は じ め に 七 十 五 巻 本 ﹃ 正 法 眼 蔵 ﹄ ︵ 以 下 ﹃ 眼 蔵 ﹄ と 略 称 ︶ に 対 す る 最 古 の 註 釈 書 に 詮 慧 、 経 豪 の 両 師 等 に よ る ﹃ 正 法 眼 蔵 聞 書 抄 ﹄ ︵ 延 慶 元 年 、 一 三 〇 八 年 。 ( 1) 以 下 ﹃ 聞 書 抄 ﹄ 、 ﹁ 御 聞 書 ﹂ ﹁ 御 抄 ﹂ と 略 称 ︶ が あ る 。 本 稿 は 、 ﹃ 眼 蔵 ﹄ に お け る 道 元 禅 師 の 説 示 が 、 ﹁ 御 聞 書 ﹂ 及 び ﹁ 御 抄 ﹂ に お い て 如 何 に 解 釈 さ れ 註 釈 を 施 さ れ て い る の か 、 ま た 解 釈 姿 勢 の 特 色 と い う も の を 探 る こ と を 目 的 と し た 研 究 の 一 環 と し て 、 ﹁ 都 機 聞 書 抄 ﹂ を 選 び 卑 見 を 述 べ る も の で あ る 。 一 、 ﹁ 都 機 聞 書 ﹂ の 解 釈 に つ い て ﹃ 眼 蔵 ﹄ ﹁ 都 機 ﹂ 巻 冒 頭 で 道 元 禅 師 ︵ 以 下 禅 師 と 略 称 ︶ は ﹁ 諸 月 の 円 成 す る こ と 、 前 三 三 の み に あ ら ず 、 後 三 三 の み に あ ら ず 。 円 成 の 諸 月 な る 、 前 三 三 の み に あ ら ず 、 後 三 三 の み に あ ら ず ﹂ ︵ 春 秋 社 ﹃ 道 元 禅 師 全 集 ﹄ 第 一 巻 、 二 六 二 頁 。 以 下 ﹃ 全 集 ﹄ と 略 称 し 、 巻 数 、 頁 数 を 略 示 ︶ と ﹁ 諸 月 ﹂ が 数 量 に か か わ る も の で は な く 、 つ ま り 無 限 定 に 、 尽 界 に 展 開 す る も の で あ る こ と を 端 的 に 示 し 、 ﹃ 金 光 明 経 ﹄ 巻 二 、 四 天 王 品 の 偈 文2() を 引 い て ﹁ 水 月 ﹂ を ﹁ 如 如 ﹂ と し 、 ﹁ 相 似 を 如 と 道 取 す る に あ ら ず 、 如 は 是 な り ﹂︵ 同 ︶ と い う よ う に 実 相 、 つ ま り は 諸 法 仏 法 の 境 界 そ の も の と 捉 え ら れ て い る 。 さ ら に 大 慧 ﹃ 正 法 眼 蔵 ﹄ 巻 五 に み え る 盤 山 宝 積 の 語 ( 3) か ら ﹁ 月 ﹂ を ﹁ 心 ﹂ と 捉 え 、 続 い て ﹁ 古 仏 い は く ﹂ と し て ﹁ 一 心 一 切 法 、 一 切 法 一 心 ﹂ の 句 を 引 き ( 4) ︵ 同 、 二 六 四 ︶ 、 先 に 心 と 捉 え た 月 を ﹁ 一 切 法 ﹂ の 語 を も っ て 遍 界 と し 、 空 間 的 な 無 窮 性 へ と 展 開 さ れ て い る 。 ま た 更 に ﹃ 聯 灯 会 要 ﹄ 巻 二 一 に 載 る 投 子 大 同 と 僧 と の 問 答 ( 5) を 引 い て ﹁ 未 円 ﹂ ﹁ 円 後 ﹂ 、 ﹁ 呑 却 ﹂ ﹁ 吐 却 ﹂ を 月 そ の も の の は た ら き と し 、 ﹁ 尽 地 尽 天 吐 却 な り 、 蓋 天 蓋 地 呑 却 な り ﹂︵ 同 、 二 六 五 ︶ と 月 の は た ら き そ の も の と し て の 遍 界 が 、 同 時 に 尽 地 尽 天 の は た ら き で あ る と 拈 提 さ れ る 。 そ し て 最 後 に ﹃ 円 覚 経 ﹄ の 経 文 を 引 き 、 ﹁ 雲 駛 ﹂ ﹁ 舟 行 ﹂ ﹁ 岸 移 ﹂ と と も に ﹁ 月 運 ﹂ を 二 六 三
﹃
正
法
眼
蔵
聞
書
抄
﹄
に
お
け
る
﹃
正
法
眼
蔵
﹄
の
解
釈
に
つ
い
て
︱
﹁
都
機
聞
書
抄
﹂
か
ら
︱
西
尾
勝
彦
駒 澤 大 學 佛 學 部 論 集 第 三 十 三 成 十 四 年 十 月﹃ 正 法 眼 蔵 聞 書 抄 ﹄ に お け る ﹃ 正 法 眼 蔵 ﹄ の 解 釈 に つ い て ︵ 西 尾 ︶ 二 六 四 ﹁ 月 の 運 は 昼 夜 ・ 古 今 に 休 息 な き 宗 旨 、 わ す れ ざ る べ し ﹂ ﹁ 仏 法 の 宗 旨 、 い ま だ 人 天 の 少 量 に あ ら ず 。 た だ 不 可 量 な り と い へ ど も 、 随 機 の 修 行 あ る の み な り ﹂ ︵ 同 、 二 六 六 ︶ と 無 窮 な る 行 を 実 践 基 盤 と し 、 尽 界 の み な ら ず 尽 時 に わ た る は た ら き と し て 月 の 無 窮 展 開 を 説 か れ て い る 。 ( 6) ﹁ 御 聞 書 ﹂ は 、 ﹁ 都 機 ﹂ 巻 冒 頭 の 説 示 を 次 の よ う に 註 釈 す る 。 先 此 諸 月 ト 云 ハ 、 正 月 ヨ リ 十 二 月 マ テ ノ 月 ニ ア ラ ス 、 一 日 ヨ リ 三 十 日 ニ イ タ ル 月 ノ ミ ニ ア ラ ス 、 法 性 ヲ ナ シ 仏 性 ヲ イ ヒ 箒 ヲ ア ケ テ 云 フ 、 是 等 諸 月 上 十 五 日 ヲ 智 徳 ニ タ ト フ 、 次 第 ニ 煩 悩 ( 7) カ カ ケ テ 智 徳 ノ 円 ニ ナ ル ヲ 云 フ 、 下 十 五 日 ノ 月 ヲ 断 徳 ニ タ ト フ 、 煩 悩 ノ 次 第 ニ カ ク ル ニ タ ト フ 、 是 ハ 只 一 時 ノ 智 、 一 時 ノ 煩 悩 断 ト コ ソ イ ヘ 、 月 ヲ 取 ニ ハ 等 覚 ノ 位 ヲ ハ 十 四 日 ノ 月 ニ タ ト ヘ 妙 覚 位 ヲ ハ 十 五 夜 ノ 月 ニ タ ト ヘ 真 言 教 ニ ハ 月 輪 ト 云 フ 、 イ マ 以 二 月 詞 一 法 文 ヲ ア ラ ハ ス ニ 、 今 ノ 諸 月 ノ 円 成 ハ 不 二 円 成 一 時 刻 ニ 対 シ テ イ フ ニ ハ ア ラ ス 、 仍 前 三 三 後 三 三 、 ヤ カ テ 円 成 ヲ 諸 月 ト 云 フ 、 円 成 ナ ラ ヌ 月 不 レ 可 レ 有 、 始 終 不 レ 可 レ 闕 ユ ヘ ニ ︵ ﹃ 蒐 成 ﹄ 一 二 、 二 九 七 ︶ ﹃ 眼 蔵 ﹄ に 説 か れ る ﹁ 諸 月 ﹂ と は 、 世 間 一 般 に い う 月 日 つ き ひ の 月 で は な く 法 性 と も 仏 性 と も 言 い 換 え る こ と が で き る も の で あ り 、 ま た 雲 巌 曇 晟 が 山 霊 祐 に 箒 を 立 て て 示 し た 月 ( 8) で も あ る と 施 註 す る 。 そ し て 山 内 舜 雄 博 士 も 御 指 摘 に な る よ う に(9) 十 五 智 断 と 真 言 教 の 月 輪 観 ( 10) を 例 示 し て い る 。 例 え ば 十 五 智 断 に つ い て は ﹃ 法 華 玄 義 ﹄ 巻 五 上 で 次 の よ う に 説 く こ と を 指 し て い る の で あ ろ う 。 ︵ 11 ︶ 大 涅 槃 云 、 月 愛 三 昧 、 従 初 一 日 至 十 五 日 、 光 色 漸 漸 増 長 。 又 従 十 六 日 至 三 十 日 、 光 色 漸 漸 損 減 。 光 色 増 長 、 譬 十 五 智 徳 摩 訶 般 若 。 光 色 漸 減 、 譬 十 五 断 徳 無 累 解 脱 。 三 十 心 為 三 智 断 、 十 地 為 十 智 断 、 等 覚 妙 覚 各 為 一 智 断 。 合 十 五 智 断 。 月 体 譬 法 身 。 ︵ 大 正 三 三 、 七 三 四 下 ︶ ﹃ 大 般 涅 槃 経 ﹄ 巻 一 八 梵 行 品 ︵ 南 本 、 同 一 二 、 七 二 四 中 ︶ の 経 文 を 引 い て 迹 門 の 十 妙 の う ち の 位 妙 の 最 実 位 、 つ ま り 円 教 の 行 位 を 説 く 箇 所 で あ る 。 ﹁ 御 聞 書 ﹂ は 、 こ の よ う に 教 家 の 説 を あ げ ﹃ 眼 蔵 ﹄ で 説 か れ る ﹁ 諸 月 ﹂ は 円 成 で な い 時 を 予 想 し 前 提 と し た 月 で は な く 、 円 成 で あ る こ と が 諸 月 の あ り 方 で あ る と 施 註 し て い る 。 こ の こ と を 更 に 次 の よ う に 説 い て い る 。 只 円 成 ノ 詞 ヲ 以 テ 諸 月 ト 仕 ヒ 、 諸 月 ノ 詞 ヲ 以 テ 円 成 ト 可 二 心 得 一 、 タ ト ヘ ハ 仏 性 ヲ 談 ス ル ト キ 悉 有 仏 性 ト 云 ヲ 聞 ニ ハ 、 悉 有 ハ 只 詞 許 ニ テ 仏 性 ハ 別 ニ 聞 レ ト モ 、 悉 有 ノ 一 分 ヲ12() 以 テ コ ソ 衆 生 ト ト キ 、 衆 生 ノ 皮 肉 ヲ コ ソ 仏 性 ト 云 時 ニ 、 悉 有 ノ 徒 ナ ル 詞 ト ハ キ コ エ ス 、 ヤ カ テ 仏 性 ニ テ ア ル ナ リ 、 所 詮 諸 月 ト 談 ス ル 時 ハ 円 成 ノ 詞 ヲ マ ツ ヘ カ ラ ス 、 円 成 ハ
﹃ 正 法 眼 蔵 聞 書 抄 ﹄ に お け る ﹃ 正 法 眼 蔵 ﹄ の 解 釈 に つ い て ︵ 西 尾 ︶ 二 六 五 不 用 得 、 円 成 ノ 詞 ヲ 仕 ハ ム 時 ハ 諸 月 詞 、 同 不 用 得 ︵ ﹃ 蒐 成 ﹄ 一 二 、 二 九 八 ︶ こ こ で は 先 の 一 段 で 否 定 さ れ る べ き も の 、 乗 り 越 え ら れ る べ き 見 解 と し て 教 家 の 説 が あ げ ら れ て い た の と は 違 い 、 ﹃ 眼 蔵 ﹄ ﹁ 仏 性 ﹂ 巻 の 説 示 を 註 釈 の 援 用 と し て あ げ て い る 。 円 成 が そ の ま ま 諸 月 で あ り 、 諸 月 が そ の ま ま 円 成 で あ る の は 、 悉 有 が そ の ま ま 仏 性 で あ る と い う 論 理 と 同 じ で あ り 、 そ う 理 解 し な け れ ば な ら な い と 註 を 施 す 。 そ し て 諸 月 が そ の ま ま 円 成 で あ る こ と を 更 に 一 歩 進 め て 、 諸 月 と 言 う と き は も は や 諸 月 の み で あ っ て 、 そ れ は 円 成 と い う 言 葉 、 円 成 と い う 表 現 を も っ て 説 明 し 得 る 境 界 で は な く 、 円 成 と 言 う と き は 円 成 だ け で あ り 、 諸 月 の 言 葉 さ え 不 要 で あ る と 解 釈 す る 。 こ れ は 、 い わ ゆ る 諸 月 、 円 成 の 一 法 究 尽 に 通 じ る 釈 で あ る 。 こ の 釈 の 根 底 と な る 論 理 が 続 い て 説 か れ る と こ ろ の ﹁ 只 諸 月 ト 円 成 ト 前 後 ア ル 程 、 以 二 同 体 一 前 後 ト 仕 ﹂ ︵ 同 、 二 九 九 ︶ と い う 解 釈 で あ ろ う と 考 え ら れ る 。13() 続 い て ﹃ 眼 蔵 ﹄ 本 文 で ﹃ 金 光 明 経 ﹄ の 偈 文 を 引 い て 拈 提 さ れ る 箇 所 を 次 の よ う に 註 釈 す る 。 仏 真 法 身 猶 若 虚 空 〇 如 水 中 月 ト 云 ハ 機 感 相 応 ノ 義 応 身 義 、 但 コ コ ニ ハ 月 ノ 法 文 ヲ ト ク 、 報 身 、 応 身 等 ノ 喩 ニ ハ ア ラ ス 、 若 、 応 、 如 ノ 三 字 等 ハ 、 タ タ 虚 空 、 物 、 水 中 月 相 似 カ コ ト シ ト 云 ニ ハ ア ラ ス 、 教 ニ 談 ス ル 十 如 是 ニ モ 其 義 不 レ 同 、 如 是 相 ヲ 、 コ レ 相 ノ コ ト シ 、 如 コ レ 相 、 カ ク ノ コ ト キ ノ 相 ト 三 様 ニ ヨ ミ 心 得 、 コ ノ 義 ニ ヨ リ テ 又 不 レ 同 ナ リ 、 如 ヲ タ ト ヘ ニ イ フ ト キ ハ 衆 生 ノ 見 ナ リ 、 仏 法 ノ 如 ハ 理 ニ 約 ス ル ト 云 フ 、 是 等 モ 不 レ 可 レ 用 、 イ マ ノ 文 ノ 如 水 中 月 ノ 如 ヲ 取 テ 、 水 如 ト モ 月 如 ト モ 云 ヘ シ 、 コ ノ コ ト 如 何 、 但 是 ハ 法 譬 ニ 心 得 テ コ ソ イ ヘ 、 応 物 ノ 如 、 現 形 ノ 如 ナ リ 、 故 ニ 如 レ 此 ノ 水 如 、 月 如 ト 云 フ 、 証 拠 不 レ 可 レ 求 二 于 外 一 、 上 ノ 句 ニ 仏 真 法 身 猶 若 虚 空 ト 云 フ 、 コ ノ ト キ 無 レ 物 無 レ 形 、 タ タ 如 如 ナ ル ヘ シ 、 応 物 ノ 仏 真 法 身 現 形 ノ 仏 真 法 身 水 中 ノ 仏 真 法 身 ナ ル ヘ シ ︵ 同 、 二 九 九 | 三 〇 〇 ︶ こ こ で も ま ず 教 家 が 行 う 解 釈 を だ し 、 道 元 禅 師 が 説 か れ る ﹁ 月 ﹂ は 、 水 中 の 月 、 水 面 に 映 ず る 月 を 三 身 の う ち の 応 身 に 当 て て 説 く よ う な 喩 え で は な く ( 14) 、 ﹁ 如 水 中 月 ﹂ と は 月 が 法 文 、 仏 の 教 え を 説 い て い る こ と で あ り 、 ﹁ 若 ﹂ ﹁ 応 ﹂ ﹁ 如 ﹂ は ど れ も 相 似 ︵ 譬 喩 ︶ を 表 す 語 で は な く ﹁ 虚 空 ﹂ ﹁ 物 ﹂ ﹁ 水 中 月 ﹂ そ の も の を 示 し て い る と 施 註 す る 。 こ の 釈 は ﹃ 眼 蔵 ﹄ 本 文 で 禅 師 が 、 い は ゆ る 如 水 中 月 の 如 如 は 、 水 月 な る べ し 、 水 如 ・ 月 如 ・ 如 中 ・ 中 如 な る べ し 。 相 似 を 如 と 道 取 す る に あ ら ず 、 如 は 是 な り 。 仏 真 法 身 は 虚 空 の 猶 若 な り 、 こ の 虚 空 は 、 猶 若 の 仏 真 法 身 な り 。 仏 真 法 身 な る が ゆ え に 、 尽 地 尽 界 、
﹃ 正 法 眼 蔵 聞 書 抄 ﹄ に お け る ﹃ 正 法 眼 蔵 ﹄ の 解 釈 に つ い て ︵ 西 尾 ︶ 二 六 六 尽 法 尽 現 、 み づ か ら 虚 空 な り 。 現 成 せ る 百 草 万 像 猶 若 な る 、 し か し な が ら 仏 真 法 身 な り 、 如 水 中 月 な り 。 ︵ ﹃ 全 集 ﹄ 一 、 二 六 二 ︶ と 説 か れ る よ う に 経 文 を 自 在 に 分 断 し 転 釈 し て ﹁ 如 ﹂ も ﹁ 猶 若 ﹂ も ﹁ ご と し ﹂ と い う よ う な 相 似 の 語 と は 読 ま れ な い こ と で 、 月 を 尽 地 尽 界 、 尽 法 尽 現 へ と 展 開 さ れ る 説 示 に 施 註 し た も の で あ る 。 ﹁ 御 聞 書 ﹂ は 教 家 の 説 を 、 ﹁ 如 ﹂ ﹁ 猶 若 ﹂ を 文 字 通 り ﹁ ご と し ﹂ と 読 み 相 似 の 意 と 取 る 例 、 つ ま り 相 対 的 に 捉 え 理 解 す る も の と し て あ げ 、 ﹃ 眼 蔵 ﹄ の 説 示 は そ れ と は 違 う 立 場 に 立 つ も の と し て 註 釈 し て い る 。 更 に 十 如 是 の 三 転 読 ( 15) も ま だ 相 対 的 な 法 の 捉 え 方 で あ る と す る 。 先 に も 述 べ た よ う に 道 元 禅 師 は ﹁ 都 機 ﹂ 巻 に お い て 経 文 や 祖 師 の 語 等 を 挙 げ 、 次 々 と 転 釈 し 拈 提 さ れ る こ と で 円 成 な る 諸 月 ︵ 月 ︶ を ﹁ 如 如 ﹂ 、 つ ま り 実 相 そ の も の と し 、 そ れ が ま た ﹁ 心 ﹂ で あ り ﹁ 万 象 ︵ 万 像 ︶ ﹂ で あ り ﹁ 呑 ﹂ ﹁ 吐 ﹂ と い う は た ら き そ の も の で あ っ て 、 そ う 在 る こ と が 尽 界 と し て の ﹁ 月 ﹂ の 現 成 で あ る と 、 無 窮 展 開 す る ﹁ 月 ﹂ の 境 界 を 説 か れ て い る 。 ﹁ 御 聞 書 ﹂ は ﹃ 眼 蔵 ﹄ に 説 か れ る 相 対 観 の 否 定 、 こ れ を 禅 師 は 引 用 文 の 重 層 的 な 転 釈 の み に よ っ て 押 し 進 め ら れ る の だ が 、 そ れ を 際 立 た せ る 形 で 衆 生 見 と 仏 見 、 世 法 と 仏 法 と を 峻 別 し 、 更 に 教 家 の 見 解 を 例 示 し 、 そ れ ら は 相 対 的 な 見 方 、 相 対 観 に 基 づ く も の で あ る と し て 否 定 し 、 仏 の 上 、 諸 法 仏 法 の 上 ( 16) で は 相 対 観 は 成 り 立 た な い と す る 。 す な わ ち ﹃ 眼 蔵 ﹄ の 説 示 を 相 対 的 に 捉 え 理 解 す る こ と を 徹 底 し て 否 定 す る の で あ る 。 こ の 点 に ﹁ 御 聞 書 ﹂ の 基 本 的 な 註 釈 姿 勢 が み ら れ る と 考 え る 。 二 、 ﹁ 都 機 抄 ﹂ の 解 釈 に つ い て ﹁ 御 抄 ﹂ は ﹁ 御 聞 書 ﹂ の 徹 底 し た 両 物 相 対 観 の 否 定 を 継 承 し 註 を 施 し て い く の で あ る が 、 ﹁ 御 聞 書 ﹂ の よ う に 教 家 の 説 を 詳 し く 例 示 す る こ と は ほ と ん ど な い 。 そ の か わ り に 註 釈 の 冒 頭 で 、 そ の 巻 に 説 か れ る 説 示 を 端 的 に 示 す 例 が 多 く み ら れ る 。 ﹁ 都 機 抄 ﹂ で も ﹁ 諸 月 ノ 円 成 ス ル ト 云 ハ 、 尽 十 方 界 諸 月 ナ ル 道 理 ヲ 云 ﹂︵ ﹃ 蒐 成 ﹄ 一 二 、 二 八 四 ︶ と 釈 の 冒 頭 で 尽 十 方 界 が 諸 月 で あ る と 直 截 明 瞭 に 説 い て い る 。 ﹁ 尽 十 方 界 ﹂ と い う 語 は 後 に も ﹁ 月 ノ 自 己 ト ハ 、 タ ト ヘ ハ 尽 十 方 界 ト 云 程 ノ 心 地 、 此 円 成 ナ ル 自 己 ﹂︵ 同 、 二 八 六 ︶ と み え る が 、 こ れ は 道 元 禅 師 が ﹁ 光 明 ﹂ 巻 で 長 沙 の ﹁ 尽 十 方 界 、 是 自 己 光 明 ﹂ ︵ ﹃ 全 集 ﹄ 一 、 一 三 八 ︶ と い う 言 葉 を 転 換 し ﹁ 尽 十 方 界 は 是 自 己 な り 、 是 自 己 は 尽 十 方 界 な り 。 廻 避 の 余 地 あ る べ か ら ず ﹂ ︵ 同 、 一 四 二 ︶ と い う 具 体 的 な 自 己 の 行 と し て 尽 界 に 無 窮 展 開 す る 境 界 を 説 か れ る こ と ︵ ﹁ 仏 道 に 修 証 す る 尽 十 方 界 ﹂ ︿ 同 ﹀ ︶ を 踏 ま え て 施 註 し て い る の で あ ろ う 。 ま た ﹁ 御 抄 ﹂ に お け る 註 釈 の 特 徴 と し て 多 く の 先 達 に よ り 論 じ ら れ る の が ﹁ 一 法 究 尽 ﹂ ﹁ 一 法 独 立 ﹂ の 成 句 を 用 い た 釈 で あ る 。17() ﹁ 御 抄 ﹂ で は そ の 他
﹃ 正 法 眼 蔵 聞 書 抄 ﹄ に お け る ﹃ 正 法 眼 蔵 ﹄ の 解 釈 に つ い て ︵ 西 尾 ︶ 二 六 七 に ﹁ 一 体 ﹂ と い う 語 も 釈 中 に お い て 多 く 用 い ら れ て い る 。 ﹁ 都 機 抄 ﹂ に も こ の 語 を 用 い て 解 釈 す る 箇 所 が あ る 。 万 象 ヲ ス テ ニ 月 ト 談 ウ ヘ ハ 、 万 象 ニ ア ラ ス 、 此 ユ ヘ ニ 光 呑 万 象 ト ハ 云 、 万 象 ト 月 光 ト 一 体 ナ ル 所 カ 、 万 象 カ 月 光 ヲ 呑 尽 ス ル ト ハ 云 ナ リ 、 此 道 理 カ 光 ノ 光 ヲ 呑 却 ス ル 所 ヲ 光 呑 万 象 ト 云 ト ハ 被 レ 釈 ︵ ﹃ 蒐 成 ﹄ 一 二 、 二 八 八 ︶ ﹃ 眼 蔵 ﹄ の ﹁ 万 象 こ れ 月 光 に し て 万 象 に あ ら ず 、 こ の ゆ え に 光 呑 万 象 な り 。 万 象 お の づ か ら 月 光 を 呑 尽 せ る が ゆ え に 、 光 の 、 光 を 呑 却 す る を 、 光 呑 万 象 と い ふ な り ﹂︵ ﹃ 全 集 ﹄ 一 、 二 六 三 ︶ に 施 註 す る 箇 所 で あ る 。 万 象 と 月 光 と が ﹁ 呑 ﹂ と い う は た ら き と し て 在 る あ り 方 を 説 か れ た 説 示 で あ ろ う 。 万 象 が そ の ま ま 無 媒 介 に 月 光 で あ る の で は な く 、 月 光 ︵ 万 象 ︶ が 万 象 ︵ 月 光 ︶ を ﹁ 呑 む ﹂ と い う あ り 方 、 は た ら き に お い て 、 こ の 二 法 が 一 等 一 如 に 蔵 身 し 合 う 関 係 を 説 か れ た も の と 考 え ら れ る が 、 そ の よ う な あ り 方 を ﹁ 御 抄 ﹂ は 二 法 が 一 体 で あ る こ と に 根 拠 を お い て 解 釈 し て い る 。 ま た ﹁ 十 方 抄 ﹂ で は 、 十 方 仏 土 中 唯 有 一 乗 法 ト 云 ヲ 打 任 テ 心 得 ニ ハ 、 十 方 ヲ ハ ニ 置 テ 其 内 ニ 一 乗 ノ 法 ア リ ト 心 得 ナ リ 、 如 レ 此 談 ス レ ハ 、 能 居 ノ 土 、 所 居 ノ 法 ア ル ニ 似 タ リ 、 不 レ 然 、 是 ハ 仏 土 ヲ 把 来 シ テ 十 方 ト 談 、 故 ニ 十 方 ト 仏 土 ト ハ 只 一 体 、 ユ ヘ ニ 仏 土 ヲ 拈 来 セ サ レ ハ 十 方 イ マ タ ア ラ サ ル ト ハ 云 ︵ ﹃ 蒐 成 ﹄ 一 三 、 五 三 九 ︶ と い う よ う に 、 ﹁ 十 方 ﹂ 巻 で 説 か れ る と こ ろ の ﹁ い は ゆ る 十 方 は 、 仏 土 を 把 来 し て こ れ を な せ り 。 こ の ゆ え に 、 仏 土 を 拈 来 せ ざ れ ば 、 十 方 い ま だ あ ら ざ る な り ﹂︵ ﹃ 全 集 ﹄ 二 、 九 二 ︶ と い う 十 方 と 仏 土 と の ﹁ 把 来 ﹂ し ﹁ 拈 来 ﹂ し て あ る 関 係 を 一 体 の 語 を も と に し て 解 釈 し て い る 。 更 に ﹁ 法 性 抄 ﹂ で は 、 ﹃ 眼 蔵 ﹄ 本 文 で 禅 師 が ﹁ 馬 祖 道 の 法 性 は 、 法 性 道 法 性 な り 、 馬 祖 と 同 参 す 、 法 性 と 同 参 な り 。 す で に 聞 著 あ り 、 な ん ぞ 道 著 な か ら ん 。 法 性 騎 馬 祖 な り ﹂︵ 同 、 二 八 ︶ と 馬 祖 と 法 性 と の あ り 方 を ﹁ 同 参 ﹂ ﹁ 騎 ﹂ と 説 示 さ れ る 箇 所 に 次 の よ う に 施 註 し て い る 。 此 馬 祖 ノ 常マ マ 体 即 法 性 ナ リ 、 ユ ヘ ニ 馬 祖 道 ノ 法 性 ハ 法 性 道 ノ 法 性 ト 云 、 馬 祖 与 二 法 性 一 一 体 ナ ル 理 カ 、 馬 祖 ト 同 参 ス 法 性 ト 同 参 ト モ イ ハ ル ル ナ リ ︵ 中 略 ︶ 法 性 騎 馬 祖 ト ハ 、 法 性 ト 馬 祖 ト 一 体 ナ ル 道 理 ヲ 馬 祖 ノ 詞 ニ 騎 ト 云 詞 ヲ エ ム ナ ル ニ ヨ リ テ ツ ケ ラ レ タ ル 、 所 詮 只 馬 祖 ト 法 性 ト 一 体 ナ ル 姿 カ 如 レ 此 イ ハ ル ル ト 可 二 心 得 一 ︵ ﹃ 蒐 成 ﹄ 一 三 、 四 三 五 | 四 三 六 ︶ こ こ で も 馬 祖 と 法 性 と が 同 参 し 合 い 究 尽 し 合 う あ り 方 を 一 体 の 道 理 を も っ て 解 釈 し て い る 。 ﹁ 御 抄 ﹂ は ﹃ 眼 蔵 ﹄ の 説 示 を ﹁ 一 体 ﹂ の 語 を も っ て 解 釈 す る 、 い わ ば 一 体 釈 を お こ な っ て い る と 考 え ら れ 、 こ れ が ﹁ 御 抄 ﹂ に お け る ﹃ 眼 蔵 ﹄ 解 釈 の 最 も 大 き な 特 徴 で あ る と 思 わ れ る 。
﹃ 正 法 眼 蔵 聞 書 抄 ﹄ に お け る ﹃ 正 法 眼 蔵 ﹄ の 解 釈 に つ い て ︵ 西 尾 ︶ 二 六 八 ま た ﹁ 都 機 抄 ﹂ で は 、 タ ト ヒ 火 珠 、 水 珠 ノ 所 成 ト モ 即 現 現 成18() ト ハ 、 只 心 月 ナ ル ヘ シ ト 云 、 心 与 レ 月 一 体 ナ ル 事 ヲ 被 レ 明 、 仏 祖 ノ 心 ヲ 談 ス ル 道 理 、 如 レ 此 ト 云 ︵ 同 一 二 、 二 八 九 ︶ と い う よ う に ﹁ た と ひ 陰 精 ・ 陽 精 の 光 象 す る と こ ろ 、 火 珠 ・ 水 珠 の 所 成 な り と も 、 即 現 成 な り 。 こ の 心 す な は ち 月 な り 、 こ の 月 お の づ か ら 心 な り ﹂ ︵ ﹃ 全 集 ﹄ 一 、 二 六 四 ︶ と い う ﹃ 眼 蔵 ﹄ 本 文 の 説 示 を 心 と 月 と の 一 体 性 に 根 拠 を お い て 解 釈 し て い る 。 続 い て ﹁ 古 仏 い は く 、 一 心 一 切 法 、 一 切 法 一 心 。 し か あ れ ば 、 心 は 一 切 法 な り 、 一 切 法 は 心 な り 。 心 は 月 な る が ゆ え に 、 月 は 月 な る べ し 。 心 な る 一 切 法 、 こ れ こ と ご と く 月 な る が ゆ え に 、 遍 界 は 遍 月 な り 、 通 身 こ と ご と く 通 月 な り ﹂ ︵ 同 ︶ と い う 説 示 を 次 の よ う に 釈 し て い る 。 法 与 レ 心 一 ナ ル 道 理 ヲ 被 レ 述 テ 、 心 ハ 月 ナ ル カ ユ ヘ ニ 月 ハ 月 ナ ル ヘ シ ト ア リ 、 所 詮 心 与 レ 法 、 月 ト 全 不 レ 可 二 各 別 一 ナ リ 、 尽 界 月 ナ ル ユ ヘ ニ 、 遍 界 遍 月 通 身 悉 通 月 ト ア リ 、 只 月 ノ 一 法 ノ 究 尽 ス ル 所 、 諸 法 月 ニ ア ラ サ ル 道 理 ナ キ 所 ヲ 、 心 モ 月 、 遍 界 モ 月 、 通 身 モ 月 ト 被 二 落 居 一 ナ ル ︵ ﹃ 蒐 成 ﹄ 一 二 、 二 八 九 | 二 九 〇 ︶ 心 と 法 ︵ 一 切 法 ︶ が 各 別 す る も の で は な く 、 と も に 月 で あ る と 説 き 、 そ の よ う な 月 の あ り 方 を ﹁ 月 ノ 一 法 ノ 究 尽 ﹂ と 註 釈 し て い る 。 尽 界 に 展 開 す る 月 を 、 月 の 一 法 究 尽 と 捉 え ら れ て い る の で あ ろ う が 、 こ こ で は 先 に 心 と 月 と が 一 体 で あ る と し た こ と を も と に し て 月 の 一 法 究 尽 を 説 い て い る の で あ ろ う 。 ﹁ 御 抄 ﹂ は 、 ﹃ 眼 蔵 ﹄ 本 文 の 説 示 だ け で は な く 、 ﹁ 御 抄 ﹂ 自 体 の 註 釈 の 特 徴 と さ れ る 一 法 究 尽 、 一 法 独 立 を も 一 体 の 道 理 を も っ て 根 拠 づ け て い る と 考 え ら れ る 。 す な わ ち 、 ﹁ 御 抄 ﹂ の 註 釈 に お い て は 、 一 法 究 尽 、 一 法 独 立 で あ る か ら 一 体 な の で は な く 、 一 体 で あ る か ら 一 法 究 尽 、 一 法 独 立 な の で あ る 。 或 る 一 法 と 別 の 一 法 と が そ の ま ま 同 じ も の で あ る の な ら ︵ 一 体 で あ る の な ら ︶ 、 他 法 と さ れ る も の は 無 く な っ て し ま う 。 少 く と も 或 る 一 法 と 別 の 一 法 と は 表 現 上 の 相 違 に す ぎ な く な る 。 一 体 を 註 釈 論 理 の 根 拠 に お く こ と で 、 は じ め て 一 法 究 尽 、 一 法 独 立 が 言 い 得 る の で あ る 。 こ の ﹁ 一 体 ﹂ と い う 語 自 体 は 何 の 意 味 も 持 た な い 純 粋 な 註 釈 用 語 と も 考 え ら れ る が 、 ﹁ 御 抄 ﹂ の 註 釈 に お い て は 、 二 法 、 或 は 諸 法 が 蔵 身 し 合 い 一 等 一 如 と し て 究 尽 す る と 同 時 に 尽 界 へ と 無 窮 展 開 さ れ る ﹃ 眼 蔵 ﹄ の 説 相 に 対 す る 註 釈 を 根 拠 づ け る 働 き を し て い る と 考 え ら れ る 。 ﹁ 一 体 ﹂ と い う 語 は 、 管 見 の 及 ぶ 限 り で は 、 七 十 五 巻 本 ﹃ 眼 蔵 ﹄ に お い て 道 元 禅 師 は 一 度 も 使 わ れ て い な い 。 禅 師 の 著 述 中 で は 十 二 巻 本 ﹃ 眼 蔵 ﹄ ﹁ 帰 依 仏 法 僧 宝 ﹂ 巻 ︵ ﹃ 全 集 ﹄ 二 、 三 七 四 ︶ と ﹁ 仏 祖 正 伝 菩 薩 戒 教 授 戒 文 ﹂ ︵ 同 六 、 二 一 二 | 二 一 四 ︶ に ﹁ 一 体 三 宝 ﹂ と し て み え る だ け で あ る 。 ﹁ 御 聞 書 ﹂ に も ﹁ 一 体 ﹂ の 語 は み え る が ﹁ 御