九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
食用カラスウリ における育種技術の確立と栽培法の 改善に関する研究
ジャヒドル, ハッサン
https://doi.org/10.15017/2534492
出版情報:Kyushu University, 2019, 博士(農学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
氏 名 :ジャヒドル ハッサン
論文題名 :Studies on the Establishment of Breeding Techniques and Improvement of Cultivation Methods in Pointed Gourd (
Trichosanthes dioica
Roxb.)(食用カラスウリにおける育種技術の確立と栽培法の改善に関する研究)
区 分 : 甲
論 文 内 容 の 要 旨
食用カラスウリ(英名pointed gourd,
Trichosanthes dioica
Roxb.)はインドやバングラデシュ などの南アジア原産の植物で,現地では夏季の最も重要な野菜の一つである.本種はウリ科カラス ウリ属のつる性雌雄異株植物であり,種子は難発芽性であるため,これまで交雑育種が行われたこ とはなかった.また,食用カラスウリは長卵形で長さ10cm程度の未熟な果実を食用とするが,着 果約2週間後には種子が発達・硬化するため食味が低下すると言われている.そこで,本研究では,バングラデシュ各地から採集した食用カラスウリの雌株 24 系統および雄株 9 系統を用いて,形態 的ならびに生態的特性を調査するとともに,簡便な種子発芽促進法を検討した.次いで,雌株に対 して様々な濃度の硝酸銀溶液を散布して両性花の誘導を試みるとともに,両性花から採取した花粉 を用いた交雑育種の可能性について調査した.さらに,種なし果の獲得を目的に,数種の植物成長 調節剤処理による単為結果の誘導と,三倍体育成のための母本となる四倍体の作出も試みた.最後 に,本種の夏季の着果習性を明らかにするとともに,人工授粉に用いる花粉の貯蔵方法を検討した.
まず,食用カラスウリの雌株24系統のうち,14系統を無加温ガラス温室内で,また,10系統を 露地圃場で栽培すると,前者では植え付けから開花までの期間が76.0~95.6日,後者では109.0~ 132.3 日であった.また,人工授粉での着果率は前者で 37.7~88.4%,後者で 44.5~92.0%と系統 によってさまざまであった.果実の形状は長さ 7.5~13.0cm,果実重は 36.4~60.4g,一株あたり
の収量は 90.9~1695g と系統によって変異がみられたことから,雌株間での交雑が可能になれば,
有用な形質を備えた品種の育成が可能と思われた.一方,食用カラスウリの種子の難発芽性の克服 を目的とした各種処理法のうち,濃硫酸に 30 秒浸漬したのちに水で洗浄して播種した場合に最も 発芽率が高く,播種後約 2週間目までに 98.8%の種子が発芽した.しかしながら,水道水に 12 時 間浸漬したのちに播種すると,播種後8日目までに74.4%の種子が発芽したことから,本種の発芽 促進法としては後者の方法がより簡便で実用的と思われた.
次に,本葉が4~5葉展開した食用カラスウリの雌株(3系統)の挿し木苗に,50,100,および
200ppm の硝酸銀溶液を噴霧したところ,すべての処理区で両性花の誘導に成功したが,特に,
50ppm処理区でその効果が最も長く持続した.硝酸銀処理で誘導された両性花から得た花粉を用い
て,自殖および他の雌株との交配を行うとともに,誘導された両性花に他の雄株から得られた花粉 を用いて交配するとすべての交配で着果し種子が得られた.これらの種子からは健全な実生が得ら れたことから,本技術により有用な形質をもつ食用カラスウリの雌株間での交雑育種が可能になる ことが示唆された.
さらに,食用カラスウリ3系統を用いて,2,4-D, NAA, Fulmet, CPPU, GA3, およびTIBAの6 種類の植物成長調節剤処理が単為結果誘起に及ぼす影響を調べたところ,すべての処理で単為結果 が認められた.特に,開花時にGA3100ppmもしくはNAA100ppmを子房に散布処理するともっと も効果的であることを明らかにした.
一方,食用カラスウリの種子を,0.05, 0.1, および0.5%のコルヒチン溶液にそれぞれ24, 48, お よび 72 時間浸漬したのちに播種して栽培し,幼葉を用いてフローサイトメトリーにより倍数性を 確認したところ,コルヒチン0.5%48 時間処理で1 個体,同72 時間処理で2個体の四倍体を獲得 した.得られた四倍体は二倍体よりも節間が短く成長の遅延が認められた.
これらに加え,ガラス温室内および露地栽培での食用カラスウリの着花および着果習性を調査し たところ,雄花の着花盛期はガラス温室と露地のいずれにおいても7月下旬だった.一方,雌花で は8 月上旬に露地での開花盛期が認められたのに対し,ガラス温室内では6月下旬から 7月上旬,
および9月上旬の2回の着花盛期が認められ,7月中旬から8月下旬には着花数が減少した.また,
7月中旬から 8月下旬にかけてはガラス温室内と露地のいずれにおいても着果数が減少したが,こ れは雌花着花数の減少によるものだけでなく,高温による花粉発芽力の低下に起因する可能性が示 唆された.このように,夏季の高温条件下での花粉の発芽力低下による着果数の減少だけでなく,
雌雄異株性である食用カラスウリの花が一日花であることによる雄花と雌花の開花の非同期性も果 実生産上の大きな問題となる.そこで,花粉の適切な貯蔵方法を検討したところ,4oC で3 日間,
および-20 oCで2週間貯蔵した花粉を用いた授粉で80%以上の着果率が得られたことから,食用カ ラスウリの雌雄花における開花の非同期性の克服が可能と思われた.