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(1)

著者 奥山 高光

出版者 法政大学大学院

雑誌名 大学院紀要 = Bulletin of graduate studies

巻 72

ページ 1‑12

発行年 2014‑03

URL http://doi.org/10.15002/00009959

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要 旨

 刺激の過剰選択は自閉症に特徴的に見られる状態として報告され、刺激への不注意が原因ではないかと推測 された。しかし、先行研究では過剰選択の個人差が大きく、不注意を示唆するデータは示されていない。また、

自閉症児に対して注意を促進させることで、反応できなかった刺激に刺激性制御が形成されるとする報告はあ るが、刺激の過剰選択との関連性は明らかになっていない。そこで、本研究では刺激の呈示時間を意図的に短 く設定し、刺激の観察可能時間が過剰選択に与える影響について検討することを目的とした。対象者は、知的 障害を伴わない8名の自閉症成人と12名の大学生であり、同一遅延見本合わせ課題を用いた。見本刺激の呈 示時間を0.513秒に設定したテストを行った結果、刺激の過剰選択および課題の正反応率において両群に 差は認められず、刺激の過剰選択は、両群共に全ての呈示時間において同程度に生起した。このことから、刺 激の過剰選択は刺激を観察していても生起する現象であることが示された。また、刺激に対する注意は、自閉 症者と健常者において同等であることが推測された。

 キーワード:刺激の過剰選択 注意 見本合わせ 自閉症 成人

Ⅰ.問題と目的

 刺激の過剰選択は、複数ある刺激要素の一部の刺激に対して反応を示す傾向(Lovaas, Schreibman, Koegel, &

Rehem, 1971)のことであり、自閉症に特徴的に見られる中核症状として指摘されている(Pierce, Glad, &

Schreibman, 1997)。自閉症が一部の刺激に対して反応することを示すために、初期の研究では、自閉症児と健

常児を対象として群間比較が行われた。例えば、自閉症児、知的障害児、健常児を対象に群間比較を行った

Lovaas et al. 1971)は、自閉症児が健常児および知的障害児と比べ過剰選択することを報告した。彼らの実験

で用いた刺激は、足元のライト(視覚刺激)、雑音(聴覚刺激)、足への圧迫(皮膚感覚刺激)であり、訓練試行 では、これら3つの刺激を同時に呈示している時のボタン押し反応を強化した。その後、訓練で用いた3つの 刺激を1つずつ呈示し、どの刺激に対して多く反応するかテストを行った。その結果、自閉症児は1つの刺激 にのみ反応する結果を示したのに対し、健常児は3つの刺激全てにおいて反応を示し、知的障害児は2つの刺 激に反応を示した。

 自閉症児の過剰選択は特定の刺激に対する感覚が欠損しているわけではないため、刺激全体への不注意では ないかと推測された(例えば、Lovaas et al, 1971)。Lovaas et al. 1971)は、自閉症児に対して反応頻度が少なか った刺激を単独で訓練し、すぐにその刺激に対して反応を示すようになったことを報告している。刺激に反応 できるということは、自閉症児は例えば聴覚刺激など特定の刺激に対する感覚が欠陥しているわけではなく、

様々な刺激様相において過剰選択が起こりえることが示唆された。その後も過剰選択に関する研究は、自閉症 児と健常児を対象にして群間比較が行われ、視覚刺激(Koegel & Wilhelm, 1973)、聴覚刺激(Reynolds, Newsom,

& Lovaas, 1974)、視覚刺激と聴覚刺激(Lovaas & Schreibman, 1971)において自閉症児が過剰選択を示す結果と なった。同様の結果は、近年の研究でも報告されている(例えば、Leader, Loughnane, McMoreland, & Reed, 2009; Reed, 2012; Reed & McCarthy, 2012など)。このような経過から、自閉症児の過剰選択は注意の問題とし て考えられてきた。

見本刺激の呈示時間と刺激の過剰選択

─知的障害を伴わない自閉症成人と大学生の比較─

        人文科学研究科 心理学専攻

博士後期課程2年 

奥 山 高 光

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 しかし、これらの研究では個人差が大きく、自閉症児が不注意であることを示すデータはない。Lovaas et al.

1971)の実験手続きでは訓練試行において3つ全ての刺激に対して反応していたのか、1つだけに反応してい たのか確認できないため、不注意であることを示すことはできない。そして、Lovaas and Schreibman 1971)を はじめ、多くの実験において、対象児の中には過剰選択を示す者と示さない者がいる。さらに、過剰選択する 刺激は対象児によって異なっている。また、自閉症群と健常群に差が見られなかったという報告もある(Schover

& Newsom, 1976)。これらのことから、刺激の過剰選択の要因は自閉症児の不注意のためであるかのように扱

われてきたが、全ての自閉症児が過剰選択するわけではなく、不注意を示唆するようなデータは示されていな い。

 一方、近年の研究では、健常成人であっても一定の条件が揃えば過剰選択が生起することが報告されている。

近年の刺激の過剰選択に関する研究では、遅延見本合わせ(DMTS; delayed matching-to-sample)課題を用いて 群間比較が行われているが、自閉症児と健常児の群間比較ではなく、健常成人を対象として過剰選択が生起す ることを示した研究もある。過剰選択が生起する条件として、見本刺激の消失から比較刺激の呈示時間までの 長さ(Broomfield, McHugh, & Reed, 2008; Reed, 2006など)や訓練時に用いた見本刺激の数(Reed, Petrina, &

McHugh, 2011など)、強化された履歴(Broomfield, McHugh, & Reed, 2010など)などが指摘されている。これら

のことから、一定の条件が揃えば健常成人であっても刺激の過剰選択が生起することが示されている。

 注意は行動分析学から解釈すると、刺激性制御として扱うことができる。刺激性制御とは、ある刺激のもと で反応を強化すれば、その刺激が反応をより自発させるようになることを言う。心理学一般における注意とは、

多くの情報の中から認知する情報を取捨選択する機能および、注意の強度を複数の対象に分配する機能である

(渡辺,1999)。注意を刺激の過剰選択の要因と考えると、制御しうる刺激がいくつかある時に、特定の刺激に のみ反応を自発し、反応頻度が増加した状態であると言える。したがって、注意は刺激性制御における刺激の 選択性の問題(杉山・渡辺,1982)として取り扱うことができる。

 ところで、自閉症児者と健常児者は視知覚そのものが異なっているという指摘(Happe, 1996)があったが、

現在では視知覚の差異は認められないとする報告が主流であるため、本研究でも自閉症に特異的な視知覚はな いものとして扱う。見え方自体が異なっているとすれば、自閉症児が刺激に注意することができていても過剰 選択することが考えられる。しかし、近年の視知覚研究では、自閉症児者と健常児者に差異は認められないと いう結果(例えば、Milne & Scope, 2008; Ropar & Mitchell, 1999; Ropar & Mitchell, 2001など)が主流である。

 自閉症児に対し、注意を促進することで反応を示さなかった刺激に対しても刺激性制御が形成されることが 報告されている。注意の促進方法として、刺激プロンプト(Rincover, 1978; Schreibman, 1975など)、命名(小 野寺・野呂, 2006など)、同一同時見本合わせの追加(Dube & McIlvane, 1999; Walpole, Roscoe, & Dube, 2007など)

などが用いられている。これらの方法により、反応を示さなかった刺激に注意を向けることを促進させ、刺激 性制御を形成させた。例えば、Dube and McIlvane 1999)は、1名の知的障害児と2名の知的障害を伴う自閉 症児者を対象に、同一同時見本合わせを行うことで注意を促進させた。課題では、対象児者が見本刺激に触れ ると見本刺激と同様の刺激を含む3つの刺激が画面四隅に追加して呈示され、同一のものを選択することが求 められた(同一同時見本合わせ)。これを各試行前に行い同一遅延見本合わせを実施した結果、正反応率は早 急に上昇したが、観察を行わない場合には、正反応率が介入前の値まで低下した。このことから、彼らは刺激 を全て観察できていないために過剰選択が生起したのではないかと推測している。

 注意を促進させる効果について視線解析装置を用いて分析した結果、正反応率との相関は認められたが、過 剰選択との関連は明らかになっていない。Dube, Balsamo, Fowler, Dickson, Lombard, and Tomanari 2006)は4 の健常成人に対して同一遅延見本合わせ課題を実施し、視線解析装置を用いて見本刺激への観察反応を分析し た。彼らは、コンピュータを用いて4つの無意味図形から構成された見本刺激を画面中央に呈示し、対象者が 画面に触れると1秒後に3つの比較刺激を画面四隅に呈示し、内正答となる刺激は1つであった。そして、対 象者に見本刺激と同一のものを比較刺激から1つ選択することを求めた。その結果、正反応率の低かった対象 者は見本刺激を観察する持続時間が短く、眼球運動のパターンが一定しない傾向が見られた。そして、刺激を 観察する回数が増加したり時間が延長したりすると、課題の正反応率も上昇したことを報告している。このこ とから、見本刺激への注意の精度と課題の正反応には相関があることが示唆された。しかし、刺激への注意の

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精度と過剰選択との関連は明らかとなっていない。

 このような研究経過から、以下のような検討課題があると考えられる。まず、自閉症児の不注意を指摘した 多くの先行研究では、知的障害を伴う自閉症児と健常児を比較していたが、知的障害を伴わない自閉症者を対 象には行われていない。さらに、刺激の過剰選択は全ての刺激を観察できていないといった不注意が要因であ ると指摘されているが、不注意を変数とした自閉症者と健常者の比較はいまだに行われていない。そこで、本 研究では知的障害を伴わない自閉症成人と健常者を対象に、同一遅延見本合わせ課題を実施した。その際、見 本刺激の呈示時間を意図的に短く設定し、見本刺激の観察可能時間が自閉症群と健常群の過剰選択に及ぼす影 響を検討した。実験計画は3 (刺激の呈示時間: 0.513秒)×2 (刺激の種類: 最大、最少選択)の2要因実 験参加者間計画であった。

Ⅱ.方 法

  (1) 参加者

18歳以上の男女20名が参加した。自閉症群(P1P8)は、医療機関よりアスペルガー症候群、高機能自閉 症、広汎性発達障害のいずれかの診断を受けた知的障害を伴わない男女4名ずつ計8名であった(表1参照)。

学歴は、大学卒業が3名(P1P4P8)、大学在学中が4名(P2P3P6P7)、高校卒業が1名(P5)であった。

課題開始前に実施した自閉症スペクトラム指数(AQ)では、全ての参加者においてカットオフポイントである 33点以上を示した。

 健常群(P9P20)は、大学生男性11名と女性1名の計12名であった(表2参照)。課題開始前に実施した 自閉症スペクトラム指数(AQ)は、全ての参加者が33点未満であった。参加者には課題開始前に筆者が実験 の概要を説明し、自主的に同意が得られた場合に同意書に署名してから、実験に参加した(資料1)。

表 1 自閉症群の参加者

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表 2 健常群の参加者

 (2) 課題

 自閉症群はA市にある静かな相談室(約3m×5m)、健常群はB大学実験室(約2m×3m)にてPanasonic 社製パーソナルコンピュータCF-W8を用いて個別に実施した。課題はMicrosoft社製Visual Basic 2010 Express

Editionを用いて、同一遅延見本合わせ課題を作成した。刺激は薄い灰色の背景に3cm×3cmの大きさで呈示し、

Microsoft社製Word2007SymbolWingdingsに含まれている無意味図形を用いた(図1参照)。

図 1 用いた刺激の一例

 課題は、①注視点を3秒間呈示、②画面中央に3つの無意味図形を見本刺激として呈示、③画面四隅に4 の無意味図形を比較刺激として呈示、④見本刺激と同一のものを1つ選択という流れで行った。この時、4 の比較刺激のうち2つは見本刺激と同一のものが含まれていた。これを1試行とし、試行間間隔は5秒とした

(図2参照)。各条件では、3つの図形をひとつのセットとし2セット(例えば ABC DEF )を用いて、

36試行実施した。

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図 2 同一遅延見本合わせ課題の流れ

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  (3) 手続き

 訓練を終了後、テストを実施した。参加者に対しては、課題の概要と流れを書面および口頭で説明した。

  (a) 訓練 訓練用の3刺激を2セット使用し、見本刺激を3秒呈示した。80%以上の正反応率を示した場 合には、訓練を終了しテストを実施した。正答の場合は「正解です!!」の文字と523Hzのベル音を呈示し、

誤答の場合は「間違いです」の文字と262Hzのベル音を呈示した。

 (b) テスト テスト用の3刺激を6セット使用し、見本刺激の呈示時間が異なる3つの条件 0.513秒)

を参加者ごとにカウンターバランスをとり順不同に実施した。この時、正誤のフィードバックは行わなかった。

また、刺激についてもカウンターバランスをとり、各条件において特定の刺激セットのみが使用されないよう にした。

Ⅲ.結 果

 訓練では全ての参加者が80%以上の正反応率を示したため、テストを実施した。その結果、刺激の過剰選 択は全ての見本刺激の呈示時間において同程度に生起し、自閉症群と健常群には差が見られなかった。また、

課題の正反応率では、両群とも見本刺激の呈示時間が長くなるに従い上昇する傾向が見られた。

 テストにおいて最も多く選択した刺激と少なく選択した刺激の回数を呈示時間ごとに図3に示した。縦軸は 選択した刺激の回数を示し、横軸は見本刺激の呈示時間の条件を示した。縦棒は参加者1名あたりの最大・最 少に選択した刺激の回数を示した(最大12回)。最大・最少に選択した刺激の回数の差が大きくなるほど、一 部の刺激を過剰選択していることになる。

 自閉症群の最大の選択回数の平均と範囲は0.513秒の順に8.4回(6-10)、8.0回(6-9)、7.9回(6-9)であ り、最少の選択回数の平均は3.3回(2-4)、2.6回(1-4)、3.6回(2-4)であった。健常群の最大の選択回数の平 均は0.513秒の順に7.8回(7-10)、8.6回(7-10)、8.4回(7-12)であり、最少の選択回数の平均は3.3回(0-5)、

2.2回(0-5)、3.4回(1-5)であった。

 選択反応の傾向を明らかにするために、js-STAR 2012を用いて3要因の分散分析(群×呈示時間×選択の最 大・最少)を行った。その結果、群の主効果は認められなかった(F 1, 18 = 0.01, n. s.)が、呈示時間と選択の 最大・最少の主効果が認められた(F 2, 36 = 12.47, p < 0.01, F 1, 18 = 1878.00, p < 0.01)。また、2次の交互 作用が認められた(F 2, 36 = 16.19, p < 0.01)。

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図 3 自閉症群と健常群の刺激の選択回数

 注記:縦軸は選択した刺激の回数、横軸の秒数は見本刺激の呈示時間を示した。横軸の最大とは、その呈示 時間に最も多く選択した刺激の回数、最少とは最も少なく選択した刺激の回数である。縦棒1本は参 加者1名の刺激の選択回数であり、各呈示時間の最大および最少に選択した刺激の回数を示した(最 12回)。例えば、参加者P10.5秒の条件において各刺激の選択回数が495385回であ った場合、最大の刺激として9回、最少の刺激として3回とした。なお、縦棒の並び順は選択回数の 少ないものから順に並び替えており、参加者の並び順ではない。

2次の交互作用が有意であったため、自閉症群と健常群のそれぞれについて、呈示時間と刺激の最大・最少 2要因の分散分析を行った。自閉症群は呈示時間と刺激の最大・最少ともに主効果が認められ(F 2, 14 = 8.49, p < 0.01, F 1, 7 = 902.48, p < 0.01)、交互作用が認められた(F 2, 14 = 6.80, p < 0.01)。さらに交互作用 を分析した結果、刺激の最大選択においては呈示時間の単純主効果は認められなかった(F 2, 14 = 2.60, n.s. が、刺激の最少選択におい呈示時間の単純主効果が認められた(F 2, 14 = 14.91, p < 0.01)。健常群も呈示時 間と刺激の最大・最少ともに主効果が認められ(F 2, 22 = 8.17, p < 0.01, F 1, 11 = 1126.40, p < 0.01)、交互 作用が認められた(F 2, 22 = 17.63, p < 0.01)。さらに交互作用を分析した結果、刺激の最大および最少選択 において呈示時間の単純主効果が認められた(F 2, 22 = 5.90, p < 0.01, F 2, 22 = 24.60, p < 0.01)。

 刺激の最大選択においてHolmの方法による多重比較を行った結果を図4に示した。自閉症群は、それぞれ の呈示時間の結果に有意な差は認められなかった。健常群は、0.5秒(平均7.8回)と1秒(平均8.6回)、0.5 秒と3秒(平均8.4回)の間に有意な差が認められ(p < 0.05)、1秒と3秒の間には有意な差は認められなかった。

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図 4 最大選択回数における多重比較の結果

 刺激の最少選択においてHolmの方法による多重比較を行った結果を図5に示した。自閉症群は、0.5秒(平 3.3回)と1秒(平均2.6回)、1秒と3秒(平均3.6回)の間に有意な差が認められ(p < 0.05)、0.5秒と3 の間には有意な差は認められなかった。健常群も、0.5秒(平均3.3回)と1秒(平均2.2回)、1秒と3秒(平 3.4回)の間に有意な差が認められ(p < 0.05)、0.5秒と3秒の間に有意な差は認められなかった。

図 5 最少選択回数における多重比較の結果

 テストにおける課題の正反応率を呈示時間ごとに図6に示した。縦軸は課題の正反応率を示し、横軸は見本 刺激の呈示時間の条件を示した。縦棒は自閉症群と健常群の正反応率の平均を示した。

 自閉症群の正反応率は0.513秒の順に89.9%、91.7%、94.8%、健常群は91.9%、96.5%、98.8%であった。

正反応率の差を明らかにするために、js-STAR 2012を用いて2要因の分散分析(群×呈示時間)を行った。そ の結果、群の主効果は認められなかった(F 1, 18 = 2.85, n. s.)が、呈示時間の主効果が認められた(F 2, 36

= 11.52, p < 0.01)。また、これらの交互作用は認められなかった(F 2, 36 = 0.74, n. s.)。そこで、両群を合わ せてHolmの方法による多重比較を行った結果、0.5秒(平均90.8%)、1秒(平均94.2%)、3秒(平均96.9%)

すべての間に有意な差が認められた(p < 0.05)。

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図 6 自閉症群と健常群の課題の正反応率と多重比較の結果

Ⅳ.考 察

 本研究では知的障害を伴わない自閉症者と健常者を対象に、見本刺激の呈示時間を短く設定した同一遅延見 本合わせ課題を実施した。その結果、両群の刺激の過剰傾向に差は認められず、全ての呈示時間の条件におい て同程度に過剰選択を示す参加者がいた。刺激の過剰選択は観察時間が長くても生起する現象であることが示 され、不注意以外にも過剰選択を制御する変数があることが考えられた。また、課題の正反応率も両群におい て差が認められず、両群とも見本刺激の呈示時間が長いほど課題の正反応率が高くなる傾向が認められた。自 閉症群の注意は特徴的なものではなく、健常群と同程度であることが示唆された。

 刺激の過剰選択では、両群とも全ての見本刺激の呈示時間において同程度に過剰選択を示す参加者がいた(図 3参照)。自閉症群の最大選択回数の平均は0.513秒の順に、8.4回、8.0回、7.9回であり、見本刺激の呈 示時間の単純主効果は認められなかった。健常群の平均は7.8回、8.6回、8.4回であり、見本刺激の呈示時間 の単純主効果が認められた。多重比較の結果、0.5秒よりも13秒の選択回数が有意に大きいという結果にな った(図4参照)。観察可能時間が長くても過剰選択する参加者がおり、全ての呈示時間において一定の割合 で過剰選択が生起することが示された。

 本研究では自閉症群と健常群に差は認められず、刺激の過剰選択は自閉症に特徴的に見られる現象ではない ことが示唆された。本研究の結果では、全ての見本刺激の呈示時間において、両群に差が見られなかった。こ の結果は、自閉症児が健常児よりも一部の刺激を過剰選択するという結果(Koegel & Wilhelm, 1973; Leader, et al., 2009; Lovaas et al., 1971; Lovaas & Schreibman, 1971; Reed, 2012; Reed & McCarthy, 2012; Reynolds, et al., 1974 を支持せず、自閉症児と健常児に差は見られない(Schover & Newsom, 1976)、健常者でも一定条件が揃えば過 剰選択が生起する(Broomfield, et al., 2008; 2010; Reed, 2006; Reed, et al., 2011)という結果を支持するものとなっ た。このことから、刺激の過剰選択は自閉症児者に特徴的に見られる現象ではないことが考えられる。

 過剰選択する要因は刺激への不注意ではなく、刺激性制御における刺激の選択性に影響する変数があること が考えられる。Dube and McIlvane 1999)は、自閉症児に注意を促進することで、反応できなかった刺激に対 して刺激性制御を形成できたことから、刺激の過剰選択が生起する要因は全ての刺激を観察できていないため と推測した。刺激の観察が一部にのみ行われていたとすれば、その刺激に対してのみ反応するので過剰選択と なるが、その根拠を示した研究は見当たらない。本研究の結果では、全ての見本刺激の呈示時間において、一 定の割合で過剰選択する参加者がいた。また、過剰選択は注意以外の要因によっても生起する(Broomfield, et

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al., 2008; 2010; Reed, 2006; Reed, et al., 2011)。このことから刺激への注意ができていても、特定の刺激に刺激性 制御が形成される変数があることが予測される。

 先行研究と異なる結果になった要因として、実験手続きの差異が影響したことも考えられる。1点目は、注 視点が見本刺激を観察することを促進したことが考えられる。今までの先行研究では、見本刺激を呈示する前 に注視点のような事前に注意を向けるための予告刺激を呈示する手続きが含まれていなかった。2点目は、

0.513秒の呈示時間をそれぞれの条件ごとにテストしたため、刺激を観察することに慣れてしまったこと が考えられる。これらが影響しないような追試を設定し、再現性が認められるか検討が必要であろう。

 課題の正反応率でも、両群に差は認められず、見本刺激の呈示時間が長くなることに従い正反応率が上昇し た(図6参照)。自閉症群の正反応率は、0.513秒の順に89.9%、91.7%、94.8%であり、健常群は91.9%、

96.5%、98.8%であった。両群とも呈示時間が長くなるほど、正反応率が上昇した。多重比較の結果、各呈示 時間の正反応率の間に有意差が認められた。両群の正反応率に差はなく、観察可能時間が長くなると正反応率 が上昇することが示された。

 本研究においては自閉症群と健常群に差は見られず、自閉症者が刺激に対して不注意ではないことが考えら れた。先行研究では、自閉症児は複数の刺激に対して不注意であると考えてきた(Koegel & Wilhelm, 1973;

Leader, et al., 2009; Lovaas et al., 1971; Lovaas & Schreibman, 1971; Reed, 2012; Reed & McCarthy, 2012; Reynolds, et

al., 1974)。しかし、本研究の結果では、自閉症群も健常群と同等に85%以上の正反応率を示した。課題の正反

応率と刺激の観察の精度には、相関があることが示唆されている(Dube et al., 2006)。このことから、自閉症児 者と健常児者の視知覚に差はないとする研究(Milne & Scope, 2008; Ropar & Mitchell, 1999; Ropar & Mitchell, 2001)と同様に、刺激への注意に関しても差がないことが考えられる。

 自閉症群が高い正反応率を示したのは、健常群と同程度に刺激を観察できていたからであると推測された。

注意と正反応率との相関は先行研究で報告されており、観察の精度が上がると正反応率も上昇する(Dube et

al., 2006)。本研究の結果では、両群とも見本刺激の観察可能時間が長くなるに従って正反応率が上昇した。自

閉症群と健常群の正反応率には差が認められなかったため、両群は同程度の精度で刺激を観察していたことが 推測される。

 先行研究と異なる結果になった要因として、手続きの差が影響したことも考えられる。Lovaas et al. 1971 にはじまる先行研究は、訓練時において全ての刺激に反応できていたか確認できてない。本研究の訓練手続き では、全ての刺激に反応できる機会を設定し、正誤のフィードバックを行った。この差が複数の見本刺激に反 応することに影響し、高い正反応率を示したことも考えられる。

 今までの先行研究の多くは、自閉症が不注意であると指摘してきた(Koegel & Wilhelm, 1973; Leader, et al., 2009; Lovaas et al., 1971; Lovaas & Schreibman, 1971; Reed, 2012; Reed & McCarthy, 2012; Reynolds, et al., 1974)。こ れをもとに、自閉症児の不注意が要因で過剰選択が生起する(Dube & McIlvane, 1999)と考えられてきた。しか し本研究では、刺激の過剰選択および課題の正反応率において両群に差が認められなかった。これらのことか ら、自閉症群と健常群は同程度に刺激に注意できることが推測され、刺激を観察していても過剰選択すること が明らかとなった。今後は全ての刺激を観察しているにも関わらず、特定の刺激を過剰選択するような要因を 見出す実験が求められる。

引用文献

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(13)

資料 1 同意書

同意書

 この度は『注意に関する見本合わせ実験』に関する研究に興味を持って頂き、ありがとうございます。この 実験では、パソコンを用いて同一見本合わせ課題(神経衰弱ゲームのようなもの)を実施します。見本刺激の 呈示時間が比較刺激の選択反応にどのように影響するかを検討することが目的です。実験は個別に小実験室で 行います。実験にかかる時間は全体で3040分間です。途中で休憩を取ることが可能ですので、疲れた場合 には申し出てください。実験で用いる刺激は、心的負担にならない無意味図形のみを用います。実験結果につ きましては、E-Mailもしくは郵送にてお知らせしますので、以下の質問に回答ください。

1.参加・不参加および辞退の自由について

 実験への参加は強制ではありません。何らかの理由により、参加を中止する場合には、その旨をお申しつけ ください。直ぐに実験を中止させて頂きます。実験の中止、実験参加の同意撤回による不利益は一切ありませ ん。

2.研究成果の公表とプライバシーの保護について

 本研究の成果は学会発表や学術論文などを通じて公表されます。皆さまのプライバシーを保護するため、こ の実験で収集したデータを学会や論文などで発表する場合には、個人情報(氏名や所属など)は一切秘匿しま す。個別のデータを公開する場合には、それが誰のデータであるかは決してわからないようにコードを使って 表します。データ入力や分析、保存の際にもこのコードを使い、個人情報はパソコンに入力しません。研究者 にも個人が特定できないように配慮します。

 収集したデータは学会発表や論文執筆後5年間は法政大学文学部心理学科島宗研究室の鍵付きロッカーに保 管させていただきますが、その後は責任をもって処分させていただきます。

※他にも実験に関して分からないことがあれば、お気軽に実験者までお尋ね下さい。

 この同意書をよく読んで実験への参加にご同意いただけましたなら、下に必要事項を記入し、署名をして提 出して下さい。この書類の提出をもって、同意書の内容を理解して合意し、実験に参加されるものとみなしま す。

この研究の責任者は法政大学文学部心理学科島宗 理です。

この研究における実験者代表は奥山高光です。

日付:    年   月   日

お名前(自筆で署名):      学籍番号 :       住 所 :〒       

メールアドレス(携帯可):       電話番号 :      

実験結果のお知らせの有無および方法について(いずれかにチェックしてください。)

□お知らせを希望しない

□全体の結果のみ希望する ⇒ □E-Mail  □郵送

□全体の結果および個人データを希望する ⇒ 個人情報のため郵送にてお知らせいたします。

表 2 健常群の参加者
図 2 同一遅延見本合わせ課題の流れ
図 3 自閉症群と健常群の刺激の選択回数  注記: 縦軸は選択した刺激の回数、横軸の秒数は見本刺激の呈示時間を示した。横軸の最大とは、その呈示 時間に最も多く選択した刺激の回数、最少とは最も少なく選択した刺激の回数である。縦棒 1 本は参 加者 1 名の刺激の選択回数であり、各呈示時間の最大および最少に選択した刺激の回数を示した (最 大 12 回)。例えば、参加者 P1 が 0.5 秒の条件において各刺激の選択回数が 4 、 9 、 5 、 3 、 8 、 5 回であ った場合、最大の刺激として 9 回、
図 4 最大選択回数における多重比較の結果  刺激の最少選択において Holm の方法による多重比較を行った結果を図 5 に示した。自閉症群は、 0.5 秒 (平 均 3.3 回) と 1 秒 (平均 2.6 回)、 1 秒と 3 秒 (平均 3.6 回) の間に有意な差が認められ ( p &lt; 0.05 )、 0.5 秒と 3 秒 の間には有意な差は認められなかった。健常群も、 0.5 秒 (平均 3.3 回) と 1 秒 (平均 2.2 回)、 1 秒と 3 秒 (平 均 3.4 回) の間に有意な
+2

参照

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