• 検索結果がありません。

<論説>限定承認による清算手続と民事執行手続

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "<論説>限定承認による清算手続と民事執行手続"

Copied!
90
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

限定承認による清算手続と民事執行手続. 1. 限定承認による清算手続と民事執行手続. 石渡 哲. もくじ. Ⅰ はじめに──問題点の整理──. Ⅱ 限定承認がなされた場合の相続債務の弁済. 1 限定承認による清算手続の概略. 2 争いのある相続債務の弁済. (1)限定承認者等と相続債権者の間の争い. (2)相続債権者相互間の争い. 3 相続債務の額と配当弁済額. 4 中間配当(数次にわたる配当弁済)の可否. 5 弁済拒絶権. (1)限定承認者等の弁済拒絶権. (2)熟慮期間中の相続人の弁済拒絶権. Ⅲ 限定承認による清算手続と民事執行手続の競合. 1 競合する両手続の基本的関係. (1)両手続の優劣. (2)民法 935条本文所定の相続債権者の差押え・配当要求の可否. 2 �限定承認者等が限定承認の効果を直接民事執行手続に反映させるための. 手段. (1)執行異議(執行方法の異議). 論 ��説. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 2. (2)家庭裁判所の申述受理証明書の提出. (3)請求異議の訴え. (4)相続財産の破産手続開始申立て. (5)小括. 3 民事執行手続を続行したうえでの処理. (1)処理の必要性. (2)執行債権者でなかった相続債権者の限定承認者等に対する請求. (3)��執行債権者でなかった相続債権者の執行債権者であった相続債権者に. 対する請求. (4)限定承認者等の執行債権者であった相続債権者に対する請求. (5)民事執行の対象にならなかった財産をもってする弁済. Ⅳ ��換価のための競売(形式的競売)手続・鑑定人の評価にしたがった弁済と. 民事執行手続の競合. 1 換価のための競売手続と民事執行手続の競合. (1)前提事項. (2)換価のための競売手続が先行している場合. (3)民事執行手続が先行している場合. 2 鑑定人の評価にしたがった弁済と民事執行手続. Ⅰ はじめに――問題点の整理――. 本稿では限定承認による清算手続と民事執行手続の関係が検討されるが、取. り上げられる具体的な問題は多岐にわたる。それらを整理すると以下のように. なる。. (a)強制執行手続の開始後に債務者が死亡しても、強制執行の続行は可能で. ある(民執41条 1項)。一方、相続人が限定承認をした場合、相続財産につき. 民法の規定(民922条─937条)にしたがって限定承認による清算手続が実施. 限定承認による清算手続と民事執行手続. 3. されることになる。したがって、この場合には、強制執行手続と限定承認によ. る清算手続がともに実施され得る状態になる。債務者が金銭執行を受けるのは、. 多くの場合その経済状態が思わしくないためであるから、執行債務者の相続人. が限定承認をすることは十分に予想される 1)。これがなされた場合、限定承認. 者または相続財産管理人(以下「限定承認者等」という 2))が限定承認の効果、. すなわち相続債務のための責任が及ぶ範囲が相続財産に限定され、かつ、相続. 財産中の消極財産の額が積極財産の額を上回っている場合、すなわち相続財産. . 1)��栗田隆「限定承認された相続財産の清算──配当弁済と強制執行・破産との関係──」 金法1312号 4頁(1992年)(本稿では栗田教授のこの論文と別の論文、計二編が頻繁に 引用される。以下では本論文を「栗田・前掲注(1)限定承認された相続財産の清算」と 表記する)。. 2)��「限定承認者等」と表記したのは、限定承認がなされた場合、利害関係人もしくは検察官 の請求により相続財産管理人が選任されることがあり(請求による相続財産管理人。民 926条 2項・918条 2項)、また共同相続のときは家庭裁判所によって必ず共同相続人の 中から相続財産管理人が選任されなければならない(職権による相続財産管理人。民936 条 1項)からである。. �� ただし、判例は職権による相続財産管理人の訴訟上の地位について、相続人全員が当 事者になり、相続財産管理人は自分以外の相続人についてはその法定代理人であるとの 見解を採っている(最判昭和43年 12月 17日家月 21巻 5号 49頁、最判昭和 47年 11月 9日民集 26巻 9号 1566頁)。本稿で後に引用されるいくつかの裁判例においても、職権 による財産管理人がいる事案で、相続人全員が当事者になっている。判例の考え方によ れば、相続財産管理人が選任されても、限定承認による清算を行う本人は限定承認をし た相続人であり、それゆえ、本文での表記は「限定承認者等」ではなくたんに「限定承 認者」とすべきであろう。しかし、相続財産管理人の法的地位については諸説ある。本 稿ではこの問題に立ち入ることができない。ただし、その法的地位についていかに解す るにせよ、相続財産管理人が選任されれば、事実上限定承認による清算手続を処理する のは相続財産管理人であるので、本文で述べた限定承認の効果を執行手続に反映させる ための手段を執る主体を「限定承認者等」と表記することにする。相続財産管理人の地 位については、谷口知平編『注釈民法(25)』439─442頁〔岡垣學〕(有斐閣、増補、1981年)(以 下「谷口編・注釈民法(25)[増補]」と表記する)、谷口知平=久貴忠彦編『新版注釈民 法(27)』604─606頁〔松原正明〕(有斐閣、補訂版、2013年)(以下「谷口=久貴編・新 版注釈民法(27)[増補版]」と表記する)、潮見佳男編『新注釈民法(19)』627─628頁〔杉 本和士〕(有斐閣、2019年)(以下「潮見編・新注釈民法(19)」と表記する)等参照。. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 4. が債務超過である場合、相続債権者はその債権額に応じた割合的満足しか得ら. れなくなる(民929条本文)という効果(以下「限定承認の効果」という)を. 強制執行手続に反映させるための手段があるか、あるとすればいかなる手段か. が問題になる。現行法には限定承認による清算手続と強制執行手続とを調整す. る規定が設けられていないので、この問題の解決は関連法規、具体的には民法. および民事執行法の解釈に委ねられることになる。この問題が本稿で取り上げ. れられる問題の一つである(Ⅲ2)。. これらの問題を検討する前提として、限定承認による清算手続と執行手続の. 関係、とくに両者の優劣も問題になる。この問題も本稿で取り上げられる(Ⅲ1)。. また、限定承認者等がこの手段を執ることなく強制執行手続が完了すると、そ. れによって、相続債権者の中に実体法が定める以上の額の満足を得る者と、それ. だけの満足を得られない者がでるが、後者を救済する手段があるか、あるとすれ. ばいかなる手段かも問題になる。本稿ではこの問題も取り上げられる(Ⅲ3)。. (b)限定承認がなされた後に相続債権者が相続財産に対して強制執行を申. し立てることは、限定承認者等と相続債権者の関係が良好であれば、考えにく. いことであるが、相続債権者が限定承認者等の清算手続の進め方に不満をいだ. いているときには、起こり得ることである 3)。この場合の強制執行の申立てに. ついては、そもそも限定承認による清算手続が既に開始されているので、許さ. れるかということが問題になり、この問題も本稿で検討される(Ⅲ 1(1)(b))。. これが許されて──筆者は、検討の結果、許されると解するが──、強制執. 行が申し立てられたなら、強制執行手続と限定承認による清算手続が並行する. 状態が生じ得ることになり、(a)で述べたのと同様の問題が生じる。しかし、. それにらついては、基本的に(a)における問題についてと同じように考える. ことができるので、独立して取り上げることはしない。. . 3)�栗田・前掲注(1)限定承認された相続財産の清算 9頁はこのことを指摘しているのであ ろう。. 限定承認による清算手続と民事執行手続. 5. (c)担保権実行手続の開始後に債務者または物上保証人である担保目的物の. 所有者(以下「債務者等」という)が死亡しても、担保権実行手続の続行が可. 能である(民執194条による同 41条の準用 4))。この場合に債務者等の相続人. が限定承認をしても、それだけでは、限定承認による清算手続と担保権実行手. 続の競合は生じない。なぜなら、特別担保権(優先権)を有する債権者は限定. 承認による清算手続に優先して満足を得ることが認められているからである. (民929条但書・935条但書 5))。. しかし、担保権実行手続においても、債務名義を有する一般債権者が二重差. 押えまたは配当要求をすることが可能である(民執 188条による同 47条 1項・. 51条 1項の準用)。これらがなされた場合、売却代金が執行費用と特別担保権. 者への弁済に充てられて、なお残余があれば、残余は有名義一般債権者に配当. される。そこで、担保権実行手続における二重差押えまたは配当要求をした一. 般債権者への配当に至る手続と限定承認による清算手続の関係が問題になる 6)。. しかし、それらについては基本的に(a)における問題と同様に考えればよい. ので、本稿ではとくに取り上げないが、ただし、一点だけとくに論じておきた. い問題がある(Ⅲ2(3)ⅴで論じられる)。. . 4)�準用のさい民執法41条 1項の「債務者」は「債務者または所有者」と読み替える必要がある。 鈴木忠一=三ケ月章編『注解民事執行法(5)』340頁〔井上稔〕(第一法規、1985年)(以 下「鈴木=三ケ月編・注解民執(5)」と表記する)、香川保一監修『注釈民事執行法(8)』 269頁〔近藤崇晴〕(金融財政事情研究会、1995年)(以下「香川監修・注釈民執(8)」と 表記する)等がこのことを指摘している。. 5)��民法 929条但書には「優先権を有する債権者」の語があり、同935条但書には「特別担 保を有する者」の語がある。優先権を有する債権者とは相続財産を構成する財産上に先 取特権、質権、抵当権または留置権を有する債権者であり、特別担保を有する債権者と 同義であるといわれている。谷口編・注釈民法(25)412頁、436頁〔岡垣〕、谷口=久貴 編・新版注釈民法(27)576頁、602頁〔松原〕等参照。. 6)��大阪高判昭和 60年 1月 31日高民 38巻 1号 13頁 =判時 1155号 269頁は本文で述べられ ている問題が争点になった事案である。. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 6. (d)限定承認による清算手続を実施するうえで相続財産を売却する必要が. あるとき、限定承認者等は原則としてこれを競売に付すことになっているが. (換価のための競売。民 932条本文)、限定承認者には、相続財産の競売を、鑑. 定人の評価した価格を弁済することによって差し止めることも認められている. (同条但書)。これらのうち換価のための競売は形式的競売であるが、同じ財産. について、一方で限定承認者等が換価のための競売を、他方で相続債権者中の. 一般債権者が強制競売を、もしくは担保権者が担保権実行としての競売を相次. いで申し立てる場合があり得る。その場合の換価のための競売手続手続と強制. 競売手続もしくは担保権実行手続の関係も問題になる。それらについても、現. 行法にはこれらの手続を調整する規定が設けられていないので、解決は民法と. 民事執行法の解釈に委ねられることになる。この問題も本稿で取り上げられる. (Ⅳ1)。また、限定承認者が相続財産につき鑑定人の評価した価格を弁済しよ. うとしたところ、相続債権者が同じ財産につき強制執行を申し立てる事態も起. こり得る。その場合の処理についても検討の必要があろう。本稿ではその検討. もなされる(Ⅳ2)。. (e)本稿で筆者は上記の問題を取り上げて検討するが(Ⅲ、Ⅳ)、それに先立っ. て、限定承認がなされた場合、相続債務はいかに弁済されるかを、これらの検. 討のために必要な限度で、確認しておきたい(Ⅱ)。. Ⅱ 限定承認がなされた場合の相続債務の弁済. 1 限定承認による清算手続の概略 いうまでもないことであるが、複数の金銭債務を負う者(以下「債務者」と. いう)が一方で複数の財産(たとえば、現金、銀行預金、株式、数筆の土地、. 複数の美術品)を有している場合、どの財産をどの債務の弁済のために用立て. るかは、まったく債務者の自由に委ねられている。そのさい、現金および額が. 明白ですぐに現金化できる銀行預金等(以下「現金等」という)以外は、代物. 限定承認による清算手続と民事執行手続. 7. 弁済に供するのであれば格別、金銭に換えなければならないが、どの財産をど. のように換価するか、たとえば、どの財産をだれにいくらで売却するかも、債. 務者は自由に決めることができる。ところが、債務者につき破産手続開始決定. がなされると、破産手続上の弁済である配当は破産法の規定にしたがってなさ. れなければならなくなる(破193条 1項)。破産財団の換価は破産管財人によっ. て行われ、その方法についても破産法が定めている(同184条各項)。たとえ. ば、不動産等の換価は、民事執行法その他強制執行の手続に関する規定による. か、裁判所の許可を得て任意売却をすることになっている(同 184条 1項・78. 条 2項 1号)。実際には、任意売却によるほうが高価で換価できるため、裁判. 所の許可を得て任意売却されるのが通例であるといわれている 7)。. 以上に対して、限定承認者等は、限定承認による清算手続における弁済を行. うにあたり、大略次のような規制を受ける。まず、限定承認者は限定承認をし. た後5日以内、あるいは、職権による相続財産管理人が選任された場合はその. 選任後10日以内にすべての相続債権者および受遺者に対して、限定承認をし. た旨、および2箇月を下らない一定の期間(以下「請求申出期間」という 8)). を設けて、その期間内に請求を申し出るべき旨を公告し、これに、その期間内. に申出をしない相続債権者および受遺者は弁済から除斥される旨を付記するこ. とになっている(民927条 1項・2項・936条 3項後段)。限定承認者等は、知. れている債権者および受遺者には、各別にその申し出を催告しなければならな. い(同927条 3項)。そして、請求申出期間内は限定承認者等は、相続債権者. から弁済を要求されても、要求を拒絶できる(同 928条)。また、弁済の順序. について、①優先権を有する債権者 9)、②請求申出期間内に申し出た相続債権. . 7)��三上威彦『倒産法』566─567頁(信山社、2017年)、伊藤眞『破産法・民事再生法』706頁(有 斐閣、第 4版、2018年)等参照。. 8)��この期間の呼称は、文献、判例、裁判例および先例において、「請求申出期間」のほか「請 求申出催告期間」「催告期間」「債権申出期間」「公告期間」等さまざまである。. 9)優先権を有する債権者の意義については、注(5)参照。. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 8. 者および知れている債権者、③受遺者、④限定承認者に知れておらず申出をし. なかった相続債権者、受遺者の順によること、および、優先権を持たない相続. 債権者への弁済は、個々の相続債権者の債権額のすべての相続債権者の債権の. 総額に対する割合に応じなければならないと定められている(同929条本文・. 但書・931条・935条本文・但書)(以下この割合を「配当弁済率」、それにし. たがって限定承認者等がする弁済を「配当弁済」という)。さらに、現金等以. 外の積極財産の換価は、換価のための競売によるか、あるいは家庭裁判所が選. 任した鑑定人の評価額を限定承認者が弁済することによって行われる(同932. 条本文・但書)。前述のように、不動産等は競売によるよりも任意売却による. ほうが高価で換価できるにもかかわらず、限定承認による清算手続においては. 任意売却は許されていないと解すべきである。なぜなら、破産法78条 2項の. ようなこれを認める規定がないからである。破産手続におけるのと限定承認に. よる清算手続におけるのとのこの違いは、後者において弁済をするのは基本的. に相続人であり(職権による相続財産管理人が家庭裁判所によって選任される. 場合も、共同相続人の中から選任される)、また裁判所の監督に服してもいな. いことから、任意売却を認めると、相続財産が不当な廉価で換価される危険が. あると考えられたためであろう 10)。. ただし、実務では限定承認者による任意売却が、とくに問題とされることも. なく、行われているようである 11)。それはおそらく、前述のように、任意売. 却によるほうが高価で換価できるからであろう。筆者は、民法932条の解釈と. しては、限定承認者等による任意売却は許されないと考える。しかし、同条が. . 10)��谷口編・注釈民法(25)[増補]422頁〔岡垣〕、潮見編・新注釈民法(19)605─606頁〔中 島弘雅〕等。. 11)��有元和也「限定承認についての再検討──相続債権者の立場から──」銀行法務21・ 754号 24─25頁(2013年)の記述からこのことが窺われる。著者の有元氏は銀行の融資 部に所属しており(掲載誌に記載された著者の肩書による)、相続に関連する実務の状 況を熟知していると推測される。. 限定承認による清算手続と民事執行手続. 9. 換価の方法についての規定であること、および取引の安全の観点から、任意売. 却も、なされてしまえば、有効である。そして、売却価格が不当に廉価であっ. て、そのために相続債権者が十分な弁済を受けられなかったときは、限定承認. 者等に損害賠償責任を負わせることによって、相続債権者の救済を図ることが. できる 12)。. 筆者は、立法論として、裁判所の許可を要件として任意売却を認める規定を. 設けるべきであると考える。. 2 争いのある相続債務の弁済 相続債務の存否または額をめぐる争いとしては、限定承認者等と相続債権者. の間の争いと相続債権者相互間の争いがある。. (1)限定承認者等と相続債権者の間の争い. (a)限定承認者等と相続債権者の間で相続債務の存否または額について争い. がある場合、限定承認者等はどのような対処をなしうるか、またはなすべきか. . 12)��つとに東京控判昭和 15年 4月 30日評論 29巻民法 545頁が任意売却を有効としている。 学説上現在では通説といえよう。中川善之助監修『註解相續法』197─198頁〔山崎邦彦〕. (法文社、1951年)(以下「中川監修・註解」と表記する)、我妻栄=立石芳枝『親族法・ 相続法』505頁(日本評論社、1952年)、中川善之助編『註釋相續法(上)』281頁〔山 畠正男〕(有斐閣、1954年)(以下「中川編・註釋(上)」と表記する)、我妻栄編『判例 コンメンタールⅧ相続法』198頁(日本評論社、1966年)(以下「我妻編・判コメⅧ」と 表記する)、谷口編・注釈民法(25)[増補]423頁〔岡垣〕、谷口=久貴編・新版注釈民 法(27)[補訂版]587─588頁〔松原〕、潮見編・新注釈民法(19)608─609頁〔中島〕。. �� ただし、かつては、換価のための競売によらない売却を無効とする見解(柳川勝二『日 本相續法註釋下巻』119─121頁〈巖松堂書店、1920年〉。「競売ハ必ス競売法ニヨリテコ レヲナスヘキモノトス」と述べている、梅謙次郎『民法要義巻之五』195頁〈信山社、 復刻版、1992年〉も同じ主旨であろう)や、無効ではあるが、相続債権者または受遺者 が承認すれば有効になるとの見解(近藤英吉『相續法論下』912頁〈弘文堂書房、1938年〉) も主張されていた。. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 10. については、限定承認者等は自己の判断にしたがって弁済することができると. いう見解 13)と、限定承認者等は、通常の民事訴訟手続によって債権の存否・. 額を確定したうえで、弁済をなすべきであるという見解 14)が対立している。. 後説によれば、限定承認者等は債権の存否・額が判決によって確定するまでは、. 弁済できないということになる 15)。. 筆者は前説を支持する。その理由は以下のとおりである。. 限定承認による清算手続は、たしかに通常の弁済に比べると、法の複雑な規. 制を受けてはいるが、その本質は私的弁済である。一般論として、人は、弁済. をなすにあたり、自分が債務を負っていると考える者に、自分が負っていると. 考える債務額を払い、それに不満を持つ者は、できれば交渉により、しかし最. 終的には訴訟によって自己の権利の実現を図るのである。このことは限定承認. による清算手続としての弁済にもあてはまり、限定承認者等は額につき争いの. ある債務についてもさしあたり自己の考える額の弁済の提供をすればよい。こ. れが、筆者が前説を支持する理由である。ちなみに、もし、相続債権者が弁済. の受領を拒絶したなら、限定承認者等は供託をすればよい。. . 13)��我妻=立石・前掲注(12)502頁、中川編・註釋(上)276頁〔山畠〕、我妻編・判コメ Ⅷ 195頁、谷口編・注釈民法(25)[増補]414頁〔岡垣〕。. 14)��谷口=久貴編・新版注釈民法(27)[補訂版]577─578頁〔松原〕、潮見編・新注釈民法(19) 597頁〔中島〕。. 15)��臼田豊「限定承認の手続」判タ 167号 73頁(1964年)は、「当該債務が確定しない限り その配当額を留保の上、他の債務者に配当弁済することになろう」と述べている。臼田 説は、限定承認者等と争っていない相続債権者への弁済は可能としているので、前説の ように思われなくもない。しかし、このように争っている債権者への弁済を留保すると いうのが、後説の真意であろうか。そうであるとすると、その反面として、後説は争い のない債権については弁済を肯定することになろう。しかし、限定承認による清算にお いては、相続財産が債務超過になっている場合(限定承認がなされるのはこの場合が多 いと思われる)、各相続債権者にはその債権額に応じた割合的弁済がなされるのである から(民929条本文)、一人でも債権の存否ないし額が確定できない相続債権者がいれば、 すべての債権者に弁済すべき額が決まらず、したがって弁済ができないはずである。. 限定承認による清算手続と民事執行手続. 11. もとより、限定承認者等と争っている相続債権者はこの弁済に対して不服を. いだくであろう。そのような相続債権者のために、自己の主張する債権の存在. を認めさせ、債権額に至るまでの満足を得るための手段がなくてはならない。. この手段については、相続債権者が無名義債権者である場合と有名義債権者で. ある場合とに分けて考えなければならない。. (b)無名義の相続債権者が限定承認者等に対して執り得る手段は訴えの提. 起である。そのような訴えとして考えられるのは、相続債権者が自己の主張す. る金額の支払いを請求する訴え(給付の訴え)を提起すること、または、債権. の存在確認請求の訴えを提起し、請求認容の確定判決をもって、限定承認によ. る清算手続でこれを考慮するように主張することである。確認の訴えについて. は、給付の訴えが可能であることから、訴えの利益の利益が欠けているのでは. ないかという疑問の余地がある 16)。しかし相続債権者は、確認判決によって、. 自己の債権の存在と額を限定承認による清算手続手続に反映させることができ. るのであるから、確認の訴えにも利益は存在する。むしろ、相続財産の清算を. 限定承認による清算手続によって実現しようとするならば、相続債権者に債務. 名義を与えて、それに基づく強制執行が行われる可能性を生じさせる給付訴訟. よりも、確認訴訟のほうが適切な手段であるといえよう。要するに、この場合. に相続債権者が自己の債権を実現しようとする手段としては給付の訴えと確認. の訴えのいずれもが認められる。. しかし、訴訟には時間がかかるので、相続債権者が確定判決を得る前に、限. 定承認による清算手続が終了してしまうことが多いと推測される。そうならな. いために、相続債権者は、上記の訴えを本案訴訟として、限定承認による清算. . 16)��栗田隆「限定承認と相続債権の行使(下)」金法1323号 17頁(1992年)が確認訴訟に よることを否定するのは、このように考えているからであろうか(同論文(上)は、金 法1322号に掲載されている。以下「栗田・前掲注(16)限定承認と相続債権の行使(下). (上)」と表記する)。. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 12. 手続を差し止める仮処分を申し立てることができる、と筆者は考える。. 限定承認者等と争っている相続債権者がこのような手段を執ることなく、限. 定承認者等の判断にしたがった配当弁済が終了した場合、相続債権者は限定承. 認者に対して民法934条 1項後段による賠償を請求することが考えられる。な. ぜなら、もしこの相続債権者の主張が正しければ、行われた配当弁済は「そ. れぞれの債権額に応じて」いないからである(民 929条本文)。ただし、民法. 934条 1項が規定する限定承認者等の賠償責任は、後述のように、不法行為責. 任であり(多数説)、したがって問題になった弁済がなされるにつき限定承認. 者等に故意または過失があることが、成立要件である(Ⅲ3(2)(b)、(c)参照)。. それゆえ、限定承認者等の故意・過失が認定されなければ、賠償責任は認めら. れない。また、争いのある相続債権者は、限定承認による清算手続終了後に他. の相続債権者に対して民法934条 2項により求償を求めることができる可能性. がある。しかし、この求償は、他の相続債権者が「情を知って不当に」弁済を. 受けることが、成立要件になっているので、認められるのは限定的である(Ⅲ. 3(3)ⅰ(b)、(c)参照)。. (c)限定承認者等と争っている相続債権者が有名義債権者である場合、その. 相続債権者は債務名義に基づいて相続財産に対して強制執行を申し立てること. によって、自己の権利の実現を図ることができる。これによって、限定承認に. よる清算手続と強制執行手続の並行状態が生じ、その後の処理については、Ⅲ. 2、3で詳しく述べることが妥当するが、大略以下のようである。. 限定承認者等は請求異議の訴えを提起して、当該相続債権者の債権の存否・. 額について自らの考えを主張することができる。これにより限定承認の効果が. 強制執行手続に反映されることになる 17)。もし限定承認者等が請求異議の訴. えを提起しないままに強制執行が完了すれば、強制執行をした相続債権者は、. . 17)��以上の論述は、栗田・前掲注(16)限定承認と相続債権の行使(下)17頁と表現は異な るが、内容は同じであると考える。. 限定承認による清算手続と民事執行手続. 13. 限定承認による清算手続における配当弁済率を超えた配当を受けることにな. り、その結果他の相続債権者は配当弁済率を下回る配当しか受けられなくなる。. 他の相続債権者は、この損害について、強制執行に対して請求異議の訴えで対. 抗しなかった限定承認者等に民法934条 1項による賠償請求をすることができ. る。そのほかに、強制執行をした相続債権者に対するその他の相続債権者の求. 償請求ないし不当利得返還請求が考えらえるが、後述のように(Ⅲ 3(3)ⅰ、. ⅱ)、筆者はこれを認めない。. (2)相続債権者相互間の争い. 限定承認による清算手続は、相続債権者相互間で特定の相続債権者の債権の. 存否・額について争いがあっても、各債権者にこの点に関する主張の機会を与. えたうえで、配当弁済を確定するという手続構造になっていない 18)。このため、. 限定承認による清算手続は、各債権者の他の債権者の債権の存否・額に関する. 見解は考慮されることなく、実施される。. その結果に不服のある相続債権者は、配当弁済後に、限定承認者等に対して、. 自分と対立する相続債権者の債権を争うべきであったのに争わなかったことを. 理由に、民法934条 1項後段の損害賠償を請求し、または、対立する相続債権. 者に対して同条2項により求償請求をして、自己が本来得られるはずであった額. の満足を得ることができる19)。しかしこの方法は不服のある相続債権者の救済. 方法、あるいは相続債権者間の争いの解決策としては、次の理由により、不十. 分なものである。第一に、限定承認者等の賠償責任は不法行為責任であるから、. 限定承認者等に故意・過失があることがその成立要件になっているが、相続債. . 18)��栗田・前掲注(16)限定承認と相続債権の行使(下)16頁は、破産手続と対比して、こ のことを指摘する(旧破産法240条・287条〈現行破産法 124条 1項・221条に当る〉が 参照条文として掲げられている)。. 19)栗田・前掲注(16)限定承認と相続債権の行使(下)17頁。. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 14. 権者間で特定の債権の存否・額について争いがあり、結果的に適正な配当弁済. 率にしたがった配当弁済がなされなかった場合でも、必ずしも常に限定承認者. 等に故意・過失があるとはかぎらない(Ⅲ3(2)(b)(c)参照)。第二に、相. 続債権者間の求償請求も一方の相続債権者が「情を知って不当に」弁済を受け. ることが成立要件になっているため、結果的に適正な配当弁済率にしたがった. 配当弁済がなされなかった場合でも、必ずしも常にこの成立要件が満たされる. とは限らない(Ⅲ3(3)ⅰ(b)、(c)参照)。第三に、これも相続債権者間の. 求償に関してであるが、求償を求める相続債権者と求められる相続債権者のい. ずれか一方または双方が複数である場合、求償をめぐる処理を矛盾なく実施す. ることが困難である 20)。. 以上のことを考慮すると、相続債権者相互に相続債権の存否・額につき争い. がある場合に、すべての相続債権者に適正な配当がなされるためには、相続財. 産の破産手続によるほうがより確実である 21)。. 3 相続債務の額と配当弁済額 (a)限定承認は、相続された債務についての責任の範囲を相続財産に限定す. るのであって、相続債務の額が限定承認によって変わることはない。したがっ. て、相続債権者が限定承認者等を相手取って提起する履行請求訴訟における請. 求認容判決の主文では、相続債務全額の支払が命じられる 22)。ただし、実務. においては、被告である限定承認者等が限定承認の抗弁を提出し、それが認め. られた場合、支払を命じる判決の主文には、相続財産の限度で支払いを命じる. . 20)��本文における、限定承認者に対する賠償および相続債権者間の求償が配当弁済をめぐる 相続債権者間の争いの解決として不十分であることの理由に関する記述は、栗田・前掲 注(16)限定承認と相続債権の行使(下)16─17頁を参考にしてなされている。ただし、 栗田教授が論じていることと本文における記述が完全に一致しているわけではない。. 21)栗田・前掲注(16)限定承認と相続債権の行使(下)17頁もこの主旨であろう。. 22)��大判大正 13年 5月 19日民集 3巻 215頁、大判昭和 7年 6月 2日民集 11巻 1099頁。. 限定承認による清算手続と民事執行手続. 15. という、留保が付けられる。学説上も、異論はあるが、多数説はこのような留. 保を付けることに賛成しており、筆者もこれに賛成である 23)。. しかし、限定承認による清算手続では、相続債権者が複数いれば、各相続債. 権者はそれぞれの配当弁済率に応じた弁済しか得られないと定められている. (民929条本文)。もとより、限定承認がなされても、相続財産が債務超過でな. い場合は、すべての相続債権者が債権額全額の満足を得られる。しかし実際に. は、限定承認がなされるのは、相続財産が債務超過である場合に多いであろう. が、その場合には配当弁済額は相続された債務の額よりも少なくなる。. 以上のように一方で、相続された債務の額は限定承認によって変わらないと. いう命題があり、他方で、配当弁済額が債務の額より少なくなることがあり得. るという命題がある。両者は矛盾しているのではないかという疑念が生じる余. 地があるので、両者の関係が検討されなければならない。. 前者の、債務の額は変わらないという命題は、限定承認者と個々の 4 4 4. 相続債権. 者の間の実体関係に妥当するものである。後者の、配当弁済額は債務の額より. 少なくなることがあり得るという命題は、複数の相続債権者と限定承認者の間. の権利義務を調整した結果に妥当するものである。すなわち、個々の相続債権. 者に対する限定承認者の債務の本来の額は限定承認によっても変わらないが、. 法(民929条)が、限定承認による清算手続においては各相続債権者の債権額. に応じた配当弁済が行われると規定しているため、相続債権者の債権額を調整. して、各相続債権者が受け得る満足をその債権額(相続債務の額)から配当弁. 済額にまで縮小しなければならず、その結果として、債権が減額されること. になり、調整前後の債権額の間に差が生じることになるのである 24)。ただし、. . 23)��詳細および関連する文献につき、石渡哲「限定承認による責任制限の主張」横浜法学27 巻 3号 45頁以下(2019年)参照。. 24)��栗田・前掲注(1)限定承認された相続財産の清算8頁が、4で取り上げる中間配当を認 めたうえで、「権利者の権利も配当弁済額の限度でのみ行使できるように制限され、こ. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 16. 相続債権者が一人しかいない場合には、上記の調整はなされないのであるから、. 相続財産が債務超過である場合であっても、相続債権者の債権額が減額される. ことはない。. このようにして、前述の疑念は解消する。. (b)各相続債権者への配当弁済額は、積極財産の総額に配当弁済率を乗じ. て算出されるものであり、配当弁済率は、個々の相続債権者の債権額の全相続. 債権者の債権額の総計に対する割合である。限定承認による清算手続では、優. 先権を有する債権者に次いで、配当弁済にあずかることができるのは、請求申. 出期間内に申し出た債権者と限定承認者等に知れた債権者だけである(民 929. 条本文)。そして、配当弁済を実施するにあたりこれらの者の債権の存否・額. について限定承認者等は、前述のように(2(1)(a))、みずからの考えに基づ. いて処理できるのであるから、請求申出期間満了時には各相続債権者の配当弁. 済率は確定しているといえる──相続債権者が多数いて、各債権額の確認お. よびそれらの総計の算出に時間がかかるときは、算出が終わるまでは、配当弁. 済率も算出できないが、これにそれほど長い時間がかかることはないだろう(5. (1)ⅱ参照)──。相続財産は、金銭等以外は、実際に換価または鑑定人の評. 価を経なければ、算定できないから(民932条参照)、具体的な配当弁済額は. 限定承認による清算手続を実施していく過程で判明するものである。しかし、. 配当弁済率が確定した後は、各相続債権者の配当弁済額も潜在的に確定してい. るということができる。. . ��の制限は実体法上の制限とみてよいであろう」と述べているのには、筆者の考えと共通 するものがあると思われる。それに対して、志田博文「限定承認清算手続に関する諸問 題──民事執行との関係を中心として──」家月45巻 5号 44頁注(49)(1993年)は、 限定承認の効果はあくまで相続された債務の責任を限定するに止まり、債務の額を変更 するものではないという主旨であると思われる。. 限定承認による清算手続と民事執行手続. 17. 4 中間配当(数次にわたる配当弁済)の可否 (a)相続財産中に競売または鑑定人の評価額にしたがった弁済をすることに. よって換価しなければならない財産(民932条参照)が複数存在する場合、限. 定承認者等は、効率的で迅速な清算を望むのであれば、それらをできるだけ時. 間的な間隔を空けずに換価して、一挙に、すなわち一回の配当弁済によって清. 算手続を完了させようとするであろう。限定承認による清算が一挙に完了する. ことはたしかに限定承認者のみならず相続債権者、受遺者およびその他の利害. 関係人にとっても望ましいことであろう。. しかし、競売の対象によって競売にかかる時間の長短には差があることもあ. ろう 25)。また、当初限定承認者等に知られていなかった積極財産が後に見付. かることもあろう。かりに、配当弁済は必ず一挙になされなければならないと. すると、金銭等以外のすべての積極財産が換価されるまで、これを実施できな. いことになる。しかしそれでは、相続債権者は、限定承認者等が既になされ. た一部の相続財産の換価によって得られた売却代金を消費してしまわないかと. いう不安に駆られるであろう 26)。そしてなによりも、相続債権者にとっては、. すべての積極財産の換価がなされてから一括して配当弁済を受けるよりも、た. とえ一部ずつであっても、受けられる弁済から受けるほうが利益になる。一方、. 限定承認者等は、請求申出期間満了後は、相続債権者からの弁済要求を拒絶で. きない(民928条参照。詳細については 5(1)ⅱ参照)。これらのことを考慮. すると、筆者は、限定承認による清算手続において、積極財産中の一部が早期. に換価され、他の積極財産の換価に長い時間がかかることが予想される場合に. は、中間配当が可能である考える。すなわち、このような場合、限定承認者は. みずから中間配当をすることができ 27)、また、相続債権者から中間配当の形. . 25)��このことは、既に、栗田・前掲注(1)限定承認された相続財産の清算5頁が指摘している。. 26)注(25)と同じ。. 27)��臼田・前掲注(15)73頁、栗田・前掲注(1)限定承認された相続財産の清算5頁、南. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 18. での債権の一部の配当弁済を要求されたなら、この要求を拒絶することができ. ない。. (b)中間配当、すなわち数次にわたる弁済がなされる場合、各回における. 弁済は配当弁済率にしたがって行われなれなければならない。ある回で配当弁. 済率に反する弁済がなされても、その後の弁済のさいに調整して、最終的に各. 相続債権者に配当弁済率にしたがった満足を得させて、帳尻を合せればいいと. いうわけではない(この点については、Ⅲ2(3)ⅱ(d)で再度論じる)。. 5 弁済拒絶権 1で述べたように、限定承認者等は請求申出期間内は弁済拒絶権を有してい. る(民928条)。限定承認による清算手続と民事執行手続の関係を検討するに. あたっても当然この弁済拒絶権を考慮しなければならない。そのさい、弁済拒. 絶権はどの期間に存在するか、すなわち弁済拒絶権の始期と終期が問題になる。. また、弁済拒絶に関しては、相続人は限定承認の申述をする前の熟慮期間中(民. 915条 1項)にも弁済を拒絶できるかということも、問題になる(熟慮期間中. の弁済拒絶権の有無)。. (1)限定承認者等の弁済拒絶権. ⅰ 弁済拒絶権の始期. 民法928条が規定する限定承認者等の弁済拒絶権の始期については、二つの. 考え方があり得る。一つは、始期は請求申出期間の開始時であるとする考え方. であり(以下「請求申出期間開始時説」という)、他は、相続人が家庭裁判所. . ��川和茂「限定承認の実務」『現代民法学の理論と実務の交錯(高木多喜男先生古稀記念)』 386─387頁(成文堂、2001年)は、中間配当は可能であると解している。それに対して、 加藤和夫「限定承認と相殺の禁止」近藤完爾=浅沼武編『民事法の諸問題Ⅱ』159頁注(4). (判例タイムズ社、1966年。初出、判タ 172号〈1965年〉)は、限定承認による清算手続 では中間配当は、簡易な手続という目的に適しないとの理由で、認めない主旨であろう。. 限定承認による清算手続と民事執行手続. 19. に限定承認の申述をした時であるする考え方である(以下「限定承認申述時説」. という)28)。両説の実際上の違いは、限定承認の申述(民 924条、家事 39条・. 別表第 1〈92の項〉)がなされてからその公告がなされるまでの間(民927条. 1項前段・936条 3項後段)、弁済拒絶権が請求申出期間開始時説によると認め. られないのに対して、限定承認申述時説によれば認められることにある。. 限定承認者に弁済拒絶権を付与する民法928条・927条 1項の文言は、弁済. 拒絶権の始期がいつであるかを明確にしていないので、この点は、限定承認者. への弁済拒絶権付与の目的を考慮して決めることになる。弁済拒絶権は請求申. 出期間満了前の弁済によって適正な配当弁済が阻害されることの回避を目的と. している。限定承認の申述とその公告のあいだでも、弁済がなされれば、適正. な配当弁済が阻害される可能性がある。したがって筆者は限定承認申述時説を. 支持する 29)。. ⅱ 弁済拒絶権の終期. 弁済拒絶権の期間満了後につき、判例は「相続財産ノ数額若クハ相続債務ノ. 総額ノ確定セサルコトヲ口実トシテ弁済ヲ拒ムコトヲ得」ないという、厳格な. 見解を採っている 30)。これに対して学説上は、相続財産の状態は請求申出期. . 28)��本文に示されている二つの考え方があると指摘したのは、栗田・前掲注(16)限定承認 と相続債権の行使(上)8頁である。この論文では、請求申出期間開始時説を採る文献 として、中川編・註釋(上)274頁〔山畠〕、中川淳『相続法逐条解説(中巻)』108頁(日 本加除出版、1990年)が、限定承認申述時説を採る文献として梅謙・前掲注(12)186 頁が挙げられている(同論文13頁注(5)、(6))。前二者においては「債権申出期間中の 弁済拒絶(権)」という表記がなされており、栗田教授は、これを文字おどりに受け取れば、 これらは請求申出期間開始時説を採ったものとみることができると述べている。これら の文献においては弁済拒絶権の始期についての検討がなされていないので、著者たちが 限定承認申述時説の排斥まで考えていなかった可能性もある。それゆえ、これらの文献 が請求申出期間開始時説を採っていると解することができるのは、栗田教授が述べてい るように、その表記を文字おどりに受け取った場合においてである。. 29)同旨、栗田・前掲注(16)限定承認と相続債権の行使(上)9頁。. 30)��大判大正 4年 3月 8日民録 21輯 289頁(296頁)。その原審である東京地判大正3年 8. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 20. 間満了後必ずしもすぐに判明するわけではなく、それが判明するまでは限定承. 認者等には弁済の拒絶が認められるべきであるとの理由で、前記判例に批判的. な見解 31)が有力であり、多数説であるといえよう 32)。. この点について筆者は以下のように考える。. まず一般論であるが、債務者は、債務の額が確定していなければ、弁済する. ことができない。また、法は人に不可能を強いることはできない。この一般論. を限定承認による清算に当てはめると、配当弁済額が確定していないあいだは、. 限定承認者等は弁済をする法的義務を負わされることはなく、それゆえ弁済の. 拒絶が認められることになる。そこで次に、配当弁済額はいつ確定されるのか. が、問題になる。. 各相続債権者に支払われるべき配当弁済額は、相続財産中の積極財産の総額. に当該相続債権者への配当弁済率を乗じて算出される。そして、配当弁済率は、. . ��月 5日新聞 970号 25頁、大判昭和 6年 5月 1日民集 10巻 297頁も同旨である。最高裁 判例としては、最判昭和61年 3月 20日民集 40巻 2号 450頁(457頁)も同様の見解を 示している。. 31)��柳川・前掲注(12)106─107頁、近藤・前掲注(12)908頁、我妻=立石・前掲注(12) 501頁、柚木馨『判例相続法論』268頁(有斐閣、1953年)、中川編・註釋(上)274─ 275頁〔山畠〕、山崎邦彦「限定承認」『家族法大系Ⅶ(相続(2))』92頁(有斐閣、1960年)、 同「限定承認」『現代家族法大系5(相続 2)遺産分割・遺言等』174頁(有斐閣、1979 年)(本稿ではこの後も、山崎邦彦教授の同じ標題の二編の論文が引用される。以下では、 収録された論文集の標題により、「山崎・前掲注(31)家族法大系Ⅶ」「山崎・前掲注(31) 現代家族法大系 5」と表記する)、中川(淳)・前掲注(28)112頁、谷口編・注釈民法(25). [増補]410─411頁〔岡垣〕、南川・前掲注(27)383頁、谷口=久貴編・新版注釈民法(27) [補訂版]574─575頁〔松原〕、潮見編・新注釈民法(19)593─594頁〔中島〕。雉本朗造「判 批」『判例批評録第3巻』103頁以下(宝文館、1929年)も判旨に反対している。. 32)��なお、中川善之助=泉久雄『相続法』420頁注(一)(有斐閣、第 4版、2000年)は、請 求申出期間満了後も弁済額の計算ができないあいだは、弁済しなくても遅延の責めを負 わないので、弁済を拒絶できると構成する必要はないとする。このような考え方に対し ては、弁済拒絶を否定しつつ、弁済遅延の責任を免れさせるのは、一貫性を欠くとの批 判がある(谷口=久貴編・新版注釈民法(27)[補訂版]575頁〔松原〕、潮見編・新注 釈民法(19)593頁〔中島〕)。筆者も、この批判は正しいと考える。. 限定承認による清算手続と民事執行手続. 21. 各相続債権者の債権額を全相続債権者の債権額の総計(被相続人の全債務額). で割った商である。すなわち、配当弁済額は、積極財産の総額、各相続債権者. の債権額、相続債権者の債権額の総計の三つの要素によって算出される。. それらのうちまず各相続債権者の債権額に関しては、限定承認者等と相続債. 権者の間でその存否または額が争われている場合、債権額はいつ確定するのか. が、問題になり得る。このこととの関連で、前述のように(2(1)(a))、存否・. 額について争いがある相続債権はこれらが民事訴訟によって確定されてから、. 弁済されるべきだという見解がある。この見解は争いのある相続債権の存否・. 額は既判力ある裁判によって確定するまでは、未確定であるということを前提. にしていると考えられる。しかし、筆者は、前述のように、この見解を採らず、. 限定承認による清算手続おいては、相続財産の存否・額に関しては限定承認者. 等の考えにしたがって処理がなされるべきであると考えている。この考えによ. れば、各相続債権者の債権額は請求申出期間の満了後それほど長い期間を経ず. に判明するであろう。限定承認者等が債権の存否または額の確認に、多少の手. 間がかかることはあり得るが、それにさほど長い期間を要することは通常考え. られない。. 次に、全相続債権者の債権額も、各相続債権者の額の単純な総計であるから、. 基本的には、各相続債権者それぞれの債権額がすべて確定すれば、自動的に確. 定するはずである。ただし、相続債権者が多数いるケースでは、債権額の総計. を計算するのに多少時間がかかることはあり得よう。そのようなケースでは、. 計算が完了するまで配当弁済額は確定できない。しかし、この計算にもそれほ. ど長い期間を要するとは考えられない。. 最後に積極財産の総計であるが、積極財産に関する事項は限定承認者側の領. 域内のことなので、限定承認者等がこれを知ることも容易であると思われるか. もしれない。しかし、相続人が必ずしも相続開始の当初からすべての積極財産. の存在を知っているとはかぎらない。また、存在を知っている積極財産であっ. ても、その価格を知っているとはかぎらない。もとより相続人が個々の積極財. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 22. 産の価格について予想することはあるが、それはあくまで予想であって、実際. に換価しなければ、配当弁済の原資になる金額がいくらであるかは判明しない。. 換価は、筆者の見解によれば、1で述べたように、競売か鑑定人の評価にした. がった弁済によらなければならない。しかし実務上は任意売却によることが多. い。いずれの方法によるにせよ、換価または評価がなされてはじめてその財産. の価格が判明する。そうであれば、個々の積極財産の価格の総計である積極財. 産の総額は、金銭等以外のすべての積極財産が換価されるまで、算定できず、. それまでは限定承認者等に弁済拒絶が認められるという考えが、成り立つよう. に思われるかもしれない。. しかし、4(a)で述べたように、配当弁済は必ずしも一回で一挙に実施しな. ければならないものではなく、むしろ、債務者である限定承認者等は請求申出. 期間満了後は相続債権者に対して可能であれば中間配当によってでも弁済をな. すべき義務を負っている。言い換えれば、限定承認者等は、一部の積極財産が. 換価できず、それゆえ積極財産の総額が確定しないことを理由に(口実にして)、. 弁済を拒絶することはできない。. 以上の論述を要約すると、積極財産の中に換価のため長い期間を要するもの. があること、それゆえ相続財産の総額が判明していないことは、弁済拒絶を認. める理由にならないが、相続債権の存否および額の確認ならびに総額の算定に. 時間がかかる場合には、その算定ができるまでのあいだ弁済拒絶を認めること. ができるということになる。. 筆者の見解は、このように請求申出期間満了後も限定承認者等はある期間内. は弁済を拒絶できると解する点で、前述の判例に批判的な学説と同じであると. 思われるかもしれないが、以下の二点においてこれと異なる。. まず一点は、弁済拒絶が認めらるのは、相続財産中の積極財産の総額を算定. するための期間ではなく、個々の相続債権者の債権額の総額を確定するための. 期間であり、それはそれほど長くはならないと推測されることである。. もう一点は、限定承認者等が弁済を拒絶できる理由についてである。従来の. 限定承認による清算手続と民事執行手続. 23. 学説の中には理由を信義則に求めているものが多い 33)。筆者は、理由は、前. 述のように、法は人に不可能を強いることができないという一般的な法原則で. あって、信義則、すなわち、人は他者との関係で信義にしたがい誠実に行動し. なければならないという、当事者間相互間に妥当する規範ではないと考える。. (2)熟慮期間中の相続人の弁済拒絶権. 請求申出期間内に限定承認者等に弁済拒絶権が付与されているならば、熟慮. 期間(民915条 1項)中の相続人にも弁済拒絶権が付与されてしかるべきでは. ないかという、考えが生じるであろう。. 請求申出期間中相続人に弁済拒絶権が付与されているのは、前述のように、. この期間内の弁済により適正な配当弁済の実施が阻害されることの回避を目的. としている。熟慮期間内に相続人が一部の相続債権者に弁済した後、限定承認. をした場合にも、適正な配当弁済の実施が阻害される可能性がある。このよう. に、請求申出期間内の限定承認者等による弁済も熟慮期間内の相続人による弁. 済も、適正な配当弁済を阻害する可能性がある点で共通している。そうであれ. ば、熟慮期間中の弁済拒絶権は請求申出期間内の弁済拒絶権を規定する民法. 928条の類推によって認めることができる。. 栗田隆教授は、結論において熟慮期間中の相続人の弁済拒絶権を認めるので. あるが、その理由を民法928条の適用に求めることに反対し、熟慮期間中の弁. 済が民法921条 1号本文が定める法定単純承認事由に該当することに求めてい. る 34)。. まず、民法 928条の適用についてであるが、たしかに同条は限定承認者に弁. 済拒絶権を付与する規定である。同条の文言も「限定承認者 4 4 4 4 4. は‥‥弁済を拒む. . 33)��注(31)に掲げられた学説のうち、柚木、中川(淳)、谷口編・注釈民法(25)[増補]〔岡 垣〕、谷口=久貴編・新版注釈民法(27)〔松原〕、潮見編・新注釈民法(19)〔中島〕。. 34)栗田・前掲注(16)限定承認と相続債権の行使(上)9─10頁。. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 24. ことができる」(傍点筆者)である。しかし、ここでは熟慮期間中の弁済拒絶. に民法928条を類推できるかということが問題になっている。法規の類推とは、. 法規をその本来の適用対象でない事項に適用することであるから、類推される. 規定が類推により適用される事項を本来の適用対象としていないことは、当然. のことである。そして、前述のように、熟慮期間中の相続人に弁済拒絶権を付. 与しようとするのは、適正な配当弁済実施の阻害を回避するためであるという. 点で、限定承認者等への弁済拒絶権の付与と目的が共通である。そうであると. すれば、前者について明文規定がなければ、後者についての明文規定を前者に. 類推することは可能である。. 次に、熟慮期間中の弁済が民法 921条 1号本文の単純承認事由に該当する. ということであるが、それは、熟慮期間中に相続人が弁済すると、法定単純. 承認とみなされてしまうので 35)、そうなるのを避けるために、相続人に弁済. 拒絶権を付与しようとの趣旨であると解される。このように、弁済が法定単. 純承認事由とみなされることが、相続人に弁済拒絶権を付与する根拠である. と考えるのは、相続人の利益を擁護しようとする立場からの発想である。し. かし、熟慮期間中の相続人への弁済拒絶権付与は、相続人の利益の擁護とい. うより、相続人が限定承認をした場合の適正な配当弁済の実現を保証するこ. とにある。そうであるとすれば、その理由を同じ目的のために設けられた民. 法 928条の類推に求めるほうが、相続に関する法の規律全体に無理なく適合. しているといえる。. なお、熟慮期間中の相続人の弁済拒絶権を認めるならば既に限定承認申述の. 意思を固めた相続人、または限定承認申述をするかどうか検討中の相続人のみ. . 35)��熟慮期間中の弁済が法定単純承認事由に該当するか否かについては、議論がある。それ については栗田・前掲注(16)限定承認と相続債権の行使(上)8─10頁、13頁注(7)─. (11)参照。なお、大判昭和12年 1月 30日民集 16巻 1頁は、相続人が被相続人のなし た代物弁済予約に基づいて行った相続財産に属する不動産の売却を法定単純承認事由に 当るとした。. 限定承認による清算手続と民事執行手続. 25. ならず、相続財産の状況が良好であることが明白であるので、単純相続をしよ. うと考えている相続人が、相続債務の弁済を先延ばしにするためだけに、弁済. 拒絶権を行使するという、道義的にもまた妥当性の観点からも好ましくない事. 態が生じることもあり得る。もっとも、そのような事態はそう頻繁には生じな. いであろうが、万一それが生じたなら、弁済拒絶権の行使は、権利の濫用であ. る、または信義則に反するとして、許されないことになる。. Ⅲ 限定承認による清算手続と執行手続の競合. 1 競合する両手続の基本的関係 (1)両手続の優劣. (a)強制執行(金銭執行)手続開始後に執行債務者が死亡し、相続人が限定. 承認をした場合、執行手続と限定承認による清算手続がいかなる関係になるか、. とくに両手続の優劣が問題になる。. この点については、次の三つの考え方がある 36)。すなわち、①執行手続開. 始後に限定承認がなされても、それだけでは執行手続を停止することはできな. . 36)��最初にあり得る考え方を明確にこの三つに分類したのは、香川保一監修『注釈民事執行 法(2)』627─628頁〔富越和厚〕(金融財政事情研究会、1985年)(以下「香川監修・注 釈民執(2)」と表記する)における富越氏である。以後、学説においてもこの分類が踏 襲されている。石渡哲「判批」判評325号 48─49頁(判時 1177号 210─211頁。以下の引 用においては判評 325号の頁番号を記載する)(1986年)、石川明ほか編『注解民事執行 法(上巻)』443頁〔小川浩〕(青林書院、1991年)、志田・前掲注(24)19─20頁、南川・ 前掲注(27)390─391頁。ただし、各考え方に付けられている名称は文献によって異なる。. �� しかし既に、富越氏による分類の前に、野田愛子「限定承認清算手続を促進する手段」 東京家庭裁判所身分法研究会編『家事事件の研究(1)』297頁(有斐閣、1970年。初出、 ジュリ 312号〈1964年〉)が、この点に関してあり得る考え方として執行手続優位説と 清算手続優位説に当たる考え方を示していた。ただし、野田氏は折衷説に当る考え方に は言及していない。. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 26. いという考え方(執行手続が限定承認による清算手続に優先するという意味で、. 以下「執行手続優位説」という)。②既に開始されている執行手続は、限定承. 認がなされると、排除されるという考え方(限定承認による清算手続が執行手. 続に優先するという意味で、以下「清算手続優位説」という)。③限定承認が. なされても民事執行手続は続行するとしながら──この点では執行手続優位. 説と同じである──、限定承認者等の申出または換価のための競売の申立て. (民932条、民執 195条)がなされた場合には、売却代金から執行費用および. 優先債権者への弁済をしてなお残余があれば、これを限定承認者等に清算のた. めに交付するという考え方(以下「折衷説」という)である。ただし、三つの. 考え方のうち、公刊された学説、下級審裁判例(この問題に関して判例は、管. 見の及ぶかぎり、ない)および先例はいずれも執行手続優位説を採っており37)、. 清算手続優位説、折衷説を採るものは管見の及ぶかぎり存在しない 38)。ただし、. やや古い文献ではあるが、実務家と学者の中には清算手続優位説を支持する者. . 37)��香川監修・注釈民執(2)628頁〔富越〕、石渡・前掲注(36)49頁、石川ほか編・前掲注(36) 439頁〔小川〕、志田・前掲注(24)23─25頁、南川・前掲注(27)391─392頁、竹下守 夫「判批」伊藤眞ほか編『民事執行・保全判例百選(別冊ジュリストNo.177)』41頁(有 斐閣、2005年)。潮見編・新注釈民法(19)592頁〔中島〕は、三分類には言及していな いが、執行手続優位説を採っていると解される。前掲注(6)大阪高判昭和 60年 1月 31日、 東京地判平成 3年 6月 28日判時 1414号 84頁=判タ 781号 216頁=金法 1317号 31頁= 金判 893号 28頁も同様である。. �� 次の裁判例、先例、学説は、富越氏による三分類が行われる前に発表されたものであ るが、限定承認がなされても、強制執行は可能である、またはそのまま続行できるとし ているので、執行手続優位説を採っていると解される。前掲注(30)東京地判大正 3年 8月 5日、昭和 8年 11月 29日民事甲 1266号民事局長回答・通達回答集 107頁、中川編・ 註釋(上)275頁注(8)〔山畠〕、野田・前掲注(36)298頁、谷口編・注釈民法(25)[増 補]410頁〔岡垣〕、岡部喜代子「限定承認による相続財産換価のための競売手続」司研 71号 41頁(1983年)。. 38)��ただし、前掲注(6)大阪高判昭和 61年 1月 31日は配当異議訴訟の控訴審判決であるが、 執行裁判所は折衷説にしたがって配当表を作成し、第一審も同説にしたがって配当異議 請求を棄却した(高民集38巻 1号 25頁以下)。. 限定承認による清算手続と民事執行手続. 27. もいると報告しているものがある 39)。. 執行手続優位説と折衷説とは、民事執行手続の排除を認めない点で共通して. おり、かつ、両説と清算手続優位説とはこの点で対立している。そこでまず、. 限定承認がなされることによって民事執行手続が排除され得るか否かを検討す. る。. この点を肯定する清算手続優位説にとって、次の三点が根拠になり得るとの. 示唆がなされている 40)。第一は、請求申出期間中の弁済拒絶権に基づく執行. 手続の停止を認めることは、清算の実施のため一般債権者の執行が制限される. ことを予定するものと解されるということである。第二は、限定承認がなされ. た場合には、実体法上無名義債権者にも平等な配当がなされることが要請され. ているが、民事執行手続では、無名義債権者は配当要求をすることができない. ということである(民執51条 1項参照)。第三は、限定承認がなされた場合、. 相続財産は相続人の固有財産と分離独立し、破産財団にも似た特別の財団を構. 成し、その取扱いは財団に準じた取扱いを要請され、限定承認による清算手続. と強制執行手続の関係は破産手続と個別執行の関係(破 100条 1項・42条 41)). に準じるものとなるということである。. まず第一の根拠についてであるが、請求申出期間満了後は限定承認者等の弁. 済拒絶権は消滅するのであるから、これが存在している同期間満了前と満了後. . 39)��野田愛子氏は、1964年に法律誌(ジュリ)上に公刊され、1970年に出版された書籍に収 録された論文おいて、東京家庭裁判所で裁判官と学者が共同で行った研究会で、清算手 続優位説の支持者も多かったと述べている(野田・前掲注(36)298頁。同書・序 1頁 参照)。. 40)��以下の理由のうち第一点、第二点は香川監修・注釈民執(2)627─628〔富越〕が、第三 点は野田・前掲注(36)297頁が示唆している。ただし、いずれの文献も、注(37)で 示したように、執行手続優位説を支持している。志田・前掲注(24)21頁も各説の根拠 を示している。. 41)��野田・前掲注(36)297頁においては、現行破産法 100条 1項・42条に当る、旧破産法(当 時の現行法)16条・70条が参照される条文として挙げられている。. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 28. とを同列に論じることはできない。それゆえ、第一の根拠は成り立たない。. 第二の根拠の意味するところは、執行手続を続行(強行)するならば、その. 結果が、実体法である民法が定めるところと乖離するということであろう。た. しかに、このような乖離が生じることは否定できない。しかし、この点につい. ては次のことを考えるべきである。すなわち、現行法のもとでは、民執法41. 条が、執行開始後に執行債務者が死亡しても執行手続は続行されると規定して. いるが、一方で、執行手続と限定承認による清算手続とを調整する規定が設け. られていない。そして、執行機関は、執行債務者の相続人が限定承認をしたか. 否かを調査する義務を負わず、かつ調査する権限も持っていない。これらのこ. とから、第二の根拠も成り立たない。. 第三の根拠については、私的な弁済の手続である限定承認による清算手続を. 公的清算手続である破産手続と同列に置くことには無理があり、やはりこの根. 拠も成り立たないといえる。. このように、清算手続優位説を採ることはできない。そこで次に、執行手続. 優位説と折衷説のいずれが正しいかを検討する。両説の具体的な違いは、強制. 執行手続としての競売を続行したうえで、売却代金から執行費用と、特別担保. 権者がいれば、これに弁済し、なお残余がある場合、それを差押債権者や配当. 要求をした相続債権者(以下「執行債権者である相続債権者」という。執行手. 続完了後は「執行債権者であった相続債権者」という)に配当ないし交付(以. 下「配当・交付」という 42))するか(執行手続優位説)、限定承認者等に交付. するか(折衷説)である。. . 42)��配当要求が申し立てられていない場合や、申し立てられていても、売却代金が差押債権 者と配当要求をした者の総債権の全額を弁済できる場合になされるのは、「交付」であ り、そうでない場合になされるのが「配当」である(民執84条 1項─ 3項参照)。本文 では「配当・交付」という表記がなされているが、それは一つの手続の中で配当と交付 の双方がなされるいう意味ではなく、実際の個々の手続でなされるのはいずれか一方で ある。. 限定承認による清算手続と民事執行手続. 29. 折衷説の処理は、強制執行による競売を実施しながら、売却代金は、これを. 限定承認による清算手続の原資にするために、限定承認者等に交付するという. ことである。こうすれば、強制執行手続をとおして実体法が定める法律状態が. 形成されるのであるから、折衷説は合理的であると思われるかもしれない。し. かし、そこにこそこの説の問題点がある。なぜなら、折衷説によるこのような. 処理は、実質的には、相続債権者の申立てによって開始された執行手続を配当. の段階から自動的に限定承認による清算手続に変更させることである 43)。そ. のようなことは、それを認める明文規定があれば格別、それがない現行法のも. とでは、認められない。. 折衷説を否定する理由としては、転付命令のように執行機関が売却代金を把. 握できない場合、折衷説による処理ができないことが挙げられている 44)。こ. のことも折衷説を採ることのできない理由になる。. 要するに、筆者は執行手続優位説を支持する 45)。同説によると、強制執行. 手続の開始後に債務者が死亡し、限定承認がなされた場合、そのことだけで強. 制執行手続が停止することはなく、当該執行手続における売却代金を執行費用. と特別担保権者への弁済に充てた残余は執行債権者である相続債権者に当該執. . 43)志田・前掲注(24)24頁は、表現は異なるが、同じ解釈であろう。. 44)��香川監修・注釈民執(2)628頁〔富越〕、志田・前掲注(24)24─25頁、南川・前掲注(27) 392頁。. 45)��筆者はかつて、折衷説を批判する理由として、同説は、強制執行で配当要求をした相続 債権者のみに売却代金が交付されると、限定承認による清算手続が目指した平等な弁済 が実現しなくなることを前提にしているのであろうが、平等な弁済はすべての相続財産 をもって行われるべきであって、たまたま強制執行の対象になった一部の相続財産の売 却代金が一部の相続債権者に配当・交付されても、最終的に各相続債権者に平等な弁済 がなされる余地は残っているということを挙げた(石渡・前掲注(36)49頁)。しかし 現在筆者は、相続債権者が個々の積極財産に対して強制執行をした場合、相続債権者は 実体法上その執行においても配当弁済率にしたがった配当・交付しか受けられないと考 えているので(Ⅱ4(b)、本節 2(3)ⅱ(d)および注(72)参照)、同説に対するこの 批判は撤回する──折衷説に賛成しているわけではないが──。. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 30. 行手続上の配当率(その執行手続での執行債権者である相続債権者たちの債. 権の総額に対する個々の執行債権者である相続債権者の債権額の割合)にした. がって配当される(以下この配当を「執行配当」と、この配当率を「執行配当. 率」いう)。したがって、限定承認の効果は執行手続に反映されない。. 執行手続優位説のこのような結論を前提にして、限定承認者等は知れてい. る債権者に配当要求をするよう勧誘することが望ましいという提案がある 46)。. たしかにこのような措置により、強制執行手続に限定承認の効果をある程度反. 映させることができる。しかし、勧誘された相続債権者が必ずしも勧誘に応じ. るとはかぎらないので、筆者はこのような勧誘がこの場合の最善の措置である. とは考えない。それよりは、限定承認者等が、後述のように(2(3))、請求異. 議の訴えを提起すれば、限定承認の効果を民事執行手続により確実に反映させ. ることができる。しかし、さらに、限定承認者等は、後述のように(2(4))、. 相続財産について破産手続開始

参照

関連したドキュメント

WEB 申請を開始する前に、申請資格を満たしているかを HP の 2022 年度資格申請要綱(再認定)より必ずご確

何日受付第何号の登記識別情報に関する証明の請求については,請求人は,請求人

(1) 会社更生法(平成 14 年法律第 154 号)に基づき更生手続開始の申立がなされている者又は 民事再生法(平成 11 年法律第

対象期間を越えて行われる同一事業についても申請することができます。た

私たちは、私たちの先人たちにより幾世代 にわたって、受け継ぎ、伝え残されてきた伝

それに対して現行民法では︑要素の錯誤が発生した場合には錯誤による無効を承認している︒ここでいう要素の錯

者は買受人の所有権取得を争えるのではなかろうか︒執行停止の手続をとらなければ︑競売手続が進行して完結し︑

この届出者欄には、住所及び氏名を記載の上、押印又は署名のいずれかを選択す