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心理臨床場面における共在の治療的意味についての探索的研究

キーワード:探索的研究,治療的意味,遠隔カウンセリング 人間共生システム専攻 田代 結芽 I. 問題と目的 1. 心理臨床と共在 ⼼理療法において,クライエントとセラピストは時間 と空間を共有し,⾯接という共同作業を⾏う。この,時 間と空間を共有することを本研究では〈共在〉とする。 この〈共在〉は,⼼理臨床において根本的な前提だと ⾔えるが,その前提に近年揺らぎが⽣じている。それは 電⼦メディアの浸透と発展によるものである。⼼理療法 では,⾯接室とセラピストといった,⽇常と切り離され た空間や⼈間関係が治療的意味を持つ。しかし電⼦メデ ィアの浸透により,⾃分の部屋にいながらも,電⼦空間 といった⽇常とは異なる世界で,⽇常では関わりのない ⼈々と交流することは⼀般的になり,これは⼼理療法で なくでもできるようになったとも⾔える。 また,電⼦メディアの発展が,⼼理臨床に新しい姿を もたらしている。⾮共在でのカウンセリングはこれまで も,電話やメールなどによるものはあった。しかしその 特徴は,即時性や⼿軽さにあり,対⾯⾯接とは異なるニ ーズがあるといえる。それに対しテレビ電話が出現した ことにより,離れていながらも対⾯⾯接のように継続し た治療関係を結び,カウンセリングを⾏うことが可能に なった。パソコンなどによりテレビ電話が⼀般化したこ とで,テレビ電話はカウンセリングを受けるための現実 的な⼿段の⼀つとなったのだ。 では,このような便利な⼿段ができたにも関わらず, なぜ直接会う⾯接が減らないのだろうか。それは,⼼理 療法にとって「便利さ」が必ずしもメリットになるわけ ではないからであろう。例えば,遠⽅から時間をかけて 来てもらうなど,その「不便さ」が治療的に意味を持つ 場合がある。電⼦メディアの発展があるまでは,こうい った「不便さ」はセラピストが意図せずとも治療の⼀つ として機能していた。しかし,便利な⼿段ができたから こそ,我々はこの「不便さ」に明確な意図を持つ必要が あるのではないだろうか。 ⼤⼭(2004)は,電⼦メディアの浸透は⼼理療法の終 焉を意味するわけではなく,むしろ⼼理療法家に⼼理療 法の本質について再考を要請するものであると述べてい る。そしてこれは,電⼦メディアの発展による「便利な カウンセリング」が出現したことにも共通すると筆者は 考える。そこで,本研究では⼼理療法における「不便さ」 の中でも,⼼理療法の根本的前提としての〈共在〉を取 り上げ,その治療的意味について検討を⾏う。 2. メディアを介した心理臨床 〈共在〉の治療的意味を検討する上で,⾮共在のテレ ビ電話カウンセリングと⽐較することは有効な⼿段であ るだろう。理論的研究では,徳⽥(2000)がウィニコ ットの潜在空間の概念を⽤い,メディアを介した⾯接で は潜在空間としての⾯接の場が不完全であると指摘して いる。その理由として,セラピストとクライエントが物 理的に同じ場所にいるか否かということを挙げている。 実証的研究では,テレビ電話による⾯接は対⾯に近い 効果が得られることが報告されている(柿井,1997; 村瀬,2006;岡本ら,2008)。その⼀⽅で⾮⾔語的な⾯ で伝わりにくい何かがある(徳⽥,1998)とも⾔われ ており,研究者の⽴場は異なっている。しかし,これら の実証的研究からだけでは〈共在〉の治療的意味を⾔い 表すことができているとはいえないのが現状である。 3. 本研究の意義と目的 これらの先⾏研究は効果研究であり,共在と⾮共在で の⾯接の効果の違いは明らかにはなっているものの,効 果を⽣み出す背景にどのような性質があるかは明らかに できていない。そこで,本研究では現象学的なアプロー チを⽤いる。現象学の⽬的は,⽇常的な⽣活経験の現象 について詳細な記述を⾏い,現象の本質的構造に関する 理解に到達すること(McLeod,2007)とされている。 そのため,現象学的アプローチにて〈共在〉の性質につ いて知⾒を得ることで,その性質がどのような治療的意 味を持つのかを検討していく。 そもそも〈共在〉について,なぜ今まで明確な⾔葉で 語られてこなかったのだろうか。それは〈共在〉に似た 状態がなかったからである。離れた場所でコミュニケー ションをとれるようにはなっても,それは〈共在〉とは 全く別のものであった。しかし,テレビ電話の普及と⼀ 般化により,〈共在〉していないものの対⾯できるよう

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2 になった。つまり,〈共在〉と対⾯に乖離が⽣じたので ある。そのような今こそ,〈共在〉の持つ性質を明らか にし,⼼理臨床場⾯にどのような治療的意味をもたらし ているかを明らかにする意義があるのではないか。 そこで,本研究は,〈共在〉という状態の性質につい て知⾒を得,⼼理臨床場⾯における〈共在〉の治療的意 味についての仮説を得るために現象学的アプローチを⽤ いて探索的研究を⾏うことを⽬的とする。 II. 方法 1. 方法論 本研究では,実証的現象学的な⽅法を⽤いる。実証的 現象学は,「研究の対象となっている現象の本質を,研 究協⼒者が経験しているあり⽅で,解明すること」 (McLeod,2007)とされている。そのため本研究で は,研究者によって⼆条件の対称的な場⾯設定を⾏い, そこでの体験を協⼒者に語ってもらい,⽐較検討する。 調査協⼒者に体験してもらう場⾯として,⼼理臨床の近 似場⾯を設定する。臨床場⾯ではなく近似場⾯を設定し た理由は,〈共在〉の性質と,⼼理臨床の性質が混同さ れないようにするためである。 今回,⼼理臨床に近似した場⾯として物語の朗読を採 ⽤した。⼼理臨床場⾯においてクライエントから創り出 されるものは物語の形式がとられているということは多 くの⼼理臨床家の間で了解されていることである。その 物語に対して,セラピストはじっと⽿を傾けることや, 創作を⾒守ることが求められる。物語の朗読は,読まれ るものが物語の形式をとっており,そして読む(語る) ―聞くという役割が明確になっている。そのため物語の 朗読を⼼理臨床の近似場⾯として採⽤した。朗読する物 語は,⼼理臨床場⾯でクライエントから語られることは その⼈⾃⾝の物語であるため,「⾃分にとって⼤切な 本」を協⼒者⾃⾝に選定をしてもらった。また,⼼理臨 床場⾯において,クライエントが「物語」を語るような 関係をつくることが⼤事である(河合,2001)ことか ら,⾃分にとって⼤切な物語の朗読をしてもいいと思え る聞き⼿も,協⼒者⾃⾝に選定してもらった。 2. 調査方法 (1)調査対象者 ⼤学⽣・⼤学院⽣の 3 組 6 名のペアに調査を実施。 また,Moese(1994)は,インタビュイーの直接経験に 焦点を当てた研究を⾏う場合,次のような属性が必要で あるとしている(表1)。条件3〜5は各協⼒者満たして いると考えられる。条件2については,内省を促すよう な質問項⽬を筆者が⽤意した。条件1は,本調査では① ⾃分にとって⼤切な本を朗読した②相⼿が,物語を語る にふさわしい相⼿であった,の2点がそれにあたる。こ の条件については,調査実施後にしか確認ができないた め,調査実施後に分析対象者の選定をすることとした。 (2)調査手順 2名1組のペアに同室条件(共在)と別室条件(⾮共 在)の⼆条件で朗読とその聞き⼿をしてもらい,各条件 後に半構造化インタビューを⾏った(表2・表3)。 ⼆条件は別⽇程で実施し,別室条件ではスカイプを⽤い た。朗読中の様⼦はビデオカメラで撮影し,インタビュ ーは IC レコーダーで⾳声の録⾳を⾏なった。 3. 分析方法 実証的現象学的の⽅法を参考に(表4)分析を⾏った。 まず,調査とインタビューの逐語録を作成した。次に逐 語録を精読し,調査時の朗読ややりとりの図表化を⾏っ た。インタビューの内容も併記した。その図表と逐語録 を⽤いて⼆条件の⽐較を⾏い,特徴的な部分を抽出し, その差異について分析を⾏った。 4. 倫理的配慮 本研究は九州⼤学臨床⼼理学講座研究倫理員会の承認 を受けて実施。協⼒者には調査の中断の権利があること を⽰した。また,持参してもらう本の内容によっては, 協⼒者の参加の可否について検討を⾏うとした。 表 1 インタビュイーに必要な属性(Morse,1994;能智訳) 1 0 0 0 0 5 5 表 2 教示内容 5 1 1 表 3 インタビューの内容 , ) , ) , ) , ) ) , ) , ) 表 4 実証的現象学の手続き

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3 III. 結果 1. 分析対象の選定 ⾃分にとって⼤切な本・物語が選定されていたか,聞 き⼿がふさわしい相⼿であったかの 2 点について確認し, 調査協⼒者がインタビュイーの条件を満たしていたかの 検討を⾏った。その結果ペア B は条件を満たしているか が不明であったため,条件を明確に満たしたとされるペ ア A とペア C を分析対象とした。 2. ペア A の結果 (1) ペア A の概要 ペア A は男性ペアであり,1 回⽬に別室条件,2 回⽬ に同室条件を⾏い,⼆条件は 3 ⽇の間隔を開けて実施し た。朗読者 A の持参した本はレイ・ブラッドベリ著「ウ は宇宙船のウ」(⼤⻄尹明訳,2006)である。 (2) ペア A の特徴:ペア A の特徴を表5に⽰す。 3. ペア C の結果 (1) ペア C の概要 ペア C は男性ペアであり,1 回目に同室条件,2 回目 に別室条件を行い,二条件は3 日の間隔を開けて実施し た。朗読者C は江戸川乱歩作「人間椅子」を二条件とも 朗読している。「人間椅子」は短編の物語であることから, 一条件目の時点で朗読者C は抜粋しながら,物語を全て 朗読している。そのため,ペアC は回数の影響も受けて いる可能性がある。また,二条件目時朗読者が本の持参 を忘れたため,本のコピーを用いて朗読している。 (2) ペア C の特徴:ペア C の特徴を表 6 に⽰す。 Ⅳ. 考察 1. 〈共在〉の性質 (1) おさめること 各ペアの朗読の終わり⽅を⾒ると,共在時には朗読者 が 15 分の時間の中で主体的に物語を完結させようとし ていたことが伺える。⼀⽅で,⾮共在時はどちらも時間 になるまで読む,という形で朗読しており,朗読者が 15 分という時間に左右されていたといえる。このことから, 朗読者たちは時間や物語をおさめようとしていたといえ るのではないだろうか。そのため,〈共在〉とは何かをお さめることであるのではないかと考えられた。 (2) 二者で創造すること 朗読の始まり⽅・朗読の進め⽅から,両ペアに共通し て共在時には何を語るかという点で朗読者か聞き⼿のど ちらか⼀⽅の意志が濃く反映されているということがみ られた。共在時では朗読者がここを読みたいという意志 に対して聞き⼿は同意するという形であり,それは朗読 者のペースともいえる。しかし,聞き⼿も「朗読者の⾃ 由にさせる」という形で,語りの内容に関与していると いえるのではないだろうか。本調査のように語る−聞く 表 5 ペア A の特徴 表 6 ペア C の特徴

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4 という役割が明確な場合であっても,共在時の語りは⼆ 者によって創られたといえるのではないか。⼀⽅で,⾮ 共在時には相⼿への介⼊の影響⼒が低いことが伺え,⾮ 共在には⼀⼈で物語を作ることのできる,制限のない⾃ 由があるともいえるという可能性が⽰唆された。 (3) 主観的に体験できること 聞き⼿のインタビューの語り⽅は,朗読中に印象に残 った場⾯についての語りから,共在時には聞き⼿のイン タビューでは,語りに主観的な体験が含まれていたとい える。そしてここから,共在時には聞き⼿が朗読を主観 的な体験として聞いていたということが考えられる。も しくは,聞き⽅に⼆条件で違いはないものの,体験がよ り主観的な感覚を通して語られた可能性もあるだろう。 いずれにせよ,朗読のインプットもしくはアウトプット に聞き⼿の主観的な体験が⽤いられていたといえる。 (4) ものに意味を付与させられる 調査中に印象に残ったことについての語りから,共在 と⾮共在では三項関係の中の,本の第三項としての在り ⽅に差異があったということが考えられる。浜⽥(1999) によると,三項関係には声をテーマにやりとりする三項 関係と,ものの体験をテーマにする三項関係があるとさ れている。今回の持参された本には,作品そのものと, 「朗読者の物語」という 2 つの意味があった。共在時の 語りでは,本を通してのやりとりがあげられていたが, ⾮共在時の語りでは本そのものについてか,特になしと いうことあった。この語りの差異は,朗読という声のや りとりなのか,朗読者の物語という体験のやりとりから なのか,による差異であると推察できる。つまり,共在 時には⼆つのテーマの三項関係が成り⽴っていたと考え られるが,⾮共在時には声をテーマにやりとりする三項 関係しか成り⽴っていなかった可能性が考えられた。 2. 心理臨床場面における〈共在〉の治療的意味 〈共在〉の性質について得られた可能性から,⼼理臨 床場⾯にていかなる治療的意味を持ちうるかを検討する。 「おさめること」について,⼼理臨床場⾯には,「おさ まらない」ことがある。セラピストはその「おさまらな さ」の意味を考えるが,〈共在〉が「おさめること」であ るならば,だからこそ「おさまらない」ことに意味が出 てくるのではないだろうか。 「⼆者で創造すること」については,クライエントの ⾃由度が⾼すぎると,⾃⼰開⽰が容易になり,それによ り無防備に⾃分をさらけ出し,傷つくリスクを伴う。逆 に,セラピストの⾃由度が⾼すぎると,クライエントが 望んでいない⾃⼰開⽰をさせられる恐れがある。そのた め,どちらか⼀⽅だけによって物語が進むことは危険を 伴い,だからこそ「⾃由」には制限が必要なのである。 クライエントとセラピスト,2 ⼈で物語を紡ぐことは, ⾃由への制限という治療的意味を持つのではないか。 「主観的に体験できること」について,⼼理臨床場⾯ では,主観的な体験が⼤きな意味を持つ。クライエント はセラピストと出会うことで,⾃⼰が⾃⼰として⾃覚さ れ,主観的な体験をもとに⾃らの物語を⽣成する。⼀⽅ でセラピストは主観的な体験があるからこそ,クライエ ントの感覚とぶつかったときに,クライエント理解が⽣ じる(河合,1970)。そのため,主観的体験は物語の発⽣ や,クライエント理解のために⼤きな意味を持つ。 「ものに意味を付与させられる」について,⼼理臨床 では,第三項がクライエントにとってどのような意味を 持つのかを知ることがクライエントの理解に繋がる。で はなぜ第三項が⽣じるかというと,クライエントが何ら かの理由で⼆項関係の中で表現が困難であるからだろう。 〈共在〉では第三項に意味を付与することができるから こそ,クライエントは直接的な表現以外で⾃らを表現で きる。それは時として,沈黙といった“表現しない”こと も第三項として意味が付与される。クライエントが第三 項に意味を付与し,様々な⼿段で⾃らを表現できるとい うことが,〈共在〉の治療的意味といえるだろう。 3. 関係性と〈共在〉 ここまでのことを,千野(2002)のセラピストとクラ イエントの⼆者が作る直接的関係と間接的関係という⼆ つの関係性という視点から考える。直接的関係とは,⾔ 葉のやりとりや,遊戯療法におけるキャッチボールなど, 直接的なやりとりのことを指す。テレビ電話を通じた⾯ 接は,この直接的関係をメディアを介して―間接的に成 り立たせる。“やりとり”が交互性のことを指すのであれ ば,二者で語りを創造することも,直接的なやりとりで あるといえる。情報伝達としてのやりとりであれば,お そらく電子メディアを介してでも十分に行えるのであろ う。しかし,そこに治療的な意味を生じさせるには,〈共 在〉が必要なのではないかと考えられる。 間接的関係とは,物語や遊具などを通した直接的なや りとりをしない関係のことである。直接的関係が二項的 な関係なら,間接的関係は三項的な関係であるといえる だろう。本研究では,〈共在〉によって第三項に意味を付 与できるという可能性を述べた。このことは,共在は間 接的関係を結ぶという大きな治療的意味を持つことを示 唆している。間接的な関係を成り立たせるために,直接 会うこと,つまり〈共在〉が必要なのではないだろうか。

参照

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