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第17章 今後の課題
地域産業に関する研究は、具体論を述べることが難しい分野である。
学際的である上に、理論を検証するには多大の時間がかかる。
本研究を通じて、群馬県太田地域内の意欲的な企業はほぼ90%以上訪問している。
群馬県内、首都圏北部地域内の先進企業、支援機関も網羅的に回った。
高校や大学の学生意識調査にもご協力頂いた。
東京の企業から群馬の大学に移り10年以上、膨大な時間をかけて地域を歩き回ったが、
その間、地域に育てられたという感がある。
本研究において示した様々な概念は、10年間、様々な課題解決のために考え続けた成 果である。ヒアリング調査の訪問を機に交流が始まった企業も多数に上る。
本研究は、そうした中で感じた事柄を整理するのに非常に有益な機会であった。
第二部で論じているように、地域産業、産業政策、イノベーションの関連分野は学際的 で幅広い。決定的な理論も出ていない分野が多い。
経済学的なアプローチを重視すると、非現実的な条件下における理論となり、現実の地 域の問題解決にはつながらない。Porter のように、ビジネススクール的なアプローチをと る場合は、逆に理論的な詳細さは不足する。また、我が国の産業活性化策の多くが、海外 の制度を学び、それを移転してきたものである。
それらを導入の際に、海外における有効性がどの程度検証されたのかは不明である。
都市計画、工業団地、中小企業政策、SBIR、SBIC、SBDCから、独占禁止政 策まであらゆるものが輸入品である。しかも本家のものと和魂洋才で多少違う。
税制や大学に関わる部分は、未だにアメリカにキャッチアップしていない。
我が国の政策には、一見、地域産業活性化策のようでありながら、実は公共工事政策で あるものもある。政策目標をレトリックで表現している場合も多い。明確な目標値を示さ ずに施行されるので事後的な検証が不十分となる。
我が国の行政機関では、政策立案者が、計画段階において後で責任問題につながるよう な目標設定をしない傾向がある。
曖昧さが含まれている定性的計画を統制することは困難である。
新しい政策をスタートさせることが政策立案者の手柄となるものの、その政策が効力を 発揮したかどうかには必ずしも関心が集まらない。
事後評価が必要なときには、そのスタッフは他の職場に人事異動している。
後任者は前任者の揚げ足取りはしない。国、中央官庁のこうした傾向は今のところ解消 されそうにない。この様なカルチャーの中で、アメリカ流の行政評価が導入されつつあり、
形式的な評価に振り向けられる労力が拡大しているのが我が国の実状である。
地方分権が充分に確立されていない我が国の地方自治体では、国の制度を活用した予算 のウェートが高い。都道府県には国の影響力が強く、市町村の場合は、政策立案をするだ けの人材的な基盤に欠けている場合が多い。
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本研究においては、意欲的な企業を支援するための地域産業活性化策を重視している。
今後の課題としては、行政学、政治学、地方自治、地方財政の領域に切り込みをさらに すべきであることが挙げられる。我が国では、志ある政策が打ち出されはしたものの、そ の政策の遂行体制に十分な資源が割り当てられない場合も多い。
ZBB(Zero-Base Budgeting)の風土がない我が国では、使命を負えた政策を止めること が難しい。ある政策の廃止は、利害関係者から批判を浴びる可能性があるからだ。
従来の政策を残したまま新政策を追加するので、新政策に有能な人材が割り当てられず、
予算規模も不充分な状況に陥りやすくなる。
地域指定が多数箇所に及ぶ政策も多いが、どの地域も投資が中途半端になる。
これらは、行政と政治のメカニズムに切り込まなければ解決策の提示が難しい。
また、グローバルな視点を持とうとしても、多数の海外地域に精通し、それら地域の変 化を常にフォローすることは難しい。
一時期流行した、「シリコンバレーはすごい」と言い、そこで思考停止してしまい、「だ から日本はだめだ」とする類の論調からは何も生まない。
本研究においても、シリコンバレーモデルは先端的なモデルとしてとらえている。
しかし、アメリカ国内では勿論のこと、世界の中で特異な地域と比較したなら、我が国 の多くの地方の工業集積地域とギャップがあるのは当たり前のことだ。
「シリコンバレーと違うからだめだ」という考え方は「自分は何もせずに傍観する」とい う姿勢につながる。今、自分になにが出来るかという思考回路が地域研究には必要となる。
第五部において、地域イノベーション創出システムの構築策について論じたが、こうし たシステムが短期間とはいえ機能するということは、地域ディレクターの多大な努力がそ の背景にある。
筆者が、首都圏北部地域の産業クラスター組織立ち上げ及び地域のべーション創出シス テム構築に挑んだ際には、必要な要素の50%以下しか整備することが出来なかった。
0点より30点の方が良い、とする現実的な発想で少しずつ前進していかざるを得ない のである。また、基本的に地域産業活性化策には、企業家のイノベーションという不確か なものを支援するという点に難しさがある。本研究において培った理論を、さらに実践の 場で立証することを本研究の今後の課題としたい。