• 検索結果がありません。

国際家族法研究会報告(第42 回) アメリカにおける離婚後扶養の動向足立文美恵一はじめにアメリカでは 一九七〇年代から一九八〇年代にかけて 離婚原因法の改革が行われ 有責主義を排し無責主義がとられるようになった これに伴い 離婚給付法も大きく変わり 離婚給付法は離婚後扶養(alimony アリモニー

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "国際家族法研究会報告(第42 回) アメリカにおける離婚後扶養の動向足立文美恵一はじめにアメリカでは 一九七〇年代から一九八〇年代にかけて 離婚原因法の改革が行われ 有責主義を排し無責主義がとられるようになった これに伴い 離婚給付法も大きく変わり 離婚給付法は離婚後扶養(alimony アリモニー"

Copied!
9
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

アメリカにおける離婚後扶養の動向《国際家族法研

究会報告(第 42 回)》

著者

足立 文美恵

雑誌名

東洋法学

57

1

ページ

389-396

発行年

2013-03

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00006024/

(2)

《 国際家族法研究会報告(第 42回)》

足立   文美恵 一   はじめに   アメリカでは、一九七〇年代から一九八〇年代にかけて、 離婚原因法の改革が行われ、有責主義を排し無責主義がとら れ る よ う に な っ た。 こ れ に 伴 い、 離 婚 給 付 法 も 大 き く 変 わ り、 離 婚 給 付 法 は 離 婚 後 扶 養 ( alimony 、 ア リ モ ニ ー) を 中 心 とするものから、財産の清算を中心とし離婚後扶養をその補 充的役割を担わせるものに変容をとげた。   そ の 後、 二 〇 〇 二 年 に は、 ア メ リ カ 法 律 協 会 ( American Law Institute ) により 「婚姻解消法の原理―分析と提言 ( Prin -ciples of the Law of Family Dissolution : Analysis and Recommen -dations ( 2002 )、 以 下 『婚 姻 解 消 法 の 原 理』 と い う) 」 が 公 表 さ れ、離婚給付を含む婚姻の解消に関する原理が提唱された。 『婚 姻 解 消 法 の 原 理』 は、 公 表 さ れ た 当 時 、 ア メ リ カ に お け る婚姻解消に関わる法への影響について、多くの論文が出さ れ る な ど 各 方 面 か ら 期 待 さ れ て い た ( See, Michael R. C lis ha m ,R ob in Fretwell Wilson, American Law Instituteʼs Princi -ple s o f th e L aw of Family Dissolution,Eight years After Adoption: Guiding Principles or Obligatory Footnote? 42 Fam L.Q,vol3. 575 ( 2008 )) 。『婚 姻 解 消 法 の 原 理』 が 公 表 さ れ て か ら 約 一 〇 年 が 経過するが、アメリカの離婚給付に関する法は、どのような 状 況 に あ り、 『婚 姻 解 消 法 の 原 理』 は ア メ リ カ の 婚 姻 解 消 に 関する法に影響を与えたのであろうか 。   本 稿 で は、 『婚 姻 解 消 法 の 原 理』 に お い て、 従 来 の 制 定 法・判例にはない新しい概念、付与・内容の決定基準が提唱 された 離婚後扶養に注目し、 アメリカにおける 離婚後扶養に ついて、従来の状況と比較しながらその現状を見ていくこと とする。 二   離婚後扶養の付与   アメリカでは、離婚後扶養を含む家族に関する法は、州ご とに定められているが、離婚後扶養に関する法には、その種 類、 付 与 等 の 決 定 基 準 に つ い て 一 定 の 傾 向 が み ら れ る。 従 来、 離 婚 後 扶 養 は、 ア リ モ ニ ー ( alimony 、 離 婚 後 扶 養) と 呼 ばれることが多かったが、一九七〇年代から一九八〇年代の 離婚原因法の改革に伴う離婚給付法の改革によって、アリモ ニ ー の 他 に、 spousal support (配 偶 者 扶 養) 、 maintenance (扶 養) と 呼 ば れ る よ う に な っ た。 離 婚 給 付 法 の 改 革 か ら 約 三〇年経過した現在でも、 離婚後扶養は、依然としてアリモ ニーと呼ばれており、又、 spousal support 、 maintenance と 呼 ば れ て い る。 ま た、 こ れ ら の 離 婚 後 扶 養 の 他 に、 compen -satory spousal support (補 償 的 配 偶 者 扶 養) や restitutional

(3)

alimony (補 償 的 ア リ モ ニ ー) と 呼 ば れ る も の も、 離 婚 後 扶 養 の一形態として も登場するようになっている。   離婚後扶養の概念は、従来は、受給者の再婚又は夫婦の一 方 の 死 亡 ま で 定 期 的 な 支 払 い が 継 続 す る 扶 養 料 で あ っ た。 一九七〇年代から一九八〇年代の離婚原因法の改革に伴う離 婚 給 付 法 の 改 革 に よ り、 離 婚 給 付 の 中 心 が 財 産 の 清 算 と な り、離婚後扶養はその補充的役割を担うものとされるように なった。また、離婚後扶養の概念は、一方配偶者に経済的必 要性があり、他方配偶者に支弁力がある場合に、一方配偶者 の 経 済 的 必 要 性 に 応 じ て 支 払 わ れ る 扶 養 料 へ 変 化 し た (拙 稿 「財 産 分 与 と ア リ モ ニ ー ― ア メ リ カ に お け る Rehabilitative Alimo -ny について―」比較法第三九号(二〇〇二年)三三九頁以下) 。   このような離婚後扶養の概念の変化により、従来型の離婚 後に加えて、新しい型の離婚後扶養も各州の制定法及び判例 において認められるようになった。従来型の離婚後扶養は、 パ ー マ ネ ン ト・ ア リ モ ニ ー ( permanent alimony 、 永 久 的 離 婚 後 扶 養) と 呼 ば れ、 離 婚 後 扶 養 の 支 払 い は 受 給 者 の 再 婚 又 は 夫婦の一方の死亡により終了するものである。新しい型の離 婚後扶養は、 主にリハビリテイティブ・アリモニー ( rehabili -tative alimony 、 社 会 復 帰 の た め の 離 婚 後 扶 養) と 呼 ば れ、 離 婚 後扶養が支払われる期間が予め裁判所又は合意により決めら れており、離婚後扶養の支払いがその期間の経過により終了 するものである。   上 述 の よ う に、 最 近 で は、 compensatory spousal support などのように補償としての意味を有する離婚後扶養 も登場す るようになっ ている。例えば、オレゴン州の判例では 、他方 配 偶 者 へ の キ ャ リ ア 形 成 へ の 貢 献 が 考 慮 さ れ、 compensato -ry spousal support (補 償 的 配 偶 者 扶 養) の 付 与 が 認 め ら れ て いる ( In re Marriage of Harris,244 P.3d 801 ( Or.2010 )) 。 ⑴付与の基準   一九七〇年代から一九八〇年代における離婚給付法の改革 により、離婚後扶養の概念は、一方配偶者に必要性があり、 他方配偶者に支弁力がある場合に、他方配偶者から一方配偶 者に対して支払われるものとされるようになった。このよう な 離 婚 後 扶 養 の 概 念 の 変 化 や、 「統 一 婚 姻 及 び 離 婚 法 ( the Uniform Marriage and Divorce Act ) 」 の 離 婚 後 扶 養 に 関 す る 規定に影響を受け、離婚後扶養の付与の基準は、一方配偶者 に必要性があり、他方配偶者に支弁力のあることとされるよ うになった。現在でも、これらの基準は、離婚後扶養の付与 の基準とされている。離婚後扶養の付与の基準には、これら の基準に加えて、婚姻の継続期間、清算により分割された財 産 の 額、 各 配 偶 者 が 負 担 し て い る 債 務 ( responsibilities ) な ど も考慮されている ( See, Linda D.Elrod, Robert G.Spector, A Re -view of the Year in Family Law: Numbers of Disputes Increase, 45 Fam L.Q,vol 4 454 (2012) ) 。 特 に 一 方 配 偶 者 の 必 要 性 と 他 方配偶者の支弁力という基準は、リハビリテイティブ・アリ

(4)

モニーやパーマネント・アリモニーといった離婚後扶養の種 類に関係なく、離婚後扶養付与の決定に考慮されている。 ⑵有責性   一九七〇年代から一九八〇年代の離婚給付法の改革以前に おいて、離婚後扶養の付与の基準は、一方配偶者の有責性と 他方配偶者の無責性であり、離婚後扶養の付与の決定には、 有 責 性 と い う 要 因 が 重 要 な 役 割 を 果 た し て い た。 し か し、 一九七〇年代に離婚原因法の改革が行われ、離婚原因法から 有責主義が排除されるようになると、離婚後扶養の付与の基 準からも有責性が排除されるようになり、離婚後扶養の付与 の基準は、一方配偶者の必要性と他方配偶者の支弁力とされ るようになった。   現在では、有責性のある夫に対する離婚後扶養の付与が問 題されなかった裁判例もあり ( Mani v.Mani, 183 N.J.70,2005 N. J. LEXIS 298. 本事例では、妻は夫に比べて稼働能力が高いことが 予 想 さ れ て い る。 ) 、 離 婚 後 扶 養 の 付 与 の 決 定 の 際、 有 責 性 が 考慮されなくなった裁判例もみられる。しかしながら、離婚 後扶養の付与の基準として有責性が考慮されることを認める 州 も あ り (前 掲 Mani 判 決 で も、 例 外 的 に、 限 定 的 な 範 囲 内 で の み、 離 婚 後 扶 養 の 付 与 の 決 定 に 有 責 性 を 考 慮 し て も よ い と し て い る) 、 ア メ リ カ の 離 婚 後 扶 養 の 付 与 の 基 準 と し て 有 責 性 を 認 めるか否かは、州により異なる状況にある。 ⑶その他の基準   離婚後扶養の付与の基準は一方配偶者の必要性と他方配偶 者の支弁力であり、これらの基準が考慮されて離婚後扶養の 付与が決定されている。しかしながら、離婚後扶養の付与の 決定には、これらの基準に加えて、いくつかの事情が考慮さ れている。例えば、婚姻期間が一〇年であることを理由にリ ハビリテイティブ・アリモニーの付与を認めなかった事実審 裁 判 所 の 判 断 を 誤 り と し た も の ( Mobley v.Mobley, 18 So.3d 724 (

Fla. Dist. Ct. App. 2009

)) がある。 三   離婚後扶養の内容   離 婚 後 扶 養 は、 「扶 養」 と い う 性 質 か ら 分 割 で 支 払 わ れ る ものが多いが、一括で支払われるものもある。一括で支払わ れ る 離 婚 後 扶 養 は lump-sum alimony と 呼 ば れ て い る。 一 括 で支払われた離婚後扶養に関する裁判例として、夫の死亡に よ り 支 払 い が 終 了 す る 期 限 付 の 離 婚 後 扶 養 の ほ か に、 夫 の 八五歳という年齢、夫の健康状態が著しく悪いことなどを考 慮して、一括で支払われる離婚後扶養の付与の有無が決定さ れなかったことに誤りがあるとして、事件を差し戻したもの が あ る ( Schwartz v.Schwarz, 225 P.3d 1273 ( Nev. 2010 )) 。 分 割で支払われる離婚後扶養には、支払いの期間が 受給者の再 婚又は夫婦の一方 の死亡まで継続するパーマネント・アリモ ニーと、裁判所又は合意により決められた期間の経過により 支 払 い が 終 了 す る リ ハ ビ リ テ イ テ ィ ブ・ ア リ モ ニ ー と が あ る。

(5)

⑴リハビリテイティブ・アリモニー   リハビリテイティブ・アリモニーは、一九七〇年代以降の 離婚給付の改革により、多くの州の制定法・判例で採用され るようになった離婚後扶養の一形態である。一九七〇年代以 降の離婚給付の改革では、それまでに多くの州で採用されて いなかった財産の清算が離婚給付の一つとして導入されるよ うになったが、財産の清算に加えて、従来型の永久的に離婚 後扶養 が支払われ続けるパーマネント・アリモニー までをも 付 与 さ れ る の は 不 公 平 で あ る と 考 え ら れ る よ う に な り ( Mar -shall, Rehabilitative Alimony: An Old Wolf in New Clothes, 13 Rev. Law and Soc. Change 678-679 ( 1985 )) 、 多 く の 州 の 制 定 法では、財産の清算により分配された財産の額なども考慮さ れて、一定の場合に離婚後扶養の期間が制限されうるように なった。その結果、各州の裁判所は、自立のために行う訓練 や教育、又は新しい生活に慣れるまでの資金などとしてリハ ビリテイティブ・アリモニーが付与するようになったとされ ている (

L.J.Weitzman, The Divorce Revolution,150

( 1985 ) )。   現在でも、リハビリテイティブ・アリモニーは、離婚後扶 養を受給する配偶者が教育、訓練等により自活能力を取得す る 見 込 み の あ る 場 合 に 適 切 で あ る と さ れ て い る ( Maiers v. Maiers, 775 N.W.2d 666 ( Minn.Ct.App.2009 ) )。   しかしながら、裁判例では、リハビリテイティブ・アリモ ニーは、自活能力の取得が考慮されずに付与される場合もあ る。 例 え ば、 自 活 能 力 の 取 得 以 外 の 理 由 か ら リ ハ ビ リ テ イ テ ィ ブ・ ア リ モ ニ ー の 付 与 が で き る と し た も の ( Utz v. Utz, 963 A. 2d 1049 ( Conn.App. Ct. 2009 )) や、 自 活 能 力 を 取 得 で き る か 否 か が 考 慮 さ れ ず に リ ハ ビ リ テ イ テ ィ ブ ・ ア リ モ ニ ー の 付 与 を し た 原 審 の 判 断 を 認 め た も の ( Barker v. Bark -er, 996 So.2d 161 ( Miss.Ct.App.2008 )) がある。 ⑵パーマネント・アリモニー   パ ー マ ネ ン ト・ ア リ モ ニ ー は、 従 来 型 の 離 婚 後 扶 養 で あ り、受給者の再婚又は夫婦の一方の死亡まで離婚後扶養の定 期的な支払いが継続するものである。現在でも、パーマネン ト・アリモニーの付与は、各州の制定法及び裁判例において 認められている。パーマネント・アリモニーは、年齢や心身 の状況から自活能力を得る見込みのない場合に付与されるも の と さ れ て お り ( L.J. Weitzman, The Divorce Revolution, 149-150 ) 、 裁 判 例 で も、 パ ー マ ネ ン ト・ ア リ モ ニ ー は、 離 婚 後 扶 養を受給する者に自活能力のあることが不明確な場合には、 パーマネント・アリモニーを付与しなければならないとした も の が あ る ( Maiers v. Maiers, 775 N. W.2d 666 ( Minn.Ct.App. 2009 )) 。   しかし、裁判例には、パーマネント・アリモニーの付与の 決定に、 離婚後扶養を受給する者の事情だけではなく、 離婚 後扶養を支給する者の事情も考慮しなければならないという ものもあり、例えば、パーマネント ・ アリモニーを支給する

(6)

者の支弁力に関する事実認定がなかったとして、事件を差し 戻 し た も の が あ る ( Lovejoy v. Lovejoy, 782 N. W.2d 669 ( S. D.2010 )) 。 四   補償的給付   従 来 の 離 婚 後 扶 養 は 、 一 方 配 偶 者 の 有 責 性 と 他 方 配 偶 者 の 無 責 性 を 基 準 と し て 付 与 さ れ て お り 、 離 婚 後 扶 養 の 根 拠 も 、 付 与 の 基 準 に 従 い 、 一 方 配 偶 者 の 有 責 性 へ の 罰 で あ り 、 加 罰 的 な 理 由 か ら 一 方 配 偶 者 が 他 方 配 偶 者 に 対 し て 離 婚 後 扶養を支払わねばならないと考えられていた。一九七〇年代 に始まる離婚原因法の改革により、離婚原因法から有責性が 排除されると、離婚後扶養の付与の基準からも有責性が排除 されるようになり、離婚後扶養の根拠も有責性とは考えられ なくなった。婚姻を解消した男女の間でも扶養 の関係を継続 されなければ ならないということに対する明確な根拠が見つ からない状況であった。このような状況から脱するために、 二〇〇二年にアメリカ法律協会が公表した『婚姻解消法の原 理』では、離婚後扶養の根拠が見出せないことを理由の一つ として、離婚後扶養の概念を改め て 、従来の各州の制定法や 判 例 に は な い 補 償 的 支 払 い ( compensatory payment ) 又 は 補 償給付 ( compensatory award ) という概念が示された。 『婚姻 解消法の原理』では、補償という概念だけでなく、 従来の各 州の制定法や判例にはない 補償 の付与・内容を決定する基準 も 示 さ れ て い る 。『婚 姻 解 消 法 の 原 理』 が 公 表 さ れ た 二 〇 〇 二 年 か ら 一 〇 年 以 上 が 経 過 し て お り、 『婚 姻 解 消 法 の 原理』が各州の制定法及び裁判例にどのような影響を与えた のであろうか。 ⑴『婚姻解消法の原理』の影響力   『婚 姻 解 消 法 の 原 理』 は、 過 去 五 〇 年 間 に お け る 家 族 の 在 り方の変化 に対応すべきものとして、一一年の年月をかけて 作 成 さ れ た も の で あ る。 『婚 姻 解 消 法 の 原 理』 で は、 離 婚 後 扶養のみならず、子の監護、子の扶養、婚姻財産の清算、事 実 婚 に つ い て 検 討 さ れ て い る。 『婚 姻 解 消 法 の 原 理』 は、 四 つの草案が公表されているが、草案の段階から高い評価を受 けていた。又、二〇〇二年に公表される以前から三九の判例 で『婚姻解消法の原理』に含まれる原理が採用されており、 公表から数年後には『婚姻解消法の原理』が各州の関連法に 影響することが期待されていた。   しかしながら、公表から五年後の二〇〇八年に行われた調 査によれば、裁判例においても、各州の制定法においても、 『婚 姻 解 消 法 の 原 理』 の 影 響 が あ ま り み ら れ な か っ た こ と が 明 ら か に さ れ て い る ( See, Michael R.Clisham,Robin Fretwell Wilson, American Law Instituteʼ s Principles of the Law of Family Dissolution, Eight years After Adoption: Guiding Principles or Obligatory Footnote? 42 Fam L.Q,vol3. 575 ) 。実際に、離婚後扶 養に関する裁判例では、補償としての意味を有する離婚後扶 養の付与が認められるものがいくつかみられるが、依然とし

(7)

て補償としての意味を有しない離婚後扶養の付与を認めるも のが大半を占めている。又、補償の原理は、主に立法者に向 けて提唱されたものであるが、多くの制定法が離婚後扶養と い う 概 念 を 維 持 し て い る。 し か し な が ら、 制 定 法 で は な い が、マリコパ群の裁判所が『婚姻解消法の原理』の草案を参 考 に し た ガ イ ド ラ イ ン を 作 成 し て お り、 『婚 姻 解 消 法 の 原 理』の影響は全くみられないとはいえないであろう。 ⑵『婚姻解消法の原理』の補償   『婚 姻 解 消 法 の 原 理』 で は、 離 婚 後 扶 養 に 代 わ る 新 し い 概 念として補償という概念が示され、補償の付与、期間・金額 の決定基準となる原理が示されている。補償という概念は新 しい概念であるが、概念及び決定基準は、今までの判例を 参 考としていることが説明されている。   『婚姻解消法の原理』における補償とは、 「離婚に伴い一方 配偶者又は双方の配偶者が負担する経済的損失を衡平に分配 す る 給 付 ( ALI, Principles of the Law of Family Dissolution : Anal -ysis and Recommendations ( 2002 ) §5. 03 ⑴ ) 」 で あ り、 『婚 姻 解消法の原理』は補償の種類として、①婚姻中の生活水準の 損 失 に 対 す る 補 償 (五 ・ 〇 四 条) 、 ② 子 供 の 世 話 に よ る 稼 働 能 力 の 損 失 に 対 す る 補 償 (五 ・ 〇 五 条) 、 ③ 第 三 者 の 世 話 に よ る 稼 働 能 力 の 損 失 に 対 す る 補 償 (五 ・ 一 一 条) 、 ④ 他 方 配 偶 者 の 教 育・ 訓 練 へ の 貢 献 に 対 す る 補 償 (五 ・ 一 二 条) 、 ⑤ 短 期 の 婚 姻 に お け る 婚 姻 前 の 生 活 水 準 の 損 失 に 対 す る 補 償 (五 ・ 一 三 条) 、となる 5 つを認めている。   『婚 姻 解 消 法 の 原 理』 は、 こ れ ら の 補 償 の 付 与、 期 間・ 金 額の決定について、明確な基準を設けており、その基準 は条 文 形 式 で 示 さ れ 、 そ の 条 文 に つ い て の 詳 細 な 説 明 が Comment で 示 さ れ、 そ の 条 文 の 基 礎 と な っ た 判 例 も Reporters note で示されている 。   上 述 の よ う に、 『婚 姻 解 消 法 の 原 理』 に お け る 補 償 の 原 理 が立法及び裁判例に与えた影響は少ないと考えられるが、こ の 基 準 を 参 考 と し た 裁 判 例 も 数 は 少 な い が 存 在 す る ( Cohan

v. Feuer, 2004 Mass. LEXIS 408

) 。 ⑶補償の状況   補 償 の 概 念 は、 『婚 姻 解 消 法 の 原 理』 で は、 広 い 範 囲 で 補 償 の 概 念 が 認 め ら れ て い る が 、 一 般 に は 、 育 児 を 負 担 し た こ と に 対 す る 補 償 や 、 稼 働 能 力 の 喪 失 又 は 減 退 に 対 す る 補 償 が 主 張 さ れ て い る 。 離 婚 後 扶 養 の 付 与 を 決 定 す る 際 に 考 慮 す べ き 事 情 の 一 つ と し て 稼 働 能 力 の 喪 失 又 は 減 退 を 挙 げ る 裁 判 例 も あ る (

Baron v. Baron, N.Y.S.2d 456

( App.Div.2010 )) 。   制定法においても、離婚後扶養の一形態として補償の意味 を 有 す る 離 婚 後 扶 養 を 認 め る 州 が あ る。 オ レ ゴ ン 州 で は、 一 九 九 九 年 の 法 改 正 に よ り、 離 婚 後 扶 養 ( support ) の 一 つ の 類 型 と し て、 補 償 的 配 偶 者 扶 養 ( Compensatory spousal sup -port ) が 認 め ら れ る よ う に な っ た。 補 償 的 配 偶 者 扶 養 の 条 文 は、 第 一 一 節 ( title 11 ) 家 族 関 係 ( Domestic Relations ) の

(8)

一〇七章 ( chapter 107 )「 婚姻解消 、婚姻無効、別居 ( marital dissolution, annulment, separation 」 の 中 の 一 〇 五 条 に 規 定 さ れ ている。その規定は、以下のようなものである。 一〇七 ・ 一〇五条 ( 1 )  裁判所は婚姻無効、解消又は別居の判決を下すとき、 裁 判 所 は 次 に 掲 げ る 事 項 に つ い て、 判 決 を 下 す こ と が で き る。… (d) … 配 偶 者 扶 養 を 命 令 す る 際、 裁 判 所 は、 一 又 は 複 数 の 種類の配偶者扶養を命令することができる…。裁判所が次に 掲げる配偶者扶養を命令することができる。 (A) 過 渡 的 配 偶 者 扶 養 ( Transitional Spousal Support ) は、 一方当事者が職場への復帰又は仕事での昇進に必要な教育、 訓練を受けるためのものである。… (B) 補 償 的 配 偶 者 扶 養 は、 一 方 当 事 者 が 他 方 当 事 者 の 教 育、訓練、職業上の能力、キャリア、稼働能力の形成に経済 的に又はその他で貢献し、補償的配偶者補償の命令が一切の 事情を考慮して公正で衡平な場合に付与されるものである。 裁判所は、次に掲げる事情その他を考慮して補償的配偶者扶 養の付与を決定しなければならない。   ⅰ貢献の金額、期間、性質 ( nature )   ⅱ婚姻期間   ⅲ双方当事者の稼働能力の格差   ⅳ貢献から婚姻財産に与えた利益の程度   ⅴ双方当事者の tax consequences   ⅵ裁判所が公正かつ衡平と考慮するその他一切の事情 (C)配偶者扶養 ( Spousal Maintenance ) は、一方配偶者が他 方配偶者を援助するため特定の期間にわたり貢献をした場合 に付与されるものである。… 以上のようにオレゴン州法は、離婚後扶養の種類を三つ設け ており、その一つに補償的配偶者扶養を認めている。この扶 養の特徴は、配偶者が教育、訓練等により、稼働能力を向上 させたことが要件とされていないことである。したがって、 一方が教育、訓練を受け、その間、他方が一方を貢献した場 合には、一方が教育等により稼働能力を高めなかったとして も、他方は扶養を受ける可能性が生ずることになる。   ま た、 補 償 的 配 偶 者 扶 養 の 他 に も、 (C) で 配 偶 者 扶 養 を 認めており、婚姻期間中の貢献に対して扶養が付与される可 能性の幅が広げられている。 五   おわりに   一 九 七 〇 年 代 か ら 一 九 八 〇 年 代 の 離 婚 給 付 法 の 改 革 に よ り、 離 婚 後 扶 養 の 在 り 方 は 大 き く 変 容 し た。 リ ハ ビ リ テ イ ティブ・アリモニーと呼ばれる離婚後扶養が登場し、現在で は、 多 く の 州 の 裁 判 所 が パ ー マ ネ ン ト・ ア リ モ ニ ー で は な い、期限付きの離婚後扶養を付与するようになった。離婚後 扶養の根拠は、離婚原因法から有責主義が採られなくなって から、不明確なものとなり、その根拠を求めるべく、補償の

(9)

概念が主張されるようになった。特に二〇〇二年にアメリカ 法律協会が公表した『婚姻解消法の原理』は、公表された当 時、数年で影響を与えることが期待された。しかしながら、 現在の離婚後扶養の状況をみる限り、補償に関する裁判例は 数少なく、制定法への影響もみられない状況にある。   このような状況をみると、補償が離婚後扶養に代わってい る と は 言 い 難 く、 ア メ リ カ に お け る 離 婚 後 扶 養 の 状 況 は、 一九八〇年代以降、あまり変化はないように考えられる。し かしながら、現在の離婚後扶養は、根拠が不明確であり、付 与等の基準も明確なものではない。離婚後扶養に関するガイ ドラインが創られ、制定法に矛盾をしなければ、そのガイド ラ イ ン に 従 っ た 命 令 を し て も よ い と す る 裁 判 例 も あ り ( Bo

-emo v. Bo-emo, 994 A.2d 911

( Md. 2010 ). なお、 そのガイドライ ン は、 『婚 姻 解 消 法 の 原 理』 が 提 唱 す る 補 償 の 原 理 に 従 っ た も の で は な い ) 、 離 婚 後 扶 養 の 付 与 等 の 明 確 な 基 準 が 必 要 と されているといえるであろう。また、離婚後扶養を支給する 者又は受給する者でなくとも、根拠が不明確なままでは婚姻 が解消した男女の間に扶養を継続させることに抵抗を感じる 者も少なくないはずである。   補償に関する裁判例、制定法は少ないが、一九八〇年代に 比べれば、少しずつではあるが、補償という概念が浸透しつ つあるともいえる。日本法においても、離婚後扶養に代わり 補償という概念が注目されている。今後もアメリカの離婚後 扶養の状況を注目し、日本法における補償の在り方を検討す るために、離婚給付としての補償の妥当性について研究を続 けたい。 (あだち・ふみえ   宮崎大学教育文化学部准教授)

参照

関連したドキュメント

 手術前に夫は妻に対し、自分が死亡するようなことがあっても再婚しない

父母は70歳代である。b氏も2010年まで結婚して

18~19歳 結婚するにはまだ若過ぎる 今は、仕事(または学業)にうちこみたい 結婚する必要性をまだ感じない.

Heidi Stutz, Alleinerziehende Lebensweisen: Care-Arbeit, Sorger echt und finanzielle Zusicherung, in: Keine Zeit für Utopien?– Perspektive der Lebensformenpolitik im Recht, (0((,

(2)主応力ベクトルに着目した解析の結果 図 10 に示すように,主鉄筋表面から距離 d だけ離れ たコンクリートの主応力に着目し、section1

「文字詞」の定義というわけにはゆかないとこ ろがあるわけである。いま,仮りに上記の如く

仲人を先頭に婚家に向かう嫁入りの際に、村の入口や婚家の近くで嫁入り一行の通過

1.はじめに