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古 田 俊 吉

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(1)

消費ベース直接税の代替的形態

古 田 俊 吉

はじめに

消費ベースの直接税制についてこれまで数多くの提案がなされている。これ らの提案は,課税ベースと租税対象からは基本的に四つのタイプに分類できる。

第 1 のタイプは,企業税と個人税の双方において実物取引のみを対象として R ベースの消費税を採用する税制である。第 2 のタイプは,企業税と個人税の双 方において実物取引と金融取引を対象として R+F ベースの消費税を採用する 税制である。第 3 のタイプは R+F ベースの企業税と R ベースの個人税を組 み合わせた消費税制である。第 4 のタイプは R ベースの企業税と R+F ベー スの個人税組み合わせた税制である。これらの税制は 法人所得税と個人所得 税の役割ないし位置付けをどのように捉えるのか 消費税制において税制の基 準である簡素さ,効率性,公平性をどの程度反映させるのかといった点の相違 から課税ベースや税率などが大きく異なっている。

ところで,現行の所得税収が個人所得税収に多く依存する場合には Rベース の企業税と R+F ベースの個人税が支持される可能性が大きく,逆に,相対的 に所得税収に占める法人所得税収の割合が高い場合には, R+F ベースの企業 税が支持される可能性が高い。また,税制の簡素さの観点では, Rベースと単 一税率との組み合わせが支持されるであろう。他方,公平の観点からは R+F ベースと累進税率を組み合わせた消費ベースの課税が支持されるであろう。本 稿では,四つのタイプの消費ベース直接税の税体系を分析し,それらの適用可 能性を検討することを目的としている。

第 2 節では,消費ベース直接税の四つのタイプの相違を理論的に明らかにす る。第 3 から第 6 節では,各タイプの租税の税体系を詳しく分析する。最後に 第 7 節では,四つのタイプの消費税の適用可能性を検討する。

‑ 2 3 3  (  7 4 3)一

(2)

2  消費ベース直接税のタイプ

企業部門のキャッシュ・フローにおいて 資金総流入は資金総流出に恒等的 に等しい。ここで,財・サービス販売からの収入を X ,経常的コストを M ,粗 投資をし雇用者への支払いを W ,利子率を i ,負債ストックを B ,負債ストッ

クの増分をム B ,株式ストックの増分をム S ,配当を D とすると,

x +ム B +ム S = M  +I+  W + i  B  +  D  ( 2 . 1 )   の恒等式が成り立つ。また,キャッシユ・フローベースの付加価値( v ) は ,

V  = X‑M‑I 

=  w + r r  

と定義される。

1)

ただし Hは純利潤である。

他方,個人部門のネットのキャッシュ・フロー( CF ) は , C F =   W

iB+D 一(ム B +ム s)

と定義される。

( 2 . 2 )  

( 2 . 3 )  

以上から,直接消費税の課税ベース( TB )としては基本的に,実物取引の みを含める Rベース,

TB(R) = X‑M‑I  ( 2 . 4 )   および,実物取引と金融取引を含める R+F ベース,

TB  (R+F )ニ W+iB+D −(ム B +ム S) ( 2 . 5 )   があることになる。

ところで,消費ベース課税を直接税タイプとした場合,租税主体は企業と家 計である。したがって,二つの課税ベースと二つの租税主体から,直接消費税 は四つのタイプに分類できる。第 1のタイプは,企業税,個人税の双方で Rベー スの消費税を採用するものである。アメリカ財務省( 1 9 8 4 )の報酬控除税( Y i e l d

Exemption T a x ) ,   B r a d f o r d ( 1 9 8 6 , 1 9 9 7 ) の X 税 ( X‑Tax )および二段階キャッ シュ・フロー税( T w o ‑ T i e r e dC a s h ‑ F l o w  T a x ) ,   H a l l ‑ R a b u s h k a ( 1 9 8 5 , 1 9 9 5 ) の フラット税( F l a tTax )がこのタイプの消費税である。このうち H a l l ‑ R a b u s h k a

‑ 2 3 4  (  7 4 4)ー

(3)

のフラット税がRベース消費税の基本モデルと考えられるが,「フラット税」

は R ベースの消費税の特徴を表す名称とはいえない。これらの租税に共通する 特徴は企業の課税ベース算定において労働報酬を控除することであり,以下で はこのタイプの租税を報酬控除税と呼ぶ。

第 2 のタイプは,企業税と個人税の双方で R+F ベースの消費税を採用する ものである。ミード報告 ( 1 9 7 8 )の普遍的支出税( U n i v e r s a l   Ex  p e n  d i  t u r e T a x )  ,  アメリカ財務省( 1 9 8 4 )の消費所得税( ConsumedIncome T a x ) ,   A a r o n ‑ G a l p e r   ( 1 9 8 5 )のキャッシュ・フロー所得税( CashFlow Income Tax )がある。このう ち A a r o n ‑ G a l p e r のキャッシュ・フロー所得税が企業と個人の双方に R+F ベー スの消費税を課す税制であり,この租税の基本モデルといえる

02) 

第 3 のタイプは,企業税として R+F ベースの消費税,個人税税として R ベー スの消費税を採用するものである。 McLure‑Zodrow(l996a1 9 9 6 b )の混合消費 税 ( HybridConsumption Tax )がこれにあたる。

第 4 の消費税のタイプは, R ベースの企業税と R+F ベースの個人税を組み 合わせた消費税制である。 Nunn‑Domenici の U s  A 税( U n l i m i t e d   S a v i n g s  

A l l o w a n c e  Tax )がこの代表である。

3  報 酬 控 除 税

R ベース消費税の基本モデルは Hall‑Rabushka のフラット税である。そこで まず,彼らのフラット税から検討しよう。この税の特徴は,キャッシュ・フロー ベースの付加価値( v )を企業税の課税ベース( V ‑ W )と個人税の課税ベース (W )に分割し,各々の租税を分離独立させるとともに,現行の法人税を R ベー スの企業税で,また現行の所得税を Rベースの個人賃金税に置き換えることを 意図するところにある。付加価値は,原産地主義の下で控除方式を用いて算定 される。

3

)つまり,取引において輸出は課税ベースに含まれ,輸入は課税ベー スの算定において控除される。まず,企業については 法人企業と非法人企業 の区別はなく,全ての企業が同じ取扱いを受ける。課税ベースはRベースのキヤツ

‑ 2 3 5  (  7 4 5)一

(4)

シュ・フローから雇用者への支払いを控除した額に等しい。具体的に示せば,

T B   =  V ‑ W  

=財・サービスの販売額+固定資産の売却額一原材料購入額 ーサービス購入額一固定資産購入額一賃金・給与支払額 である。

税率は個人課税の場合と同一のフラット税率( t  )が適用される。税率は 19%

である

04

)税額を T とすると 企業税の税体系は

T  =  t(V‑W)  ( 3 . 1 )   として表される。納税の繰り延べの調整には一定の利子率( 6  %)が適用される。

個人については賃金税 ( I n d i v i d u a lWage Tax )が課税される。課税ベースは 企業から雇用者に支払われる労働報酬であり,具体的には,賃金,給与,およ び年金・退職給付が含まれる。年金負担およびフリンジ・ベネフィット(付加 給付)は課税ベースには含まれない。ここで,課税報酬の算定においては,垂 直的公平の観点から人的控除( E )が導入される。人的控除は,独身と夫婦,あ るいは扶養者数で異なる構造をもっ

O

1 9 9 5 年時点での人的控除は,夫婦 1 6 '5 0 0  

ドル,扶養家族 1 人当たり 4 , 5 0 0 ドルドル,独身者 9 , 5 0 0 ドルとなっている。

これらより,個人賃金税の税体系は,

T  =  t  (W‑E)  と表される。

( 3 . 2 )  

個人税において問題になるのは,個人所得税の場合と同様,耐久消費財,贈 与・遺産についてである。フラット税においては耐久消費財の購入については 租税前納方式が採用されている。これは 単一税率が用いられることによる。

また,贈与・遺産は課税ベースから除外されている。消費税は消費が実現され た時点で課税されるべきとの考え方に立っていることによる。

以上から,企業税と個人税を統合した税体系は

T  =  t  (V‑W)  +  t  (W‑E)  =  t  (V‑E)  ( 3 . 3 )   として表される。これからわかるように,企業部門と個人部門とを合わせた課

‑ 2 3 6  (  7 4 6 )ー

(5)

税ベースは,キャッシュ・フローベースの付加価値から人的控除を差しヲ|いた 額に等しい

05)

ところで,フラット税の累進性は人的控除によってもたらされるが,税率が 単一なために大きな効果は期待できない。 Bradford(  1987 ) の X 税はフラット 税の個人税により大きな累進性を導入する意図をもった税制である。 X 税は,

税額を T ,企業税率を t

p

,労働報酬税率を t

H

,人的控除を E とすると,

T =  tp(V‑W)+tH(W‑E)  ( 3 . 4 )   で表わされる。ここで,個人税の税率は 3 段階の累進税率であり,最高税率は 企業税率と同一になっている。彼の例示では, tp=7%,  E=l0,000 ドル,

また tH は 3 段階で 3% 5% 7% となっている。

6)

4  キャッシュ・フ口一所得税

Aaron‑Galper のキャッシュ・フロー所得税は,ホール・ラブシュカ提案と は異なり,個人税の課税ベースは生涯支出で捉えられるとともに,法人企業が 非法人企業と区別され,またキャッシユ・フロー法人税の課税ベースとしては

R+F ベースが採用されている。

まず,法人企業については, Rベースの問題点である金融取引の取扱いの不 備を補うために R+F ベースを課税ベースとしている。課税ベースは,

T B   =  X‑M‑I  ‑W‑i  B +ム B ( 4 . 1 )   で与えられる。

7

)なお,非法人企業については その所有者を対象として個人 税制で取り扱われる。課税ベースを具体的に示すと,

T B =財・サービスの販売額+固定資産売却額十借入金増加額

+株式を除く金融資産の減少額+受取利子一原材料購入額 一賃金・給与支払額ーその他サービス購入額

一固定資産購入額一借入金返済額

一株式を除く金融資産の増加額一支払利子 となる。

‑ 2 3 7  (  7 4 7  ) ‑

(6)

法人税の税体系は,

T  =  t  ・TB 

で表される。税率は 33% の比例税率である

08) 

一方個人については,課税ベースは( 2 . 3 )式を用いて,

TB  =  W +   i  B+D −(ム B +ム s) と定義される。具体的に示せば,

TB =受取現金一現金貯蓄

=賃金・給与+地代+利潤+利子+配当+移転支払 一「適格勘定」への支払

(  4 . 2 )  

( 4 . 3 )  

となる。ここで,現金貯蓄は「適格勘定」へのすべての支払いであり,金融資 産購入,銀行預金,持ち家以外の実物資産購入が含まれる。また「適格勘定」

は課税ベース算定の対象となる勘定であり,預け入れは課税ベースから控除,

引き出しは課税ベースに加算される。課税ベースは消費であり,貯蓄はそれが 消費されるか,または贈与や遺産として配偶者以外の他の個人に移転されるま では課税が延期される。配偶者への資産の移転は非課税である。

税体系は,

T  =  t  (TB‑E)‑U  ( 4 . 4 )   で表される。ただし, Eは控除, Uは税額控除である。控除は人的控除,医療 費控除,不慮の災害による損失控除から構成される。なお,人的控除は 1 9 8 5 年 において,独身者 5 , 5 0 0 ドル,夫婦 9 , 0 0 0 ドル,夫婦子 1 人 1 1 , 5 3 4 ドル,夫婦子 2 人 1 2 , 3 0 0 ドルとなっている。税額控除は,チャリテイ寄付金などごく少数の ものに限定される。税率は 5 2 0 ,   32% の 3 段階累進税率が適用される。

ところで,( 2 . 1 )式より,

V= X‑M‑I = W +   i  B+D −(ム B +ム s) (  4 . 5 )   であるから,個人税の課税ベースは基本的にキャッシュ・フローベースの付加 価値に等しい。したがって,彼らの税制において法人税を課税する根拠は厳密 にはない。それにも関わらず R+F ベースの法人税を課すのは源泉課税の目的

‑ 2 3 8  (  7 4 8  ) ‑

(7)

からである。しかし このことにより部分的に二重課税が発生する

09) 

5  混合消費税

McLure‑Zodrow の混合消費税は キャッシュ・フロー所得税タイプの R + F ベース企業税と,報酬控除税タイプの R ベース個人税を組み合わせた直接消 費税である。つまり,企業税では実物取引と金融取引が課税対象とされ,個人 税では実物取引のみが課税対象とされる

010) 

企業税の課税ベースは R+F ベースで

T B   =  X‑M‑I  ‑ W ‑ i  B+ム B ( 5 . 1 )   で与えられる。また,税体系は,

T  =  t  ・TB  ( 5 . 2 )   で表される。税率は比例税率である。

個人税については,課税ベースは Rベースである。税体系は,

T  =  t  (W‑E)  ( 5 . 3 )   で表される。

ところで,混合消費税において, R+F ベースの企業税が支持されるのは,

まず第 1 に,企業において利子,配当などの受け払いに関する財務記録に残さ れることから,個人の場合よりもベースを拡大し易いという理由がある。第 2 に,株式を除く金融資産の取引から生じるキャッシユ・フローを課税ベースに 含むため,実物取引と金融取引の区別をする必要がなくなることである。 Rベー ス方式においてはこの線引きの問題がある。第 3 に,投資資金調達と課税ベー スの関係である。課税ベースが Rベースの場合,投資支出分だけ課税ベースは 常に小さくなる。ところが, R+F ベースの下では投資が株式発行で資金調達 される場合は課税ベースが投資支出分だけ小さくなるが,借入による資金調達 の場合は投資支出と借入とが相殺され課税ベースは不変である。このことから,

特に新規企業について,課税ベースが R ベースか R+F ベースかの違いが大き な影響をもっ

O

いま,新規企業が借入によって投資の資金調達をし,負のキヤツ

‑ 2 3 9  (  7 4 9)一

(8)

シュ・フローが生じるとしよう。課税ベースは負であるから,中立性の維持の ためには,租税還付もしくは利子付きの納税延期が認められる必要がある。し かし,政府が租税還付を行う ないしは資金の機会費用に見合う利子を支払う 保証はない。また, R ベースでは利子支払いが控除されないから,実物面の純 キャッシュ・フローが十分に大きくなければ資金面での困難が生じる。第 4 に , 金融取引から生じるキャッシユ・フローが課税ベースに含まれないことから,

固定資産よりも金融資産を購入しようとする誘因を法人企業に与えることであ る 。

他方,個人税において R ベースが支持されるのは,税制の簡素さ,取引にお ける悪用の防止などの観点からである。まず,税制の簡素さでは,課税ベース を R+F ベースにした場合,利子,配当,キャピタルゲインが課税ベースに含 まれることからこれらの記録が必要とされることである。次に,取引における 悪用は,個人税の課税ベースが R+F ベースの場合,消費資金を海外での借入 で調達することがあげられる。さらに 個人税については累進税が適用される から, R+F ベースにおいて課税消費を縮減する強い誘因が働く。

6  us  A 税

Nunn‑Domenici のU s  A税は,課税ベースとして企業税には Rベースを,

個人税には R+F ベースを採用する直接消費税である。また,個人税には 3 段 階の累進税率が適用される。

11)

まず,企業税については,企業キャッシュフロー税は現行の法人税の代わり に導入される。課税ベースは本質的に差しヲ|き方式による Rベースの付加価値 である。また,法人,非法人の区別はされない。ここで,課税ベースは,

T B =財・サービスの売上高−設備及びサービス費用 一在庫投資費用

と定義される。課税ベースは原産地原則に基づく付加価値であり,輸出からの 受取は課税ベースの算定から控除輸入は課税ベースに加算され一定税率の特

‑ 2 4 0  (  7 5 0 )ー

(9)

別輸入税が課される。フラット税と大きく異なるのは 課税ベースの算定にお いて雇用者への報酬は控除できない点である。社会保障負担については一定割 合は税額控除できる。また,純税額がマイナスの時は租税還付される。以上か ら,また税額を T ,税率を t ( 1 1   %),社会保障負担を A,税額控除率を

T

( 7 . 6   5% )とすると企業税の税体系は,

T=t ・TB‑r  ・A 

で表される。ここで t=11%  で= 7.65% である。

次に,個人税においては,課税ベースは R+F ベースで算定され,

T B =賃金・給与+受取利子+受取配当+他の資産所得

+貯蓄勘定からの引き出し額−貯蓄勘定への預け入れ額 一資産購入額

( 6 . 1 )  

と定義される。凶これからわかるように,課税ベースの算定において貯蓄勘定 への預け入れが無制限に認められる。この税が U s  A 税と名付けられたのはこ の特徴による。

税率を T,控除を E,税額控除を Uとすると個人税の税体系は,

T =  t  (TB‑E)‑U  ( 6 . 2 )   と表される。ただし, Eは控除, Uは税額控除である。ここで,控除は,人的 控除,高等教育控除,その他の控除からなっている。人的控除は,独身者控除 4 , 4 0 0 ドル,家族控除4 , 0 0 0 ドル,納税者控除2 , 5 5 0 ドル,配偶者控除2 , 5 5 0 ドル,

扶養控除2 , 5 5 0 ドルとなっている。夫婦子 2 人の標準世帯では控除額は 1 7 , 6 0 0 ドルとなる。高等教育控除は納税者,配偶者, 2人までの扶養子女に認められ る大学ないし同等の職業教育機関の授業料である。また,その他の控除は,現 行所得税において認められている税額控除のうち,住宅ローン利子,寄付金,

扶助料については控除として認めるものである。税額控除は,社会保障負担と メデイケアの全額について認められる。税率は, 1 9 , 2 7 ,   40% の 3 段階累進税 率である。

‑ 2 4 1  (  7 5 1 )一

(10)

7  代替的消費税の適用可能性

まず, Hall‑Rabushka のフラット税の適用可能性である。フラット税は簡素 さと中立性を目指した R ベースの直接消費税である。確かに税制の簡素さ,企 業税と個人税の整合性といった観点からは優れた税制と評価しうるが,税制の 所得分配に与える効果から判断すると 適用可能性は大幅に制限される。 た とえば, 1 9 9 6 年のアメリカ財務省の分析によれば,法人所得税および個人所得 税を税収中立のフラット税で置き換えると 税負担が大幅に高所得層から低所 得層に移ることを明らかにしている f それによれば, 1 9 9 6 年の所得税収を基 準にした場合,夫婦子 2 人家族の人的控を 3 1 , 4 0 0 ドルとすれば税収中立なフラッ

ト税の税率は約 21% になる。このケースでは 5 分位でみた最低所得層では 6 . 7% の負担増となり,逆に最高所得層では 4.2% の負担減となる。また,上位 1 0

%,  5  %,  1  %高所得層ではそれぞれ, 4 . 2 % , 6 . 4 % ,   1 1 . 7 % の負担減となる。

これからわかるように,フラット税においては控除によって組み込まれた税 の累進性が単一税率のために制約され,全体としては逆進性が作用し易いとい える,したがって,現行所得税の負担配分が公平の観点から妥当なものとみな されていないならば フラット税への移行可能性は大きいとはいえない。

次に, Aaron‑Galper のキャッシュ・フロー所得税の適用可能性である。キャッ シュ・フロー所得税は 税制の簡素さ 中立性といった観点よりはむしろ公平 の観点にウェイトをおいた税制である。これは,包括的所得税を念頭におき,

課税ベースの浸食を防止する意味で法人企業と個人の双方に R+F ベース採用 し,また個人税の税率に 3 段階累進税率を採用していることからもうかがえる。

ただし,公平を確保するため金融取引が適格勘定を通す構造になっており,

フラット税と比較すると税制は著しく複雑になっている。この税制を厳格に適 用しようとすれば現行の所得税制と同様の税務行政コストがかかるであろう。

したがって,現行の所得税からキャッシュ・フロー所得税に直接的に移行でき る可能性は大きくはないといえる。ただし,税制において公平の観点を重要視 するのであれば,少なくとも個人税において R+F ベースを採用し,かつ 3 段

‑ 2 4 2  (  7 5 2)ー

(11)

階程度の累進税率を適用する必要があろう。

McLure‑Zodrow の混合消費税は 混合消費税は R+F ベースの企業税と R ベースの個人税を組み合わせた税制である。彼らの混合消費税は付加価値税を

もつが所得税をもたないボリビアを対象とした税制であり いわゆる先進国を 対象とした税制としては想定されていない。彼らが ボリビアについて R+F ベースの企業税と R ベースの個人税を適用する理由は,第 1 に,付加価値税の 課税ベースがかなり包括的であり,企業課税ベースとして R+F ベースの適用 可能性が大きいことである。第 2 に,所得税が整備されていないことから,個 人税に R+F ベースを適用することに困難が伴うからである。

最後に, U s  A 税の適用可能性についてである。 Nunn‑Domenici の U S A   税は, R ベースの企業税と R+F ベースの個人税を組み合わせた直接消費税で ある。この税制の特徴は,企業税において Rベース採用することによって税の 中立性を,また個人税に R+F ベースと 3 段階の累進税率を採用することによっ て公平性をそれぞれ確保する構造になっていることである。これはまた, 1 9 9 5 年度において,アメリカの所得税収の構成比が法人所得税 2 1 . 0 % ,個人所得税 7 9 . 0 % となっていることを反映しているともいえる。

us  A 税の特徴は,個人税には貯蓄勘定を設けられこの勘定への預け入れが 課税ベースの算定において無制限に控除されることにある。これはキャッシュ・

フロー所得税の適格勘定と同様の機能を果たすための仕組みであり,消費を包 括的に補捉するためには欠かせないといえる。また R+F ベース個人税のネッ

クが適格勘定にあるとされるが, Nunn‑Domenici はこの問題をクリアーでき ると考えているようである。

8  おわりに

本稿では,四つのタイプに分類した直接消費税の税体系とそれらの適用可能 性を検討した。どのタイプの直接消費税を選択するかは 税制の構築に当たっ て簡素さ,中立性を重視するか公平を重視するかによっても,また現行所得税

‑ 2 4 3  (  7 5 3  ) ‑

(12)

の地位や構造によっても異なってくる。

フラット税は簡素さ,中立性を重視した税制であるが公平の観点では難点を 有する。混合消費税も個人税においては同様である

O

他方,キャッシュ・フロー 所得税は公平を重視した消費税であるが,制度が複雑という難点を有する。こ れらの諸点からは, U s  A 税が巧みな構造になっており,他のタイプの消費税 よりは適用可能性が大きいといえよう。今後,この税の研究を進める必要があ る 。

1  )キャッシュ・フローに基づく課税ベースの詳細に関しては,古田 ( 1 9 9 1 ) を参照されたい。

2 )ミード報告の普遍的支出税およびアメリカ財務省の消費所得税においては,税制は基 本的に個人税から構成される。法人税の存在は前提とされない。

3  )原産地原則に基づく付加価値税は,国際租税調整上から難点を有する。仕向地原則へ の変換に関しては, B r a d f o r d ( 1 9 8 6 , 1 9 8 7 ) ,   McLure(1987 )を参照されたい。また,全般的 な問題については M i n t z ( 1 9 9 6 )を参照されたい。

4 )この税率は 1 9 9 3 年の連邦税制からの収入に見合うように設定されている。

5 )もう少し厳密にいえば,自動車や住宅の賃貸による資金流入は企業ないし個人の課税 ベースに含まれることになり この分が通常の付加価値よりも大きくなる。

6)  x 税の詳細はフラット税とは異なっている。詳細は B r a d f o r d ( 1 9 8 6 , 1 9 8 7 )を参照され たい。

7) ( 2 . 1 )の恒等式を書き換えると,

V‑W‑iB +ム B=D ーム S

を得る。左辺と右辺はそれどれミード報告の R+F ベース, S ベースである。なお, R

F ベースと S ベースは同値であり,また S ベースには大きな関心が持たれていないことから,

ここでは R+F ベースで代表させる。

8 )法人税の税率は 1 9 8 5 年の法人所得税収と同じ税収をあげるための税率である。

9 )法人課税を独立させた場合,法人段階で純利潤が課税され,個人への分配には個人税 が課税されるからである。

1 0 )彼らは税体系を含む細部の提案はしているわけではない。ただし,企業については消 費所得税を,個人については報酬控除税をそれぞれ適用することが想定されているので, こ こではこれら 2 税の税体系を援用する。

1 1 )   us  A 税については, G i n s b e r g ( 1 9 9 5 ) , M e r r i l l ‑ E d w a r d s ( 1 9 9 6 ) ,   Slemrod‑Bakija 

‑ 2 4 4  (  7 5 4)一

(13)

( 1 9 9 6 ) ,   Weidenbaum(1996),  Seidman0997 )を参照されたい。また移行過程おける問題 については, Bradford(  1 9 9 6 b )を参照されたい。

1 2 )個人税体系については, Nunn‑Domenici の U s  A 税そのものには準拠していない。彼 らの U s  A 税では,所得税が意識されており,個人税では「課税所得=粗所得一 U s  A を含

む諸控除」と定義されている。しかし, U s  A 税は明らかに R および R+F ベースのキャッ シユ・フロー税であり,課税ベースは純キャッシユ・フローで定義すべきである。したがっ て,ここでは,個人税の課税ベースをキャッシュ・フローを用いて解釈し直している。

1 3 )詳細については, Weidenbaum(1996), Seidman(1997 )を参照されたい。

付記

本研究は,文部省科学研究費補助金(「中立性の観点からの法人企業課税ベースの再検討 J ) から研究助成を受けた研究の一部分である。

参考文献

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参照

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