• 検索結果がありません。

膝前十字靭帯損傷予防への科学的基礎

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "膝前十字靭帯損傷予防への科学的基礎"

Copied!
201
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

 

 

博士(スポーツ科学)学位論文 

 

膝前十字靭帯損傷予防への科学的基礎   

The Scientific Basis for Prevention of Anterior Cruciate Ligament Injury

   

2009年1月

 

   

早稲田大学大学院  スポーツ科学研究科 

永野  康治 

Nagano, Yasuharu

 

研究指導教員:  福林  徹  教授 

   

   

(2)

1章 序論 1

第1節 序 2

第2節 先行研究小史 3

第3節 本論文の目的,構成 27

2章 本邦における膝前十字靱帯損傷発生状況について 29

第1節 日本女子バスケットボールリーグにおける外傷調査 30

第1項 緒言 30

第2項 方法 31

第3項 結果 32

第4項 考察 35

3章 膝前十字靱帯損傷リスクファクターの検討 37

第1節 片脚着地動作における膝関節運動の性差の検討 38

第1項 緒言 38

第2項 方法 40

第3項 結果 44

第4項 考察 48

第2節 着地・切り返し動作におけるACL損傷リスクの検討 52

第1項 緒言 52

第2項 方法 54

第3項 結果 58

第4項 考察 61

第3節 ターン動作における体幹位置と膝関節運動の関連および性差の検討 65

第1項 緒言 65

第2項 方法 67

第3項 結果 71

第4項 考察 78

(3)

4章 二次元画像を用いた膝動作解析法の検討 82

第1節 二次元着地動作解析の有用性検討 83

第1項 緒言 83

第2項 方法 85

第3項 結果 90

第4項 考察 93

第2節 バランス能力および身体特性が着地肢位に与える影響 96

第1項 緒言 96

第2項 方法 98

第3項 結果 107

第4項 考察 110

5章 膝前十字靱帯損傷予防プログラム効果の検討 113

第1節 諸外国におけるACL損傷予防プログラムの系統的レビュー 114

第1項 緒言 114

第2項 方法 115

第3項 結果 116

第4項 考察 124

第2節 ジャンプ・バランストレーニングが片脚着地動作に及ぼす影響 130

第1項 緒言 130

第2項 方法 132

第3項 結果 135

第4項 考察 139

6章 総括論議 143

7章 結論 148

付録1 日本女子バスケットボールリーグ外傷調査用紙 151

付録2 Point Cluster Techniqueアルゴリズム 153

引用文献 154

業績リスト 175

謝辞 177

(4)

第 1 章

序論

(5)

第1節 序

21世紀に入り医学は治療の時代から予防の時代へ大きく転換しつつある.スポーツ医学も同 様であり,スポーツ外傷・傷害も治療することから,いかにして予防するかと言う発想の転換 がなされてきている.その中でも近年スポーツ外傷の代表的疾患としてあげられる膝前十字靱

帯(以下ACL)損傷については,欧米の諸外国を中心に予防の取り組みがなされつつある.日本

においても,数多くのスポーツ選手が ACL 損傷を受傷しそのスポーツ活動の中断を余儀なく されている.また,再建術を行った後も復帰までに1年近くのリハビリテーションを要する疾 患であり,スポーツ外傷の中でも,最も注目され,また解決を急がれる外傷である.

ここ20年間にわたるスポーツ整形外科医,リハビリテーション医の努力によりACL損傷に 対する治療医学はめざましい進歩を遂げた.20年前はACL損傷の正確な診断とそれに対する 適切な再建術は皆無と言って良いほどであったが,現在ではトップレベルのアスリートでも適 切な手術とリハビリテーションを行えば1年以内に受傷前と同じレベルでの競技復帰が可能 になった.しかし,ACL 損傷発生の予防という立場から見ると,20 世紀には全くと言ってよ いほどこの分野での進歩が見られなかった.最近になりスポーツ医学にも予防医学的概念が導 入されるようになっており,ACL損傷の受傷メカニズムの分析と,それに対する介入がノルウ ェー,米国のグループを中心になされるようになった.こうした世界的なスポーツ外傷予防の 流れを受け,2005年には第1回スポーツ外傷予防会議がオスロで行われ,2008年には第2回 会議がトロムソで行われた.これらの会議において,ACL損傷とはじめとした,スポーツ外傷 の予防法について論議が進められてきている.

予防を目的とした研究を行う際の基本的概念として,van Mechelenら[1]の提唱した4つの段 階が主に用いられる.4 つの段階とは,まずその外傷の発生頻度や重症度を調査し問題の認識 を行うこと,次に外傷発生のメカニズムやリスクファクターの解明を行うこと,その上でリス クファクターに対して介入を行い効果を検証すること,そして再び疫学調査を行い,介入効果 を検証するというものである.本論文においてもこの四段階に則って研究を行い,ACL損傷予 防における科学的基礎を確立し,ACL損傷予防の上で有益な情報を示したい.

(6)

第2節 先行研究小史 第1項 ACL損傷の疫学

ACL損傷は膝靭帯において,最も損傷率の高い靭帯損傷であり,米国の一般集団において約

3000人に1人がACL損傷を受傷し,年間に8万人から10万人が受傷すると概算されている[2].

また,受傷の大半が15歳から45歳の年代であり,この年代に限ると,約1750人に1人が受 傷するとされている[3].

ACL損傷の性差をみると,報告や種目により差はあるものの,男性に比べて女性の受傷率が おおよそ2倍から8倍高いと報告されている[2-10].特にバスケットボール[4, 6, 8-10],サッカ ー[4, 6, 9],ハンドボール[7]において女性の受傷率が高い傾向であった.こうしたACL損傷の 性差に関して,解剖学的な構造の差異,関節弛緩性,ホルモンの影響,神経筋機能,ジャンプ や着地の特徴など様々な面からの検討がなされており,これらの因子が複合的に作用している と考えられている[11].

ACL損傷の受傷機転をみると,その70%はスポーツ活動中に発症している[2, 3].また,ス

ポーツ活動中の受傷の約70%が非接触型の損傷であること[3, 4, 12]も,ACL損傷の特徴として あげられる.特に,急激な減速,切り返し,着地において非接触型損傷が好発すると考えられ ている[3, 12, 13].ACL損傷受傷機転については第2節においてより詳細にレビューを行う.

こうした疫学的な調査は米国や欧州における報告が主である.本邦においても同様に ACL 損傷が発症していると考えられるが,本邦の ACL 損傷について大規模に調査した報告はみら れない.

(7)

第2項 ACL損傷の受傷メカニズム・リスクファクター

ACL 損傷の受傷メカニズムには不明な点が多いといえる.その理由として,ACL 損傷がス

ポーツ活動中の一瞬において起こること,また,解剖学的にも ACL の構造が複雑であること があげられる.ACLの解剖学的な特徴や歪みについては第3項にて後述する.ACL損傷メカ ニズムを解明するため,ACL損傷時のビデオ解析や,受傷時の状況を質問紙にて調査する方法 がとられている.さらにはACL損傷後の関節内病変や合併症からACL受傷メカニズムを推定 する研究もなされている.ACL損傷を惹起する動作や肢位を避けることが予防の最大の目的と も考えられ,ACL 損傷メカニズムを明らかにすることは,ACL 損傷の予防においても大きな 意味を持つといえる.

一方で,ACL損傷を引き起こすリスクファクターを明らかにすることも予防の上で重要な意 味を持つといえる.リスクファクターには内的要因,外的要因があり,ACL損傷においてもそ の両要因が考えられるが,ここでは近年注目されている内的要因の解剖学的因子,神経筋機能 因子,バイオメカニクス的因子についての先行研究をまとめたい.とくにバイオメカニクス的 因子については,リスクファクターが ACL 損傷受傷肢位に直結するため,受傷メカニズムを 考察する上でも重要であるといえる.

ビデオ・質問紙調査

ACL損傷の受傷機転について質問紙を用いて調査したものは4研究[7, 12, 14, 15]が報告され

ている.McNairら[14]は受傷状況および受傷肢位について質問し調査し,非接触型の損傷にお いて,接地時もしくは接地直後に,膝 20 度以下の軽度屈曲位であり,過大な脛骨内旋運動が 起きていたと報告している.Boden ら[12]も受傷状況,受傷肢位について調査し,接地時に膝 が完全伸展位に近い肢位での受傷であったと報告している.また,損傷の約70%は非接触型で あり,方向転換に伴う急激な減速動作や着地動作において受傷していたとしている.Myklebust ら[7]はハンドボールにおける受傷機転を調査し,ほぼ全例において非接触型であり,着地から の切り返し動作で受傷していたと報告している.Olsenら[15]もハンドボールにおける受傷機転

(8)

を調査し,32件中20件が非接触型であったと報告している.これらの質問紙調査の結果によ ると,ACL損傷は非接触型の割合が大きいことがわかる.受傷肢位についてはこれらの調査に よっても報告されているが,短時間の受傷時における肢位を本人が正確に記憶しているかにつ いては疑問も残り,ビデオにおける受傷肢位と合わせて検討する必要があると考えられる.

ACL 損傷時のビデオから損傷肢位を観察し,損傷メカニズムを検討したものは 4 研究[12,

15-17]が報告されている.Teitzら[16]はバスケットボールにおける受傷ビデオ14例から,受傷

は着地やストップ動作時に好発し,その際の肢位としては後方重心で,膝 30 度以下の軽度屈 曲・外転位,膝に対して足部が外方を向いていたと報告している.Bodenら[12]は23例の受傷 ビデオから,受傷は方向転換や片脚着地時に,後方重心となり膝が完全伸展位に近く,外転位 を呈した際に好発していたと報告している.Olsen ら[15]はハンドボールにおける受傷ビデオ 20例から受傷機転を検討し2つの好発動作を報告している.1つは着地からの切り返し動作で,

膝が完全伸展位に近く,膝外転位,加えて脛骨内旋もしくは外旋位であった.もう1つはジャ ンプシュートの片脚着地動作で,膝完全伸展位に近く,膝外転位,脛骨外旋位であった.

Krosshaugら[17]はバスケットボールにおける受傷ビデオの検討を行っている.非接触型損傷で

あった28例中において,接地後17msから50msに受傷していた.受傷機転動作は着地動作が 最も多く,男性においては片脚着地,女性においては両脚着地が多い傾向であった.また,女 性の受傷時において膝外転が大きい結果であった.

これらの受傷ビデオを用いた報告によると,受傷機転としては,着地や切り返し動作時が多 いといえる.ただし,競技により好発する動作の傾向が異なることも考えられるが,この点に ついては明らかになってはいない.また,受傷肢位については,体幹後傾位における,膝完全 伸展に近い軽度屈曲位,膝外反は共通してみられる.脛骨回旋については内旋と外旋の2つが 考えられるが,ビデオ画像からの膝関節肢位の推定は誤差が大きいという報告もあり[18],ビ デオ解析における限界として詳細な膝関節肢位の特定は困難であると考えられる.一方,

Krosshaugら[19]は複数方向から撮影した受傷場面のビデオ画像に骨格モデルを当てはめ,関節

角度を推定している.この方法を用いて解析された受傷場面が少ないため,受傷肢位について

(9)

論ずる段階ではないが,こうした技術の応用により,より詳細な受傷場面の解析が望まれる.

関節内病変・合併症

ACL損傷後の関節内病変を用いた受傷メカニズムの検討には,MRI 画像による骨挫傷(bone

bruise)の検討が行われている.ACL損傷後のMRI画像には高頻度に骨挫傷が認められることが

報告されている[20-24].Minkら[20]はT2強調画像上において,ACL損傷膝の72%に大腿骨外 側顆もしくは脛骨高原外側に骨挫傷がみられたと報告している.Rosenら[21]も同じくACL損

傷膝の85%に骨挫傷がみられ,その内,83%は外側構成体にみられたと報告している.Grafら

[22]は骨挫傷の位置をより詳細に検討し,大腿骨外側顆の中央と脛骨高原外側の後方1/3に骨挫

傷がみられる場合が多く,ACL損傷時に膝伸展位にて膝外転,脛骨が前方亜脱臼したと推定し ている.Kaplanら[23]は215例の膝急性外傷後のMRI画像を評価し,脛骨内側高原にもACL 損傷に合併して骨挫傷が認められたことを報告し,受傷時に膝外転,脛骨内旋・前方亜脱臼し 外側構成体が圧迫され脛骨高原外側後方に骨挫傷が起きた後に,その反動で膝内転することに より脛骨高原内側にも骨挫傷が発生すると推定した.Viskontasら[24]もACL損傷後のMRI画 像を評価し,骨挫傷が外側構成体に多く発生し,受傷機転として,膝外転,脛骨内旋・前方偏 位と推定している.

ACL損傷に伴う合併症としては,半月板損傷があげられる.Cipollaら[25]はACL損傷膝1103

例を調査し,ACL損傷に伴う半月板損傷について調査した.その結果,急性のACL損傷では 外側半月板の損傷が多かったと報告している.また,Bellabarbaら[26]はACL損傷後の半月板 損傷についての20研究をレビューし,急性ACL損傷では外側半月板の割合が多く,その原因 として,外側半月板の可動性の大きさと大腿骨外側顆と脛骨高原外側からの圧迫力と剪断力を 挙げている.さらに,Nishimoriら[27]は,ACL損傷時に外側半月板後角の損傷,および大腿骨 外側顆,脛骨高原外側の軟骨損傷を伴っていたことを報告している.

これらの関節内病変,合併症からの検討によると,ACL損傷時に膝外転,脛骨前方偏位が起 きていると推定される.また,受傷時の脛骨の回旋方向に関しては,骨挫傷の位置から,脛骨

(10)

内旋が起きていると推定される.

ACLへの歪み・張力

ACL 損傷のメカニズムを考察する上で,ACL が膝関節のいかなる運動を制動し,膝関節運

動がどのようにACLの歪み(strain)や張力(force)を生むのかを理解することが重要となる.屍体 膝を用いてACLの歪みや張力を検討した研究は1980年代からみられている.Armsら[28]は膝 関節屈曲角度ごとに膝外転・内転,脛骨外旋・内旋させた際の ACL の歪みを報告した.その 結果,屈曲角度によりACLの歪みに有意な変化がみられ,屈曲30度から40度にかけては膝 の内外転に伴い歪みが大きくなり,また,屈曲10度から15度にかけては脛骨の内旋に伴い歪 みが大きい結果であった.Bernsら[29]は膝関節運動を複合的に行った際のACL歪みを計測し,

膝外転,脛骨内旋・前方偏位時に歪みが大きかったことを報告している.Markolfら[30]は同様 の検討を,ACL張力を計測し,報告している.その結果,屈曲10度以下では,脛骨前方偏位 に加えて脛骨内旋が加わった際にACL張力が増加し,屈曲10度から30度では脛骨内旋に膝 外転が加わった際に脛骨内旋のみに比べ,ACL 張力が大きいものであった.Kanamori ら[31]

は,膝にpivot shiftテストを模擬した運動(膝外転,脛骨内旋・前方偏位)を行った際のACL張

力を計測し,ACLがこの運動に対して制動効果を持つことを示した.また,外転トルクに内旋 トルクが付加されることにより,膝30度以下ではACL張力が増加したことを示している[32].

これらの研究から,膝軽度屈曲位における膝外転,脛骨内旋は ACL への負荷を増加させると いえる.

また,膝関節に関与する筋の筋活動による ACL の歪みや張力を検討した研究もみられてい

る.Renstromら[33]はin-vitroにおいて,大腿四頭筋単独収縮,ハムストリングス単独収縮,大

腿四頭筋・ハムストリングス同時収縮時の ACL 歪みを膝関節屈曲角度ごとに計測し,報告し ている.その結果,ハムストリングス収縮はどの屈曲角度においても ACL 歪みを減少させた のに対し,大腿四頭筋収縮は屈曲45度以下で大きくACL歪みを増加させた.Durselenら[34]

も,大腿四頭筋収縮によるACL歪みを計測し,屈曲20度から60度において,ACL歪みを増

(11)

加させたと報告している.Liら[35]は,筋活動による影響をACL張力と膝運動の両面から検討 し,屈曲0度から30度における大腿四頭筋の筋収縮は脛骨内旋運動を引き起こし,ACL張力 を増加させ,一方,ハムストリングス収縮は脛骨内旋運動を減少させ,ACL張力をも減少させ る結果であった.これらの結果より,膝軽度屈曲位における大腿四頭筋は ACL 歪みや張力を 増加させるように作用し,逆に拮抗するハムストリングスは ACL 歪みや張力を減少させるよ うに作用するといえる.

屍体膝を用いた研究は,膝関節運動を制御しやすく様々な条件下で ACL への歪みや張力を 計測することができるが,その一方で,非荷重条件での実験設定が多く,実際の受傷場面にお ける ACL 負荷と異なる可能性が考えられる.そこで近年では,屍体膝を受傷場面に模して運 動させた際のACL負荷を計測した報告がみられる.Withrowら[36-38]は屍体膝を用いて片脚着 地時を想定して運動させた際の ACL 歪みを計測している.その結果,大腿四頭筋張力の増加 と膝屈曲角度の減少にACL歪みが相関しており[36],逆にハムストリングス張力の増加はACL 歪みを減少させていた[37].また,膝に外転方向に負荷が加わった場合,中間位に比べACL歪

みが 30%増加していた[38].Weinhold ら[39]は屍体膝にストップジャンプを模した負荷を加え

た際に,女性において男性より ACL 張力が大きかったと報告している.これらの研究は,基 礎的に行われてきた ACL の歪みや張力に関する研究と,実際の ACL 損傷好発動作における ACLの機能を考察する際に重要な意味を持つといえる.

以上の研究は屍体膝を用いたものであったが,生体内における ACL の歪みを直接計測する という侵襲性の高い報告もみられる.Henningら[40]は,様々な運動におけるACLの歪みを計 測し,膝 22 度以下の屈曲位における膝伸展運動による大腿四頭筋トレーニングが,ラックマ ンテストに比べてACLの歪みが大きかったことを報告している.Beynnonら[41]はACL再建 後リハビリテーションにおける,様々な動作におけるACLの歪みを計測し,膝屈曲15度から 30度における大腿四頭筋収縮はACLの歪みを増加させるが,60度から90度における大腿四 頭筋収縮やハムストリングス収縮は歪みを増加させなかったと報告している.また,同グルー

プのFlemingらもACL歪みを計測を行い,自転車動作[42],スクワット動作[42-44]の歪みを計

(12)

測し,リハビリテーション上の安全性を検討している.その結果,スクワットなどの Closed

Kinetic Chain動作もACL歪みを増加させるものの,膝屈曲15度における大腿四頭筋収縮が最

もACL歪みを増加させていた.一方で,実際のスポーツ動作に近い動作におけるACLの歪み を計測した報告もみられる.Cerulliら[45]は切り返し動作におけるACL歪みを計測している.

この報告では,動作中の運動は計測されていないものの,床反力が最大になる前後で ACL の 歪みも最大になったと報告している.また,近年ではMRI画像から三次元構築された膝関節モ デルを,動作中のレントゲン画像にマッチングさせることにより,ACLの長さ変化を計測する 方法がLiら[46]により考案されている.Liら[46]はランジ動作において,ACL前内側線維は屈 曲0度から90度まで一定の長さであったのに対し,後外側線維は膝屈曲60度以上で短くなっ たことを報告している.これらの生体内における ACL への負荷を計測した研究では,詳細な 膝関節肢位で検討したものは少なく,受傷肢位との関連は一概に論ずることはできないが,膝 軽度屈曲位において大腿四頭筋の収縮が ACL の歪みを大きくさせることは屍体膝における報 告と共通であるといえる.

これらの ACL の歪み,張力を計測した研究によると,膝軽度屈曲位における膝外転,脛骨 内旋・前方偏位運動,またその運動を引き起こす大腿四頭筋の収縮が ACL への負荷となると 考えられる.

解剖学的因子

ACL損傷に対するリスクファクターとの一つとして解剖学的因子があげられている.これは

男性に比較し女性においてACL損傷が好発することから,解剖学的な性差がACL損傷とも関 連があると考えられること,および,ACLに負荷が与えられやすい解剖学的構造があると考え られているからである.ここでは,Qアングル,足部回内,大腿骨前捻角,脛骨の後下方傾斜,

顆間窩幅,関節弛緩性についての報告をレビューしたい.

Qアングルは膝関節アライメントを示す値としてよく用いられる指標である.これは上前腸

骨棘と膝蓋骨中心を結ぶ線,および膝蓋骨中心から脛骨粗面中心を結ぶ線からなる前額面上の

(13)

角度[47]として計測される.Q アングルの性差については多くの報告がみられ,男性に比較し 女性で大きいと報告されている[47-50].しかし,Qアングルの値と片脚スクワット時の膝外転 角度との間に相関がないこと[51]が報告されていることもあり,静的なQアングルが動的なア ライメントに及ぼす影響は今後検討される必要があるといえる.また,Q アングルと ACL損 傷の間に関連があるという報告はなく,ACL損傷に対する影響は不明であるといえる.

足部回内は脛骨内旋運動を引き起こすと考えられ,ACL損傷のリスクファクターとして検討 されている.その指標にはNavicular dropテスト[52]や踵骨角(calcaneal angle)が用いられている.

Navicular dropテストを用いた報告によると,ACL損傷群が非損傷群に比較しNavicular dropテ

ストの値が大きいものであった[53-55].一方,Smith ら[56]は,ACL 損傷側,非損傷側,対照 群を比較し,差はみられなかったと報告している.踵骨角を用いた報告によると,ACL損傷群 において踵骨角が大きいというもの[56]と差はみられないというもの[54]があり,ACL 損傷と の関連は明らかになっていない.また,Nguyenら[50]の報告によると,Navicular dropテスト,

踵骨角ともに性差はみられていなかった.よって,足部過回内と ACL 損傷との関連は示唆さ れるものの,今後,前向き研究においてこれらの検討を行う研究が期待される.

大腿骨前捻角の増加は見かけ上の股関節内旋角度の増加をもたらし,さらには膝関節の捻転 を増加させると考えられる.大腿骨前捻角に関しては性差の検討を中心に行われている.

Yoshiokaら[57]は屍体における大腿骨前捻角を計測し,性差はみられなかったと報告している.

一方,Braten ら[58]は超音波を用いて大腿骨前捻角を計測し,女性において大きかったと報告 している.また,Nguyenら[50]は臨床的に用いられるCraigテストを用いて性差を検討し,女 性において前捻角が大きかったと報告している.以上より,大腿骨前捻角の性差に関してコン センサスは得られていないといえる.

脛骨後下方傾斜は,後下方傾斜が大きくなることにより脛骨の前方偏位が惹起されると考え られ,ACL損傷との関連が検討されている.Dejourら[59]は脛骨後下方傾斜と脛骨前方偏位量 の関係を検討し,脛骨後下方傾斜と脛骨前方偏位量の間に相関が認められたと報告している.

Meister ら[60]の報告によると,ACL損傷群と対照群の脛骨後下方傾斜に差はみられなかった.

(14)

一方,Brandon ら[61]の報告によると,ACL 損傷群において脛骨後下方傾斜が大きかった.ま た,Stijakら[62]はACL損傷群における脛骨後下方傾斜を脛骨内側と外側において個別に比較 を行い,ACL損傷群では脛骨外側の脛骨後下方傾斜が大きかったと報告している.よって,脛 骨後下方傾斜と ACL 損傷との関連についてコンセンサスは得られていないが,スポーツ動作 中の膝運動との関連なども含め,今後の研究が望まれる.

顆間窩幅は,顆間窩幅が小さくなることにより ACL への負荷が増加すると考えられ,1980 年代後半から近年まで多くの調査が行われている.その指標としては,顆間窩幅と大腿骨遠位 幅の比率から算出したNotch width index [11]が用いられることが多い.これまでの報告による と,Notch width indexに性差がみられ,女性において小さいという報告[63-67]と,みられない という報告[68-70]がなされている.また,ACL損傷群においてNotch width indexが小さいとい う報告[68, 71, 72]と,損傷群と対照群においてみられないという報告[73, 74]がなされている.

よって,ACL損傷との関連は議論の分かれる点ではあるが,前向き研究においてACL損傷と の関連が示唆されている[71, 72]ことから,ACL損傷のリスクファクターとしての可能性は高い といえる.

関節弛緩性については,関節弛緩性が高い場合,関節運動の制御に靭帯が大きく関わると考 えるため,ACL損傷との関連や性差が検討されている.その指標としては,全身弛緩性,膝過 伸展,脛骨前方偏位量が用いられることが多い.全身弛緩性[75],膝過伸展[50],脛骨前方偏位 量[76]いずれも男性に比較し女性で弛緩性が大きい結果が示されている.Rameshら[77]はACL 損傷群と対照群を比較し,ACL損傷群に全身弛緩性,過伸展膝の割合が高かったと報告してい る.また,Uhorchakら[71]は関節弛緩性とACL損傷の関連を前向きに調査し,ACL損傷群で は全身弛緩性が高く,脛骨前方偏位量が大きかったことを示している.Myerら[78]は女子サッ カー選手の関節弛緩性と ACL 損傷の関連を前向きに調査し,膝過伸展と脛骨前方偏位量の左 右差が ACL 損傷と関連していたことを示している.また,全身弛緩性,脛骨前方偏位量は膝 の内外転,内外旋の弛緩性とも相関していると報告されている[79].以上のことから,関節弛 緩性はACL損傷のリスクファクターの一つとしてあげられる.

(15)

これらの解剖学的因子をまとめると,Qアングル,足部回内,大腿骨前捻角については性差 がみられるなど要因となりうる可能性はあるが,現段階では,ACL損傷との直接的な関連は小 さいといえる.脛骨後下方傾斜についてはコンセンサスが得られていない.一方,顆間窩幅,

関節弛緩性については前向き研究からACL損傷との関連が示されていると考えられる.

神経筋機能因子

非接触型の ACL 損傷が,膝関節のコントロールを失った状態にて好発することから,膝関 節をコントロールする神経筋機能が,ACL損傷のリスクファクターとしてあげられている.こ こでは,神経筋反応,筋活動による運動制御,動作時における筋活動の面から神経筋機能と ACL損傷との関連をレビューしたい.

神経筋反応について,その性差を検討したHustonら[80]の報告によると,脛骨の前方引き出 し動揺に対する大腿四頭筋およびハムストリングスの活動開始時間に性差はみられなかった.

しかし,女性では大腿四頭筋に依存した筋反応が起こる傾向があり,この筋活動パターンが ACL損傷と関係していると考察している.Chuら[81]は持続的な脛骨の前方偏位力をかけた際 の,筋活動変化を報告している.その結果,男性に比較し女性において大きく大腿四頭筋筋活 動が増加していた.こうした報告にみられる筋活動の性差は,後述する動作中の筋活動の性差 とともにACL損傷のリスクファクターとしてあげられる.

また,筋反応時間とACL損傷との関連をみると,Dyhre-Poulsenら[82]の報告によると,ACL への電気刺激後,約90ms遅れて半腱様筋の反応が起きたと報告している.しかし,ACL損傷 はスポーツ動作中,接地後100ms以内に発生すると考えられており[17, 45],筋放電が起きた後,

筋収縮が起こるまでにはさらに40msの電気的遅延[82]が必要であり,外乱に対する神経筋の反 応はACL保護には有効に働かない可能性が高い.

筋活動による運動制御について,ここでは大腿四頭筋とハムストリングスの同時収縮による 関節安定化作用について述べたい.こうした研究は1970年代からみられ,Markolfら[83]は,

大腿四頭筋とハムストリングスの同時収縮が内・外転負荷に対する関節剛性(stiffness)を2から

(16)

4倍増加させたと報告している.Lloydら[84]は,脛骨の各方向からの負荷に対する筋活動を計 測し,内転,外転負荷に対しては大腿四頭筋とハムストリングスの筋活動が増加することによ り負荷に抗していたと報告している.また,Wojtysらは脛骨の前後偏位[85]や回旋[86]に対する 同時収縮の影響を検討し,同時収縮が前後偏位,回旋ともに減少させたと示している.ただし,

この同時収縮による関節運動の制動力は男性に比べ女性で小さかったことも示されている[85, 86].よって,大腿四頭筋とハムストリングスの同時収縮は,膝関節運動の各方向に対して関節 を安定化させる効果があり,また,その性差が ACL 損傷のリスクファクターとなり得るとい える.

動作時における筋活動は,これまでに述べた神経筋機能や,ACLの歪みや張力に対する大腿 四頭筋やハムストリングスの機能を背景に,ACL 損傷動作に近い動作時の筋活動を計測し,

ACL損傷との関連を検討している.Colbyら[87]はサイドカッティング,クロスカッティング,

ストップ,着地動作時の筋活動を計測し,これらの動作時に大腿四頭筋の活動が高く,ハムス トリングスの活動が低いことから ACL 損傷との関連を示唆した.その後,スポーツ活動動作 時の筋活動に関する研究は数多く行われ,その多くは筋活動の性差を検討し,女性に ACL 損 傷の多い要因を考察している.

片脚着地時の筋活動については,Fagenbaumら[88]が性差はみられなかったと報告している.

また,Cowlingら[89]は,接地前のハムストリングス活動開始タイミングが女性で早かったと報

告している.片脚着地時の筋活動について,明らかな性差は報告されておらず,筋活動のタイ ミングなどを含め,今後も検討が必要であると考えられる.

ストップジャンプ時の筋活動については,Sellら[90]が女性において半膜様筋の活動が大きか ったと報告している.また,Chappell ら[91]は接地前における筋活動を計測し,女性において 大腿四頭筋の活動が大きく,ハムストリングスの活動が小さかったと報告している.この接地 前の筋活動については,前述した筋反応時間と ACL 損傷との関係を考慮すると,重要な意味 を持つと考えられる.一方,Sellら[92]は外側広筋活動の増加が脛骨前方剪断力の増加と回帰し ていたことも示している.これらの報告から,ストップジャンプ時の筋活動は,その接地前活

(17)

動にACL損傷のリスクファクターとなり得る性差が存在すると考えられる.

カッティング動作時の筋活動については,Sigwardら[93]が女性においてサイドカッティング 時の大腿四頭筋活動が大きかったと報告している.また,Landry らはサイドカッティング[94]

やクロスカッティング[95]時の筋活動の性差を検討し,女性ではサイドカッティング時に大腿 直筋,外側腓腹筋の活動が大きく,ハムストリングスの活動が小さかったこと,クロスカッテ ィング時に大腿直筋,内側腓腹筋の活動が大きかったことを報告している.これらの報告から,

カッティング時の筋活動は,女性において大腿四頭筋の筋活動が大きいと考えられ,ACL損傷 のリスクファクターとしても捉えられる.

性差以外の要因について筋活動を検討している報告もみられる.Kellisら[96]は筋を疲労させ た際に片脚着地時の筋活動変化を検討し,大腿四頭筋を疲労させた場合,着地時の大腿二頭筋 活動が減少したと報告している.一方,Fagenbaum ら[88]が疲労の影響を検討した報告による と,着地時筋活動に変化はみられていなかった.また,Sigwardら[97]は運動経験の有無がカッ ティング動作時の筋活動に与える影響を報告している.その結果,運動未経験群では経験群に 比較し大腿四頭筋とハムストリングスの同時収縮が大きくみられ,不慣れな動作における外傷 発生リスクを減少させていると考察された.こうした疲労や運動経験が筋活動に及ぼす影響は 明らかではないものの,ACL損傷のリスクファクターとして今後検討する必要があると考えら れる.

以上より,神経筋因子において ACL 損傷リスクファクターと考えられるのは,大腿四頭筋 活動の増加であると考えられる.特にカッティング動作時にその性差がみられる.また,スト ップ動作時の接地前大腿四頭筋活動の増加など,ACL損傷との関連を検討する上で重要と考え られる要因があげられる.

バイオメカニクス的因子

ACL損傷受傷機転として,前述したように,着地,急激な減速,切り返し時における非接触

型損傷多く[3, 12, 13],その際の受傷肢位は膝完全伸展に近い軽度屈曲位,膝外反が特徴として

(18)

あげられる[12, 15-17].また,膝軽度屈曲位における膝外転はACLに対する歪み,張力の点か らもACLへの負荷が大きいといえる.こうした背景を基に,ACL損傷好発動作である着地,

ストップ,カッティングなどの動作解析を行い,その性差や疲労などによる動作の変化から,

バイオメカニクス的なリスクファクターの検討が行われている.ここでは着地,ストップ,カ ッティング動作の性差を中心としたリスクファクターの検討,さらには疲労,年齢,上肢・体 幹などの他の因子からの検討,最後に前額面からの二次元動作解析を用いた検討についてレビ ューしたい.なお,膝関節運動についてはGroodら[98]の定義,股関節運動についてはWuら [99]の定義に従って運動を記述した.関節モーメントについては,床反力による関節まわりの モーメントとして記述した.

着地動作:両脚着地

着地動作の検討として行われている試技の一つに両脚着地があげられる.多くの場合,台上 からの落下着地や着地後垂直にジャンプするドロップジャンプ試技が用いられている.

両脚着地時の膝屈曲角度については,女性において屈曲角度が小さい[100-102],屈曲角度が 大きい[103],性差はみられない[104-106],と報告により結果が一致していない.膝外転角度に ついては,女性において大きいと報告されている[103-105].膝の回旋については報告が少なく,

McLean ら[105]が報告しているのみである.彼らは女性において膝内旋が大きかったと報告し

ている.股関節運動については,Salciら[102]は股関節屈曲が女性に大きかったと報告している が,Fordら[104],McLeanら[105]は性差がみられなかったと報告している.股関節内転[103, 105],

内旋[105]については,性差はみられなかったと報告されている.足部回内については,女性に おいて回内が大きかったと報告されている[103, 105].着地時の床反力については,女性におい て大きかったと報告されている[102, 103].モーメントに関しては,女性において着地中の膝外 転,内転および内旋モーメントが大きかった[105]と報告されている一方,外転モーメントが小 さかった[103]といった報告もされている.また,Hewettら[107]は性差ではなく,女子選手にお けるACL損傷と両脚着地時の下肢運動との関連を前向きに検討した.その結果,ACL損傷群

(19)

は膝外転角度・膝外転モーメントが大きく,最大屈曲角度が小さい,床反力は大きいという結 果であった.

以上より,両脚着地における最大のリスクファクターは膝外転角度および外転モーメントの 増加といえる.これは各報告間においても結果が一致し,前向き研究によっても明らかになっ ていることである.また,膝屈曲角度については前向き研究からリスクファクターとしてあげ られるが,各報告で結果が異なることから単独で ACL 損傷につながる要因ではないと考えら れる.床反力や足部回内については,女性で大きいという結果が得られている.股関節運動や 膝関節回旋については報告自体も少なく,結果も報告間で一致しないため,今後も検討する必 要があるといえる.

着地動作:片脚着地

着地動作の検討として行われているもう一つの試技は片脚着地である.片脚着地時の膝屈曲 角度については,女性において屈曲角度が小さい[108, 109],屈曲角度が大きい[88],性差はみ られない[89, 106, 110],と報告により結果が一致してない.膝外転角度については,女性にお いて大きいと報告されている[106, 110].膝の回旋については報告が少なく,Lephartら[108]が 報告しているのみで,下腿の内旋が女性で小さかったと報告している.股関節運動については,

屈曲角度には差はみられなかったと報告されている[89, 110, 111].股関節内転については,性 差がみられなかった報告[106, 110],女性において大きかった報告[111]があり,結果が一致して いない.なお Hewett らの報告[111]では,股関節内転角度に加え,内転モーメントも女性に大 きかったという結果を報告している.股関節回旋については報告が少なく,Lephart[108]が報告 しているのみで,女性において股関節内旋が大きかったと報告している.着地時の床反力につ いては,女性において大きかったと報告されている[106, 109].また,Pappasら[106]は片脚着地 について両脚着地と比較し,ACL損傷に対する危険因子を検討した.彼らの報告によると,片 脚着地は両脚着地に比較して膝屈曲角度が小さく,膝外転角度が大きい,床反力が大きいとい う結果であった.股関節内外転は接地より膝屈曲 40 度までは両脚着地に比較して外転してい

(20)

るものの,その後急激に内転し,膝最大屈曲時の股関節内転角度には差はみられなかった.一 方,Jacobs ら[112]は,股関節外転筋力と片脚着地時の股関節,膝関節運動との相関を検討し,

女性において股関節外転筋力が膝外転角度,膝屈曲角度,股関節内転角度と相関していたと報 告している.

以上より,片脚着地におけるリスクファクターは,その性差や両脚着地との比較から膝外転 角度の増加があげられる.膝屈曲角度については報告により結果が異なり,単独で ACL 損傷 リスクファクターであるとは言い難いと考えられる.膝関節回旋や股関節回旋については報告 が少なく,今後の検討が必要である.股関節屈曲については性差がみられず,股関節内転に関 しては性差について報告にばらつきがあるものの,両脚着地との比較や,運動連鎖により膝外 転を増加させることが考えられるため,膝運動との関連を今後も検討する必要があるといえる.

ストップ動作

ストップ動作はACL損傷好発動作の一つであるが,スピードや動作の規定が難しいためか,

着地やカッティング動作に比較すると報告は少ない.これまでストップ動作で研究がなされて いる動作はストップジャンプ動作である.Chappellら[113]はストップジャンプ中の膝伸展,外 転モーメントが女性で大きく,ジャンプの方向が後方に向かうほど外転モーメントが大きくな る傾向であったと報告している.また,彼らはストップジャンプの接地前運動について,女性 は膝関節,股関節屈曲角度が小さく,股関節内転,外旋角度が小さい,膝内旋角度が大きかっ た[91]と報告している.これは接地直後の膝屈曲角度および股関節屈曲角度が女性において小 さいこと[114]と関係しているといえる.屍体膝を用いて,ストップジャンプ時の女性にみられ る肢位や筋活動をシミュレーションした場合,ACLの長さ変化が大きかったことも示されてい る[39].Sellら[90]はストップ動作からのジャンプ方向を上方,外方,内方に変化させた際やジ ャンプ方向の指示に反応させた際の変化を報告している.その結果,外方にストップジャンプ する際に膝屈曲角度が減少し,膝外転角度が増加,膝屈曲,外転モーメントがそれぞれ増加し ていた.また,指示に反応する場合,膝屈曲角度が減少し,膝屈曲,外転モーメントがそれぞ

(21)

れ増加し,この傾向が女性に大きかった.ストップジャンプ時の床反力については,男性に比 較し女性で大きかったことが報告されており,股関節,膝関節の屈曲速度が床反力と負の相関 を示していた[114].

以上より,ストップジャンプ中における ACL 損傷リスクファクターとしては,膝外転モー メントの増加,膝屈曲角度減少があげられる.これは性差がみられることに加え,ACL損傷肢 位に近い,後方や外方へのジャンプ時にもみられること,屍体膝を用いたシミュレーションに おいて ACL の長さ変化が大きかったことによる.股関節屈曲角度の減少についても,膝屈曲 角度の減少と同じくして起こることが多く,リスクファクターの一つと考えられる.膝関節,

股関節の回旋の影響については報告が少なく今後の検討が必要であるといえる.

カッティング動作

カッティング動作は ACL 損傷好発動作の一つであり,動作解析およびリスクファクターの 報告が数多くなされている.多くの場合,直線を走行した後に進行方向に対して支持脚の内方 に 45 度方向転換するサイドカッティング動作や,この切り返し時に方向を提示し反応させる 試技の解析が主に行われている.

カッティング時の膝屈曲角度については,女性において屈曲角度が小さい[115-117],もしく は性差はみられない[93-95, 118-120]と報告されており,性差がないという報告が多い傾向にあ る.また,McLean ら[121]は,骨格モデルを用いて切り返し動作をシミュレーションし,屈曲 角度や筋活動を変化させのみでは ACL 破断強度以上の張力がかからないことを示し,矢状面 上の変化のみでは ACL 損傷にはいたらないと考察している.膝外転角度については,女性に おいて大きい[115-118],もしくは性差はみられない[119, 120, 122]と報告されており,女性に多 いという報告が多い傾向にある.膝の回旋については報告が少なく,McLean ら[116]は,膝内 旋が女性に小さかったことを報告しているが,McLean らの後の報告[117]や,Pollard ら[120],

Sigwardら[93]は,性差はみられなかったと報告している.股関節運動については,屈曲角度は

性差がなかったという報告[93]に比べ,女性で小さかった[94, 95, 116, 117]と多く報告されてい

(22)

る.股関節内外転については,性差がみられなかったという報告[95, 117]と,女性において外 転角度が小さかったという報告[116, 120]があり,結果が一致していない.股関節回旋について も,性差がみられなかったという報告[117, 120]と,女性において外旋角度が大きかったという 報告[94, 116]があり,結果が一致していない.足部回内については,性差がみられなかったと いう報告[117]に比べ,女性において回内が大きかった[95, 118, 119]と多く報告されている.モ ーメントに関して,膝屈曲伸展モーメントは接地直後の屈曲モーメントについて,女性に小さ かった[122],性差なし[94, 120],クロスカットにおいては女性に大きかった[95]と報告されてお り,一定の結果が得られていない.膝外転内転モーメントは,性差はなかったという報告[120]

もあるが,接地直後の内転モーメントが女性で大きく[93, 94],立脚中期の外転モーメントが女 性で大きい[95, 123]と報告される傾向にある.股関節運動のモーメントについては報告が少な く,立脚中期の伸展モーメントが女性で小さかったという報告[94, 95]や,性差はみられなかっ たという報告[120]がなされているが,膝関節への影響は定かではない.

以上より,カッティング動作におけるリスクファクターに,膝外転モーメントの変化,およ び膝外転の増加があげられる.また,膝屈曲角度は単独ではリスクファクターとは言い難いと 考えられる.これは膝外転モーメントや外転運動の変化は複数の報告によって示されているこ とに加え,シミュレーションによって,矢状面のみの運動変化ではなく,それ以外の前額面上 の運動変化が関与している可能性が示唆されていることによる.足部回外の性差についても多 くの報告がなされている.着地やストップ動作に比較し,側方への方向転換を含むカッティン グ動作においては,足部運動と膝運動との関連が大きいと考えられ,今後の研究が期待される.

膝関節回旋や股関節運動については報告が少なく,今後の検討が必要である.

疲労

大半のスポーツにおいて,競技時間が長くなることにより選手の疲労は避けられないものと なる.Hawkinsら[124]は,ゲーム終盤に外傷発生率が増加したと報告しており,筋や神経系の 疲労による何らかの変化が外傷の危険性を増加させている可能性が考えられる.ACL損傷にお

(23)

いても,疲労による変化が ACL 損傷のリスクファクターになる可能性が考えられる.ここで は疲労が動作に与える影響を検討した報告をまとめたい.こうした報告ではジャンプやダッシ ュを繰り返す疲労運動前後における動作比較が行われている.解析対象としては片脚着地にお ける疲労の影響を検討した報告が多く,疲労後,膝屈曲角度の増加[96, 110, 125],膝外転モー メント減少[110],股関節屈曲角度の増加[110, 112, 125],股関節内転角度の増加[112]が報告され ている.こうした変化をみとめた報告に比較し,変化がみられなかったという報告[88]は少な かった.一方,ドロップジャンプにおいては,McLean ら[105]が,膝外転角度,膝外転モーメ ント,膝内旋角度,および膝内旋モーメントが増加したと報告している.Moranら[126]は,膝 関節運動に変化はみられなかったものの,脛骨加速度が増加したと報告している.ストップジ ャンプにおいては,Chappellら[127]が,膝屈曲角度が減少,膝外転モーメントが増加したと報 告している.

これらの報告より,片脚着地においては膝関節や股関節の屈曲角度が増加し,ACL損傷のリ スクファクターとなり得る変化はみられないが,ドロップジャンプやストップジャンプなどの 着地後,さらに連続して動作を起こす必要がある試技の場合には,膝外転モーメントの増加や,

膝屈曲角度の減少がみられ,疲労をACL損傷のリスクファクターとしてあげることができる.

さらにBorotikarら[128]は片脚着地後,指示された方向にカッティングを行うという試技におけ

る疲労の影響を検討し,膝外転角度が増加,膝回旋角度が増加,接地時の股関節屈曲・内旋角 度が減少,足部回外が増加したと報告している.彼らは指示反応時にこうした変化が著名にみ られたことから,末梢性の疲労に加え,中枢性の疲労が運動変化に関与している可能性をも示 唆している.

年齢

ACL損傷の発生はその大半が15歳から45歳の年代である[3]とされており,その年齢は思春

期における性成熟(Maturation)以降であるといえる.性成熟には性差がみられることから,性成 熟に伴う筋力変化や動作変化の性差,およびACL損傷との関連を検討した報告が散見される.

(24)

Hewettら[129]は思春期前後におけるドロップジャンプ運動,および大腿四頭筋,ハムストリン グス筋力の性差を検討している.思春期早期(12−14歳)までに性差はみられなかったが,思春 期後期(15歳前後)において,男子に比較して女子は着地時の膝外転角度が増加し,その左右差 が増加し,ハムストリングス筋力が小さかったと報告されている.Quatmanら[130]は同様のド ロップジャンプ試技において,男子は思春期前後で床反力が減少するものの,女子にこうした 変化はみられなかったと報告している.また,Yuら[131]は,ストップジャンプにおける年齢,

性差の影響を検討し,男子に比較し女子では 12 歳以降に膝屈曲角度が減少し,膝外転角度が 増加したと報告している.

これらの報告から,女子では思春期前後において動作が変化し,膝外転角度が増加する傾向 にあり,ACL損傷リスクが増加すると考えられる.動作の変化する要因としては,Hewettら[129]

が報告した低いハムストリングス筋力などが考えられるが,それのみで膝外転の増加につなが るとは考えづらく,成長に伴う他の筋力や神経筋コントロール変化など,今後も検討していく 必要があるといえる.

その他の要因

動作解析による ACL 損傷リスクファクターの検討は,膝関節運動の解析に加えて,その近 位,遠位関節である股関節や足関節・足部の運動を含めた解析が主流になりつつある.近年で はさらに体幹や上肢,足部の接地位置の膝関節運動に対する影響を検討した報告がみられる.

この背景は,ACL損傷が体幹後傾位や体幹バランスを失った際に好発すること,また,下肢関 節におけるモーメントを考える場合,体幹や上肢位置の変化に伴う重心位置の変化が影響を与 えると考えられることが挙げられる.Houckら[132]はカッティング動作における体幹位置と下 肢運動を反応の有無で比較し,報告している.指示された方向に反応してカッティングを行う 場合,体幹の側方傾斜角度が増加し,股関節外転角度が減少,膝外転モーメントが増加傾向で

あった.Dempseyら[133]はカッティング動作における体幹位置や膝,足部位置を意図的に変化

させた際の膝モーメント変化を報告している.その結果,体幹をカッティング方向と逆方向に

(25)

傾斜させた場合に膝外転モーメントが増加し,体幹をカッティング方向と逆方向に回旋させた 場合に膝内旋モーメントが増加していた.また,足部接地位置を外側にした際にも膝外転モー メント,内旋モーメントが増加していた.両脚着地動作においては,体幹前傾に伴い膝屈曲角 度が増加したという報告[134]や,内腹斜筋の活動が女性で少なかったという報告[135]がなされ ている.上肢と膝運動との関連についてはChaudhari ら[136]が,ラクロスクロスを保持した際 やフットボールを保持した際の影響を報告している.その結果,クロスを保持した際とボール をカッティング方向と逆手に保持した際に膝外転モーメントが増加したことを示している.

こうした他部位の影響についての報告はまだ少なく,一定の結論を得るには至っていないが,

膝運動に影響を与える可能性は高いといえる.逆に,ACL損傷が好発するカッティング動作時 における,膝関節への負荷の少ない体幹や上肢,足部位置が明らかになれば,予防の上で効果 的な動作指導を行うことが可能だと考えられる.

前額面二次元動作解析

これまで述べたように ACL 損傷リスクファクターとして動作時の膝外転があげられる.こ の膝外転の計測には主に三次元動作解析手法が用いられているが,より簡便性,汎用性の高い 前額面からの二次元画像を用いた解析が取り組まれてきている.McLean ら[137]は,カッティ ング,サイドジャンプ,シャトルランにおける三次元動作解析から算出される膝外転角度と,

二次元画像解析から算出される膝外転角度の回帰関係を検討している.その結果,カッティン グ,サイドジャンプにおいては有意な回帰関係(r2=0.58, r2=0.64)が認められたと報告している.

しかし,McLeanらはその後,二次元動作解析を用いた報告を行っていない.

Noyesら[138]はドロップジャンプ時の前額面画像において,股関節,膝関節,足関節の距離

を計測し,股関節距離に対する膝関節,足関節の距離比率を算出することで着地時の下肢アラ イメントを評価している.彼らはこの膝関節距離に性差がみられなかったことを報告している.

また,Barber-Westinらは9歳から10歳の男女で比較を行い,女子において膝関節距離が小さ かったこと[139]をする一方,9歳から17歳までの男女において横断的に比較を行い,年齢と性

(26)

別に交互作用がみられなかったこと,女子において足関節距離が小さい傾向を示した[140]と報 告している.このNoyesらの方法は,簡便に下肢アライメントを評価できるともいえるが,股 関節に対する膝関節,足関節の距離で表わされた数値が何を示すのか不明確であり,リスクフ ァクターととらえられている膝外転の増加とは一義的に結び付かないと考えられる.

以上より,バイオメカニクス的因子において考えられる ACL 損傷リスクファクターについ て,対象とする動作により明らかになっている要因は異なる部分はあるものの,共通していえ ることは,膝外転角度,モーメントの増加である.これは各動作における性差等の検討や疲労 や年齢に伴う変化から推察される.また,膝屈曲角度の減少については,報告により結果が異 なることもあり,単独でリスクファクターとは言い難いと考えられる.膝関節の回旋,股関節 や足関節,さらには上肢・体幹の影響については一定の見解は得られていないものの,近年報 告が増加しており何らかの影響があるとは考えられる.

(27)

第3項 ACL損傷の予防

ACL損傷は,その損傷後膝関節の不安定性を惹起し,スポーツ活動の継続を困難にすること

が多い.スポーツ活動への復帰には多くの場合ACLの再建手術が行われる.現在,ACL再建 術後のスポーツ活動復帰成績は良好であるといえるが,復帰には半年から1年間のリハビリテ ーションが必要であり,その時間的,経済的損失を考えると依然として大きな問題であるとい える.そのため,ACL 損傷の予防が近年注目されている.ACL 損傷予防への取り組みの先駆 けは1990年はじめに発表されたHenningプログラム[141]である.その後,数多くの予防プロ グラムが発表されてきている[142-152].これらの予防プログラムの構成要素,疫学的効果の検 討については第4章第1節にてACL損傷予防プログラムの系統的レビューを行い,後述する.

ここでは ACL 損傷予防を目的に構成されたプログラムの神経筋生理学的,バイオメカニクス 的効果についてまとめたい.

ACL損傷予防プログラムの身体要因に対する効果

疫学的な ACL 損傷予防プログラムの効果の検討とともに,予防プログラムによって身体要 因がどのように変化するかが検討されてきており,神経筋生理学的,バイオメカニクス的なリ スクファクターに対する効果や,バランス能力,筋力といったパフォーマンスに対する効果も 検討されている.こうした検討においては,疫学的効果が報告されている ACL 損傷予防プロ グラムや,それに準じた形のジャンプ,バランストレーニングプログラムを一定期間行い,そ の効果を検証している.

神経筋機能に対する効果として,Benckeら[153]はジャンプ,筋力トレーニングを行い,カッ ティング時の接地前後における筋活動について報告したが,筋活動に変化はみられていなかっ

た.Hewettら[154]はジャンプトレーニングを行い,着地時の大腿四頭筋に対するハムストリン

グス活動の割合が増加したと報告している.Chimera ら[155]はジャンプトレーニングを行い,

ドロップジャンプにおける接地前後における筋活動を検討し,接地前における股関節内転筋群 の活動が増加し,股関節内転筋外転筋による同時収縮が増加したと報告している.Lephart ら

(28)

[156]はジャンプ着地における筋活動を,通常の筋力トレーニングとジャンプトレーニングをお こなった場合で比較している.その結果,両群において中殿筋の接地前活動が増加していた.

Hurdら[157]はバランストレーニングを行い,歩行外乱時の筋活動の変化を検討し,立脚期にお けるハムストリングスの活動が増加したと報告している.Wojtysら[158]は等速性トレーニング,

等張性トレーニング,アジリティートレーニングを行い,脛骨前方引出刺激に対する筋反応の 変化を検討し,アジリティートレーニング群において,大腿四頭筋の脊髄反射速度が増加し,

内側腓腹筋,内側ハムストリングス,外側広筋の皮質反射速度が増加したと報告している.

神経筋機能に対する効果については,検証されているトレーニング種類が異なるため,一定 の結論は得られていないが,接地前筋活動の増加やハムストリングス活動の増加は ACL 損傷 予防に貢献すると考えられる.

バイオメカニクス的因子に対する効果としては,トレーニング前後において着地動作の比較 が行われている.Lephart ら[156]はジャンプトレーニングを行い,ジャンプ着地時の膝,股関 節屈曲角度が増加したと報告している.膝外転,股関節内転角度に変化はみられていなかった.

Pollardら[122]はジャンプ,アジリティートレーニングを中心としたプログラムを行い,ドロッ

プジャンプ時の変化を検討し,膝屈曲,膝外転角度に変化はみられなかったものの,股関節外 転角度が増加し,股関節内旋角度が減少したと報告している.Hewettら[154]はジャンプトレー ニングにより,ジャンプ着地時の床反力および膝内転,外転モーメントが減少したと報告して いる.Noyesら[138]は同様のジャンプトレーニングにより,前額面上の膝関節距離が減少した と報告している.Irmischer ら[159]はトレーニング後の着地時床反力の減少を報告している.

Myer ら[160]はドロップジャンプおよび側方着地時の変化をジャンプトレーニングとバランス トレーニングのそれぞれにおいて検討している.その結果,両群ともにドロップジャンプ時の 股関節内転角度が減少,側方着地時の膝外転角度が減少していた.また,ジャンプトレーニン グ群はドロップジャンプ時の膝屈曲角度が増加し,バランストレーニング群は側方着地時の膝 屈曲角度が増加していた.彼らはジャンプ,バランストレーニングのもたらす動作変化が,ド ロップジャンプと側方着地に特異的であるため,予防プログラムに双方の要素を組み込むこと

(29)

を推奨している.Myer ら[161]はさらにあらかじめスクリーニングを行い,ドロップジャンプ 時の膝外転モーメントの大きいリスク群と非リスク群に対するジャンプ,バランストレーニン グ効果の違いを検討している.その結果,非リスク群では変化がみられなかったのに対し,リ スク群では膝外転モーメントの減少がみられていた.

これらの報告より,バイオメカニクス的要因に対するACL損傷予防トレーニングの効果は,

なんらかの効果があるものの,一定の結論は出ていないといえる.その背景には,ほとんどの プログラムがジャンプ,バランス,アジリティートレーニングという概要的には同じであるも のの,トレーニング内容の詳細,期間,対象動作がプログラムによって異なることがあげられ る.ただし,膝外転角度,モーメントの減少,屈曲角度の増加といった膝関節への直接的な効 果や,股関節運動の変化や床反力の減少なども間接的に予防効果があると考えられる.

筋力やバランス能力,パフォーマンスに対する効果の報告も散見されている.筋力について は,変化がみられなかった[162],大腿四頭筋の筋力が増加した[156],ハムストリングスの筋力 が増加した[154, 163, 164],と異なる結果が報告されているが,ハムストリングス筋力の増加が 複数報告されている.また,股関節伸筋とジャンプ高[163]や股関節外転筋筋力[165]が増加した というトレーニング効果も報告されている.バランス能力についても向上したという報告[162, 166]が複数みられている.

よって,ACL損傷予防プログラムは筋力やバランス能力,パフォーマンスの向上においてお おむね良好な結果が得られているといえる.実際の指導現場において,予防プログラムの実施 が外傷予防の目的のみではなく,パフォーマンスの向上につながることで,実際に取り入れら れやすくなると考えられる.

(30)

第3節 本論文の目的,構成

先行研究にみられるように ACL 損傷のメカニズム,リスクファクター,予防に関連する報 告は多岐にわたっている.こうした研究により ACL 損傷のメカニズム,リスクファクター,

予防効果は証明されつつあるが,いまだ不明な点が多いことも確かである.そこで,本論文で はACL損傷予防の科学的基礎を確立することを目的とし,スポーツ外傷予防の4段階[1]に準 じて研究を進めた.

第2章においては日本女子バスケットボールリーグにおける外傷調査を行い,本邦における ACL損傷の発生頻度の調査を行った.

第3章においてはACL損傷のリスクファクターについて検討を行った.第1節では片脚着 地における膝関節運動および筋活動の性差を検討した.特に膝関節運動については回旋運動を 含んだ詳細な解析を行った.第2節では片脚着地に加え,着地からの切り返しや両脚着地の膝 関節運動解析を行い,各動作におけるACL損傷リスクについて検討した.第3節では,ター ン動作において近年注目されている体幹位置および膝関節運動解析を行い,その性差,ならび に体幹位置と膝関節運動との関連を検討した.

第4章においては簡便に着地肢位の計測,評価が可能である二次元画像を用いた膝動作解析 法の検討を行った.第1節では二次元動作解析によって算出された膝外転角度と三次元動作解 析によって算出された膝運動との関係を求め,二次元動作解析法の有用性を検討した.第2節 では二次元動作解析を実際に用い,着地肢位と下肢アライメント・特性,バランス能力の関連 を求め,着地肢位に影響を及ぼす因子検討を行った.

第5章においてはACL損傷予防プログラムの効果について検討を行った.第1節では過去 に報告された諸外国における ACL 損傷予防プログラムを系統的にレビューし,プログラムの 構成要素,予防効果について検討した.第2節では第1節においてACL損傷予防プログラム として推奨された,ジャンプ,バランストレーニングの片脚着地動作に対する効果を検討した.

第6章においては第2章から第5章までの実験結果を踏まえ,本研究で得られた新しい知見 について,ACL 損傷予防という見地から考察を行い,議論を深めた.また,本論文での課題,

(31)

今後の展望についても述べた.

第7章においては本論文によって得られた結論を簡潔にまとめた.

なお,本論文において,膝関節前額面上の運動は内外転と表記した.ただし,受傷肢位を観 察したものについては外反と表記した.膝関節水平面上の運動は脛骨内外旋と表記した.ただ し,先行研究の結果については原文を訳し,膝回旋(Knee rotation),脛骨回旋(Tibial rotation)とし た.大腿骨に対する脛骨の前後位置は脛骨前後方偏位と表記した.また,着地動作などの運動 中における各角度の変化は変位量と表記した.

(32)

第 2 章

本邦における膝前十字靱帯損傷発生状況について

参照

関連したドキュメント

From the results of analyzing floor reaction force and EMG parameters, G1 with lower thigh length longer than chair seat height had a floor reaction force (F1) and an active muscle

As it is involved in cell growth, IER3 expression has been examined in several human tumors, including pancreatic carcinoma, ovarian carcinoma, breast cancer, and

Furthermore, administration of testosterone to female mice newly induces nuclear JunD/menin immunoreactivity in cells located in the proximal portions of the SD at 6-24 hrs,

ABSTRACT: [Purpose] In this study, we examined if a relationship exists between clinical assessments of symptoms pain and function and external knee and hip adduction moment

Then optimal control theory is applied to investigate optimal strategies for controlling the spread of malaria disease using treatment, insecticide treated bed nets and spray

Our analyses reveal that the estimated cumulative risk of HD symptom onset obtained from the combined data is slightly lower than the risk estimated from the proband data

All (4 × 4) rank one solutions of the Yang equation with rational vacuum curve with ordinary double point are gauge equivalent to the Cherednik solution.. The Cherednik and the

In the case of single crystal plasticity, the relative rotation rate of lattice directors with respect to material lines is derived in a unique way from the kinematics of plastic