1.報告の目的と範囲
TOEICテストは1979年に開始され2005年度には日本 で約150万人が受験しているにもかかわらず、筆者の身 近な範囲では余り具体的に論じられることがありません でした。また、2006年5月からテストの内容が一部リ ニューアルされました。そこで、この機会を捉え大学で の英語教育に携わる者としてこの検定試験の特徴を考え てみたいと思います。TOEICテストを大学で利用する 際の検討資料にするのが目的です。
この検定試験は、リスニングセクション(選択肢問題 100問、45分)とリーディングセクション(選択肢問題 100問、75分)で構成されています。試験時間を「英検」
と比較すれば、約130分の1級問題と約115分の準1級 問題の中間です。しかし、聴解問題の試験時間と設問数
を見てみると、英検1級は30分で27題、準1級は25分 で29題です。また、配点は前者が113点中34点,後者 は99点中34点なので同じ比重のTOEICテストがどれだ けリスニングを重視しているかは一目瞭然です。中等教 育や社員教育など英語教育の各方面でコミュニケーショ ン能力の向上が目標とされている現在では、TOEIC試 験の利用が増大しているのはこの意味で当然でしょう。
レベルが英検2級から1級といわれるTOEICのリス ニングセクションについて筆者は聴解問題として工夫が 凝らされていて適切だと考えますが、リーディングセク ションには異なった見解を持っています。後者にも前者 と似たような特徴があり、それが大学で求められる英語 能力と合致するか検討する必要があるからです。そこで、
第3節以降は例を挙げてリーディングセクションのみの 特徴を考察することにします。
新 TOEIC テストの特徴
西 村 芳 康
The Characteristics of the Renewed TOEIC
Test
Yoshiyasu NISHIMURA Abstract
This report aims to offer basic information on the TOEIC
Test which was renewed in May 2006 and its characteristics for discussions about how it should be utilized as a way of the English language education in universities. The article focuses on the Reading Section (Part 5,6 and 7) for the reason that the Listening one is considered to be well devised and useful for university students as well. What I regard as the seven features of the reading part are as follows: the test cannot measure the test takers' ability to find the gist of a passage by themselves or to express the summary; the test does not require special expertise on business; the test tries to evaluate speaking and writing skills indirectly by evaluating listening and reading skills only; the test aims to measure the ability to deal rapidly with a large number of basic questions; Part 5 (Incomplete Sentences) & 6 (Text Completion) include lots of basic questions and it is possible to solve some
80% of them with the senior high school level knowledge of English; it is essential to get used tovarious formats of documents in order to cope with Part 7 (Reading Comprehension); there is a possibility that test takers acquire a knack for effective 'skipping' rather than rapid reading. In conclusion, as the TOEIC
Test is designed with specific purposes, it should be treated accordingly in academic places where college students are required to have the skill of intensive reading and critical thinking as well.
TOEIC is a registered trademark of Educational Testing Service (ETS).
Received on September 11, 2006 総合文化講座
2.リニューアルの中味
TOEICテストは今年から内容が一部変更になり、そ
のホームページには以下のように変更点が記されてい ますが、私見では特に形式上の大きな変化はありませ ん。(注1)
【リスニング セクションの変更点】
1.新TOEICテストではパート1の写真描写問題を削
減。
2.パート3、パート4の設問の音声化(テープによる 読み上げ。設問は印刷もされている)。
3.パート3、パート4では各会話やトークなどに対し て設問を3問ずつ設定。
4.米国・英国・カナダ・オーストラリア(ニュージー ランドを含む)の発音を採用。各発音の出題の割合は 25%ずつ。
【リーディング セクションの変更点】
1.従来のTOEICテストのパートVIを削除。
2.新TOEICテストのパート5は短文の中の空所に単
語を補充。パート6では長文の中に複数ある空所に単語 を補充。
3.新TOEICテストのパート7では2つの文書を読ん
で設問に答える問題を追加。
リーディングセクション(パート5〜7)の変更につ いて説明を加えると、旧テストで「誤文訂正問題」と呼 ばれたパートVIがなくなり、旧テストではパートV
「文法・語彙問題」だったものが新テストでは「空所補 充問題」としてパート5の短文とパート6の長文に組み 込まれて拡大しました。比較的目立つ変更としては、
「読解問題」のパート7が100問中40題から48題へと増 加して、かつ新たに「2つの文書を読んで設問に答える 問題」が4組・20題含まれるようになったことです。
TOEICテストのリニューアルに伴い、それに対応し
た公式ガイド&問題集「TOEICテスト新公式問題集」
も発行されました。(注2)新テストの概要については次 のように記されています。聴解、読解問題双方にわたる 基本コンセプトで、所載の練習問題と照らし合わせると 一層この検定試験の特徴が理解できます。先ず、概要の 前半を見てみましょう。
「More Authentic―より現実のコミュニケーションに 近いテストへ
新TOEICテストでは問題作成においてMore Authen- tic(より実際的な)というコンセプトが基本となって います。これは実際のコミュニケーションで必要とされ る英語能力を評価するために、より現実に即した状況や
設定をテスト上でも再現するというもので、問題文の長 文化、発音のバラエティの増加[米国・英国・カナダ・
オーストラリア(ニュージーランドを含む)]、誤文訂正 問題の削除、などが行われています。」(注3)
文中の「より現実に即した状況や設定をテスト上でも 再現する」というのは、実際に英語がどのような場面で 使われているかをテストに反映させることであり、これ は無味乾燥な暗記式学習に陥りがちな受験者にとっては とても有り難いことです。TOEICの開発機関である ETSは留学生用のTOEFLテストも作成していますが、
このリスニング問題も臨場感に溢れています。発音の多 様化は現代の英語使用状況からいって自然な勢いです。
次に掲げるのは、先の概要説明に続く後半部です。変 更しない点まで記しているのでTOEICテストの特徴を さらによく表しているといえます。
「さらに現行のTOEICテストが評価していた「要点が わかる」「推測できる」といった能力だけでなく、言語 運用能力の基礎をなす文法、語彙、音声識別能力などを より幅広く測定し、基礎能力があってこそ持ちうる高い レベルでの能力も評価できるように設計されています。
題材にはこれまでどおり、一般的な、またはビジネスで のコミュニケーションの場面が採用されており、特殊な ビジネス英語の知識を必要としたり、その国の歴史や文 化に関連する固有の事象が分からなければ解答できない 問題などはありません。また、受動的な能力を直接的に 評価することで能動的な能力を間接的に評価するという コンセプトも新TOEICテストに引き継がれています。」
先に記したように、TOEICテストは全て選択肢問題 ですから「『要点がわかる』『推測できる』といった能力」
は試せても、記述が必要な「要点を自ら指摘する」「要 点を短くまとめる」能力は他のマークシート方式試験と 同様に評価できません。学生の中には答を選ぶ際に消去 法を活用している人もいるようです。また、この検定試 験はよくビジネスパーソン向きだと言われ、実際基本的 なビジネス用語も使われているのですが、「特殊なビジ ネス英語の知識を必要としたり、その国の歴史や文化に 関連する固有の事象が分からなければ解答できない問 題」はないことは練習問題に当たってみればすぐに分か ります。それが一因で会社だけでなく大学その他に広ま ったと思われます。さらに「受動的な能力を直接的に評 価することで能動的な能力を間接的に評価する」という 件は、リスニングとリーディング問題を課すだけでスピ ーキング、ライティングは出題しないことを踏まえた説 明ですが、「間接的に評価できる」と言い切っていない ところがミソかも知れません。この特徴は他の検定試験
と大いに異なる点ですので、次に段落を改めて検討して みたいと思います。
TOEICのホームページにはQ&Aがあり(注4)、その3 番目の質問は「TOEICにはListeningとReadingのテス トしかありませんが、どうしてSpeakingテストがない のでしょうか。これで本当に英語能力が正しく評価でき る の で し ょ う か 」 と い う 内 容 で す 。 こ れ に 対 し て
TOEIC側は次のように答えています。「TOEICはその開
発に際し、一度に大量の受験者の英語能力を、実施に際 して専門家の手を必要とせずに、客観的に、極力低い費 用で測定できるようなテストとなるようにという条件が 課せられました。そこでTOEICの開発にあたったETS では、TOEIC実施にあたって予めListeningとSpeaking、
ReadingとWritingとの相関関係について検証し、それ ぞれが非常に高い相関関係を示すことから、Listening とReadingのみの試験からSpeakingとWriting能力を含 めた英語能力が測定できることを統計的に証明していま す。そのため、TOEICはListeningとReadingのみで構 成されています」。しかし、これは統計上のことだけの ように思われます。4技能がいずれも優れた受験者が多 ければ必ず上記の結果になります。けれども、もし高得 点を獲得するためにTOEIC形式のListeningとReading 問題だけを練習したとすると、SpeakingとWriting能力 はあまり身に付かないのではないかと懸念されるのです。
TOEIC側もそれを弁えているせいかこう続けています。
「ただしこれはあくまでも統計上の話であって、一人一 人のSpeakingおよびWriting能力を厳密に測るためには SpeakingやWritingのテストを行う必要があります。(中 略)費用や、てまひまを問題とせず、あくまでも厳密な Speaking能力の測定を必要とする場合にはTOEICと厳 密なインタビューテストの併用をお勧めしますが、そう でない場合にはTOEICだけで十分だと思います」。(注5)
以上、TOEICテストの特徴として①「要点を自力で 見つけだす」「要点を纏めて表現する」能力は測れない
②特殊なビジネス英語の知識は必要でない③聴く・読む 力を直接的に評価することで話す・書く力を間接的に評 価するという点を指摘しましたが、他の検定試験には見 られない相違点がひとつあります。それはTOEICは時 間との勝負だということです。言い換えれば、聴解問題 も読解問題も各々100題という設定は大量の情報をすば やく処理する能力を測ることを意味しています。どちら の問題を解くにも 瞬時の状況把握 が必要です。これ に関して4番目のQ&Aにはこう述べている部分があり ます。「ここで問題になっているスピードは、Listening、
Reading双方において、能力差を識別するためのきわめ
て重要な要因ですので、これを無視することはできませ ん。英語を聞いて1回で分かる人と、繰り返して聞かな ければ分からない人とでは、言うまでもなく1回で分か
る人の方が英語力があると言えます。同様にReadingに おいても、時間をかけずに理解できる人とそうでない人 とでは英語力に差があると言えます。つまり英語能力の 評価システムにおいてスピードははずすことのできない ものなのです」。聴解問題はパート1から4へと難易度 が徐々に高まる構成になっていますが、読解問題の各パ ートのレベルはほぼ平均していますし、リニューアル後 は2種類に大別されるといっても過言ではありません。
そのため、時間を計って実際に問題を解いてみると私に は中学の時に受けた テスト が連想されました。それ は一桁の数字がたくさん並んでいて或る時間内で並んだ 2つの数字を足し算して下一桁の数を書き込んでいき、
その作業を何行にもわたって続けるというものでした。
一桁の数の加算は至極簡単なのですが、限られた時間内 で出来るだけ多くの計算をするというのはとてもプレッ シャーのかかる検査でした。その成果は一般的に、時間 が経つにつれて計算できる量が減りかつ間違いが多くな るということでした。これはある程度TOEICテストに も当てはまるのではないかと思われます。(注6)同形式 の設問を時間に追われて大量に解いていけば、疲れや飽 きが出たりケアレスミスが多くなっても当然でしょう。
ましてや、TOEICは単純計算とは違って幅広い基礎知 識が必要なので、次々に異なる対応(むしろ、反応)を しなければなりません。このようなやり方で明らかにさ れるのは、受験者が持つ基本的な英語力の地金だと思い ます。しかも、読解問題は45分100問のリスニングテ ストのあとに休みを挟まずに続く75分100問の試験で す。スピードだけでなくスタミナ・集中力も欠かせない と思われます。勘違いしてはならないのは、TOEICテ スト問題のひとつひとつは易しそうに見えるけれども、
それを大量に解くにはたんなる理解力や暗記力とは異な る英語への習熟度といったものが必要だということです。
だから、例題を2つ3つやってみてこの試験の特徴や難 易度を判断するのは安直と言えます。
3.読解問題・パート5と6
では、これから問題を具体的に見ていきたいと思いま す。ここでパート5と6を一緒に扱うのは次の理由から です。両者は「穴埋め問題」と称されていますが、内容 的には旧テストの「文法・語彙問題」と同じです。文 法・語彙力が短文か、文脈のある長文で試されるかの違 いに過ぎません。実際、「文法・語彙問題」も「短文穴 埋め問題」も英語表記ではIncomplete Sentencesとなっ ていますし、「長文穴埋め問題」はText Completionで す。(注7)『新公式問題集』所収の問題を資料1,2とし て注釈の後に2種類掲げますので、まずは解いてみて下 さい。試験時間は1問につき約30秒が目安です。なお、
正解は注釈に記しておきました。(注8)
* * *
さて、手応えはどうだったでしょうか。全般的に易し いという印象ではなかったでしょうか?よくTOEIC指 南書にはパート5(40題)と6(12題)の計52題を約 20分で解答するようにと書いてあります。そして、こ れは時間的にかなり可能な範囲と思われます。その理由 は基本的な問題が多く、高校までの知識で8割方は解け るからです。たとえば、第103問や105問、あるいは 104問などは「英検」2級以上の問題に出ることは考え られません。文法中心の英語教育を受けた日本人の受験 者には易しすぎるからです。では、なぜ易しい問題が多 いのでしょうか。それはTOEICテストが「英語力の物 差し」としての試験を標榜しているためと考えられます。
TOEICのHPにあるQ&Aの7番目の答には次のような 説明があります。
「TOEICは英語能力を測るモノサシとして開発され、
その範囲は下は10点という全く英語ができないレベル から、上は990点というNative Speakerに近いレベルま で至るという非常に広いものです。低いレベルの人には、
それなりの低いスコアが出るように設計されていますの で、その人の英語能力レベルを正確に測るという意味で はレベルの低い人でも問題なく使えます。」
しかし、逆に言えば高いレベルの人にも使えるように 中級の問題も取り混ぜてあるわけです。たとえば、第 106問は選択に迷う方もいるでしょう。試験の構成とし ては、難度の高い問題が後半部にまとまって置かれてい るわけではなく飛び飛びにあるので、指南書には「難し いと思ったらその問題は飛ばして先に進む」といったア ドバイスも見られます。これは難問の解答に時間をとら れるよりも、他の易しい問題に移って数を多くこなした 方が得点の上では良いという考えから来ているのでしょ う。そして、大量の基礎的問題を解くという出題形式は できるだけ 速く、広く、正確に 情報を処理する能力 を測ろうとしているのであり、それは「実際のコミュニ ケーションで必要とされる英語能力を評価する」という コンセプトに合致した方法と言えます。
前に旧TOEICテストのパートVI「誤文訂正問題」(文
中の誤った表現の指摘)は削除されたと書きました。そ の代わりに長文の中での「穴埋め問題」がパート6にな りましたが、これは文脈が加わっただけで基本はパート 5と同じです。英文3つを読んで12問を解くことで、
受験者には次のパート7「読解問題」のウォームアップ になるかもしれません。即ち、パート6はパート5から 7への橋渡しの役割を担うようになったと言えるでしょ う。でも、これはやや真っ当すぎる見方かもしれません。
というのは、大量の問題をこなすには英文を読むのに多 くの時間をかけられないという事情から、受験者の中に は速読の練習をするよりも、問題箇所だけを見てあまり 他の英文は読まないようにする人も出てくるかもしれま せん。そして、パート6の特徴としては該当個所だけを 考えて解答できる問題もあり、必要ならばその前後を見 ることでほぼ充分に解答できるように思われます。
引用したパート6の練習問題は第1文を読んでテーマ を掴めば、英文全体を綿密に読まなくとも解答が出来ま す。たとえば、第141問は appear on ( ) the cash register screen and the receiptを見て下線を引いた2つ の物を and よりも強く結びつける語を選べばいいわけ ですし、142問はEvery item とa bar code を見れば当て はまる適切な動詞は形の上でひとつしかありません。こ の場合、issueの意味すら分からなくとも正解は可能で す。それは144問についても同様で、keep track ofとい う熟語自体やその意味を知っていなくても By keeping に自然につながる形はかなり限定されるでしょう。この ように、文脈を読み取ることなしにパート5と同じ文 法・語彙力があれば正解が得られる長文問題があるのは 残念な特徴です。受験者はただでさえ時間に追われてい るのですから、こういった特徴に気づいてパート5と似 たような勉強をすれば速読力や英文全体の構成について の認識力を高めずに、飛ばし読みの能力だけを身につけ ることになりかねません。受験者の学習行動は試験作成 者のねらい通りにはならないで、違った方向に誘導する ことさえあり得るのです。そして、時間の節約のために
「出来るだけ英文を読まないで解答する」という裏技は、
次のパート7にも応用される恐れが充分にあります。
4.読解問題・パート7
ここで出されるは英文は1文書が約10、2文書が4 組で、各々28題と20題の設問数です。パート5と6を 25分で解答できればパート7の配分は50分なので、平 均すれば約3分で1つの文書を読み設問に答えることに なります。出される英文は短いものが多いけれども、内 容が種々様々で「社内メモ、メール、レター、銀行明細、
アンケート、求人広告、不動産広告、ニュース、投資情 報、営業業績、マニュアルなどなど。文章だけでなく、
表やグラフ、フォームなどの形式もあるし、料理のレシ ピや天気予報なども含まれ、実に多彩」と言われていま す。(注9)「新公式問題集」ではletterが断然多く次にe- mail message, articleと続きます。論文の末尾にはletter の典型例としてリニューアルで採用された2つの文書を 読んで答える問題を最初に掲げ、配列は実際と逆になり ますがそのあとにe-mail messageとarticleの1文書読解 問題を示しました。資料3〜5の問題を試しに12分の
制限時間でやってみて下さい。(注10)
* * *
12分間の集中ならばさほどハードルは高くないかも しれませんが、現実の試験場ではこれの約4倍の時間を 費やさなければなりません。TOEICテスト最大の特徴 が「時間との勝負」であり、かつ多様な基本的能力を測 る持久力レースでもあることを思い出して下さい。11 問全部正解した方もこの先続けたらどのような結果が得 られるかは、実際にやってみなければ分からないと思わ れます。
最初に掲げた2文書読解問題は、第2節で扱った新テ ストの概要で「問題文の長文化」として挙げられた新し い特徴です。でも、それは形式的なことで、問題に当た ってみれば1文書問題が組み合わされただけに過ぎない ことが分かります。読解問題解法の基本はまず一番上の 問題番号右に記されている英文形式の指示を読み、次に は設問の方を先に読んで本文からその解答に必要な情報 を探していくことです。ここでの第1文書はrecipeとあ りますので、具体的な内容はまだ分からなくとも「料理 方法を書いたものだ」という読解の方向付けが得られる のです。第1文書前半は材料の列挙であり後半は調理手 順です。第181問は後半部の1〜2行目を読み、182問 は後半部の5行目を見れば答が出ます。183−185問は 第2文書のletterに関する設問で、183問は本文1,2 行目、184問はsurpriseを目印に7,8行目、185問は preparation timeを念頭に置いて8〜11行目を読めば正 解が得られます。従って、この2文書問題はたんに1文 書問題を並列しただけと言えます。ただ、この問題を授 業で扱う場合にはレシピにはほとんどありませんが、手 紙の方は3つの段落の関連や第2段落の論理的構成につ いて説明する必要があると思います。標準的な形式を知 っておいたほうが手紙一般の内容把握が容易になるから です。
次に採り上げるのはe-mail messageです。これも
letterと同様、形式面での知識があると読解が楽です。
日本語のメールと共通でまず誰から誰に宛てた何に関す るものかを最初の3行から読み取ります。Subject(題 名)が分かれば第155問は半分解けたようなものです。
156問は第2段落、そして157問は第4段落が解答の源 です。この問題は情報の検索よりもむしろ、設問の理解 が難題かもしれません。156問What information are customers asked to have available if they have questions about the order? にはhave (something) available「(何か)
を利用できるようにする」という大学生には難度の高い 表現がはめ込まれています。しかし、情報の読み取りに は質問のif they have questions about their ordersと、本 文のShould you have any questions regarding your order との内容かつ形式的対応を見つけるという迂回路も用意
されています。157問ではavailableという形容詞が「後 置修飾語」としてa serviceに説明を加えていますので、
a service which is available...と書いても同じになります。
最後のarticle問題は報道記事のように思われますが、
学校での英語教育が扱う英文に一番近い形式です。題名 と段落だけで構成されていて、英検の読解問題と余り変 わりません。この種の英文の方が他よりもかえって手間 取るといえるかもしれません。一文ずつ読んで内容を理 解していくしかないからです。それでも、解法の鍵は幾 つかあります。記事の場合、日本と同様重要なことが先 に書かれるのが通常です。だから、第160問は英文全体 を読まなくとも、第1段落、とりわけ3,4行目の文を 読むことで解決できます。鍵言葉はsiteとnew plantで す。2つ目の解法は、一般に1英文につき3題の設問な のでひとつの段落に複数の問が関わることは余りありま せんから、第1段落は4行までの文を読んだら最後の文 は読まないで次の段落に移ることです。これは単なる読 み飛ばしにすぎませんが、多少のリスクはあっても時間 の節約になります。この 傾向と対策 的テクニックは 第2段にも適用できます。161問の表現、NOT, choos- ing, location, Compton Wayを記憶にとどめて第2段を読 み始めるわけですが、第1文はこの地方のリーダーの反 応が記されているので、第2文の固有名詞を見たらその 一人の発言だろうと推測してあとは読み飛ばすというわ けです。さらに、4つの鍵言葉を元に情報を求めていく と第3段落の4行目でThe company has chosen the Compton Way site on the basis of its location, ...という文 章に行き当たります。この最後の文と第4段落の第1文 を熟読すれば解答は容易です。162問は成り行きからし て第4段落が答の出所と推測できますが、まずは設問の the head of Scorpiaと本文1行目のThe chief executive
of Scorpiaが同じであることから確認をします。しかし、
praiseの理由をこの段落から探し求めるのは簡単ではな
いかもしれません。それは「新公式問題集」の解答・解 説編にもIn addition以下、最後の文にあるとしか説明は ありませんが、文中のa good example...of how to attract new investmentsがヒントになると思います。さもなけ れば、消去法で行くこともできるでしょう。
以上、細かい説明になりましたがこの節で私が示唆し たかったのは、TOEICテストは時間との勝負であるた めに受験者は速読力よりもむしろ、読み飛ばしのコツを 身につける可能性があるということです。得点を上げる ために如何に読む量を少なくするかというのは速読力と は異なります。しかし、TOEICテストが扱う英文自体 が速読力でも、高度な読み飛ばしでも対応できるのは事 実です。英文の形式が様々でもそれに慣れたら、綿密に 読まなくとも勘所は押さえられます。むしろ、書き手の 方が形式に則り情報を読み手に分かりやすく提供してい
る英文だと言ったほうが正確かもしれません。そのため に「実際のコミュニケーションで必要とされる英語能力 を評価する」という観点からは、このレベルの英文を一 読して理解するのにえらく時間がかかったり、あるいは 何度も読み返さなければならない受験者は低い点数しか 与えられないのです。
たしかに、日常生活でよく目にする英文、とりわけ不 特定多数を相手にした定型英文を読むのに辞書と時間が 必要というのではなかなか普段の用を足せません。家族 で英国に住んでいた時、よく小学生の子供が父兄宛て B5判1枚弱の文書を学校から持って帰りました。最初 は辞書を片手に端から端まで注意して読んでいましたが、
じきにその定型に慣れると要点は一読して掴めるように なりました。ビジネスの現場でも扱う書類の量は違うで しょうが、同じような事が言えるのではないでしょうか。
けれども、大学でTOEICテストを利用する場合には注 意が必要です。就職希望の学生には好都合ですが、大学 院に進もうとしている学生にはこの試験が要求している 速読力だけで充分なのだろうかというのがTOEICテス トに対する私の最大の疑問点です。
5.まとめ
これまでTOEICテストの特徴と考えられるものを思
いつくままに指摘してきましたが、まとめてみれば次の ようになります。
①「要点を自力で見い出す」「要点を纏めて表現する」
能力は測れない。
②特殊なビジネス英語の知識は必要でない。
③聴く・読む力を直接的に評価することで話す・書く力 を間接的に評価する。
④大量の基本的な情報をすばやく処理する能力を測るこ とを目指す。
⑤パート5と6は基本的な問題が多く、高校までの知識 で8割方は解ける。
⑥パート7は英文の様々な形式に慣れる必要がある。
⑦受験者は速読力よりもむしろ、読み飛ばしのコツを身 につける可能性がある。
ここで改めてTOEICテストの発端を振り返れば、「新 公式問題集」の はじめに の冒頭には次のように記さ れています。「日本企業の海外進出が始まり、現地へ派 遣されるビジネスパーソンが増えるなど、海外でのビジ ネスにも対応できる「世界で通用するコミュニケーショ ン英語能力」の必要が高まっていた1970年代、時代の 要請を受け、世界共通の国際コミュニケーション英語能 力 テ ス ト と し て 、TOEIC(Test of English for International Communication)が誕生しました」。(注11)ま た、TOEICは日本人の発案によるものですが、その生
みの親になった(財)国際ビジネスコミュニケーション 協会会長渡辺弥栄司氏はこう話しています。「北岡さん と私は偶然にも同じ考えでした。「これだけ日本が国際 社会で仕事をしはじめると、英語の話せない日本とか、
日本人というものは、考えられない。英語が話せなけれ ば、やりたいことが何もできないではないか」という点 で一致したのです。しかし、現実には、中学・高校・大 学で習う英語だけでは、全く使えるようにはならない。
辞書を引いて本を読むための英語を習っても実際には役 に立たないわけです」。(注12)要するに、学校英語に批判 的な観点から産み出されたと言えます。その結果として、
TOEICテストが測る「コミュニケーション英語能力」
では音声面の比重が半分を占め、題材には「一般的な、
またはビジネスでのコミュニケーションの場面」や文書 が採用されているわけです。このような方針のため最初 は企業での利用が多かったようですが、中等教育でも英 語教育の音声面へのシフトが強まったので、「新公式問 題集」によれば現在では「企業では自己啓発や英語研修 の効果測定、新入社員の英語能力測定などといった目的 のほか、海外出張や駐在の基準、昇進・昇格の要件とし ても利用されています。大学・短大では英語課程の単位 認定や推薦入試などでも利用されています」とのことで す。(注13)
しかしながら、前にも述べたように、大学でTOEIC テスト対策のみをすれば就職希望者には有利ですが大学 院進学希望者には必ずしもそうではないと考えられます。
後者の場合にも英語のプリゼンテーションや会合などに
関してはTOEICの聴解問題は有用ですが、研究者とし
て英語文献を読んだり英語で論文を書いたりするときに は不利の可能性があるといえます。海外の文献をたくさ ん読むときには速読力も必要ですが「読み飛ばし」の方 法では歯が立たないでしょうし、綿密に論理を辿りなが ら批判的に読む精読力も欠かせません。TOEICテスト の特徴を確認するために、ここで資料6として挙げた
TOEFLテストと比較をしてみましょう。
この読解問題はETSのホームページに掲載されてい るTOEFLテストのサンプル問題で、Reading Compre- hension sectionに示された2つの例題のうち長い方の英 文です。(注14)これひとつ見ただけでは断定的なことは 言えませんが、それでもTOEICテストとは異なる特徴 を指摘できるように思います。まず、前節の最後で検討 した資料5の本文は約250語、他のarticleでも300語以 内ですが、TOEFL例題は350語です。また、細かいこ とですが、TOEIC問題の先頭に付された形式分類はな く、題名さえありません。換言すれば、一目で概要が分 かるようにはなっていません。さらにTOEFL例題は内 容が報道記事ではなく書物の一節のようで、本文の構成
がTOEIC問題とは違ってひとつの主題を一方向に深く
叙述している印象を与えます。次に設問を見れば、問3 や問7のようにTOEIC問題と同様の質問もありますが、
問4,6,8は単なる語彙の問題ではなく文脈内での意 味を問うています。(注15)問2を答えるのは容易ですが、
代名詞が指すものを常に明確に認識しておくことは論旨 を辿る上で不可欠な注意点です。もっとも特徴的なのは 問1で、形式的にはTOEIC問題と同じですが、const-
ructionが正解であることを本文から確定するには25行
目まで読まなければなりません。受験者は最初の第1,
2段落に書かれたパイプラインの説明あたりで これを 造るのは大変だろうな とは思うものの、最後の方まで 読み進めなければ主題が何かは分からない本文の構成に なっています。(注16)
読解問題におけるTOEICテストとTOEFLテストで内 容的にもっとも異なる点は、前者が題材を「一般的な、
またはビジネスでのコミュニケーションの場面」から得 ているのに対し、後者はアカデミックな場面を想定して いることです。これは試験の目的の相違に基づくもので す。TOEFLが海外の大学で学ぶ際に必要な試験であるこ とはTOEICが産まれる前からよく知られています。(注17)
米国などの大学で授業を受ける英語能力があるかどうか を測るわけですので、キャンパスでのやりとりや学術書 が素材に選ばれ、したがって内容も高度になります。結 論としては、両者は特定の目的に添った試験なので、そ れ に 応 じ た 利 用 法 が 望 ま し い と 言 え ま す 。 例 え ば 、
TOEICテストを1,2年の英語教育に採り入れるには授
業の中盤で集中力を高めるために、また形式や速度に慣 れるために文書読解問題を1題時間を限って解答させる という利用法も一考に値すると思われます。
注
TOEFL is a registered trademark of Educational Testing Service (ETS).
(1)http://www.toeic.or.jp/toeic/new/new01.html
(2)著者:Educational Testing Service、発行者・編者:財 団法人国際ビジネスコミュニケーション協会 TOEIC運営委 員会、2005年12月。以下、「新公式問題集」と略記。
(3)「新公式問題集」9頁。
(4)http://www.toeic.or.jp/toeic/qa/index.html
(5)TOEICテストは2007年1月からスピーキングとライテ
ィング試験のセットを新たに実施するとのことです。
(http://www.toeic.or.jp/sw/)
(6)実際、READING TESTの指示文にはこう記されていま す。"You are encouraged to answer as many questions as possible within the time allowed."
(7)『新公式問題集』10頁。
(8)資料1:練習テスト(2)から、『新公式問題集』94− 95頁。
解答:101−C、102−A、103−D、104−D、105−B、
106−B。
資料2:練習テスト(2)から、『新公式問題集』101頁。
解答:141−D、142−C、143−A、144−D。
TOEIC materials are reprinted by permission of Educational Testing Service, the copyright owner. However, the test questions and any other testing information are provided in their entirety by the University of Electro-Communications.
No endorsement of this publication by Educational Testing Service should be inferred.
(9)細井京子、山本千鶴子著「ハイスピード実現! TOEICテ スト リーディング速効ドリル」12頁、コスモピア株式会社、
2006年7月。
(10)資料3:練習テスト(1)から、『新公式問題集』66− 67頁。
解答:181−B、182−D、183−A、184−D、185−C。
資料4:練習テスト(1)から、『新公式問題集』54−55頁。
解答:155−A、156−B、157−B。
資料5:練習テスト(2)から、『新公式問題集』107頁。
解答:160−C、161−B、162−C。
(11)「新公式問題集」3頁。
(12)千 田 潤 一 、 鹿 野 晴 夫 著 「 こ の 1 冊 で す べ て が 解 る
TOEICテスト」133−4頁、旺文社、2001年。なお、著者
は90頁で「企業の研修担当者からは、「結局、自分で自己学 習している社員しか伸びていない」という声が聞かれます」
と記しています。
(13)『新公式問題集』8頁。
(14)http://www.ets.or
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(15)同HPにはその意図を次のように明示しています。
"Because many English words have more than one meaning, it is important to remember that these questions concern the meaning of a word or phrase within the context of the passage."
(16)同HPによる正解は「1.D 2.A 3.A 4.B 5.C 6.D 7.C 8.
B 9.A 10.C」となっていますが、選択肢の番号に対応させれ ば「1-4 2-1 3-1 4-2 5-3 6-4 7-3 8-2 9-1 10-3」になります。
マークシートの見本には選択用の文字が記されています。
(17)同 H P に は 次 の よ う な 説 明 が あ り ま す 。"Section 3 measures your ability to read and understand short passages similar in topic and style to those that students are likely to encounter in North American universities and colleges."
また、同HPのTOEIC Details: Learners and Test Takers中の About the Test→Comparing TOEFL and TOEICを見ると、
両者の相違点が一覧表になっています。
以上 (2006.9.8)