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道路構造令における行政裁量に関する研究 : 公共 事業裁判の研究

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著者 田畑 琢己

出版者 法政大学大学院

雑誌名 大学院紀要 = Bulletin of graduate studies

巻 68

ページ 35‑40

発行年 2012‑03

URL http://doi.org/10.15002/00007883

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法政大学 大学院紀要 第 68 号抜刷 2012 年 3 月

田 畑 琢 己

道路構造令における行政裁量に関する研究

─ 公共事業裁判の研究 ─

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35  一 はじめに

 道路を建設するにあたり、道路の幅員ならびにその構成、平面的ならびに縦断的線形、安全な見通し距離の あることなどを具体的に検討し、地形および交通の条件に適合した道路の幾何学的諸元を決めることを道路の 幾何学的設計という。我が国の道路の幾何学的設計は、道路構造令に従って行うことになっている* 1。すな わち、道路の構造は、道路法第29条において、「当該道路の存する地域の地形、地質、気象その他の状況及び 当該道路の交通状況を考慮し、通常の衝撃に対して安全なものであるとともに、安全かつ円滑な交通を確保す ることができるものでなければならない。」との一般原則が示されている。これに対応して同法第30条第1 及び第2項において、道路の構造の技術的基準を政令で定めることとされており、道路構造令は、これらを根 拠とする政令として、道路の幅員、線形、構造物等について、道路を新設又は改築する際の一般的技術的基準 として定められたものである* 2

 道路構造令における行政裁量について、裁判所は、構造令の範囲内で、最小限保持すべき構造の基準を満た した上で、地域の実情等に応じた道路構造を定めることは、道路管理者の裁量に委ねられるものであって、た だ道路管理者がその裁量を著しく逸脱し、又は、濫用をした場合には違法となる(静岡地判平15.11.27* 3 いう考え方を示している。

 明治憲法下の行政法学説は、その要件および内容につき法令が一義的に定める羈束行為と、法令が行政庁の 判断に委ねる部分を認める裁量行為とにまず二分した上で、後者をさらに法規裁量(羈束裁量)行為と自由裁 量(便宜裁量)行為に区分して* 4論じられてきた。

 現在では、裁量をめぐる問題の中心は、裁量を認めるべきか、これを否定するするべきかという二者択一的 な峻別論から、個々の行政処分において、裁判所が裁量審査をするにあたりどの程度踏み込むべきかという密 度審査の問題へと移行している*5

 ここでまず考察が必要と思われるのが、判断過程の合理性・適切性に着目した審査手法を導入して行政裁量 に係る審査密度を高めた裁判例として広く知られる東京高判昭和48713日行裁例集2467533

(日光太郎杉判決)の位置付けである* 6。同判決の判断過程統制手法は、要件裁量に係る審査密度を「大きく 向上させる」統制手法として評価される一方、要件認定に係る考慮要素につき「相対的重要度」や「重み付 け」の設定操作をした上で、それらの考慮のされ方に踏み込むかたちで意思形成過程の合理性審査がなされる という特色を有しているため、裁判官による「価値判断」の介在や、実際には「実体的判断代置方式」である との批判的な指摘がなされている* 7

 このような批判があるにも関わらず、日光太郎杉判決は、爾後の裁判例に大きな影響を与えている*8。そ こで、判断代置的審査には至らないが、最小限審査を上回る「中程度の審査」の仕方*9から、本論文では、

道路事業が争われた取消訴訟の中で、道路構造令における行政裁量について裁判所の考え方が示された3事例 を検討した。

 まず、裁判例1(三井寺バイパス事業認定等取消請求事件)と裁判例2(東北自動車道事業認定・土地収用 裁決等取消請求事件)は、代替案との比較検討の中で道路構造令の適用が争われた。次に、裁判例3(都市計 画道路区域内建築不許可処分取消請求事件)は、人口予測に基づいた交通量予測による道路構造令の適用、同

道路構造令における行政裁量に関する研究

─公共事業裁判の研究─

       政治学研究科 政治学専攻

       博士後期課程修了

 田 畑 琢 己

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36 

令の要件、同令の適用手順を定めた通達の性格が争われた。

 後述するように、行政裁量が問題となるのは行政行為の「要件」及び「効果」のほかに、「手続」ないし

「過程」に分けられる* 10。この中で、裁判例12は、曲線半径の決定という効果が争われたが、裁量権の 濫用を認めなかった。一方、裁判例3は、道路構造令の要件に定められていない「並木」と、道路構造令の適 用のための手続を定めた通達に違反していることの2点について、裁量権の逸脱を認めなかった。

 裁判例を考察した結果、効果に対しては、司法審査が及びにくいとしても、要件に対しては、裁判所の判断 が優先されなければならないし、判断の手続・過程については、裁判所の審査の対象となる場面があり得るこ とが広く認められるようになっている* 11ことを考慮するべきである。

二 道路構造令が争点となった裁判例

1 三井寺バイパス事業認定等取消請求事件(大津地判昭 58.11.28)

(1) 事案の概要

 本件は、建設大臣が土地収用法に基づき天台寺門宗の総本山である園城寺(三井寺)の寺域の一部に属する 土地を国道バイパスの一部に供給することを内容とする事業認定をしたことから、同寺が右事業認定には土地 収用法203号及び4号に違背する違法があるなどと主張して、その取消を求めた事案である*12

(2) 裁判所の判断(15 条)

①裁判所がこれを判断するにあたってはAB各ルートを排して本件ルートが採用されるに至った判断過程お よびそこで考慮された判断資料、判断要素に社会通念上著しく妥当を欠く点があるか否かを検討して行う* 13

Aルートは、トンネル延長が本件ルートより500m長くなり、トンネル内には曲線半径700mのカーブが入 るため、本件ルートより危険性が高い* 14

Bルートは、トンネル延長が本件ルート300m長くなり、トンネル内に曲線半径500mのカーブが入ること は本件ルートと同じであるが、それがS字型に入ってき、同時にそこに縦断曲線(22条)の頂点が入って くるため、視距が短くなって非常に見通しが悪く本件ルートより危険性が高い*15

(3) 分析

 道路トンネル技術基準は、「トンネルの平面線形は、原則として、直線あるいは大半径の曲線を用いるもの とする*16。」と定めている。この点、本件ルートのトンネル内の曲線半径は500mであり、Aルートの曲線半 700mよりも急カーブであることと、道路トンネル技術基準には、トンネルの延長についての記載がないこ とを併せて考えれば、「本件ルートより危険性が高い」という判示は問題がある。

2 東北自動車道事業認定・土地収用裁決等取消請求事件(秋田地判平 8.8.9)

(1) 事案の概要

 本件は、東北縦断自動車道遠野秋田線の高速道路建設事業計画が土地収用法203号、4号の要件を充足 し、建設大臣の事業認定の判断にあたり、代替案を検討しなかったこと及び環境影響評価をしなかったこと に、裁量権の逸脱、濫用はなかったとされた事案である*17

(2) 裁判所の判断(15 条)

①事業認定の違法性を争う裁判において、事業計画の合理性判断の一資料として、想定し得る他のルートとの 比較検討を行うことができる* 18

②本件ルートは、最小平面曲線半径が1,300mであるのに対し、想定ルートでは、同数値が1,000mと、曲線 がややきつくなる。100km/hの場合の最小曲線半径の一般値が700mであるから、想定ルートの最小平面曲 線半径でも、100km/hに対応できるといえるが、高速道路という道路の性質からは、できるだけ直線に近い 線形をとるのが通行車両の安全の見地から望ましい* 19

(3) 分析

 道路構造令15条は、「100km/hに対応する曲線半径を460m以上」と定めている。確かに、道路の線形は直 線に近い方が望ましいといえるが、少し線形を変えれば原告の土地を回避できることと、曲線半径1,000m

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37  も道路構造令が定める460m2倍以上であることを併せて考えれば、原告にとって不利な判決であった。

3  都市計画道路区域内建築不許可処分取消請求事件(静岡地判平 15.11.27、東京高判平 17.10.20、最(3 小)判平 20.3.11)

(1) 事案の概要

 建設大臣は、昭和32330日、伊東市東松原町から伊東市広野2丁目まで、延長1,320m、幅員11m 伊東国際観光温泉文化都市建設計画道路232号伊東大仁線(以下「伊東大仁線」という。)を定める旨の 都市計画を決定した(以下「原計画決定」という。)。被控訴人(被告)は、平成9325日、都市計画法

(平成10年法律第79号による改正前のもの)211項に基づき、原計画決定について、伊東大仁線のうち伊 東市東松原町から約180m区間(本件変更区間)につき幅員を17mに拡幅するという内容に変更する旨の都 市計画変更決定(以下「本件変更決定」という。)をした。控訴人らは2つのグループに分かれるが、それぞ れの許可の申請に係る各建築物は、いずれもその全部又は一部が本件変更決定による都市計画施設の区域内に 建築が予定されている。本件は、都市計画法531項に基づき、それぞれ建築の許可を申請した控訴人(原 告)らが、被控訴人から、同法54条の許可基準に合致していないとして、これを不許可とする決定を受けた ため、その取消を求めた事案である* 20。なお、道路構造令に関する判示は静岡地判平15.11.27のみであった ため、同裁判例の検討を行う。

(2) 裁判所の判断

①構造令の範囲内で、最小限保持すべき構造の基準を満たした上で、地域の実情等に応じた道路構造を定める ことは、道路管理者の裁量に委ねられるものであって、ただ道路管理者がその裁量を著しく逸脱し、又は、

濫用をした場合には違法となる* 21

(2-1) 11 条の 3、4

①構造令11条の3は、第4種第1級(平成13年に改正され第4種第2級が追加された)の道路には、植樹帯 を設けるものとし、その他の道路には、必要に応じ、植樹帯を設けるものとすると規定しているから、第4 種第2級の道路に該当する本件変更区間には、植樹帯を設けることは必要でない* 22

②並木も樹林帯とは目的・幅員等が異なるものの、類似した機能を持つと認められる。そこで、伊東大仁線に 並木を設けることは、交通の安全性、快適性を高めることにつながるといえるので、本件変更決定が「安 全、快適な歩道空間を確保する」ことを変更理由としたことには合理性が認められる*23

(2-2)  27 条 3 項、解説と運用

①原告らは、構造令273項が、市街地にある道路の周辺には既に建造物があるなど用地の取得が困難なこ とが多いことに配慮して、付加車線を設けるために必要に応じて幅員を縮小できるようにしており、屈折車 線等を設ける場合には、当該部分の車線の幅員は、(中略)第4種第2級又は第3級の道路にあっては 2.75mまで縮小することができると定めていることを指摘する* 24

②解説と運用324頁では、既設道路において種々の制約によって右折車線として幅員を確保できない場合であ っても、右折車線の分離は、交差点における交通処理に重要な役割を果たすので、右折車線相当の幅員とし 1.5mを確保できる場合には、直進車線との境界標示を施さずに単に1.5m以上のふくらみをもたせると よいとする例も紹介されている*25

③構造令273項や上記解説と運用の方針を採用して幅員を縮小するか否かは、行政庁の裁量に委ねられて いるというべきであり、幅員を縮小した場合には、交差点付近において設計速度を下げる必要が生じたりす ることなどを考慮すると、これらを採用しなかったことが不合理な判断であるということはできない* 26

(2-3) 道路の標準幅員に関する基準(案)

①構造令の諸規定のみでは、幅員等が多種多様になるきらいがあったため、道路の管理の合理化、良好な都市 景観の確保の観点から道路幅員の標準化を図るために、道路の機能に応じた標準的な幅員等を示すものとし て「道路の標準幅員に関する基準(案)について」が作成されており、可能な限りこれに基づき計画するよ うに指導がなされている。他方で、基準(案)は、地域、地形の状況、その他特別な理由により、やむを得 ない場合には、基準案によらないことができるとただし書きに、その解説の別添では、都市計画決定済みの

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道路について、要旨、次のとおりの検討をするとの運用を紹介している。すなわち、「(1)既決定の道路が この基準(案)による標準幅員以下の場合には、標準幅員まで拡幅することを検討するが、その場合拡幅が 困難であり、かつこの基準(案)によるよる幅員と同等の機能を果たし得ると認められる幅員(以下「縮小 幅員」という。)以上であれば対応しているものとみなし、既決定の幅員のままで施行する。(2)既決定の 道路が縮小幅員未満であれば対応がないものとみなし、少なくとも縮小幅員まで拡幅して施行する。(3)前 記(2)の場合において拡幅して施行することが困難なときには、その路線における計画交通量を軽減する 等、機能を変更することが可能であるか否かを検討し、変更が可能である場合には横断面構成を改める等の 措置を講ずるものとし、変更が不可能な場合にはやむを得ないものとして既計画通りで施行する。」という ものである。原告らは、この別添の手順を踏まえていないと主張する。しかし、基準(案)は通達であるか ら、行政庁が基準(案)の解説の別添に紹介された方法に違反したからといって、直ちに裁判上の違法の問 題が生ずることはないし、また、この方法に違反したからといって、その行政庁の判断が直ちに裁量権の逸 脱であるということになるものではない*27

(3) 分析

(3-1) 11 条の 3、4

 第4種第2級の道路に該当する本件変更区間には、植樹帯を設けることは必要でない(判示①)にも関わら ず、判示②で道路構造令に定められていない「並木」の幅員を1.5mを認めたことは、道路構造令に違反して いる。

(3-2)  27 条 3 項、解説と運用

 「幅員を縮小した場合には、交差点付近において設計速度を下げる必要が生じたりする(判示③)」につい て、市街地を通過する2車線道路の制限速度は、通常、第4種第2級の上限値である60km/hとなっていな い。このため、交差点付近において設計速度を下げても影響は少ないと考えられる。

(3-3) 道路の標準幅員に関する基準(案)

 「道路の標準幅員に関する基準(案)について」は、道路構造令の内容を具体的に示しており、その意味で は道路構造令と一体の通達である。したがって、この通達の手順を踏まえないことは、道路構造令にも違反し ている。

三 裁判の評価

 裁判所の道路構造令等に対する考え方は、次のとおりである。まず、裁判例1は、本件ルートが採用される に至った判断過程およびそこで考慮された判断資料、判断要素に社会通念上著しく妥当を欠く点があるか否か を検討して行うというものであった。次に、裁判例3は、構造令の範囲内で、最小限保持すべき構造の基準を 満たした上で、地域の実情等に応じた道路構造を定めることは、道路管理者の裁量に委ねられるものであっ て、ただ道路管理者がその裁量を著しく逸脱し、又は、濫用をした場合には違法となるというものであった。

 この裁判例13は、道路構造令の要件と適用に司法審査が及び得るという考え方を示している。なお、両 裁判例は、以下に述べるように合理的な理由がないにも関わらず、裁量権の濫用はないという考え方を示して いる。

 一方、裁判例2は、事業計画の合理性判断の一資料として、想定し得る他のルートとの比較検討を行うこと ができるというに止まった。

 行政裁量の余地が問題となるのは、行政行為の「要件」及び「効果」の2点に加えて、行政行為が行われる

「手続」及び「過程」についての裁量そしてコントロールという問題があり得る。まず、処分を行うための要 件が充足されているか否か、という問題(要件)についての判断は、精確に見れば、少なくとも、①一定の事 実そのものが存在するか否か(事実の存否)、②処分のための要件を定めている法律の規定は、どのような意 味を有するか(法律の解釈)、③当該の事実は、この法律が定めている事実に当たるか(事実の法律への当て はめ)、といった判断を含む。また、処分がどのようにして行われるか(判断の手続・過程)のコントロール ということは、④如何なる手続を(手続の内容)、⑤踏んだか踏まなかったか(手続の実行の有無)、という事

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39  項についてのコントロール(手続のコントロール)、更にまた、行政庁が処分を行うに際し、⑥如何なる事項 を(考慮事項の内容)、⑦考慮したかしなかったか(考慮の有無)、という点についてのコントロール(判断過 程のコントロール)を含む。最後に、処分を行うかどうかについての判断(効果)には、⑧いかなる処分を

(処分の内容)、⑨いつ(処分の時機)、⑩行うか行わないか(行為の実行の有無)、等についての判断が含まれ * 28

 このような①から⑩の基準を裁判例に当てはめると、次のようになる。

 まず、裁判例1については、⑧に該当するが、本件ルート(曲線半径:500m)がAルート(曲線半径 700m)よりも安全であるとしたことは、判断の適切を欠いているように思う。

 次に、裁判例2についても、⑧に該当するが、道路構造令が定める曲線半径460mを超えれば、数値の選択 は行政裁量ということになるのだろうか。

 そして、裁判例3について、まず、道路構造令に定められていない「並木」の幅員1.5mを認めたことは、

②に該当し、同令に違反して違法であると考える。次に、市街地の中では、通常、2車線道路の制限速度が小 さいことを考えれば、交差点付近で設計速度を低くしても影響が少ないと思われる。これも②に該当し、原告 が主張する273項と解説と運用を適用した幅員の縮小は、合理的であると考える。最後に、「道路の標準幅 員に関する基準(案)について」は、道路構造令の内容を具体的に示しており、その意味では道路構造令と一 体の通達であるという立場からは、④、⑤に該当し、この通達の手順を踏まえないことは、同令にも違反し違 法であると考える。

 この説と同じ立場の裁判例は、圏央道あきる野IC事業認定・収容裁決取消請求事件(東京地判平16.4.22 が、「道路構造令の解説と運用」について、道路管理者の裁量の範囲を考慮するに当たっては、参考とされる べきである* 29という判示と、永源寺第2ダム事件(大阪高判平17.12.8)は、通達とその解説部分である設 計基準* 30について、①解説部分も通達と実質的に一体となる* 31、②土地改良事業の手続がこれに従って統 一的に行われることにより、その後にされる本件決定等の処分の適正が保障される* 32という判示の2例があ る。

 上記の①から⑩の基準は、2の事項の判断については、当然裁判所の判断が優先しなければならない。ま た、④から⑦については、かつては明文の規定が無き限り、専ら行政庁の裁量に委ねられるものと考えられて いたところ、裁判例を通じ、裁判所の審査の対象となる場面があり得ることが広く認められるようになった。

⑧から⑩については、なお、行政庁の政策的判断が大きくものをいう場面が多い* 33

 裁判所が効果(事例12では⑧)への審査を及ぼすのが難しいとしても、要件(事例3では②)と判断の 手続・過程(事例3では④、⑤)への審査は充分に行うべきである。

四 おわりに

これまで、判断代置的審査には至らないが、最小限審査を上回る「中程度の審査」の仕方により裁判例を検 討してきた。

 確かに、こうした積極主義は行政裁量を空洞化させないかと、疑問が呈されることがある* 34。そして、平 18年に最高裁は、行政の判断過程を謙抑的に審査する方法*35として、「裁量権の行使が逸脱濫用に当たる か否かの司法審査においては、その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択 や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が、重要な要素の基礎を欠くか、又は社会通念 に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って、裁量権の逸脱又は濫用として違法となる* 36 と判示した。

 しかし、公共事業が争われた裁判では、日光太郎杉判決(東京高判昭48.7.13)の統制方法を援用して行政 決定の違法性を認めた* 37小田急線連続立体交差事業認可処分取消請求事件(東京地判平13.10.3)、圏央道あ きる野IC事業認定・収容裁決取消請求事件(東京地判平16.4.22)などの新しい事例がある。更に、同判決は 比較考量の対象となる諸要素・諸価値を抽出し、それらの要素・価値についてどれだけの重みで考慮すべき か・すべきでないかという判断の適否に着目した司法審査* 38を行っている。この点、鞆の浦埋立免許差止請

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40 

求事件(広島地判平21.10.1)が、「本件埋立免許が「国土利用上適正且合理的」であるか否かを判断するに当 たっては、本件埋立及びこれに伴う架橋を含む本件事業の必要性及び公共性の高さとを比較衡量の上、瀬戸内海の 良好な景観をできるだけ保全するという瀬戸内法の趣旨を踏まえつつ、合理的に判断すべきであり、その判断 が不合理であるといえる場合には、本件埋立免許をすることは、裁量権を逸脱した違法な行為に当たる* 39。」

と判示したのは、日光太郎杉判決に近い視角であると思われる。

 したがって、道路構造令の行政裁量の司法審査においても、判断代置的審査には至らないが、最小限審査を 上回る「中程度の審査」の仕方により、主に要件と判断の手続・過程の審査を実施し、公正を疑われないよう なやり方で実施されたかどうかを中心に審査をすすめるべきである* 40と考える。      以上

 *1 植下協他『改訂新版道路工学』朝倉書店2001,p.63

 *2 柔軟性のある道路構造令のあり方検討委員会『道路構造令の運用実態と改善策の方向性』2010,p.6(国土交通省道路 局HP)

 *3 『判例自治』272 号2006,p.105

 *4 櫻井敬子他『行政法第3版』弘文堂2011,p.111  *5 櫻井敬子他『行政法第3版』弘文堂2011,p.113  *6 橋本博之『行政裁判と仕組み解釈』弘文堂2009,p.150  *7 橋本博之『行政裁判と仕組み解釈』弘文堂2009,pp.150-151  *8 橋本博之『行政裁判と仕組み解釈』弘文堂2009,p.151  *9 橋本博之『行政裁判と仕組み解釈』弘文堂2009,p.153

*10 藤田宙靖『第4版改訂版行政法I(総論)改訂版』青林書房2009,p.113

*11 藤田宙靖『第4版改訂版行政法I(総論)改訂版』青林書房2009,pp.113-114

*12 『判例時報』1119号1984,p.50

*13 『判例時報』1119号1984,p.66

*14 『判例時報』1119号1984,p.67

*15 『判例時報』1119号1984,p.67

*16 道路技術研究会『第七次改訂道路技術基準通達集』ぎょうせい2002,p.668

*17 『判例自治』164号1997,p.76

*18 『判例自治』164号1997,p.82

*19 『判例自治』164号1997,p.83

*20 『判例時報』1914号2006,p.43

*21 『判例自治』272号2006,p.105

*22 『判例自治』272号2006,p.105

*23 『判例自治』272号2006,p.105

*24 『判例自治』272号2006,pp.104-105

*25 『判例自治』272号2006,p.105

*26 『判例自治』272号2006,p.105

*27 『判例自治』272号2006,pp.105-106

*28 藤田宙靖『第4版改訂版 行政法I(総論)改訂版』青林書房2009,pp.113-114

*29 『圏央道あきる野IC事業認定・収容裁決取消請求事件(東京地判平16.4.22)判決文』2004,p.94

*30 D1-Law/ID28131608 p.16(D1-Lawのみ掲載)

*31 D1-Law/ID28131608 p.22(D1-Lawのみ掲載)

*32 D1-Law/ID28131608 p.22(D1-Lawのみ掲載)

*33 藤田宙靖『第4版改訂版行政法I(総論)改訂版』青林書房2009,p.114

*34 山本隆司「日本における裁量論の変容」『判例時報』19332006,p15

*35 山本隆司「日本における裁量論の変容」『判例時報』19332006,p16

*36 『判例時報』1936号2006,p.66

*37 山本隆司「日本における裁量論の変容」『判例時報』19332006,p15

*38 橋本博之『行政裁判と仕組み解釈』弘文堂2009,p.150

*39 『鞆の浦埋立免許差止請求事件(広島地判平21.10.1)判決文』2009,p.153

*40 原田尚彦「裁判と政策問題・科学問題」『講座 民事訴訟1 民事紛争と訴訟 初版』弘文堂1984,p.188

参照

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