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古今著聞集における「なまめかし」について

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古今著聞集における「なまめかし」について-な か ご ろ ー 村     英     子 謙倉時代の文学作品になると'平安文学に隆盛を極めた美的語 詞'「なま.め-」「なまめかし」は激減する。戦記文学においては すっかりその影を潜めてしまい'説話文学においてはその出現は希 少である。 今ここで'説話文学の三つの作品について'「なまめかし」を検 討してみることにする。﹃宇治拾遺物語﹄から﹃十訓抄﹄﹃古今著聞 集﹄と歴史的順序に従って点検すると'﹃宇治拾遺物語﹄ において は「なまめく」 「なまめかし」 は皆無であり'﹃十訓抄﹄ には後述 するが「なまめ-」が一例あり'﹃古今著聞集﹄ には「なまめ-」 二例と「なまやか」という新しい語形が二例出現する。今回ここで は﹃古今著聞集﹄に焦点を搾って検討することにしたい。 申比なまめきたる女房ありけり。 の 世 申 た え ぐ し か り け る ( い ) が、みめかたちあひぎゃうづきたりけるむすめをなんもたりけ る。十七八ばかりなりければ'これを'いかにもしてめやすき おもひ さまならせむと恩ける。 . ( 巻 第 五 「 和 歌 第 六 」 ) ﹃古今著聞集﹄における「なまめ-」「なまやか」の用例は次の四 例である。 川一七三 或女石清水に参寵詠歌して紳徳を蒙る事 ㈲ 四三二 朱雀門の上に女賊病臥の事 こ ろ の いづれの比のことにか'西京なるもの'夜ふかく朱雀門の前 す ぎ は べ り を過けるに'門のうへに火をともして侍けり.この門には'む すみはべる かし鬼すみけるとき-に'今も住侍にやと'おそろしさかぎり す ぎ あ る ( ほ ) な-て過ぬ。そののち'又或夜とをるに'さきのどとく火をと もしたり。この事あやし-て'在地に披露し万れば'死生不知 ゆ き の村人ども評定して'「いざ行てみん」とて'そこぱくきたり のぼり て'門に登てみければ'いとなまやかなる女房1人ふしたりけ り。おもひよらぬ事なれば'ぼけ物なめりと'おそろしなが ヽ b t   こ の 乞 . 、 は や . く 盗 _ へ け d 0 R J こ ご ろ り よ こ . ' . i u ( 杏 ) ヽ 一   l J   ヽ 一     J t   ' ヽ ノ

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-53-仙一七三 或女石清水に参寵詠歌して紳徳を蒙る事 り。おもひよらぬ事なれば'ぼけ物なめりと'おそろしなが ' u ろ ら'ことの子細をとふに'ほや-盗人なりけり。とし比この門 が う だ う ( ひ ) にすみて'夜々は強盗をしてすぎけるがへ この程手をおいて' はべり やみふして侍けるなり。 ( 巻 第 十 二 「 倫 盗 第 十 九 」 ) の . ( 杏 ) みちの-に田村の郷の住人'馬允なにがしとかやいふおの こ、鷹をつかひけるが'鳥をえずしてむなしくかへりけるに' あかぬまといふ所に'をしの1つがひゐたりけるを'くるりを ( い ) ( 香 ) もちて射たりければ'あやまたずおとりにあたりてけり。その をしを'やがてそこにてとちかひて'えがらをばえぶくろにい ㈲ 四三三 検非違使別嘗隆房家の女房強盗の事露頼して禁獄の 事 の い り そ の 堕居大納言'検非違使別富のとき'白川に強盗人にけり。其 家にす-やかなるものありて'強盗とた∼かひけるが'なにと な-て強盗の中にまざれまじはりにけり。うちあはんには'-L rおはせんことかた-おぼえければ'、かくまじはりて'物わけん ゆ . 普 所に行て'強盗のかはをも見'又ちり{-にならん時1家をも 見いれんとおもひて'か-はかまへ.けり..さてt tもなひて朱 の 雀門適にいたりぬ。おの - 物わけて'この男にもあたへてけ れて'家にかへりぬ。そのつぎの夜の夢に' いとなまめきたる ( い ) りO 強盗の中に'いとなまやかにて'こゑけは一ひよりはじめ て'よに尋常なる男の'とし廿四五にもやあるらんとおぼゆる の あり。どう腹巻に'左右こてさして'長刀をもちたりけり。ひ も ろ も ろ をくゝりの直垂はかまに'ぐ∼りたか-あげたり。諸の強盗.の ( お ) げ ち 主領とおぼし-て'ことをきてければ'みなその下知にしたか はペり ひて'主従のどと-なん侍けりO・・・・・・・・・ ( 巻 第 十 二 「 倫 盗 第 十 九 」 ) ( ひ ) 女のちいさやかなる'枕にきてさめぐとなきゐたり。あやし ︻ 1 ︺ -て'「なに人のか-はな-ぞ」と問ひければ'「きのふあかぬ ( 杏 ) まにて'させるあやまりも侍らぬに'としごろのおとこをころ ( ゐ ) ま う す したまへるかなしみにたへずして'まいりてうれへ申也。この お も ひ は ぺ る 恩によりて'わが身もながらへ侍まじきなり」とて'1首の歌 を と な へ て ' な く -\ き り に け り 。 ′ ( 巻 第 二 十 「 魚 島 禽 獣 第 三 十 」 ) 以上検討した如く ﹃古今著聞集﹄ においては動詞「なまめく」 が二例'﹃古今著聞集﹄ において新し-「なまやか」という形容動 詞が出現する。では一例ずつその美意識を潔求することにする。 用例闇一七三 或女石清水に参篭詠歌して紳徳を蒙る事 申比なまめきたる女房ありけり。世射たえぐ-しかりける なかごろ の が'みめかた ( い )                     ′ ∼ 蔓 、 . ノ ( . -ノ ちあひざやうづきたりけるむすめをなんもたり ける。十七八ばかりなりければtIこれを'いかにもしてめや 仙 七±ニ馬允其陸奥国赤沼の鴛鳶を射て出家の事 ′ j   お も ひ すきさまならせむと思ける。かなしさのあまりに'

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一七三段の'.F或女石浄水に参寵詠歌して紳徳を蒙る事」と題する 説話は﹃十訓抄﹄にも次のような同1説話がある. ﹃ 十 訓 抄 ﹄ ・ 第 十 可 レ 庶 二 幾 才 能 ・ 聾 業 l 事 申比・なまめきたりける女房'世の中たえぐしかりけるが' ′ 喜 1 -ノ 享 ノ -ー ー みめノ・かたちあひきやうづきたるむすめをなんもちたりける.+ 七八ばかりなりければ'是をいかにもして'めやすきさまならい とおもひけるかなしさに. ' (岩波文庫.T,氷積安明校訂による.) 両書を比較してみると、 - 線部分が改変されている部分である が'話としての内容は同一である。\時代的順序は﹃十訓抄﹄が一二 五二年に成り'﹃古今著聞集﹄ が1二五四年に成っており'時代的 な間隔はあまりないが'﹃十訓抄﹄ の方が二年先に編まれたものと されている。であるから'﹃十訓抄﹄ の文章を﹃古今著聞集﹄に自 己の編もうとする力強い文章に改変して採録したものと考えられ る。また'﹃古今著聞集﹄ より後に成立した説話文学にもこの一七 三話が採録されているようであるがいずれ稿を改めて検討してみた ヽ . 0 L V 女房」と解-よりも「若々しぐて美しい女房」-と訳す方がより妥当 であるかも知れない。「申ごろの頃'若々しくて美しい女房がいた・o この世に恵まれず貧しかったが'、顔かたちに可愛さがあふれた娘を 持っていた.ー十七'.八歳ほどになったので'㌧この娘をなんとかして 見苦しくない様化させてやろうと思っていた」と. '若々しY美しい 女性に対してその美を求めている。十七・八歳の娘を持つ母親であ るが'若々しい感じの美しい女性であったと推測出来る.「なまめ き」JNいう語形闇動詞の連用形であるが'この「なまめY」・という 美朗語詞が明確に初満て認められる初出の作品は',平安初期の﹃伊 勢物語﹄ である。次に ﹃伊勢物語﹄の「なまめ-」の用例を示す と ' ① 昔'男ありけり。うひかぶりして'ならの京'かすがのさと にt Lるよしして'かれにいきけり。そのさとに'いともな劇 矧剖たるをむなばらすみけり。 ② 昔'かやうのみ.ことまうすみこをはしけり。そのみこ'をむ なかごろ さて'、「中比なまめきたる女房ありけり」・と'・説話樽有の冒頭語 「中比」 という巻頭の副詞の次に'ここで問題にしている「なまめ き」という美的語詞が使用されている。7「なまめぐ」 の意義につい ては'初出の﹃伊勢物語﹄から現代の辞書が解-意義に至るまでい ろいろな意義の変遷がみられるが'この箇所においては'「世の中 たえぐしかりけるが」とあるところから「上品な女房」 「優美な. なをいとかしこうめしっかひ給・けり。いとなまめきてありけ るを'わかき人は'ゆるさざ匂けり. (朝日新聞社刊'日本古典全書による)十 と'「なまめ-」の初出はいずれも動詞の連用形であり'みずみず しい若さを述べている。﹃伊勢物語﹄の用例①と'.﹃古今著聞集﹄の 用例山を比較した時'「・・・・・・・・・けり(る)」 と力強い文体'.また' 「なまめき」 という動詞の連用形の表出方法'.〟若々しくそ美し い″という語気が感じられる所など'﹃伊勢物語﹄ の「なまめ-」 げなり。

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-55-ろいろな意義bl変遷か量、レ一㌢PJLOカ こb'層1月いTVL「む 7+L`︻ たえぐしかりけるが」とあるところから「上品な女房」「優美な. . . ノ 」 1 ー -一 「なまめき」という動詞の連用形の表出方法tI〟若々しく・て美し い″という語気が感じられる所など'﹃伊勢物語﹄ の「なまめく」 の用法を意識的に採り入れたものであろうか。いずれにせよ「なま めく」という平安美の風雅の精神を、そのまま受け入れようとする 態度が見られ'王朝美をなつかしんでいる意識がうかがわれる。 次に﹃古今著聞集﹄の用例脚を検討する。 用例㈲ 四三二 朱雀門の上に女賊病臥の事 あ る ( ほ ) -( 前 略 ) -又 戎 夜 と を る に ' さ き の ご と く 火 を と も した、り0 この事あやしくて'在地に披露しければ'死生不知 ゆ 、 き の村人ども評定して'「いざ行てみん」とて'そこぱくきた のぼり りて'門に登てみれば'いとなまやかなる女房1人ふしたり けり。おもひよらぬ事なれば'ぼけ物なめりと'おそろしな どろ がら'ことの子細をとふに'はや-盗人なりけり。とし比こ がうだう の門にすみて、夜々は強盗をしてすぎけるが'この程手をお ( ひ ) は べ り いて'やみふして侍けるなり。 「なまめかレ」 という語詞の歴史上'この﹃古今著聞集﹄におい て'ここに初めて「なまやかなる」という新しい語形で出現する。 もちろん'これは形容動詞の連体形である。これに類した意の語は 「なまめかしげ」 という形容動詞の語形で古く﹃落窪物語﹄に次の ような用例がある。 o 君は患づねびまさ勺て'いとめでたうて居給へれば'いみじ く幸おはしけると覚ゆ。そよそよとさうぞき'汗診重ね著たる げなり。 (朝日新聞社刊'日本古典全書による) このように「なまめかしげなり」という形容動詞の終止形で古-表出されているが'この﹃古今著聞集﹄の如く同じ形容動詞であっ ても「なまやかなる」という語形で出現したのは'ここが初出であ る。意義においては「なまめかしげ」も「なまやか」も対象との距 離を置いて'「--の感じであるさま」「いかにも・・・・・・・の感じがする さま」 「いかにも--らしいさま」 「感じとして--・であるさま」 「見た印象として--らしいさま」 の場合に使用する。「なまやか」 は「なま」に「やか」という接尾語が付して創造された語詞と考え られるが'﹃時代別国語大辞典上代編」に次のように解かれている。 。   ︹ 考 ︺   ラ カ ・ ヤ カ は ' と も に ' も と ∼ ラ ・ ∼ ヤ の 形 を も つ 派 生名詞に'さらにカが接尾した結果生じた形であるが'接尾語 ヤの造語能力は'接尾語ラに比して'よりはやく衰え'奈良時 代においてすでに微かな存在となりつつあったために'ヤカが 一語の接尾語として意識されることは'ラカよりもはやかった と思われる。 (「らか」の項の「考」による) 「らか」 「やか」 については問題があるようであるが、ここで紘 「やか」に焦点を搾って少し﹃古今著聞集﹄中における「--やか」 を覗いてみることにする。 人'いと若う清げなる十余人ばかり物語して'いとなまめかし o もとの文字の上をとめて'あざやかになさんはな にの難かあ

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らん。 o 今一度あざやかなる味をす∼めて'心やすくうけ給をきて' .はり衣の暫刊か矧副に'長絹の五帖の架裳のひだあをbL き -' o 其花あざやかなれど'かたぶきふしたりければ'仰によりて 負になりにけり。 o きらびやかに申てけり。偽供物以下の事'注進にまかせて給 てけり。 o 件相撲を'しのびやかにめしよせて'「此中納言が相撲この むがにくきに' ○ 紙国中路といふかたより' 忍やかにぐしてやりてけり。 其家す-やかなるものありて'強盗とた∼かひけるが'なに と な く て -' たけだちするたかに'いとす-やかげなる法師'もの∼ぐは せ で ' をしへつるがごとくにするに' o 暗寵のものあらば'すみ剰抑叫隆頼ゐくだるべし」.。といひた りけるに' o すみやかに'これより鋸給へ」といふを'時秋猶承引せず' o 我に心ざしをおぼさば' るべし」と' すみやかに掃洛して道をまたうせら 0.それにかなはずは' と ' すみやかに流罪におこなはれ侯へかし」 o 「このたびたすかりがたくは' べし」と申て' すみやかにわが命にめしかふ の                                       ( ひ ) 0 番長にはすみやかに他人をなさるべし」とし一叡て申ければ' o すみやかに定輔を配流せられ侯へ」と'なくく申されけれ ば ' o 我道'君父の垂におよはずは' こそ申されけれ。 すみやかに命をめすべし」と o すみやかにさして心み候べし」とて'やがてまかりいでゝ' ヽ このように ﹃古今著聞集﹄ における 「 - やか」には 「あざや

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-57-o たけだちするたかに、いとすくやかけなる山 せ で ' o すみやかにさし て心み候べし」とて'やがてまかりいでゝ' をしへつるがごとくにするに' .す暮副.やー封矧やくそくのま∼に給べし」とせめかけ∼れば' ( お ) o すみやかにもとの所へをくりたてまつるべし」と大におどろ き た る け し き -' ○ すみやかに内侍などに'うかゞひ申され候へ」といふ。 o 御使'向て御教書を付たり万れば' づれにてもはからひて' すみやかにむかひて'い ( ひ ) 0 そのつぎの夜の夢に'いとなまめきたる女のちいさやかな 6 . 枕 に き て -' 0 廿七八ばかりなる女の'はそやかにて'長だち・かみのか∼ り'すべてわろき所もなく' 0 まことに燐の道にいらんのみぞ'まめやかにつきせぬ御祝な るべき。 ヽ このように ﹃古今著聞集﹄ における 「 - やか」には 「あざや ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ か」「きらびやか」「しのびやか」「すみやか」「すくやか」 「ちひさ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ やか」「ほそやか」「まめやか」等の語詞が目につくところである。 これらはいずれも状態性を示す語として表出されている。﹃古今著 聞集﹄においてこれら幾語かの「 - やか」の語が文中にちりばめ られている中で'「なまやか」という語が造語された。そして'「な まめかしい」状態性を示す語詞として'平安美的語詞「なまめ-」 「なまめかし」 を自己流に 「なまやか」と造語しながらも'平安朝 の崇高美へのあこがれの情を大切に残そうとする心がうかがわれ る 。 さて'用例㈲四三二話の「なまやか」の用法を検討すると'その 美の対象はやはり女性であるが'今まで平安朝文学でみられたその 多-は高貴な人物に求められていた美に対して'この謙倉時代を代 表する説話文学﹃古今著聞集﹄においては'朱雀門の上に女強盗が 病臥している状態を「なまやか」と讃えているのは興味をひ-。強 ま な こ 盗といえば普通恐ろしきものとされていて軽蔑の眼で見られるの ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ に'ここでは「いとなまやかなる女房」人ふしたりけり」とある。 まさか高貴な美を発揮するような場面ではない。強盗については ﹃枕冊子﹄に次のような一文がある. あ を ふ ち た に は ら ほ た い た く ろ が ね つ ち く れ い か づ ち 。名おそろしきもの 青淵。谷の洞。鰭板。銭。土塊。富は名 0 まめやかにおもしろげに恩ひて'うちかたぶきく,き∼け り。 のみにもあらずtTいみじうおそろし. ぼ し あ め あ ら の 星。ひぢかさ雨。荒野ら。 は や ち 暴風。ふさうぐも。ほこ がうだう 強盗'またよろづにおそろし。 らんそう'おはかたおそろし。

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いきすだま かなもち'またよろづにおそろし。生量。-ちなはいちご。鬼 む ば ら か ら た ち ず み う し お に い か り わらび。鬼ところ。剤。杓殻。いり炭。牛鬼。碇'名よりも見 るはおそろし。 (百四十八段・朝日新聞社刊'日本古典全書による) この号っに強盗はおそろしきものでやったのに'朱雀門の上にま して病臥の女賊を夜に讃えているのは王朝時代の高貴な美を讃えた それとは異質のものである。やはり'作者が男性らしい筆法を示し ている。 用例㈲ 四三三 検非違使別富隆房家の女房強盗の事露覆して禁 ' 獄 の 事 の い り 隆房大納言、検非違使別富のとき'自廿に強盗人にけり。 その 其家に かなるものありて'強盗とた∼かひけるが'な にとなYて強盗の中にまざれま烏はりにけり。∴っちあはんに は、しおはせんことかたくおぼえければ'かくまじはりて' ゆき 物わけん所に行て'強盗のおはをも見'又ちりぐにならん 時'家をも見いれんとおもひて'かくはかまへけり。さて' の ともなひて朱雀門辺にいたりぬ。おのく物わけて'この男 に79あたへけり.強盗の中に'いとなまやかにて'こゑけは ( い ) ひよりはじめて'よに尋常なる男の'とし廿四五にもやある の ちんとおぼゆるあり.どう腹巻に'左右こ.tJさして'長刀を もちたりけり。ひをく∼りの直垂はかまに'く∼りたかくあ も ろ も ろ ( お ) げたり。諸の強盗の主領とおぼしくて'ことをきてければ' げ ぢ は へ り .みなその下知にしたかひて'主従のごとくなん侍けり。--用例㈲四三二話に引続いて同じ-盗賊談である。説話文学におい ては盗賊物語が必ずといってよい程収載されているが'同じ説話文 学でも今まで検討してきた﹃今昔物語集﹄にも多-の盗賊談がある にもかかわらず'盗賊に対して「なまめ-」 「なまめかし」 美は全 然求められていなかった。であるのに'この﹃古今著聞集﹄におい て「倫盗第十九」所載中の二話に女盗賊に対して「なまやか」とい う語形でその美が求められているのは興味がある。 この用例㈲四三三話においては盗賊団の女頭領の話である。白川 ヽ ヽ ヽ ヽ の邸に盗賊団が押し入る。〟す-やかなる″男が強盗団とた∼かっ、 ているうちに'いつの間にか強盗どもの中にまざれこんでしまう。 戦っても勝ち目がないと恩・つたので盗品の分配も受け'強盗どもの 顔を見おぼえ'どこまでも尾行して行き朱雀門のあたりに着いた。 強盗の中に大変優艶で1見年二十四'五に見える美男の首領がい て'この犯人を検非違使の別当の邸内につきとめたところ'その犯 人は意外に大納言と呼ばれた土蔵の女房であったのである。白昼' 都大路を'きぬかづきをぬがされて'獄に引かれる。諸人が見て驚 かない人はなかった.なんと,実は二十七,八ばかりの女で,〝か ヽ ヽ ヽ そやか″で'背恰好'髪の様子'すべて欠点がな-'優美な女房で あった。という機微に富んだ話である。この倫盗談の中に出てくる 女盗賊'でも'最初は男装をしており年の頃二十四'五歳に見えた 盗賊に対して「なまやか」とその美が求められている。この箇所で も男性であるが女性らしい姿態に対してその美が求められている事 になる。実はこの盗賊男装をしていたのであるが'〟二十七'八歳 h ソ 。

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-59-Jハ も ろ も ろ ( お ) げたり。諸の強盗の主領とおぼし-て'ことをきてければ' ' V ﹄ 托 リ ハ ∼ ト ー J プ t 一 一 I ノ . . も男性であるが女性らしい姿態に対してその美が求められている事 ■ になる。実はこの盗賊男装をしていたのであるが'〟二十七'八歳 の優美な女官であった″とあるから'この「なまやか」な美は'も ともと女性に対して'年の頃は二十四'五歳位の貴婦人を讃える語 として'編者橘成季は捉えているようだ。平安朝文学の﹃とりかへ ばや物語﹄を思わせる筆法である。この四三三話の短篇の中に「す ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ -やか」「ほそやか」そして「なまやか」と状態性を示す語が三語 も使用されているのは注目すべきである。筆者の意識的な特筆であ ろう。そして'「なまやか」 は筆者の王朝美を意識しての造語であ ろう。 用例棚 七1三 馬允某陸奥園赤沼の鴛鴛を射て出家砂事 め ( を ) みちの-に田村の郷の住人'馬允なにがしとかやいふおの こ'鷹をつかひけるが、烏をえずしてむなしくかへりける に」あかぬまといふ所に'をしの1つがひゐたりけるを'-( い ) ( 香 ) るりをもちて射たりければ'あやまたずおとりにあたりてけ り。・そのをしを'やがてそこにてとりかひて'えがらをばえ ぶくろにいれて'家にかヘヤぬ.そのつぎの夜の夢に'いと ( ひ ) hソ〇 七二二話では「なまめき」の下に「ちひさやか」と状態性の語詞 を用いたためであろうか'「なまやか」 とせず「なまめき」という 動詞の連用形で表出されている。夢の中に現われたいかにも小さい 感じのする女性の姿で出現する。おし鳥を射たれためす鳥が人間の 女性の姿で夢の中に現われさめぐと泣く その小さい姿態を悲涙 美、「なまめ-」 という美的語詞で誘えている。この悲涙美につい ては平安期を代表する﹃源氏物語﹄にすでに描出されていた。 o 「いかでか聞ゆべき。世に知らぬ御心のつらさも'あはれも' 浅からぬ世の恩出は'さまざまめづらかなるべき例かな」 と て'うち泣き給ふ気色'いとなまめきたり。(帯木) 。 大将の君は' 世を思し続-る事いとさまざまにて'泣き給ふ さま、 あはれにこころ深きものから'いとさまよくなまめき給 なまめきたる女のちいさやかなる'枕にきてさめで・となき .(i) ゐたり。あやし-て'「なに人のかくはなくぞ」 と問ひけれ ば'「きのふあかぬまにて'させるあやまりも侍らぬに'と ( 香 ) しどろのおとこをころしたまへるか克しみに七へずして'ま ( ゐ ) ま う す お も ひ は べ る いりてうれへ申也。この恩によりて'わが身もながらへ侍ま じきなり」 とて' 1首の歌をとなへて'なくくさ勺にけ へり。(葵) 等数多い用例が見当たることは既発表 (小著「なまめかし」) のと ころである。 n Uu 以上﹃古今著聞集﹄における「なまめ-」 「なまやか」 を検討し た結果'「なまめ-」11例については﹃伊勢物語﹄﹃源氏物語﹄等の 影響が見られ'「なまやか」については'新しい語形の造語で'そ の対象となすものも'王朝期にあまり例がなかった「女賊」を扱 っているのは興味をひ-ところである。しかし'用例櫛の四三三話

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については'その用法'すなわち'男装をした女性を対象とした所 等﹃とりかへばや物語﹄を思い出させる場面がある。「なまやか」 は形容動詞であり'すでに王朝初期の作品﹃落窪物語﹄に「なまめ かしげ」.という形容動詞が使用されているにもかかわらず'「なま めかしげ」を使用せず'「なまやか」 という新しい語形を造語した ことは'.筆者の言語感覚に秀でた表れと思われる。.とにかく状態 性の語を数多く使用したその中で「なまめく」というこの語を状態 性を示す語「なまやか」と改変したものと思われる。要するに'王 朝時代に初めて'創造され隆盛を極め'一王朝文学の数々の作品に 「なまめく」「なまめかし」美がちりばめられて作品を飾った語詞。 鎌倉時代に入ってとんと激減してしまうが'この﹃古今著聞集﹄に おいては、ーこの「なまめく」「なまめかし」美の伝統を残そうと目 論んでいた意識がうかがわれる。尚'平安時代に続出レていた「な まめかし」という形容詞の語形では表出された箇所は見当たらなか っ た 。 テキストは(日本古典大系﹃古今著聞集﹄を使用した。) (本学非常勤講師)

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