タンパク質結晶化タグペプチドのデザインと構造解 析
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(2) 2018 年度 修士論文要旨. タンパク質結晶化タグペプチドのデザインと構造解析 関西学院大学大学院理工学研究科 化学専攻 熊坂(山口)研究室 大塚 裕貴 【序論】タンパク質の立体構造の解明は生命現象の理解や合理的な薬剤設計に重要である。 その手法としてX線結晶構造解析があるが,そのためにはX線を強く回折する乱れのない結晶 を作る必要がある。タンパク質の結晶化は,容易でないものも多く,疾病の理解などに重要 なタンパク質が結晶化できず,解析されていない例もあるのが現状である。そこで,結晶化 を促進させる多量体化タグのデザインを試みた。多量体化タグは単体で結晶化が難しいタン パク質に導入し,タンパク質の規則正しい会合,つまり結晶化を促進させることを期待して いる。 ポリペプチドの二次構造の一種であるαヘリックスは,アミノ酸配列によってそれらが並行 あるいは逆並行に集合してできるコイルドコイルを形成すること がある。本研究では,タンパク質結晶化タグペプチドとして,種々 の理由から逆並行コイルドコイル-ヘテロ四量体1)が適すると考え, そ の 構造 を デザ イン す るこ と を目 的と し た。す で に先 行 研究 (Fairmanら,1996)として,Lacリプレッサー四量体の一部からデザ インしたペプチドが存在するため,これをモデルとして進めた。そ こで仮定された立体構造では,αヘリックスの7残基の繰り返しモデ ル(残基位置をabcdefgで表記)に基づいて,溶媒側に配置されたグル タミン酸(E)とリジン(K)間で静電相互作用(b-bとc-c)が,分子内側 図 1. 先行研究で仮定されたコイル に配置された疎水性アミノ酸で疎水性相互作用(aとd)が生じて四 ドコイル構造を上から見た模式図 量体を形成する(図1)2)。 【実験 1:ホモ4量体】まず,この立体構造は未知であったため,その ペプチドの結晶化を試みたが,解析できる結晶が得られなかった。そ こで,配列の一部を天然型に戻したホモ四量体(Lac23sy)に戻って実 験を行った。合成ペプチド Lac23sy を純水に溶かし,蒸気拡散法で結 晶化条件の探索を行ったところ,0.2 M 酢酸アンモニウム,0.1 M 酢酸 ナトリウム pH 4.6,30 % PEG 4000 を沈殿剤に用いて結晶を得ること ができた(図 2) 。この結晶について SPring-8 の BL41XU で X 線回折測 図 2. Lac23sy の結晶 定を行った。この構造解析により,先行研究のモデルにおいて疎水性残 基の位置に誤りを見出した。つまり,a と d のみではなく,e も加わっ た疎水性相互作用が生じていた。また,先行研究のモデルでは,b-b と c-c で静電相互作用を狙っていたが,b-b と g-g に置き換える必要が あると分かった。 【実験 2:ヘテロ4量体-1】この結果から,E と K の変異を加えた 2 組 のヘテロ四量体 (Lac23sy_EE,Lac23sy_KK,Lac23sy_EK,Lac23sy_KE) をデザインした(図 3)。これらのペプチドが溶液中で α ヘリックスを 形成しているか確認するために円二色性分散(CD)を測定した。ペプ 図 3. 新たにデザイン チド濃度 200 µM の条件で,波長 222 nm における値からヘリックス含量 (Lac23sy_EE/KK)した コイルドコイル構造を (Helicity)を計算したところ,ホモ四量体(Lac23sy)を基準(41.9 %) 上から見た模式図 とすると,Lac23sy_EE と Lac23sy_KK はそれぞれ単体では低い値だった.
(3) が,混合させると基準よりも Helicity が上昇した(Lac23sy_ EE 単体:34.5 %,Lac23sy_KK 単体:30.1 %,Lac23sy_EE/KK 混 合:68.7 %) (図 4) 。一方,Lac23sy_EK と Lac23sy_KE は単体 でも混合でも変化せず,基準より低い値であった ( Lac23sy_EK 単 体 :26.3 % , Lac23sy_KE 単 体 :32.2 % , Lac23sy_EK/KE 混 合 :24.5 % )。 ホ モ四 量体 の結 晶 構造 は 65.2 %(23 残基中の 15 残基)が α ヘリックスをとっており, Lac23sy_EE/KK 混合物の Helicity とほぼ近い値であったため, この組み合わせで狙い通りの構造が得られた可能性が高い 図 4. Lac23sy_EE, KK, EE/KK の と考えた。その理由として電荷が-4,+4 となっており,疎水性 CD スペクトル 相互作用に加えて静電相互作用が生じ,選択的な 1 対 1 の集合 が起きて期待通りの会合体が得られる一方,Lac23sy_EK/KE では電荷の偏りがないため,会 合が起こるとしても選択性のない疎水性相互作用のみが働くためと考えられる。そこで Lac23sy_EE/KK 混合物について結晶化を行ったところ,0.2 M 酢酸ナトリウム, 0.1 M Tris pH 8.5, 25 % PEG 4000 の条件で結晶が得られた。さらにこの結晶を同様に測定 し,解析したところ,逆並行コイルドコイル-ヘテロ四量体が形成されてい ることを確認できた(図 5)。その構造は 23 残基中 16 残基(69.6 %)が α ヘ リックスをとっており,CD 測定の結果と矛盾しない。 【実験3:ヘテロ4量体-2】しかし,詳細にこの構造を調べると,電子密度図 においてEとKの間の水素結合が確認できなかった。そこで,より安定性を 高めるために残基間の水素結合を形成させる新しいデザインを行った。つ 図 5. Lac23sy_EE/KK まり,EとKを塩橋によく見られるアスパラギン酸(D)とアルギニン(R) 3)に の結晶構造 一部を置き換えた(Lac23sy_DE, Lac23sy_RK) 。このペプチドの混合物 で結晶化を行ったところ,0.2 M 酢酸アンモニウム, 0.1 M 酢酸ナトリ ウム pH 4.6, 30 % PEG 4000を沈殿剤に用いて結晶を得ることができ た(図6)。この結晶を同様に測定,解析したところ,逆並行コイルド コイル-ヘテロ四量体が確認でき,電子密度図からDとRの間での塩橋 形成が確認できた。 図 6. Lac23sy_DE/RK の結晶 【まとめ】以上のように結晶構造に基づいて逆並行コイルドコイル(約 50 µm) ヘテロ四量体をデザインすることができた。しかし,Lac23sy_DE/RKは 水溶液中でヘテロ四量体形成が確認できていない。今後はこのペプチドについて超遠心分析 や円二色性分散などを用いてLac23sy_EE/KKよりも会合体形成能や安定性が向上したか評価 を行う。そして,タンパク質を選定し,それとペプチドをつなぐリンカー部分をデザインす る計画である。. 参考文献 1) M. Chino et al. Eur. J. Inorg. Chem. 21, 3371–3390 (2015) 2) R. Fairman et al. Biochemistry 35, 2824-2829 (1996) 3) A. Nayak et al. PLoS ONE 9, 1-11 (2014).
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