も 知 れ な い が 、 女 性 は ( そ し て 多 く の 常 識 的 な 人 は ) こ の 湯 に 浸 か っ た ら 美 人 に な れ る の か な 、 と 思 う で あ ろ う 。 確 か に 、 先 に 挙 げ た よ う な ﹁ 大 器 の 芽 ﹂ の よ う な 表 現 は あ り う る 。 ま た 、 ﹁ 子 宝 の 湯 ﹂ と い う 表 現 が あ り 、 そ の 湯 に 入 れ ば 子 宝 に 恵 ま れ る こ と を 期 待 で き る 湯 の 意 味 で あ る か ら 、 ﹁ 美 人 に な り う る 湯 ﹂ と い う 解 釈 は 成 立 し な い わ け で は な い 。 し か し 、 ﹁ 子 宝 の 湯 ﹂ に 入 湯 を 望 む の は 、 子 宝 に 恵 ま れ て い な い 人 で あ ろ う か ら 、 も し そ の 湯 が 、 入 浴 す る こ と に よ っ て 美 人 に な れ る の で あ る と し た ら 、 理 屈 の 上 か ら は 、 そ こ に 入 っ て い る 人 た ち は 美 人 候 補 者 、 つ ま り 、 現 在 の 所 、 美 人
複合語の意味構成 の 範 疇 に は 属 さ な い 人 、 と い う こ と に な り か ね な い 。 ﹁ 美 人 の 湯 ﹂ の 普 遍 的 な 解 釈 で あ る 筈 の ﹁ 美 人 が 入 っ て い る 湯 ﹂ と は 反 対 の 事 態 を 想 定 し な く て は な る ま い 。 と は い え 、 こ れ は か な り 稀 な 例 で あ り 、 ﹁ 二 成 り う る ﹂ を 補 う の は か な り 苦 し い 。 そ れ は こ の 語 構 成 の 曖 昧 さ 、 幅 広 さ に 縄 っ た 相 当 に 無 理 な 日 本 語 と 云 わ ね ば な ら な い だ ろ う 。 本 来 は 、 体 言 A が 人 を 表 す 語 で あ る 場 合 、 想 定 さ れ る 動 詞 が 自 動 詞 で あ れ ば 体 言 A は 主 格 、 他 動 詞 で あ れ ば 対 格 を 想 定 す る の が も っ と も 普 通 の あ り 方 で あ る 。 そ れ が 人 以 外 を 表 わ す 語 で あ る と 、 両 要 素 間 の 意 味 関 係 は は な は だ 曖 昧 に な る 。 ﹁ し あ わ せ の 村 ﹂ な る も の が 設 け ら れ て い る が 、 実 体 は ﹁ し あ わ せ ﹂ を 希 求 す る よ う な 人 が 集 ま る 施 設 で あ る 。 さ る テ ー マ パ ー ク に ﹁ ひ ま わ り の 湯 ﹂ と い う の が 開 設 さ れ た と 宣 伝 に あ っ た 。 ﹁ ひ ま わ り の 湯 ﹂ と は ど の よ う な も の で あ ろ う か 。 ひ ま わ り が 煎 じ て 入 れ て あ る の で も あ る ま い し 、 湯 の 中 に ひ ま わ り が 生 え て い る の で も な い だ ろ う し 、 ひ ま わ り 畑 の 真 ん 中 に あ る 露 天 風 呂 で で も あ る の か 、 単 に 周 囲 の 壁 面 に ひ ま わ り の 絵 が 描 い て あ る の だ ろ う か 。 こ れ な ど 、 実 際 に そ の 施 設 を 見 聞 し な い 限 り 、 言 葉 の 上 で は ﹁ ひ ま わ り ﹂ と ﹁ 湯 ﹂ が ど の よ う な 関 係 に あ る の か 、 ま っ た く 想 像 で き な い 。 日 本 語 の 用 法 と し て は 無 理 な も の だ と 言 わ ざ る を え な い だ ろ う 。 二 〇 〇 一 年 度 国 語 学 会 春 季 大 会 で あ る 。 ﹁ 男 好 き ・ 女 好 き 付 け た り 美 人 の 湯 ﹂ と 題 し て 講 演 し た も の を 、 改 め て 文 章 化 し た も の で