Wallace Stevensにおけるrealityの意味 :
"Thirteen ways of looking at a blackbird"を中 心として
著者 池田 直子
雑誌名 主流
号 37
ページ 1‑17
発行年 1976‑09‑25
権利 同志社大学英文学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000014909
1
Wallace S t e
v'e n s における R e a l i t y の意味
一一一 Thirteen羽Taysof Looking at a Blackbird"を中Jむとして一一一
池 田 直 子
..1 am the necessary angel of earth, Since
,
in my sight,
you see the earth again.The Auroras of Autumn" (CP 411)1 1 am the angel of reality
,
Seen for a moment standing in the door. Angel Surrounded by Paysans" (CP 416)
I
Wallace Stevensは, 1923年 44歳で処女詩集 Harmoniumを出坂L, 以後,法律家として働く一方,数々の詩集を,また, 1951年には,詩論集 The Necessary Angelを公けにした. 今世紀の偉大な詩人である. 今, 中心として取り上げようとする ThirteenvVays of Looking at a Black‑ bird"は,Harmonium中に納められたものである.この詩は,俳句のよ
うな2手法を用いた 2行から7行の,短い, 独立したイメージを持つ,
13の連から成り立っている. 被は, 1928年, 手紙の中でこの詩にふれ,
This group of poems Is not meant to be a collection of epigrams or of ideas, but of sensations.円(L.251)3と述べている. これでも明ら かな如しこの詩は, blackbirdの飛ぶ姿,さえずり,影等を,個別に各 連でとらえ,詩人の感動を表現し,全体としてみると,恐怖感やグロテス クな感動等を呼び起こす詩である.この詩について,数多くの批評家が述 べていることをまとめると詩は,死の非情さ,不可避性についてであると
2 vVallace Stevensにおける Realityの意味
いう見方ど,第3連にみられる,
r
男と女, blackbirdは一つである,Jが 中心テーマであるという見方5とが多い. 多様な意味を含むものである為 に,この詩に対す.Q見方のいずれも,間違いであるとは言い難い.ただ言 い得るζとは,各連が独立している為に,そこに完全な連続性を見出すの は不可能に近しそのような試みには無理が生じるであろうという点が一 つ,そして,今迄の読まれ方の大半が,詩のみを考察したものであるとい う点である. 詩論集に見られる Stevensは Poeや Coleridgeに匹敵す る詩論家でゐる.しかし,彼の詩論をふまえた上でこの詩を論じた批評家 は極めて少数であるStevensは,詩が realityとimaginationの相互依存によって成立する と考えた7 realityとは,科学的真理のみを意味するのではなし主体的 経験によってとらえるものを含めた意での現実である imaginationは, 現実の中から,真実を8抽出してゆく力であって,それは, 現実の絶望的
な巨大な力をはね返す,内なる力であり,全ての人々が生きるのを助ける ものである. (NA 36)以上のような考えを加味して blackbirdの詩を読 むならば, imageの多様さ, sensation等から受ける感動や意味以上に,
Stevensのいう真実の意味を理解する鍵を得ることも可能であろうと考え るのであるe
E
Among twenty snowy mountains, The only moving thing
i
.
Vas the ey巴 ofthe blackbird. (CP 94)20もの雪山の連なりの中に動いていたものは,黒い鳥の目だけであった,
という,この詩の第一連に於ける鋭い対照は,作者の感動を伝えるもので ある.20という数は,実際の山の数であるかどうか疑わしいが,目を閉じ,
Wallace Stevensにおける Realityの意味 3
20もの雪に埋もれた山々を想う時,白銀の連なりは,無限の世界への連な りとなり,死の世界或いは不滅の世界へと,読者を誘うのである.無限の 静の世界に対する動の世界として詩人 Stevensが取り上げるのは, 極く 小さな黒い鳥9の,黒い片目なのである. 感動を表現する為に詩人の用い た, twenty円と only円という三つの形容詞は, 驚くべき鋭い対照を 生み出し,一見,寒々とした,ただの雪景色に対し,読者の惑動を換起す るのである.読者は,見る光景に,様々な意味づけをすることができるよ
うになった.換言すれば,詩人の想像力は,現実に新たな価{直を与えたの である.このような例は,殆んど全部の連に見ることがきる.
The blackbird whirled in the autumn winds. It was a small part of the pantomime. (CP 93)
鳥の飛ぶ有様を歌った第3連に於いて,重要なことばは, 1パントマイム」
であろう.ノミントマイムは,無言の動作を通し,一つの意味を伝達する.
秋空を静かに舞う黒い鳥の伝えるものは,冬の接近であるとも考え得,第 一連を読んだ者は,多くの意味をもっー羽の黒い鳥のいる,無浪の白い静 の世界への誘いを感じ取るのである.外的情景に与えられる新たな世界を 生み出すことばが,パントマイムである.
第6連には,次の行がある.
lcicles五lleda ιlong window
、iVithbarbaric glass.
The shadow of the blackbird Crossed it
,
to and fro. (CP 93)barbaric円はガラスにつける形容詞としては奇異なものである. しかし,
つららのガラスは,詩人には影しか見えぬ飛ぶ鳥の世界と,詩人の居る世 界とは違ったものであり,その二つの世界を仕切っているものである.ど
4 Wallace St巴vensにおける Realityの意味
ちらの世界からも,ガラスの向こうの世界は barbaricな世界である. 以 上のように考察すれば,詩人の感動を伝え,この連を生かす,巧みな形容 詞だと考えられるのである.
At the sight of blackbirds Flying in a green light, Even the bawds of euphony Would cry out sharply. (CP 94)
blackbirdが群をなして飛ぶのは秋である. 従って,この stanzaは, 第 3連と同じく,多くの暗示を含んでおり, それらは greenという背景の 色によって,更に多彩なものとなっているのである.詩人の感動の深さは9
bawds of euphony円すら, 声を上げて叫ぶだろうという部分にうかがよ二 える. bawdsof euphony円とは,形式, リズム,韻などの,形式的美 しさのみが詩の価値であると考える人々に対する,詩人のつけた,皮肉た っぷりのあだ名である.形式美にとらわれ,すまし込んでいる人々でさえ,
という表現は,美しさであれ,恐しさ或るいは不吉さであれ,その光景に 対する感動の表れである. 第12連に見られる ,]flと鳥との組み合わせ,
The river is moving. / The blackbird must be flying." (CP 94)も第 四連の evening円ということばで,昼の暗さを表現していること10も, Stevensが現実を表現する際,想像力を用いて,新たな意味をその上に加
えていることのあらわれである.
しかしながら,想像力とその作用を重んじ, 詩作をした Stevensは, 従来のような,詩人は想像力に依っていればよいという, ロマン主義的詩 論には批判的である。
o
thin men of Haddam,
Why do you imagine golden birds?
Wallace Stevensにおける Realityの意味 Do yOU not see how the blackbird
Walks around the feet
Of the women about you? (CP 93)
5
Haddamとは, コネティカvト州にある町の名であり, やせたその町の 人々とは,ニューイングランドに住む, ピューリタンの子孫,あるいは,
生粋のアメリカ人一‑Yankee‑ーを表し℃いると考えることが出来る11
彼等は全く想像上の鳥である,完全無欠,最高の価値ある,黄金の鳥のみ を追い求め,現実の足元を歩く黒い烏が黒くは見えず,その上に黄金の鳥 を想像しているのである.想像力を過大に重視した,ロマン主義的詩観に 対する,鋭い痛烈な皮肉なのである.次の連にも,その調子は続いてる.
1 know noble accents
And lucid
,
inescapable rhythms;But 1 know
,
too,
That the blackbird is involved 1n what 1 know. (CP 94)
Stevensは,過去の偉大な詩を数多く読み,その良さも理解しているので あるが,彼の措く黒い鳥は,自分の知っているものの中に含まれている,
と述べている.想像上の goldenbirdではなく,日頃よく見る blackbird に価{直を与えているのである.
第7連に於ける goldenbirdには, 興味深い二面的要素がある. それ は,ピューリタン, Yankeeの持つ,極めてロマγチγクであると同時に 現実的であるという二面性である.彼は,手紙の中で次のように述べてい
る. ‑…・.1am told that men did dig for gold in Haddam
,
Connecticut,
once.
一 … 円
(L251) golden birdは,想像上のロマンチvグな鳥であると 同時に,黄金あるいは moneyという,現実の権化でもある.従って彼が6 vVallace Stevensにおける Realityの意味
golden birdに対して批判的な態度を取ることは, その暗示する二つの意 味の双方共に批判的であると考え得るのである.第7連に於ける黒い鳥は,
現実にも,想像上のものにも属さず,双方のうち一方のみに片寄った視点 からではとらえ得ず,その二つが相互作用している所からのみ,とらえ得 る存在なのである.
少し視点を変え,詩全体の構成に注目すると,この詩が現在形で表され た連じ過去形のものとで成り立ち,それらが約同数であることが判る.
過去形で表された連の大部分には,たとえ白に直接見えなくても,実際の 烏の動きが,季節を背景として歌われており,現在形のものには,詩人の 想像や洞察により作り上げた,見えぬ鳥を歌っているということができる のである.現存する鳥と,詩人の想像,洞察の中の鳥とを扱った連が約同 数であるということは,詩人の
r
詩は現実と想偉力との相互作用であれ 真実は, その作用により生み出される.Jという認識を反映しているとも いい得るのである.しかも,過去形と現在形の達者二鳥が飛ぶさまを表ず かのように9 あちこちと配置し,この詩の意味を深く,多様にもしている のである.Stevensが,このようにして創り出した真実を,授は,ありのままの人 生そのものであり,全ての人々に意味あるものだという.第1連の鳥も雪 もさまざまな意にとらえることが可能である.人間の象徴,動あるいは生 の象徴,善や悪の象徴たる鳥に対し,死の象徴,清らかさの象徴,永遠の 象徴等が雪であるという解釈に無理はない.第2連における12烏は,それ ぞれ一個の,独立した人間の心と考えられ,第3連では,
t
たという背景を 併い,前述のような,多くの意を持たせることが可能である.この詩の各 連は,それぞれ独立した imageを持つ完結した詩であり, 独立して読ま れ得るものであるが,連個有の意味や象徴を,他の連との関連のもとに考 えてもよしその場合には,より複雑で,深い意味を見出すζとができる.単一の連の意味のうち,重要なものを挙げると,第4連における13自然界
Wallace St巴V巴nsにおける Rea1ityの意、味
の象徴 5連14の詩の象徴, 6, 11連の恐怖の象徴,第7,8連に於ける.
ロマン主義に対抗するものの象徴等がある.その上,これら象徴の背景に は季節(主に秋と冬〉があり,季節の意味することをも重ねて考察すると,
この詩の意味するものは無数となるといっても過言ではない.
しかしながら,この詩は,決して,支離滅裂なものでもなく,詩人が,
各連を atrandomに並べたというのでもない. 詩に統ーを, そしてさ らに深い意味を与えているのは,最後の連である.
It was evening all afternoon. It was snowing
And it was going to snow.
The blackbird sat In 立 t出h巴c閃eda訂ιr予.伊品‑
この光景は,第1連の光景と表面的に酷似しており,これにより,さまざ まな意を持つ,残りの連に,統ーを与え℃いるのである.最初と最後の連 を比較すると,表面的な点では似ているものの,表現する方法は,全く遭 っているという点に気付く.第1連は,言外の意、を多く含ませ,読者に考 えさせることの多い表現形式をとっており,これに続く11の連も,同様の 形をとっている.Bowmanの言を借りれば,それらは,
r
第1;遣の鳥の意 味を探ろうとする, さまざまな試みi
6なのであり ,sugg巴stiveで sensa‑ tionalである.この結果,第13連に至る迄に,鳥は数々の意、を内包するものとなっているのである.これに反し,第13連には, suggestiv邑な要素も,
sensationalな要素もなく, 鳥も雪も,あたり前のもの, あるがままのも のとして表現されているのである.具体的に,詩の後半を例にとって考察 してみようa 第12連は,
The river is moving.
8 Wallace Stevensにおける Realityの意味 The blackbird must be flying. (CP 94)
である.鳥の飛ぶさまを表す第6,11連と関連させると,その2連では,
影が見え恐怖を感じたのであるが,こζに至っては,影すら見えなくなっ ている.ただ目前の川の流れを見るζとにより,鳥の飛ぶさまを想起する という所にまで達している.従って恐怖は,絶望感にまで高められている と解釈するζともできるのである.異質のものの持つ suggestionの極み ともとれる tone,表現方法である.しかし,第13連の toneは,全く異っ たものである.そこでは,見えぬものが描かれているのでもなし見える ものが暗示的に措かれているのでもない.単なる情景の模写にすーぎず,詩 人の感動も,生々しい形では表現されていない.アメリカのどこにでもい るblackbirdが9 これまたどこにでもあるとマラヤ杉の枝にとまり,雪が 降っているというだけである.golden birdにも匹敵し, あのような絶望 をももたらす意味深長なる鳥は,現実のつまらぬ鳥と描かれ,つまらぬ木 の枝にとまっている,そのことが重要なのである.鳥を通じ, Stevensは, 意味を探る世界へ入って行くが,また,もとの,ありきたりの世界へ戻っ てきている.このことのため,この詩に統ーがもたされ,意味が深められ ているのである.最後の光景は,表現の違いに表れている通札内的にも,
最初のものとは違った意味を持つものとなっている.詩人の真実の世界で ある.
Stevensが第13連で示している,彼の真実の世界にみられる大きな特徴 は,現実の日常生活にありふれた情景であるということであったが,この ことの意義を少し考察してみたい.詩集
P a r t so f a W o r l d
には, Study of Two Pears円 (CP196)という詩が納められている. 乙の詩は 2個の梨が,どのように見えるかを,短い文で表したものである.一つ一つの sentenceが,一つ一つの ideaを伝えている. この詩の最後の sentence は,次の通りである.
Wallace Stevensにおける Realityの意、味 The pears are not seen
As the observer wills.
9
2個の梨は,見る人の思うようには見えないものだという Stevensのこ とばは, ThirteenWays of Looking at a Blackbird"に於ける最後の 連と共通した態度である17 Realityasserts itseH "という態度がその中 に見られる.色々な角度から意味を採った後,最終的に到達した態度であ る.外的な,見える現実そのものこそ,自身の童、を主張し,示しているの である. その認識が blackbirdの詩における detachした descriptive な表現となったのである.現実から出発し,想像力との相互作用によって 抽出された真実の世界で、ある.それは,当たり前の光景であり,その為,
この詩を読む全ての人々が,身近に見得る同じ情景(例えば荒涼とした雪 景色〉を再び見ても,以前と同じような,荒涼とした気持,嫌だという気 持だけでこの光景を見ることはないのである.必ず多様な意味が加えられ ている.Stevensが,詩は人々が生きるのを助けるというのは,このζと である17 詩人を歌った, The
v
司Tell Dressed Man with a Beard " (CP 247)に,彼は上記のことを次のように歌っている.After the final no there comes a yes And on that yes the future world depends.
意味を探ったが,これだというものが見出せず,最後に (Afterthe final no)これだという世界が広ける (therecomes a yes).表現上にみられた toneの違いは, ここに起因するのであろう. そして ayes円こそ,外 的に同じであっても,新たな意味を持つ真実であり,その詩に出遇った人 々が,以後,生きるのを助ける (onthat yes the future world depends) のである.
10 1可TallaceStev巴nsにおける Realityの意味
E
Stevensの独特の詩論の裏には,彼の現代人としての現実認識があるこ とはいうまでもない.彼は,神の存在を信じることができず,混沌とした 現代社会に秩序をもたらし,人々が生きる助けとなり得るのは,宗教でも 哲学でもないと考えた.何故なら前者は, sentimentalであり, 後者は抽 象的に過ぎ,社会の現実と遊離していると考えるからである.大f壬を果た すととのできるのは詩一一一芸術一ーである. しかしながら,全ての詩が,
その任を果たせると詩人は考えているのではない.λrecessaryAngelに納 められた TheNoble Rider and the Sound of羽lords"は,現代に於 ける詩のあるべき姿を論じたものであり,前述の詩人の現実認識が明らか に反映されている.彼は,現代迄高貴なものと考えられてきた,神々と天 朔ける馬や,馬上の騎士等をそのシンボノレとして挙げ,論じている.天朔 ける馬は,完全に空想的であり9 馬上の騎土は,現実と遊離している.こ の為,現代の人々は,それらを高貴なものとして受けとめ得ないのであるe
Stevensが,現代にふさわしいとして挙げる人馬は,メリーゴーラウンド に乗ってたわむれる数人の男女である.絵画の中にある,これらの,決し て上品ではないありふれた姿は,現実に即し,しかも現像力の働きが見ら れると Stevensは考えるのである. 人間を屈させるような謹沌とした現 実に即していること,こ、れが第一条件である.しかし,それを単に模写す るのではなしそれを転化させ,新しい意味を持つ真実に変化させねばな らない.この絵は,真実を描いていると考えたのである.現実を真実に変 化させる媒体となるのが想像力である.現実と想像力の相互依存とはこの ことである.では,想像力はどのように現実を真実に転化させる媒体たり 得るのかという問いかけに対し, 詩人 Stevensは, たとえを用いて説明
しているa
Wallace Stevensにおける Realityの意味 11
"'0五wewere speaking of light itself, and thinking of the rela‑ tionship between objects and light
,
no further demonstration wo‑uld be necessary. Like light
,
it adds nothing,
except itself. (NA 61)現実の世界は闇であり,その中では何も見えないのであるが,そこに一条 の光がさすと,その中に在ったものの意味や実在が明らかになる.しかし 光は何物をもそこに加えた訳ではない.光が消え,再び闇になっても,光 の中で実在を見アニ人は,その闇を以前の闇としてとらえるのではなく,意 味あるものとしてとらえ得るようになるのである.現実という闇の中に存 在するものを照らす光一一想最力一ーに照らされた世界を,彼は真理とい い,五ctionという. この中では, 美しいもののみが意味あるのでも, 醜 いものこそ意味があるのでもない.美も離もありのままに映し出されるの である. 彼はそのことを, Crowis realist. But, then, / Oriole, also, may be realIst." (CP 154) と歌い, ・…・ inarts and letters what is important is the truth as we see it" (NA 147)と述べるのである.
光は,あるものを,あるがままに照らすのみである.現実に関する意味を 探っても正しくつかめるものではない.その過程を経た後,光のあたった 世界は,それ自体である .Collected Poemsの最後の詩の題が示す如く,
Not Ideas about the Thing but the Thing Itself.円 (CP534)なの である. blackbirdについての ideaは 12の連に 2個の梨についての id句 は12の sentencesに表現されていた.しかし光に照らされた,その ものの真実は, ideaではなしありのままの姿, Rea1ityis things as they are" (NA 25)である. それをあるがままに模写すること,この 中にこそ真の意味が, 真実が存在する. blackbird円の第13連に於ける detachした descriptiveな toneと表現は, その真実を表現するに適し たものである.真実は,それについて考えて得られるものではなく,その
12 Wallace Stevensにおける Realityの意味 ものになり切った時に得られるものである.まさに,
One must have a mind of winter To reg.αrd the frost and the boughs Of the pine‑trees crusted with snow;
. ; and not to think
Of any misery in the sound of the wind
,
In the sound of a few leaves
,
(CP 9‑10)19と彼が歌う通りなのである.
乙のようにして得られた詩人の真実は,一般の人々の手の届かぬ,深遠 な,高尚なものではなく,現実の日常生活の中に見られるものである.こ の中に, Stevensの現代人としての態度をうかがうことができる.前述の blackbird詩の中に見られた,死や生という,深い意味の symbolとして の鳥は, 決して美しくロマンチックな鳥ではなく, common birdであっ た.これは,人々が日頃見ることのできる鳥である.Stevensの詩の題材 は,鳥,動物,季節など身近なものが多く,それを扱う背景も身近なものが 多い.真実は,詩人のみに意味あるものではなく, somethingto every‑ one円 (NA25)という考えの反映であろう. つまり, この新たな意味に
より,人々は,圧迫してくる現実一一一間一一ーにいなから,現実の実在とし ての意味を見出すことにより,圧迫をはね返して生きることができるので ある.(NA 153)従って,想像力によって抽出された真実は,人々が生き るのを助けるものである. 真実は, ……thepower that enables us to perceive the normal in the abnormal
,
the opposite of chaos in the chaos.円 (NA158)としての想像力によって生み出されたものである.想 像力を力としてとらえる Stevensのとらえ方は, 彼以前の詩論家達には 見られぬものであった.その力が現実と密接にかかわり合い,現実の中にWallace Stevensにおける Realityの意味 13 ある真実を見出してゆくという点で,同じく混沌の中に秩序をもたらそう とする,宗教や哲学にまさるのである,と彼は自負しているのである.彼 が詩を SupremeFictionと呼ぶのはこの為である. その大任と帯びる詩 人は angelである,が,彼はそのことばに, ofearth円ということばを つけて使っている,彼以前,地上の物は,天上の至上の意味の現れである と考えられ,詩人は,地上のものを使いつつ,その天上の意、を示す役を持 つものとされていた.詩人は angelであった. しかし,天上の世界を信 じない Stevensは,真実は,現実の中にあると考え,詩作の過程におい てそれを探り,人々に明らかにするのが現代必要とされている詩人の犠で あると考えたのである. Adagia円という,彼の格言を集めたものの中に9
次の一節がある The poet is the intermediary be同アeenpeople and the world in which they live and also, between people as between themselves; but not between people and some other world.円 詩 人 は
necessary angel of earth"であり,冠をいただき,雲中に座するので はなく,地上にいる, AngelSurrounded by Paysans" (CP 496)なの である.
しかしながら, angelであり,力強い詩人というものに対して Stevens が与える他の名前は, 非常に comicなものである. そ れ ら は "The Man with a Blue Guitar
ヘ
TheWell Dressed Man with a Beard ,"The Comedian as the Letter C円等である. angelが地上のものであ る限り,それは絶え間なく変化する.angel は9 変化する現実に即し,変 化する現実の真実をもたらさねばならない.それは必然である.詩に対す る覚書である長詩, NotesToward a Supreme Fiction"における,詩 のあるべき姿を成り立たぜる三本の柱の一本に,彼が ItMust Change円 を挙げている通りである.それ故,変化する現実の中に於いて,一つの真 実たり得るのは, not叩lIte‑hereand not‑yet‑gone円20という transitional momentのみである."Beauty is momentary in the mind ‑ " (CP 91)
14 Wallace Stevensにおける Realityの意味
や 1am the angel of reality. / Seen for a moment standing at the door.円と彼が歌うのは, この認識の反映である. また,詩において, 一
つの連と次の連との間にさえ,あまり連続性がなく,各々独立したテーマ とimageを持っていることは, その形式上の表われである. Thirteen Ways of Looking at a B1ackbird"に於ける,各連の聞の非連続性は,
その好例である.
せっかく抽出した真実が,真実として意味を持つのは一瞬でしかなし すぐに現実の圧力がその意味を消してしまうという宿命を詩人は常に味わ わねばならない.従って,混沌とした現実の圧力の中で,その変化に従い つつ,真実や秩序をもたらそうとする詩人の努力は,常に絶望的な程の力 に屈せざるを得ない.Stevensは,さめた限で,自己のその姿をながめ,
前述のような comlC五gureとして自己を呈示しつつ, 懸命に歌い続ける のである.
Stevensは, angel of reality, angel of earthとして詩作を続けたので あるが,初期の詩にみられるような現実に却した,美しい詩は,次第に減 し,抽象的な詩が多くなった.終に,死の床についた彼が,詩人としての 人生をふり返って創った, farewellto poetry円ともいえる, AsYou Leave the Room "において,次のように鋭く自問しているのである.
1 wonder
,
have 1 lived a skelton's life,
As a disbeliever in rea1ity,・・….?
勿論これに対し被は否定の答を出し, angel of earthとしての姿を再確認 している.しかし9 この間いが伎の中に存在していたことは否めない事実 であろう.これは,一見,奇異に見えるかも知れないが,初期の詩や,多 くの詩論を読むと,自問をするであろうということは,推察できるように 忠弘彼は,真実とは,ありのままの中に存すると述べてはいるが,彼の いうありのままとは,現実の中から想i象力の作用によって抽出された,
Wallace Stevensにおける Realityの意味 15 新たな意味の加えられた後のありのままであって,現実そのものではない.
現実とは,善悪,美醜等が入り乱れて化合物の如くなったものであり,そ の中では,どれを美,どれを醜と区別することはできないと,私は考えて いる. しかし,論文中にうかがえる Stevensの努力は,現代の混沌とし た現実を, violevceや pressureととらえ,その中で対抗力たりうる良さ を, chaosの中で chaosの反対のものを見出そうとする努力である.その ものの心を持つべきである, と歌った, TheSnow Man円に於いて,
雪の世界の中に取り上げられている植物が全て常緑樹であり,冬景色の中 には当然含まれるであろう,枯木を含ませていないというのも,死をもた らす冬の世界の中で,死よりも生の世界の方に重点を置いた観方をしてい ると考えられるのである.そこには9 まず現実を悪なら悪と決め実その次 元で,その中の良い点を重点的に見出すことが,真実を見出すことだ,と 考える態度に似た点がある. 無論, 彼はじめ, 我々を取り巻く現実は,
pressure, violenceとしか考えられない程のものであり,彼のように考え ねば,乗り切れないのかもしれない.しかし,そのように,現実を二分し ようとする態度そのものの中に,些細ではあるが,偏(あるいは,かたよ り〉が存在すると考えられる. それは, ありのままの世界として, 醜い crowと美しい orioleの双方を挙げつつ, CrowIs realist But, then, / Oriole, also, may be realist."と表現する中にも見出せる orioleに
may をつけているというのが,それである.
それは,極く微かな偏である.が,この偏を拡大すれば,大きな差とな り,その世界は真実とは違ったものになる.その違いをもたらすもの一一一 冬景色から,枯木を除き,常緑樹のみにしたもの一一, それは violence である.Stevensが想像力を violenceとした,その理論は誤ってはいな い,しかし,いかなる場合でも violenceによってもたらされる真実に は無理がある.たとえその真実が,真実の大部分を含んでいる場合であっ ても,それは, 一面からの観方に過ぎない. 従って, asit is ", the
16 Wallace Stevensにおける Realityの意味
thing itself"といっても,現実そのものを観ょうとする,現実即真実と いう,徹底した意での as it is"ではないのである. 想像力を内なる violenceと考える彼の理論には, そして, その展開には誤りはない. し かし,内的力,外的力,というとらえ方, (つまり,力の均衡というとら え方〉また,現実を善きものと悪しきものに二分するという考え方を前提 としての asit is円という, とらえ方そのものに, 現実と真実との間に ギヤザプをもたらす要因が,ひそんでいるといい得るのである.そして,
被が真実を真剣に追求すればする程,そのギヤザプに気付かざるを得なく なるのである.真実を求めつつも,真実を把握できないというジレγマを 彼は絶聞なく感じつつ生き,最後にあの悲痛な自聞を発したのであろう.
それが彼の限界である,と言うことはできる.けれども,現代の混沌とし た現実の中で,自己の限界の限りを尽くして,真実を,秩序を求め続けた :Stevensの力強い姿が,最期の自問自答の中に存在する,ということも,
また事実であろう.
注
1 The Collected Poemsザ Wa.lゐceSteve河s,p. 411. 以下, CP 411の如く表 記する.
2 この詩が,俳句と似通った手法によって創られていることは, Stevens批評家 の殆んどが指摘する通りである.
:3 Letters of Wallace Stevens, p. 251. 以下, L 251の如く表記する.
4 Rosenthal, M. L., The Modern Poets, p. 128. その他.
5 Pearce, Roy H., The Continuiた,
v
of AmericaπPoety, p. 383. その他.6 しかしこの詩は,正larmonium中にある,有名な, TheSnow Man ヘ Do崎 minion of Black," Death of a Soldier"等の詩をふまえて, それらとの関連 に於いて読まれることが多い.
7ルcessaryAπgeZ, p. 27. 以下, N A 27の如く表記する.
S Stevensはessay中で, rea1ityということばを actua1ityに近い外的な現 実の意にも,詩人の想像力によって抽出され,新しく五ctionとしてその上に加 えられた世界の意にも使用している.この為,以後,前者の意の際には,現実,
vVallace Stevensにおける Realityの意味 17
後者の際には真実と訳しわけて論じることとする.
百 Blackbirdは,アメリカでは,黒色の鳥一般を指す. (カラスも blackbirdで あるJ この詩においては, grackleというs体長約30センチ, 清の部分にある オレンジ色の羽根を除いては,全身光沢のある黒色の,美しくさえずる鳥を指す と考えられる.
10 1t was evening all afternoon., CP 94.
11 . Stevens自身も, HaddamをYanke巴との関連でとらえているらしい. 手紙 の中で次のように述べている. …1just like the name...1n any case, it has a completeby Yankee sound." L 786.
12 1 was of 也 氏eminds, / Like a tree / 1n which ther巴arethre巴 blackbirds. CP 92.
13 A m丘nand a woman / Ar己on巴/A man and a woman and a blackbird / Are on巴.CP 93.
14第5連.1 do not know which to prefer, / The beauty of in宜ections/Or the beauty of innu巴ndoes,/ The blackbird whistling / Or just after. CP 93. 第8連.1 know noble accents / And lucid, in巴scapablerhythms / But 1 know, tω00,/τT、ha討tthe bl呂
1
臼5 He rode over Connecticut / 1n a glass coach. /Once, a fear pierced him, / 1n that he mistook / The shadow of his equipage / For blackbirds. CP 94. 16 Wallace Stevens, p. 130.
17 ちなみに Studyof Two Pears"は13sentencesから成っており, 引用文 は,第13s巴ntenceである.
18 Stevensは N A中の TheNoble Rid巴rand the Sound of W ords "に於い て,具体的に,詩が人々の生きるのを助けるという点を論じている.pp. 30‑31. 19 イタリックは,筆者が施した.
20 Vendler, Helen H., On Extended Wings; Wallace Steり'ens'Longer Poems, p.46.