行 政 主 体 論 に 関 す る 覚 え 書 き
情 報 公開 制 度 と の関 連 で
橋 本 博 之
一 は じ め に 二 行 政 主 体の 法 概 念 三 行 政 主 体論 と 情 報公 開 制 度
一 は じ め に 本稿 は
︑ 特 殊法 人
・ 認 可 法人
・ 指 定 法人
・ 独 立 行 政法 人 等 の
︑政 府 の 周 辺 にあ っ て 国 と は独 立 し た 法人 格 を 持 つ 法 主体 に 情 報 公開 制 度 を 拡 充す る と い う︑ わ が 国 に おけ る 法 制 度上 の 課 題 へ の対 応 と い う 問題 状 況 を 切り 口 に
︑ 行 政 法理 論 上 の 行政 主 体 論 の あり 方 に つ いて
︑ 行 政 法 学の 思 方 法と い う 観 点 から
︑ 若 干 の 察 を 加 え よう と す る も の であ る
︒ 筆者 は
︑ 行 政機 関 の 保 有 する 情 報 の 公開 に 関 す る 法律
︵ 以 下︑ 行 政 機 関 情 報 公 開 法 と 呼 ぶ
︶の 成 立 後
︑平 成 一 一 年 七 月に 政 府 の 行政 改 革 推 進 本部 の 下 に 設置 さ れ た
︑ 特殊 法 人 情 報公 開 検 討 委 員 会
︵ 委 員 長= 塩 野 宏・ 委 員 長 代 理= 舟 田正 之
︶ に 参与 と し て 参 画し た
︒ 本 稿は
︑ 右 委 員 会が 約 一 年 間の 審 議 の 後 に ま と め た 報 告 書
﹁ 特 殊 法 人 等 の 情 報 公
開 制 度 の 整 備 充 実 に 関 す る 意 見﹂ 以 下
︑ 本 意 見 と 呼 ぶ
︑ 及 び
︑ そ の 後 の 立 法 作 業 を 経 て 平 成 一 三 年 一 一 月 に 成 立 し た独 立 行 政 法人 等 の 保 有 する 情 報 の 公 開 に 関 す る 法 律
︵ 以 下︑ 独 立 行 政 法 人 等 情 報 公 開 法 と 呼 ぶ︶ を 念 頭 に 置 き つ つ
︑情 報 公 開 制度 の 対 象 と なる 特 殊 法 人等 の 切 り 分 けと い う 論 点を め ぐ っ て
︑も っ ぱ ら 理 論的 側 面 か ら検 討 を 試 み る もの で あ1
る
︒同 時 に
︑ 本 稿は
︑ 筆 者 が平 成 一 三 年 一〇 月 に 行 った 日 本 公 法 学会 で の 報 告
﹁特 殊 法 人 と情 報 公 開
﹂ を 準備 す る に あた り
︑ わ が 国の 行 政 主 体論 に つ い て 試み た 理 論 的 察 の 一 部 分を
︑ 覚 え 書 きと し て 取 り纏 め る も の で あ2
る
︒ 本稿 に お い て︑ 特 殊 法 人
︑ 独 立 行 政 法 人
︑ 認 可 法 人
﹂及 び﹁ 指 定 法 人
﹂ の 用 語 法 は
︑ 基 本 的 に 本 意 見 に 従 う
︒す な わ ち
︑特 殊 法 人 と は︑ 総 務 省 設置 法 四 条 一 五 号 に 言 う
︑ 法 律 に よ り 直 接 に 設 立 さ れ る 法 人 又 は 特 別 の 法 律 によ り 特 別 の設 立 行 為 を もっ て 設 立 すべ き も の と され る 法 人
︵ 独 立 行 政 法 人 を 除 く
﹂ を 言 う
︒ こ こ で の
﹁ 特 別 の 設 立行 為
﹂ と は︑ 政 府 が 命 じる 設 立 委 員が 行 う 設 立 に関 す る 行 為の こ と で あ る︒ 独 立 行 政 法人 と は
︑ 独立 行 政 法 人 通 則法 二 条 一 項に 規 定 さ れ
︑同 法 及 び 個別 法 の 定 め ると こ ろ に より 設 立 さ れ る法 人 を 言 う
︒認 可 法 人 とは
︑ 特 別 の 法 律に よ り
︑ 数を 限 定 し て 設立 さ れ る 法人 で あ り
︑ 特別 の 設 立 行為 に よ っ て 設立 さ れ る も ので は な い が︑ そ の 設 立 に 関し て 行 政 庁の 認 可 を 要 する 法 人 を 言う
︒ 指 定 法 人と は
︑ 法 令に 基 づ き
︑ 特定 の 業 務 を 行う も の と して 行 政 機 関 に より 指 定 さ れた 法 人 を 言 う︒ また
︑ 本 稿 では
︑ 官 民 の いわ ば 中 間 に位 置 し
︑ 直 感的 に 公 的 セク タ ー に 含 まれ る 要 素 の ある 法 人 を
︑政 府 周 辺 法 人 と呼 ぶ こ と にす る
︒ な お
︑本 稿 の 全 体を 通 し て
︑ もっ ぱ ら 国 の周 辺 に あ る 法人 群 を 検 討 の対 象 と す るも の と し
︑ 地 方公 共 団 体 の周 辺 に あ る 法人 に つ い ては 基 本 的 に 察 か ら 除 外し て い る
︒
1 本 意見 及 び委 員会 議 事概 要 等に つい て は︑ 総 務省 行 政管 理局 の ウェ ブ サイ ト上 に 掲載 さ れて い る︒
2 日 本公 法 学会 での 報 告内 容 につ いて は
︑拙 稿
﹁特 殊 法人 と情 報 公開
﹂ 公法 研究 六 四号
︵ 二〇
〇 二︶ 掲載 予 定を 参 照さ れた い
︒
二 行 政 主 体 の 法 概 念
1
特 殊 法 人=
行 政 主 体 論の 提 唱 現在 の わ が 国の 行 政 法 学 上︑ 特 殊 法 人等 の 政 府 周 辺法 人 を 扱 うた め の 有 力 な理 論 的 枠 組 みと し て︑ 行政 主 体 論 が あ る︒ 現 在 の よう な 形 の 行 政主 体 論 は
︑塩 野 宏 が 一 九 七 五 年 に 公 表 し た 論 文 に お い て
︑ 行 政 組 織 法 上 の 行 政 主 体 と して の 特 殊 法人 論
﹂ と い う形 で 提 示 さ れ3
た
︒ 右 論 文に お い て
︑塩 野 は
︑ 特 殊法 人 と 称 さ れる 法 人 群 につ い て
︑ 各 法 人の 設 立 形 式に 加 え て
︑ 組織 形 態 と 運営 資 金 の あ り方 を メ ル クマ ー ル に 行 政主 体 性 の 有 無を 判 定 す る︑ と い う え 方を 示 し た
︒塩 野 の 立 論 のポ イ ン ト は︑
① そ れ 以 前の 公 法 人
・私 法 人 の 峻 別を 前 提 と し た理 論 枠 組 みか ら 脱 却 し つ つ
︑② 理 論 的 定 位 を 欠 く ま ま に 特 殊 法 人 を 一 括 り に し て 行 政 主 体 と す る こ と を 批 判 し
︑
③ 行 政 組 織 法 的 観 点 か ら
︑特 殊 法 人 を 行 政 主 体 と そ れ 以 外 と に 区 分 す る こ と の 意 義 を 示 し︑
④ 右 の 区 分 の 標 準 を 提 示 す る
︑ こ と に あ っ た
︒塩 野 説 の エッ セ ン ス は
︑国
・ 地 方 公共 団 体 の 統 治主 体 と
︑ 民商 法 上 の 法 人の い わ ば 中 間に 位 置 す る法 人 群 の 中 か ら︑ 行 政 組 織法 上 の 行 政 主体 を 選 別 し切 り 出 す こ とで あ っ た
︒ 本稿 の 察 は︑ 右 の 塩 野 論文 を 起 点 とし て 進 め ら れる
︒ な お
︑戦 前 の 公 法 人・ 私 法 人 の 区別 に 関 連 した 議 論 や
︑ 戦 後に 田 中 二 郎が 提 示 し た
﹁特 殊 行 政 組織
=
独 立 行 政法 人
﹂ 説 など
︑ 塩 野 論 文以 前 の 行 政 法学 説 に つ いて は
︑ 検 討 の 対象 に 含 め な4
い
︒ そこ で
︑ ま ず︑ 塩 野 論 文 につ い て
︑ 改め て そ の 概 略を 整 理 し てお き た い
︒ 塩野 は
︑ 論 文全 体 の 意 図 が︑ 行 政 組 織法 的 観 点 に たっ て
︑ 特 殊 法 人 と 呼 ば れ て い る も の の 意 義 及 び 問 題 点 を 明
ら かに す る こ と﹂ に あ り
︑ 察 の 枠 組 みは
﹁ 行 政 主 体と し て の 特殊 法 人 論
﹂ の構 築 に あ る
︑と い う
︒ 塩野 の 論 旨 に お いて は
︑ 行 政主 体 概 念 が 行政 組 織 法 の体 系 ひ い て は行 政 法 学 の体 系 と 分 か ちが た く 切 り 結ん だ も の であ る こ と を 前 提に
︑ 行 政 主体 と イ ク ォ ール で 結 ば れる 特 殊 法 人 を括 り だ す とい う 操 作 が 行政 組 織 法 理 論上 有 意 味 であ る
︑ と い う 帰結 が 導 か れる こ と に な る︒ さ ら に
︑塩 野 は
︑ 特 殊法 人
=
行 政主 体 論 の 意 義に つ い て︑ 伝統 的 な 行 政法 学 で は 公 法 人
=
公 共 団 体の 一 部 と し てリ ス ト ア ップ さ れ て い た営 造 物 法 人の 概 念 で は とら え 切 れ な い 新 し い 法 人 形 態︵ 特 殊 法人
︶ を
︑ 行政 組 織 法 の 側 か ら 分 析 す る 契 機 な い し 態 度﹂ を 含 む こ と を 指 摘 し
︑ 現 代 に お け る 行 政 の 組 織 形 態 の 多 様化 に つ き
︑行 政 の 法 的
・事 実 的 行 為形 式 の 多 様 化と 並 行 的 に取 り 扱 う べ きこ と を 示 唆 す5
る
︒ 以上 の 察 を前 提 に
︑ 塩 野論 文 は
︑ 行政 主 体 た る 特 殊 法 人 の メ ル ク マ ー ル と し て
︑ 当 該 法 人 の 設 立 に か か る 特 別 法が
︑ 果 し て当 該 法 人 の 業務 を 国 の 行政 事 務 と す る趣 旨 で あ るか ど う か
﹂ が重 要 と さ れ
︑具 体 的 メ ルク マ ー ル と し て︑ 組 織 形 態︵ 法 人 の設 立 に 際し て の 設立 委 員 の政 府 任 命の 要 件
︶ と︑ 資 金
︵ 法人 に 対 す る 国 の 出 資 の あ り 方 及 び 運 営 費に 関 す る国 の 支 出の あ り 方︶ の 双 方 の 結 合 を 提 示 す る
︒ こ の 結 果
︑ 国 か ら そ の 存 在 目 的 を 与 え ら れ た
﹂法 人 で は あ るが
︑ そ の 業務 そ れ 自 体は 国 の 行 政 事 務 の 分 担 遂 行 に あ た る も の で は な い
﹂ も の
︑ 具 体 的 に は
︑ 特 殊 会 社
︑ 公 私 混 合 の 法 人
︵ 営 団 な ど
︑ 機 能 法 人
︵社 員
・ 資 本 金 が な い も の
︶ が
︑行 政 主 体 か ら 除 か れ る
︒ そ の 上 で
︑ 塩 野 論 文 で は︑ 行 政 主 体た る 特 殊 法 人に つ い て
︑国 と の 関 係 での 法 人 の 訴権 の 有 無 の 問題
︑ 及 び
︑ 民主 主 義 原 理の 反 映 を 軸 に した 内 部 組 織原 理 の 問 題 につ い て
︑ 法解 釈 論 的
・ 法制 度 論 的 察 が 加 え ら れて い る
︒ この 塩 野 論 文の ポ イ ン ト は︑ 国 か ら 存立 目 的 を 与 えら れ た 法 人に つ い て
︑ 当該 法 人 の 設 置法 令 上
︑ 法人 の 事 業 を
﹁ 国の 行 政 事 務
=
行 政 事 務﹂と す る 趣 旨 であ る か に よ っ て
︑ 行 政 組 織 法 上 の 行 政 主 体 性 の 有 無 を 判 断 す る こ と に あ る
︒そ し て
︑ 塩野 論 文 は
︑ この よ う な 形で 判 断 さ れ る行 政 主 体 の法 概 念 を
︑ 行政 組 織 法 上 の基 礎 概 念 とし て 定 位 さ せ たの で あ る
︒
右の 塩 野 論 文に つ い て
︑ いく つ か の 方法 的 特 色 を 指摘 す る こ とが で き よ う
︒塩 野 論 文 の 第一 の 意 義 が︑ 行 政 組 織 法 上﹁ 行 政 主 体﹂ と い う 基 礎概 念 を 定 着さ せ
︑ 行 政 主体 と 私 的 法主 体 の 峻 別 とい う 行 政 組 織法 上 の 思 枠 組 み を 提 示 した こ と に ある こ と は
︑ 明ら か で あ ろう
︒ こ の 思 方 法 は
︑ 政府 の 設 立 に 係る 法 人 群 を ドグ マ テ ィ シュ に 峻 別 す る もの で あ り
︑従 前 の 公 法 人・ 私 法 人 区分 論 や
︑ そ れを 前 提 に した 公 共 団 体 論を 克 服 し つ つ︑ そ れ に 代わ る べ き 行 政 組織 法 的 ド グマ ー テ ィ ク を提 起 し た もの と 評 さ れ よう
︒ 塩 野 説の 価 値
・ 評 価は
︑ ま ず こ の新 し い ド グマ ー テ ィ ク に 関わ る も の にな っ て く6
る
︒ 右の 点 に 関 わっ て
︑ 塩 野 論文 で は
︑ 行政 作 用 法 と 行政 組 織 法 の理 論 的 仕 分 けを 慎 重 に 行 い︑ 行 政 主 体・ 私 的 法 主 体 峻別 の ド グ マー テ ィ ク が
︑行 政 組 織 法上 の も の で ある こ と を 明確 に し て い7
る︒ そ こ で は
︑行 政 組 織 法の 対 象 設 定 の ため の 基 礎 概念 と し て 行 政主 体 の 意 義が 強 調 さ れ る一 方
︑ 行 政組 織 法 の 一 般理 論 に 固 有 のド グ マ ー ティ ク の 探 求 と いう 意 図 を 読み 取 る こ と がで き よ う
︒し か し
︑ こ の点 で
︑ 塩 野論 文 は
︑ 行 政組 織 の 多 様 化現 象 に つ き﹁ 法 制 度 論 的 評 価 分 析
﹂ の た め の 道 具 概 念 を 提 示 す る よ り も
︑ 二 元 論 的 ド グ マ ー テ ィク の 部 分 が 強 調 さ れ て い る よ う に 見 え る
︒塩 野 の 行 政作 用 法 理 論 にお い て
︑ 公法
・ 私 法 二 元論 の 克 服 から 行 政 の 行 為形 式 論 へ の 展開 が 主 張 され た こ と と パ ラレ ル に える と
︑ 行 政 組織 法 に お ける 行 政 主 体 論は
︑ 新 た な二 元 論 か ら 先の 理 論 的 展 開と い う 部 分に お い て
︑ 未 だ十 分 で な いよ う に 思 わ れる
︒ ま た
︑塩 野 説 で は
︑特 殊 法 人 と呼 ば れ る 法 人群 か ら 行 政 組織 法 的 に 有意 味 な 行 政 主 体を 囲 い 込 むと 同 時 に
︑ それ 以 外 の 法人
︵= 私的 法 主 体︶ が 行 政 法 理論 的 察 か ら控 除 さ れ てし ま う こ と に な り
︑ こ の点 で も
︑ 問題 発 見 的 要 素の 比 重 が 構造 的 に 低 下 して し ま う よう に 思 わ れ る︒ 他方
︑ 塩 野 論文 の も う ひ とつ の 方 法 的特 色 と し て
︑特 殊 法 人 等の 法 人 の 設 立の 根 拠 と な る特 別 法 の 具体 的 な 検 討 と いう
︑ 根 拠 法令 実 証 主 義 的な 思 方 法の 採 用 が あ る︒ た と え ば︑ 特 殊 法 人
=
行 政 主 体 の メル ク マ ー ルは︑ 法 人 の 根 拠法 令 の 実 証的 な 法 解 釈 に委 ね ら れ るた め
︑ ド グ マテ ィ シ ュ な二 元 論 に 立 ちな が ら も
︑ その 線 引 き の基 準 は 細 密